遊戯王ARC-V Undead Duelist 仮面を添えて。   作:羽吹

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【注意】
前編です。長くなったので2話に分けました。
また、少しだけグロテスク描写があるかも知れません。かなり軽いので大丈夫でしょう(主観)。この話以降はそういった描写はありません。



その■■■、■■。

 

 海を越えて渡り鳥が飛んでいる。

 無断侵入した海岸沿いの倉庫街はとても静かで、波の音だけが鼓膜を揺らしていた。集団で飛行するツバメが忙しそうに左から右へと飛び去っていた。

 

「…………遅い」

 

 遊歌は思わず呟いて、デュエルディスクを起動する。腕時計は着けていないので、時間を確認するには携帯端末を起動するのが手っ取り早いのだ。

 電源を落としてブラックアウトする画面に写る自分の姿を見て、遊歌は溜め息を一つこぼす。潮風に煽られた髪は湿り気を帯びていて、肌は軽くベタついている。

 

 そもそも遊歌が海岸沿いの倉庫辺り(ここ)に居るのは黒咲に呼び出されたからだ。連絡があったのが昨日の夕方のことで、瑠璃について話があると言われたのが発端である。

 それはつまり、中学生女子が男性に人気のない場所に呼び出されたと言うことだ。普通は危険を感じて行かないが、呼び出した張本人である黒咲は不審者のエリートであると同時に遊歌の友人だ。想定される問題は起こり得ないだろう。万が一の場合は瑠璃(友達)のお兄さんが行方不明になるかもしれない。闇に呑まれたのだ。やみのまっ!(物理)

 

「もう一時間は待ってるんだけど……」

 

 流石に遅すぎる。今度会ったら何か皮肉でも言ってやろうと思いながら、暇潰しに自分のデッキを弄る。

 潮風でこの世界のカードが痛むことはないが、肌や髪は別である。もう一度現状を確認しようと、デッキを収納しながらデュエルディスクのディスプレイを眺めて──

 

 ──背後の倉庫、その屋上から、デュエルディスクを構えながら飛び降りる黒咲の姿が映り込んだ。

 

「切り裂け《ライズ・ファルコン》! ブレイブクロー・レボリューション!」

「っ、《イモータル・ルーラー》!」

 

 刹那のモンスター召喚、衝突によって、一列に並んでいたツバメが散り散りにに飛び立ち、静寂を保っていた倉庫街に甲高い音が生まれる。

 

 インパクトの後、ライズ・ファルコンの突撃をイモータル・ルーラーがしっかりと受け止めていた。

 流石はイモータル・ルーラーさんだ。数多い星4のアンデット族モンスターの中でも唯一と言っていい特殊召喚不可のユニークモンスター。ルーラーの名に恥じないその効果を持ってライズ・ファルコンを完全に攻略している。

 

「《ライズ・ファルコン》が止められただとっ!」

「ふふっ、これこそアンデット族が誇る不死の(イモータル)調停者(ルーラー)。別名ライズ・ファルコン・キラーよ。特殊召喚できないから効果の対象にならないっ!」

「やめろっ! これ以上の追撃はお前の誇りに傷を着けることになる……!」

 

 黒咲の言葉はもっともだった。突然の攻撃に対応するために引いたデッキトップのカードが彼だったのだ。颯爽と助けに来てくれたイモータル・ルーラーさんを馬鹿にすることは許されない。

 ……例えデッキに入れた覚えがなかったとしても、だ。ホラーである。

 

「それと、すまない遊歌。お前が本物かどうか確かめさせてもらった」

「……そう。そう言う事があったんだ」

 

 遊歌はスタンダード次元に戻ってきてからは、エクシーズ次元の様相を知る機会も術も無かった。

 良い方向に変わっていくことを願ってはいたが、その思いは通じなかったらしい事が黒咲からは感じられる。

 

「大丈夫だ。レジスタンスは健在している。キャンプの皆も無事だ。……たった一人を、除いてだが……」

「…………黒咲? どうしかした?」

「いや、何でもない。ここまで来て、まだお前を巻き込むべきかどうか迷っている自分に辟易していただけだ」

「…………」

 

 沈痛な表情の黒咲から次第に怒気が高まっていくのを感じ、その衝動を無理矢理押さえつけるように黒咲は唇を強く噛んだ。

 その様子にエクシーズ次元での出来事に瑠璃が関わっていることを遊歌は察して、取りあえずは落ち着ける場所まで移動すべきだと結論付ける。ここだと肌にも悪い。

 

「場所を変えましょう。人気のないカフェを知ってるから、そこに行かない? ラビッ○ハウスって言うの」

 

 このライズってファルコン可愛い。

 ではきっとない。ないったらない。兎も居ない。

 

「そう言えば、何で一時間も遅刻したの?」

「ああ。昔話の巌流島にもあるだろう。相手を焦らせ、隙を見出だすためだ」

「…………」

 

 遊歌は白い目で黒咲を見上げる。

 そんなことの為に自分は一時間も待たされたのかとか隙を見いだす意味はどこにあるのかとか、そもそも巌流島で遅れたことは史実ではないとか色々言いたかったが、その全てを遊歌の目が語っていた。

 

   ☆★☆

 

「ブルーアイズマウンテンです。3000円です」

「シンクロ弁当もつけてください」

 

 このメニューはシンクロ弁当とセットなのだ。ハッピーセットである。夕食にはちょっと早いけどもう食べちゃおうと考えたのだ。

 瑠璃の話を聞いた直後は食事が喉を通らなくなる可能性を考慮したことは嘘ではない。

 

「クイーンですね」

 

 白い髪の店員さんが返してくる。

 このメニューは通称キング・セットであり、女性が頼むのならクイーン・セットなのだ。

 だが恥じることはない。結遊歌はクイーンなのだ。

 

「クイーンです」

「太りますよ」

「…………」

 

 言葉が遊歌に痛烈に突き刺さった。

 店員さんからブルーアイズマウンテンを受け取って、ブラックで一口。あつい。二杯めはミルクでも入れようかな、と考えながら目の前で黙ったままの黒咲を盗み見る。

 黒咲は目の前に置かれたミルクに手も着けず、ただただ黙して座っている。

 

 この店には遊歌と黒咲以外の客は居ない。店員さんは白いのと黒いのと黄色いのがいるけれど、それぞれ仕事をしていて聞き耳を立ててもいない。この場所なら話をしても誰かに聞かれることはないのだ。

 それを分からない黒咲でもない。遊歌が連れてきたこの店なら信用に値することも理解している筈。

 話さないのは、未だに迷っているのか、言葉を探しているかのどちらかだろう──そう遊歌は考えて、運ばれてきたシンクロ弁当を前に、いただきます、と手を合わせる。

 

「お前が食べ終わるのを待っているだけだ」

「あっ、うん。ごめん、ちょっと待ってね」

 

 間違っていた。

 しかし、その後も黙して何かを呟く黒咲の様子は完全な間違いでは無かったことも証明していた。

 

 

「瑠璃が、アカデミアに、拐われた」

 

 遊歌がシンクロ弁当を食べ終わったのを契機に黒咲が口を開いた。遊歌はシンクロ弁当を食べ切るのに時間が掛かったので、その言葉は重厚だ。

 仕方のないことだったのだ。脂っこい揚げ物で構成された弁当は遊歌にとって厳しい戦いだった。途中で油ものに気分を悪くした遊歌だったが、黒咲は黙して気付いて貰えず、泣きそうになりながらゆっくり食べ進めて完食したのだ。

 もう二度とシンクロ弁当は頼まない決意を固める遊歌に、黒咲の話が追撃として襲いかかる。

 

 一言づつ区切って、ゆっくりと話を始める黒咲は微かに震えていて、それが瑠璃を拐われた怒りなのかアカデミアに瑠璃が酷い目にあっているかもしれない屈辱に依るものなのか、遊歌には判断がつかない。

 確かな事は、黒咲が既に追い詰められていて、必死な状態であることが分かるだけだ。

 

「少し、前のことだ」

 

 爆発しそうな感情を抑えて、黒咲は続ける。

 

「小規模のアカデミアによる襲撃があった。俺やユートは迎撃に入り、アカデミアを難なく追い返した。

 だが奴等は同時期にキャンプに潜入し、瑠璃を拐っていったらしい。サヤカがそう訴えていた。詳しい内容は語ってはくれなかったが、間違いはないだろう。

 事実、その日から瑠璃が消えた」

 

 血の滲むような黒咲の述懐を聞いて。

 

「……サヤカが。そう、確かにあの子は嘘をつけるような子じゃ無かった。信用出来ると思う」

 

 遊歌は否定も慰めもしない。

 黒咲たちレジスタンスにとって気休めに意味はない。大事なものは後悔ではなく、これからの指標だ。少なくとも遊歌はそう感じていた。

 事実、黒咲は過去に、その時に、自分だけは瑠璃の側に居ておけば良かったなどとは言わなかった。吐き出したいであろう懺悔を一言も口にしなかった。

 そして今、黒咲はこのスタンダード次元にいるのだ。

 それは、

 

