巡察艦<プラネースカウ>の艦長、ドゥニュークは、少し悩んでいた。そして、そのことを書記のソスィエと監督のビュコックに相談するために艦長室へ呼んだ。
「ビュコック監督、ソスィエ書記、あなた達に相談があるの。先任砲術士のシュリル前衛翔士のことなんだけど、いいかしら?」真剣な面持ちでドゥニュークは聞いた。
「やはり、そうですか。艦長も心配していたのですね。彼女のことを」ソスィエ
「ええ、そうなの。あの初陣のあれだけの戦闘をしたときも、顔色をほとんど変えずに冷静にしていた彼女が最近、かなり元気がないみたい。どうも寝てないようだし、顔色もよくないの。何か、悩みがあるのかと思ってね。彼女の状況はうちの艦の士気、いや生死にかかわる問題からね。」ドゥニューク
「そうですな。従士たちもうちの艦の『勝利の女神』の元気がないことを感じている。俺もなんとかしたいのだが、どうやったらいいか、わからないです。」ビュコック
「艦長、では、彼女から直接聞いたほうがいいのでは、理由を。それから対処しても遅くはないでしょう。戦闘は、今後、当分、起きそうも無いし、狩人作戦も終結に向かっていますしね。」ソスィエ
「わかった。じゃぁ、その役目は私がするわ。個人的な事柄なら一人の方がいいでしょう。」決心するドゥニューク
ドゥニュークは、休憩中のユーリルのもとへ行くために彼女の翔士個室へ行った。
「シュリル前衛翔士、入っていいかしら?」クリューノで呼びかけるドゥニューク
「艦長…。はい、どうぞ。」そういって、ユーリルは翔士個室の扉の制御卓を操作して開けた。
ドゥニュークが部屋に入ったとき、ユーリルが目をはらしていて、あきらかについさっきまで、涙を流していた表情を浮かべていた。
「艦長、何かご用ですか?まさか、私の翔士個室に来るとは思いませんでした。」弱々しい笑みを浮かべるユーリル
「これは、思ったより重症ね。シュリル前衛翔士、とりあえず、私が来たことを説明するわ」
ドゥニュークは、ユーリルの様子が前々からおかしいことを察しており、それは、艦全体の士気にかかわっているので、その原因を探り、少しでもユーリルに元気を出して欲しいという理由でここに来たことを説明した。
「そうですか、確かにこんな表情していたら、心配しますね。わかりました。理由を話します。ですが、艦長にどうこうできる問題ではないと思います。」思いきった表情をするユーリル
ユーリルは、自分が憂鬱な表情をしているのは、この銀河で1番愛している片思いの人がこの狩人作戦で地上世界で行方不明になっていることを話した。
「艦長、ということなのです。自分がこんなに弱いとは思いませんでした。アーヴなら…翔士なら例え好きな人が戦場で散っても、耐えることができると…。でも、私は…ジントが、もし、死んだと思ったら、平気でなんていられない。まだ、心のどこかで生きていると思いながらも不安でいっぱいなのです。」再び、金色の瞳に涙を浮かべるユーリル
「そう、わかった。でも、安心したわ。どんな状況でも冷静さと不敵さを損なわない『黄金眼の天才児』もただの女の子だったというわけね。」
そういって、そっとユーリルを抱きしめた。
「え…」ドゥニュークの行動に驚くユーリル
「シュリル前衛翔士、泣きたいときは思いきり泣くの。そして、その感情を少しでも発散させなさい。それと、自分の愛している人のことを信じるの。絶対に生きている。希望は失われていないうちは絶対にね。これは、年長者の、ドゥニュークとしての個人的な発言ね。」艦橋では絶対に見せない優しい笑顔をするドゥニューク
「艦長……ありがとうございます。」
ユーリルは、そのまま、ドゥニュークの胸で泣きつづけた。
「ジント、生きていて。ジント、生きていて」つぶやくようにユーリルは、ジンとの名を言って、泣いていた。
しばらくすると、ユーリルのクリューノに通信が入った。それは、ダリシュからの手紙だった。
「ユーリル、これは僕にとっても君にも嬉しい知らせだ。ジントは生きている。生きているぞー!!何度でもいうよ。ジントは生きているんだ。もう安心しろよ。詳しいのはデータを載せておく。」その通信はダリシュにしては、珍しく興奮して喜びを爆発させたような表情だった。
