遊戯王ARC-V Undead Duelist 仮面を添えて。   作:羽吹

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長いです。本来二つに分けようかな、とも思ったのですが、そうしてしまうと気持ちの悪い読了感になるかな、と思ってしまったのでこうなりました。

【注意】
シンジやユーゴたちのキャラが作者の都合良く変わっています。許容できる方のみどうぞ。


Purity Relationship At Midday(vsセレナ)

 

「遊歌。あー、そー、ぼーぅ?」

 

 半壊したマーサハウスを平らに踏み鳴らし、怪しい光を湛える瞳を遊歌に向けるスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン。

 その頭上に悠然と居座るユーリが、恍惚と、それでいて抑揚のないねっとりとした声を上げた。

 

「……随分と派手なお誘いね。私はあんまり、強引なものは好きじゃないんだけど」

 

 いつの間にか狐面を着けていた仮面デュエリスト☆ユーカは、唐突に現れては暴虐を尽くす闖入者に穏やかではない瞳を向ける。

 ウジャト眼。警戒に細められた目の左側。その奥から微かに光が漏れ、辺りを薄く照らす。

 

「リンっ! シンジっ!」

 

 あまりの出来事に呆然としていたユーゴが叫び、半壊したマーサハウスに駆け込んでいく。

 

 早朝のこの時間、マーサハウスにはリンやシンジ、マーサに子供たちが居たはずである。当然、彼らは襲撃されるなど思ってはいない上に、まともに抵抗できる人物も少ない。

 そして、ユーゴにとって彼らは家族のようなものだ。それ故に、血相を変えて走り出すユーゴを咎める権利は遊歌にはなく、その言葉も持っていない。

 なりふりを構わずにひた走るユーゴは隙だらけだ。背中はがら空きで、足元にも注意を向けていない。だが、ユーリはユーゴに攻撃をしない。

 

 できないのだ。

 

 今、ユーゴに攻撃をすれば、ユーリには一瞬の隙ができる。そして、遊歌はその隙を決して見逃さない。睨み会う遊歌とユーリはそれぞれ拮抗しているのだった。

 膠着状態。ピリピリとした空気がお互いの間を埋めて、デュエルディスクを構える遊歌とユーリが少しずつデッキのカードに手を伸ばす。

 

 そこに、

 

「貴様ら! 何をしている!」

 

 セキュリティの大群が押し寄せてきた。

 

 その瞬間、

 ユーリの頭上から戦神が切り込む。

 同時に地中から触手が飛び出し、遊歌に襲いかかる。スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが密かに地中に張り巡らせていたのだ。

 背後から近づいていたセキュリティを弾き飛ばしながら遊歌に迫る触手のムチ。だが、対する彼女の表情は変わらない。狐面で隠しきれない口許はピクリとも動かず、焦りも余裕も感じられない。

 

 そして、

 触手のムチが燃え上がる。遊歌の周りに火車が這いずり回ったのだ。人の死体を拾い上げる火車は触手には見向きもしないが、セキュリティに生きたまま齧りついていく。

 先程の一瞬の間に遊歌はユーリへの戦神だけではなく、セキュリティ相手に火車をも展開していたのだろう。だが、遊歌が二手打ったのならば、ユーリもまた同様に二手打っているはずなのだ。

 

 瞬間、マーサハウスが崩れた。

 

「っ、そっち……!」

「残念。気付くのが遅かったね……ん?」

 

 悔しさの混じる遊歌の声。だが、それに呼応するように少年の声が辺りに響き渡る。

 

「そいつはどうかなっ!」

「白い、ドラゴン……? ウッ!」

 

 崩壊したマーサハウスから少年の叫び声が発され、木材の下からクリアウィング・シンクロ・ドラゴンが上空に飛び上がった。

 だが、クリアウィング・シンクロ・ドラゴンを確認したユーリが突然苦しみだし、眼を光らせながら、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの頭上で踞る。

 

「眼が光る人間は、居ないんじゃなかったの!」

 

 不機嫌そうな遊歌の声に答えるように戦神が腕を凪ぐ。スターヴ・ヴェノムの牙によって止められていた妖刀を切り払い、上空に蹴飛ばしては一閃。スターヴ・ヴェノムの触手を数十本纏めて切断した。

 吹き飛ばされたユーリを追うために、遊歌は真紅眼の不死竜を召喚して騎乗、空中へと飛翔して、

 

「リン、シンジ、無事!?」

「ああ。マーサたちは地下から逃がした。それよりもユーゴだっ! これはどうなってる!?」

 

 その途中、破壊されたマーサハウスの上空で静止するクリアウィング・シンクロ・ドラゴンの頭上でリンとシンジ、そして踞るユーゴを確認する。

 

「ユーリと同じ現象……?」

「遊歌! 後ろっ!」

「分かってる」

 

 遊歌が現状を口に出して状況の整理を行おうとするが、その途中でリンが叫ぶ。

 

 しかし、遊歌は動じない。振り向きすらせずに、手首のスナップのみでデッキトップのカードを引き抜き、デュエルディスクにカードを叩きつけた。

 ユーカの背後に戦神が迫る。復活したユーリによって吹き飛ばされたのだろう。ウジャト眼で確認した真実にユーカは軽く毒付き、その低空から浮上する真紅眼の不死竜に戦神は回収されて上空に舞い上がった。

 

「とにかく、私があいつを相手にするから、その間にできるだけ遠くへ──」

「──行かせると、思うかい?」

「っ、誰!?」

 

 新手。上空に居た戦神と不死竜を薙ぎ払って、膨大な質量がユーカとリンたちに向かって降り下ろされる。

 

「っ、これは、確かエクシーズ次元で見た……」

 

 街を破壊していた兵器だ。その巨大な腕が降り下ろされ、不死竜とクリアウィング・シンクロ・ドラゴンが同時にその場から離れる。

 そう言えば、ユーリは去り際に『僕一人では厳しそうだ』と言っていた、と遊歌は思い出す。ならば、今回のユーリの襲撃は単独ではないのだ。

 そして、恐らく、今の声が──

 

『遊歌っ!』

「不知火! 上空っ、三時の方向っ!」

 

 闇遊歌の声が脳内で響く。思考が完結しないまま、ウジャト眼で眼を光らせた遊歌は戦神に指示を下した。一瞬後にユーゴたちに向かって飛来していたリアルソリッドビジョンの質量弾を戦神が切り落とす。

 

「不死竜、真後ろから触手、焼き払って私をもう一体の不死竜にパス、その後に旋回、飛び上がって二時の方向からの弾丸を処理、急いでっ!」

 

 続いて真紅眼の不死竜への指示。ウジャト眼を宿す左目が微かに熱を持って、しかし遊歌は怯まない。そんな時間は存在しない。

 不死竜に投げ飛ばされた空中でも戦神への指示を飛ばし、遊歌は間断なく降り注ぐリアルソリッドビジョンの攻撃を捌き続ける。

 

 乱暴に投げ飛ばされた遊歌をキャッチした不死竜は悠然と空を泳ぎ、手を叩きながら高みの見物をしている二人組に炎弾を放つ。

 まるで蚊を払うように炎弾を弾き飛ばした巨人とスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンに目を向けると、そこにはピエロが居た。

 

「ピエロ、マスク……?」

「ひゅぅ、やるぅ! ユーリ、彼女、普通じゃないね。飽和攻撃を一人で凌いでるよ。異常だね」

「ダメだよ。彼女とデュエルをするのは僕。その為にリンって少女の捕獲は君にあげたんだから、そこは譲らないよ」

「そういや、君は彼女について調べてたね」

「ああ。エクシーズ次元で交戦記録が見つかったんだ。ブラックリストに載ってたんだよ」

 

