草が除かれただけの、『道』とギリギリ呼べる道を歩いていると、明らかにこれまでと異なった色が目に入りました。
一面の緑です。
目に眩しいくらいの青々とした草原。その上に色鮮やかな花畑が点在しています。
奥の方には川が流れており、なんだか絵に描いたような行楽地。
とてもモンスターを倒しに向かう場所だとは思えませんでした。
無論、青くてぷにぷにしたあいつの姿も見えるのですが、それを含めても美しい場所です。
ここが『西方の平原』ですか。村から数日かかる距離ですが、他と比べたらかなり近い採取地です。生息しているモンスターもあのぷにだけで、比較的安全らしいです。
ランクで言えば、冒険者免許を持っていない人間でも立ち入ることができるんだとか。
「着いたわね。あたしはここで待ってるから、頑張ってきなさい」
青ぷにの居場所を教えてくれ、ここまで案内してくれたメルヴィアさん。
彼女は入り口近くにある木の高台に座ると、そんなことを言いました。
武器であるばかでかい斧を置き、私へ笑いかけます。
「あの、戦ってくれないんですか?」
「あたしが戦ったら一撃よ? それでもいいならやるけど」
説得力のある言葉でした。
現に彼女は、歩いている途中で遭遇したぷにの集団を一撃で薙ぎ払ってましたし。
出発前に斧を持ってきた時点で理解できましたが、メルヴィアさんはかなりの怪力みたいです。身長くらいはある重そうな斧を軽々振り回し、持ったまま走ったりしても顔色を少しも変えません。
あんな細い身体のどこから力が……とも思いますが、愚問ですかね。
「危なくなったら助けてあげるから。ファイトファイト」
「うう……分かりました。すぐ来てくださいね」
ここまで来て自分が何もしないのは情けない。経験値もほしい。成長したい。
そんな小さなプライド、経験値取得のために私は一人で戦うことを決めます。
はぁ。ゲームなら仲間が全部倒しても経験値が入るんですけどねぇ。現実は世知辛いです。
「確か四匹でしたね」
暢気な笑顔で手を振るメルヴィアさんに見送られ、高台を降りる。
周囲を見回せば、数多くの青ぷにが、何を考えているか分からないポーカーフェイスで平原を跳ねまわっています。
ここは一匹一匹相手にする作戦でいきますか。多対一で痛い目見ましたし。
考え、私は歩き出しました。
戦うポジションは高台の前辺りにしましょう。メルヴィアさんの目につきやすい場所ですし。
「――よし」
無事到着。近くには青ぷにが一匹。絶好のシチュエーションです。
私は果敢にも駆け出します。武器を手に入れた今、こんな雑魚に手間取る私ではないのです。
背中を向けている青ぷにへ近づき、杖の先端を勢いよく突き出す。
豆腐を箸で刺したような、軽い手応え。走っていた勢いもあり、攻撃は容易くぷにぷにボディを貫きました。しかし、まだ生きている。動こうとする気配を感じます。
攻撃する隙は与えません。
私は杖を担ぐ様に持ち替え、ぷに背中を向けます。
杖は釣竿。ぷには餌。今私の体勢は、まさに針を水へ入れようとする釣り人です。
あとは投げるだけ。杖を持ち上げ――思い切り振り下ろす。
杖に刺さっていたぷには、派手に地面へ叩きつけられました。
……我ながらバイオレンスな攻撃です。悪役がやりそう。
なにか大切なものを犠牲にした気がしますが、一匹倒せたのでよしとしましょう。
「中々やるわね、リーア。錬金術士より、本格的な冒険者目指したら?」
高台のメルヴィアさんが楽しそうに言いました。パイらしきもの片手に、完全な観戦です。暢気なものです。
「お世辞はいいですよ――っと、素材素材」
モンスターを倒すと素材を落とすことがある。
行きでメルヴィアさんに教えて貰ったことですが、本当でしょうか。
あおぷにだったブルーな液体をよく見てみます。するとすっかり液状となったものの中に、カラフルな色をした玉を見つけました。
触ってみると、ぷにぷにしていて良い感触をしています。こころなしか動いているような気も。
これは何かに使える筈。とりあえずポーチへ投入。
液体は使えなそうなので放置しておきます。
「リーアー。集中してると危ないわよー」
メルヴィアさんの声が聞こえました。
なんでしょう。台詞の割に危機感は感じませんが。
のんびり顔を上げると、
「あ、あれぇ!?」
ぷにさん達が私の周りに集結していました。
再来する一日前の出来事。あの時と比べて、今回は青しかいないので幾分か楽なはずなのですが。
なんでしょうね。目が笑っていない口だけの笑顔が、ものすごく怖いと感じます。
「メルヴィアさん! ヘルプミーです!」
「えー。まだ危なくないでしょ。大丈夫よ。三年目のトトリよりいい動きしてたし」
「そんな殺生な!」
お言葉は嬉しいのに、まったく喜べない!
