遊戯王ARC-V Undead Duelist 仮面を添えて。   作:羽吹

10 / 19
その仲間は、仮面。

 

 空を落ちている。

 頬が風に煽られて、髪が後ろへと靡く。浮遊感だけが体を包み込んで、言い知れない不安感が襲ってきた。

 暗い夜の街に、空から降ってくる少女。

 それは私だった。当然墜落予定地には誰も居ない。受け止めて貰うことはできないしそもそもできないだろう。自分でどうにかする必要があるのだ。

 

 闇のアイテムに精神力を注ぎ込む。ブレスレットのウジャトが光り、デッキトップのカードが光る。

 空中で回転しながらドローして確認すると、真紅眼の不死竜だった。そのまま不死竜が実体化して、私の服を咥えて上昇していく。

 咥えられた状態は気に食わなかった私は空中旋回中に背中に跳び移り、廃ビルの屋上に着地する。

 

 街中で不死竜を召喚したので多少は噂が立つかもしれないが、命には代えられない。

 だが、これで闇のアイテムは完全復活したと断定して良いだろう。裏デュエルが今から楽しみだ。

 

 廃ビルから舞網市の摩天楼を見下ろす。もう深夜に近い時間帯だというのに街は明るいままだ。この街は眠らない! 絶えず脈動し、広がり続ける!

 それよりご主人様に連絡を取らないといけない。

 一月近く行方不明だったのだ。心配を掛けただろう。早くに連絡をしないと後が怖い。

 

 その後に眼鏡マフラーさん。つまり赤馬社長に連絡を取ろう。アカデミアとかエクシーズ次元について報告する必要がある。

 それに闇のデュエルによる罰ゲームはお互いに受けたのだ。彼の無事は確認して置かなくてはならない。

 

 ーーー

 

「無事だったか、()()()。どこに飛ばされた? レオ・コーポレーションが総力を挙げて捜索したが、痕跡すら見つけられなかったのだ。話して貰うぞ」

 

 私に会うなり彼はそう切り出した。

 ご主人様に連絡した後、私は翌日に赤馬社長に連絡をする予定だった。既に深夜だったので、悪くない判断の筈だ。

 

 しかし帰ってみると、連絡すらしていないのに赤馬社長から連絡が入り、翌日にLDSに呼び出されたのだ。

 私はご主人様に従う必要はあっても、彼に従う必要はない。断ってやろうかとも思ったのだが、彼も私を捜してくれてはいたみたいなので受けることにしたのだ。

 

 LDSの応接室に通され、社長だけが出迎える。

 眼鏡越しに彼が私を見て、話が始まった。

 

「……私はそんな名前は知らないわね」

「そうか、君とまったく同じ日に行方不明になった人物なのだがな。知らないのなら構わない。

 一つ忠告をしておこう。暫くは裏デュエルは控えた方がいい。素性が曝されたくなければな」

「忠告は受け取っておきましょう。でも大丈夫。

 結遊歌と言う人物は長期で海外留学に行っていた()()()から」

 

 お金の力だ。まねーぱぅわーは万能なのだ。

 まさか突然海外留学に行き、その事を学校側に報告し忘れていたと言う事情になってしまうなんて!

 それでも当分は裏デュエルはできないけど。

 

「どうせ行方不明者の届け出も出ていないから、大きな騒ぎにもなっていないでしょう?」

「詳しいな、その通りだ。さて、本題に入ろう。

 一月前に私と君はデュエルで引き分け、闇のアイテムによる罰ゲームをお互いに執行された」

 

 赤馬社長の眼鏡の右レンズが光を反射する。

 

「内容は、恐らく空間跳躍だろう。私は気付けばナスカの地上絵の上に居た。現地のデュエリストとデュエルを行い、何とか中島に連絡が着いたおかげで舞網市まで戻ることはできたが、その時には君は行方不明になっていた。

 私は君を捜索したが、痕跡すら見つけることができなかった。君への連絡も届いた気配がない。

 決闘者(デュエリスト)としての私の本能が告げていた。君はこのスタンダード次元には居ないとな。

 さあ答えて貰うぞ、仮面デュエリスト!