 余裕綽々と会話をこなす二人を睨み付け、

 

「だったら攻撃を取り止めなさい! このままじゃデュエルにならないでしょうっ!」

「やだ☆」

 

 ユーリのにべもない返答に、遊歌は『な、ぁ』と絶句する。だが、彼の眼は本気だ。

 

「止めないよ。君とのデュエルならあの子を捕まえてからでもできるからね。焦る必要はないよ」

「くっ、このままじゃ……」

『長くは、持たないわよ……』

 

 悪態を着きながらも、遊歌の指示は止まらない。戦神が弾丸を切り落としては走り、不死竜の攻撃に乗るように太刀筋を飛ばす。

 空中で大きめの爆薬を撃ち抜いて、近くの弾丸に誘爆させる。巻き起こった暴風によって弾丸の起動がズレ、だけど遊歌はウジャト眼で軌跡を確認して効果的な防御の軌跡を弾き出し、戦神に指示。切り飛ばされた弾丸が他の弾丸を巻き込んで空中で処理される。

 

 自身の能力を駆使して止まらない弾幕を処理している遊歌は、某ゲームで『死ぬがよい』と言われたが如く、顔を歪ませている。

 その時、

 遊歌のデュエルディスクに連絡が入る。

 

「遊歌、後十秒だけ持たせてくれ。そうしたら、俺たちで弾幕を切り開く。悪いが、お前はあの、俺に良く似た紫の野郎を頼む。俺たちはピエロを叩き潰す」

「分かった」

「後三秒だ。3、2、1……、目を瞑れっ!」

 

 無理だ。目を瞑ってもウジャト眼に意味はない。瞼が閉じていようが閉じていなかろうが、この眼は全てを映し出す。

 

「クリアウィング・シンクロ・ドラゴンの質量を持った光の乱反射。弾丸の飛来した場所を逆算したのね……。これなら一掃は無理でも、かなりの数は減らせる」

 

 そもそも、今まで遊歌が対処していた弾丸は、上空にいるピエロさんが放ったものではない。あらかじめ潜入していた別のアカデミアの部隊が遠距離から狙撃しているものだ。

 だから、遊歌の方法ではキリがなかった。遊歌もそれは分かってはいたが、自身に迫る弾丸を対処しなければ蜂の巣になっていた為に、後手に回ざるを得なかったのだ。

 そこにユーゴがクリアウィング・シンクロ・ドラゴンによって、アカデミアが潜入しているであろう場所をめがけて全方位攻撃を行ったのだ。狙撃部隊の防御力など無いに等しい。なので、この攻撃は相当の痛手のはずである。

 

「覚悟、しなさいっ!」

 

 光の奔流のなか、遊歌は行動を止めない。戦神の実体化を解き、真紅眼の不死竜で低空からスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンに体当たりを敢行する。

 

「くっ、何も見えない……!」

 

 全方向に目を眩ませる光をクリアウィングが反射しているこの瞬間は、ウジャト眼を持たないユーリやピエロさんでは視界が定まらない。

 この機会を無駄にしてはいけない。スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンとユーリを空に跳ね飛ばし、すれ違い様に先程のお返しを込めて不死竜の尾でピエロさんを打ち付ける。悲鳴を上げるピエロさんを尻目に、遊歌は上空のユーリをドラゴンごと遠くへと弾き飛ばす。

 

「さあ、この前の続きよっ!」

 

 トップスの上空都市に近い空中。吹き飛ばされたユーリはようやく視力が戻ってきた両目を擦って、遊歌も暗闇になっていた右の視界の回復を確認する。

 ユーリは望んでいた状況になったことに凄惨な笑みを浮かべて歓迎し、口角を吊り上げてデュエルディスクを起動させる。

 そして、

 

「「デュエル!」」

 

 デュエルが始まった。

 

 ーーー

 

 

「オペレーター君。今朝にセキュリティを向かわせた孤児院、成果はどうなっているかね?」

「はい、ロジェ長官。……壊滅しております」

「…………いま、何と?」

 

 治安維持局の中枢。シティ全体の治安を管理する為のシステムが集まる、世界有数の情報の溜まり場。

 その中心で、ロジェは優雅にキングのチェスピースを指で弄り、自分で厳選した最高級の葉を使ったダージリン・ティーの香りを楽しんでいた。

 

 ロジェは何事にもこだわりを持つ人物だ。それは言い換えれば神経質と言うことでもあるが、ロジェであっても生来の気質は変えることは難しい。

 よって、ロジェは自身で飲む紅茶を他者には淹れさせない。こだわりがあるのだ。まず始めに基本的なことだが、紅茶を淹れるときの最適な温度は95度だ。必ず沸騰直前でなくてはならない。一度沸騰させてしまうと茶葉が死んでしまう。また、水は軟水だ。硬水で淹れる紅茶は飲みやすいが、紅茶本来の味を引き出せないのだ。

 そうして淹れた紅茶は美しい。

 茶葉が水面に浮き、やがて沈み、また浮かび上がる。『ジャンピング』と呼ばれる現象だ。その躍動感溢れる茶葉の動きはロジェの心を癒し、刹那の快楽へと導いてくれる。

 

「セキュリティ、壊滅しました」

「」

 

 落ち着くのだ。そう。優雅な心が大切だ。

 そう言い聞かせ、震える指で紅茶に手をかける。紅茶は良い。心を癒してくれる。透き通るような香りを楽しみながら手慰みにチェスを嗜む。かつん、と鳴るチェスピースの心地いい音色は耳をも楽しませてくれて──

 

「長官、街中でドラゴンが実体化しています!」

「アツゥイっ!」

 

 ──動揺から、紅茶を膝に溢してしまう。

 甲高い悲鳴を上げたロジェだが、熱湯に近い紅茶を膝に溢してしまえば仕方のない反応だろう。

 

 耳を疑うようなショッキングな報告を立て続けに受け、ロジェの処理限界を越えてしまう。だが、ロジェは分かっているのだ。街にドラゴンが現れ、非常事態としてリアルソリッドビジョンを切ったはずなのに消えていないと言うことは、この問題は表面上だけでなく、次元間の問題にすら直結することを。

 

「セキュリティ、応答しません。サテライト映像には、リアルソリッドビジョンによって蹂躙されるセキュリティが記録されています」

「長官、数十秒に渡る謎の光源が発生し、シティ全域で事故が多発しております!」

「ロジェ長官、セキュリティを派遣した孤児院にD・ホイールの解体業者から行方不明の届け出が出ているD・ホイールが確認されました。所有者は『新品だけどもう要らないから捨てたの。ちょっと目を離したら無くなってるなんてビックリしたー』とのことです」

「長官、リアルソリッドビジョンを切ったはずですが、複数の召喚反応が確認されました。セキュリティの出動を許可してください」

「うっ、うーん(気絶)」

 

 不可能だ。この数の問題を一人で処理することはできない。権力の分散を恐れて、自分一人でセキュリティを統括している負の側面に直しているのだ。

 そもそも、どうしてこんな事になったのか。薄れ行く意識のなか、ロジェはその原因を思い浮かべる。

 

 そう、始めは偶然の出来事だった。

 

 少し前のことだ。通常業務の途中、たまたま長めの昼休憩を取れたロジェは気分転換に優雅に散歩をしていた。昼に食べたエッグベネディクトはおいしかった。まさに絶品と言ってもいいできだった、とロジェは思う。

 エッグベネディクトとは、主に朝食で食べられるメニューだ。イングリッシュ・マフィンを半分にスライスしたものにハムやベーコンなどを挟み、ポーチドエッグとオランデーズソースを乗せたものだ。今回食べたものは薫製されたベーコンにレタスなどの野菜がトッピングされたもので、ジャンクフードの一種にも思えてしまいそうだったが、食べてみるとその懸念は覆されることになる。

