遊戯王ARC-V Undead Duelist 仮面を添えて。 作:羽吹
その化物は、仮面。
この世界にヒーローはいない。
誰も助けてくれないステージに立った。
だから、私は勝たなければならないのだ。
負けられない。
私は、わたしは!
「負けたくないぃぃいいいいいい!」
咆哮する。威嚇する咆哮だ。
お前の懐にある勝利を奪い取ってでも、私は!
「私は、
私も所属する孤児院の子が託してくれたカード。
私の大切な宝物をディスクに差し込んだ。
「私は墓地に存在する《達人キョンシー》と《ドラゴンゾンビ》を除外する!
私は勝つんだ。生き抜くんだ!
こんな場所で、地下デュエル場なんかで!
あの子達の未来を閉じさせはしない!」
値踏みするような視線が絡み付いた。
この場所において、私はピエロだった。
「融合召喚! 《冥界龍 ドラゴネクロ》!」
私のカード。
このカードだけが、私のものだ。
「ヴァトル! 《ドラゴネクロ》! 《神獣王バルバロス》に攻撃! ソウル・クランチ!」
「馬鹿な! お前のモンスターも、俺のモンスターも攻撃力は同じ3000だ!
《バルバロス》を倒した所で、俺にはもう一体の《バルバロス》が手札に存在する。
《強欲で謙虚な壺》の効果でこのカードが手札に加わっていたことはお前も知っている筈!
加えて、俺のフィールドには《スキルドレイン》が存在する。フィールドのモンスター効果は無効化されているんだぞ!」
対戦者の言葉には耳を貸さず、龍の骸が獣の王へと突貫した。獣の王が持つ槍に貫かれながらも、ドラゴネクロはジリジリと相手に近づいていく。
「だが! 相討ちになどさせはしない!
俺はアクションマジック《野獣の眼光》を発動!
相手の弱点を見抜くことで、《バルバロス》の攻撃力が1000ポイントアップする!」
「《ドラゴネクロ》は戦闘によって、モンスターを破壊しない。けど、冥界の竜は執念深いものよ!
ダメージステップ終了時、《ドラゴネクロ》の効果が発動する。そう、墓地でね」
《スキルドレイン》の効果範囲は、フィールドのみ。墓地には及びはしない。
「《ドラゴネクロ》と痛みを共有したモンスターは、その痛みに身を焼かれる!
つまり、攻撃力をゼロにする!
そして、痛みは自分に帰るものよ。
私のフィールドにそのモンスターの元々のレベル、攻撃力をもったトークンを生み出す!」
「何だと! 俺のライフは《スキルドレイン》のコストで1000払っている、3000しかない。
今3000のダメージを受ければ俺のライフは……」
アクションカードを探そうと眼を走らせている相手に、冷ややかな視線を浴びせる。
「もう遅い。これで終わり。
バルバロストークン、貴方自身を攻撃しなさい」
その言葉に答え、黒い獣が同じ姿をもった獣に襲いかかる。
しかし、《ドラゴネクロ》の体の一部がこびりついた《バルバロス》は思うように動けず、黒い獣の槍に貫かれて消えていった。
私の勝利に歓声が沸いて、
けれども私には何も響かない。
ーーー
「チャレンジャー! これで十人抜きだぁ!
後990回! たった990回勝ち抜けば!
彼女は自由の身になれるのです!
しかしぃ! 一回でも負けると!
自分自身をベットした彼女はどうなってしまうのでしょうか。
既にオークションは始まっております!」
私を見定めるような視線のなかで、次の相手が入場してくる。3戦目で戦った相手だった。
990勝。気の遠くなる数字だ。休む時間も、寝る時間も与えられない私はいつか負けるだろう。
それでも一勝でも多くもぎ取らないと。
一勝毎に孤児院にお金が入る。テンプレのように地上げにあっている私たちには、お金が必要だった。
だけど、8歳の私には何もできない。
だから、自分を売った。
それで沢山の子が助かるのならそれで良かった。
そんな私に待ち受けていたものは、休憩すらない1000人抜き。出来レースだった。
負けた先にある結果なんて想像したくもない。奴隷か、愛玩か、内臓か。そんなものだろう。
誰も助けには来ない。この事は誰にも言ってすらいないのだ。
普通の8歳の子供はここまでできない。
だけど、私は普通ではなかった。
「バーサークデッド! ナイトメア・デーモン・トークンに攻撃。三連打ァ!」
私には前世の知識があった。
「レッドアイズ・バーンの効果。
真紅眼の不死竜の攻撃力分のダメージをお互いに受ける。ねぇ、私と心中しましょう?