とかなんとか言っている間に、ぷに達は私へ襲いかかってきます。
多対一なのに遠慮なく波状攻撃をしかけるぷに達。一撃二撃はなんとか杖でしのぐものの、このままではダメージは必至。私は素早く視線を巡らせ、通れそうな隙間を探します。
――ありました。私の斜め右、ぷにがいない手薄な場所が。
三撃目を払うと同時に、そこへ疾走。すれ違いざまに左右にいたぷにへ攻撃を加えます。
偶々当たり所がよかったのか、それだけで二匹のぷにがやられました。
残りは――四匹。
残りの数を把握し、再び走る。間抜けに跳ねていたぷにの背後をとり、杖で叩き上げます。
大きく飛んだぷに。それを叩き落とし、他のぷにへぶつける。べちゃっと音を立てて崩壊。今の攻撃で二匹がダウンしました。
よし。あと少し。
成長を確信する私。しかしそれを否定するように脇腹へ衝撃が奔りました。
「あいたっ!?」
ついに喰らってしまいました。
咳き込むように息を吐きだし、私は攻撃された事実を認識します。
脇腹へ不意を突く攻撃。倒れこそしませんが、ダメージは大きいです。
だけど、これは想定内。一回も被弾せずに勝てるなんて甘い考えは、平原に行く前から捨てています。
私は痛みに片目を閉じつつ、視界の端に浮かぶ青色の球体を手で殴り飛ばしました。
私に体当たりをかまし、跳ねかえっていたであろう青ぷに。無防備な攻撃後を突かれ、彼は地面を転がっていきました。
まだ生きています。私はとどめを刺すべく、もう一体に構わず大きく足を踏み出します。
このタイミングなら――間に合う。
弾丸の如く鋭く、真っ直ぐに。私の放った刺突は、転がるぷにを見事に貫きました。
あと一匹。杖を抜き、融けるようにして絶命したぷにを確認。それから残りのぷにを探します。
――と、その時。微かな草の音が聞こえました。
無意識の内に私は音のした方向へ向き直り、空いている手を前に出しました。
「ぷにっ!」
そこへぴったりぷにが体当たりを仕掛けてきます。
ダメージはなし。驚くような声を上げるぷにへ笑いかけ、私は容赦なく杖を突き刺しました。
口からその裏側まで貫通。青い液体を流し、ぷにはほどなくして形を崩します。
これで全滅。私を襲っていたぷには、全て葬り去りました。
「……なんか違う」
しかし私の中に残ったのは、多大な違和感のみ。
原因は分かっていました。
弱い者虐め。残酷な仕留め方。
――そう。主人公らしくも、錬金術士らしくもないのです。
「悪役チック……」
雑魚モンスター虐殺なんてゲームで何度もやっていることなのに、視点が変わるだけでこうも空しいものなのですね。
遠い目をしながら、敵の残骸を漁ります。
虐殺後の死体漁り。
私は……なんなのですかね。
○
まぁそんなことはすぐ忘れてしまう私なのでした。
「メルヴィアさん。生き残りましたよ、私」
素材を採取すること数分。ぷにぷにした玉を手に入れた私は、彼女のいる高台へ戻ります。
「お疲れ様。思ったより強いじゃない。これからアイテムも使うようになるなら、もっと戦えるようになるわね」
「そうなんですかね。自分では実感がわきませんけど」
苦笑します。初めてのまともな戦闘で、あれくらい戦えれば上出来なのでしょうか。よく分かりません。
メルヴィアさんは斧を支えにして立ち上がり、欠伸をもらします。
「さて。じゃあ採取もしていく? 錬金術の初心者なら、ここの素材とかちょうどいいんじゃない? あまり知らないけど」
「そうですね。採取の方法も試したいですし、何かないか探しましょう」
今まで本で見てきただけですしね。採取がどんな感じかも知っておくべきです。
二人並んで平原に降り、採取できそうなものを探します。
確か本には草むらだとか、花とか、何かありそうな場所を調べるといい、みたいなことが書いてありましたね。
「あそことかいいかな」
ちょうど小さな花畑を見つけました。あそこなら何かあるかも。
近づいて調べてみます。メルヴィアさんはその間守ってくれるようで、斧に手をかけつつ私の周囲を警戒していました。表情は真面目で、彼女がそこにいるというだけで多大な安心感を得られます。
「……そういえば」
採取している間無言なのも嫌なので、気になっていることを尋ねることにしました。
