「食べ過ぎました……」
お肉を完食、そして続いて出てきたお魚もつまんで、パンもいただく。
全て食べ終えたとき、私は腹の満たされた気持ちと共に、若干の吐き気を覚えました。
会話の隙を見極め、よろよろとヘルモルト家のドアから外へ。村の景色を眺めて、少し風に当たるとします。
時刻はお昼どきでしょうか。柔らかな日差しと海の香りが私を迎え、少し気分が良くなりました。
深呼吸。息を吐いて吸います。
「はぁ」
故郷の味、とまではいきませんが落ち着きます。
私は苦笑し、高台から見える村を眺めました。
……一週間程度の期間。
たったそれだけの間に、知り合いと呼べるであろう人物は二桁を突破していました。
他人と関わらないようにしていた、以前の私からは考えられないことです。
長い間、一人で考えた結果でしょうか。
そう思えば、無人島での五年も決して無駄ではありません。
ひねくれていた私がようやく見習いになれたのですから。
「リーア」
過去に思いを馳せていると、背後から声がかかりました。
ギゼラさんです。からかうような笑みを浮かべ、彼女は私の横に立ちました。
「どうしたのさ? 一人で黄昏ちゃって」
「なんでもないです。気持ち悪くなったついでに、ちょっと幼女な私の思い出に浸っていただけですから」
本当になんでもない程度の話なので誤魔化します。
私が笑顔で言うと、ギゼラさんは特に追求はせず話を切り替えました。
「そういえば、護衛の当てはあるのかい?」
「特にありませんが……皆さん、頼めば断らない人だと思います」
なんとなくですが、皆さんそんな感じがします。用事がなければ断られることはないでしょう。
「そうかい。あたしもその一人だから、遠慮なく声をかけてくれていいよ」
村へ視線を向けたギゼラさんがサラッと言います。
えーと、この人は何て言ったのかな? その一人? 遠慮なく?
ああ、つまり護衛をいつでもしてくれると。
「え……」
「ん? なんで嫌そうな顔をするんだい?」
つい表情に出したら、ギゼラさんに脇腹を軽く突かれました。
「いや、だってギゼラさんと私って結構タイプ違うじゃないですか。気を遣うと言いますか、正直やり難い相手でして」
「そんなの何年も前から分かってることさね。まだそんなことを言うなんて、尚更あたしに慣れるべきだね、これは」
私の直球な暴言に対し、ギゼラさんは全く気に留める様子はなく。私の肩に手を回して笑います。
相変わらずですね、この人は。
ギゼラさんを押し返しつつ私は頷きました。
「分かりました。助けが必要な時は呼びます。あなた、かなり強いみたいですしね」
三対一で簡単に勝ってましたし、さぞかし頼りになることでしょう。
敵をギゼラさん一人で無双、経験値独占――みたいなことが起こりそうで不安ですが、できるだけ頼るとしますか。
「けどいきなりどうしたんですか? いつもなら面倒そうなことに名乗りなんて上げないのに」
抵抗を止め、嘆息混じりに尋ねます。
私にくっついたままのおばさんは、年齢にそぐわない仕草で首を傾げます。
「聞いてないの? あたしがリーアの世話を頼まれたって」
「は? ――じゃなくて。なんですか、それ?」
いけません。不意を突かれて、つい乱暴な言葉遣いに。
世話? 一体誰から……あ。思い当たることが一つあります。
「メガネのねーちゃんが治療料金の一部だ、ってあたしに」
「世話を頼んだわけですか……」
そういうわけですか。
わざわざ人の家にゲートを造ったかと思ったら、そんな理由があったんですね。
ちなみにメガネのねーちゃんとはアストリッドさんのことです。眼鏡をかけているからか、ギゼラさんはこの名前で彼女を呼びます。
「だから子供みたいに甘えてもいいよ? リーアちゃん」
「止めてくださいいい歳して」
厄介な人に世話を頼んだものです。
軽く頭突きを入れます。すると彼女はあっさり私を開放しました。
「反抗期だね、こりゃ。手に負えないや」
ふざけてますね……楽しそうなことで。
私は一歩離れ、
「――それで、久しぶりに故郷に戻ってどうでした?」
「どうって?」
「村の様子だとか、お子さんと会ってどうだとか。思ったことは沢山あるでしょう?」
八年ぶりです。何も思わなければ、それは異常と言えるでしょう。
私が尋ねると、ギゼラさんは両腕を組んで唸りました。
「うー……村は特に変わってなかったでしょ。みんなも特に変わってなかったし……トトリくらいだね、目に見えて変わっていたのは」
つまりトトリさん以外には懐かしいくらいしか思わなかったと。ギゼラさんらしいです。
「トトリさんですか。聞きましたよ、すごいことをしたって」
「――うん。あたしを探して旅に出るなんて、思いもしなかったよ。しかも悪魔まで倒しちゃってさ」
「子は成長するものですよ」
しみじみと言います。
皆さんの口ぶりだと、トトリさんは普通の女の子だったみたいですね。それが旅に出て、悪魔を倒すほどになるなんて……話を聞いただけでも信じられません。
私は柵に手を付いて、深く息を吐きます。
いなくなった母親――ギゼラさんを探すため。おそらく、トトリさんが旅に出た理由はそれでしょう。
それくらいしか思いつきません。お墓がだとか言ってましたし。
母親を探すために、女の子が命を懸ける。それがどんなに難しいことか、私には少し分かります。
私にはできなかったことを、トトリさんは成し遂げたのです。
「……私も成長できますかね」
あれから考え直し、見習いのラインに立った私。どうなるかは自分次第です。
成長か、それとも……。
小さく呟いて、私は伸びをします。
「成長できるさ。なんたってあたしがいるんだから」
「そうですね……。頼りにしてますよ」
仲間もいますし、きっと大丈夫。
ギゼラさんの言葉に頷いて、今度は心の中で言います。
頑張りますよ、お母さん。と。
【リーア】冒険者Lv.5 錬金術Lv.1
HP 70
MP 50
LP 20
攻撃力 30
防御力 10
すばやさ 28
スキル
・『万事複製』
アイテムをタイムカード化して使用。威力40%のものを三つ。タイムカードの間隔はランダム。MP消費なし。
・『完璧主義』
アイテムの発動にMPを要する。レベルが増えると必要な量も増え、MPが足りなければアイテムの使用はできない。タイムカードのアイテムが発動されたときも適用。
※ステータスは武器防具効果も含む