Fate/once more night   作:ココイッチー

9 / 10
大変お待たせ致しました、

今回の話はリリィvsクロの時、美遊たちの間で起こった話になってます。
リリィvsクロの詳細は、次の話で丁寧に書くのでご安心ください。


9話 赤き狂戦士

interlude②-3

 

彼は自身のマスターとの、最後のやり取りを思い出していた。

『アレはハズレだ、始末してこい。』

彼のマスターは誰かを探しているようで、そのために彼やキャスターが召喚された。キャスターはマスターの本命を、彼はハズレの事後処理を命令された。

彼がバーサーカーとして召喚されたのは、命令を執行させた後始末しやすい狂犬としての事だったのだろう。しかし、バーサーカーであるのにも関わらず、彼は理性を保ち続けていた。

「俺を狂化などで縛れると思っていたのか?」

彼は自身の有する固有スキルによって、その狂化の影響を受けずにいた。強いて言えば、狂化の呪いにすら屈しなかった心の強さが狂っていた。

「俺は誰の命令も受けない、俺は俺の為に戦う。」

彼はそう言うと、赤いロングコートを靡かせ、戦場へと赴くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「何なのよ、こいつら!」

「キリがありませんわね!」

凛さんとルヴィアさんがそう毒突く。

私たちは今、クラスのカードの回収に赴いている。今回の英霊は明らかに"異常"だった。

 

まず第一の点。

本来クラスカードが現界するのは私達が生活するこの空間とは別の、鏡面世界だ。しかし、今彼女と戦っているのは鏡面世界ではなく現界世界だ。それも、8枚目のアーチャーのように壁を越えてきたのではなく、"最初から"現界世界に召喚されたようなのだ。

周囲に配慮しながらの戦いというのは思った以上に精神を磨り減らす。

 

「来ます、美遊様!」

「■■■ー!?」

2つ目の異常な点。

彼女の能力が英霊を召喚できる、ということ。

その英霊は理性を失い、黒い泥のような物に覆われているが、そのオーラは今まで戦ってきた英霊のそれと同一だった。しかも、その能力も弱体化しているとはいえ並の魔術師では太刀打ちできない強さで、凛さんとルヴィアさんが2人ががりでやっと倒せる程だ。

そんな相手を何体も相手しなければならないため、疲労が凄い勢いで溜まっていく。

 

「あらあら、魔術師とはいえ所詮人の身、情けない人たちですね。まぁ、この状況もいつまで持つか、ですが。」

 

そして3つめ。

今回の英霊には"明確な理性"がある。

召喚された場所、能力、存在、彼女を構成する全てが今までのどの相手とも異質だった。

 

だけど、

「ここで、負けたら、みんなが傷つけられる!だから負けられない!行くよ、ルビー!!」

「おや〜いかにも、正義の魔法少女って感じですね〜!いいですよ〜嫌いじゃなですよ〜そう言ういうの!燃えてきますね〜♪」

「美遊様、私はどこまでも美遊様について行きます。」

「ありがとう、サファイア。」

 

私の親友、イリヤはみんなのために戦うと言っている。

サファイアは私と一緒に戦うと言ってくれる。

クロはここにはいないけど、きっと別の場所で戦っているのだろう。

ルヴィアさんも凛さんも、みんなが一緒に戦ってくれる。

 

「私も、負けられない!」

私も走る。みんなと一緒に、戦って、居場所を守るんだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

機嫌が悪い。ここに来てからずっとだ。それもこれも全部、

「なんで私が、セイバーのクラスに…!」

 

私は本来、ルーラーとして召喚されるサーヴァント。しかし運悪く、あの忌々しいマスターにセイバーとして召喚されてしまった。

しかもあの男は別の英霊を召喚したかったようで、私が現界するや否や、剣を向けて殺そうとしてきたのだ。

 

かろうじて逃げてきた先にも、露出度の高い服を着た幼女2人とその保護者共に目をつけられて、こうして交戦している始末である。

 