チラッとメルヴィアさんを見て、
「トトリさんは何かすごいことをしたそうですね。錬金術関係ですか?」
「そうねぇ。錬金術もすごいけど、あの子村を一つ救ったのよ」
メルヴィアさんは視線を私に向けずに答えました。
村を救う……ツェツィさんが言っていた『すごいこと』は本当にすごいことでしたか。
驚きながら、てんとう虫のような虫をポーチに入れる。
とてもそんなことをした人物には見えませんでしたが、多分かなり強いんでしょうね。
あ、でも戦ったとは限りませんよね。単に錬金術で村の状況を好転させたとか。ありがちなところでいくと――
「どうやって村を救ったんです? 錬金術で病を治したとかですか?」
メルヴィアさんが首を横に振ります。
「塔に封印されていた悪魔を倒したのよ」
思ったよりもすごいことしてそうですよ。
倒して、村を救ったと言われるレベルの悪魔。どれだけ強いんですかね。
そしてそれを倒してしまうトトリさんの強さも気になります。錬金術士って、そんな強いのかな。
ロロナさんとかトトリさんはそんな感じ全然しないのに。
アストリッドさんは得体の知れない怖さがありましたけど。
「あの、もっとトトリさんのこと聞かせてくれませんか? 後輩として、トトリさんに興味があるんです」
「ん、いいわよ。採取には時間かかるだろうし」
それから、メルヴィアさんは私に沢山お話をしてくれました。
トトリさんが冒険者になる前、なってから、海を渡るとき、そして塔の悪魔を倒したこと。トトリさんは様々な困難に直面し、それを乗り越えてきたそうです。
けれどメルヴィアさんは、彼女がどうしてそのような道を歩んできたのか――その理由を語りませんでした。
それがとても不自然であったのですが、追求しようとは思いません。
一般人だったトトリさんが、危険な旅をしてきた。その理由はきっと、軽々しく口にしていいようなものではないのでしょう。
話を聞いて疑問は残りましたが、多くのことが分かりました。
今なら、トトリさんが大人っぽく見えた理由も分かるかもしれません。
○
採取を終えたときには、二日ほど日が進んでいました。
草やら虫やら、どれが素材か判断したり、特性を見極めたり、品質を計算したりと色々やっているとあっという間に日が過ぎてしまうから不思議です。もっと早く済みそうなものですが。
「よーし。これで粗方採りつくしましたね」
それはともかく。探っていない採取ポイントはもう無くなりました。平原で採れるものはもうないでしょう。
ちょっと重くなったポーチを軽く叩き、私は隣のメルヴィアさんを見ます。
「やっと終わった。錬金術士の採取は相変わらず長いわね」
何日も野宿したからか、元気な彼女も若干うんざり気味です。
それでも、私よりはるかに元気そう。私はもうへとへとです。体力はあるのですが、力が出ないというか。精神的疲労でしょうか。
「じゃあ帰りましょ。トトリ達、今頃更新してのんびりしてるのかなー」
「メルヴィアさんにも報告したくて、うずうずしてると思いますよ。――あ」
一歩踏み出し、私はふと閃きました。
そういえば私、便利アイテムを持っているんでした。一瞬でアトリエに戻れるゲートを。
「どうしたの? なにか忘れ物でもした?」
「いえ、私便利なゲートを持っているのを思い出しまして」
ポーチを漁りながら答えます。
トラベルゲートを使って、アトリエに戻ってからアランヤ村。このルートならば一日もかかりません。我ながらナイスアイデア。
確かここらへんに入れて……あ。ありました。
「トラベルゲートー」
一見折りたたまれた布ですが、これを広げて乗ればあら不思議。あっという間にアトリエかアーランドの街に――
「あれ?」
ゲートを広げた私は硬直しました。
光っていない。それどころか、あの変な模様が書かれていません。
当然地面に敷いて踏んでも効果なし。
頼れるアイテムは、ただの布になっていました。
「おかしいです……。なんで何も反応しないんですか」
「爆発はよく見たけど、このタイプの失敗は新鮮ね」
私も新鮮ですとも。
うう……まさかアーランドの街に行ったときのズレらしきものは、この前兆? 壊れかけていたんですか?