私のライフは3000以上あるけどね」
男性だったかとか、女性だったかは分からない。
色々な知識だけが残っていた。
「アンデットワールドを発動。更に生者の書-禁断の呪術-を発動する。
おいで、デスカイザードラゴン。
あなたのモンスター、貰うわね」
そんな私は気味悪がられて捨てられた。それから一人で転々と生きて、小さな孤児院に迎えられた。
「威圧する魔眼を発動。そして燃える闘志を発動。
ヴァンパイア・ロードで直接攻撃!
ヘルビシャス・ブラッド!
……これはジェネシスだったかしら」
そこで私は生まれて始めて温もりに触れた。
そこには、トラウマをもった子がいた。塞ぎ込んだ子もいた。明るく振る舞っている子がいた。
「アンデットウォーリアーを
何故か入っていたフュージョン・ウェポンを装備して攻撃力2700です!」
そんな子と私が重なって、私に家族ができた。
やったね、私。と喜んだ6歳の冬。
だけど、幸せは長くは続かなかった。
「イル・ブラッドをデュアル召喚。効果発動。
もう一体のイル・ブラッドを特殊召喚。
二体のモンスターでオーバーレイ!
エクシーズ召喚!
吹き荒れる世間の暴風。イクタァぐらい。
底をつく孤児院の資金、幼い家族たち。
私にとって、始めてできた大切な人たち。
「魂吸収! 黄金の封印櫃! ネクロフェイス! 酒呑童子! その他色々!」
私にはそこに全てを賭ける価値があった。
だから。私なんてどうなっても良かった。
そう、思っていた。
「龍の鏡を発動。墓地のアンデット2体を除外。
わたしは、はぁ、はっ。っ、まけ、ない。
融合召喚! 《冥界龍ドラゴネクロ》!」
「トラップ発動。《拷問車輪》。
これで攻撃はできないぜぇ」
っ、アクションカード。探しに行かなくちゃ。
あった。少し遠いけど、取れ……
「きゃっ、」
転んだ。自然に転んだ訳じゃない。転ばされた。
起き上がろうとして、肩を捕まれる。
引き倒されて、転がされた。
見上げて、対戦者の顔を見る。笑っていた。
「痛っ、こんなの、明らかに反則です……っ!
貴方にはデュエリストとしての……」
「反則だぁ……? おい審判! 今の反則か?」
アナウンスが入った。
問題などないと放送された。
客席からもブーイングなんてなかった。
私の表情が凍っていく。
出来レースだ。分かっていた筈の未来が牙を向いた。これで終わりではなかったのだ。
「あっ……まって、来ないで!
そうだ、プレイ時間。まだ過ぎて……」
「んなのどうでもいいだろ。
いいか、てめぇは負けたんだ。
この地下闘技場でてめぇは負けたんだよ。
ここにいるようなやつが、
その意味が分からねぇわけがねぇよな?」
下卑た笑いが聞こえた。
咄嗟に後ずさって、カシャンと無情な音が響いた。選手を逃がさないための金網。
観客に見せるための、透明な檻。
私に逃げ場などはなかった。
ーーー
暗い地下デュエル場。
僅かな昭明が照らし出すこの世界は、微かな狂気に満ちている。
「ふふ、うふふふ、あはっ、あははははっ!
私のステージに、ようこそっ!
今日の演目は、電撃デスマッチ!」
みんな、楽しんでいってね!
と異様に明るい声が響いた。
ジジッと、スピーカーから僅かな音が流れて。
聞き慣れたアナウンスが流れた。
「さあ! 今日の試合は注目だ!
推定年齢10歳!
それでいて、裏デュエル界最強のデュエリスト!
美幼女仮面ことユーカちゃんの試合だーッ!」
「ハッ、何が美幼女仮面だ。
そんなやつは元プロデュエリストの俺が潰してやるよ!
誰も見たことがねぇとか噂がある素顔をてめぇら観客の前で辱しめてやるぜ!」
その言葉に、歓声が上がった。
色めき立つ観客からは好奇の目が向けられる。
「うふふふ、怖いなぁ。私を壊したいの?
