モンスターハンター 青熊好きのハンター 作:littlelock
ジュン達が村を出て数日後の事だった。
「一雨来るかな」
竜車での移動中、ジュンが空を見上げて発した一人言だ。 その呟きを耳にしたのか、竜車をけん引しているアプトノスに指示を出しているアイル―がジュンに顔を向けてきた。
「んにゃ? マジですかにゃ?」
「よそ見運転は危険だよ」
すかさずジュンの横に座っている妹のシイナが注意してくる。
「一本道で道幅広いからぶつからないにゃ。 それよりジュンさん、雨が降りそうってほんとかにゃ?」
ジュンはアイルーを見ずに空を見上げながら答える。
「うん。 風がしめっぽくなってきたし、雲も多くなってきてる。 あと一時間くらいしたら僕らずぶ濡れかな?」
「ええー、風邪ひきそう……」
ジュンが軽そうに話すのに対しシイナは明らかに嫌がった。 これが一般人と常に泥まみれになるハンターの違いなのかもしれない。
「どうするにゃ? もうすぐ夜営できる洞穴があるけど、今日はもうそこで休むかにゃ? 夜になるまでかなり時間あるけど……?」
「雨の中で走行中に車輪がとられても困るし、今日はもう足を止めてもいいんじゃない?」
ここは人の手が行きとどいた町と違って、道路は舗装されていない土がむきだした地面だ。 雨が降るとすぐに土が軟らかくなり、そこに竜車の車輪がはまると抜け出せなくなる事があるため、そのような身動きが出来ない危険な状態になるよりはましとジュンは考えた。
「私もそれにさんせー。 冷えた体で夜を過ごすのきついし」
「わかったにゃ。 んじゃ、目的地変更にゃー」
そう宣言すると、アイル―は再び前を向いて運転しはじめた。
ジュン達が洞穴に着くのと同時に、雨が降り始めてきた。
「うわー、本当に降って来たよ。 危なかったなー」
ジュンの予感が的中してシイナは驚いた。 疑ってはいなかったようだが、自分の兄の予想になかば半信半疑だったらしい。
「なに? 僕の言葉信じてなかったの?」
面白半分にジュンは聞く。
「んー、というより座りっぱなしで腰が痛かったし、早く泊まれるなら雨が降ろうが降るまいがどっちでも良かった」
竜車から降り、背筋を伸ばしながらシイナは答えた。
「あらそー、まあいいや。 それでアイル―さんや、これからどうしますかね?」
シイナとの無駄話を早々と打ち切り、ジュンはこれからの計画を考える事にした。 質問されたアイルーはアプトノスが逃げないように地面に楔を打ちつけながら答える。
「にゃー、予定だと今日の夜には仲介地点である町に着く予定だったんだけどにゃー……。 どうするにゃ? 明日は早めに町に行って買い物でもするかにゃ?」
「あー、それいい! そうしよジュン兄?」
アイル―の提案に食いつき気味に反応するシイナ。 その様子にジュンは苦笑しながらそれでいいと返す。
「それじゃあ、暗くなる前にさっさと野宿の準備でもしよっか」
そう言いながらジュンは竜車から野宿に必要な物を取り出しはじめた。
太陽の光が完全に無くなり、いつもは月が堂々と顔を出すような時間になっても雨は降り続いていた。
ジュンはシイナ達が寝ている間も見張りを続けていた。 人がよく使っている洞穴でも、雨が降って視界が悪くても、いつモンスターが襲いに来るか分からない。
どう考えても見張りが必要で、その役目はハンターであるジュンが請け負った。
「……暇だ」
しかし見張りというのはジュンが呟いたように存外暇な時間だ。 やる事と言えば小型のモンスターに効果のある焚火を絶やさないように薪をくべるくらい。
そして暇が出来ると人は頭が働かなくなり、睡眠欲が来てしまう。
見張りが眠りこけてしまうのはまずい。 なにか暇つぶしがないかと考える。
(あ、そういえば……)
ジュンは竜車に向かい、そこから皮袋を取り出す。 そして焚火の明かりが届き、かつ持ってきた皮袋に燃え移らない場所に座る。
皮袋をの中身を広げた後、首を回して肩こりをほぐしてから呟く。
「面倒っちゃ面倒だけど、暇よりましか……。 よし、始めますか」
