「おいおい、なんでガキがここにいるんだよ?」
「ここは俺達の縄張りだぜ、踏み込むんだったら……そこの女置いてけ」
ヒャヒャヒャと不快な声で笑うこいつら、正直僕は関わりたくなかったから早めにすまそうとした。
「悪いけどこの子は渡せない。僕の大切な人なんでね、それにあんたらのテリトリーを荒らすつもりはないさ。ただここを通してくれるだけでいい」
「だ~か~ら、ここ通りたきゃ女置いてけっつーのが聞こえねーのかぁ?糞ガキ」
随分ガラが悪い。しかも大した魔力持ってないし……
「はぁ……言葉が通じない人に何を言っても無駄だな、こりゃ」
僕がため息混じりに呟いた。夢依はもう帰ろうっと催促してるけど、僕は正直こいつらに腹を立てていた。
「ちっ……生意気なガキめ、ブチ殺すぞ!」
「やっちまえ!」
こうして、ガラの悪い奴らと僕は喧嘩した。皆魔力武装を持っていたのだけれど、当然のように砕いては殴り砕いては殴り……次々となぎ倒していった。夢依は草むらに隠れさせた。のだったが、不良の一人が夢依を捕まえた。
「おいガキ!こいつを返して欲しかったら大人しく動くんじゃねぇぞ!!」
お約束のセリフを吐き、夢依を拘束している。首にはサバイバルナイフが当てられている。必死に逃げ出そうとするが、中学生の……ましてや女子の力じゃ、到底敵いっこなかった。
「ちっ……」
僕は舌打ちをし、どうしようか考えた。僕があいつに攻撃すれば、夢依が危ない。かといってこのまま連れ去られるのを黙ってみているわけには行かなかった。僕はその不良の方に、少しずつ歩み寄った。
「なっ……?!お前、こいつが見えないのか!こ、こっち来んじゃねぇ!」
言葉は聞こえない。聞きたくもない。夢依に危害が及ぶ前に、こいつを始末すれば良いのだから……そう考えていると、背後から近づいてくる気配に気づけず……僕は後頭部を殴られ、倒れた。
「はぁ……はぁ、どうだこいつめ…!」
どうやら、金属バッドで殴られたみたいだ。頭からは血が出て、すごく頭が痛い。僕は立ち上がろうともがくが、それをさせまいと数人がかりで僕を殴ってきた。木刀や金属バッド、終いにはナイフで背中を刺してくる始末。
「良し、ずらかるぜ!」
「おう!……ところで、この娘どうするよ?」
「しゃーねーな、森の奥の屋敷でヤッちまうか!」
「そうするか、アヒャヒャヒャ!」
下劣な言葉が聞こえ、僕は腸が煮えくり返りそうだった。でも、体が動かない。両手足の骨は砕け、肋骨も肺に刺さってる。頭蓋骨にヒビが入り、全身血まみれで服もぼろぼろだ。どうしようかと痛みと格闘しながら悩んでいると、僕の隣に雅が来てくれた。
「こりゃぁ……派手にやられたね、大丈夫?」
僕は声が出なかった。でも、この状態をどうにかして欲しいと雅に頼んだ。すると。
「仕方がない、骨とかはすべて治るけど傷は……治癒に時間かかっちゃうけど、それでいい?」
いいわけない。夢依が酷い目に合わされてしまうのに……こんなところで寝てる場合じゃない!!