有り得る。むしろ偶然壊れたのではなく、計算された上で壊れ――否、効果が切れたのだと考えても自然です。
「すみません。歩いて帰るようですね」
いずれにせよ、ゲートは使えません。布を回収し元通り縛ってポーチへ。
メルヴィアさんは気にしていないと微笑みました。
「それが当たり前だし、謝ることじゃないわ。のんびり行きましょ」
そうですね。
ま、自分の力でゲートを作るという目的が増えたと思いましょう。
ついでに、アストリッドさんを糾弾できる理由も増えましたし。
今回は収穫も多くありました。帰り道くらいはゆっくりしていいでしょう。
私達は笑い合い、ゆっくりと歩き出しました。
村で起こっていることも知らずに。
○
帰ってまいりました、アランヤ村です。
慣れ親しんだ爽やかな潮の香りが、私達を出迎えます。
草原の爽やかな空気もいいですが、やはり母なる海ですね。
「よいしょ。どうだった? 初めての冒険は」
入り口から進み、広場のベンチに座る。
水を汲んで一息つくと、メルヴィアさんはいかにも先輩っぽい問いを投げかけてきました。
普段なら煩わしく思うタイプの質問です。けれど不思議とそんな気分にはなりませんでした。何日か一緒に生活していたからでしょうか。
「大変でしたけど、楽しかったです。メルヴィアさんのお陰ですね」
キリッとした顔で告げます。疲れていてもポイントを稼げる場所は見逃しません。
「ふふ、そう。それなら良かったわ」
メルヴィアさんは安心したように息を吐き、村の入り口の方へ視線を向けました。
そしてぼそっと呟きます。
「……あいつがいないわね。馬車を出すなんて一言も言ってなかったのに、何かあったのかしら」
「あいつ?」
「あ、気にしなくていいわよ。どうせ大したことじゃないと思うし」
けろりとした顔で、本当に大したことなさそうに言うメルヴィアさん。
馬車……そういえば、出発前に村の入り口で馬車を見た気がしますね。その近くに男の人がいたような気も。
その方がいないのを気にするとはこれはまさか――
「あうっ!?」
私が妄想を膨らませようとしたまさにその時、村に爆音が響きました。
雷のように低く大きな音で、音と同時に地面が微かに揺れた気がします。
突然のことに身体が飛び跳ねる。間抜けな声を上げ、私はベンチからずり落ちそうになりました。
「な、なななんですか!? 敵襲ですか!?」
もしやモンスターが!? いやでも何日か前はあんなに平和だったのに。
「高台の方ね。行くわよ」
軽くパニックを起こす私に対し、メルヴィアさんは全く怯んでいません。
斧を持って勇敢に高台へ走っていきます。
いや、行くわよと言われても。
私、役に立てますかね。瞬殺される未来しか見えないんですけど。
ああ、でも一人でいる方が危険かもしれないし……。
「お、置いてかないでください!」
色々考えた後、結局私は彼女を追うことにしました。
主人公的にもトラブルは放っておけますまい。
――なにもないといいんですけどねぇ。
○
しかし私の期待は、意外な形で裏切られるのでした。
火のないところに煙は立たないとはよく言ったもので。
私達が高台に上がると、まず倒れている人達に目が行きました。トトリさん、ジーノさん、それと見知らぬ女の子。三人が武器を手に倒れています。
そしてその前には……
「あれ? 加減間違えたかな」
あの方です。ワンピースの形をした服の上から赤いマントを羽織り、長い髪を後ろで括っている――名前なんでしたっけ? そういえば一度も聞いてませんでしたね。
ま、まぁともかく、ファルシオンを腰に提げた冒険者風の女性がそこにいたのです。
「な、なんであなたがここに!?」
私は驚きました。
つい一ヶ月ほど前。怪我が完治し、無人島から意気揚々と帰っていった筈の女性。
その女性が、何故アランヤ村に?
そして構図的にあの方が三人を叩きのめしたようにしか見えないんですけど、どうなんでしょうか?
驚愕から言葉も出ない私。隣にいるメルヴィアさんも、口を開いたままで固まっています。
そんな私達にやっと気づいたのか、女性は視線をこちらに向けてひらっと手を挙げました。
「あ、メルヴィア。それにリーアも。やっと帰ってきたね。何日もどこ行ってたんだい?」
「え――あ……ギゼラさんがそれを言うの!?」
知り合いだったみたいです。メルヴィアさんが物凄い大声でつっこみましたよ。
「あはは、普通逆か。けどまぁ、おかえり。久しぶりだね」
「は、はぁ……ただいま?」
混乱してますね。頭の上に?マークが浮かびそうな顔をしながら、返事だけは返しています。
この場に彼女と話せる人間は私くらいしかいないようです。
深呼吸。しっかり落ち着くと、私は口を開きました。
「あの、あなたはこの村の住人で?」
「うん、アランヤ村はあたしの故郷。言ってなかったかい?」
さも当たり前のような顔をして言います。この人は相変わらずですね。
「一言も言ってませんでしたよ。田舎だとは聞いてましたけど」
旦那がーとか、子供がーとか、そんな自慢や武勇伝を語っているばかりで、具体的な名前はまったく出てきませんでしたからね、この人の話は。
「で、最近帰ってきて……何故このような惨状に?」
「惨状? ――ああ。話をしてる内に戦ってみたいってなってね。実際にやってみたんだけど」
なるほど。大体事情は分かりました。
色々聞きたいことはありますが、ギゼラさんは敵ではないようですし、まずはトトリさん達の無事を確かめなくては。