「頼む、遊歌。俺たちは瑠璃をアカデミアから救い出す。絶対に、救い出して見せる。

 その為にお前の力を借りたい。レジスタンスに、いや瑠璃に、力を貸してくれないか」

 

 未来を見ていると言うこと。

 

 頭を下げる黒咲を見て、

 遊歌は、

 返事を、しなかった。

 

 返事が、できなかった。

 

   ☆★☆

 

 かつん、と。

 時計の長針が音を立てて時を刻んだ。

 

 遊歌は俯いていた。ずっとずっと俯いていた。

 目の前には頭を下げたままの姿勢で黒咲が立っていて、静かなカフェはそのままの時を過ごしていた。

 

 どれだけの時が過ぎたのだろうか。一時間かも知れないし、一分かも知れない。黒咲の相対時間と遊歌の相対時間が著しく乖離していて、遊歌は一言も発することができないでいる。

 俯く遊歌が何の言葉も発しないことを理解した黒咲は、静かに頭を戻した。

 

「そう、か。悪かったな、急にこんな事を言い出して。大丈夫だ、お前がいなくても瑠璃は必ず救い出す」

 

 そう言って黒咲は再び椅子に腰かける。黒咲の体重で椅子が小さく悲鳴をあげて、その振動が遊歌を揺らす。

 

「…………ぁ……」

 

 何かを口にしようとして、だけど遊歌は口ごもった。小さく呟かれた意味の無い言葉だけが静寂を支配したが、黒咲が頭を降ることでその独裁も終わりを告げる。

 

「いいんだ。気にするな。これは俺たちレジスタンスの、いや、俺たち()()の問題だ。お前であれ、本来は誰にも頼るべきではないんだ。

 だからこそ、俺は一人でこのスタンダード次元に来た。ユートすら、置いてきたんだ。なのにお前に頼るとは、俺も随分と追い詰められていたらしい」

 

 普段は口数の少ない黒咲が、珍しく大量の台詞を紡いでいる。

 それは返事をしなかった遊歌を責めているのではない。寧ろ逆であり、頼みに応じなかった遊歌に問題があるのではなく、頼みを出した自分にこそ問題があったのだと述懐する行為。不器用ながら遊歌を気遣う黒咲の良心として遊歌に届くべきものだった。

 ただ、

 

「か、ぞく……」

 

 ただ、黒咲は知らなかっただけなのだ。

 『家族』という言葉が遊歌に与える、冷たくて、暖かくて、痛くて、嬉しくて、惨めで、熱い、そんな複雑な感情を。

 

 そして、遊歌はそのまま何の言葉も発しなくなった。

 

 

 ぽつん、と。

 時計の短針が音を立てて時を刻んだ。

 

 身動ぎ一つしないでただただ遊歌は蹲っている。

 目の前には優雅に椅子に腰かける黒咲が温くなったミルクを気まずそうに口に含んでおり、今黒咲を笑わせることができれば大惨事を引き起こすことができる状態だった。

 

「……遊歌。俺はお前にこれ以上何を言えばいいのか分からない。言うべき言葉も持っていない。

 だが、少しだけでいい。俺の質問に、できるなら答えてくれないか」

 

 ゆっくりと、慎重に。できるだけ言葉を選んで黒咲が遊歌に話しかける。その言葉は非常に柔らかく、本当に黒咲が発したものなのか疑わしくなるほどだったが、次に続いた言葉は、

 

「遊歌、お前は赤馬零児を知っているな?」

 

 鋭く、澄んでいた。

 

「俺たちレジスタンスはアカデミアの連中を捕縛して話を聞いた。その中で知ったことは、アカデミアが『アークエリア・プロジェクト』なるものを進めており、その為に俺たちエクシーズ次元の人間をカードにしていること、それとその計画を推進しているのがプロフェッサー、赤馬零王だと言うことだ」

 

 黒咲は目に剣呑な光を宿しながら淡々と話を続ける。

 俯いていた遊歌もその話に興味があるのか、少しだけ顔を上げて、だけど言葉どころか相槌もうたずに話を聞いていた。

 

「その中で、プロフェッサー赤馬零王の実の息子がスタンダード次元に居ることも判明した。

 それが赤馬零児だ。そして、俺とユートの二人だけはその名前に心当たりがあった」

 

 黒咲が真っ直ぐに遊歌の目を見る。

 遊歌の瞳に、無表情の黒咲がはっきりと映る。

 

「お前が言っていた眼鏡マフラー。

 その本名が、赤馬零児だったはずだ」

 

 遊歌がこくんと小さく頭を縦に振る。肯定を示すジェスチャーだ。別名頷くとも言う。

 頷いた遊歌を確認した黒咲は静かに上を上を見上げて、ミルクを飲んで心を落ち着かせる。

 

「俺は、お前を信じている。俺とのデュエルの時に感じたお前に嘘はなかった。お前はアカデミアとは関係ない。

 だが、俺は赤馬零児を信用していない。遊歌をエクシーズ次元に飛ばしたこと、その上に俺たちをカードにしようとする連中のトップの息子だ。信用できる筈がない」

 

 言葉尻は力強く。吐き捨てるように黒咲が言葉を紡ぎ、ことん、と音を立ててテーブルに空になったミルクのグラスを置いた。

 そのまま遠目に見ていた黒い店員に声をかけて、O☆KA☆WA☆RIを要求する。

 

「すまない。ミルクでも貰おうか」

「は、はいっ! 今すぐお作りしますね!」

 

 黒い店員が小走りで厨房に向かう。その途中で躓いてグラスを黄色い店員にぶつけてしまうが、宙を舞うグラスは白い店員に無事キャッチされた。着地持に黄色い店員を踏みつけたが。

 痛みで奇声を発する黄色い店員を白い店員が宥めつつ、黒い店員が新しいグラスにミルクを注いで黒咲まで運んでいった。

 黒咲は運ばれてきたミルクで舌を湿らせつつ話を再開させる。

 

「俺は赤馬零児を赤馬零王との交渉の材料に、即ち人質とする為にこのスタンダード次元に来た。

 遊歌、赤馬零児について何か知っていることはないか? アカデミアと赤馬零児との関係が分かれば最善だが、高望みはしていない。どんな小さなことでも良い。俺に教えてくれないか?」

 

 ついっ、と冷めたブルーアイズマウンテンを口に流し込む。食道を苦味が凌辱し、胃が躍然と活動を再開して、便乗して二枚ドローするように心臓がとくんと跳ねる。

 遊歌の体に暖かさが戻ってくる。燃え尽きる事のできなかった、親不孝な肉体は嘲笑うように健康で。遊歌は悔しさに瞑黙した。

 

「黒咲。その問いに対する答えは、『私は答えたくない』に終始するわ。だけど、私は貴方を見捨てる気なんて更々ない。

 だから、私が貴方と赤馬零児を引き合わせましょう。仲介人をしてあげる。聞きたいことがあるなら、そこで本人に聞くと良い」

 

 言葉を言い切ると同時に、何か言いたそうな黒咲の機先を制するように手で白い店員を呼ぶ。

 鼻白んだ黒咲は顔を微かに歪ませてミルクを口に含んだ。飲みすぎないか心配になる。

 

「ブルーアイズマウンテン、二杯目お願いしていいかな? ミルクや砂糖は自分で調節したいから持ってきてくれない?」

「はい。分かりました」

 

 白い店員はマイペースにカップを片付けると、黄色い店員をあしらいながらテキパキと珈琲を淹れて運んできた。

 目で続きを促してくる黒咲を流し見て、ゆっくりと香りを楽しんでブルーアイズマウンテンを飲む。黒咲に先程の答えの整理する時間を与える為の行為だが、一歩間違えば鬼畜行為になりかねないことに遊歌は気付いていない。天然のエスっ気だった。

 

「お前は、赤馬零児の連絡先を知っているのか?」

 

 しばらくの後に、黒咲が口を開く。

 この台詞だけを聞けば浮気を糾弾しているようにしか聞こえないことに、黒咲はおろか遊歌も気付いていない。

 しゅらびっとは○す。

 

「それも含めて、赤馬零児に聞くと良い。

 ただ、私はアカデミアとは関係ない。それだけは誤解しないで欲しいわね」

 

 珈琲メーカーの音が心地よく響く静かな店内に、ソーサーにカップを置かれる音とグラスに氷がぶつかる音が反響する。

 かつん、こつん、と時計の音が絶え間なく鼓膜を揺らして、ブルーアイズマウンテンが半分ほど飲みきられた時、黒咲が折れた。

 

「……分かった。遊歌の言葉だ、信用できる。

 だが、お前の顔を立てて赤馬零児に友好的に接するなどとは考えないことだ。先程も言ったが、俺たちは崖っぷちにいる。瑠璃を救うためなら、俺は修羅にもなる。その覚悟は既にできている」

「うん。それでいい。私も赤馬社長に対して友好的な訳じゃない。貴方と赤馬社長の間に何があっても、最終的には私はそれを否定しない」

 

 止めないとも、関与しないとも、遊歌は言わない。ただ結果がどうなろうと知ったことではないと言ったのだ。つまりは仲介人である自分の裁量で場をコントロールする、と消極的に宣言したのだ。