そうだ! ならもっと盛り上げましょう!
電流を三倍にしましょう!
もっともっと楽しくなるわよ!」
「さ、三倍だと……! 馬鹿かお前は!
成人男性でも死にかねないぞ!」
「いいじゃない、私を壊したいのでしょう?
なのに、自分のリスクがないなんて、駄目よ。
何かを得たいなら、犠牲がいるの。
審判の方? この提案、受け入れてくれる?」
ステージに立つ、ひらひらとした服を纏った子供が笑顔で審判に問いかけた。
「し、しかし、貴女の命も危険に……」
「そんなものはどうでもいいの。
私には、もう何も残っていないから。
……。
みんなっ! この提案は受け入れられたわ!
これで、このデュエルは本当に命懸け!
私たちの命の全てを出しきるから!」
ちゃんと見ていて。私の全てを。
そう続けて、狂ったように笑う。
対戦相手は予想GUYを使われたような、予想GUYな展開に着いていけずに狼狽している。
「それでは、デュエル開始ぃいいい!」
どこかの磯野さんのような掛け声と共に、
命がけのデュエルが始まる。
「お、俺の先行だ! 命懸けだと……!
くそっ、勝ちゃあいいんだ!
《マンジュ・ゴッド》を召喚するぜ。
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、 デッキから儀式モンスターか儀式魔法カード1枚を手札に加える。
俺は《高等儀式術》をサーチする!」
マンジュ・ゴッドが光輝き、「俺はゴールドレアだぜ」と言いたげな波動を発し、一枚のカードに収縮した。
そのカード、即ち《高等儀式術》を手札に加え、しかしそのカードを発動はされない。
「まずは様子見だ。
カードを2枚セットして、ターンエンド」
「随分と消極的な1ターンね。
怖いの? 電流が? そんなに怯えちゃって。
ふふ、ネズミみたい。可愛いわね」
もっとも、モルモットへの愛情だけど。
楽しそうに笑いながら、幼い仮面少女はデッキトップに指を掛ける。
「私のターン。ふふ、良いカードを引いたわ。
《手札抹殺》を発動。その効果により、お互いの手札を全て墓地に送る。《マンジュ・ゴッド》で手札に加えたカードごと、ね」
顔を歪める元プロデュエリスト。
しかし、このようなことはままあるのか、その闘志には少しの陰りもなかった。
「そして、捨てた枚数分のカードをドローする。
私は墓地に送られた《馬頭鬼》の効果を発動する。《馬頭鬼》は墓地の自身を除外することで、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を特殊召喚できる。
その効果により《地獄の門番イル・ブラッド》を特殊召喚。そしてこの時、墓地から更なるアンデットの叫びが木霊する!
墓地に存在する《ヴァンパイア・グレイス》の効果を発動! このカードはアンデット族モンスターの効果によって 自分フィールド上にレベル5以上のアンデット族モンスターが特殊召喚された時、2000ライフポイントを払うことでこのカードを墓地から特殊召喚できる。
《地獄の門番イル・ブラッド》はレベル6のモンスター。条件は満たしている。
よって、私は《ヴァンパイア・グレイス》を特殊召喚!」
その瞬間、彼女のデュエルディスクが光り、
通常の三倍もの電流が襲いかかった。
「っ、あぁああぁああああああっ!!
はっ、つっ、くうっ、あっ……」
どさっ、と軽い音が響いた。
2000ポイントもの電撃に、立っていることができずに倒れてしまったのだろう。
しかし気絶はしていないのか、ピクッと微かに痙攣していた。
「私は、っ、手札から《スーペルヴィス》を発動。《地獄の門番イル・ブラッド》に装備させる。
《スーペルヴィス》はデュアルモンスターを
これで《地獄の門番イル・ブラッド》の効果を発動できる!
《地獄の門番イル・ブラッド》は1ターンに一度、手札・墓地からアンデット族のモンスターを特殊召喚できる。
私はチューナーモンスター《ゾンビキャリア》を特殊召喚する!」
よろめきながら立ち上がり、更にプレイを続行する。もはや執念である。
「チューナーモンスターだと! シンクロか!」
いや、レベル6のモンスターが2体!