そうジュンが呟く間も雨は降り続いていた。
□ □ □ □
「んにゃー、無事に雨が上がって良かったですにゃ~」
「ほんと、青天そのものねー」
引っ越し業者のアイルーとシイナは会話をしながら揃って上を見上げている。 絵具では表しきれないような澄み切った青色。 雲一つ見当たらず、太陽はじゃま者がいない事を喜んでいるように日光をさんさんと降り注いでいる。 まさに今日は好天に恵まれた旅日和だ。
現在、雨が止んだのを確認してシイナ達を乗せる竜車は再び往路を進んでいる。 地面はまだびちゃびちゃと濡れていて、あちこちに水たまりが出来ていたが、よほどの事がないかぎり車輪はとられないはずと判断したしだいだ。
そのように心配する事がないからか、シイナはアイルーとのんきに会話をしていた。
「畑の世話には持ってこいな一日だろうな~」
「あれ? シイナさんは農家さんだったかにゃ? 向こう先の村長さんからは雑貨屋さんって聞いてた気がするにゃー?」
アイルーの質問にシイナは少し考えるような間があった後、苦笑を浮かべながら答える。
「……どっちも半分くらい正解かな~。 私は雑貨屋というより雑貨屋見習いみたいな感じだし」
「農家さんの方は?」
「この前いた村で、ハンターさん一人ずつに畑が与えられていたの。 私とジュン兄はそこを利用させてもらって野菜を作ってたんだー。 兼業農家とは少し違うけど、たまに販売とかもしてた」
その話をアイルーは目をきらきらとさせながら「ふみゃー!」と感嘆の声をあげながら聞いていた。
「ほんと、しっかりした姉妹だにゃー。 仕事をこなしながら他の事が出来るって、なかなか出来る事じゃないにゃ!」
もろ手を降って褒めてくれる事に照れたのか、ほおをかきながら謙遜をする。
「あはは、売る事が出来たのは田舎だったっていうのにも助けられたんだけどね。 不格好な野菜でも必要な人は買ってくれるし。 これが町とかに売るとなると形の不揃いを整えなきゃならないから本当に大変。 ……って、アイルーさん。 だから私達は兄妹なんだってばー」
これ以上褒められ続けられるのにむず痒さを感じたのか、訂正をしながら話題を変えてくるシイナ。 幸い特に疑問を持たなかったのかアイルーはその話に乗っかってくる。
「にゃー? どう見てもそうは感じられないのにゃ」
「それでも兄妹なんだってば」
「この装備どっから見ても女性用のアシラ装備にゃよ。 男性用はもっとゴツゴツしてるし」
「それは……もう、なんでこんなめんどくさい時に寝てるかなー!」
そう言いながらシイナは自分の膝元に頭を乗せて眠り込んでいるジュンに顔を向ける。
アシラヘルムをはずし、顔をシイナのつま先の方に向けながら寝ている。 肩にかかるくらいの黒髪を乱雑に広げ安心しきったような顔をしながら、かすかに聞こえる程度の寝息を奏でている。
この寝息がいびきのようにうるさい物だったらひっぱたいて起こせるのにと思うだけで、シイナは「ほんとにもう……」とジュンを起こす事をしなかった。
そんな微笑ましい様子に顔をほころばせながら、アイルーは「やっぱり仲の良い姉妹だにゃー」と会話を強引に終わらせて運転に集中しようとした時だった。
「うにゃ?」
「だからそうじゃない……って、どうしたの?」
アイルーに問いかけるがシイナの言葉を聞こえないのか、立ち上がりながら前方に目を凝らし始める。
「……」
「何かあったの、アイルーさん?」
「前方に竜車があるのが見えるかにゃ?」
「え」
逆に聞かれて、あわてて前方に目を凝らす。 すると少し先に、シイナ達が使っているような竜車を発見した。
「うん、見えた。 でもそれがどうしたの?」
「竜車の上辺りにも何か見えないかにゃ?」
そう聞かれてさらに目を凝らす。 よく見ると……、
「……竜車の上あたりでなんかゆれてる?」
「!! アプトノス、全速前進にゃ!」
シイナは見えた物を報告すると、アイルーは急いでアプトノス達に指示を出す。
「「くおぉぉぉ!」」
「え、ちょ、なに!?」
シイナの驚きをよそに、竜車は速度を上げていく。