 そして遊歌がフリーであると言うことは、それができてしまえると言うことなのだ。それだけ黒咲と赤馬零児と遊歌のパワーバランスは絶妙に噛み合っている。

 

 遊歌の発言を聞いた黒咲はため息をついて、しかし落とし所は間違っていないと考え直して、更にもう一つため息。

 やっぱり女性は分からない、と黒咲は瞑目した。

 

   ☆★☆

 

「遊歌、少し付き合ってくれないか?」

「…………は?」

 

 遊歌の目から色が消えて、瞼を半分だけ落として黒咲を見る。ジト目かつ白い目のコンボである。

 対する黒咲は自身のデュエルディスクを指で叩いて遊歌に示す。

 

「タッグ・デュエルだ。向こう(エクシーズ次元)ではアカデミア相手に良くタッグを組んでいただろう」

 

 もっとも、お前のタッグパートナーは瑠璃が務めることが殆どだったが、と黒咲が続けて。

 遊歌もタッグデュエルの一回や二回なら別に問題はないと軽く黒咲に言葉を返す。

 

「遊歌のことだ。デュエルの腕を錆び付かせているとは思えないが、自分の目でも確認しておきたかったんだ。

 赤馬零児に会うより前に、だ。そのブルーアイズマウンテンを飲み終わったら早速タッグデュエルに付き合って貰う。ゆっくりと飲め」

 

 黒咲は言いながら机の上でデッキを解体する。次に別のケースからサイドデッキや予備のカードを取り出して、迷いなくデッキを組んでいく。

 既にタッグデュエル用のデッキの完成形は見えているのだろう。遊歌がブルーアイズマウンテンを飲み終わるよりも遥かに早くデッキは完成していた。

 

「……迷いのないデッキ作りって、私にはかなり違和感があるわね。私はコンボ重視でデッキを組むからかも知れないけど」

「RRの動きは多様性があるように見えて無いからな。最終形さえ決めてしまえば後は早い」

 

 工夫次第ではあるのだろうけど。遊歌はスプーンでカップをかき混ぜながら何とも無しにそう考えて、ソーサーにスプーンを置いた。うん、良く混ざった、と少し満足。

 だが、この珈琲のように遊歌はデッキを弄る気配はない。いつものデッキで充分だと考えているのだ。

 

「で、誰とデュエルする気なの?」

 

 食後の休憩時間。椅子に体を預けてだらける遊歌が黒咲に問いかける。自分がタッグデュエルを承認したのは良いが、タッグと言うことは遊歌と黒咲が組むのだ。つまるところ対戦相手が不透明だった。

 別に誰が相手でも構わないから許可したのだけど、などと言い訳をしながら遊歌はぐでー、と机に突っ伏す。かなりだらしなかった。

 

「LDSだ」

「……私への嫌がらせ?」

 

 即答で黒咲にレスポンス。

 これから仲介する相手に喧嘩売るとかどういう神経をしているのだろうか。先程の話し合いを全て無駄にして実力行使に出るということかな。

 

「対戦相手のデュエルデータを消すことぐらいは容易い。リアルタイムで対戦相手が分かることもない。それは既に調査済みだ。

 後は簡単だ。対戦相手のデュエル時の記憶を消せば良い。するとどうなる?」

「データは消滅。襲った相手は分からない」

 

 人目につかない場所で、背後から襲って、その時の記憶を(闇のアイテムで)奪ってデータを消す。即ち決定的な証拠は残らず、残ったとしても状況証拠のみ。

 それは。

 

「完全、犯罪……っ!」

「バレなければ、問題ないっ!」

 

 問題しかなかった。

 だが二人は既に辻斬りの計画の善悪ではなく方法に話が移っており、倫理観が崩壊していることが容易に察せられた。

 残念ながらこの二人を止められる常識人はここにはおらず、文殊の知恵は発揮されなかった。価値観が偏った場合に起こる悲劇である。

 

 

「見て黒咲。あんな人目につかない薄暗い路地裏にLDSの制服を着た二人組が歩いているわ!」

 

 遊歌が棒読みでわざとらしく言葉を発した。

 無理のないことだった。本気で演技をする気もない遊歌からすれば仕方のないことだが。

 

 事の経緯を説明すると、複雑な話ではない。

 遊歌と黒咲はカフェを出た後、街中を宛もなくふらふらと歩いていた。太陽が沈む夕焼け空の下でLDSの二人組を探していたのだ。

 探し物はすぐに見つかった。鞄のなかも机のなかも探しても見つからなかったものは町中で踊って(歩いて)いたのだ。

 それよりも僕と踊りませんか。

 

 なので闇のアイテムで路地裏まで密かに誘導したのである。闇のアイテムは万能なのだ。

 そして先程の棒読み台詞に戻る。

 

「ああ。絶好の獲物だ。それより遊歌、そのブレスレットはどうしたんだ? 黒い霧のようなものを発しているが、大丈夫なのか」

「ええ、大丈夫よ。…………多分」

 

 最後に小声で呟いた遊歌の声は黒咲には届かない。理由は不明だが、今日の闇のアイテムは少し調子がおかしいのだ。

 本当は少し前から調子はおかしいのだ。素良君が相手の時も異空間に想定していない子供の悲鳴が広がっていた。

 このまま不調が続けば何が起こるか分かったものではない。だが整備に出すところなどは存在せず、かといって遊歌は使用を控える気もなかった。

 

「それじゃあ、行こっか」

 

 遊歌は鞄から仮面を取り出して自身に被る。

 その瞬間から路地裏に遊歌は居なくなって、仮面デュエリスト・ユーカが不敵に笑っていた。

 

「貴様ら、LDSだな……」

「さあ、闇のゲームの時間だ……」

 

 完全に不審者である。周りに誰も居ないから良いものの、誰かに見られれば即通報されてもおかしくない不審者ぶりである。流石はエリート不審者。その称号は伊達じゃない。

 背後からLDSの二人組に声をかける。身長の低い方(遊歌よりは高い)が遊歌たちに振り返って、その反動で膨らんだ胸部の布がたゆんと揺れて、遊歌の目にグランドキャニオンが飛び込んできた。

 

「な、なにこの人たち……? それよりもなんでわたしたちはこんな路地裏にいるの!? わたしはこんな所に用なんてないのにー!」

「…………ぇ? なに、その、……えっ?」

 

 二つ目の台詞は遊歌の素の声だった。

 身長に不釣り合いな胸が揺れて、遊歌の自尊心が急速にひび割れていく。この存在は、危険だ、と脳が信号を送るが手遅れで、遊歌は既に現実に打ちのめされていた。

 

「落ち着いて、この人たちは話しかけてきただけだよ。すみません、僕の連れが失礼な事を言ってしまって。

 ……でも、どうしてこんな所に居るんだろう。ぼーっとしていたのかな。気を付けなくちゃ」

 

 もう一人は礼儀正しい人物だった。人懐っこい笑みを浮かべて、路地裏でエンカウントした不審者に暖かみのある対応をしてくれていた。

 

「……デュエル」

 

 幽鬼のようにゆらゆらと揺れながら不気味な声で遊歌が小さく声を発する。

 

「えっ?」

「デュエル。デュエル、そう、デュエルよ。

 私が勝って大きいだけが存在理由ではないのだと証明してあげます。大は小を兼ねるなんて理想論です」

 

 もう滅茶苦茶に支離滅裂だった。

 私にはご主人様が居るからいいもん、などとうわ言のように呟く遊歌は既に正気ではない。途中から敬語になっている時点で分かってはいたのだが。

 

 遊歌に暗い目で見つめられている人物は居心地が悪そうに体を揺すって、それに従ってまた揺れる。

 その様子を見たもう一人の人物はため息をつきながらタッグデュエルを承認した。諦めたとも言う。

 

 黒咲は状況に着いていけずに目を瞬かせていた。

 

   ☆★☆

 

「タッグ・デュエル。今回はタッグフォースルールもオフィシャルルールも適用しない。手札誘発などの処理がどちらも非常に面倒臭くなるからとかじゃないんだ。きっとないんだ」

 

 顔に手を当てて首を振るロリ巨乳さんの連れのイケメンさん。影のある笑みを浮かべて、儚げに彼は微笑んだ。

 

「だから、今回は独自のルールになる。と言っても、アニメ版の光の仮面・闇の仮面のタッグデュエルに、お互いのフィールドのモンスターをリリース要員などに使えなくなる要素を付け足しただけなんだ。オーソドックスなルールだと僕は思う」

 

 首を少し曲げて、人懐っこい表情で彼はロリ巨乳さんを見る。唇に人差し指を当てて、からかうように分かった? と聞いていた。

 

「分かりにくいなら、二対二で行うバトルロイヤルルールだと思ってくれて良い。それで大体は合っているよ」

 

 彼はそう言って自分の言葉を締めくくる。

 ロリ巨乳さんはうんうんと尊大に頷いて腕を組む。その衝動で図らずも胸部が強調された。

 

「さあ、デュエルの時間よ。今回の闇のデュエルは基本的な闇のゲーム。ただただ敗者は罰を受ける。だけど今日は、私の、私による、私のための怨敵抹殺デュエルでもあるの。刈リ取ッチャイマスよー」

