遊戯王ARC-V Undead Duelist 仮面を添えて。   作:羽吹

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2章 Song Of xx
Welcome to my life


 

「アンデット・メガフレア!」

「迎え撃て、スターヴ・ヴェノム!」

 

 高度約千メートルの世界で、不死竜と触手をもったドラゴンがぶつかり合う。

 地上とは違った身を切るように凍てつく冷たさと吹き荒ぶ風が、遊歌の仮面を曇らせて髪を靡かせる。

 

「ここまで来れば、地上を焼き払う憂いもない!」

「あはははっ! アカデミアでもないのに、どうやってモンスターを実体化させているのか興味は尽きないけど、それは君を叩き潰してから調べれば良いよね!」

「言ってくれるわね。私も、今は諸事情で機嫌が悪くてね。……殺しに来る相手を殺すのに、躊躇いなんてしないわよ?」

(アカデミア……? これ、次元戦争がらみ?)

 

 不死竜に騎乗しながら相対する人物に目を向け、アンデット・メガフレアを指示しながら遊歌はこの状況を整理しようとする。

 だが、赤黒い炎弾を自らの翼を広げて発射したエネルギー弾で撃ち落とした紫色の竜は、お返しとばかりに不死竜と遊歌に絡み付こうと触手を伸ばしてきた。

 

「《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》……。流石にウジャト眼でも分かるのは名前ぐらいなのね……」

『いや? その気になればもっと明細なディティールを見ることはできると思うよ? だけど、きっと遊歌自身のプライドがそれを邪魔しているんじゃないかな?』

 

 それはデュエリストとして、相手のモンスターの効果を一方的に把握する行為を嫌っている、と言うことだろうか。

 

「《真紅眼の不死竜》。左後ろにメガフレア、右前方に尾を叩きつけて触手を回避、バク転の後に後方正面にメガフレアを全力で撃ちなさい」

『ぎゃあぁああああああああっ!』

 

 了解、と言った風に鳴いて、遊歌の指示通りに不死竜が行動し、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが取ろうとしていた行動を先読みで潰していく。

 最後に放たれたアンデット・メガフレアを主人を乗せたスターヴ・ヴェノムが微かに焼け焦げながらも回避して、背中に乗る人物がパチパチと手を叩いて、笑顔で遊歌を称賛した。

 

「……君、本当に人間なの? 人の視力では捉えてから指示なんてできるわけがないんだけど、今の動きは完全に予測していたよね?」

「……私が自分を人間だと思っている限りは、私はきっと人間でいられるのよ」

「? 気になる言い方だね。まるで君は人間じゃないみたいに聞こえるよ?」

「さあ、どうかしら」

 

 ふぅん、と、少年は喉を鳴らして、とんとん、と騎乗しているスターヴ・ヴェノムにハンドサインで指示を伝える。

 そして、

 

『っ! これはっ!』

「一面に、触手!? 波状攻撃!?」

 

 スターヴ・ヴェノムがその身から大量の触手を放出し、遊歌に押し寄せる。

 

「くっ、不死竜、雲の中にチャージ、一瞬後に私を背中から落としなさい!」

『ぎゃああ、ぁあぁああああ!?』

「い・い・か・ら・っ!」

 

 ここ高いよ、危ないよ!? と伝えてくれる不死竜に焦った声で遊歌は返事をする。

 仕方なく不死竜は一鳴きすると、指示通り雲の中に飛び込んでいき、少年の視界から遊歌を外して、背中から主人をふるい落とす。

 

「ごめん、不死竜。すぐに取り戻すからっ!」

 

 と、遊歌は弾き飛ばされる前に不死竜に伝えて、紐の無い高度1000メートル・バンジージャンプを敢行する。空中で上を見上げた遊歌の鼓膜に、触手に捉えられた不死竜の悲痛な叫びが叩きつけられた。

 

「あの仮面デュエリストが居ない……?」

 

 触手に噛まれ、不愉快そうに嘶く不死竜を自分の元に引き寄せた少年が思わず呟いて。

 瞬間、

 スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが下から狙撃された。

 

「《スターヴ・ヴェノム》!? まさか、この状況でドラゴンから降りたのか? 一歩間違えれば自殺行為だぞ!?」

 

 自身のドラゴンの損傷を確認して軽く労った後、未だに続く殺し合いに少年は気を抜かずに、取り出した双眼鏡で狙撃ポイントと思わしき下降を覗き見る。

 少し下降に蒼血鬼と黄血鬼、そして紅血鬼の上に乗って空を飛ぶ仮面を着けた少女の姿を確認した。

 

「見つけた……! 行くよ《スターヴ・ヴェノム》」

 

 機動力もないコウモリに似た何かに騎乗する仮面少女は唯の的だ。その上こちらは制空権を取っている。触手の波状攻撃から逃げようとするあまりに、相手は判断を誤ったのだ──そう、少年の思考が行き着いて。

 仮面少女が、にやりと笑った。

 

「ふふっ、私が判断ミス? とんだロマンチストね」

『私のデッキの《真紅眼の不死竜》は()()()()()()のにね』

 

