幻想郷に来て早半月が過ぎようとしている今日この頃、咲雅は妖怪の山に散策に来ていた。
理由は特にない。強いて言うならば桜が咲いているかどうか確かめに来たというところだろうか。
咲雅の家、と言っても元々は嵐たちのすんでいた屋敷であるが、そこにも桜はある。だったらその桜を見ればいいじゃないか、という人があるかも知れない。そんな奴がいるとしたら咲雅はソイツの頭をガッチリとつかみ、桜の幹に思いっきり顔を叩きつけてやりたい。
と、咲雅が思うくらいには咲雅の家の桜は特殊なのだ。桜と言っていいか悩むほど咲雅の知っている桜とはかけ離れたあの植物はなんなのだろうか。
まず、桜だと思えない理由その一、秋に秋に花を咲かせる。
咲雅は秋に咲いているところを実際に見たわけでは無いのだが、彗曰く、秋になったらそれはもう綺麗な花を咲かせるんですよ~とのこと。
更に理由その二、咲かす花が赤いらしい。
なんでも咲かす花はまるで太陽のように紅く、それでいて月のように透き通っているらしい。咲雅や、嵐の、赤桜という名字はこの桜の赤い花に由来してるらしい。
そして理由その三、桜の木の幹が白いのだ。
その白い幹はまるで白樺を思わせる色合いをしていて桜を見たとき、あの白樺樹齢何年位なの?と、彗に聞いて、桜ですよアレ、あと樹齢は三千年位ですね。と答えられたときには思わず、ふぇ?と情けない声が出てしまったのは記憶に新しい。
と、いうわけで、自分の家の桜で季節を感じようとして、それを断念せざるを得なかった咲雅は妖怪の山にわざわざ足を踏み入れ、普通の桜を求め散策している訳だ。
ちなみに、咲雅の隣には、ベッタリと咲雅に寄り添うように咲雅の腕をホールドする彗がいる。何気この体勢、彗の自己主張の強い豊満な二つの膨らみが腕に当たっていて嬉しさ半分、生殺し感半分といった感じなのである。
なぜ彗が咲雅の隣でご機嫌に歩いているのかといえば、この頃彗は咲雅の家に入り浸っており、今日も顔を出してみたところ、丁度妖怪の山に行こうとしていた咲雅に、案内役として捕まえられ、今に至る訳だ。
「それにしても咲雅君が妖怪の山に行きたいだなんて言うとは、珍しいこともあるもんですねぇ」
「そうですか?」
確かに自分からどこかへ行きたいと言うのは珍しい気もする。ただ、妖怪の山に入ったことがあるのが前回彗さんに引きずられて彗さんの屋敷に行ったときと、今回の合わせて二回だから珍しいと判断することは出来ないだろう。
そういえば、彗さんの屋敷は当然ながら妖怪の山にあるわけか。だとしたら、屋敷を出て俺の家に来て、また妖怪の山に戻る訳だからかなり無駄足だな。申し訳ないことをしまったように思えてくる。
「どうしたんですか?急に黙り込んじゃって。具合悪いんですか?顔、赤いですよ?」
彗が心配そうな顔を咲雅の顔に近づける。突然の行動に驚く、と同時に顔が近いことに若干照れて頬を朱に染める咲雅。そんな乙女チックな反応に気づかず、彗は心配そうに更に顔を近づける。
「い、いや、別に問題無いです。ちょっと考え事をしてただけです」
「考え事をしててそんなに顔を赤らめますか? あー、もしかして、いやらしいこと考えてましたァ? もォー、咲雅君ってばおませさんなんだからー。でもでもォー咲雅君になら、そ、その、お、襲われてもいいなぁ、なんて思ったりー キャー!!」
頬に手を当てて体をクネクネさせながら自分の世界にトリップしていく少女を咲雅は放っておこうと決意して、妖怪の山の獣道をズンズンと進んでいく。
~~
「あ、咲雅君!見えて来ましたよ!あそこが妖怪の山で一番桜の綺麗なイチオシのスポットです!」
彗が指差す場所は少しひらけており、その真ん中には、大きな桜が佇んでいる。
そのひらけた広場をぐるっと回って咲雅たちが立っている場所の反対側へと行くと小川が流れており、彗曰く、そこから眺める景色が最高に綺麗らしい。
「――――こりゃ絶景だな……」
「でしょでしょ!この景色を咲雅君にいつか見せたいと思ってたんですよ!」
広場の反対側に回って見た景色は想像を絶する景色だった。まさしく絶景。広場の真ん中にある、満開の桜の大木の背景は幻想郷の風景。咲雅の知っている都会の夜景などとは一線を画す、自然が豊かだからこその一面の緑。その緑は咲雅にこれ以上無い安心感を与えた。
「あり?天魔様じゃあないですか。どうしたんですか?こんなところで?」
ふいに後ろから声が掛けられる。咲雅が驚いて後ろを振り向くと緑の帽子に緑の大きなリュックサック、綺麗な青髪の奇妙な出で立ちの少女が立っていた。
「あ、にとりじゃないですかぁ、今日はこの子とここの桜を見に来たんですよー」
お互いに同じような反応を示し彗が、咲雅が妖怪の山に来た理由を話す。
「この子ってその人間ですか?――――――っ!」
咲雅とにとりと呼ばれた少女が目を合わせた瞬間、今まで柔らかな笑みをたたえていた少女の表情が一瞬にして凍る。
「ど、どうして貴方がここに――――」
少女は拒絶の色を孕んだ言葉を咲雅に投げる。そこまで拒絶される理由がわからない咲雅は、ただ疑問符を浮かべることしか出来ない。
咲雅の隣にいる彗はいつも通りのほんわかとした笑みを顔に張り付けて佇んでいる。
「まぁまぁ、にとり落ち着いて。この子は嵐くんの息子さんですよ。誤解です」
「あの人の息子―――」
二人の会話に父の名前が出てきて咲雅は更に頭に浮かべる疑問符の数を増やす。
「すいませんでした。ついカッとなってしまい――」
「大丈夫ですよ!咲雅くんもきっと気にしてません!ね、咲雅くん?」
「え? あ、は、はい。気にしないでくれ?」
気にするなと断言するつもりだったが、語尾が上がってしまったのは、突然拒絶されたり、突然父の名前が出てきたり、突然謝られたりして、理解が追い付いていないからだ。
「じゃあ、また来ますねー! さぁ咲雅くんいきましょー!」
「え? あ、ちょっ!」
咲雅は突然、彗に袖を引っ張られ、今まで来た道の方へ連れていかれる。
先ほどから突然のことばかりで混乱している。にとりと呼ばれていた青髪の少女は嵐とどういう関係なのだろうか。まぁ、あの少女の反応からして、いい関係ではなかったのだろうことは容易にわかるが。
一つ、気に掛けなければいけない問題が増えた気がする。