ルーラーのクラスではないが、英霊を召喚することはできた。だが、召喚されるのは英霊の成り損ないといった泥の塊、サーヴァントの中でも最底辺の部類のものばかり。

1枚だけ、マスターからキャスターを召喚するためのカードを強奪できたため、もしこの場にマスターが現れたとしても難を逃れられるだろう。

「現代の魔術師とはこの程度なのですか。少し不安でしたが、これならば遅れを取ることはありませんね。」

「俺も混ぜてもらおうか。」

「誰っ!?」

 

油断していた。いつの間にか増援が来ていたようだ。声の方を見ると、ロングコートを着た茶髪の男で、その顔は見覚えがあった。

 

「バーサーカー…貴方も私を始末するために来たのですか?」

「言っておくが、俺はあいつ(マスター)の犬じゃないぞ。俺はただ、お前の強さを確かめに来た、それだけだ。」

「強さですって?悪いけど今貴方の相手をしている余裕はないの。

さぁサーヴァントたちよ、令呪をもって命じます。ターゲットをあのバーサーカーに変更、即刻に排除しなさい!」

 

3つしかない貴重な令呪だが、所詮は使い捨てだ。あの耳障りな男を早く消したかった。

 

「ふん…やはりそう来たか。」

「いつまで強がっていられるかしら。実は悪いけど彼等も英霊よ?どこの馬の骨とも知らない貴方じゃ、この数を前にしていつまで保つかしら?」

「随分舐められたものだな。」

 

彼はそう言うと、赤い霧となって泥人形に突進していった。やがて霧は元いた場所に戻ると、霧に触れた、触れてしまった泥人形達は忽ち消滅してしまった。泥人形の数は10はいたはずだ。それを一撃で消滅させるなんて…。少々前倒しになってしまいましたが、このままではやられる。

そう思って、私はキャスターのカードに魔力を込めて、サーヴァントを召喚した。

 

「来たれ、天秤の守り手よ!」

 

光が周囲を包み込み、やがて消えた頃には、私の前にサーヴァントがいた。

彼は泥人形でもないし、私のよく知る人物だった。

 

「久しぶりね、ジル。」

「ジャンヌ…おぉジャンヌ!会いたかったですぞジャンヌ!」

私の信奉者にして、唯一の理解者 ジル・ド・レェ。

「えぇ、私もよジル。令呪をもって命じます、全力であのバーサーカーを殺しなさい。」

「おぉ…ジャンヌからの魔力を感じます。ジャンヌの名誉にかけて、狂犬の死骸をご覧に差し上げましょう。」

「期待してるわ、ジル。」

 

ジルはそう言うと、バーサーカーの方に目をやった。

「ジャンヌのために、貴方には犠牲になっていただきましょう。」

「ジャンヌ?…まさか、あの魔女がジャンヌ・ダルクだとでも言うのか?」

「黙りなさい!お前のような狂犬が、ジャンヌの名を口にするなぁあ!!」

 

ジルはそういうと、地面から魔獣の触手を出現させて、バーサーカーにその矛先を向ける。

 

「ふん、バーサーカーの俺より狂っているとはな。だが、その程度の刃で俺に届くと、本気で思っているなら…今すぐ出直してこい!」

バーサーカーはそう言うと、手に剣を出現させ魔獣の群れを一振りで全滅させてしまった。

 

「お前はあの女がジャンヌダルクだと、本気で思っているのか?」

「黙りなさい!ジャンヌは信じた者たちに裏切られ、汚され、焼き殺されたのです。そして悲しみ、憎み、復讐するためにこうして召喚されたのです!お前ごときがジャンヌを語るなぁ!!」

「ジル!鎮まりなさい!」

私の説得が効かない。単に令呪によるブーストだけでなく、泥人形でないとはいえ泥の影響を受け、狂化のスキルが付与されてしまっている。

ゆえに冷静な判断ができず、何度も触手を繰り出しては何度も斬られるというのを繰り返していた。

 

「俺の知っているジャンヌ・ダルクという女は_ 」

私は何故か、彼の言葉に聞き入っていた。

「ジャンヌ・ダルクという女は、陵辱に屈することなく、死の直前ですら民を信じ、主を信じ続け、最後までその高潔さを保ち続けたという。そんな奴を聖女と言わずしてなんという。」

私が、高潔ですって?裏切られ、惨めに死んだこの私を?