「それでどうやったらこうなるんですかね。メルヴィアさん、ひとまず三人を」
「え、ええ。そうね」
声をかけると、メルヴィアさんはすぐ我に帰りました。流石は冒険者。不測の事態にも強いです。
ギゼラさんにトトリさんを診るよう言い聞かせ、私は見知らぬ少女に声をかけます。
「大丈夫ですか?」
倒れている少女は黒い髪をサイドテールにした、トトリさんより少し大きな子でした。大きめのマントと、身長に合わない長さの槍が特徴的です。
怪我はありません。声をかけて数秒の後、軽く肩を揺さぶります。
「……う」
反応がありました。少女はゆっくり目を開くと、飛び上がります。
「はっ!? な、なにがあったの!?」
武器を手にキョロキョロ。少女達はわけも分からず撃沈したようですね。状況を理解していません。
「ギゼラさんにボロ負けしたようです」
「あ……トトリ! 大丈夫!?」
私が言うや否や少女はトトリさんの方へ走っていきました。
健康そうです。ホッとしつつも、若干の寂しさは否めません。お礼とか欲しかったなぁ、なんて。
「うん、大丈夫だよミミちゃん。ジーノくんも怪我はない?」
「ああ。身体が痛むけどな……。ありがとう、メル姉」
二人も既に起きていました。
加減を間違えた云々言っていたので不安でしたが、皆さん無事みたいです。
「流石っ。いやー、強くなったねトトリ。全員ピンピンしてるじゃないか」
「いや、割とダメージがすごいんだけど……」
元気よく笑うギゼラさんに、トトリさんが苦笑して返します。
怪我はありません。しかし三人とも目に見えてぐったりしていて、戦闘不能一歩手前な感じ。確かにダメージが見て知れました。
「私達が手も足も出ないなんて、名に恥じない実力だったわ……」
「あーっ。まだ一流じゃないんだな、オレ。当たり前だけどさ」
というか肉体的ではなく、精神的なダメージが大きいのかも。ボロ負けしたみたいですし。
「とりあえず無事そうで安心したわ」
メルヴィアさんが嘆息混じりに言います。
その表情に安心が見えないのは、きっと事情を理解できない混乱があるからでしょう。
私達は出掛けていたわけですし、一ヶ月前まで面識のあった私と比べて、メルヴィアさんは十年ぶりに近い再会の筈。
対応できなくて当然です。
ここは説明要求といきますか。
「それで。何がどうなってこんな状況になっているんですか?」
○
説明終了。
なんと冒険者免許を更新した日、お祝いの準備をしているときにギゼラさんがフラッと帰還したそうです。
で、村は大騒ぎ。呑んだり食ったりして帰還をみんなで喜んだ、と。
そしてその騒ぎも治まってきた本日。ミミさんがどうしても力を知りたいということで、攻撃アイテムを制限して戦いを始めたそうな。
それから、ぼっこぼこにされたところへ私達が戻った――という話でした。
「じゃあ本当にギゼラさんなの?」
説明を終え、メルヴィアさんは信じられないといった面持ちでギゼラさんを見ます。
事情は分かりませんが、八年ぶりですからね。死んだと思われても仕方ないでしょう。
そんな方が帰って村でドンパチしていたら、そりゃ驚きます。無論、混乱だって。
「うん、お母さんだよ。今でも信じられないけど、助けてもらったって」
「助けてって。それじゃあ、海の上で偶然?」
「すごい運だよな、ギゼラおばさん」
ジーノさんがしみじみと言います。
「らしいといえばらしいけど……急すぎてわけわかんないわ」
メルヴィアさんがまた溜息。
余程死んだと思ってたんですね。
「まぁいいんじゃない? 生きてたんだし」
「あんたが言うんですか」
「そりゃ手紙出さなかったあたしも悪いけどさ。そこまで死人扱いされてるとは思わなかったよ」
さも被害者風に肩を竦めるギゼラさん。
死人扱い? と私が首を傾げると、ミミさんが苦笑いを浮かべ、
「お墓が造られてたのよ。村を救った英雄だとか」
あぁ……それは死んだと思われても仕方ないですね。
「あのおばあちゃん、今度会ったら文句言ってやる」
「あはは……ピルカさんお母さんにすごく感謝してたから、あんまり責めない方が」
トトリさんが苦笑しました。
まぁ、お墓を造られるのは感謝の形ですし。それほど責められませんよね。
って、あれ? なんか聞き逃したらいけない言葉がさっきから耳に入っているような。
「お母さん?」
トトリさん、ギゼラさんのことをお母さんだとか言ってません?
気のせいですよね? だって全然似てないですし。
「散々言ったでしょ? 可愛い娘がいるって」
「ええ!? じゃあ娘がトトリさんとツェツィさんなんですか!?」
驚く私へ、ギゼラさんは当たり前だと頷きます。
言われてみれば、なーんか面影が。目とか似てるかも。
……でも納得できません。トトリさんは優しくて可愛いのに、ギゼラさんは傍若無人ですし。
「なんか失礼なこと考えてるでしょ巨乳娘」
「変な呼び方しないで下さい。病み上がりさん」
やっぱり似てない。
こんなブン殴りたくなる人がトトリさんの母親なんて。
「リーアちゃん、お母さんと仲良しみたいだね。あ、そうだ」
何か思い出したらしいトトリさんが、おそろしい勘違いをしながらポーチを漁ります。
元気のない様子で彼女が取り出したのは、金色をしたひし形のケースに入っている何か。ケースの中心に収まっているのは緑色の液体で、なにやら神秘的な雰囲気を放っています。
あ、あれは……アストリッドさんの参考書で見たことがあります! たしか『エリキシル剤』!
