星界の風章「祝宴」    作:いち領民

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星界の風章「祝宴」 第六章

アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・パリューニュ子爵・ラフィールは、彼女には珍しく、なかなか眠れなかった。

 

 

「落ちつかないな。そうだ。こういうときは、酒精を飲むと、眠りやすくなるとサムソン監督が言っていたな。もっとも、あのものは、いつでも飲んでいたが、たまには、部下だった男の言葉を聞くのもよいであろ。」

布団に潜りながらラフィールは独り言を言った。

 

 

一人で、ブドウ酒を制御卓で操作して、ラフィールは、硝子杯に入れて、少しずつ飲み始めた。

 

 

「私は、あのとき、言えなかったのだろうか?一緒にいたいと。そして…。ジントの方も私の気持ちに気づいてもいいであろうに。…あれ?どうして、ジントと一緒にいたいのだ。あのものがかけがえの無い友だから?いや…違う。それ以上の存在だ。あのものは、私の中で1番失いたくない。」

ラフィールは、グラスに入った酒精をじっと見ながら物思いにふけていた。

 

 

そして、薄暗い灯りの中でふと、一輪の薔薇をくわえているレズワンの絵画を眺めた。

 

 

「まったく、元男爵もこのようなあからさまな絵画をここに飾ったものだ。レズワンはジントを表し、この薔薇は私を意味しているのであろ。ということは…。」再び、その意図を理解して、顔を真っ赤にするラフィール

 

 

その絵を見て、落ちつかないので、ラフィールは、部屋の他のところを眺めた。すると、30ダージュほどの大きさの猫のぬいぐるみがあった。

 

 

「これは、私の誕生日にジントから初めてもらった物に似ているな。…あれは、今でもクリューヴ王宮の私の部屋に置いてあるが、こっちのは、それとは、ちょっと、色と形が違う…よく見ると、セルクルカと同じ模様をしている。私の部屋にあるのはディアーホに似ているものだけどな」

 

そういって、ラフィールはそっと、その猫のぬいぐるみを抱きしめた。

それを抱きしめながら、ラフィールは柔らかい微笑を浮かべた

 

「まったく、ジントが私の誕生日で猫のぬいぐるみを贈り物にするとは、思わなかった。でも、子供のとき以来だったからちょっと、新鮮だったな。そのときの言い訳が、ジントが生まれ育った所の流儀では、乙女にこういう贈り物をすると喜ぶといっていたけど、それを私にするとは、驚いたな。」

 

ラフィールは、ぬいぐるみを抱きしめながら、ジントのそのときの情景を思い出していた。

 

 

 

 

「ラフィール、君は今、戦陣くらしだから、僕は誕生日にお祝いにいけない。だから、せめてプレゼントだけ贈るよ。一応、僕なりに考えたものだけど、気に入ってくれたら嬉しいな…。でも、開ける前に言い訳だけ言っておくよ。そのプレゼントは、僕が暮らしていたデルクトゥーでは、女の子…乙女に贈るプレゼントは、一般的なものなんだ。それじゃぁ、17歳の誕生日おめでとう。これからもよろしく頼むよ」

 

軍艦の翔士個室で、その記録映像とリボンに包まれ箱を見つめてラフィールは、嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

「たく、相変わらずだな。ジント、それにしても何を送ってきたのやら……これは、猫のぬいぐるみ…ばか!私はもう、子供ではないぞ。」

猫のぬいぐるみを見て一瞬驚きと怒りを見せるラフィール

 

 

しかし、ラフィールは、ジントの記録映像をもう一度、見なおして、考えを改めた。

 

「そうか、ジントの育ったところでは、これが流儀なのか。ならしょうがないな。でも、これは、ディアーホに似ているな。あのものなりに、考えたということはこういうことか。まぁ、私の贈り物にこのような物が贈られてもよいであろ。今度王宮に帰ったときに私の部屋に置いておこう」

 

 

ジントが贈った猫のぬいぐるみは、ラフィールの部屋のベッドの側にいつも置かれていて、ときどき、ラフィールが愚痴や悩みを抱えているとき、それに向かって独り言を語りかけるのは、彼女の知られたくない秘密の一つであった。

