Fate/once more night   作:ココイッチー

4 / 10
今回の話は美遊視点となってます。
若干のドライ6巻以降のネタバレを含みます。

それから、説明が多く字数も今までの倍近いですが、ご了承ください。


4話 2人目の妹

4話

 

interlude ①-1

 

「…重い。」

今日は珍しく外出していた。外出といっても、調味料が切れたから買ってこいという、要は買い出しである。

私の雇い主であり、今は義理の姉であるルヴィアさんは、彼女の同級生であり私の同僚でもある凛さんとは犬猿の仲である。

2人はいつも喧嘩をしているけれど、その根底には確かな信頼関係がある、私の理想とする関係の一つである。

ただ、彼女らの喧嘩はそれは凄いもので、ルヴィアさんのパワハラに対し沸を切らした凛さんが実力行使に出るのが主なパターンだが、稀に1人の男性を巡って争うこともある。

昨日の喧嘩はその後者であり、どちらが妻に相応しいかという口論から料理の腕が上の方が良妻に決まっているという謎の結論に達し、料理の鉄人inルヴィア邸が勃発した、いやしてしまった。

ルヴィアさんの洋風料理に対して凛さんは中華料理。審査員は私と、隣の家に住む親友のイリヤ、クロ、イリヤ達のメイドのセラさんとリズさんだった。どちらも味は美味しく甲乙つけがたかったが、『士郎の料理の方が、美味しい。』というリズさんの爆弾発言で会場のテンションは一気に冷め、決着がつかぬまま幕を閉じた。

この日の対決でルヴィア邸の調味料を殆ど使い切ってしまい、私が大量に買い出しに行く羽目になった。調味料がパンパンに入ったビニール袋を両手で運ぶメイド服の小学生、周りの人もさぞかし可笑しなものを見てる気分だろう。

 

 

ルヴィアさんと凛さんが取り合う男性、彼はイリヤとクロの兄であり彼女らの想い人でもある。

-衛宮 士郎-

それが彼の名前だ。実は、私は士郎さんと他の女性が結ばれて欲しくないと思っている。雇い主と同僚、親友の恋を応援できない自分は悪い子だという自覚はある。でも妥協はできない。

だって、私も彼に恋をしているから。

 

私と彼、衛宮士郎は昔兄妹だった。もちろん、それはこの世界での話ではなく、別の世界で。

私の生まれである朔月家は特別な家系で、人の願いを叶える力を持っているという。それは私も例外ではなく、その力を狙う勢力に追われ、私以外の朔月家の人は殺されてしまった。

ある時言われたことがある。

『生まれたことが罪』

否定できなかった。朔月の家なんかに産まれなければ、望んでもないのに与えられた力もなく、家族に囲まれて、恋人を作って、幸せな日常が送れたかもしれない。ある時それに気づいた時、私は生きることを諦めてしまった。

だけど、そんな時に彼が、衛宮士郎が現れた。

彼は私に全てを教えてくれた。料理、掃除、洗濯、遊ぶこと、憎悪が伴わない怒り、嬉し涙、笑顔。全てを捨てた私が、今こうしていられるのは彼にもう一度与えられたから。彼が、お兄ちゃんがいなければ、私はとっくの昔に果てていたと思う。

お兄ちゃんが来てからの生活は劇変した。世界に色がついたように、毎日が楽しくて楽しくて仕方がなかった。

でも、そんな日々は長くは続かなかった。

7歳の誕生日の日、私はエインズワースという魔術師の家に誘拐されてしまった。

今までの私なら、仕方がない、これが運命だと諦めてしまっていたと思う。けれど、お兄ちゃんに出会えって、私はもうそれが運命だといって流されるだけの、逃げてるだけの子供から成長したのだろう。初めて、この暗闇を断ち切りたいと思えた。

私はできる限りの抵抗は続けた。心の中でお兄ちゃんを待ち続けた。彼ならきっと助けにきてくれると、だから自分もただ待つのではなく、やれるだけの抵抗をしようと。

そして、本当にお兄ちゃんは来た、来てしまった。お兄ちゃんはエインズワースの化け物みたいな魔術師を倒して、牢獄にいた私を迎えに来てくれた。私はその時、初めて自分の愚かさを知った。