対象へ高い回復効果を与えるアイテムだとか。特性によってはあらゆる病や状態を治療する万能薬にもなりうる、調合難易度の高い品です。
「一応使っておくね。さっきは発動する間もなくやられちゃったけど」
特性は、生きている、気付け、生命の源、効果アップ、それと価格ダウン……ですね。品質の割には安っぽく見えます。
トトリさんはそれをジーノさん、ミミさんへ手渡し、そして自分も飲みました。
すると皆さん、みるみるうちに元気を取り戻します。効き目はばっちりですね。
「ありがと。……それじゃ、私は行くわね。ちょっとゆっくりしてるわ」
「よーし! オレも特訓メニューを考え直すか。戦ってくれてありがとな、ギゼラおばさん」
二人とも簡単に負けて、思うところがあるのでしょう。
トトリさんとギゼラさんに謝辞を述べ、去っていきました。
「二人ともなんだかやる気になってましたね」
ジーノさんはともかく、ゆっくりすると言っていたミミさんからも何かしようとする意思が窺えました。
歩いていく二人の背中を見つめる私。ギゼラさんは笑います。
「目標ってやつじゃない? いやー、若いっていいことだね」
「おばさんが言うと説得力ありますよね」
「ん? いつの間にそんな生意気になったのかな? リーアちゃん」
最初からですよー。ベーっ、だ。
にやけるギゼラさんへ舌を出しておきます。好き勝手やってる人ですし、これくらいは生意気カウントされないでしょう。
「二人とも負けず嫌いなところがあるから。きっと色々考えたりするんじゃないかな」
「ジーノ坊やの場合は突っ走るだけでしょうけどね」
と、トトリさん、メルヴィアさん。
負けず嫌いですか。確かに、そんな性格の方がこんなふざけた人に負けるのは納得いかないでしょうね。
「……ところで、リーアちゃん」
うんうんと頷いている私へ、トトリさんが声をかけました。
「はい、なんです?」
「お母さんと知り合いみたいだけど、どこで会ったの?」
訊かれるとは思わなかった質問です。私のこと言ってなかったんですね、ギゼラさん。
ここはアストリッドさんの名前は伏せて、それとなく伝えることにしましょう。
「それは」
「ね、あたしお腹空いたんだけど、細かいことは家で話さないかい?」
この人はまたいいタイミングで。
途中から入ってきたギゼラさんを睨みます。できるだけ怒りの感情を込めて。
ですが彼女はなんの悪びれもない様子で、私の肩に手を回しました。
なんですかね。馴れ馴れしい。
「ごちそうするから。好きだよね? 分厚いお肉」
「お供します」
グッと拳を握ってガッツポーズ。口の端から涎でも出ているかもしれません。
我ながら気持ちのいい掌返しです。
しかし仕方ありません。私は好物のお肉を年単位で口にしていないのですから。
深刻な脂感不足は、無人島生活の問題でして。私が誘惑に負けるのも自然な道理です。
「単純だねぇ、あんた。まいいや。さ、ごはんごはん」
「はいっ! お肉っ、お肉っ」
二人して欲望丸出しの合唱。私とギゼラさんは肩を組んでヘルモルト家へ向かいました。
「やっぱり二人は仲良しだね、メルお姉ちゃん」
「そうね。波長が合うのかも」
なんだか失礼な言葉が後ろから聞こえてきた気もしますが、好物のことを考えている私の耳には届きませんでした。
お肉。その響きは広大な大地よりも私を高揚させます。
それが分厚いともなれば、私のテンションはうなぎのぼりでした。
○
「そんなわけで、私とギゼラさんは師匠に助けられた者同士なのです。あのアトリエ内で、なんだかんだ五年くらいの付き合いがありまして、お別れしたのは一ヶ月ほど前のことです」
ヘルモルト家のリビング。そこへまたお邪魔した私は、これまでの経緯を当たり障りなく語りました。
具体的に言えば、師匠関連の話をうやむやに説明したのです。
それでも必要最低限以上の情報が詰まっていますので、意味が通じる筈。
「そうなんだ……」
「なるほどね」
通じたみたいです。
トトリさんとメルヴィアさんの二人は、合点がいった様子で首を縦に振ります。
流石は私のトークスキル。名称という重要な要素を欠いても会話を容易く成立させる手腕は、我ながら立派と言わざるを得ません。
これで師匠がアストリッドさんだとバレることはな――
「リーアちゃん。師匠って誰なのかな?」
――かったらよかったんですけどねぇ。
「な、なななんでそんなことをお聞きになるのですか?」
「え? だって、お母さん助けてくれたからお礼くらいは、って」
どもる私へ、きょとんとした顔をするトトリさん。
そうきましたか!