最も、そのほとんどが、ジントに関することであることは、いうまでもなかった。

 

 

ラフィールは、そのぬいぐるみを見つめて、語りかけた。

 

 

「そなたには、悩みが無いのか。とはいっても、ぬいぐるみに言ってもしかたないか。私はジントがこの部屋に誘ったとき、期待していたのだな。そのときを考えると今も胸が高鳴り、鼓動が速くなる。やはり、私はジントの恋しているのだな。今ならはっきり、わかる。自分の気持ちが」

そういって、ぬいぐるみを見つめながら顔をラフィールは赤らめた。

 

 

ラフィールは、自分の気持ちを自覚したとき、喜びが心の中からあふれていた。しかし、それと同時に不安もあった。ジントが想人として、自分を見てくれるかどうかということだった。確かに自分のことは、ジントは好意をもっていることは、わかる。でも、それが大事な友人に対するものなのか?それとも、想人に対してなのか、これまでの彼の行動からは判断できなかった。

そして、ラフィールには、それを確かめようとする勇気もなかった。アブリアルらしからぬと周りから判断されようが彼女はこの手の方面に対しては無知であり、臆病だった。

 

 

「こんなとき、プラキア卿がいてくれたら、私の悩みを相談できたかもしれぬ。父上では、はっきりいって、不安だし、からかわれては、怒りがますばかりだからな。」

そういって、再びラフィールは猫のぬいぐるみを抱きしめた。

 

 

 

ラフィールが悶々と悩んでいると、そこへクリューノに通信が入ってきた。

 

 

「誰であろ?こんな時間に……陛下。ラマージュ陛下からだ。でも、どうして?」

突然、自分のクリューノに秘匿通信でラマージュから来て、ラフィールは驚いた。

 

 

「王女よ。このような深夜にすまぬな。やっと、連絡をとれる時間があいたのだ。眠りを妨げたとしたらわびをいれよう。」穏やかな声で話すラマージュ

 

 

「いえ、陛下。そんなことはありません。私もちょうど眠れなかったところです。でも、どうして?このようなときに?私に何ご用があるのですか?」

いつもの冷静さを一瞬で取り戻し、聞くラフィール

 

 

「そなたが悩んでいることはわかっていたからな。個人的に手助けしたいと思った。たまには、祖母の意見も聞くのもよいであろ。本当はその役目はドゥビュースがいいと思うのだが、そなたは、息子が苦手みたいだからな。相談しにくいのであろ」穏やかな笑みをするラマージュ

 

 

 

「陛下。いえ…お祖母様、ありがとうございます。ですが、私の個人的問題をお祖母様に煩わせるわけにいかないと思います。」毅然とした態度で断るラフィール

 

 

「そうか、そなたは、その問題を解決する自信はあると見えるな。なら、アブリアルらしく、即断で解決するがよい」

 

 

「え…。それは…」

ラフィールは、彼女にしては珍しく口篭もった。

 

 

「やはりな。強がっていても、そなたの心は手に取るようにわかる。難しいのであろ。恋愛の問題は、初めてなのであろ、そのような気持ちと経験は。私も最初は、とまどった。まるで、自分の心と体ではないような状態になるからな。」とすべてを見透かしたような笑みをするラマージュ

 

 

 

「陛下にはかないません。そうです。ハイド伯爵…ジントのことです。私は今、彼に恋しているというのがようやく自覚できたみたいです。でも、その気持ちを伝えるのが怖いのです。もし、断られたということを考えてしまうと、不安で胸がしめつけられるのです。」

ラフィールは、ラマージュの好意を受けて、悩みを告白した。

 

 

 

「そうか、わかった。そなたのハイド伯に対する気持ちをもう少し教えるがよい。」

柔らかな笑みでラマージュは言った。

 

 

そして、ラフィールは、ジントのこれまでの二人で起きた様々な苦境や楽しい思い出、そして、そのときにいつも側に彼がいることで安心できていたということを話した。

 

 