 上空から遊歌に向かって近づいてくる少年の思考回路を軽くトレースして、遊歌は小さく呟く。

 捉えられて身動きのできない不死竜を引き連れて、触手を持ったドラゴンが遊歌に向いて口を開いた。

 そして、

 

「っ、躱せ《スターヴ・ヴェノム》!」

 

 スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの真後ろ、その雲の中から、アンデット・メガフレアが飛来する。

 完全に隙を突かれたスターヴ・ヴェノムは触手を焼き払われ、捉えられていた不死竜が解放される。

 だが、直前の少年の声に全力で動いたドラゴンは、致命傷は避けており、未だに継続戦闘は可能な状態だ。

 

 よろめいている少年を尻目に、遊歌は解放された不死竜に再び飛び乗り、上空の雲中に隠れさせていた不死竜と会わせて、少年を挟み撃ちにする。

 

「やって、くれるね……!」

「貴方もここまで着いてくるなんて、アカデミアでも幹部クラスの人間じゃないかしら、()()()さん」

「僕の名前、どうやって知ったの?」

「秘密よ、ひみつ」

 

 遊歌は左目で相手の名前を読み取る。だが、心理的な枷があるのか、それ以上の情報は引き出せそうにはない。

 

(この闇のアイテム……。いいえ、もうこのアイテムに宿っていたモノは私に移っているのだろうけど、この力は『遊☆戯☆王』で言えば"ミレニアム・アイ"に近い。

 なるほど、ウジャト眼。万物の知識を知る眼。闇遊歌は真実だって言ってたけど、あながち間違ってない……。このアイテムが私と相性が良いのも頷ける。私は、産まれながらに化物だからね)

 

 遊歌が思考を回していると、デュエルディスクにアンカーが伸びてくるのを確認する。

 ウジャト眼の力で跳ね退けることもできる、と判断しながらも、そのアンカーを遊歌は受け入れた。

 

「デュエルアンカーを結ばせて貰ったよ。これは僕のアドレスと、君のアドレスを強制的に交換させるプログラムを内蔵した僕のオリジナルでね!」

「えぇ!? 個人情報抜き取られたの!?」

「……冗談だよ。これ作ったのは僕じゃないんだ。サーカス好きの友達なんだよ」

「個人情報は? ねぇ、個人情報は?」

「さあ、このアンカーはデュエルが終わるまでは解けることはない。デュエルで殺してあげるよ」

 

 遊歌の言葉を無視してユーリはディスクを、つぃ、と撫でる。呼応するようにディスクが反応して、デュエルの準備が整っていく。

 その時、

 ディスクに黒い靄が掛かる。曇っていた空が更に荒れ始め、不自然な暗雲が空を覆い尽くす。

 

「普通のデュエル? それもいいけど、折角私たちは上空に居るのだから、スカイランデヴーと逝きましょう。命綱もなければ、敗ければ間違いなく死ぬけど」

「……まさか、この高さから落下しながらデュエルを……?」

 

 ユーリは信じられないと目を丸くして、だけど遊歌のどこか壊れた笑みに本気だと理解する。

 

「あ、はは。あはっ、あはははっ! イカれてるね君! いいよ、やろうじゃないか。敗けたデュエリストのディスクは破壊され、モンスターによる救助が行えなくなる。即ち、死だよ」

「勝者のみがデュエルを終えた後に生きていることができ、敗ければ死ぬ。更にデュエルが長引けば、タイムオーバーでお互いに地面に衝突する」

 

 遊歌がおかしそうに笑って、闇遊歌は何も言わない。不死竜とスターヴ・ヴェノムの実体化が同時に解かれて、

 

「さあ、闇のデュエルを、始めましょう!」

 

「「デュエル!」」

 

 二人がデュエル開始の宣言をした後、揃って重力に引かれて落ち始める。頭を下に、某言葉様が悲しみの向こうへと逝くときのように、普段とは上下が入れ替わった状態でのデュエル。このまま落ちれば二人ともザクロになるだろう。

 

「僕のターン。モンスターをセットしてカードを1枚伏せる。これで僕のターンは終了だよ!」

 

 ユーリが数秒で自分のターンを終了させた。超速攻デュエルだ。どうしてそんな高速でデュエルをし始めたのだろうか。理由は簡単だ。時間がないのだ。

 人間の落下速度は最速で200km/h。頭を下にして落ちるなら300km/hを超える辺りである。始めから最高速度には達しはしないが、それでも1分半もあれば地面に激突してしまう。

 よって、このデュエルの1ターンの制限時間は10秒に満たない。速攻でデュエルを回さないと二人とも死ぬ。これは闇のデュエルの中でも難易度が相当高いデュエルなのだ。皆も闇のデュエルをする時は気を付けないと死んじゃうぞ☆

 

「私のターン、ドロー、永続魔法《魔法吸収》を発動。そして魔法《紅玉の宝札》を発動して手札とデッキから《真紅眼の不死竜》を墓地に送って2枚ドロー。そして魔法《シャッフル・リボーン》を唱える。墓地から《真紅眼の不死竜》を蘇生して攻撃。アンデット・メガフレア!」