 一月間、君はいったいどこに飛ばされていた?」

 

 答えない選択肢は無い、と言葉の奥からそう聞こえてくる。

 

「まあ、隠すことでもないしね」

「……そうか」

 

 気の抜けた声だった。

 

 私はエクシーズ次元に飛ばされた。

 飛ばされた先でユートと黒咲、瑠璃に出会い、アカデミアに抵抗していた彼女たちと共闘した。

 黒咲と互いの信頼とプライドを賭けたデュエルを行い、瑠璃やユートとも信頼関係を結び、私はエクシーズ次元で一月程の期間を過ごしていた。

 

 孤児の子供たちとデュエルをしたり、仮面を狩ったり、炊き出しの手伝いをしたり、瑠璃とリアルファイトの練習をしたりして、主に私は瑠璃と過ごしていた。

 そんな日々が続いて、消耗した闇のアイテムは回復していった。その力を使って帰る準備を進めていると、ユートが記念にとエキシビジョンデュエルを勧めてくれた。

 

 私はそれに参加して、ユートと戦った後に瑠璃ともデュエルを行い、エキシビジョンデュエルは終わった。

 ユート、瑠璃と連続でデュエルを行った事が刺激になったのか、闇のアイテムは完全に力を取り戻した。

 なので、次の日には黒咲兄妹やユートたちのお世話になった人たちに挨拶をして、私は帰ってきた。

 

 他にも色々あったりはしたのだが、これらが私がエクシーズ次元で経験してきたことだ。この中から必要な情報だけを抜粋して赤馬社長に話した。

 

「成程。エクシーズ次元、ハートランドか……。

 そして、これがアカデミアが着けていた仮面。

 調べる必要があるな。こちらでその仮面は預かることにしよう。次元跳躍の足掛かりになるかもしれない。

 最後に言っておくが、次元戦争については他言無用だ。誰かに話したところで信用などされないだろうが、これはデリケートな問題だからな。忠告はしておく」

 

 そう言ってオベリスクフォースの仮面を奪い取った社長の眼鏡は光っており、マフラーがぶわーと風に揺られていた。

 ……ここ室内だよね?

 

 ーーー

 

「海外留学なら、一言ぐらい言ってよ!」

「ごめん、瑠璃……じゃなかった、柚子」

 

 赤馬社長に呼び出されていた私は、その日の学校は休んで塾に顔を出すことにしたのだ。

 一月ぶりの遊勝塾。連絡もなく学校にも塾にも来なくなった私のことは随分と心配されていたらしい。

 

 扉を開けて、既に始まっていた講義に遅れましたーと割り込むと、空気が凍った。

 

「遊歌!? 無事だったの!? 何があったの?

 一ヶ月も連絡がつかなくって、私、遊歌に何かあったんじゃないかって、心配で……」

「柚子なんてさ。毎日神社に藁人形と釘を持って行って、神主とデュエルしてお参りしてたんだぜ!

 まあ、遊歌が無事だったんならそれでいいさ!

 権現坂にも知らせないとな! 遊歌が居なくなって、あいつも随分心配してたからな」

「おかえり、遊歌お姉ちゃん!」

「しびれるくらい心配したぜ~」

 

 と、矢継ぎ早に声を掛けられた。

 その言葉の一つ一つが本当に心配していたのが分かるくらいに暖かくて。何故かもう居ない私の家族を思い出して、泣きたくなった。

 

 海外留学に行っていたんだ、と嘘か本当か分からない嘘を話す。エクシーズ次元は外国と言えなくもないよね。その場合は留学じゃなくてホームステイだけど。

 

「急に決まって、直ぐに行ったから、連絡する余裕がなかったの。だからお土産も無いのよ。

 アイスなら全員分奢るから、許してくれない?」

「別に怒ってないわよ。遊歌が無事だったんだから、それだけでいいの。……アイスは貰うけど」

「さっき権現坂にも連絡したから、アイスは七人分な! よし、だったらパーティーしようぜ!」

「パーティーならお菓子もいるよね!

 遊歌お姉ちゃん! 私も一緒にお買い物に行っていい? 自分でお菓子選びたいの! いいでしょ?」

 

 アユちゃんの言葉に頷いて、一気に騒がしくなった遊勝塾の空気に狼狽えている塾長に許可を求める。

 

「塾長、買い物に行ってきても良いですか?」

「今は講義中なんだがな……。まあ、遊歌ちゃんが帰ってきたんだ。今日ぐらいはいいか!