「シイナさん、竜車の上でゆれている物を見たのは本当かにゃ?」
「うん、そうだけど?」
それがどうしてこんなに急ぐ理由になるのか分からず、シイナは怪訝な顔つきになる。
「それはおそらく布状の物の可能性が大きいにゃ」
「だから?」
「シイナさんは助けを呼ぶ時にどんな事をするかにゃ?」
「……っあ!」
シイナの顔から血の気が引いていく。 助けを呼ぶために布を振って目につきやすい行動をしているのだと気付いたのだ。
「出来るだけ離れた所から何があったのか聞くけど、万が一の事があるにゃ。 ジュンさんを起こして」
「わ、わかった。 ジュン兄、起きて!」
自分の兄をゆすりながら大声で起こしにかかる。 大きな声が功を奏したのか、ジュンはうめき声を上げながら起き上がる。
「……どったのよシイナ」
「前方、竜車、旗振り!」
会話文にならなかったがシイナの伝えようとしている事が充分伝わったらしく、ジュンは一気に目を覚ます。 竜車の端に置いておいたアシラヘルムとハンターカリンガを装備し、竜車から跳び降りる。
「ジュン兄!」
「ちょっと見て来る!」
そう言い残すと、ジュンは竜車を引っ張りながら走るアプトノスを追い越し、旗振りを続ける竜車へ向かう。 寝起きとは思えない身体能力はさすがはハンターといった所だろうか。
「状況が落ち着いたらこっちにも報告を!」
「分かった!」
ジュンが返事をすると、アイルーはアプトノス達に減速を指示する。 足の速いジュンが向かう以上、自分の身を守る武器が少ないこちらは指示があった時に動けばいいと判断したからだ。
ジュンはどんどんとシイナ達を離し、相手の竜車に近づいていく。 近づいたおかげで乗っている人達も確認する事が出来た。
(数は二人……いや、一人と一匹か?)
一匹というのはアイルーで間違いないだろう。 こちらのアイルーと同じで、竜車を引くアプトノスを操縦するために乗っているアイルーだ。 タオルのような物を世話しなく振り続けている。
残る一人は、
「……あれは、ボロス装備?」
うろ覚えの記憶を書き出すようにジュンはその装備の名を口にした。
ボルボロスという砂原に巣くう強力なモンスターの素材で作った装備で、全身を焼け焦がしたような茶色の岩で覆ったような印象を持たせるデザインをしている。
得にゴツゴツとして固い事で有名なボルボロスの頭殻を大胆に使用した胴部分はさらに堅固なイメージを強め、実際に同じランクに位地されている装備の中でもかなりの防御力を誇る装備だ。
つまり、その人もジュンと同じハンターだという事だ。
そしてもう一つ気になる部分が。
(あの形状、もしかして……)
そろそろ声が届く範囲に入ったはず。 そう感じたジュンは立ち止まり大声で尋ねる。
「すみませ~ん! そちらの旗振りを確認した者ですが~! 何か問題がありましたか~!」
近くに山があったおかげか、反響してジュンの声が自分に帰ってくる。 これなら向こうに聞こえたはずと自信を持った。
少し間があった後、ジュンの声とは違う声音が聞こえてきた。
「竜車の車輪が泥に脚をとられたんです! あたし達だけじゃ抜け出せなくて! 申し訳ないのですが! そちらの竜車で引っ張り上げてくれませんか!」
「お願いしますにゃー!」
二種類の声を聞きとった。 語尾に(にゃー)っと付けているのが間違いなくアイルーだ。 だとすると説明をしてくれた声がボロス装備のハンターに違いない。
しかしその声音はゴツゴツとした装備とは裏腹に明るめの甲高い声だった。 すなわち、
(あ、やっぱり女性のハンターなんだ)
いや、この明るい声は女性というより女の子の声かと考え直す。 装備もあってか恐そうな声を想像していたが、予想とは違ってほっとした。
「分かりました~! 操縦者に説明してきますので~! 少々お待ちくださーい!」
「ありがとうございます! あの、操縦者に車輪がとられないように迂回して前に出てくるように伝えて置いて下さい!」
「了解でーす!」
そう返事をし、ジュンは走って来た道を戻っていった。
つづく