 黄金のオランデーズソース! とろとろのポーチドエッグ! カリッとしてモフッとくるイングリッシュ・マフィン! 薫製され、旨味の凝縮されたベーコンはそれに負けていない! しゃきしゃきとしたレタスなどの野菜が良いアクセントになっていて、それらが渾然一体となった、至高と言っても良いエッグベネディクトだった。

 

 話を戻すが、ロジェはエッグベネディクトを完食した後、近くの商店を優雅に散歩をしていたのだ。

 その時、子供の声が聞こえてきた。『ヒカリナキセカイヘー』と言う声に、『ダーク☆シンクロー』と続けて聞こえる。ダーク☆シンクロなど聞いたことがない。恐らくは子供が産み出した架空の召喚法だろう、そうロジェは判断して、声のした方角を何気なしに振り向いた。

 

 そこには、セレナ様がいた。

 

 髪の毛の色がブリーチしている気がするが、あの顔つきは間違いなくセレナ様だ。

 ロジェは動揺したが、何とかその場で取り押さえたい衝動を回避した。彼女のデュエルレベルは高い。負けるとは思わないが、このような場所でデュエルをすれば周りに被害が出てしまっただろう。それは避けたかったのだ。

 だが、無視をするわけにはいかない。セレナ様はアカデミアに取って重要人物。自分の手の内で管理しておかなくてはならない。思い立ったロジェはすぐさま治安維持局に戻り、彼女の捜索に取りかかったのだ。

 

 しかし、時間が掛かった。セレナ様は名前まで変えてシティの片隅で生活をしていたのだ。

 そして、居場所が判明したのが昨日のこと。よって今朝には確保できるように、彼女のいる孤児院にセキュリティを派遣したはずだったのだが、

 

「どうして、こんなことに……」

 

 ロジェが崩れ行く視界のなかで見たものは、一瞬のみスクリーンに映っては消えてしまった、ユーリと狐面のデュエルの一シーンだった。

 

   ☆★☆

 

 

「私の先行! 魔法カード《強欲で貪欲な壺》を発動して2ドロー、そして《手札抹殺》でお互いの手札を抹殺し、その数だけドローする!」

 

 トップス居住区。質実剛健なノッポのビル、過剰に華美なモニュメント、草木の茂る中庭等が集められた空中都市だ。

 デュエルが始まると同時にスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンと真紅眼の不死竜の実体化が解かれ、空中に投げ出された遊歌とユーリの二人は足場としてトップス居住区に無断で足を踏み入れ、移動しながらデュエルを開始する。

 

「私は《シャッフル・リボーン》の魔法を発動し、墓地から《ゴブリンゾンビ》を特殊召喚。更に《妖刀-不知火》を通常召喚して、レベル4《ゴブリンゾンビ》にレベル2《妖刀-不知火》をチューニング!

 ──シンクロ召喚っ。《瑚之龍(コーラル・ドラゴン)》!」

 

 ランニング・デュエル。遊歌は普段の服装からすれば珍しく、スカートではなくパンツスタイルなので、無理なくデュエルを進められる。身長の低い遊歌からすれば苦手な服装だが、カジュアルに纏められた装いは遊歌に良く似合っていた。

 ひた走る遊歌はビルの屋上に飛び移り、ユーリは緑豊かな中庭で立ち止まる。高所から見下ろす遊歌。中庭の中央で微笑むユーリ。迅速な避難が行われ、既に人気のないゴーストタウンと化した空中都市で二人の視線がぶつかり、どちらともなく口角を吊り上げる。

 

「《ゴブリンゾンビ》の効果で《不知火の隠者》を手札に加え、更に魔法カード《融合》を発動し、手札の《真紅眼の不死竜》とフィールドの《瑚之龍》を融合させる。

 ──融合召喚っ。《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》!」

 

 《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》

 /☆8 ATK3500 DEF2000

 

 他者が見れば怖気が走るほどの冷たい笑み。遊歌は目に喜気が一切存在しない微笑みを浮かべ、

 

「《瑚之龍》の効果と《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》の効果が発動する。デッキからもう一体の《真紅眼の不死竜》を墓地に送り、その攻撃力の半分、1200のダメージを相手に与える」

 

 背後に滞空する流星竜に攻撃命令を下した。

 甲高く吼えた流星竜は名前の通り流星を降らせ、ユーリの居る中庭を爆心地へと変化させる。

 

【ユーリ】 LP4000→LP2800

 

「手札を1枚伏せてターンエンド」

「僕のターン、ドロー。随分と強いモンスターを呼んできたね。だけど、僕には餌にしか見えないよ。

 僕は手札から《補食植物フライ・ヘル》を召喚。君のモンスターに補食カウンターを乗せて、永続魔法《超栄養太陽》を発動しちゃうっ。《補食植物フライ・ヘル》をリリースして、デッキから《補食植物サンデウ・キンジー》を特殊召喚。このカードはね、フィールドの補食カウンターを持ったモンスター使って融合できる効果を持ってるんだぁ」

 

 ユーリの恍惚とした声。眦がつぃ、と引き上がって、右手と左手をしゃっきり伸ばして打ち合わせる。

 それじゃあさっそく、

 

「いただきますっ」

 

 と、サンデウ・キンジーは流星竜に噛みついた。

 

「私のモンスターを、食べた……」

「そう。僕は君の《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》と《補色植物サンデウ・キンジー》で融合召喚を執り行ったんだ!

 食い荒らせっ。《補食植物キメラフレシア》!」

 

 爆心地へと姿を変えていたユーリの周囲から植物が生え、急速に成長していく。うにうにとうねる植物がユーリを中心に花を咲かせる。

 

 ラフレシア。

 

 それは食中植物ではない。だが、ユーリを中心に咲く植物はラフレシアだけの姿をしていない。ハエトリグサに良く似た触手を内包しており、まさに『キメラ』の名に相応しい容貌をしていた。

 

 《補食植物キメラフレシア》

 /☆7 ATK2500 DEF2000

 

「だが《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》の効果も発動する。このカードが墓地に送られた場合、私の墓地から通常モンスターを1体特殊召喚する。

 おいで、《地獄の門番 イル・ブラッド》」

「ああ、美味しそう……。僕は《補食植物キメラフレシア》でそのモンスターを食べちゃうねっ」

 

 ぱくり、と一呑みで。ちゅるん、と呑み込むように。蔓を伸ばして、くぃ、と手を合わせる。

 ごちそうさまでした、とユーリがからかうように笑って、遊歌の表情は軽く引き攣っていた。

 

「このモンスターは1ターンに1度、自身のレベル以下のモンスター1体を除外できるんだよ。

 さあ、バトルだ。《補食植物キメラフレシア》で遊歌に直接攻撃っ。紫炎の棘(サポート・ソーン)!」

「くっ、っぁああっ! ああっ!」

 

【遊歌】 LP4000→LP1500

 

 キメラフレシアによる攻撃の衝撃で遊歌がビルから墜落する。もっとも、遊歌が居たビルはキメラフレシアの攻撃によって破壊されたので、どちらにしろ遊歌は空へと投げ出されたことは間違いないだろうが。

 

「僕はカードを1枚伏せて、ターンを終了する」

「私のターン、ドロー。《不知火の隠者》を召喚し、リリース。デッキから《ユニゾンビ》を特殊召喚する。続いてデッキから《馬頭鬼》を墓地に送ってレベルを1つ上げる。墓地に送られた《馬頭鬼》を除外し、墓地から《ゴブリンゾンビ》を特殊召喚。

 レベル4《ゴブリンゾンビ》にレベル4となった《ユニゾンビ》をチューニング!