「破壊された《捕食植物(プレデター・プランツ)スキッド・ドロセーラ》が表側表示でフィールドを離れたので《真紅眼の不死竜》に捕食カウンターを乗せる」

 

 凄く残念そうな声。このモンスターにカウンターを置くことに意味がない事に気付いているのだ。

 シャッフル・リボーンで特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズに除外されてしまうのである。

 

 小さな植物っぽい何かに噛まれた不死竜が嘶く。

 空中で振り払おうと尻尾を振り回して自分を攻撃し、それでも噛みついたままの植物に、うー、と威嚇していた。

 

「一旦リフレッシュを。魔法カード《七星の宝刀》を発動して《真紅眼の不死竜》を除外、2ドロー。続けて《生者の書-禁断の呪術-》を発動。墓地の《真紅眼の不死竜》を蘇生して《捕食植物スキッド・ドロセーラ》を除外。カードを1枚セットしてターンエンド」

「僕のターン、ドロー、《捕食植物フライ・ヘル》を召喚。《真紅眼の不死竜》に捕食カウンターを置くよ。このカウンターの置かれたモンスターのレベルは1になるんだ。

 《フライ・ヘル》で《真紅眼の不死竜》に攻撃! 《フライ・ヘル》が自身のレベル以下のモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に、このモンスターは相手を捕食しちゃう!」

 

 ユーリのモンスターが逆さまに召喚される。支えのない植物型モンスターのモーレイ・ネペンテスは、支えを求めてユーリに絡み付き、うねうねと蔦を伸ばしている。

 

「そして補食したモンスターのレベルだけ、このモンスターのレベルを上げるんだ。よって《フライ・ヘル》はレベル9のモンスターになった。これで僕はターンエンド」

「このエンドフェイズから貴方に死の宣告が下される。罠カード、《ウィジャ盤》、発動!」

 

 逆さまのままで落ちる遊歌の後ろにウィジャ盤が現れる。レトロな木盤にアルファベット、円形のプランシェットのセットが独りでに、かたかたと音を立てた。

 

「ウィジャ、盤だって……! よりにもよって、このデュエルで? あはっ、最高だよ君っ!」

「そう、《ウィジャ盤》。こっくりさん、こっくりさん。……おいでください」

 

 するとプランシェットがぐりん、と動き、D、Eの文字を指し示す。

 

「こっくりさんがいらっしゃいました。よって、私はデッキから《死のメッセージ「E」》をフィールドに出す。

 ……私のターン、ドロー。フィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》、発動」

 

 辺りが黒褐色に染まる。一面から瘴気が吹き出して、そこらじゅうに巨大な眼が現れる。嘲る眼、悲しむ眼、苦しむ眼、怒る眼、笑う眼、泣く眼、驚愕した眼、恐怖する眼、諦めた眼、好奇の眼、冷静な眼、期待の眼、恨む眼、絶望の眼、憎悪の眼、愛しい眼、狂った眼、不思議そうな眼、幸せそうな眼、不幸そうな眼、幼い眼、閉じた眼、歪んだ眼、後悔の眼、懺悔の眼、罪悪感の眼、優越の眼、怯えの眼、軽蔑の眼、嫉妬の眼、怠惰な眼、傲慢な眼、赤い眼、蒼い眼、白い眼、空虚な眼、満たされた眼、満足した眼、愉快そうな眼、希望の眼、和む眼、爽快な眼、愚鈍な眼、懐かしい眼、憧憬の眼、寂しい眼、困る眼、心配な眼、不安な眼、安心した眼、苦心する眼、不気味な眼、萎縮した眼、焦る眼、惨めな眼、屈辱な眼、負い眼、勝ち気な眼、照れる眼、光の無い眼、焦燥した眼、見下す眼、見上げる眼、同情した眼、息苦しい眼、希求した眼、欲する眼、戸惑う眼、悩ましげな眼、飽きた眼、ぼんやりした眼、切ない眼、呆れる眼、苛立った眼、落胆した眼、崇拝した眼、心酔した眼、慈悲の眼、優しい眼、自己満足な眼、羨望の眼、恍惚な眼、困惑した眼、ヒステリックな眼、激昂した眼、呵責に苛む眼、悪意のある眼、善意のある眼、執念の眼、真剣な眼、ふざけた眼、緊張した眼、憤った眼、憎い眼、自惚れた眼、鬱な眼、無心な眼、はにかむ眼、倦怠感のある眼、誇る眼、哀れむ眼、当惑する眼、畏怖する眼、野心のある眼、冷たい眼、熱い眼、冷めた眼、感謝する眼、多幸感のある眼、相手の眼、ユーリの眼、そして、遊歌の眼、ウジャト眼。

 

「カードを1枚伏せて、ターンを終了する」

 

【遊歌】

 LP6500

 手札2枚

 モンスター

 Φ

 魔法・罠

 フィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》

 永続魔法《魔法吸収》

 永続罠 《ウィジャ盤》

 永続魔法《死のメッセージ「E」》

 伏せカードが1枚

 

【ユーリ】

 LP4000

 手札3枚

 モンスター

 《補食植物フライ・ヘル》

 魔法・罠

 伏せカードが1枚

 