 よし、俺から少し軍資金をやろう! その範囲でお菓子も飲み物なんかも買っていいぞ!」

「やった! じゅくちょー、ありがとう!」

「しびれるくらい太っ腹だぜ~!」

 

 結局、塾長が折れたこともあり、今日の講義は休講になったのだった。

 

 ーーー

 

「公式戦、か……」

 

 この次元に帰ってきて、少しの時間が経った。

 塾に所属したといっても、公式大会に出なければいけないと言うことはない。プロになることだけを塾の目標としている訳ではないからだ。

 だが、否応なしに公式戦をする機会は訪れる。

 

 何故か。例外は有るとはいえ、公式戦に出るためには一定の試合数をこなす必要があるからだ。

 他の塾生たちとの対外試合などは受けなければならない、と言うことだ。塾に所属する以上これは避けては通れない道だった。

 

「遊歌、落ち着いて頑張ろう!」

「ああ! 遊歌の実力は高いんだから、落ち着いてやれば絶対勝てるって! 俺や柚子、アユやフトシに権現坂だって応援してるから!」

「ああ、うん。柚子や榊君も頑張って!

 デュエルが終わったら応援に行くからね」

 

 だが私の戦績は決まっている。

 0勝全敗である。引き分けでも問題はないのだけど、目立つと困るので負けた方がいいだろう。

 

 なので、儀式、融合、シンクロ、エクシーズは使えないとは言え、デッキはかなり遊んだ構築にできるのだ。

 ネクロフェイスでライフが20000近くになったときは、相手がサレンダーしないか心配だったり。

 スカル・フレイムとバーニング・スカルヘッドで骸さんごっこをしたりして負けてはきたのだ。

 

 だが、次の相手が問題だった。

 アイドルデュエリスト、ナナメさん。

 何故かローラースケートと言う時代錯、古式ゆかしいスタイルを守っている人物だ。

 困った。負けても目立つ気がする。

 

「今日の観客は塾の皆だけだけど、頑張るわよ!」

「はぁ……。よろしくね、ナナメさん」

 

 憂鬱だ。この人が悪い訳じゃないんだけどね。

 

「駄目だぞ! そんな暗い顔してちゃ!

 可愛い顔が台無しよ。もっと明るく笑わなきゃ!

 さあ、このデュエルで笑顔になりましょう!」

「ナナメさん……!」

 

 何て良い人なんだ! 失礼な態度を取ってしまっている私にこんな言葉を返してくれるなんて!

 

「私の先攻よ! 永続魔法《神の居城ーヴァルハラ》を発動。1ターンに1度、自分のフィールドにモンスターが存在しない時、手札から天使族モンスターを特殊召喚する!

 おいで《大天使クリスティア》!

 そして《勝利の導き手フレイヤ》を召喚!

 これでターンエンド。さあ、貴女のターンよ」

 

 何て、良い、人、なんだ……!

 ……ワンサイドゲームは、美しくないよね……。

 仕方ない。クリスティアは倒しますか。

 

【ナナメさん】

 LP4000

 手札2枚

 場 ATK3200《大天使クリスティア》

   ATK500 《勝利の導き手フレイヤ》

   永続魔法

   《神の居城ーヴァルハラ》

 

 レベル8 ATK2800

 《大天使クリスティア》

 

(《大天使クリスティア》。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚できない。

 その上、このカードがフィールドから墓地に送られる場合、デッキトップに強制的に戻される。

 《勝利の導き手フレイヤ》は他に天使族モンスターが居る時、このカードには攻撃はできず、自分フィールドの天使族モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。

 これで《大天使クリスティア》の攻撃力は3200。まったく、楽しくて顔が引き攣りそうね)

 

 神々しい光を放つ天使が席巻するフィールドをアンデットで汚してやろうと意気込んで、デッキトップのカードに指を掛ける。

 

「私のターン、ドロー。カードを1枚セット。

 そして《手札抹殺》を発動。この効果により、お互いの手札を全て墓地に送りその枚数分ドローする。私はカードを4枚捨てて、4枚ドローする。

 《業火の重騎士》を召喚して、伏せカードオープン。装備魔法《スーペルヴィス》! このカードを《業火の重騎士》に装備する!