「陛下。私は皇帝への道、つまり、翡翠の玉座を目指すために軍務に精進しなくてはならないのに、このような恋のことで悩んでいてはやはり、ダメなのでしょうか?アブリアルとしては、失格なのでしょうか?」

ジントのことだけではなく、もう一つの悩みを言うラフィール

 

 

「それに関しては、問題ない。事実、私も翔士時代では恋もしたぞ。それに、皇帝たる器量を持つには、恋の戦いでも出世競争でも勝つくらいの必要だと私は思う。」安心させる風に言うラマージュ

 

 

「そうですか、陛下、ありがとうございます。でも、恋の戦いというのは?どういう意味なのですか?」ふと疑問に思うラフィール

 

 

「ハイド伯に恋しているのは、そなただけではなく、ダリシュの妹もしていると聞いたぞ。それに、他にもいるというのが彼の情報から伝わっている。」と楽しそうな笑みをするラマージュ

 

 

「それは、確かに、そうですね。ジントは鈍いと思ったのに、私以外で彼を慕うものなど、いないと思ったのに。」唇をかみ締めて、眉を危険な角度にして不満そうに言うラフィール

 

 

 

「なら、戦いだな。そのもの達におくれをとるなど、許さぬ。アブリアルであれば、どんな戦いでも勝利せねばなるまい。ましてや、ハイド伯は、ラフィールにとって大事なものであろ」アブリアルの王としての厳しい表情をするラマージュ

 

 

「はい、そうです。わかりました。陛下のおかげで、迷いがなくなりました。ありがとうございます。」素直に感謝するラフィール

 

 

 

「そうか、そなたもクリューヴ王家の家風の迷ったときは、前に進めを実行するがよい。それと、これは、私の助言だが告白するときの方法だ。」

そういって、通信の向こうでクリューノを操作してデータをラフィールに送った。

 

 

 

「陛下、そこまで…ありがとうございます。参考にさせていただきます。」

 

 

「では、ラフィール。そなたの恋の戦いを応援しておく。」

 

そういって、ラマージュの通信は切れた。

 

 

「ふー、陛下のおかげで、迷いが消えたら、なんだか、眠くなったな。このデータは明日、起きたら見よう。さて、遅くなったけど、寝るか」

 

ラフィールは、寝台に入り、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

ラマージュの寝室

 

 

「ダリシュ、そなたの頼んだとおり、ラフィールに、助言をしたぞ。それにしても、皇帝である私をこんな役目を与えるとは、そなたくらいだな。いくら親友のためとはいえな。」クリューノでダリシュに話しかけるラマージュ

 

 

「そうか、ラマージュにとっては不満かい?孫の恋愛を手助けするという役目は、確かに皇帝の義務からすると神聖さから程遠いからな。なら、ニ度と頼まないよ。」悪戯っ子の笑みをするダリシュ

 

 

「別に不満ではない。いや、むしろ、こういう役目もラマージュ個人としてのものだ。皇帝の役目以外もたまにはやるのもよいであろ。それに、そなたが、ラマージュとして、頼んだ。これは、嬉しいことだ。」少し困った顔をするラマージュ

 

 

「ありがとう。その役目を気に入ってくれて助かるよ。さてと、僕はもう少し、ここでやらなければいけないことがあるから、帝宮にはまだ、行けないよ。」優しく微笑むダリシュ

 

 

「そうか、残念だ。まぁ、しばらくは、皇帝の義務に戻る。ダリシュと一緒にいるときが、ラマージュとして戻ることができる幸せな時間なのにな。」少しすねた表情をするラマージュ

 

 

「わかったよ。ラマージュ。君を愛しているから、ほうっておくことはしないよ。ただ、親友の力に今はなりたいだけだから、待っていてくれよ。」

 

 

「わかった。私もそなたを愛している。では、また。(家風とはいえ、想人である私より親友のハイド伯があんなに想われているのが羨ましい。嫉妬を感じてしまう。)」

ラマージュは、ジントに対して軽い嫉妬をしていた。

 

 

再び、ハイド伯爵帝都城館

 

 