「僕のターンカードドロー、《ウィジャ盤》なんて完成させないよ? 魔法カード《ハーピィの羽箒》を発動。君のフィールドの魔法・罠カードを全て破壊する」

「あははっ、こっくりさんを途中で止めるつもり? 憑かれるわよ? でも残念、対策ぐらいしているの。罠発動、《アヌビスの裁き》! 手札を1枚捨て、『フィールドの魔法・罠カードを破壊する』効果を持った魔法カードの発動と効果を無効にして破壊。更に豪華得点として、相手フィールドの表側表示のモンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与えることができる。自分の触手にでも絡み付かれていなさい!」

 

 ウィジャ盤から犬の顔を持ったナニかが顔を出し、その眼が光って雷がフライ・ヘルに落ちる。蔦に衝撃が走り、それを通して伝わった雷によって、ユーリは微かに悲鳴を上げた。

 

「だったら破壊しないだけだよ! 《封印の黄金櫃》を発動して、デッキから《コズミック・サイクロン》を除外! 死のメッセージは揃わない、絶対にね!」

「っ、除外……!」

「そして、僕は《補食植物モーレイ・ネペンテス》を召喚。ダイレクトアタック!」

「この瞬間、フィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》の効果が発動! ダーク・サンクチュアリには怨霊が彷徨っている。だけど、その怨霊は気まぐれでね。二分の一の可能性で、貴方のモンスターに取り憑いているのよ。怨霊の取り憑いたモンスターは体内の怨霊によって貴方を攻撃し、攻撃力の半分のダメージを与える」

 

 つまりはコイントスだ。ダーク・サンクチュアリの貼られたフィールドに攻撃する場合、コイントスで表だった場合にその攻撃を無効にし、相手にその攻撃力の半分のダメージを与えるのだ。

 

「でも今は絶賛落下中なので、コイントスはアルカナフォース風に処理する。さあ回れ回れ、運命のルーレットっ! 当然っ、正位……ぎゃ、逆位置だとぉ!?」

「何を一人芝居してるのさ。《モーレイ・ネペンテス》、あの馬鹿に攻撃」

「あっ、ちょっ、んっ、待って! あぅ! っ、ど、こ、を、攻撃してるのよっ!」

 

 遊歌は絡み付くモーレイ・ネペンテスを蹴り飛ばす。不思議なほど飛ばされたモンスターはフライ・ヘルと同様にユーリに絡み付いて自身を安定させる。

 

「僕は、くくっ、魔法カード《命削りの宝札》を発動して、カードを3枚ドロー。そのまま3枚のカードを伏せて、僕はターンを終了するよ」

「エンドフェイズ、こっくりさんがいらっしゃいました。なのでデッキから《死のメッセージ「A」》を特殊召喚。フィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》が存在する時、死のメッセージは魔法・罠ゾーンではなくフィールドにモンスターとして出すことができる」

「でもその死のメッセージ、揃わないよ」

 

 笑うユーリと対照的に遊歌は、むぅ、と頬を膨らませて、空中で服を直しながらユーリを睨む。

 そんな中、ウィジャ盤がぎぎっ、と音をたててAの文字を指し示す。遊歌のフィールドに人魂が表れ、3文字目が浮かび上がった。

 

「……私のターン、ドロー、カードを1枚伏せて魔法カード《命削りの宝札》を発動して3枚ドロー。リバースカードオープン《闇の誘惑》。カードを2枚ドローして《ゾンビ・マスター》を除外。手札から《封印の黄金櫃》を発動。《不知火の宮司》を除外して、《モーレイ・ネペンテス》を破壊する」

「罠カード《魂の転身》を発動。《補食植物モーレイ・ネペンテス》をリリースして、カードを2枚ドローさせてもらうよ」

 

 視界の隅に高層ビルが見える。後数十秒もしない内に地面が視認できるだろう。そうなれば間に合わない。そろそろこのデュエルに決着を着けなければならない。

 だが、未だに決着は遠く、遊歌とユーリは同時にプレイ速度を加速させていく。

 

「墓地の《シャッフル・リボーン》、《魔法吸収》を戻して1ドロー、カードを3枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに《命削りの宝札》の効果で《光の護封霊剣》を墓地に」

「僕のターン、ドロー、2体目の《補食植物フライ・ヘル》を召喚、罠カード《ギブ&テイク》を発動して君のフィールドに《補食植物モーレイ・ネペンテス》をあげる。可愛がってあげてね。だけどそのモンスターには薔薇の刻印が刻まれていた! 装備魔法《薔薇の刻印》を墓地の《フライ・ヘル》を除外して発動。帰っておいで《モーレイ・ネペンテス》。そしてリバース魔法《置換融合》を発動。フィールドの闇属性モンスター2体で融合召喚を執り行う。

 魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花よ! 今ひとつとなりて、その花弁の奥の地獄から、新たな脅威を生み出せ!