「おい。なんであいつ、わたしを見て不気味に笑ってるんだよ。怖いよ!」

 

 遊歌は目が笑っていない満面の笑みでロリ巨乳さんを見て微笑む。ゾッとする笑顔だった。

 

「……デュエルに私情は付き物だけど、同時にデュエルはプレイヤーに公平よ。そこには贔屓も遠慮も存在しない。舐めたプレイには相応の結果が着いてくる」

 

 だからね、と。

 

「私は全力で、丁寧に、捩じ伏せてあげる」

 

 遊歌はデッキのカードの上に指をかけて、ロリ巨乳とイケメンさんを仮面越しに見つめて問いかける。

 

「さあ、闇のゲームの時間よ。敗者は闇に呑まれるこのデュエルを、貴方たちは受けるのね?」

 

 最終確認だ。問いかけられる相手には何がなんだか分からない問いかけではあるのだが、この行為は遊歌の自己満足なので遊歌自身が気にしていない。

 明らかに理屈が破綻しているのだが、遊歌はそのことを理解した上で無視している。普段は正常に見えても、既にどこかが破綻してしまっているのだった。

 

 二人が困惑しつつも頷いたのを確認してから、遊歌はデッキトップからカードを5枚ドローする。

 

「私の先攻! 手札から《不知火の隠者》を召喚して効果を発動。自身をリリースすることで、デッキから守備力0のアンデット族チューナーを特殊召喚する。私は《ユニゾンビ》を特殊召喚して効果を発動。デッキからアンデット族モンスターを1体墓地に送ることで《ユニゾンビ》のレベルを1つ上げる」

 

 ここまでほぼ一呼吸。長く感じるかも知れないが、これは不知火の基本的な動きになるので、もはやそらで言える。

 ディスクにセットされたデッキから選択したモンスターのカードが自動的に引き抜かれ、デッキがシャッフルされる。

 墓地にカードを差し込んで、遊歌は手札から2枚のカードを引き抜く。

 

「カードを2枚セットしてターンエンド!」

 

 ユニゾンビをそのまま残して、シンクロもエクシーズもせずに、ただカードを伏せてターンを終了する。

 遊歌は手札のカード2枚を扇として扱い口許に当てる。表情を読まれないクイーン流ポーカーフェイスwith仮面である。素顔が何も見えないから表情を読むことができない。

 

「僕のターンだね、カードをドローするよ。

 僕は手札から《霊獣使いの長老》を召喚する。このモンスターが召喚に成功した時、僕はこのターン『精霊獣』モンスターを通常召喚できるんだ。だから《精霊獣 カンナホーク》を通常召喚するよ。

 そして《カンナホーク》の効果を使うね。《カンナホーク》はデッキから『精霊』モンスターを1体を時空の狭間に送っちゃうんだ。悲しいけど、精霊の世界は弱肉強食なのかな。

 僕は《精霊獣 アペライオ》を除外して、フィールドのモンスター2体で次元融合を執り行う!

 ──融合召喚! 《聖霊獣騎 カンナホーク》!」

 

 霊獣使いの長老がカンナホークに飛び乗る。歳を感じさせない長老の健脚は、助走も無しに自身のバネだけで数十メートルを越える高跳びを披露した。

 どこぞの達人のように目から光を発して、人間離れした跳躍を繰り出した長老は上空を舞うカンナホークに一瞬で近付いてその背に飛び乗った。神業である。

 ここに乗っただけ融合が完成した。

 

「そして分離せよ《聖霊獣騎 カンナホーク》! このモンスターは長老がカンナホークから降りることで融合を解除することができるんだ。凄いでしょ!

 これで《精霊獣 カンナホーク》はもう一度効果を発動できるようになったよ。僕はデッキから《霊獣使い レラ》を除外する。

 さあ、もう一回次元融合を執り行うよ! おいで《聖霊獣騎 カンナホーク》!」

 

 長老が騎乗しているカンナホークを撫でて、カンナホークを足場にして更に上空へジャンプする。

 背中が軽くなったカンナホークが不機嫌に囀ずって、その背中に長老が舞い降りた。

 

「《聖霊獣騎 カンナホーク》には特殊効果がある。次元の狭間に落ちた『霊獣』モンスター2体を墓地に埋葬して、デッキから『霊獣』カードを1枚手札に加えられるんだ!

 でもね、それだけじゃないよ。僕はこのサーチ効果に乗っただけ融合の解除をチェーンする!

 もう一度分離せよ《カンナホーク》!」

 

 カンナホークが光る。フィールドを光が席巻し、遊歌はおろか黒咲やロリ巨乳さん、イケメンさんの視界すら封じられる。

 数瞬後に突然光が晴れる。その時、イケメンさんのフィールドには霊獣使い レラと精霊獣 アペライオが佇んでいた。

 

「僕が次元の狭間から墓地に埋葬したのは《霊獣使いの長老》と《霊獣使い レラ》だよ。でもね、その前に《聖霊獣騎 カンナホーク》は自身をデッキに戻すことで、次元の狭間から《霊獣使い レラ》と《精霊獣 アペライオ》を呼び戻したんだ。

 よって《霊獣使いの長老》だけが寿命を全うして墓地に送られ、僕はデッキから《霊獣の連契》を手札に加えたんだよ。

 だけどまだ終わらないよ。僕は《精霊獣 アペライオ》の効果で《霊獣使いの長老》をもう一度次元の狭間に送る。そしてフィールドの2体で3度目の次元融合だ!

 ──融合召喚。《聖霊獣騎 ペトルフィン》!

 リバースカード3枚セットしてターン終了だよ」

 

 レラはアペライオに寄りかかって、だらしない顔で気持ち良さそうに毛並みを撫でていたのだが、イケメンさんの次元融合宣言によってアペライオと共に次元の狭間に呑まれ、憐れ除外されてしまったのだ。

 現れたのはイルカだ。ピンクの体色をしたイルカがきゅー、と鳴いて、小さな霊獣使いの周りをくるくると楽しそうに舞っていた。

 

【遊歌】

 LP4000

 手札2枚

 モンスター

 《ユニゾンビ》/ATK1300 ☆4

 魔法・罠

 伏せカードが2枚

 

【イケメンさん】

 LP4000

 手札2枚

 モンスター

 《聖霊獣騎 ペトルフィン》/DEF2800

 魔法・罠

 伏せカードが3枚

 

「次は俺のターンだ。ドロー。

 俺は手札から《RR-ナパーム・ドラゴニアス》を召喚して、効果を発動する。このモンスターは俺を除く全てデュエリストに600のダメージを与える」

 

 路地裏にナパームが投下される。闇のデュエルによる熱風が黒咲以外の三人のデュエリストに襲いかかった。

 背後から味方にナパームを投げつけられた遊歌は、しかし黒咲を責めることもない。この程度は想定内だと言わんばかりに爆風に吹かれても微動だにしていなかった。

 

 LDSの二人もリアルにダメージが発生していても、リアルソリッドビジョンシステムで慣らされたLDSの生徒には良くあることなのか、困惑の表情を浮かべただけで何も言わなかった。

 

「俺はカードを1枚伏せ、装備魔法《ラプターズ・アルティメット・メイス》を《ナパーム・ドラゴニアス》に装備させる。この装備魔法によって、攻撃力は1000ポイントアップする。

 これで俺のターンは終了する」

 

 イケメンさんとは対照的に、黒咲の立ち上がりは非常に静かだ。RRによるエクシーズ召喚も行わず、黒咲にしては大人しいプレイである。

 

 三者三様のプレイスタイルを見下ろして、デッキのカードに手を掛けながら、最後のデュエリストがふふん、と盛大に胸を張ってドローする。

 

「わたしのターンだなっ! ドロー!

 ふふん。わたしはここに宣言する。きさまらに次のターンはなぁいっ! なぜなら、わたしが倒すからだ!

 わたしはフィールド魔法《転回操車》を発動。そして魔法カード《影依融合(シャドール・フュージョン)》を発動するよっ。

 このタッグ・デュエルにおいて、タッグパートナーの場は相手のフィールドと同じに扱うよね。なら、わたしは、今っ、デッキのモンスターを融合素材として融合できるっ! おっとくぅ!

 いくよ! わたしはデッキから《無頼特急バトレイン》と《シャドール・リザード》を墓地に送って融合召喚!

 けんげんせよっ!《エルシャドール・シェキナーガ》! そして墓地に送られた《シャドール・リザード》の効果が発動。更に《シェキナーガ》が融合召喚された瞬間に《転回操車》が起動する!」

 

 がちゃん、と音を立ててロリ巨乳さんの背後に展開されていた様々な機械が独りでに動き出す。

 鋼の銀色が鈍く光る地上の遥か上空には巨大な人形が顕現しており、無数の糸が空から垂れていた。

 

「それはちょっと困るんだよねぇ」

 

 そこに、暗い光を湛えてハイライトの消えた目を胸部に向けた、遊歌の声が割り込んだ。

 

「罠発動《不知火流 燕の太刀》。このカードは自分のフィールドの表側表示のアンデット族モンスター1体をリリースして発動でき、フィールドのカード2枚を対象にして破壊できる。

 よって、私のフィールドにいる《ユニゾンビ》がその身を犠牲にして秘剣☆燕の太刀を放つ!