 これで《業火の重騎士》はデュアル召喚された状態になり、効果を発動できる。

 バトル! 《業火の重騎士》で《大天使クリスティア》を攻撃。そして《業火の重騎士》は、特殊召喚されたモンスターを攻撃したダメージステップ開始時にそのモンスターをゲームから除外する。

 墓地には送られないので《大天使クリスティア》のデッキトップに戻る効果は発動しない。

 カードを2枚セットしてターンエンド」

 

 チャリオット・パイルの着いた馬に乗ってライディングデュエルを行う重騎士は神々しい光を放っていたクリスティアに突進し、突き飛ばし、その上で轢き逃げを行う。

 馬に轢かれたクリスティアは物言わぬ体になって消えていった。

 

【遊歌】

 LP4000

 手札1枚

 場 《業火の重騎士》

   装備魔法

   《スーペルヴィス》

   伏せカードが2枚

 

「嘘っ。《大天使クリスティア》がこんなに早く処理されるなんて……! でもデュエルは始まったばかり。まだまだ先は分からない!

 私のターン。ドロー! 私は永続魔法《コート・オブ・ジャスティス》を発動。これで自分フィールド上にレベル1の天使族モンスターが存在する場合、手札から天使族モンスターを特殊召喚できる!

 軍神であり女神! 特殊召喚! 《アテナ》!

 そして《死者蘇生》を発動して墓地からもう1体の《アテナ》を特殊召喚する! 来て《アテナ》!

 そして《アテナ》の効果! 自分フィールドに天使族モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時、相手に600ポイントのダメージを与える!」

 

 盾を持つ軍神。アレスと並び称される最高の軍神の一柱が、光と共にフィールドに降臨する。

 美しい長髪を靡かせ、右手に持つ矛を私に向ける。気合いの発声と共に矛から光が発され、私に襲いかかった。

 

【ナナメさん】

 LP4000

 手札0枚

 場 ATK3000《アテナ》

   ATK3000《アテナ》

   ATK500 《勝利の導き手フレイヤ》

   永続魔法

   《神の居城ーヴァルハラ》

   永続魔法

   《コート・オブ・ジャスティス》

 

 レベル7 ATK2600 《アテナ》

 

「罠発動。《ダメージダイエット》!

 このカードの効果により、このターンに私が受けるダメージを全て半分にする!」

 

 ダイエットは我慢! と心に決めて。

 私へのダメージは半分の300に減った。

 

「でも私のターンはまだまだ続くわよ!

 《アテナ》の効果を発動! 1ターンに1度《アテナ》以外の天使族モンスターを墓地に送り、墓地から《アテナ》以外の天使族モンスター1体を特殊召喚する。

 私は《勝利の導き手フレイヤ》を墓地に送って、墓地から《マドルチェ・エンジェリー》を特殊召喚!

 そして《アテナ》の効果が2枚とも発動! 本当は1200のダメージだけど、600のダメージよ!

 ここで《マドルチェ・エンジェリー》の効果を発動! このカードをリリースすることで、デッキから『マドルチェ』モンスターを特殊召喚する!

 これがプリンのお姫様! 《マドルチェ・プディンセス》をデッキから特殊召喚!

 もう一回《アテナ》の効果! 600のダメージ!

 美味しそうなプリンでしょ? でも貴女はダイエット中。ダイエットは我慢。貴女にはお・あ・ず・け。

 《アテナ》の効果! 《マドルチェ・プディンセス》を墓地に送って、墓地から《勝利の導き手フレイヤ》を特殊召喚!

 《アテナ》の効果で600ダメージ!」

 

 美味しそうなゼリーが現れて、プリンが現れて、しかし最後にはフレイヤに変わってしまった。

 リアルソリッドビジョンって、酷い。香りまで再現してるなんて……。だ、ダイエットは、我慢!

 ああ……。プリン、マカロン、タルト……。

 

「バトルよ! 《アテナ》で《業火の重騎士》に攻撃! そのカードの除外効果は攻撃する時のみ! 攻撃される時には発動できない!」

「だけど《スーペルヴィス》が墓地に送られたことで効果が発動する。自分の墓地から通常モンスター1体を選択して特殊召喚する!

 おいで《地獄の門番イル・ブラッド》!」

 

 イル・ブラッドはデュアルモンスター。デュアルモンスターはフィールド・墓地では通常モンスターとして扱われるのだ。

 

「でもその子じゃ《アテナ》の攻撃は防げない!」

「墓地から《タスケルトン》を除外する!

 これで2体目の《アテナ》の攻撃は止まり《勝利の導き手フレイヤ》では《イル・ブラッド》に届かない」

 

 地獄の門番の腹に空いた空間からタスケルトンが飛び出し、アテナの矛に貫かれて破裂する。

 だがタスケルトンは骨だけになりながらもその衝撃を受け止め、儚くも散っていくのだった。

 

「…………耐えきられちゃったか。ターンエンド!」

「エンドフェイズに罠発動。《裁きの天秤》!