 ──融合召喚! 飢えた牙持つ毒龍! 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」

 

 本来はフライ・ヘル用のコンバット・トリックの罠であろうカードを応用して、ユーリは華麗にスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを融合する。

 翼を広げたまま急降下して現出したドラゴンは、しかし時間がないのか、そのままの体制で遊歌に突撃を敢行する。

 

「《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》の攻撃! ダイレクトアタックっ!」

「護封霊剣を除外っ! 攻撃を止める!」

「カードを1枚伏せて、ターンエンドっ!」

「エンドフェイズ、こっくりさんがいらっしゃいました。よって、デッキから《死のメッセージ「T」》を私のフィールドに特殊召喚」

 

 この間、僅か2秒。光の護封霊剣の除外処理をディスクが行うよりも早く、遊歌とユーリのデュエルが進行する。もう時間が無いのだ。もうすぐこの町の最も高い建物の先端に辿り着いてしまう。

 遊歌はデッキから死のメッセージをほぼ勘で取り出してディスクに置きながら、もう片方の手でデッキを放り投げ、置き終わった手で空中のカードを整理してデッキゾーンにセットしながらドローする。もはや神業である。

 

「私のターン、ドロー、魔法カードをリバース《団結の力》。このカードを《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》に装備。そして《死のメッセージ「A」》を攻撃表示に変更。

 バトルフェイズ! 貴方に直接、物理的に死のメッセージを叩きつける! 《死のメッセージ「A」》で《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》に攻撃っ!」

「なん……だって……!?」

 

 死のメッセージの攻撃。それは相手に直接死のメッセージを叩きつける不幸の手紙だ。遊歌のフィールドから「A」の文字がスターヴ・ヴェノムに死の宣告を叩きつける!

 だが、スターヴ・ヴェノムは理不尽な死の宣告に抗って全力で死のメッセージを返り討ちにする。その反動で遊歌の仮面の一部が砕け、破片が空に舞った。

 

「っ、ぅあぁあぁぁあああああああああああっ!」

 

【遊歌】 LP7400→3000

 

「っ、だが、この瞬間、速攻魔法《ヘル・テンペスト》を発動! お互いのデッキ・墓地から、モンスターカードを全て除外する!

 そして除外された《不知火の隠者》《不知火の鍛師》《ネクロフェイス》の効果が発動! 除外されていた《不知火の宮司》を特殊召喚! 永続罠《不知火流 輪廻の陣》を発動して、《不知火の宮司》を除外する!」

「そんなに簡単にはやらせないよ! 速攻魔法《次元誘爆》を発動! 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》をデッキに戻して、お互いに除外されているモンスターを2体まで特殊召喚できる! 僕は『補食植物』を2体特殊召喚!」

「私は《真紅眼の不死竜》と《妖刀ー不知火》を特殊召喚する」

「そして、」

「この瞬間、」

 

「「速攻魔法、《瞬・間・融──ちっ」」

 

 魔法カードの発動宣告の最中。遊歌とユーリの二人が同時にデュエルを中断、実体化させたスターヴ・ヴェノムと真紅眼の不死竜に跨がって空域を離脱、近くの廃ビルの屋上に着地する。

 二人のデュエリストが居なくなった後、ヘリコプターが飛んできて、ライトで何かを探し回っており、「ここで何か騒がしいって聞いたから来たのに、何も無いじゃなーい」、などと愚痴が聞こえてきた。

 

「邪魔が、入った……」

「流石に萎えるね……」

 

 まったく、デュエルを何だと思っているんだ、と二人して吐き捨てるが、この二人がやっていたものは闇のデュエルである。

 

「取りあえず、こっくりさん、ありがとうございました。お離れください」

「ふぅん、君も律儀だね。まあいいけど。このデュエルの決着、どうするの?」

「私の勝ちでしょう?」

「はぁ? 僕の勝ちだよ? 間違いない」

 

 折角邪魔者から逃げおおせたと言うのに、お互いに自分の勝利を譲らずに二人はお互いにガンをくれあっていた。

 睨み合ったまま一触即発の雰囲気を醸し出していた二人の内、ユーリが口火を切る。

 

「仕方ない。今からもう一度デュエルする気には流石になれないし、ここはジャンケンで……」

『不審者発見、不審者発見! 貴様ら、そこは立ち入り禁止区域だぞ! 革命派が昔使っていた場所で危ないから離れるんだ!』

「……決めようと思ったんだけど、あのうるさいのを先に黙らせた方の勝ちでいいよね」

「ええ。問題ないわね。ちょうど二人居るみたいだから、先に相手のライフを0にした方の勝ちね」

(ん? あれセキュリティ? 5D's? ハートランドもあったし、驚きはしないけど……)

 

 はぁ、と遊歌はため息をついて、二人組のセキュリティの片方を相手にデュエルを始める。

 

「本官のターン、魔法カード《予想GUY》を発動し、デッキから《戦士ダイ・グレファー》を特殊召喚。更に《ジュッテ・ナイト》を召喚して、シンクロ召喚! 《ゴヨウ・プレデター》! 更に《死者蘇生》を発動して《ジュッテ・ナイト》を特殊召喚! さあ、これがセキュリティだぁ! シンクロ召喚! 《ゴヨウ・キング》! カードを2枚伏せてターンエンド!」

(ふふっ、本官が伏せたカードは《ゴヨウ・キング》を破壊から護る《我が身を盾に》、更に相手のカードを破壊する《無力の証明》。完璧な布陣だな。だが、どうしてこの子は仮面をしているんだ?)

