好みだけで選ばれた秘書艦が庇われたらきっとこんな感じ
いわゆる習作




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煌めきだけ

 

 

 

 

 まばらな雲は、しかし幾重にも層を作っていて、鎮守府の風景の細に黒々とした染みを落とした。切れ目から時折覗く陽光は遮る者を射竦めているようで、その鋭さに、不知火はどこか快感さえ覚えていた。太陽は、やはり神々しい。

 踏み出した爪先を斜めにし、次の一歩で横にし、そして後ろを向いた。規則性を乱した動きで左足が力を抜こうとしたが、不知火はそれを善しとはしなかった。善しとしないことが、千々に千切れた思索の欠片をかき集めて作った、不知火の精一杯の贖罪だったからだ。

 視界の半分だった海は、躰の回転に左右を入れ替え、残りの半分である鎮守府もそれに倣った。鎮守府には当然、前後の景色にいくつもの差異がある。ただ、その景色の違いは不知火の胸のうちになにかをもたらすことはなかった。目に入るものが、常に像を結ぶかといえば、そうでもない。

 鎮守府の岸壁には係留用のボラードがあり、それは普段からいささかの滑稽さとともに見られていたが、今日この日ばかりは不知火もボラードに感謝した。一から十五までボラードを数えて折り返す。一と二、二と三、三と四。この調子で数字を浮かべながら走ると、思考の片隅の靄は絶えず風に吹かれるようにまとまらずに散っていき、だから欠片を集めることができるのだ。

 

「不知火」

 

 声がした。名前の割りに一切のゆらめきを乗せない音がいかにも陽炎らしく、不知火の世界は久々の広がりを見せた。靄。風が止んだことへの焦燥感が混ざった不知火の笑顔は、無骨な鎮守府の岸壁に浮かぶことなく溶け込んでいた。

 

「どうしました、陽炎」

 

「北上さんさ、大丈夫だってよ」

 

 その名前に、また不知火の足が重くなった。思索の欠片。靄。射すような太陽は、今は雲に覆われている。

 

「だから、もうやめなさいよ。意味がないでしょ」

 

 陽炎の言葉は、流れることなく不知火の胸に飛び込んだ。不知火は横を向き、何番目のボラードだったのかを考え始めた。

 

「あんたが旗艦で、避けようのない砲撃がきて、北上さんがそれを庇える位置にいたんだから。あんたが一生懸命だったのは加賀さんも認めてたわよ。あれは」

 

「仕方ない、ですか」

 

 陽炎は瞬間、言葉に詰まった。瞬きが一つ。

 

「そうよ。あれは仕方ないって。だから、あんたが躰を壊すほど走り込んだってなんにもなんないでしょうが」

 

「なる、ならないとか、そういうことでは」

 

「そういうことなのよ。利口にとは言わないけれど、もっとマシなやり方にしなさい。ありもしない罪を勝手に作り上げて、うだうだうだうだ」

 

「陽炎に、なんの関係があるんですか」

 

「ばかもん。心配するでしょ」

 

 自分の姉はこういう姉だった、と不知火は思った。観念的なところがなく、口を開けば言葉は直載で、索漠たるを許さない、太陽のような姉だ。

 そういった姉に疎ましさや妬みを感じたことは、不知火にはなかった。ただ、煌めきだけが、眩しい。

 足が、遂に止まった。仕方ないのだ。何番目のボラードなのか、わからなくなってしまった。

 夢から覚めたように、不知火が崩れ落ちた。陽炎が駆け寄る。風が吹き、雲の切れ目から陽が覗いた。思ったほど、陽光は鋭くない。太陽は、ただの星で、陽光など暖かに煌めいているだけなのだ。

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「綺麗ですね」

 

 波間が、再び照りだした光を反射しきらきらとしていた。それが、不知火にはやけに綺麗に見えたのだ。しかし、陽炎はやおら鼻を鳴らした後、満足げに言った。

 

「当たり前でしょ。私を誰だと思ってるの」

 

 どうやら、陽炎は自分に当てた言葉だと思ったらしい。力不足だとか自分の意義だとか、悩んでいたのを馬鹿らしくさせることに関しては、本当に優れた艦娘だった。

 

「不知火の、姉でしょう?」

 

 陽炎が、にんまりと笑った。

 

 

 

 

 

 





美しい表現的なやつを頑張ったんですが途中で力尽きました


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