 相手のフィールド上のカードの枚数が私の手札・フィールドのカードの合計枚数より多い時に発動できる。その差の枚数分カードをドローする!

 貴女のフィールドのカードは5枚。私の手札・フィールドのカードの合計は3枚。よって私はその差の枚数の2枚、デッキからドローする!」

 

【ナナメさんじゅうごど】

 LP4000

 手札0枚

 場 ATK3000《アテナ》

   ATK3000《アテナ》

   ATK500 《勝利の導き手フレイヤ》

   永続魔法

   《神の居城ーヴァルハラ》

   永続魔法

   《コート・オブ・ジャスティス》

 

【遊歌(ダイエット中)】

 LP1300

 手札3枚

 場 《地獄の門番イル・ブラッド》

 

「私のターン! ドロー!

 《トレード・イン》を発動。《闇より出し絶望》を墓地に送って2枚ドローする。

 更に《アームズ・ホール》を発動。このターンの通常召喚権を放棄し、デッキトップのカードを墓地に送る。そしてデッキ・墓地から、装備魔法を1枚選択して手札に加える。

 私は《スーペルヴィス》を手札に加えて《イル・ブラッド》に装備。これで《イル・ブラッド》はデュアル召喚された状態になる。

 デュアル召喚した《イル・ブラッド》は墓地・手札からアンデット族モンスターを特殊召喚できる。

 現れ出ちゃえ! 《闇より出し絶望》!」

 

 地獄の門番が冥界の扉を開け放ち、パンドラを開けた。そこから現れたのは暗い闇だ。真っ暗な闇。

 そこには何もない。何もなかった。

 ただただ焼けた後があっただけ。あんなに大切だったのに。最後の言葉すら私には許されなかった。

 この闇はそんな誰かの絶望すら飲み込んで。暗くくらく澄んだ、終着点の焼却場。叶わない(燃えない)想い(ゴミ)

 

 レベル8 ATK2800 《闇より出し絶望》

 

「更に永続魔法《奇跡のピラミッド》を発動する。このカードの効果は貴女のフィールドに存在するモンスターの数×200の攻撃力を、自分フィールド上のアンデット族モンスターに加える。

 これで《闇より出し絶望》の攻撃力は3400。

 バトル! 《闇より出し絶望》で《アテナ》に攻撃! ディスペアー・オブ・ダークネス!」

「きゃぁああっ! っ《アテナ》が戦闘破壊された……。だけど《アテナ》はもう一体いる!

 そして貴女の《地獄の門番イル・ブラッド》じゃあ《アテナ》の攻撃力3000は越えられないし《勝利の導き手フレイヤ》には《アテナ》が居る限り攻撃できない!」

「私はカードを1枚セットしてターンエンド!」

 

 返事をせんかぁ! と言われそうな行為。

 だが実際にアテナは倒せないので仕方ないよね。

 

【ナナメさん】

 LP3600

 手札0枚

 場 ATK3000《アテナ》

   ATK500 《勝利の導き手フレイヤ》

   永続魔法

   《神の居城ーヴァルハラ》

   永続魔法

   《コート・オブ・ジャスティス》

 

【遊歌】

 LP1300

 手札1枚

 場 ATK3200

   《闇より出し絶望》

   ATK2500

   《地獄の門番イル・ブラッド》

   装備魔法

   《スーペルヴィス》

   永続魔法

   《奇跡のピラミッド》

   伏せカードが1枚

 

(っ、絶妙な布陣ね……。《アテナ》と《勝利の導き手フレイヤ》だけじゃ、絶対に《闇より出し絶望》の攻撃力を越えられないようにデザインされてる。

 《奇跡のピラミッド》の効果上、一体のみのモンスターで攻撃力3000を越えるか、二体のみのモンスターで攻撃力3200を越えなくちゃいけない。

 でも、私の布陣じゃ《アテナ》と《勝利の導き手フレイヤ》の二体で3000。絶妙に届かない。

 私に取っては絶対に越えられない絶望ね。

 じゃあ狙いは《地獄の門番イル・ブラッド》!)

「私のターン! ドロー!

 《アテナ》の効果を発動! 《勝利の導き手フレイヤ》を墓地に送り、墓地から《マドルチェ・エンジェリー》を特殊召喚する!

 そして《アテナ》の効果が発動する! フィールドに天使族モンスターが特殊召喚された時、貴女に600ポイントのダメージを与える!」

 

 アテナが手に持つ矛が再び私に向けられて。

 

「墓地から《ダメージダイエット》を除外!