 刃が向かう先は《転回操車》と《エルシャドール・シェキナーガ》よ! 切り裂いちゃえ!」

 

 ユニゾンビの肉体が弾けて、青白い肉塊が辺りに散らばる。肉の雨の中、どこからか現れた武士が一刀を一瞬で二回振るう。

 剣閃が産み出す衝撃が肉塊の雨を突き抜けて、上空の巨大な人形と地上の鋼の集まりを纏めて絶ちきった。

 やがて雨は止んで、そこには何も残っていない。

 

 その惨状にロリ巨乳さんは顔を引き攣らせて遊歌を睨む。当の遊歌はどこ吹く風と目を閉じた。

 

「《燕の太刀》の効果はまだ続く。このカードは破壊効果を使用した後、デッキから『不知火』モンスター1体を除外する必要があるの。

 私は《妖刀ー不知火》を選択して除外するわ」

「だけどっ! 《シャドール・リザード》の効果は生きている! わたしは《リザード》の効果で、デッキから『シャドール』カードを1枚選択して墓地に送る。

 《シャドール・ビースト》を墓地へ送るね。そして『シャドール』カードは効果で墓地に送られた場合に発動する効果がある。

 墓地に送られた《エルシャドール・シェキナーガ》と《シャドール・ビースト》の効果が発動するっ!

 わたしは《シェキナーガ》の効果による墓地から『シャドール』魔法・罠カードの回収に加えて、《ビースト》の効果によってカードを1枚ドローする!」

 

 転んでもただでは起きないと、何がなんでもアドバンテージを取りに来る能力が発動する。

 だがその効果は有名で、当然遊歌も知っていた。

 

「勝負は時の運。実力には運命力も含まれる。ねぇ、こんなカードもあるのよ? 罠をチェーン発動! 《デビル・コメディアン》!」

 

 現世と冥界の逆転とのコンボが有名なカードだけど、単体で使えないカードでは決してない。

 その最大の特徴は第六感と同じで、デメリットがデメリットになっていないことが挙げられる。

 

「このカードの効果はギャンブルよ。私がコインの表か裏を選択する。コイントスを行ってコインの表示が選択したものならば、相手の墓地のカードを全て除外する。外れた場合は相手の墓地の枚数分だけ自分のデッキを破壊する。

 さあ、運命のコイントス。鬼が出るかな? 蛇が出るかな? それは運命の言う通り」

 

 遊歌は楽しそうに歌いながら財布を広げてコインを出そうとして、固まった。財布の中に硬貨が無かったのだ。

 そう言えばカフェの支払いの時に丁度無くなった事を思い出して冷や汗をかく。調子に乗って失敗する人間がここにいた。

 

 遊歌はあたふたと慌てて不自然な小躍りを披露していたが、その様子を見た黒咲がため息を着きながら桜の硬貨を投げ渡してくれて難を逃れる。

 ふぅ、と息を吐いて気持ちを落ち着かせた後、静かにコインを指で弾く。甲高い音と共に空高く上がったコインを見上げると同時に遊歌は宣言する。

 

「私は表を選択する。そして結果は──」

 

 コインを左腕の甲で受け止め、右腕で蓋をする。ゆっくりと右腕を上げ、結果を告げる。

 

「──当然、正位置()ぃ! よって私以外の墓地のカードを全て取り除く。これで《エルシャドール・シェキナーガ》の効果は不発に終わる!」

 

 墓地のカードが全て除外されるのだ。サルベージ効果は対象を失って不発になる。

 加えて、エンドフェイズに発動する筈だった無頼特急バトレインの効果も遊歌は殺したのだ。

 

「っ、でも《シャドール・ビースト》の効果は生きてるよっ! わたしはカードを1枚ドロー!

 よしっ、引いたっ! さんざん邪魔してくれたけど、もう仮面ちゃんには伏せカードはないもんっ。残念でした!

 わたしは《深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト》を通常召喚するよ。このカードはレベル10だけど、リリース無しで召喚できる。妥協召喚した場合、攻撃力は0になるけどな!

 そして《エクスプレス・ナイト》が召喚された瞬間、手札から《重機貨列車デリックレーン》を特殊召喚する! このカードは機械族モンスターが召喚・特殊召喚された場合、手札から特殊召喚することができるんだ!」

 

 列車が二台、ロリ巨乳さんの左右に停車する。

 彼女は尊大に手を掲げて、満足そうに微笑んで降り下ろす。

 

「レベル10《深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト》と《重機貨列車デリックレーン》の2体でオーバーレイネットワークを構築するっ!

 きどうせよっ!

 《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》!

 ……このタッグ・デュエルでは、全てのプレイヤーは1ターン目の攻撃を禁じられているよね。でもね、さっきそこの黒い人がやったように効果ダメージなら問題ないっ!

 いくよ、仮面ちゃん! わたしはORU(オーバーレイ・ユニット)を1つ使って《グスタフ・マックス》の効果を発動! 2000ポイントの効果ダメージを仮面ちゃんに与えるよっ!」

 

 長大な砲身と巨大な口径。ロリ巨乳さんはどこからか取り出した黒い軍帽染みた帽子を被って、遊歌をグスタフ・マックスの上から見下ろす。

 胸を揺らしながら腕をぴんと伸ばして遊歌の方向を示す。もう一方の手で被った帽子を押さえて、俯きがちに綺麗に笑う。

 

「やっちゃえっ! 《グスタフ・マックス》!」

 

 グスタフ・マックスのはかいこうせんが遊歌を捕らえる! 真正面から受けて立った遊歌が吹き飛ばされたーっ!

 水月を直撃した遊歌は吹き飛ばされて地面をごろごろと側転する。コンクリートの壁に勢い良くぶつかって、ようやく止まった遊歌の仮面は微かにひび割れている。良くあることだった。

 

「ふふん。どーだっ、まいっりゃっ! っぅ! ぅう。いひゃい、ひたかんだぁっ」

 

 吹き飛ばされた遊歌とは対照的に、グスタフ・マックスの上で高笑いをしようとしたロリ巨乳さんは途中で口を押さえて蹲った。

 少しの休憩時間の後に、ゆっくりと二人ともが復活してデュエルが再開される。

 

「っぅ。酷い目に遭ったよ……。でもわたしのターンは終わってないっ! ORUとして墓地に送られた《重機貨列車デリックレーン》の効果が発動するよ。

 このカードがORUとして効果のコストとして取り除かれて墓地に送られた場合、相手フィールドのカードを1枚を破壊できる!

 黒い人の《ナパーム・ドラゴニアス》を破壊!」

「そうはいかない。速攻魔法《禁じられた聖衣》を《ナパーム・ドラゴニアス》を対象に発動する。

 このカードの効果によって、このターン《ナパーム・ドラゴニアス》は破壊されない」

 

 グスタフ・マックスの流れ弾がナパーム・ドラゴニアスに向かうが、衝突の直前に光のヴェールがナパーム・ドラゴニアスを包み込んで流れ弾は更に逸れる。

 物理法則を無視して直角に曲がった流れ弾はなんと遊歌を横から叩き、不意打ちを受けた遊歌はまたしても吹き飛ばされた。

 流石に堪えたのか遊歌が黒咲に抗議を始め、黒咲はわざとではないと弁明していた。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだよ!」

 

【遊歌】

 LP1400

 手札2枚

 モンスター

 Φ

 魔法・罠

 Φ

 

【イケメンさん】

 LP3400

 手札2枚

 モンスター

 《聖霊獣騎 ペトルフィン》/DEF2800

 魔法・罠

 伏せカードが3枚

 

【黒咲】

 LP4000

 手札3枚

 モンスター

 《RR-ナパーム・ドラゴニアス》/ATK2000

 魔法・罠

 装備魔法

 《ラプターズ・アルティメット・メイス》

 

【ロリ巨乳さん】

 LP3400

 手札2枚

 モンスター

 《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》

 /ATK3000 ORU・1

 魔法・罠

 伏せカードが1枚

 

「私のターンよ! ドロー! まったく、酷い目に遭ってるのは私の方じゃない。今日の運勢そんなに悪かったかな……。

 私は魔法カード《闇の誘惑》を発動してカードを2枚ドロー。手札から《バーサーク・デッド・ドラゴン》を除外。続けて《強欲で貪欲な壺》を発動。デッキトップから10枚のカードを裏側表示で除外して2枚ドローする!