くるぞYUUMA! ナンバーズだ!
などと否定が入りそうな状況で彼女はエクストラデッキに手をかけた。
「その通りよ! 私はレベル6《地獄の門番イル・ブラッド》に、レベル2《ゾンビキャリア》をチューニング!
ここから始まるスペクタクル! トラップ、マジック大いに結構! 捩じ伏せますので!
──シンクロ召喚! 《戦神-不知火》!」
良く分からない口上の後に、赤い刀、青い刀を持った人物が現れる。
お前本当にアンデットかよ、と言われるほどに生き生きとした人物は、しかし微かに透けていた。
「この瞬間、墓地に送られた《スーペルヴィス》の更なる効果が発動する!
表側表示のこのカードが墓地に送られた時、墓地の通常モンスターを特殊召喚する。
デュアルモンスターは墓地では通常モンスターとして扱われる。
よって、私はデュアルモンスター《地獄の門番イル・ブラッド》を特殊召喚!」
今度こそ来るぞ海老フライ!
と、変な幻聴が少女の脳を犯した。
アニメの影響が強すぎるがゆえの悲劇だった。
「私はレベル6の《地獄の門番イル・ブラッド》と《ヴァンパイア・グレイス》でオーバーレイ!
エクシーズ召喚! 《
赤い目が始めに現れ、次いで鎌が不自然に浮く。骨格を完全に無視したように折れ曲がった体が形成され、白く長い髪が赤目を隠した。
「《巡死神リーパー》の効果を発動する。
このカードのエクシーズ素材を一つ取り除いて発動する。お互いのデッキからカードを5枚墓地に送る」
カシャン、と音を立ててお互いにカードを墓地に送る。相手の墓地の確認などはできない。墓地に送る一瞬でそのカードを確認しなければならないのだ。
(この対戦相手……。流石は元プロデュエリスト。
動作が速すぎてカードの確認ができない……!)
墓地に送られたカードを確認して、仮面少女は淀みなくカードを繰る。
「私はこのターン、通常召喚を行っていない。
その権利を使う。《蒼血鬼》を召喚。
《蒼血鬼》は召喚・反転召喚に成功したときに守備表示になる。
だけど、それだけじゃない。
《蒼血鬼》のもう一つの効果を発動。
1ターンに一度、自分フィールドのエクシーズ素材を取り除いて、自分の墓地に存在するレベル4のアンデット族モンスターを特殊召喚できる」
一人でやってるよ~
と言われそうな程に彼女のターンは続く。
「私は墓地の《酒呑童子》を特殊召喚。
当然、このモンスターにも効果があるの。
墓地のアンデット族モンスター2体を除外して、一枚ドロー。
除外したモンスターは《ヴァンパイア・グレイス》と《不知火の宮司》。
《不知火の宮司》が除外された場合、相手の表側表示のカードを一枚破壊できる。
ねぇ《マンジュ・ゴッド》? 死んでくれないかしら?」
そんな理不尽があるかー! と叫びながらも、抗えない時代の流れに飲み込まれて彼は消えていった。
「さて、これで合計攻撃力は4000を越えたわ。
ねぇ、私ね。貴方の悲鳴が聞きたいの。
私のお願い、聞いてくれる?
バトル! 《酒呑童子》でダイレクトアタック」
鬼の一撃が、彼に直撃する。
ライフが2500を示し、絶叫を上げた。
「う、ぐぁあああああああああ!
がっ、ぐぅ。ごほっ、ごほっ。……っ!
何て威力だ。腕がマトモに動かねぇ……!」
(アクションデュエルだってのに、アクションできるような状態じゃねぇ……
このガキ、こんなのに耐えたのか……)
男の悲鳴が響き、観客が盛り上がる。
だが仮面少女の隠された表情はつまらなさを示していた。
「……もっと。もっと大きく叫びなさい!
貴方には何も足りていない!
絶望も、孤独も、惨憺も、何もかも!
悲鳴に心を感じない!
必死さも、熱意も、執着すら感じない!
私が嬲ってきた数多くのデュエリストの中でも、貴方は最低の部類ね。
せめてみっともなく足掻きなさい。
《戦神-不知火》の攻撃! ダイレクト!」
声が冷えた。
明らかに理不尽な理由で
男は怒声を上げて罠を宣言する。
「巫山戯んな、この狂人が!
