モンスターハンター 青熊好きのハンター 作:littlelock
偶然見つけたミツバチを見失わないように、ジュンとクラルは再び森の中を駆け抜けていた。
虫の追跡を始めてあれから五分程経過した。 辺りからは鳴き声が聞こえてくるが、幸いジャギィの群れには遭遇せず、邪魔がないおかげでミツバチを見失わずに済んでいる。
しかし、ミツバチを追いかける目的を理解しているジュンはともかく、何が何だか分からずただジュンに付いて行くために走っているクラルは、どうなるか分からないという精神的な苦痛も合わさって次第に息が荒くなっていく。
「……ハァッ、ハァッ、ねぇ、ジュン君? ……何で、こんな、状況でッ、ミツバチなんか追い、かけにゃ、ならんの?」
「もうすぐ分かります! 説明は後で! じゃないと見失っちゃいます!」
クラルの絞り出したような声で聞いてきた質問を、しかしジュンはお構いなしに蹴り飛ばす。
少し冷たい反応かもしれないが、それでもかろうじて肉眼で捕らえられている、絶賛移動中の小さなミツバチが最後の希望になるかもしれないと言うのに、理解しきれていない同僚に自分の思い描く突破口の構図を説明なんかしていてターゲットを見失ったら、自分の考えが失敗に終わるとまでは言わないが、その後が面倒になってしまう。
そのため、ジュンはミツバチを逃す訳にはいかなかった。
「……って、あれ?」
ミツバチを追いかけていたジュンが失速しながら止まる。
「ハァ、ハッ、なに、どしたの?」
少し遅れて息継ぎが途切れ途切れになっているクラルが追いついた。 手を膝につけ、顔を下に向けた状態でジュンに問いかける。
そんな彼女に向けてジュンは五分間走り続けたとは感じられない程のとびっきりの、女の子に見間違えてしまうような可愛らしい笑顔を浮かべ、質問に答えた。
「―――見失っちゃった、てへっ」
「てへっ」と同時に頭に手を乗せ、片目を瞑り、舌を出す。 もしかしたらジュンの周りで音符や星、ハートマークが飛んでいるかもしれない。
「……、…………、……、……………………、…………ハァアアアーッ!?」
呼吸が整うと共に顔を上げ、絶叫を響かせるクラル。 散々に邪険に扱われた分の思いも兼ねているのだろう。 それはまるで音爆弾のように甲高い叫び声。
「いやーあはははは。 ……いい運動になりましたねー」
叫び声の中にジュンへの批難も含まれているはずだが、等の本人はのんきな返事を返している。
クラルは焦り顔と怒り顔を両方混ぜ合わせたような顔色を浮かべ、ジュンの肩に手を置き激しくゆすりながら、矢継ぎ早しに言葉をぶつける。
「笑い事じゃないよ!! 何あの追跡にかけた時間と体力は!? あの意味ありげな質問の返しとかも何!? 完全に意味無くなっちゃったじゃん!!」
「意味はありました! 失敗しただけです!」
「屁理屈並べて開き直らないでよもー!!」
悪びれもしない相方にクラルは更に大声を上げ、肩を揺らす。 そんな彼女にジュンは肩を揺らされているのにつられぐらんぐらんと前後に揺らしながらも「まぁまぁ」と諭す。
「完全に意味が無くなった訳ではないので安心してください。 ここからはゆっくり探していきましょう」
「……今の状況分かってる? ゆっくりしてたら食い殺されるか遭難するよ私達」
あまりにものんびりとした態度にクラルは毒気を抜かれたように静かになる。 怒鳴り散らして疲れただけなのかもしれないが。
クラルが大人しくなったタイミングを見計らい、ジュンはこれからの段取りを説明する。
「それじゃあ、ここからは役割分担しましょう。 申し訳ないのですが、下側を見ながら進んでくれませんか?」
「下側? 下って地面の事?」
「イエス。 もっと言うと草むらとか木の根っことかから、採取が出来るポイントを探して欲しいです。 薬草とかキノコの群生を見つけたら教えてください。 必要になるので」
「? ん、わかった」
回復薬でも増やすのかなと自己完結してクラルは役割を了承した。
とりあえずやって欲しい事は伝わったと感じたジュンは、次に自分の役割を説明しようとする。
「それで僕は―――」
―――かさかさかさ―――
自分の役割を伝えようとした時、そんな音が聞こえてきた。 慌てて周りを見回すと、
「うわ、オルタロスだ」
そのクラルの呟きを聞き、クラルが向いている方向に目をやると、そこには少し大きめの虫が三匹、ジュン達を横切るようにのそのそと移動していた。
そいつらは、はさみのように開く大きな顎や、大きな腹袋が特徴的な甲虫種のモンスターだった。
その顎で噛み付いてきたりすることがあるが、それはまれで、手出ししない限り比較的大人しく、普段その顎は食べ物を口に入れるために使用され、食した物は腹袋に取り込み、巣に持ち帰る習性がある。
先程追いかけていたミツバチと同じように群れで活動していて、大規模な巣を作って生活しているモンスター。
甲虫種、オルタロス。
そんなオルタロス達は、おそらくジュン達の存在に気づいているはずだが脇目もくれず、というよりは気づいているからこそ関わらないようにと六本の足を動かしてジュン達から離れていく。
「とりあえず危害はなさそうだね……。 ほっとこ、ジュン君」
敵意が無いなら良しと、クラルは無視しようと話す。
しかしジュンはオルタロスのある部分に気づいていた。
それはオルタロスの腹袋の部分だった。 おそらく何かを詰め込んできたのであろう。 腹袋は大きく膨らんでいた。 そしてその腹袋は少しオレンジ色味がかっていた。
オルタロスは餌を腹袋に溜め込む時(餌を多く入れるために腹袋の皮膚を引き伸ばすため腹袋の皮膚が透けるから?)中の餌が透けて見える。 その透けている餌の色で何が入っているかある程度判断する事が出来る。
(オレンジ色の腹袋……オレンジって確か!!)