 その効果で私への効果ダメージは半分になる!

 更に罠発動! 《魔のデッキ破壊ウイルス》!

 《闇より出し絶望》をリリースして発動。貴女のフィールド・手札・貴女のターンで数えて3ターンの間にドローしたカードを全て確認して、その中から攻撃力1500以下のモンスターを全て破壊する。

 《マドルチェ・エンジェリー》の攻撃力は1000。魔のデッキ破壊ウイルスに感染する!

 残念ながら、そのゼリーは消費期限切れよ!」

 

 闇より出し絶望が弾ける。黒い泥の様に辺りに飛び散って、私の顔やナナメさんの衣装にも飛び散る。

 アイドルの衣装を汚しちゃた。このデュエルが終われば取れるから、許して欲しい。

 

 顔に着いた黒い付着物を拭ってナナメさんを見ると、難しい顔でデッキを見つめて悩んでいた。

 このデュエルに本気で向き合って、勝とうと思ってくれているのだろう。本気を出せないで、負ける気で挑んでいる私にとって眩しい存在だ。流石は本物のアイドルである。

 

「私の手札は《天空の宝札》、魔法カードよ。

 そして《マドルチェ・エンジェリー》が相手によって破壊され墓地に送られた場合、デッキに戻す」

(《マドルチェ・エンジェリー》がデッキに戻ることを理解して、その上で一発逆転の《オネスト》すら封じられた。私の1歩も2歩も先を読まれてる。

 強い。何でこんな実力者の戦績が全敗なの?)

 

 ナナメさんが私を見て、何か言いたそうな顔をした後、頭を振ってデュエルが再開された。

 

「……バトル! 《アテナ》で《地獄の門番イル・ブラッド》を攻撃! 貴女のモンスターの攻撃力は2300で、私の《アテナ》は2600。300のダメージよ!」

「墓地に送られた《スーペルヴィス》の効果で墓地から《地獄の門番イル・ブラッド》を特殊召喚!」

「……くっ、倒しても倒しても終わりが全然見えない……。私はこれでターンエンドよ!」

 

【ナナメさん】

 LP3600

 手札1枚(天空の宝札)

 場 《アテナ》

   永続魔法

   《神の居城ーヴァルハラ》

   永続魔法

   《コート・オブ・ジャスティス》

 

【遊歌】

 LP700

 手札1枚

 場 ATK2300

   《地獄の門番イル・ブラッド》

   永続魔法

   《奇跡のピラミッド》

 

「私のターン。ドロー!

 《地獄の門番イル・ブラッド》をデュアル召喚!

 そして《地獄の門番イル・ブラッド》の効果を発動。墓地より《闇より出し絶望》を特殊召喚する!

 バトルよ! 《闇より出し絶望》で《アテナ》に攻撃! ディスペアー・オブ・ダークネス!」

「きゃぁああぁあぁぁああああっ!」

 

 フィールドに唯一残るアテナに絶望が覆い被さり、アテナが絶望で黒く染まっていく。

 最後には無気力な、諦感だけを残した瞳を私に向けて、彼女は居なくなった。

 

「まだ私のバトルフェイズは終了していない! 《地獄の門番イル・ブラッド》でダイレクトアタック!」

「きゃっ。んっ! っ、私はまだ死んでない!」

 

 死んでないなら可能性はあるんだ! と彼女は私に向かって啖呵を切る。絶望に立ち向かってくる。

 私は薄く笑う。この人は私と違って強いのだ。

 

「カードを1枚セットして、ターンエンド!」

(私が伏せたのは《闇のデッキ破壊ウイルス》。

 攻撃力2500以上の闇属性モンスターをリリースして発動する罠。魔法か罠のどちらかを宣言し、相手のフィールド・手札・相手のターンで数えて3ターンの間にドローしたカードの中から、宣言した種類のカードを全て破壊する。

 これを使えば、私の勝ちでしょうね。

 彼女のデッキには、恐らく殆ど罠カードはない。上級天使族モンスターとサポート用のモンスター、デッキの潤滑油とメインエンジンの魔法カードで構築されていると見て良いでしょう。

 だからこそ、このカードはトドメになる。

 それ故に発動できない訳だけど。伏せちゃったのはデュエリストとしての本能のようなものかな……)

 

【ナナメさん】

 LP1100

 手札1枚(天空の宝札)

 場 永続魔法

   《神の居城ーヴァルハラ》

   永続魔法

   《コート・オブ・ジャスティス》

 

【遊歌】

 LP700

 手札1枚

 場 《闇より出し絶望》

   《地獄の門番イル・ブラッド》

   永続魔法

   《奇跡のピラミッド》

   伏せカードが1枚

   (闇のデッキ破壊ウイルス)

 

「私のターン! ドロー!