「よかった。本当によかった。あれ…涙がまだ、止まらない。でも、これは、嬉し涙。そう、嬉しいんだわ。」先ほどの暗い表情と違い、満面の笑みを浮かべるユーリル
「どうやら、吉報がきたいみたいね。それで、そのジントという人が、あなたの片思いの人なの?」
ドゥニュークも安心した様子になったので、ジントについて尋ねてみた
「ああ、艦長。ありがとうございました。ご心配おかけして、もう大丈夫です。それと、ジントは…リン・スーニュ=ロク・ハイド伯爵・ジント閣下は、兄の親友なのです。今の通信が兄からのものでした。」目は涙ではれているが、表情はいつもの不敵さを取り戻したユーリル
「ハイド伯爵…あ、あの王女殿下と地上世界で愛の逃避行をしたハイド伯爵閣下。ということは、まさか、アブリアルに横恋慕する気なの?シュリル前衛翔士。」
ジントの名を聞いて驚くドゥニューク
「艦長。そのとおりです。あ、艦長、このことは、秘密にお願いしますね。アブリアルに横恋慕しようとしていることが知れたら、また、変な称号がつかないとも限りません。お願いします。」片目をウィンクしてアピールするユーリル
「わかった。あなたと私の秘密にするわ。とりあえず、今回のことは、皆にどんな言い訳しようかしら。そうだ。あなたが、失恋したことにしましょう。相手は秘密だけどね」微笑むドゥニューク
「そうですね。それで、お願いします。もっとも、私は例え相手がアブリアルと言えども負ける気はないですね。それと、艦長、この狩人作戦が終わって、しばらくしたら、違う艦に転属希望を出そうと思います。」本音を話すユーリル
「え…。どういうこと。私としてはあなたほど優秀な先任砲術士を失うわけにはいかないけど、理由を知りたいわ」困った表情をするドゥニューク
「アブリアルのクリューヴ王家の第一王女のパリューニュ子爵殿下の出世競争に参加しようと思っています。これは、飛翔科修技館にいた時代から考えていたことです。まぁ、表面上の理由ですけどね。もっとも、私を殿下が得ることができれば、皇帝への出世競争にかなりはずみになると思うでしょうね。」
「なるほどね。わかったわ。そのときは、私も推薦しておくわ。まぁ、私にとっては痛手かもしれないけど、あなたと、帝国の未来を考えるならその方がいいかもしれないわ。まぁ、それまでは、私の艦の先任砲術士の務めを果たしてもらいたいわ」穏やかに微笑むドゥニューク
「はい、ありがとうございます。艦長、私はあなたが上司で良かったです。ドゥニューク百翔長は、私が言う意見を全面的に否定することはなかったし、常に艦内もやりやすい状況でした。他の人が艦長だったら、プライドが邪魔してもっと、私を抑制しようと思います。」感謝を込めて敬礼するユーリル
「まぁ、それは、交易時代が長かったせいね。人には向き不向きがあり、それを見極めて、最良の選択をする。それには、自分だけの価値観で見ないようにしているの。シュリル前衛翔士に任せるのが生き残るには最良の道だと思ったからよ。」
「艦長、わかりました。とにかく、皆さんにはもう大丈夫だと伝えておいてください」
完全にいつものユーリルに戻った。
「わかったわ。じゃぁ、伝えておくわ。まぁ、何も役に立たなかったけど、あなたの秘密を色々と知ったから、よかったわ。それじゃ、また。」敬礼をして、ユーリルの部屋から出ていくドゥニューク
「了解です。艦長」
こうして、シュリル・ウェフ=キルヒム・ユーリルは、<プラネースカウ>で先任砲術士の任務を最高の戦歴を残していった。彼女の修技館時代からの称号の『黄金眼の天才児』の称号は、狩人作戦ではおとしめるどころか逆にその称号を高める結果になった。
このことを星界軍の人事局は評価して、ユーリルが転属希望を出したとき、その希望はすんなりと受け入れることになった。
後にユーリルは、新艦種の襲撃艦<フリーコヴ>の先任砲術士に希望を出して、それが、彼女の目標の第一歩を記すことになるのであった。
<完>
この話を書いて頃はまだ、戦旗Ⅳが出ていなかったので、フリーコヴの先任砲術士が決まっていなかったので、それを想像しながら書きました。
今後もユーリルはフリーコヴの先任砲術士になったと原作改編して話を作っていこうと思うのでそのことは目をつぶってください。
これからも星界の紋章・戦旗シリーズの二次小説を載せていくのでよろしくお願いします。