一方、リン・スーニュ=ロク・ハイド伯爵・ジントは、スルーフの話を熱心に聞いていた。

そして、彼の話を聞いて、アーヴと地上人の恋愛が特殊なものではなく、普通にありえることだということも実感した。

 

 

 

「まぁ、最後にわしから言えるのは、自分の気持ちと自分に誇りを持つことじゃ。お前さんは、王女殿下を誰よりも大切なんじゃろ。その気持ちを素直に伝えればいいだけの話じゃて。」貫禄のある雰囲気で話すスルーフ

 

 

 

「はい、閣下。ありがとうございます。なんだか、安心できました。僕もやっと、自分の気持ちをラフィールに伝える決心ができました。」

 

 

 

「少年、それはよかった。この老人が伯爵閣下と王女殿下の恋の役に立てるとは光栄じゃ。ところで、これは、大きな声で言えぬ話じゃが、アーヴの秘密を一つ教えておこう。耳を貸してくれ」楽しそうに微笑むスルーフ

 

 

「はい、わかりました。」

 

ジントは、片方の耳をスルーフの口元へ向けた。

 

 

「…なんですって、アーヴ女性にはその…ないと。処女膜が」思わず顔を赤くして大声を出すジント

 

 

「少年。しーじゃ。大声を出すのじゃない。」口に人差し指を当てるスルーフ

 

 

「でも、どうしてなのですか?」興味を持つジント

 

 

「あくまでも、基本的にじゃ。まぁ、家風や家徴によっては、あるかもしれないが、コセールと初めて、契りをかわしたとき、彼女も初めてと聞いたのに、そのしるしがなかったので、聞いてみたら、最初は不思議そうにわしを見た。何それ?という感じで。それで、恥ずかしながら説明したのじゃ。」当時を思い出して、年甲斐も無く顔を赤くするスルーフ

 

 

 

「それで、彼女、コセールさんは何て言ったのですか?」興味がますます沸くジント

 

 

「そんなものないって。彼女が言うには、初めての契りのときに女だけが痛いなんていう不条理をアーヴ女性が許すはずないって。確かに男女平等で遺伝子をいじるアーヴにとっては、処女膜は無用のものじゃなと思った。痛いだけの器官など、必要ないと。まぁ、人間以外では、処女膜があるのは、モグラくらいだから、それも納得する意見じゃろ。」

 

 

 

「はぁ、わかりました。でも、どうして、その話を今、僕にしたのですか?」相変わらずの乾燥植物なみの洞察力のジント

 

 

「もちろん、お前さんが、王女殿下の相手をする時にがっかりしたり、失礼な質問を殿下にしないための予防措置じゃ。老人の気遣いは大切にするべきじゃ」と諭すように言うスルーフ

 

 

「ありがとうございます。………え、ラフィールと僕がその…そういう関係になるということですか?」老人の意図をやっと理解するジント

 

 

「当然じゃ。想人になれば、ごく自然のことだと思うのじゃが、お前さん、もしかして、その機能に致命的欠陥があるのか?」わざとらしく聞くスルーフ

 

 

「閣下、欠陥なんてありません。ただ、突然言われたので、驚いているだけです。」苦笑しながら頬をかくジント

 

 

「そうか、なら、その覚悟も決めておいたほうが言いと思う。王女殿下から要求されて、断ったらかなり無礼な話になるからじゃろ。おっと、これは不敬罪にあたる発言じゃな。とにかく、わしから話すのは、これくらいじゃ。さてと、言うべきことはいったし、そろそろ帰る。お前さんも明日に向けて寝なきゃいけないじゃろうて。」帰り支度をするスルーフ

 

 

「はい、ありがとうございました。また、今度、色々相談します。」手を差し出して再び握手を求めるジント

 

 

「では、また、今度。」スルーフもジントとがっちりと握手をして、その部屋を去っていった。

 

 

 

こうして、ジントとラフィールはそれぞれの気持ちで内輪の祝宴の朝を迎えた。互いに自分の気持ちを伝える決意のもとに気分をあらたにしたのであった。

 

 

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