っていうか、十分予測できた範囲の質問ですよ!
トークスキル以前に会話の流れから詰んでましたね。
ギゼラさんもアストリッドさんの名前は知っているでしょうし、言い訳はできません。
「とても言いたくないんですけど、聞きたいですか?」
「うん。聞かせて」
深く嘆息。
名前を口にしてトトリさん達と険悪になったら、アストリッドさんを恨むとしましょう。
私は悪くないです。ええ。
「……私の師匠はアストリッドさんです」
嗚呼、ついに言ってしまった。
そして勝手に師匠にしてしまった。
不安と罪悪感。永遠とも思える数秒の間の後。
「え……アストリッド、さん? ええぇ!?」
トトリさんが口の前に手をやって驚愕します。
アストリッド。その名前にどんな逸話があるか知りませんが、ロクなことではないとなんとなく分かります。
なんたって、ロロナさん達が罠を張るくらいの人物ですからね。
「それってロロナ先生の師匠だよね? あの人がお母さんを!?」
「なんか、本当に偶然なのか疑いたくなるレベルね」
あれ? 二人とも驚いているだけで、特に他のリアクションがないですね。恨みだとか。
「あの。こんなこと私が尋ねるのもなんですが、アストリッドさんはどんな人なんですか?」
挙手。ずっと気になっていたことを訊きます。
ステルクさんやロロナさんはアストリッドさんを犯罪者みたいな扱いをしてましたけど、実際のところどうなんでしょうか。
「え? 詳しいことは分からないけど、魔女だとは。あとほむちゃんを取ったとか」
「あたしはアーランド一の錬金術士だけど、すごく気紛れだって聞いたわ」
……と、とりあえず犯罪者ではなさそうですね。安心しました。
魔女は印象通りだから問題なし。
ただ一つ気になるのは、『ほむちゃん』。ホムさん達のことでしょうか。
もしそうだとしたら、誘拐なのでは。
師匠に新たな疑いが浮上しました。
「……けど、そっか。海の上にいたなら、ロロナ先生が見つけられないことも納得かも。そんな場所まで探さなかった筈だし。アストリッドさんは今どこにいるの?」
「すみません。何かを作るらしく、行き先も告げないで出て行きまして。どこに行ったかはさっぱりです」
どこか新たな拠点を作っているかもしれない。素材求めて冒険しているかもしれない。
どちらにせよ、私が彼女の位置を知る術はありません。
私が申し訳なさそうに言うと、トトリさんは首を横に振ります。
「気にしなくていいよ。神出鬼没な人だって聞いたし」
「そう……ですね」
たとえ居場所が分かっていても、簡単に見つかる人ではありません。
あの人はグータラな様でいて人の一歩前をいっていますからね。天才とはアストリッドさんのことを言うのかもしれません。
私とトトリさんは二人揃って溜息を吐きます。
「二人してなに溜息吐いてるのよ。いいじゃない。アストリッドさん本人が放浪してるんだから」
「うん。だけどいつお礼が言えるのかなぁ、って」
「そうなんですけどね……」
ほぼ同時に低テンションな調子でメルヴィアさんへ返事をする私達。
アストリッドさんがいなくても大した問題はないのですが、なんかモヤモヤするというか。複雑な気分です。
「よーし! できた!」
場の空気が何故か淀み始めたとき、暢気な調子の声が台所で上がりました。
完成を喜び両手を挙げたのは、さっきまでずっと料理をしていたギゼラさんです。
念入りなシーズニングがようやく終わったみたい。
時間が空いてすっかり落ち着いたテンションが、再び高まりはじめます。
アストリッドさんなんかどうでもよくなりました。
ギゼラさんはフライパンを出して慣れた手つきで点火。油をひいてお肉を丸ごとフライパンへ投入しました。
食欲を刺激する芳しい匂いと音。スパイスが鼻をつき、お肉の焼ける美味しい香りが後に続きます。
別にお腹が空いているわけではありませんが、口に涎が溢れるのを自覚できました。
「リ、リーアちゃん、涎がすごいことになってるよ」
「あーあー。女の子がだらしない」
なんと言われようとも、抗えないので仕方ありません。
年単位でお肉なし。冒険中はパンや携帯食料で脂分皆無。これで反応しないほうがおかしいのです。
「……はい、完成! おまたせ、リーア」
涎を少しでも減らそうと努力すること数分。
そういった種類のお肉なのか、かなり短い焼き時間でギゼラさんが料理を完成させました。
彼女はお皿に載ったお肉をテーブルに置きます。重みからか、お皿と接触した木製のテーブルが大きな音を立てました。
音に驚く私。ですが、その姿を見て納得しました。
すごい。日本では考えられない分厚さ――否、厚さだけではありません。単純なサイズが私の常識を軽く超越していました。