「だがそこの女はどうだ。怒りに溺れ、感情に流されるままに剣を振るうあの女を、お前はまだ高潔だと言えるのか!」

「黙れ黙れ黙れぇえぇ!!何も知らないお前が、ジャンヌを、ジャンヌを語るなぁあぁぁあぁ!!!」

「耳障りだ!」

そう言うと、彼は再び赤い霧となってジルとの距離を詰め剣で引き裂いた。

 

「あぁぁあぁ!?!?」

「お前、さっきジャンヌ・ダルクが汚されたと言ったな?下らない、実に下らない!貴様が求めていたのは所詮、ジャンヌ,ダルクという名の救世主、そしてお前はその狂信者だ。ジャンヌ・ダルクを汚しているのは、民でも見捨てた主でもない、他ならぬ貴様だ!!」

「あぁぁあぁ!!!」

 

2度3度と体を斬られ、悲鳴をあげるジル。

「ジャンヌは…ジャンヌは、いつかオルレアンに舞い戻り、復讐の炎で

「お前の下らぬ戯言は聞き飽きた。」

そう言って、彼はジルの前に立つ。

 

「貴様が怒りを真理とするならそれでいい。だが、俺の真理は…この拳の中にある!」

ジルの胸に正拳突きが当たる。

その威力は今までのどの攻撃よりも凄まじく、かなりの距離まで吹き飛ばされた。

「ジャン、ぬぅ…」

ジルは最後に私の名を呼ぶと、魔力となって消えてしまった。

私は最後まで、立ち竦むことしかできなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

圧倒的だった。

バーサーカーと呼ばれる男は、ジル・ド・レェと呼ばれる英霊を易々と倒してしまった。

 

彼はジャンヌと呼ばれた英霊の前に立つ。するとなぜか、彼の手には女性用のヘルメットが握られていた。

「お前がもし、自分の強さを知りたければ、俺について来い。」

ジャンヌは無言のまま、彼のヘルメットを手に取った。

 

「昨日の敵は今日の友、戦地で告白だなんて、大胆な殿方ですね〜♪」

「何をのんきなことを言っているのですか、姉さん。」

ルビーとサファイアがそんな感想を言ってると、彼はポケットから薔薇のデザインがされた錠前を取り出した。それを解錠して空に投げると、その錠前は深紅のバイクに変わってしまった。

そのまま流れるようにジャンヌを後ろに乗せ、彼も同じようにバイクに乗った。

 

「待ちなさい!あなたたちは何もn

「今は戦う理由がない。だがもし俺との戦いを望むというのなら、その時は全力で応えよう。」

 

そう言い残し、バイクはどこかへ行ってしまった。

 

「何だったんだろう、今の…?」

「と、取り敢えず、敵は行っちゃったし、いいんじゃない?」

イリヤと2人で首を傾げる。

その頃凛さんとルヴィアさんは

 

「ちょっとルヴィア!そのキャスターのカード渡しなさい!」

「何を言うかと思えば、貴女よりも貢献していた私の方が、貰う権利があると思いますが。」

「何よ!大体一緒じゃない、この金髪ドリル!!」

「今、何と仰りました?」

「何度でも言ってやるわよ、この金髪ドリル脳筋ゴリラ!!」

「いけませんわ、私ったら、海より広い堪忍袋の緒が切れてしまいましたわ。」

「やんの?」

「やりますの?」

 

クラスカードの取り合いになる2人。

もっと話し合うべきことがあるはずだが、今はこれでいいのかも…しれない。

 

interlude out




大変お待たせ致しました。

言い訳になりますが、最近シフトが週6になったので、疲れて筆が進みませんでした。楽しみにしてくださった読者の方々には申し訳ありませんでした。

ジャンヌとバーサーカー、それにキャスターと彼等のマスターが登場しました。マスターの方は、多分皆さんが想像してるあいつです。

バーサーカーに関しては、自分の好きな作品から引っ張ってきました。分かる方がいたら嬉しいです。
(どうでもいいですが、自分の推しメンは呉島兄弟です。ムビ大の舞を助けるためにブドウスパーキングを発動するシーンで感慨深い気持ちになった人も多いはず)

余談が長くなりましたが、次回はエミヤの話に戻るつもりです。それでは、また次回でお会いしましょう。

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