お兄ちゃんの体はボロボロだった。髪はいくつか白髪になり、左腕は切断された後に移植したのか私の頭を撫でてくれたそれとは別の物になっていた。きっとお兄ちゃんは、私のために沢山無茶をして、傷ついて、それでも会いに来てくれたのだろう。

私はお兄ちゃんが迎えにきてくれて嬉しかったが、同時に気づいてしまった。誰かを救うには誰かを犠牲にしなければならない。私が助かるのなら、お兄ちゃんは犠牲になるのだろう。それがたまらなく嫌だった。どうして世界はこんなにも残酷なのだろう。やっと見つけた幸せも、他の誰でもない私自身のせいで失ってしまうのかと。

私はお兄ちゃんの前で泣いた。何度もごめんなさいと謝った。

お兄ちゃんは、私をそっと抱きしめると、頭を撫でてくれた。そうしてこう呟いた。

『美遊がもう、苦しまなくていい世界になりますように。』

『優しい人たちに出会って、笑いあえる友達を作って、暖かで、ささやかな、』

『幸せを掴めますように。』

すると、私の体が突然輝きだした。この輝きを私は知っていた。これは、朔月の人間が人の願いを叶える時の輝きだ。

私のためにこの力を使ってくれる人は初めてだった。それは凄く嬉しかった。でも、

『嫌だ!』

『もっとお兄ちゃんといっぱい遊びたい!いっぱい教えて欲しい!もっともっとおしゃべりして、ずっと一緒にいたい!!』

やっと言えた、私の本音。私1人で幸せになんてなれない、私の幸せはお兄ちゃんあってこそ、それを伝えたかった。けれど、

『美遊、愛してる。』

『私だって!私だってお兄ちゃんを愛してる!!だから!』

『いいか美遊、よく聞け。これからお前の行くところに俺は行けない。だけどな美遊、俺はいつでも、どんな場所でもお前の味方だ。こんなボロボロになってまでお前を助けにきたんだ、説得力が違うだろ?』

『生きろ、美遊。俺は、ずっとお前を愛してる。』

『お兄ちゃん!!』

これが、私とお兄ちゃんの最後の会話。この直後、私は世界を飛ばされ、夜の公園でカレイドステッキに出会った。

この世界でお兄ちゃんを、いや、士郎さんに会えた時は思わず抱きついてしまった。その後すぐに、私のお兄ちゃんとは違う、この世界のイリヤのお兄さん衛宮士郎だと察したが、それでも嬉しかった。

また、お兄さんに会える。例え私のことを愛してると言ってくれたその人でなくとも、私は彼とまた一緒に生きれる可能性がある、それだけでわたしは充分だった。

 

これが、私と衛宮士郎の関係。お兄ちゃんとは別人だとしても、衛宮士郎である事に変わりはない。ならばいつか、士郎さんとまた一緒に過ごせる日を夢見て。

この気持ちはまだ誰にも言えない、私だけの秘密。ルヴィアさんやイリヤには悪いけど、私だって負けられない。

 

 

一度ルヴィア邸に帰った私は、調味料を調理室に届けた後、部屋の掃除をしていた。すると、カレイドステッキのサファイアが何やら焦った様子で話しかけてきた。

「美遊様!病院に向かわなくてよろしいのですか?」

「?誰か怪我をしたの?」

「士郎さんです!事故に遭われたようですが、命に別状は…あれ、美遊様?おかしいですね、今目の前で話をしていたはずなのですが。」

 

お兄ちゃんに何かあった。それ以上の言葉はいらない。

ここから病院というと、恐らく新都だろう。幸い、買い出しの際のお釣りがポケットに入っていたので、タクシーを拾って直ぐに向かった。

 

「お嬢さんご家族の方は?今時子ども一人でタクシーなんて珍しいですよ。」

「兄が…いえ、知り合いが怪我をして…」

「…事情はある程度察しました。とても大事にされていたのですね。」

「はい。あの人は…私の唯一の人です。」

運転手さんはそれっきり一言も話し掛けることはなかった。その方が良かった。混乱している今、八つ当たりをしかねなかったからだ。道路は特別渋滞していなかったので、5分足らずで病院に着いた。

 

「あのすいません!お兄ちゃ、衛宮士郎の病室はどこですか!?」

「2階の222号室ですよ。」

「ありがとうございます!」

「いえいえ〜って、音も立てずにずいぶん速く走るのね、あの子。」

 