今までスパイスの香りで若干薄く感じていた、濃厚なお肉の匂いが至近距離から漂います。
切り口は生焼けで赤く、透明な脂が滲み、そして流れる。脂身と赤身。赤身の霜降り具合。見とれるような芸術作品がそこにありました。
「あたし特製のスペシャルミートだよ」
名の通りスペシャルなお肉ですね。
今回ばかりは、胸を張るギゼラさんにも不快感を受けません。むしろ頭を下げたいくらいです。
「……いただいても?」
「いいよ、冷めないうちにいっちゃって」
待ちきれずに尋ねると、有り難いお言葉が。
お肉の美味しさは温度によって決まると言っても過言ではありません。早速いただくとしましょう。
手を合わせて、いただきますと一言。用意してあったフォークとナイフを持ちます。
さて。このお肉、どうやって切りましょうか。薄切りにするのは何か違う気がしますし、ここは四角形ですかね。この大きさだと長方形になりそうですが。
一人頷き、押さえるためにフォークを刺す。何気なく行った当たり前の行為。しかしそれは私に驚愕をもたらします。
肉汁です。驚くほど容易く刺さった三点から、肉汁が溢れ出てきました。
……なるほど。
私は確信しました。このお肉を食べるのに、切り分けるなんて発想は不要だったのです。
ナイフを捨て、フォークを深く刺します。刺した場所から、切り口から肉汁が溢れ、お皿に小さな溜まりができました。
刺したそれを持ち上げる。そして口へ近づけると同時に、私もお肉を迎えます。
――そう。このお肉を一番おいしく食べる方法はきっと、直にかじること。
調理を最低限に抑えたこの料理だからこそ、シンプルな食し方が適する筈です。
「あむっ」
『うわー……』
まぁ引かれますよね。それは想定内なので問題ありません。今大事なのは味。他人を気にしている場合ではないのです。
躊躇なく噛みついた私が感じたのは、まず熱さ。肉、肉汁の温度が伝わり、続いてしっかりした歯応えと旨味が迸ります。
美味い! そう一言で言い切れる味でした。
溶けるような脂身はお肉の美味しさが凝縮されており、噛み応えのある赤身は、これがお肉なのだと私に強く主張してくれます。
それはちょうどいいバランスだと思えました。
何年も前ですが、高級な霜降り肉を食べたときとは違う美味しさがあります。
あちらは味や脂を、口触りを楽しむもの。
対してこちらのスぺシャルミートは『肉』を楽しむもの。脂、歯応え、そしてボリューム。上品さはありませんが、お肉らしい要素を全て持っている料理です。
そしてお肉もそうですが、スパイスの絶妙さも見逃せません。
塩、胡椒、そしてハーブ類。詳しい分量は把握できませんが、ギゼラさんのスパイスにかけた時間の長さに納得できるクオリティです。
お肉の影に隠れず、尚且つ前に出過ぎない。主役のお肉らしさを引き立たせている良き支え役です。
「――美味しいです。これはかなりのものですね」
一口食べ終え、私は作成者へ感想を告げました。
口には自然と笑みが浮かびます。一口だけでも多大な幸福感が得られました。お肉、それもステーキというものは、人を幸せな気分にするものだと改めて思わされます。
ステーキ、という言葉だけでわくわくしますしね。え、私だけ?
「そうでしょ? 長年作ってる料理だからね、自信はあるよ」
次の料理を作るべく、再び台所と向き合っているギゼラさんは誇らしげに笑います。
その間も私はこの素晴らしい料理を黙々と消費していました。勢いが止まることはありません。
文章にしてたった数行の間に、お肉はもう半分ほど。切る手間がかからないせいで、とても早いペースでお肉がなくなっていきます。
「トトリ達は普通のサイズでいいよね? っていうか、それしかないけど」
「う、うん」
「あれは流石に無理ね」
いつの間にかすごくアウェーな感じになっていました。
常軌を脱し、レールを一個横にずれた私の食べっぷりは、特急電車の如く走り去り彼女達から離れるばかり。易しく表現するならばドン引きです。
いずれは攻略したいと目論んでいる私からすれば、それは大問題なのですが、お肉の幸福感は優先順位を著しく狂わせます。
ビバ捕食。常識ポイ捨て。野生化です。
「リーアちゃん大食いなんだね」
「リーアはちっちゃい頃から、ああだったよ。食べる物があるなら食べる、ないなら我慢って感じで、決して暴食ではないからいいんだけど」
「はは、だからあんなに育ったんじゃないの?」
「私も今からでも間に合うかな」
『……』
「なんでシリアス顔になるの!?」
以下、お肉のせいで周囲に意識を向けられなかったので、省略と致します。