モンスターハンター 青熊好きのハンター 作:littlelock
「ギャア!」
一声を放ち、森に生えた木々の隙間を縫ってジャギィがハンターに向かって噛みつこうとする。
ジャギィの標的とされているハンターのクラルはその攻撃に気付くと、あわてて片手剣に備えられている盾を眼前に突き出した。
ガキンッ!
「ンッ!!」
攻撃を防げても痛みはあるのか声にならない声を上げながら顔を引きつかせるクラル。 しかし彼女に痛がっている暇はなく、別の個体であるジャギィがクラルの右側面に向かって噛みつこうとする。
「ッ!」
目の前に盾を構えているクラルはこの攻撃を防ぐ所か避ける事も出来ず、ボロス装備から伝わってくる衝撃に備え目を背ける。
ザシュッ!
「アギャア!?」
しかし痛みはやって来ない。 目の前にいるジャギィによる二回目の噛みつきをいなしつつ右側に目を向けると、もう一人のハンター・ジュンがジャギィに斬りつけていた。
どうやら彼がジャギィの攻撃を防いでくれたらしい。 クラルは感謝しつつ再び攻撃して来ようとしてくる目の前のモンスターにドラグロメイスを叩きつけた。
ドガッ!
「ギャア!?」
だいぶ弱っていたのかその一撃でジャギィは沈む。 余裕が出来たためジュンの方を見ると丁度彼もモンスターを倒した所だった。
クラルは彼に近づき、肩を叩きながら話かける。
「助かったかも!」
「気を付けて下さい!」
ジュンとクラルはそれだけ話すとそろって走り始める。 彼らにはゆうちょうに会話している暇も倒したジャギィ達から素材を剥ぎ取る余裕もなかった。
「ヴァアア!」
「ギャアア!!」
森のあちらこちらからジャギィの鳴き声が響きわたっている。 鳴き声でそれぞれの位置と情報を出し合っているのだろう。 それも並みの数ではない。
「ウォーッホッホッホッホーウ!!」
その中に一体、ジャギィに似た数倍の大きさを持つモンスターがいた。 そのモンスターは他のジャギィ達に対し指示を与え、ジュン達を追い詰めようとしていた。
二人のハンターはドスジャギィという主が束ねる百数十体レベルの群れに追われているのだ。
「ふう、参ったね……」
「全くです。 今日は散々だ……」
現在ジュン達は大きな切り株を見つけ、それに背を預け隠れていた。 双方地面に腰を置いて肩の力を抜いて休んでいる。 その間もジャギィ達の鳴き声が響き渡っていたが、うまい具合に見つけられないみたいだ。 二人は切り株から周りを覗きつつ、心に余裕を持たせるための無駄話を始める。
「何体くらい仕留めた?」
「十頭を超えたくらいは倒しました」
「あたしもそれくらい」
「まだまだ数がいますね……」
はあっとため息をするジュン。 さすがの彼も未だかつて挑んだ事がなかった狩りに難しさを感じているのかもしれない。
と、クラルは切り株に体重を預けながらぽつりと呟く。
「……あの剥ぎ取らなかったジャギィ達の素材、どのくらいのお金にできたのかな……?」
「また唐突にいやらしい話しますね……。 僕も未練がないと言えば嘘になりますが」
そう、彼らは倒したジャギィ達から何も剥ぎ取っていなかったのだ。
普段の狩りを行う狩猟場ではエリアと呼ばれる狩猟場の区分が付けられていて、小型モンスター達は一つのエリアに2~6体程度いる。 その程度の数なら隙を見て余裕で剥ぎ取る事が出来ただろう。
だが、今回のケースではエリアという区分がなく、下手したら数十体の小型モンスターが一気に攻めて来るかもしれない状況にある。 そのため、もし小型モンスターに見つかり戦闘に入ってしまっても他のモンスターに見つかる前に止めをさし、剥ぎ取りもせずすぐにその場をさる必要があったのだ。
「生き残るためとはいえ、倒したモンスターを野ざらしにしてしまうのはハンターとして気が引けますよね……」
「あれ全部剥ぎ取ったら千ゼニーはいってたね。 本当にもったいないな~」
本気で悔しがっているクラルにジュンはおもむろに話す。
「クラルさんって、お金にがめつい方なんですか?」
ストレートな質問にクラルは苦笑しつつ答えた。
「ちがうちがうそうじゃなくてね、実はこのボロスシリーズとドラグロメイスを作ったのって結構最近の話でね、今私アイテムもろくに買えない程の金欠状態なの。 だから出来るだけゼニーを貯めたくてさ」
あっけらかんと話すクラルにジュンは納得する。
「ああ、なるほど……ってあれ? それじゃあクラルさん、それじゃあ今どのくらいアイテム持って来ましたか?」
「ん、えーと、恥ずかしながらこれくらい……」
そういいながらクラルはジュンから後ろを向き、アイテムポーチの口を開ける。
「……回復薬六個に砥石が二個……? 持ってきていない僕が言うのもなんですが、こんがり肉とかは?」
そう聞くとクラルは少しいやな事を思い出したような顔をしながら答える。
「こんがり肉は前のパーティを組んでいた人に作ってもらっていたから、私は肉焼き機持ってないの。 しばらくはお金をためながらクエストでギルドが支給してくれる携帯食料で我慢しようと思ってて……って、え、持ってきてない? もしかしてジュン君もこんがり肉持ってないの?」
「お恥ずかしいながら」
「……」
「……」
「まずいね……」
「まずいですね……」
漠然とした不安要素に二人はまずいとしか言えなかった。
クエストでスキルを発動させない限りほとんどのハンターが必要なアイテムの一つ、それは走る時や避ける時、ガードする時に消費してしまうスタミナを回復させるアイテム、要は食べ物だ。
クエスト中でも食欲は存在していて、たとえモンスターと戦っている時でもお腹は空いてしまう。 そして空腹をそのままにしていると走り疲れなどの隙の多い状態が起きやすくしてしまう。 そのためハンターは出来るだけ腹もちをキープしておかなければいけないのだが……。
「え、えーと、ジ、ジュン君は今なに持ってる!? 背中に背負っているアイテムって虫あみだよね!?」
不安になってきた空気を払拭するためにクラルはあえて明るく大きな声を出した。 現実から目を背けようとする。
ジュンもそれが分かっているのか自分もアイテムポーチを開く。その中に入っていた物は……。
素材玉が五個、回復薬が四個、回復薬グレートが二個、砥石が一個、小ビンに入れられた釣りミミズが九匹。 背中には先程指摘された虫あみが三つ背負われていた。
「……ジュン君、さっきのけむり玉といい、君はどんな狩りをしようとしていたの?」
「さあ、僕にもよく分からないです……」
本当は前にジュン達が住んでいた村にいた先輩のハンターから選別と称された余り物を調合した結果こうなった訳だが、今は弁解する気になれない。 それより重要なのは……。
「どうしましょうか……食料」
再び出された難題にクラルは答える事が出来なかった。
つづく