 そして墓地から《馬頭鬼》の効果を発動。墓地のこのカードを除外して、墓地から《ユニゾンビ》を特殊召喚するわね」

 

 ぼやきながらも遊歌は手を止めずにプレイを進める。誘惑に負けて強欲で貪欲にカードを引いていった。

 流れるようにフィールドと墓地と除外ゾーン使いこなす遊歌に、今まで黙していたイケメンさんがストップをかける。

 

「落ち込んでるところを悪いけど、出鼻を挫かせて貰うよ。罠カード《霊獣の連契》を発動。

 このカードは、僕のフィールドの『霊獣』モンスターの数まで相手フィールドのモンスターを選択して破壊するんだ。 僕は《ユニゾンビ》を選択して、破壊するよ」

 

 再び爆発四散するユニゾンビ。実は遊歌よりも不幸な目に合っているのはこの子かもしれない。

 アンデット族の潤滑油を洗い流された遊歌だが、気にも止めずにカードをディスクに差し込んだ。

 

「そう。じゃあ速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動。このカードはゲームから除外されているモンスターを3体まで墓地に()()ことができる。よって、私は《馬頭鬼》《バーサーク・デッド・ドラゴン》《妖刀ー不知火》を墓地に戻す。

 続けて墓地の《妖刀ー不知火》の効果を発動。このカードと墓地のアンデット族モンスターを除外して擬似的なシンクロ召喚を行う。

 私はレベル4《不知火の隠者》にレベル2《妖刀ー不知火》をチューニング!

 ──シンクロ召喚! 降臨せよ《アンデット・スカル・デーモン》!」

 

 雷と共に骸骨に成り果てたデーモンが降臨する。

 アンデット族でありながらデーモンの名を持った貴重なモンスターである。だが攻撃力は2500。グスタフ・マックスの3000には届かない。

 

「《妖刀ー不知火》は墓地に送られたターンには効果を使用できない。だけど《異次元からの埋葬》は墓地に戻す効果。制限には引っ掛からない。

 そして除外された《不知火の隠者》の効果も発動する。このカードが除外された場合、除外されているこのカード以外の『不知火』モンスターを特殊召喚する。

 私は《妖刀ー不知火》を特殊召喚する」

 

 クリスタルの布陣。ゴヨウなキングでもいいけれど。だがそんなカードを遊歌は持っていなかった。

 仮面の奥から黒咲を盗み見て、1時間も待たされた罰を受けて貰おうと遊歌は考える。

 その為に必要なものは、

 

「手札から魔法カード《簡易融合(インスタント・フュージョン)》を発動。私のライフポイント1000と引き換えに、エクストラデッキからレベル5以下の融合モンスターを融合召喚扱いで特殊召喚する。

 融合召喚! 《ナイトメアを駆る死霊》!」

 

 もちろん、融合召喚である。これで黒咲以外のプレイヤーは全員融合を使ったことになるのだ。

 黒咲は微かに顔をしかめたものの、以前よりは融合へのわだかまりはなくなっているのか、平気な顔をしていた。

 

「墓地から再び《馬頭鬼》の効果を発動して、墓地から《ユニゾンビ》を蘇生する。続けて《ユニゾンビ》の効果を発動。デッキからもう1体の《馬頭鬼》を墓地に送って《妖刀ー不知火》のレベルを1つ上げる。

 レベル5《ナイトメアを駆る死霊》にレベル3となった《妖刀ー不知火》をチューニング!

 ──シンクロ召喚! 《戦神ー不知火》!」

 

 口上カット。最近続けて出てきているので、言い過ぎにならないように自粛。

 汎用のレベル8アンデット族シンクロモンスターはこの子しか居ないから仕方ないと言えば仕方ないことなのだけど。

 

「《戦神ー不知火》の効果で墓地から《バーサーク・デッド・ドラゴン》を除外して、そのモンスターの攻撃力を《戦神ー不知火》に加える。よって攻撃力は──6500よ。

 三度墓地の《馬頭鬼》の効果を発動。墓地のこのカードを除外して、墓地から《ナイトメアを駆る死霊》を特殊召喚する!

 最後に《団結の力》を《ナイトメアを駆る死霊》に装備させる。《ナイトメアを駆る死霊》は魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった時に破壊される効果を持っているけど、私のフィールドには《アンデット・スカル・デーモン》がいる。

 このカードが存在している以上、私のフィールドのアンデット族モンスターは効果では破壊されない。この効果が適用されて《ナイトメアを駆る死霊》は破壊されず、《団結の力》は有効となる。

 これで《ナイトメアを駆る死霊》の攻撃力は4000。更にこの子は相手プレイヤーにダイレクトアタックができる」

 

 これで遊歌のフィールドにモンスターは4体。攻撃力6500の戦神ー不知火と攻撃力4000のナイトメアを駆る死霊。更にはアンデット・スカル・デーモンとユニゾンビが存在する。おまけに効果破壊は不可である。明らかにオーバーキルだ。

 

「っ、ダブルキルか……!」

 

 黒咲が悔しそうに小さく呟く。

 それはタッグである事を全く活かさない遊歌への不満なのか、それなのにここまでの布陣を作り上げた遊歌への賛辞なのか、それは本人にしか分からない。

 

「さあお待ちかねのバトルよ!」

 

 再び遊歌の目から光が失われる。

 仮面越しから暗い目を一人に向けて。

 

「《戦神ー不知火》で《グスタフ・マックス》を攻撃! 不知火流 バーサーク・二刀の舞!」

「仮面ちゃんが狂気(バーサーク)なら、わたしは限界を超えるっ! 速攻魔法《リミッター解除》発動!」

 

 《グスタフ・マックス》/ATK3000→6000

 

 リミッター解除。それはターン終了時の自壊と引き換えに自身の攻撃力を2倍にする機械族の最後にして最大の、禁断の技……。

 胸が震える。大きな胸が震えて揺れる。期待に胸を膨らませ、喜びに胸を高鳴らせ、怒りに胸が裂けそうで、虚しさに胸が痛くなり、嬉しさに胸を踊らせて、悲しみに胸を刺され、今までと、これからに、胸が一杯になる。

 そう。

 これは。

 始まりの、デュエル……っ!

 

「…………ぁ……」

 

 グスタフ・マックスが両断される。姿勢を屈め、敬意を表する武士がゆっくりと刀を納めて。

 仮面越しの黒い瞳に光が戻ったような気がした。

 

「まだ私の攻撃は終わっていないっ!

 《ユニゾンビ》で彼女にダイレクトアタック!」

「もぅ! ちょっとは空気読んでよっ!

 手札から《工作列車シグナル・レッド》の効果を発動する! 相手モンスターの攻撃宣言時にこのカードを特殊召喚して、攻撃モンスターとこのカードで戦闘させるんだ。

 だけど《ユニゾンビ》の攻撃力は1300。そして《工作列車シグナル・レッド》の守備力も1300だから、仕切り直しだねっ!」

 

 不幸なユニゾンビの攻撃は当然の如く届かない。

 突如として現れたシグナル・レッドと壮絶な戦闘を繰り広げたユニゾンビだったが、結局決着は着かずに終わってしまう。

 

「さあ、これで仮面ちゃんは選ばなくちゃならない! わたしを倒すのか、それともわたしのパートナーを倒すのかっ!」

 

 どや顔のロリ巨乳さんが手札のカードを小さく回しながら、遊歌をからかうように胸を張る。

 遊歌はロリ巨乳さんとイケメンさんを交互に見て、わずかに逡巡した後に攻撃命令を完遂する。

 

「……《ナイトメアを駆る死霊》でロリ巨乳さんを直接攻撃ぃ! 宣言通り刈り取ってしまいなさい!」

 

 ナイトメアを駆る死霊が消える。ロリ巨乳さんがきょろきょろと辺りを探しても死霊の姿はない。

 疑問の表情を浮かべながら遊歌を見た瞬間、彼女の後ろに音もなく死霊が現れる。

 気配を感じて振り返った彼女だったが、既に遅い。降り下ろされた大鎌は彼女を袈裟斬りに切り裂いた。

 

 甲高い悲鳴を上げて彼女は崩れ落ちる。路地裏に座り込んだ彼女は──刈り取られていなかった。

 袈裟斬りにされた彼女へのダメージはあるものの、どこも切り取られてはいないのだ。

 

 自身の僕の手酷い裏切りを悟った遊歌は、その事実を信じられずに数秒間呆けて、そして自らの後ろに控える死霊を縋るような瞳で見る。

 気まずそうに大鎌を弄る死霊は何も言わない。何も、言わなかった。現実に追い付いた遊歌は膝から崩れ落ちたのだった。

 

【ロリ巨乳さん】LP3400→2900→0

【遊歌】精神ダメージ4000→0

 

「最後の攻撃よ! 黒咲、待たせたわね!