 《一時休戦》を発動! お互いにカードをドローして、次の私のターンまでお互いにダメージはない。

 私が引いたカードは《デュミナス・ヴァルキリア》! 攻撃力1850よ。1500以上なので《魔のデッキ破壊ウイルス》には感染しない!

 次の私のターン終了時までこの効果は続いてる。だったら、私は自分のデッキを信じてこのカードを発動する! 魔法発動《天空の宝札》!

 このカードを発動するターン、私は特殊召喚を行えずバトルフェイズにも入れない。でも、手札の光属性の天使族モンスターを除外することでカードを2枚ドローできる!

 ……私が引いたカードは《七星の宝刀》と《ジェルエンデュオ》! 魔法カードと攻撃力1700のモンスター! よって《魔のデッキ破壊ウイルス》には犯されない!

 私はこのままターンエンド!」

「私のターン。ドロー。エンド!」

 

 何もしない。これ以上やれば相手は完全に詰む。

 今でもちょっとやり過ぎたかな、と柚子の時と同じような感想を抱いてはいるのだ。とは言え、一応は状況を打破できるようにはしてある。

 意味があるかは分からないが、大天使クリスティアの為に相手の墓地の天使族モンスターを4体にしたり、アテナの効果ダメージや超過ダメージで終わるようにイル・ブラッドを攻撃表示のままで残しておいたりと。色々と考えてデュエルはしているのだ。

 

「私のターン! ドロー!

 私が引いたのは《光神化》! 速攻魔法! よって《魔のデッキ破壊ウイルス》には感染しない!

 モンスターを1枚セットして、ターンエンド! これで《魔のデッキ破壊ウイルス》の効果は終了する!」

 

【ナナメさん】

 LP1100

 手札2枚(《光神化》と《七星の宝刀》)

 場 伏せモンスターが1体

   (ジェルエンデュオ)

   永続魔法

   《神の居城ーヴァルハラ》

   永続魔法

   《コート・オブ・ジャスティス》

 

(速攻魔法《光神化》。《地獄の暴走召喚》との組合せが有名なカード。《翼を織りなす者》と《デルタ・アタッカー》による直接攻撃とか、単純に《アテナ》を並べるのかしら。

 どちらにしろ、これらのカードが使われる時が、晴れて私の敗北の時にもになるでしょうね)

「私のターン。ドロー! バトルよ!

 《闇より出し絶望》でセットモンスターに攻撃! ディスペアー・オブ・ダークネス!」

「《ジェルエンデュオ》は戦闘で破壊されない!」

 

 ピンクと薄緑の天使が絶望の周りをくるくると舞って、攻撃してきた絶望(モンスター)をからかっていた。

 

「メインフェイズ2に移行。《封印の黄金櫃》を発動して、デッキから《不知火の宮司》を除外する。

 《不知火の宮司》が除外された場合、相手フィールドの表側表示のカード1枚を破壊する。

 私は《ジェルエンデュオ》を破壊するわ。

 これで貴女を守る壁は消えた。ターンエンド!」

 

【遊歌】

 LP700

 手札3枚

 場 《闇より出し絶望》

   《地獄の門番イル・ブラッド》

   永続魔法

   《奇跡のピラミッド》

   伏せカードが1枚

   (闇のデッキ破壊ウイルス)

 

「っ、私のターン。ドロー!

 《シャッフル・リボーン》を発動! 私のフィールドにモンスターが存在しない時、墓地からモンスターを1体特殊召喚する。ただし、そのモンスターの効果は無効化される。

 私は墓地から《アテナ》を特殊召喚する!

 そして《七星の宝刀》を発動。手札・フィールドからレベル7のモンスターを除外して2枚ドローする。フィールドの《アテナ》を除外して2枚ドロー!

 っ、これじゃ足りない。なら、リスクを承知で賭けにでる! 私は墓地から《シャッフル・リボーン》を除外することで効果を発動。自分のフィールドの表側表示のカード1枚をデッキに戻して、1枚ドローする!