 ここから始まるスペクタクル! トラップ、マジック大いに結構! 捩じ伏せますのでっ!

 ──シンクロ召喚っ。《戦神-不知火》!」

 

 《戦神-不知火》/☆8 ATK3000 DEF0

 

 ここまで一息。空中で慣れ親しんだ不知火の基本的な動きを遊歌はこなし、落下地点に戦神-不知火が現れ、遊歌をキャッチして地面に下ろす。

 すっかり補食植物の苗床となった中庭。だが、遊歌を近くに下ろした戦神は周りを妖刀で一凪ぎ。補食植物を切り落としては焼き払い、安全地帯を作り上げた。

 

「《戦神-不知火》と墓地に送られた《ゴブリンゾンビ》の効果を発動する。墓地から《不知火の宮司》を除外して、デッキから《スケープ・ゴースト》を手札に加える。

 更に除外された《不知火の宮司》の効果っ。私は《補食植物キメラフレシア》を破壊する!」

 

 《戦神-不知火》/ATK3000→4500

 

「させないよっ! 僕は墓地から罠カード、《スキル・プリズナー》の効果を発動っ。このターン、僕の《補食植物キメラフレシア》はモンスター効果を受けない!」

「だったら腕ずくで退かせるまでっ!

 《戦神-不知火》で《補食植物キメラフレシア》に攻撃っ! 不知火流 二刀の陣!」

「迎え撃てっ、《補食植物キメラフレシア》!」

 

 炎を纏った妖刀が植物を切り払う。切断面から火の手が上がり、辺りへと燃え移る。しかし、物量で押し寄せるキメラフレシアはまるで一つのジャングルだ。自身の持つ棘で戦神を傷つけて、自身の一部を切り飛ばされる。

 やがて致命的なまでに燃え広がったキメラフレシアは戦神を巻き込んで倒れ込み、その膨大な質量で戦神を押し潰して消えていった。

 

「相討ち……?」

「そう。《補食植物キメラフレシア》はモンスターとの戦闘の際、相手の攻撃力を1000下げ、自身の攻撃力を1000上昇させる。

 よって、君のモンスターと僕のモンスターは共に攻撃力が3500となり、結果相討ったわけだね」

 

 戦神-不知火と補食植物キメラフレシアがフィールドから居なくなり、一時的にゴーストタウンと化しているトップス居住区は物音一つ立てない。

 不気味な雰囲気の漂う、人一人居ない日中の街。その中央。泡沫とした、消え入りそうな声で。

 ユーリが唐突に、

 

「君、やっぱり()()()は向いてないよ」

 

 そう、宣言した。

 

「…………えっ?」

 

 虚を突かれたような、遊歌の驚いた声。

 だが、ユーリをそれを無視するようにデュエルを続行させ、キメラフレシアの隠された効果を自慢する。

 

「まだだよ。《補食植物キメラフレシア》には墓地に送られた次のターンのスタンバイフェイズに、デッキから『融合』のカードを手札に加えられる。それで《再融合》を手札に加えれば、またラフレシアは咲き誇る」

「……《戦神-不知火》が破壊され墓地に送られたので、除外されている《不知火の宮司》を墓地に戻す。

 そして魔法カード《闇の誘惑》を発動する。カードを2枚ドローして、手札から《スケープ・ゴースト》を除外。更に《生者の書-禁断の呪術-》発動して、貴方の《補食植物キメラフレシア》を除外する」

 

 その言葉を聞いた遊歌は、すぐに魔法カードを使い、キメラフレシアを除外する。墓地に居なければその効果は発動できないのだ。

 

「死者は蘇らない。絶対にね。私は《生者の書》の効果で墓地から《不知火の宮司》を特殊召喚。カードを1枚伏せて、ターンを終了する」

 

 持論を展開する遊歌。その内容は当たり前のものだが、ゲームの中にまで適用するものではない。

 

「でも、君はモンスターを生き返らせる」

「違う。この子は不死(アンデッド)。死んではいない」

「……だったら、こうしよう! 君のエンドフェイズに僕は永続罠《アイヴィ・シャックル》を発動するっ。このカードが存在する時、僕のターンの間は君のモンスターを植物族に変更しちゃう!」

 

 蔦の枷。焦土となった地面から茨が突き出しては不知火の宮司に絡み付き、拘束することで種族を誤認させている。

 

「さあ、僕のターンだ。カードドロー。僕は永続魔法《プレデター・プランター》を発動して、墓地から《補食植物サンデウ・キンジー》を特殊召喚」

「また私のモンスターを食べるつもり? 私には美味しそうには見えないけど?」

「そうしたいけど、《プレデター・プランター》の効果で復活させたモンスターは効果が無効化されるんだよね。僕は更に《補食植物モーレイ・ネペンテス》を召喚」

 

 そうは言っても、プレデター・プランターは近似効果の増草剤とは違い、通常召喚の制限も自壊効果もない。……維持コストは存在するが。

 

「さあ、バトルフェイズだ。《補食植物サンデウ・キンジー》で《不知火の宮司》を破壊。そして《補食植物モーレイ・ネペンテス》で遊歌に直接攻撃っ!」

「罠カード、《カウンターゲート》を発動。相手の直接攻撃を無効にして、カードをドロー。そして、ドローしたカードを攻撃表示で通常召喚できる。……私は《蒼血鬼》を召喚。そして《蒼血鬼》は召喚時に守備表示になる」

 

 遊歌のライフは残り1500。下級モンスターで決着がついてしまう、即死一歩手前の崖っぷち。だがデュエルにおいて、後一歩はなかなか届かないものなのだ。

 

「速攻魔法、《瞬間融合》を発動っ! 僕はフィールドの2体のモンスターで融合召喚を執り行う!

 魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花よ!今ひとつとなりて、その花弁の奥の地獄から、新たな脅威を生み出せ!

 ──融合召喚! 飢えた牙持つ毒龍! 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」

 

 紫色の竜。長い尾を翻して飛翔し、先程までの遊歌と同様に上空から相手を見下ろして嘶く。

 

「《蒼血鬼》を粉砕しろっ!」

「っ、モンスターが……」

「カードを1枚伏せて、僕はターンを終了する」

「けど、貴方のエンドフェイズに《瞬間融合》の効果が発動し、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》は破壊される!」

 

 爆発。

 

 暴風を吹き上げて、衝撃が街を襲う。倒壊したビルの瓦礫が吹き飛び、家屋の窓が弾けとんだ。

 だが、衝撃がやんだ遊歌が目撃したものは、無傷で空中にたゆたうスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンだった。

 

「甘いよ。僕が自滅する訳ないじゃん。墓地から《復活の福音》の効果を使ったんだよ。ドラゴン族モンスターが破壊される場合、変わりにこのカードを除外できるんだ」

「手札、抹殺。まあ、仕方ないか……」

 

 初手だ。遊歌が始めに使った手札抹殺の時にユーリは既に復活の福音を墓地に送っていたのだろう。

 相手の墓地が確認できないのは怖いな、と遊歌を相手にするデュエリストの大半が思うことを呟いて、遊歌はデッキからカードをドローする。

 

「だけど、墓地のカード効果はそれこそアンデット族の十八番よ。私のターン、ドロー。私は墓地から《妖刀-不知火》の効果を発動する。レベル8《戦神-不知火》にレベル2《妖刀-不知火》を擬似的チューニングっ!