罠発動! 《ガード・ブロック》!
相手の攻撃によるダメージを無効にして、カードを一枚ドローする!」
「ふふ、みっともないわね。
そう、それで良いの。もっと無様を晒しなさい。
貴方の意地を私に証明してみて?
私が丁寧に捩じ伏せてあげるから」
うふふふ、と仮面少女は蠱惑するように笑う。
「《リーパー》と《蒼血鬼》は守備表示。
これ以上の追撃はできないわ。残念ね。
メインフェイズ2に移行する。
わたしはレベル4の《蒼血鬼》と《酒呑童子》でオーバーレイ!
エクシーズ召喚! 《フレシアの蟲惑魔》!」
うふふふ、と笑い声が響く。
仮面少女と良く似た雰囲気の少女が発していた。
ピンク色の髪は○乱だと噂されているが、その真実は闇のままである。
「私はカードを2枚伏せて、ターンエンド。
さあ、私に貴方の輝きを見せて! ねぇ!」
「てめぇの為にデュエルしてるんじゃねぇよ!
俺は、俺の為にやってんだよ!
俺のターン! ドロー!
へっ、てめぇは儀式魔法を墓地に送れば使えねえと思ってたみたいだが、甘いぜ!
罠発動! 《緊急儀式術》!
このカードは儀式モンスターがフィールドにいない時、手札・墓地の儀式魔法を除外して同じ効果を得る!」
伏せられた罠を発動して、男は不敵に笑う。
「墓地に行った《高等儀式術》を除外!
その効果により、デッキの通常モンスターを墓地へ送って儀式を執り行う!
2体の《ブラッド・ヴォルス》を墓地に送り、《超戦士カオス・ソルジャー》を儀式召喚!」
「ふふ、でもそれじゃあ足りないわ。
《フレシアの蟲惑魔》の効果を発動!」
超戦士が光の中から降臨する。
神々しさすら感じるその光景に一輪の花が咲く。
ハナガサイタヨ……。
「《フレシアの蟲惑魔》は1ターンに1度、エクシーズ素材を一つ取り除いて効果を発動できる。
相手のターンであってもね!
その効果は、発動条件を満たしている『落とし穴』、『ホール』の通常罠をデッキから墓地に送り、効果を肩代わりする。
私は《時空の落とし穴》を選択。
それによって、手札・エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターをデッキに戻す!
……コストとして、私は戻した数×1000のライフを失う」
デュエルディスクが光る。
高圧電流がディスクに負荷をかけた結果だ。
「う、っ、ぁあぁぁあああああああ!!
あっ、ぁ、ぅ、うっ……。
ふふっ、これで、そのモンスターは終わりよ!」
微かに肉が焼ける臭いがした。
それでもなお仮面少女は笑っている。
楽しそうに、愉快そうに笑っていた。
「く、狂ってやがる……!
ガキとはいえ、流石はアングラの人間だぜ……。
けど、負けりゃ俺もああなるんだ……!
か、勝たなきゃ、俺はまだ死にたくねぇ!
《覚醒の暗黒騎士ガイア》を通常召喚する!
このカードはレベル7だが、俺のフィールドにモンスターがいない時はリリース無しで召喚できる。
更に、《覚醒ガイア》をリリースすることで《モンスターゲート》を発動!
通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキを捲り、そのカードを特殊召喚する!
捲られたカードは《疾走の暗黒騎士ガイア》!
よって《疾走ガイア》を特殊召喚する!」
ババーンと後ろから閃光を出して駆けてきた覚醒した暗黒騎士ガイアは、空に浮かぶ怪しげなゲートに飛び込んでどこかに行った。
あいつは良い奴だったよ。と思うも束の間、突然空にゲートが開いて全速力でガイアは戻ってきた。
「ここでリリースされた《覚醒ガイア》の効果が発動! 自分の手札・墓地から『カオス・ソルジャー』を特殊召喚。
俺は《手札抹殺》で墓地に送られた《聖戦士カオス・ソルジャー》を特殊召喚する!
まだだ! 俺は勝つ! 勝って生き残るんだ!
手札から《カオスの儀式》を発動!
フィールドの《疾走ガイア》をリリース、そして墓地の《覚醒ガイア》を除外する!