「私のターン、ドロー。《おろかな埋葬》を発動。デッキから《ヴァンパイア・ソーサラー》を墓地に送って、効果を発動。《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》を通常召喚して、貴方の《ゴヨウ・キング》を装備するわね」

「そ、そんな殺生な……」

「バトル! 《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》でダイレクトアタック! ヴァンプ・サック!」

「ば、馬鹿なぁあぁぁああああああああ!」

 

 終わり、と遊歌は呟いて、ユーリが戦っている方に目を向けると、同様にデュエルが終わったのか、相手のセキュリティが吹き飛ばされていくシーンだった。

 

「僕の勝ちだよ。さあ、敗者には罰が待っている」

「ば、罰だと……?」

「罰は罰だよ。君にはカードになって貰う」

 

 右腕を持ち上げて、ユーリは装着されたデュエルディスクのボタンを押し込む。ディスクから放たれた赤いレーザーがセキュリティをカードに……しない。

 

 突如、その光が掻き消えたのだ。

 

「……ふぅん、君、やっぱり人間じゃないんだ?」

「…………どうして、そう思うの?」

 

 ユーリとセキュリティの間に割り込み、赤いレーザーを絶ちきった遊歌をユーリは愉快そうに見つめて、言葉を続ける。

 

「カード化のビームを絶ちきったこともそうだけど、この世界に左眼が光る人間は居ないよ?」

「……眼、光ってるんだ……」

 

 急激に遊歌のテンションが落下する。

 ショックを受けたのかその場に座り込んでいじけたように地面を弄りながら、「私だってこんなことになるなんて……」などと供述していた。

 

「……とにかく、この人たちは私が記憶を消すからカードにはしないで。それでいいでしょう?」

「……うーん、まぁいいや。構わないよ」

「それじゃあ、私が敗者への罰ゲームを執行する」

 

 遊歌の提案にユーリは素直に頷いてくれる。その様子を確認した遊歌は、項垂れるセキュリティ二人に向き合って、精神力を高めていく。

 そして、

 

限定的(リミテッド)記憶封印(メモリーシール)!」

 

 左眼が光を発し、セキュリティは強制的に意識を奪われて、受け身も取れずにその場に崩れ落ちた。

 

「さて、落ち着いたところで本題に入りましょうか」

 

 二人を壁にもたれ掛からせて一旦の事後処理を二人で行い、一息ついた後に遊歌はユーリに話しかける。

 

「そうだね。僕たちの決着がまだだった。結局あのうるさい人たちを黙らせるのも同時だったし……」

「いや、それはもういいの。それより、あの女の子はどうするつもり? まだ襲うつもりなら、相手になってあげるけど?」

 

 ああ、とユーリは声を上げる。どうやらデュエルに意識が集中しすぎて、彼女のことを一旦忘れていたらしい。

 

「困ったな。君を相手にしているこの状況で彼女を拐うのは、なかなかに苦労しそうだ。

 いいよ、今回は引いてあげる。流石に僕だけじゃ厳しそうだしね。だけどこれは僕に与えられた任務でね、できませんでした、じゃあ駄目なんだよね。……だから、また来るよ。その時に今日の決着を着けてあげる。楽しみにしてなよ! あはははははっ」

 

 妖しげな微笑みと陶酔したような抑揚で顔を歪ませて、ユーリはデュエルディスクの転移機能を起動させようとする。その異様な姿に遊歌は若干引きながらも、自分も五十歩百歩だと思い至って考えを改める。

 ユーリが転移の光に包まれていくのを見つめながら、遊歌は一つの質問を彼に投げ掛けた。

 

「ねぇ。貴方、『瑠璃』って名前の女の子を知らない? アカデミアに囚われてるらしいんだけど」

「……知ってるよ。それはもう、よーく、ね」

「へぇ……。なら──って、行っちゃったか……」

『うん、あの転移されるのはちょっと厄介だよね』

 

 闇遊歌の声が遊歌の内側のみに響く。たった一人だけで廃ビルに取り残された遊歌は、今まで沈黙していた闇遊歌に呆れ混じりに返答しようとして、

 

『それは心外だよ。今まで出てこなかったのは遊歌のせいなのに。私は貴女の本心や裏側なんだから、貴女が裏側で「闇遊歌()に出てきて欲しくない」と思えば、私は出てこれないんだよ』

「…………ごめん」

『別に良いけどね。私の存在はその内貴女に統合されるだろうから、そこまで気を使う必要もないし』

 

 不思議な感覚だ、と遊歌は思う。自分の内にもう一人の自分が居る感覚。複数の人格を使い分けるような、だけど分かたれていながらも共鳴しているような、そんな感覚。

 とりとめのない思考をしながら、遊歌は足早に柚子に似た女の子の居る場所に向かう。あの子はユーリのアンカーによってあの場所からは動けない状態なのだ。

 

「ここ、シンクロ次元なのかな……?」

『多分ね。ウジャト眼でもそこまでは分からない。けど、ここに転移したのは理由がある筈だよ』

「と、言うと……?」

『具体的には私が飛ばしたから』

 