 ──シンクロ召喚っ。《炎神-不知火》!」

 

 《炎神-不知火》/☆10 ATK3500 DEF0

 

 炎の馬。そして跨がる刀を携えた武士。透き通るような美しい雰囲気を放っているが、同時に相手を威圧するプレッシャーも計り知れない。

 

「更に、魔法カード《カオス・エンド》っ!」

「っ、全体破壊だと……! 自分のカードまで巻き込まれるぞっ!」

 

 カオス・エンド。この魔法カードを発動する為には自分のカードが7枚以上除外されていなければならない。つまり、遊歌が強欲で貪欲な壺を使ったのは、ただ手札増強の為だけではないのだ。

 そして、その効果は全モンスターの破壊だ。そこには当然、自分のモンスターすら含まれる。だが、仮面から覗く遊歌の表情は薄く笑っており、これがミスでは無いことを物語っている。

 

「更に永続罠《不知火流 輪廻の陣》を──っ!」

「何を──っ、」

 

 するつもりだ、と続けようとしたユーリの声が途中で止まる。同様に永続罠の発動宣言をしていた遊歌の声も止まった。

 

 影。

 

 巨大な影が上空から降ってきたのだ。

 

 遊歌とユーリが悪態を着きながら元中庭から飛び退き、その一瞬後に轟音を立てて巨人が降ってきた。

 

「……これは……」

「……デニス、しくじったのか……?」

 

 その巨人は、ピエロの装いをしたアカデミア人物が騎乗していたモンスターだ。

 だが、そこにピエロの姿はなく、所々が破壊されて煙を上げる巨人からは燃料が漏れていて──

 

「……危ないわね。引火したら……」

『……遊歌。そんなことを言ったら──』

 

 爆発しかねない、と嫌な予感のする遊歌。

 そして、予感の通り、上から、

 

「アブソリュート・パワー・フレイムっ!」

 

 炎が降ってきた。

 

「っ、爆発するっ! 炎神っ!」

「くっ、スターヴ・ヴェノムっ!」

 

 爆発。そして、瓦礫が飛来する。

 

 ドラゴンが巨人に向かって突撃し、膨大な炎を纏った右腕を叩きつけたのである。

 引火した燃料が瞬時に炎と反応を示し、周囲を吹き飛ばすほどの衝撃を全方向に拡散させる。

 だけではない。

 巨人のパーツが暴風に乗って飛んでいるのだ。大きめの衣装棚くらいはありそうな鉄の塊が高速で吹き荒れる。当たれば例えモンスターであろうと無事ではすまない。

 炎神が切り飛ばし、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが触手で弾き飛ばす。それぞれの方法で主人を守り抜いた彼らは少し離れた空中で静止した。

 

「あれは、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》?」

「……《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》。キングのカードだね。まさか、もう……」

 

 既に朝と呼ぶのは憚られる時間。太陽は頂上に位置していて、午前ではなく、午後と呼ばれるだろう時間にまで過ぎている。

 その事実に、

 

「……デュエルに熱くなりすぎたね……。遊歌、一旦デュエルは中断だ。僕には僕の仕事がある。悪いけど、今回ばかりは引かないよ」

「……どこに行くつもり?」

「仲間と合流するんだよ。どうなったのか確認しないといけないからね」

 

 ユーリはため息を漏らし、デュエルを続けたい欲望をどうにか押さえ込む。

 

「待って。どうしてリンを狙うの? 瑠璃もそう。アカデミアが彼女たちを集める理由を話しなさい」

 

 そんなユーリの首元に遊歌は妖刀を突きつけ、アカデミアの行動理由を無理矢理に聞き出そうとする。

 

「……さあね。知らないよ」

「なん、ですって……? なら、貴方はどうして」

「知らなくても、目的なら分かる。今の世界を壊すんだよ。とっても素晴らしいと思わないかな?」

 

 遊歌の言葉を途中で遮る昏い声。アクセントすらなく、平坦で、事務的な無機質さすら感じられるユーリの声が遊歌を揺らす。

 凝り固まった感情と、どうしようもない閉塞感、熟しきってどろどろに発酵した悪意とも着かない絶望。それらが混ざりあって溶け込んだような、間違った価値観の一つの完成形。それが、ユーリの中で蠢いているのだ。

 

「僕はね、こんな世界が嫌いなんだ。実力が正当に評価されない世界。嫉妬と悪意に満ちた世界。誰からも認められない、暗闇の世界。僕を本当の意味で見てくれる人物なんて、どこにも居ない。親も、友達もそうだった」

「……貴方は、自分の目的の為に他人がどうなってもいいって言うの?」

 

 咎めるような遊歌の質問。しかし、遊歌はユーリの目的事態の可否については一切の言及をしない。

 対するユーリは昏く沈ませた表情から一変した明るく、からかいを含ませた抑揚で質問に答える。

 

「いいよ。もう一度言うけど、僕はね、この世界が大嫌いなんだよ。だから壊しちゃいたい。そのためなら僕は何だってする。……してみせる」

 

 最後の言葉だけはトーンを落として真剣に。ユーリにとってこの目標は単純にアカデミアに準じたから得たものではなく、個人の思想に基づくものなのだ、と理解できるくらいには感情が乗った声で最後を締める。そして、遊歌に向き直ったユーリは素手で妖刀を掴んで自身の首元から外した。

 音もなくユーリの手首に赤い血が流れる。

 

「──君は……、っと、時間切れかな?」

 

 その言葉の途中でユーリはあらぬ方向を向き、空に特徴的な狼煙が上げられているのを確認する。

 

「それじゃあ、また会おうよ、遊歌。次こそは決着をつけるから、覚えておきなよ」

 

 ユーリは捨て台詞を遊歌に叩きつけると、血に濡れた腕を薙いで、強引に血をこそぎ落とす。

 痛々しい刀傷の着いた腕を舌で綺麗に舐め取って、血の付着した表情で愉快そうに笑いながらその場を後にしたのだった。

 

 ーーー

 

 

「見つけた。ユーゴ……だけ……?」

 

 ユーリが去っていった後、遊歌も彼と同様に仲間を、ユーゴとリン、シンジを探し始めた。

 デュエルディスクの通信機能は使えない。シティ全域で妨害電波でも流しているのか、常に圏外なのだ。

 遊歌の左目が光る。ウジャト眼の力でシティ全域をカバーするほどの俯瞰視点が脳内で形成されていく。

 

「まずは、ジャック。ピエロと戦ってる」

 

 始めに目についたのはジャックだ。

 シティの上空でピエロが騎乗する人形のモンスターと激戦を繰り広げており、周りに被害を出しながらも終始ジャックが優勢な雰囲気だ。

 

「でも、ユーリが加勢に向かってる……」

 

 しかし、そこに遊歌と別れたユーリが向かっている。流石にジャックが相手だったとしても二対一ではどうなるか分からない。

 とは言え、遊歌の仕事はジャックの加勢ではない。状況を把握することだ。その為に、まずはリンやユーゴを見つける事が最優先である。

 

「見つけた。ユーゴ……だけ……?」

『ぅん? ちょっと様子が変だね』

 

 そして冒頭に戻る。シティの各地に散らばっているアカデミアの集団、その一部を殲滅して、しかし一定の場所からは離れようとはせず、ユーゴはアカデミアを迎え撃つ構えだ。

 だが、ユーゴの性格は直情型で、基本的には前のめり。こんな防御的な策を打つとは思えない。

 

「何かを、護ってる……?」

 

 だったら、それはきっとリンだ。そこまで思い至った遊歌は騎乗する炎神をユーゴの元に向かわせる。

 武士が愛馬から降りて、変わりに遊歌が馬に乗る。ギャ○ップのように背中が燃えているが、見た目とは裏腹に熱くはなく、服に燃え移るようなこともない。その様子に、初めて馬に乗る遊歌は、ふぅ、と息を着いた。