「それでジュン君、ジュン君は何を……ジュン君?」
クラルの質問を聞かず、ジュンは静かに歩みを始めた。
「ぬきあし、さしあし、しのびあし……」
わざわざお決まりの台詞を言いながら向かう先は、自分達から離れていくオルタロス達。
オルタロスとの距離が一メートル程になった時、ジュンはゆっくりと腰に下げられているハンターカリンガを抜き取り―――
「え、ちょ、ジュン君何やって―――」
「せい!!」
クラルが止めたにも構わず、後ろ側から躊躇なくオルタロス達を斬りつけた。
「「「ギュイッ!!」」」
いきなりの襲撃に痛みとも驚きともとれる鳴き声を上げたが、そんな彼らに容赦なく追撃が行われる。
「ハッ、セアッ!!」
その片手剣による攻撃の手数に、オルタロス達の身体はバラバラに砕け散り絶命してしまった。
「ふう」
「ちょっとジュン君、何やってるの!」
緊張が途切れたようにひたいを拭うジュンに、クラルが焦ったように駆け寄る。
「危害がないならほっといてあげようよ……意味がないし、ただ斬れ味が落ちていくだけだよ?」
「まあ確かに。 でも今の行動にも意味がありますよ? それに成果も」
そう言うとジュンはオルタロス達の残骸の中からある物を拾う。
「これですこれ!」
「……あれ? これって……」
それは黄色く所々穴が空いているアイテムだった。 ほとんどのハンターなら一度はお世話になる代物。
「ハチミツだ! じゃあさっきミツバチを追いかけていたのってこれを見つけるため?」
「逆にこれ以外にどんな理由があるんですか?」
「いや分かんないけど……「生肉が取れなくても、まだその手があった!」なんて言ってたから、もっと以外な何かがあるのかなって思って」
そんな話をしている間も、ジュンは他のオルタロス達が溜め込んでいたハチミツも拾い、アイテムポーチから取り出した空きビンに入れていく。
最終的に三つの空きビンにハチミツを収める事が出来た。
その様子を見ていて、ふとクラルは気がつく。
「……それ、どうするの?」
「調合に使います」
「……オルタロスから取り出した物だよねそれ。 ……まさか食べたり」
「こんな状況で芳香剤や化粧品に使ってどうするんですか?」
それを聞くやいなや、クラルはあっという間にジュンから距離を空ける。 顔色を青くしていて、顔をこわばらせている。
「いや、ちょっとさすがにそれは無理、食べたくない!」
「今の状況分かってます? 好き嫌いしていたら餓死してジャギィ達の餌に成りますよ~?」
「う~、自分の言った言葉が跳ね返ってきた……」
泣き言を言いながらも、クラルはジュンの所へ戻っていった。
「まあ流石にこいつらはクラルさんに食べさせませんよ。 これから綺麗な方も取りに行きましょう」
「綺麗ってオルタロス達が食べていないハチミツ? ……でもミツバチは見失っちゃったんだよね。 どうやって探すの?」
「確かに見失いました。 でも新たに見つけた物もありますよ。 下をご覧ください」
指で地面を指しながら見るように言うジュンにつられ、クラルも下を向く。
そこには小さな足跡が無数にあった。
「これ、オルタロスの!」
「そう! そしてこの足跡の先!」
ジュンが指を指す方向にはその足跡が続いていた。
「おそらくミツバチの巣が、ハチミツがあります!!」
つづく