 ひくっ、と遊歌の頬が引き攣る。

 真っ暗な町のショーウィンドウに移る遊歌の表情は不自然なほどに笑顔だった。

 

『か、勘違いをしないでよねっ! わざとこの次元に飛ばした訳じゃないのよ。榊君を次元の座標として、23次元方程式に代入してサーキットを走らせたんだけど、代入値が何か変だったみたい。多分あの紫キャベツさんが次元ターゲットになったんだと思う。

 ……白状するとね、ちょっとヤバかった。恐らく4次元目、ううん、余剰次元のどれか、いや、4次元の場合分けの定義かな。まあとにかく私も良く分からないんだけど、それに準じた高次方程式に代入したら、何故か値がずれたみたい。一歩間違えてたら、私たちは今ごろ次元の狭間に居たかな……』

「えぇ……。どうしてそんなことしたの?」

『貴女を物理的に心の部屋に呼んだからだよ。あの時も同じようにやったんだよ? デュエルが終わってから、元の世界に戻そうと思ったらこんなことになったの。それが理由かは分からないけど、今は次元移動はできない。次元の狭間が私たちを拒否してるのよ。当分はここで生活する必要があるわ』

「そんなことよりお腹がすいた……」

『おうどん食べたい。シンクロ弁当から何にも食べてないものね。おーなーかーすーいーたー!』

 

 などと宣いながら路地裏をぐねぐねと曲がって、捉えられた美少女の居る場所に遊歌は人知れず向かっていった。

 ウジャト眼で道を確認しながら数十分は歩いて、遂に遊歌は元々いた場所に辿り着く。

 

   ☆★☆

 

 

「良かった、無事だったみたいね」

「無事な訳ないでしょうっ! 数時間も私を放置して! 怖いし寒いし冷たいしトイレ行きたいし! 助けてくれたことは感謝してるから早くこれ外してお願い! もう限界なのっ!」

「あっ……」

 

 内股を動かしながら、拘束された彼女は遊歌に懇願している。一歩間違えれば危ないことになりそうだったが、遊歌が手早く拘束を外すと、自由になった少女は近くのコンビニへと駆け込んでいくのだった。

 

「も、もうダメかと思った……」

「良かった、無事だったみたいね」

「わぁ、デジャヴだ。でも、本当にありがとう。貴女が居なかったら私は生きてなかったかもしれないから……」

 

 彼女は真剣に思ったことを紡ぐ。だからなのか、その言葉は本当に真摯で、暖かみのあるものだった。

 

「私はリンっていうの。孤児院の出身だからじゃないけど、姓は聞かないで。貴女の名前は?」

「私は(つむぎ)遊歌(ゆうか)。結って呼ばれるのは嫌いだから、遊歌って呼んで欲しい。

 ところで、リンはどうしてユーリ、あの男の子ね。ユーリに追われていたの?」

「……それがね、分からないの。始まりは今日の夕方。孤児院のみんなで夕食を食べようとしていたら突然襲われてね、私の幼馴染みが咄嗟に孤児院のみんなを庇って怪我をしたの。それでね、私にみんなを連れて逃げろって言って、一人で襲撃してきたあの紫色のドラゴンに刃向かっていって……それで……それ、で……っ……」

 

 言葉が、途中で止まる。話ながら思い出したのか、声が震えて、掠れて、嗚咽に変わっていく。

 

「ごめん、無神経だった。とりあえず、今はゆっくり休もう。その孤児院、じゃなくて、どこか休めるところとか……」

「……っ、……ぅ……、ぅん。でも、あいつは私が狙いみたいな事を言ってたから、みんなを預けた場所には私は帰れない。だから、行き場所なんて……」

 

 襲撃されたと言う孤児院を休憩場所から外して、遊歌はリンを落ち着かせようと試みる。

 経験から分かるのだ。切羽詰まって追い詰められた人間がどんなことをしてしまうのかを。

 

「そっか。なら、ちょっと我慢してね」

 

 言葉と共に、遊歌はデュエルディスクを起動させる。真紅眼の不死竜を召喚して自分とリンを背中に乗せ、先程までいた廃ビルまでそらをとぶ。

 リアルソリッドビジョンシステムがこの次元にもあるのかは分からないが、無ければ問題行動ではある。だが、その程度の危険性よりも、何時間も怖い思いをしてきたであろうリンを、遊歌はすぐに休ませたかったのだ。

 

「セキュリティは、うん、もういないわね」

 

 自分とユーリが倒したセキュリティが居た場所を確認して、リンが落ち着くまではとにかくここで休むことにする。

 簡易でバリケードを作ってセキュリティから見つからないように細工、奥の部屋を最低限片付けて眠れるだけの環境を整えると、疲れていたのかリンは既に寝息を立てていた。

 

「会ったばかりの私を、どうしてこうも信用できるんだろう」

 

 出会いが出会いだったのと、同性であったことが大きいのかな、なんて考えていると、遊歌の思考にも靄が掛かってくる。

 朝から中学校に行き、夕方から黒咲との話し合いにタッグデュエル、その後には精神的にダメージを受けた闇遊歌とのデュエル。極めつけはユーリとの一件である。遊歌自身にも相当に疲労がたまっていたのである。