 

 嘶き、滑走する炎神。いや、炎神の馬。騎乗する遊歌の視界から景色がコマ送りのように過ぎ去っていき、ユーゴの頭上に減速もせずに辿り着いてしまう。

 いきなり空中から垂直に墜落してきた遊歌に、ユーゴは目を剥いてデュエルディスクを構えたが、降ってきたのが遊歌だと分かると腕を下げる。

 

「うおぅ、ビックリしたぁ! 遊歌、驚かせるんじゃねぇぜ。アカデミアかと思ったじゃねぇか」

「むぅ、この子に乗るの始めてだったから制御が上手くいかなかったのよ。……悪かったわね」

 

 ユーゴの指摘に、頬をかきながら気まずそうに遊歌は謝る。実際に炎神の速度が速すぎて遊歌では扱いきれず、更に徐々に減速するタイミングすら分からなかったからこそ垂直に着地するなんて曲芸をする羽目になったのだ。

 それで問題なく着地できてしまえる辺りが遊歌らしいと言えばらしいのだけれども。

 

「遊歌、あのユーリとか言う野郎はどうした?」

「取り逃がした。今はピエロと一緒にジャックと戦ってるはず。何かまずかった?」

「いや、お前が来てくれてむしろ助かったぜ。リンが大変なんだ。こっちに来てくれ」

 

 先程とは打って変わって真剣な表情でユーゴが近くの古い木造の建物を指し示す。ユーゴの言葉から推測するに、恐らくはその家にリンが居るのだろう。

 

「リン、様子はどうだ?」

 

 錆び付いた鉄の取っ手を掴み、リンに声を掛けながらユーゴが木造の掘っ立て小屋の中に入る。

 

「あ、ユーゴ。と、遊歌っ! 無事だったのね!」

「うん。私は大丈夫。……腕、どうしたの?」

 

 ユーゴに続いて小屋に入った遊歌が見たものは、包帯を幾十にも巻かれた右腕と、薬箱を漁っているシンジの姿だった。

 

 ──軽い傷じゃない。

 

 リンに容態を訊ねた遊歌だが、返事を聞く前にリンの傷が決して軽くはないことを理解する。恐らくは、完治まで一、二週間はかかるだろう傷だ。

 

「うん、大した傷じゃ、ないんだけど……」

「馬鹿を言え。十分、大した傷だ」

「シンジぃ……」

 

 不満そうなリンの声が小屋に響く。

 大方、怪我をおしてでもアカデミアと戦闘しようとして、シンジにでも止められたのだろう。

 

「リン、ここはシンジのが正しい」

「遊歌までっ。本人が大丈夫だって言ってるのにっ」

 

 むくれるリンに遊歌が追撃をかけて、その隣でユーゴも、うんうん、と大仰に頷いている。

 もぅ、とふて腐れて布団に倒れ込んだリンを一旦置いておいて、ひとまず遊歌とユーゴたちは情報交換を始めるのだった。

 

「で、何があったの?」

「ああ。お前がユーリって野郎を引き離した後、俺たちはピエロと巨人を相手に戦い始めた」

 

 遊歌がユーリをトップス居住区まで弾き飛ばした後。ピエロさんと対峙したユーゴたちサイドのお話だ。

 

「始めは優勢だった。俺とリン、シンジの連携が上手くはまって、もう一歩ってとこまで追い詰めた」

 

 だが、と、ユーゴが悔しそうに唸って。

 

「あのピエロ野郎はとんだ隠し玉を持ってやがった。お前と同じ、エクシーズモンスターって奴をな」

「アカデミアが、モンスターエクシーズを?」

「ああ。何か心当たりとかあるのか?」

 

 ユーゴとシンジから純粋な疑問が遊歌に投げ掛けられる。その中には遊歌への疑念は含まれておらず、この二人が遊歌を信頼していることが伺える。

 その信頼に、どこか心地よさを遊歌は感じながら、だけどその感情を引き締めて遊歌は答える。

 

「いえ、別に何も……、待って。そう言えば、エクシーズ次元でアカデミアによる成り済ましが横行したことがある、と聞いたことが……」

 

 遊歌の脳裏に浮かぶのは、黒咲が話していたエクシーズ次元での出来事の一つだ。

 

「なら、アカデミアがその召喚法を吸収した、って事か。その内、シンクロ召喚にも同じことが起きるかも知れねぇな」

 

 感心したようなユーゴ態度。彼に取って未知の召喚方を学んで取り入れることは悪ではないのだ。

 その様子はシンジも同様で、例えシンクロ召喚をアカデミアが使ってきたとしても、彼らは嫌悪感を抱くことなどはないのだろうと思わされる。

 

「まあ、それはいい。問題はその時、ピエロ野郎にリンが拐われそうになったことだ」

「俺もユーゴも、その時は巨人に邪魔されちまって、リンを助けに行くことができなかった」

 

 ユーゴの話にシンジが加わり、お互いに話を補完し合いながら遊歌への説明が続いて、

 

「だが、リンは自力で脱出した」

「貴方たち何してたのよ」

 

 盛大に自虐を披露した。

 

「ぐっ、」

「それはっ……」

「遊歌。捕まったのは私が油断したからだし、ユーゴもシンジも必死に助けようとはしてくれたよ」

 

 言葉に詰まるユーゴとシンジに、リンは苦笑しながら二人にフォローをいれて、

 

「い、言い訳はしねぇ」

「ああ。俺たちの力不足だった」

「……私もちょっと言い過ぎたわ。ごめん」

 

 まあ、どうしようもないこともあるか、と遊歌は考えを改めるのだった。

 

「あははは。まあ、私が脱出できたのも運が良かったと言うか、彼のおかげと言うか……」

「彼……?」

「ジャックだよ」

 

 シンジが短く答える。その声には以前のような拒絶するような感情はなくなっていて、

 

「あいつが唐突に現れて、レッド・デーモンズで巨人を吹き飛ばしたんだ」

「それで私の拘束が緩んで、なんとか脱出できたの。でも、上空からそのまま落ちちゃって……」

 

 怪我をしたのだろう。恐らくは右半身を中心に打っている。体を咄嗟に庇ったのか、右腕は折れてもいそうだ。早急に検査をした方がいい。

 

「まあその後に残された俺たちは、リンをここまで運んできて治療してるってワケだ。俺たちの秘密の隠れ家だったんだが、良く見つけられたな」

「まあ、それは企業秘密ってことで」

 

 不思議そうに首を傾げるユーゴとシンジ。対して遊歌は目を伏せて少し笑った。

 そして、シンジが唐突に、

 

「そこで、だ。遊歌、確かお前はスタンダード次元に帰るんだったよな?」

「うん」

「そこに、リンとユーゴを連れていってくれねぇか?」

 

 と、遊歌に提案を申し出た。

 

「……シンジ?」

「ユーゴ。リンには治療が必要だ。そして、今の俺たちではリンをマトモな病院には連れていけねぇ。襲ってきた奴等の中にはセキュリティまで居たんだぞ。この街はもう俺たちにとって安全じゃねぇんだ」

 

 突然の提案に、遊歌よりも前にユーゴが疑問の声を上げる。

 だが、シンジはその疑問に理詰めで答え、ユーゴに現状を理解させようとする。

 

「だったら、信頼できる奴に預けるべきだ。遊歌、スタンダード次元ならアカデミアやセキュリティの脅威は及ばねぇんだな?」

「アカデミアは分からないけど、少なくともセキュリティの目は届かないでしょうね」

「けど、セキュリティの目的が誰かなんて俺たちには分かってねぇんだぞ! リンじゃないってんなら、むしろセキュリティに預けるべきじゃねぇのか? そしたら治療ぐらい……」