「頼……む、動けるように……してくれ…!」
僕は頼んだ。雅はやれやれと頭を掻き、僕の骨を全て修復してくれた。
「とにかく動けるようにはしたわ。でも、応急処置に過ぎない……だから、終わったら安静にしなさい?」
雅に礼を言い、森のなかへ走っていった。奴らが言ってた”森の奥の屋敷”は、そう遠くないはず。とは言え、ここの地形には疎い。ならば……
「……水紋反響、範囲は……この森全て」
水紋反響とは、辺を水面だとイメージして仮想空間を作り出す。そして自分を中心に、荒波を立てる。すると、物がある場所は波を弾く。小さいものは音も小さいが、小屋ともなるとかなり大きな音が帰ってくるはず。僕は森の中を走りつつ、音を探った。傷口は広がり、服にどんどん染みこんでいく。全身がすごく痛むが、そんなことは気にしてられなかった。僕が、夢依を水神結界の中に入れておけば……そんな後悔はボコられてる時に幾度もした、ならば僕は夢依を取り戻すために同じ失敗を繰り返さないだけ。前の失敗は、次に役立てればいい。そうこうしてる内に、近くで大きな音の反応があった。そこに向かってみると、屋敷の中で話し声が聞こえた。耳を澄ませてみると。
「こりゃぁ、上物じゃねぇか」
「くそっ、あんたらなんかに……!」
必死に抵抗しているみたいだけど、数が数だ……仕方ない、様子を見つつ夢依を結界に入れて守る。まずは最優先だ!心のなかで決め、正面口にこっそりと忍び寄った。嬉しいことに扉は開いており、その隙間から覗いた。夢依は大きな柱に縄で括りつけられ、その間を十数人で囲っている。よし、誰も夢依から離れてる。今だ!
「……水神結界、範囲は夢依を中心に…奴らに触れない程度で」
ひっそりつぶやくと、言葉通りに薄い膜が夢依を包んだ。不良どもは誰一人結界の中に入ってはおらず、皆驚いていた。
「何だこりゃ!薄い膜が突然……まぁいい、ぶち壊せ!」
不良どもが一斉に壊しにかかるが、傷一つ着く様子はなかった。
「この膜は……冬風!」
夢依が喜々として喜んだ。不良どもは悔しがった。
「畜生!!何なんだこれは……っ!」
息を切らしてへばる不良共、僕は頃合いだと思いドアを蹴破った。
「「今度は何だ!!」」
全員がこっちを見る。そこには……全身血まみれで、微笑んでいる冬風が立っていた。
「ごめんね、こんな怖い目に合わせちゃって……こいつらをさっさとぶちのめして帰ろう」
「……うん」
僕は微笑んで、夢依は泣いた。不良共は舐めるな!死に損ないが!と喚きながら襲いかかってきたが、僕は冷静に一人一人の武器を持っている方の腕の骨を潰していく。
「ぎっ……やぁぁぁぁ!!!」
あっという間に全員の骨を潰し終わり、後ろからは痛みで悶絶する汚い声が木霊した。
「野郎……!」
こっそりと刃物を手にした不良共、僕はそれを見逃さなかった。
「……遅い!」
僕はもう片方の腕を消し飛ばした。全員分。すると煩かった声は鳴り止み、皆気絶した。僕は水神結界を解き、夢依の縄を切った。夢依は泣きじゃくりながら僕にしがみついた。
「冬風……っ冬風ー!」
余程怖い目にあったのだろう、こんなに震えて泣く夢依は初めて見た。
「もう大丈夫だ、帰ろう」
微笑んで夢依に言った。夢依は泣きながら頷いた。僕は泣きじゃくる夢依を抱え、森の入口まで魔力転移で移動した。暫く夢依は泣き続けたが、僕はそんな夢依の頭を優しく撫でることしか出来なかった。
「馬鹿……馬鹿ぁ!本当に死んじゃったかと……思ったのよ!」
「心配させてごめん、でもこの通り…生きてる」
「うん……」
やがて泣き止む夢依、僕は泣き止んだのを確認すると下ろした。
「さて、泣き止んだことだし……城へ戻ろう」
「うん……」
こうして、僕らは手を繋ぎながら城へ帰った。戻ると、城の皆は大慌てだった。伯父様は驚きながら夢依と僕の無事を確認した。僕が事情を話し、夢依は無傷だと確認すると、ほっとしながら落ち着いた。
「申し訳ございません、伯父様。僕があんな所に行こうって言ったせいで……夢依に怖い目を……合わせてしまって……」
「いや、君たちが無事ならそれで……って、冬風君!!」
僕は意識を失った。全身の傷が開き、血を流しながら。多分血を失いすぎたのだろう……気絶する前に、あの出来事を話しておいて正解だった。