 

「ぁ……。んっ、駄目だ、眠たぃ……」

 

 その蓄積が一気に遊歌に襲いかかる。リンの隣に倒れるように寝転んで、数分もしない内に遊歌の意識は消えていった。

 

 

「…………きてっ! 遊歌、起きてっ!」

「んっ、っ、ぁ、……おはよう、リン」

「うん、おはよう、遊歌」

 

 朝。窓ガラスすら入っていない窓から覗く太陽は眩しくて、そして既にかなりの高さにまで昇っている。寝過ごしたのだろう。中学校に行くのならば確実に間に合わない時間だ。

 

 遊歌は眠気眼を擦りながら、目の前の風景を見る。薄汚れた廃墟だ。バリケードや鋼材などが所々に散乱していて、昨日の掃除がどれだけ大雑把なものだったのかが分かる。

 布団も毛布もない固い床の上で眠る事は昔には良くあったことだけど、最近は無かったな、なんてことをリンの埃まみれの服を見て思う。当然自分の服も薄汚れていた。

 

「お腹、すいたね」

「うん。でも私はそれ以上にお風呂に入りたいな」

「私も。髪の毛まで埃だらけだもん。人前に出られる格好じゃないよ、今の私たち」

 

 はぁ、と二人してため息をつく。簡単な身だしなみのセットぐらいは持ってるけど、焼け石に水なのは明らかだった。

 

「誰かに連絡しようにも、私のデュエルディスクは壊れちゃっててできないし、本当にどうしよう」

「アドレスとか番号とか覚えてるなら、私のディスクを貸してあげるけど、覚えてる?」

「あ、うん。何人かは覚えてる。でも、その……」

 

 いい淀むリンに、連絡を躊躇う理由を察した遊歌がディスクをリンに渡しながら諭すように話しかける。

 

「大丈夫。ユーリだってこんな真昼間から襲っては来ない、と思うから」

「……うん、そうだよ、ね。分かった、連絡してみる。……って、あれ? 遊歌、これ壊れてない?」

 

 リンが渡されたデュエルディスクのディスプレイを見て、不思議そうに首を傾げる。

 

「えっ? 壊れてない筈だけど……?」

「じゃあ、なんで6月に設定してるの? 今は5月だよ……?」

 

 目を見開く遊歌とは対照的に、リンは遊歌に許可を取ってからディスクを操作する。ディスプレイに表示されたデータを見ながら、「他は何も壊れてなさそうなんだけど……」と訝しげに声を上げた。

 

『時間軸が、ずれたのか……!』

「まさか、23次元方程式のずれって、これのこと?」

 

 違和感に、闇遊歌が声を上げる。次元移動の時に代入値がずれたことが、行き先の変更だけで終わってはいなかった、と指摘する。

 

「……根拠は?」

『榊君だよ。彼はシンクロ次元とは関係ない。なのに私たちがここに来たってことは、彼の値に多次元的な変更が無かったらおかしいの。

 つまり、榊君とあのユーリって人が、過去、もしくは未来で何らかの深い接点があったんだ。だから彼に数値がぶれた。でもどうしてそんなことが、』

「起こったのか、だね。ユートやユーリの存在もあるし、榊君に何か秘密があるって言うの……?」

『……分からない。とにかく言えることは、これからは榊君を座標にして次元移動はしちゃダメってことだけ。

 ああ、次元の狭間が私たちを受け入れないのもそれが原因かな。パラドックスを生まないようにしてるんだね』

 

 面倒くさいことになってきたな、と遊歌は頭に手を当てて、だけど別に自分がその問題に首を突っ込む必要性は無いよね、と持ち直す。遊歌にとっての次元間の問題なんて、次元戦争を含めてどうでもいいのだった。

 

「でも、瑠璃だけは、助けたいと思う」

『……どうして?』

「友達だと私は思ってるから。それと、それが私が今を歩くって言うことの指標になると思うんだ」

『今を、生きるんだ?』

「それが、私への罰ゲームでしょう?」

 

 無表情で吐き捨てるように遊歌は言って、軽く首を振ると、電話をしているリンに向き直る。

 

『……いつか、罰ゲームじゃなくなればいいけど』

 

 そんな言葉が、遊歌のなかで響いて、

 

「そんなっ! ユーゴが、ユーゴが死んじゃう!」

「リン!? どうしたの!?」

 

 小さく悲鳴をあげて、リンが抱きついてきた。

 遊歌は拒否をせずに抱き止めて、リンを落ち着かせようと試みる。リンが言う『ユーゴ』とは、おそらくリンの幼馴染みの名前だろうと当たりをつけ、大丈夫、大丈夫、と根拠のない言葉を投げ掛ける。

 その言葉に答えるように、リンの震えが少しだけ収まってくれた。

 




ここからはちょっとずつ原作から乖離していきます! ですが、大事な事を一杯書いたので、次は箸休め回になる予定です。因みに更新は未定です。許せ……。

オマケは需要がなさそうなので続きません。需要があったら続けます。
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