「ユーゴ、お前はそんな危険な橋が渡れるのか? もしリンがセキュリティに捕まったら、治療どころか監獄送りだぞ。そうなったら、もう終わりだ」

「……それは、」

 

 ユーゴの言葉が詰まる。

 言葉少なに俯いてしまったユーゴに、厳しい言葉をかけていたシンジは、今度は優しい声で。

 

「ユーゴ。俺はリンとユーゴを連れて行ってくれって言ったんだ。何もお前とリンを引き離そうって言ったんじゃない。またこんな襲撃があったら、今度こそお前がリンを護れ。お前は俺の弟分だろうが。それぐらい、できるな」

「シンジ……」

 

 二人がかりでもできなかったよね、と遊歌は喉元まで込み上げてきた言葉を無理矢理呑み込む。

 

「そして、FSCまでには戻ってこい。じゃねぇと、ジャックをぶん殴る役を俺が奪っちまうぜ?」

「お前、ジャックのこと……」

「ああ。お前の言う通りだな、ユーゴ。絆ってのは、そんな簡単になくなるもんじゃねぇ。そして、絆はデュエルを通して広げることができるんだ。それはコモンズだけじゃなくて、トップスだってそうだ」

 

 シンジの独白。ぽつぽつと、だがシンジは言葉を止めることはなく、最後まで話しきった。

 

「そうやって少しずつ絆を広げて、いつか俺はコモンズやトップスなんて言葉を無くしてやる。それが俺の革命なんだ。その為には、まずはジャックをぶん殴らねぇとな」

「けど、そんな方法は……」

「長い、と思うか? だがな、そうでもねぇ。トップスの奴らだってジャックのデュエルは人気なんだ。すでにトップスとの道は着いてるのさ。そこからコモンズの現状をトップスの奴らにも伝えて、意識改革を図っていけば、不可能じゃねぇと俺は思ってる」

 

 トップス側を一方的に憎むのではなく、そして今までやって来たことをただ許すのでもない。

 これまでのことを踏み越えて、それを土台として、未来へと進んでいく、とそう言ったのだ。

 

「……ジャックを倒すのは俺だぜ」

「だったら、さっさとアカデミアなんて倒してこい。そんな奴らより、俺たちがこれから戦うシティって怪物はもっと強大だぞ」

「……ああっ!」

 

 ユーゴはそう言って、トン、とシンジの拳と自分の拳をぶつけて、ぐっ、と拳を握り込んだ。

 

「それじゃあ、行くわよ」

「ああ」

「次元ターゲットは、柚、子、っと」

『……えっ? MA☆TTE、遊歌っ! 榊君で失敗したんだから、柚子でも同じことが──』

「──ゑ?」

 

 景色が、絵の具のチューブのように曲がって、限界を超えた張力が破裂するように、

 

 世界が、収縮して、混ざって弾けて歪んで──

 

 ──ただ、暗転する。

 

   ☆★☆

 

 

「ここ、どこ……?」

『さあ。どこだろうね』

「……もしかして、やっちゃった?」

『……もしかしなくても、やっちゃったね』

 

 周りを見渡す。海があった。

 上を見上げる。空があった。

 後ろを振り返る。そこには特徴的な建物がある。

 

「……デュエル、アカデミア……」

『ついに来ちゃったかー』

 

 闇遊歌が心の中であきれた声を上げる。事故でここまで来てしまった遊歌に対しての態度としては最適である。

 

「それで、ユーゴたちはどうなったの……?」

『途中ではぐれちゃったから、彼らも別の場所に飛ばされたね。でも一応はクリアウィングと同期したから、また次元移動すれば同じところに飛ぶ、はず』

「……ありがとう。助かったわ」

『礼なんていらない。私は貴女でしょ』

 

 照れすらしない闇遊歌。それはそうだ。闇遊歌は私なのだから。そんなものが有るはずがない。

 

「……ここに、瑠璃がいるのよね」

『うん。でも、この辺り一体のスキャンはちょっと待ってね。いくらウジャト眼でもスキャンには時間がかかるから……』

「それまでは、自分の目で見てくる」

 

 そう言って、遊歌はデュエルアカデミアへと足を向ける。監視カメラの捕捉範囲をウジャト眼で見切って、誰からも見つからないように慎重に進んでいった。

 

「ここは……?」

『何かの保管庫……? それにしては大きいわね』

 

 その結果たどり着いたのは、厳重に封鎖されている区画だった。二人のデュエルディスクを構えた屈強な人物が入り口らしき場所を護っていて、普通ならば近づくことすらできない。

 

 だが、遊歌は普通ではない。

 

「……ごめんね」

『ちょっとだけ、道を開けてねっ』

 

 遊歌の左目が光る、と同時にアカデミアの廊下に黒い瘴気が立ち上り、ところどころに大きな目が現れる。嘲笑うような瞳に、同情する瞳、怒って泣いて哀しんでいる様々な目で覆い尽くされた空間が形成された。

 

「な、なんだここは?」

「いったいどうなってるんだ!?」

「さあ、闇のデュエルの時間よ……」

『二人纏めて、かかってきなさい……!』

 

 幽鬼のように兵士二人の背後を取り、そのままデュエルアンカーを無理矢理に装着させる。

 驚いている二人を度外視して、強制的にデュエルディスクを起動させ、デュエル開始のボタンをタップした。

 突然の状況に兵士さんたちは険しい顔ををするも、襲ってきたのが少女一人だと分かってからは余裕の態度でデュエルを承認する。

 

「『デュエル!』」

 

「私のターン! 手札から永続魔法《古代の機械要塞》を発動。これによって『アンティーク・ギア』は召喚・特殊召喚時に相手の効果の対象にならない。更に《古代の機械飛竜》を召喚。効果で《古代の機械猟犬》を手札に加えて、魔法カード《二重召喚》によって通常召喚。効果によって600のダメージを受けてもらう!」

 

【遊歌】 LP4000→LP3400

 

 兵士さん1のターン。力強くカードを5枚ドローした彼は、まるで決まっているかのように迷いなくカードを操っていく。

 

「っ、」

「実体化している……? まあいい。私は《古代の機械猟犬》の効果を発動し、手札・フィールドのモンスターで融合召喚を執り行う。現れろっ。機械仕掛けの魔神っ。《古代の機械魔神》!

 更にこのカードの効果で貴様に1000のダメージを受けてもらう。機械仕掛けのオレンジっ!」

 

 《古代の機械魔神》

 /☆8 ATK1000 DEF1800

 

【遊歌】 LP3400→LP2400

 

 発動宣言と共に、オレンジ色の光線が砲頭から発射され、遊歌を瘴気の縁まで押し戻す。

 

「……」

「悲鳴一つ上げんか。大した根性だ。私は《古代の整備場》を発動し、墓地から《古代の機械猟犬》を手札に加える。これでターンエンド」

「私のターン、ドロー。私も永続魔法《古代の機械要塞》を発動し、《古代の機械飛竜》を召喚。デッキから《古代の機械猟犬》を手札に加え、《二重召喚》で召喚する。600のダメージを受けるのだっ!」

 

【遊歌】 LP2400→LP1800

 

 次いで兵士さん2のターン。だが、彼も兵士さん1と同様に決められた動きをこなしているだけだ。

 

「私は装備魔法《古代の機械戦車》を装備させ、《古代の機械猟犬》の効果でフィールドの2体のモンスターを束ねる。──融合召喚っ。《古代の機械魔神》!