《覚醒ガイア》は墓地に存在する時、儀式の生け贄の一体としてその身を喜んで捧げてくれる!」
ゑ? と言いたげな表情をしたガイアと、未だに走り続けるガイアの2体が炎に包まれ、一筋の光が産まれる。
「儀式召喚! 《カオス・ソルジャー》!
そして、リリースされた《疾走ガイア》の効果を発動する。デッキから『カオス・ソルジャー』を手札に加える!
俺が選択するのは《カオス・ソルジャー-開闢の使者-》だ。
このカードは自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを除外することで特殊召喚できる。
俺は墓地の《ブラッド・ヴォルス》、《マンジュ・ゴッド》を除外して特殊召喚!」
三体のカオス・ソルジャー。
全ての攻撃力が3000の大台にのっている。
(このターンでケリを着けなきゃならねぇ。
今までも地下デュエルなんて何度もしてきたが、こいつは明らかに異常だ!
通常の三倍の電流だと……!
セーフティなんてとっくに切られてやがる!
長引かせたらやべえ。俺は死にたくねぇんだ。
その為には、《開闢》は攻撃だ)
男には三体のカオス・ソルジャーがいる。
開闢はモンスターを戦闘で破壊すれば、連続で攻撃ができる。
不知火をカオス・ソルジャーで相討ちにすれば、聖戦士の攻撃は通るのである。
「バトルだ! 《開闢の使者》で《フレシアの蟲惑魔》に攻撃! 開闢双破斬!」
「はぁ……。やっぱり貴方は下らない。
何の矜持も、執念も感じない。
だからこんなことになる。
罠発動《墓地墓地の怨み》!
このカードは相手の墓地のカードが8枚以上あるときに発動できる。相手モンスターの攻撃力を全て0にする。
貴方の墓地には10枚以上のカードがある。
よって、攻撃宣言をした《開闢の使者》もその効果を受けて、攻撃力が0になる」
反射ダメージ。
《フレシアの蟲惑魔》の守備力は2500で、男のライフも2500。丁度だった。
ピー、と冷徹な音が響いて。
今までとは比べ物にならない電流が彼に流れる。
聞くに耐えない絶叫を上げた彼は、途中で悲鳴を止め、倒れ込んだ。
時折痙攣を繰り返す彼は未だ生きているが、電流は流れ続けている。間もなく死に至るだろう。
仮面を着けた幼女(推定10歳)はその姿を見下ろした後、観客に手を振ってどこかに消えていった。
ーーー
全てを失った。
護りたかったものは既に無くなっていたのだ。
私は大切なものを護るために自分の全てを捧げ、汚れてまで手に入れたお金は間に合わなかった。
私はいつも地上げをデュエルで追い返していた。
だけど、あいつらは私の居ない時を狙った。
たったそれだけで、私は全てを失ったのだ。
プライドを、自由を、尊厳を。家族を。
そして事前の契約通り、私は売られていった。
それからはあまり思い出したくもない。
少しの時間が経って、私のご主人様は地下デュエルのオーナーの一人になった。
叩き潰した。勝ち続けた。壊し続けた。
嘗ての私と同じような子を壊した。
地下に堕ちても燻っている希望を喰らった。
既に私は壊れていた。
自分の幸せを諦めて、助けに来てくれた王子様を殺して、私は化け物になった。
死なない化け物に。アンデッドに私はなった。
そんな私には居場所はない。
地下デュエルでも、私は狂人だ。
既に何人も殺した。
私のデュエルが原因の自殺もあったらしい。
そんな私に、おかしな話があった。
「義務教育、ですか?」
なんでも、中学校に入学しろとのことだ。
私は既に自分の人生を諦めている。別に学歴が必要な訳でも、まともな人間になりたい訳でもない。学校に行く気など無かった。
しかし、ご主人様の言うことに逆らう気もない。
そうして、一年半後に私は中学校に入学することになる。
──そう、舞網市立第二中学校に。
デュエルで人が死ぬわけがないよね!
デュエル構成には細心の注意を払ってはいますが、間違い等はあると思います。
指摘等は大歓迎ですが、その箇所を直すかどうかは未定です。
また、ドラゴネクロで特殊召喚されるトークンは《ダークソウルトークン》です。
ですが、相手モンスターの名前のトークンになっています。ただの演出なのです。なのです……!