 《アンデット・スカル・デーモン》で《ナパーム・ドラゴニアス》を攻撃! 不死の(イモータル)魔降雷!」

「ああ。この瞬間《ラプターズ・アルティメット・メイス》の効果を発動する。このカードを装備したモンスターが攻撃対象になった場合、デッキから『RUM』を1枚手札に加えることで、その戦闘で発生する自分へのダメージは0になる。

 そして戦闘破壊された《RR-ナパーム・ドラゴニアス》の効果も発動。デッキから《RR-ミミクリー・レイニアス》を特殊召喚する」

 

 始めてのタッグパートナーのサポート。遊歌はタッグデュエルの戦い方を知らないわけではないのだ。ただ、この二人は基本的に自律している。相手のサポート前提の動きをせずに、要所要所でサポートし合うのが理想なのだ。

 今回の黒咲のデッキはサポート前提に構築されてはいるのだけれど。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

「エンドフェイズに《聖霊獣騎 ペトルフィン》の効果を発動! このカードをエクストラデッキに戻して、除外されている『霊獣使い』と『精霊獣』モンスターを1体づつ特殊召喚する!」

 

【遊歌】

 LP400

 手札0枚

 モンスター

 《ナイトメアを駆る死霊》/ATK4000

 《戦神ー不知火》

 《アンデット・スカル・デーモン》

 《ユニゾンビ》

 魔法・罠

 装備魔法《団結の力》

 伏せカードが1枚

 

【イケメンさん】

 LP3400

 手札2枚

 モンスター

 《霊獣使い レラ》

 《精霊獣 アペライオ》

 魔法・罠

 伏せカードが2枚

 

【黒咲】

 LP4000

 手札4枚

 モンスター

 《RR-ミミクリー・レイニアス》/DEF1900

 魔法・罠

 装備魔法

 伏せカードが1枚

 

【ロリ巨乳さん】

 ──dead。

 

「生きてるよっ!」

 

 突如として叫びだしたロリ巨乳さんの横で、イケメンさんが困惑した顔で遊歌を見ていた。

 

「どうして、僕を攻撃しなかったのかな?

 僕を倒していれば、今は黒い彼のターンだった筈だよ。情けをかけられたみたいで、あまり気分は良くないね」

「これはタッグデュエル。ワンマンデュエルでは決してないし、あってもならない。

 それに私は手を抜いたつもりはないわ。確実性を取っただけよ。私情があったのは否定しないけど」

 

 伏せカードのあるイケメンさんより、無かったロリ巨乳さんを優先したのだ。私の読みではあの伏せカードは攻撃を止める罠ではないと思うけれど、私の勘は良く外れる。

 ロリ巨乳さんを選んだ理由の9割は私怨だけど。

 

 取り留めのない思考を回して遊歌は首を軽く横に降り、悔しそうなロリ巨乳さんを一瞥して勝ち誇ってからデュエルに戻る。

 

「じゃあ、僕のターンだ。ドロー!

 始めに《精霊獣 アペライオ》の効果を発動して、墓地から《霊獣の連契》を除外。このターンの霊獣たちの攻撃力・守備力を500上げるよ。

 そしてフィールドのモンスター2体で次元融合!

 ──融合召喚! 《聖霊獣騎 アペライオ》!」

 

 炎のライオンがフィールドを駆け抜ける。優雅に足を踏み鳴らすアペライオは遊歌と黒咲に吠えて。

 

「そして分離。次元の狭間から《霊獣使いの長老》と《精霊獣 カンナホーク》を特殊召喚!」

 

 出落ちに去っていった。吠えただけ。

 

「更に《精霊獣 カンナホーク》の効果を発動して、デッキから《霊獣使い ウェン》を除外するね。そしてフィールドのモンスター2体を次元融合する!

 ──融合召喚《聖霊獣騎 カンナホーク》!」

 

 恒例の乗っただけ融合でカンナホークに跨がった長老。手綱を握る彼の視線は鋭い。

 

「《聖霊獣騎 カンナホーク》の効果を発動。除外されている《霊獣の連契》と《霊獣使い ウェン》を墓地に戻して、デッキから『霊獣』カードを1枚手札に加える。

 その効果にチェーンして《聖霊獣騎 カンナホーク》の効果を発動。分離する!」

 

 カンナホークが高く囀ずって空高く飛ぶ。

 一線の閃光がフィールドを駆け、その中から2体のモンスター現れる。

 

「僕は除外されていた《霊獣使い ウェン》と《精霊獣 ペトルフィン》を特殊召喚。そしてデッキから《精霊獣 ラムペンタ》を手札に加えさせて貰う。

 行くよ! 《精霊獣 ペトルフィン》の効果を発動! 手札の《精霊獣 ラムペンタ》を除外することで、相手フィールドのカード1枚を手札に戻す。

 僕は《アンデット・スカル・デーモン》を選択する。さあ、エクストラデッキに帰るんだ!」

 

 アンデット・スカル・デーモンが骨の塊へと姿を変える。今まで遊歌のフィールドを覆っていた不死の黒霧が晴れていく。

 これでアンデット族モンスターの効果耐性は消えた。

 

「そしてフィールドのモンスター2体で次元融合!

 ──融合召喚《聖霊獣騎 ペトルフィン》!

 この瞬間、罠発動! 《激流葬》! このカードはモンスターが召喚、特殊召喚した時に発動できる。フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

 フィールドに激流が吹き荒れる。ペトルフィンがその中を踊るように泳いで、全てのモンスターに体当たりをしていった。

 バランスを崩したモンスターたちは激流に身を任せてどうかしていった。

 

「《聖霊獣騎 ペトルフィン》は効果では破壊されない。更に最後の罠カードを発動する! 《霊獣の騎襲》! このカードは自分の墓地及び除外されているモンスターの中から、『霊獣使い』モンスターと『精霊獣』モンスターを1体づつ特殊召喚する!」

「っ、罠発動! 《威嚇する咆哮》! この効果で、このターンの攻撃宣言を封じさせて貰う!」

 

 罠カードが表示された瞬間に遊歌が動く。

 

「対応が早いっ! でも、もう止まれない! 僕のフィールドには《霊獣使い レラ》と《精霊獣 アペライオ》が存在する。

 ここでもう一度《聖霊獣 アペライオ》の効果を発動! 墓地の《霊獣の連契》を除外する。

 僕はフィールドの『聖霊獣騎』と『霊獣使い』と『精霊獣』モンスター3体で最後の次元融合を決行する!

 ──融合召喚《聖霊獣騎 ガイアペライオ》!」

 

 百獣の王が、顕現する。

 角に炎を纏わせて、圧倒的なオーラを持ってフィールドを席巻する。その背に乗るレラも引き締まった顔で杖を掲げていた。

 

「……だが、残念なことに攻撃は出来ない。そこで、魔法カード《サイコパス》を発動。800のライフポイントを払い、除外されているサイキック族モンスター2体を手札に加える。僕はカードを1枚伏せてターンを終了するよ」

 

【遊歌】

 LP400

 手札0枚

 モンスター

 Φ

 魔法・罠

 Φ

 

【イケメンさん】

 LP2600

 手札3枚

 モンスター

 《聖霊獣騎 ガイアペライオ》

 魔法・罠

 伏せカードが1枚

 

【黒咲】

 LP4000

 手札4枚

 モンスター

 Φ

 魔法・罠

 伏せカードが1枚

 

【ロリ巨乳さん】

 ──undead。

 

「俺の、ターンだ。ドロー!」

 

 かなり長いターンの一巡が終わり、約380改行分振りに黒咲のターンが始まる。長いながい雌伏の時を過ごしたのだ。

 

「成程、これがLDSか。俺は手札から《RR-バニシング・レイニアス》を召喚する。

 次に手札から《RR-ファジー・レイニアス》の効果を発動! 自分フィールドに『RR』モンスターがいる時、1ターン1度だけ手札から特殊召喚できる」

「それは通さない! 《聖霊獣騎 ガイアペライオ》の効果を発動! 手札の『霊獣』カードを除外することでその効果を無効にして破壊する!」

 

 咆哮が路地裏を震わせる。振動に耐えられずに表面のコンクリートが僅かに溢れ落ちる。

 衝撃で鼓膜に痛みが走るほどの咆哮を浴びても黒咲は怯まず、寧ろ闘気を高めている。

 

「だが《ファジー・レイニアス》には更なる効果が存在する。このカードが墓地に送られた場合、1ターンに1度、デッキから《ファジー・レイニアス》を手札に加える!」

「だけど、手札からの特殊召喚は出来ない!」

 

 黒咲が微かに鼻を鳴らして、眦を上げる。

 

「手札から魔法カード《ダークバースト》を発動」

「通さないよ! 《聖霊獣騎 ガイアペライオ》の効果で、その爆発を力ずくで抑える!」

「まだだ! 手札から《RR-コール》を発動!

 1ターンに1度、自分フィールドの『RR』モンスター1体と同名カードを特殊召喚する!」

「それも通さない! 《聖霊獣騎 ガイアペライオ》の咆哮でメーデーは書き消される!」

 

 咆哮が質量を持ってプレーヤーを襲う。

 遊歌が、黒咲が、何故かロリ巨乳さんまで風圧で後ずさってたたらを踏む。

 

「だが、これで貴様の手札は無くなった!

 俺は《バニシング・レイニアス》の効果を発動! 手札のレベル4『RR』モンスター、《ファジー・レイニアス》を特殊召喚する!

 更に《RR-ペイン・レイニアス》の効果も発動! このカードは1ターンに1度、自分フィールドの『RR』モンスターを選択し、そのモンスターの攻撃力か守備力のどちらか低い方の数値分のダメージを受け、手札から特殊召喚し、対象のモンスターと同じレベルになる!

 俺はレベル4の《RR-バニシング・レイニアス》と《RR-ファジー・レイニアス》、そしてレベル4となっている《RR-ペイン・レイニアス》の3体でオーバーレイネットワークを構築!

 雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ! ──エクシーズ召喚! 《RR-ライズ・ファルコン》!」

 

 百獣の王が席巻するフィールドに、隼が舞う。

 小さな翼だ。小さな体だ。小さな爪だ。

 圧倒的なまでの大きさを誇るガイアペライオとは天と地ほど違う、ボロボロで薄汚れた痩躯。

 

 ライズ・ファルコンが高く、高く囀ずる。

 靡く翼が、傷だらけの体が、欠けた爪が。

 その全てに闘志を込められ、上空からガイアペライオを見上げる。空を駆けていてもなお高い壁を。

 

「《ライズ・ファルコン》の効果を発動! この効果は相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を対象に発動する。そのモンスターの攻撃力を《ライズ・ファルコン》に加える!

 《ライズ・ファルコン》! 今こそ反逆の時!

 ブレイブクロー・レボリューションっ!」

 

 隼が急降下する。空気が掠れて摩擦を産んで、赤く染まる爪が徐々に研ぎ澄まされる。

 その一撃は決して軽くない。刹那的な暴力がガイアペライオに迫り、だが百獣の王は隼の速度に着いていくことが出来ない。

 閃光が走り、白毛が散る。少なくない血が流れ落ちて、巨体が震える。大きく、大きく吠えた百獣の王は、そのプライドを捨てなかった。

 

 胴体を切り裂いて通り抜けた隼を驚異的な瞬発力で捉え、上から地上へと叩き落とす。

 隼が悲鳴をあげ、背中からの強烈な一撃に耐えられずに地面へと墜落した。翼が折れ曲がり、体は欠損し、爪は剥がれた。

 

 満身創痍の隼は瑠璃色の空を見上げて遠くまで届くように甲高い叫びを上げ、息絶える。

 見届けた百獣の王は隼の最後の声に、大きく吠えて答えたのだった。

 

「《ライズ・ファルコン》が……っ!」

「僕はダメージステップに《プライドの咆哮》を発動していた。このカードは、戦闘を行う自分のモンスターが相手の攻撃力に及ばない場合、その差の数値分のライフを払うことで、攻撃力を相手モンスターの攻撃力に+300した数値にするんだ。

 これで、僕の《ガイアペライオ》の攻撃力は3600。《ライズ・ファルコン》は戦闘破壊される」

 

 イケメンさんが悲しそうに説明をする。

 だが黒咲は俯いたまま、一言も声を発しない。瞑目していた彼はゆっくりと目を開けて、1枚のカードをディスクに差し込む。

 

「俺は速攻魔法《RUMーデス・ダブル・フォース》を発動する!」

RUM(ランク・アップ・マジック)……?」

 

 二人が同時に目を見開く。聞いたことのカード。だが、そのカードからは言い知れない圧迫感が伝わってくる。

 

「このターンに戦闘で破壊された『RR』エクシーズモンスター体を特殊召喚し、その倍のランクのエクシーズモンスター1体をエクシーズ召喚扱いとして特殊召喚する!

 勇猛果敢なるハヤブサよ。怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!

 ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!

 《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》!」

 

 巨大な隼が現出する。ガイアペライオに届くかと言った巨躯を持ち、高く高く、ガイアペライオすら越えて空に舞い上がる。

 視認できないほど上空に滞空するサテライト・キャノン・ファルコンはその砲身を百獣の王へと向ける。

 

「《サテライト・キャノン・ファルコン》の効果を発動する。ORUを1つ取り除き、自分の墓地の『RR』モンスターの数×800ポイント、即ち5600ポイント分ガイアペライオの攻撃力を下げる!」

 

 遥か上空から走る閃光が、ガイアペライオを貫いた。

 騎乗していたレラのすぐ前を抉って、地面まで突き抜ける。大量の血が吹き出して白い体毛を染め、レラが必死に傷を塞ごうと詠唱をするが、焼け石に水とばかりに血は止まらない。

 

 サテライトキャノンによって胴体に大穴が開いたガイアペライオは、しかし遥か上空に佇むむであろう隼のいる方向を強く睨む。

 負けてたまるものかと、死んでなるものかと。ズタズタの前足を奮い立たせ、力の入らない後ろ足を引きずって立つ。

 レラが満身創痍のガイアペライオを優しく撫でて、彼女も覚悟を決めて上空を睨んだ。

 

「止めだ! 《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》で《聖霊獣騎 ガイアペライオ》を攻撃! エターナル・アヴェンジ!」

 

【イケメンさん】LP2500→0

 

「さあ、闇の扉が開かれた……!

 敗者には運命の罰☆ゲームを執行する!」

 

 闇のアイテムが妖しく光る。

 ブレスレットがかちゃかちゃ音を立てて震える。

 仮面少女の口元が割けて。大きく歪む。

 

限定的(リミテッド)記憶封印(メモリーシール)!」

 

 ウジャト眼が瞬いて。

 ブレスレットが笑うわらうわらうわら……、

 

   ★☆★

 

 

 。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 …………………………………………。

 

「っ!」

 

 意識が覚醒する。周りを見渡して、状況の確認。

 大丈夫。ここは路地裏。ロリ巨乳さんもイケメンさんも一時的に気を失っているだけ。

 一時間もしない内に眼が覚める。先程のデュエルの相手の全てを忘れた状態で。

 

『無かったことになるのが怖くてデュエルの事実を消さなかった』

 

 頭を押さえる。何かが響く。そんな気がして、

 

『……おくびょうもの。』

 

 声が、消えていった。

 

 二人のデュエルディスクを弄っていた黒咲が呆けている遊歌を心配して声をかける。

 

「どうした遊歌? デュエルが終わってからずっと上の空だが……。そのアイテムのせいか?

 確か、スタンダード次元に存在する、とても珍しいものだとお前は言っていたが……」

 

 黒咲が遊歌のブレスレットを指差す。

 ウジャト眼のブレスレットはその眼胞から禍々しい霧を絶えずに漂わせていて──

 

 ──霧? 自分から精神力を込めなければ出てこないはずの、闇のアイテムが起動している証が、絶えずに漂っている──

 

「──っぅ!」

 

 震える。遊歌の全身を悪寒と激痛が貫いていく。

 何ヵ月も前から闇のアイテムは遊歌の身に痛みを与えることはなかった。遊歌は使い慣れてきたからだと思っていて……。

 

『────』

 

 頭に中にノイズが走る。ウイルスに犯されたように、ミームが侵食するように脳がくちゅくちゅと音を立てる。

 蟲に食い破られているようなおぞましい不快感を感じて遊歌は悲鳴も上げられずに踞る。

 ひたすらに体を抱く遊歌に黒咲が声をかけているけど聞こえない。どうせ心配する言葉だ。遊歌はそうあたりを着けて言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫! 大丈夫。大丈夫大丈夫大丈夫大丈ぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだから。

 だから、早くここから離れましょう。あの二人が起きちゃうから。それは避けたいでしょう?」

 

 言葉の途中で頭が急にクリアになる。

 吐き気を催す程の不快感が一瞬にして消え去って、今度は眼が痛い。左眼が痛い。左眼が痛い。眼球が燃えるように発熱して網膜がその輪郭をなぞるように焼かれて、指が突き入れられたかのような激痛が引かないひかない痛みが脳幹に達して神経がまともに機能していないのが分かるのに景色が変わらない。どうして、眼が閉じられない。痛いいたいいたいいたいいたいたいいたいいたいいたいいたいたいいたいたいいたいいたいいたいたいいたいいたいいたいいたい──

 

「どうしたっ!?」

「何でもないっ!!」

 

 黒咲の焦った声に大声で返す。

 そうだ。何でもないなんでもないなんでもないんだ。大丈夫。大丈夫問題ないもんだいない。

 

 呟き続ける遊歌に黒咲は何か言いたそうな顔をして、だけど言葉を引っ込めてしまう。

 ここに来てカフェでのやり取りが、自分の言葉が遊歌を傷つけたことを黒咲は思い出してしまったのだ。

 

「……今日は、一旦帰った方がいい。俺は大丈夫だ。既に廃墟(ねぐら)を見つけている。

 また、落ち着いたら連絡を入れる」

 

 送ろうか? と聞いてくる黒咲に、遊歌はギリギリで保っている理性を総動員して断る。

 路地裏に横たわる二人を一瞥する。流石にこのままにはしておけない。壁を背にしてもたれ掛からせる。

 

 一通り見渡して、頭に手を当てる。もう一つの心臓がそこにあるかのように鼓動が伝わってきて、脳が震える。

 遊歌は無心によろよろと立つ。既に黒咲はどこかに消えている。たった一人で路地裏を後にしようとした遊歌は、表通りに歩を進める。

 

 一歩、二歩、三歩、進めて。景色が変わらない。

 進んでいない。動いていない。動けない。ここはどこ? 道が分からない。一本道が歩けない。

 

 夕焼けの終わりを告げる緋色の太陽が沈んで、世界が真っ暗に染まる。前がない。後ろがない。横がない上がない下がない。

 

 ここには、何にもない。何もなかった。

 

 

 だから。

 

 

 遊歌は、闇に呑まれた。

 




──人を呪わば、穴二つ。

次の話は3日後に投稿予定です。3話連続更新になります。その後に瑠璃の話になる予定です。多分エクシーズ編の番外になりますが。
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