「お兄ちゃん!」

バタンと大きな音を立てて扉を開けると、お兄ちゃんはベッドで寝ていた。特に器具に繋がれていたりなどしてなかったため、命に別状はないようだ。」

「よかった…」

目元に手を当てると、しっとりと濡れてるのが分かった。きっと私は泣いているのだろう。

「お兄ちゃん…」

私はベッドで寝ているお兄ちゃんを抱きしめた。端から見ると押し倒してるようにも見えるが、そんな事はどうでもいい。

「お兄ちゃん…」

抱きしめるとお兄ちゃんの匂いがする。匂いも、体格…は少し違うけど、髪の色も、肌も一緒だ。こうしていると、また思い出してしまう。あの幸せな日々を。この人はお兄ちゃんではなくて士郎さんだ、心の表ではそう理解してても、根っこの深い裏ではどこか面影を探してしまう。

「よかった、無事で本当によかった…またあの時みたいに怪我したら、私、私…」

「…えと…美遊…ちゃん?」

「お兄ちゃん…?」

お兄ちゃん改め士郎さんから名前を呼ばれたので、つい反応してしまった。そういえば、今の私って士郎さんに抱きついてるんだった。それにお兄ちゃんって…でも、もう少しだけ、もう少しだけこのままで。夢でもいいから…

 

interlude out

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

セラたちが飲み物を買いに行き、しばらく寝ていると、何かが上に乗ってるような感覚がした。

(もう帰ってきたのか?それより、これは乗ってるというより、抱きつかれている…?)

目を開けてみると、黒髪の少女に抱き締められているようだった。見た感じ桜ではないし、歳はイリヤと同じくらいだろう。となると思い当たる人物は1人だけだ。

「…えと…美遊…ちゃん?」

「…お兄ちゃん…?」

お兄ちゃん?そういえば、初めて会った時も、お兄ちゃんと呼ばれて抱きつかれたな。お兄ちゃん、か…。

俺と彼女は兄妹ではない。しかし、この取り乱し様は普通ではない。お兄ちゃんと渾名で呼び合うだけの仲ならここまではならない。彼女の態度は、俺がセイバー、アルトリアに対し感じたそれと酷似していた。ならば、俺と彼女は本当に兄妹だったのか。

そこで俺はある事に気づく。今の俺は体はこの世界の衛宮士郎だが、その中身は平行世界の衛宮士郎だ。

もしかしたら、彼女も俺と同じように別の世界から来た人で、そこでは俺と兄妹だったのではないか。

この仮説が正しければ、彼女は、きっと1人だったのだろう。たった1人でこの世界に飛ばされ、そこでイリヤと出会った。 初めから場所を与えられた俺は恵まれていたのかもしれない。

彼女になら、俺の秘密を話せるかもしれない。

「もしかして、君も…

「士郎さん、どういう事か説明していただけますか?」

 

いざ伝えようとしたらセラの声が聞こえたので声の方を見てみる。あ、そういえば、まだ抱き合ったままだったのか。

「ち、違うんだ、これには深いわけが、」

 

「お、お兄ちゃんに美遊!2人とも何やってるの!?」

「お兄ちゃんったら大胆♪でもちょ〜っとこれはお説教かな〜」

「士郎、ロリコン?」

「衛宮くん…」

「シェロ…」

「「どういうことかしら(ですの)?」」

まずいな、これは。いつの間にか遠坂とルヴィアもいるとは。しかも2人とも相当お怒りのようだ。

美遊の様子はというと、放心状態というか、どこか浮いた表情で抱き着いたままだ。そんなに気持ちいいのか、というかこの娘と俺ってどういう関係だったの?

 

この後、美遊を除いた全員の質問攻めにあい、士郎が再び寝るのは数時間後になるのであった。




UA4000もいただき、ありがとうございます!

美遊はプリヤ勢で1番好きなキャラなので、出番が増えるかもしれません。

それから、このシリーズでサーヴァントを出そうと思うのですが、現在ランサー・ライダーのクラスが検討中です。
「乳上を見たエミヤの反応」「ぽんぽこライダーとのイチャイチャ読みたい!」「エミヤがバレンタイン清姫と魔力供給(下ネタ)する話」等々、希望がありましたら感想の欄で募集してます。

追記
2/29 美遊視点の始めと終わりにinterludeを付けました。
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