 私は《コート・オブ・ジャスティス》を戻す」

 

 彼女は目を閉じて、ゆっくりと指をデッキトップのカードに掛ける。

 暫く精神統一でもするように集中して、彼女に呼応するように観客も静かになっていく。

 そして。

 

「っラスト、ドロー! ……やった、揃った!

 速攻魔法《光神化》発動! 手札から《翼を織りなす者》を特殊召喚。攻撃力は半分の1375よ!

 よって速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! デッキから2体の《翼を織りなす者》を特殊召喚する!」

「私は《地獄の暴走召喚》の効果でデッキから《闇より出し絶望》を1体特殊召喚する」

 

 もう一体の絶望が出現し、フィールドに重苦しい瘴気が立ち込めていく。だが、上空から3体もの天使が現れて瘴気を払ってしまい、空からは夕陽が射し込んでいた。

 

「そして、これがラストアタック!

 魔法発動! 《デルタ・アタッカー》! 自分のフィールド上に同名の通常モンスターが3体存在する時、そのモンスターたちは直接攻撃できる!」

 

【ナナメさん】

 LP1100

 手札0枚

 場 ATK1375

   《翼を織りなす者》

   ATK2750

   《翼を織りなす者》

   ATK2750

   《翼を織りなす者》

   永続魔法

   《神の居城ーヴァルハラ》

 

「さあ、バトルの時間よ!

 攻撃力1375の《翼を織りなす者》と、攻撃力2750の《翼を織りなす者》2体で貴女に直接攻撃!

 セラフィム・サンシャイン! 三連打!」

「っあぁあぁぁああぁああぁああああっ!」

 

 【遊歌】 LP700→LP-6175

 

「私の、勝ちよ! 結さん、対戦ありがとう!

 そして観客(塾の人しか居ない)の皆、応援ありがとう! 次のデュエルも応援してねっ!」

 




 遊戯王ARC-V40話より、斜芽(ナナメ)美伎代(ミキヨ)さんでした!
 遅くなりました。デュエルを書き直していたり、ペンギンが空を飛んだり、ちょっと初期プロットを改造したりしていたのです。流石にBADエンドはヤバイ気がしちゃったのです。

 最後に時系列と遊歌のプロフィールを載せておきます。
 本当は小説内で分かりやすく描写したかったのですが、そろそろプロローグが終わるのでよかれと思って纏めておきました!

【時系列】

遊歌中学1年
4月1週……Dホイールでクラッシュ。
4月2週……退院。初登校。
4月3週……遊勝塾に興味を持つ。
5月1週……Dホイールでクラッシュ(2回目)
5月3週……遊勝塾に見学に行く。
5月4週……闇の儀式を執り行う。
     遊勝塾に入塾、入塾パーティー。
6月3週……野生の赤馬社長が現れた!
6月4週……エクシーズ次元に次元漂流。
     黒咲たちとのデュエル。
7月4週……ユートとエキシビジョンデュエル。
8月1週……遊歌がスタンダード次元に戻ってくる。
9月1週……ダイエット中にナナメさんとデュエル。

遊歌中学2年
時期不明(恐らく夏)……原作開始。

【簡易人物紹介】
 (つむぎ)遊歌(ゆうか)
・身長……素良君と変わらないか、それ以下。
・体重……3xうわ何をするやめ……
・3サイズ……『Bあるもん!(鯖が2匹)』
・結は本名。だから嫌いです。
・裏デュエル界のクイーンと体型も声もそっくりな人物。仮面装着時とデュエル中は性格が変わります。
・闇のデュエル常習犯。ただし裏デュエルと併用か、始める前に必ず確認と許可は取っています。
・遊戯王Zexalまでの知識を引き継いではいますが、ペンデュラム関係のカードや、(アークファイブの)主要キャラのカードは知りません。
・エースキャ↑ードは《冥界竜ドラゴネクロ》
???<もっと出して欲しいなって!
シャッフル・リボーン<悔しいでしょうねぇ
・デッキは『アンデット』。
 ですが有名なデッキは大体回せるそうです。
・メタ的な話をすると、今の精神状態は充分狂気に彩られています。複雑な心理状態なので、いつかは解説が入るかもしれない。
 私の文章力不足ですまない……。

「私はアンデッド(化物)。幸せは要らない。
 でも意味が欲しい。価値が欲しい!
 私はここに居ても良いんだって、そう認められるような。だから闇のデュエルをしましょう!
 命を賭けるって、()()()()()()よね」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。