 そして、破壊され墓地に送られた《古代の機械戦車》の効果で600のダメージを貴様に与えるっ!」

 

【遊歌】 LP1800→LP1200

 

 先ほどとは少しだけ違う動き。ドローカードによって変化したプレイングの一種だろう。

 沈黙する遊歌をよそに、兵士さん2は油断した様子もなく、淡々とデュエルを続けていく。

 

「行くぞ。《古代の機械魔神》の効果を発動する。機械仕掛けのオレンジで貴様に1000のダメージだ。最後に《古代の整備場》を発動し、墓地から《古代の機械猟犬》を手札に加える。これでターンエンド」

 

【遊歌】 LP1200→LP200

 

 自分たちのターンを終了させ、兵士さんたちは遊歌の前で腕を組んで仁王立ちをする。まるで『ここは絶対に通さない』と遊歌にアピールするかのようだ。

 だが、微かに震える遊歌はそんな彼らの様子などどこ吹く風と無視して、小さく何かを呟く。

 

「……だ、そ……ュエルは……」

「うん? 何を言っている?」

「聞こえんぞっ。ハッキリ喋れっ!」

 

 抑えられた遊歌の言葉は細く、小さく口から放たれ、自身の鼓膜だけをノックし、他の二人へは届かない。

 だが、次の瞬間、遊歌は爆発するように──

 

「何だそのデュエルはと言ったんだっ!」

 

 大声量で怒鳴った。

 

「ふざけるなっ! 『古代の機械(アンティーク・ギア)』はそんな魂の無いデッキではないし、そんな可哀想な使い方をするものでもないっ!」

「何を……」

「……言っている……?」

「分からない、分からないのね。良く分かった。貴方たちはデュエリストじゃない。私が認めない」

 

 吐き捨てるように遊歌が悪態をついて、下らなそうにデッキからカードをドローする。もはや遊歌の興味のなかには相対する二人は入っていないのだ。

 

「私のターン、ドロー。フィールド魔法《混沌空間》を発動して魔法カード《闇の誘惑》発動。カードを2枚ドローして《ネクロフェイス》除外。お互いのデッキを5枚除外する」

 

 恐ろしく平坦なデュエル。だが、遊歌は決められたようにデュエルを進めるのではなく、ドローしたカード、除外されたカード、それらを一瞬で繋ぎ合わせてデュエルを展開していく。

 

「更に《おろかな埋葬》を発動し、デッキから《精気を吸う骨の塔》を墓地へ。更に《異次元からの埋葬》で《妖刀-不知火》と《ネクロフェイス》、《馬頭鬼》を墓地に戻して《馬頭鬼》の効果。《精気を吸う骨の塔》を特殊召喚して《地獄の暴走召喚》を発動。貴方たちのデッキを2枚破壊」

 

 デッキの回し方を理解する、とは言うが、その言葉が行き着く果ては自分のデッキ自体を理解する事に収縮する。

 

「墓地の《妖刀-不知火》の効果で《ネクロフェイス》を除外して《アンデット・スカル・デーモン》を特殊召喚。《精気を吸う骨の塔》と《ネクロフェイス》で11枚破壊。除外された《不知火の隠者》で《妖刀-不知火》を特殊召喚して6枚破壊。《戦神-不知火》をシンクロ召喚して6枚破壊」

 

 手札事故、最良の手札、もしくはどちらでもない。どんな状態であろうと自身が造り上げたデッキならばどう動いてどうなるのかをリアルタイムで把握することが大切なのだ。

 手札事故だからどう動くのか分かりません、選択肢が多すぎて覚えられず、決められた動きしかしません。それらを否定はしないが、それは本当にデュエルをしているのだろうか。行き着いたIFのようにポーカーと何が違うのか。自分にとってのデュエルとは何なのか、それは良く考えるべきことなのだ。

 

「《大欲の壺》を発動。《ネクロフェイス》をデッキに戻して1枚ドロー。《封印の黄金櫃》で除外して5枚破壊。《混沌空間》の効果は……、使う必要もないわね。お疲れさま」

 

 遊歌の言葉が切れるのと共に、相対していた兵士たち二人が愕然と崩れ落ちる。

 

「さ、最初のターンでは攻撃できないバトルロワイヤル・ルールで後攻ワンターンキル、だと……!」

「ば、馬鹿な……。で、デッキが無くなった……」

「もう寝てなさい。限定的(リミテッド)記憶封印(メモリーシール)

 

 左目が光り、ウジャト眼の刻印が二人の兵士の額に刻まれ、その内側に沈んでいき、やがて二人は気が抜けたように床に倒れ込んだ。

 それと同時に廊下を覆っていた黒い瘴気も晴れていき、アカデミア本来の壁や床が帰ってきた。

 

「さて、と。この中には何があるのかな?」

『アカデミアが警備まで着けている所だ。いきなり瑠璃(当たり)を引いたかもしれないわね』

 

 扉に手を掛ける。鍵がかかっていて開かない。押してみる、開かない。引いてみる、開かない。ウジャト眼を使って解錠する、開いた。

 

「あれー? 鍵がかかってないぞー」

『うわー。不用心ねー』

 

 棒読みで独り言を呟き、遊歌は堂々と封じられていた区域へと歩を進めていく。

 封じられていた、はずの場所。だが、その中は綺麗に清掃されていて、埃の一つも見当たらない。

 

「ここ……。最近使われた後がある?」

『水道には湿り気があるし、長年使われていない場所特有の"冷たさ"ってのがここにはない』

「やっぱり、ここには誰か居るんだ……」

 

 誰かが生活した後の痕跡が多分に残っているのだ。遊歌は警戒をしながらも更に先に進む。

 しばらく歩くと、灯りの着けられた部屋をウジャト眼が感知する。そして、その中に一人の人物が居ることもウジャト眼が教えてくれた。

 

「終点には人がいるってね」

『桜の下?』

「それはアンデッド」

『……死体でしょ』

 

 下らない会話をしながらも緊張感は崩さずに、遊歌は灯りの着いた部屋をウジャト眼で透視する。

 そこに居たのは──

 

「……瑠璃っ!」

「うわぁっ! な、なんだっ!」

 

 だらしない格好で寝転がって漫画を読みながらケーキを食べている瑠璃だった。

 

「……あれ? 瑠璃じゃない? 柚子?」

「ゆ、柚子? この時期に柚子はあんまり聞かないな。だが購買で取り寄せれば──って誰だお前はっ! どうしてここにいる?」

『遊歌。ウジャト眼的には彼女はセレナらしいよ。柚子でも瑠璃でもリンでもないみたい』

 

 闇遊歌が面倒臭そうに注釈を入れる。ウジャト眼で確かめたのならそれが彼女の真実なのだろう。彼女は柚子でも瑠璃でもリンでもない別人だったのだ。

 

「そう。セレナって言うんだ……」

「待て。どうして名乗っていないのに名前を知っている? さては貴様、侵入者だな?」

「そりゃそうでしょう……」

「ならばデュエルだっ! 最近はデュエルもさせてもらえず、鬱憤が溜まっていたんだ。お前で発散させて貰うとしようじゃないか!」

 

「「デュエルっ!」」

 

「私の先行っ。モンスターをセットして、カードを2枚伏せる。これでターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

『この子、デュエルになった途端に纏っていた雰囲気が変わった? 遊歌、この子、強いよ』

 

 闇遊歌の言葉通り、セレナが纏っていたどこかコミカルな雰囲気が消え去り、張り詰めた空気が二人のデュエリストの間に満ちていく。

 口の端にケーキの生クリームがついたままとはとても思えないほどの緊張感と威圧感である。

 

「ええ。手加減は無しでいくわよ。私は魔法カード《チューナーズ・ハイ》を発動。手札の《ワイトプリンス》を墓地に送って、デッキから《ゾンビキャリア》を特殊召喚。次に《ゴブリンゾンビ》を召喚。レベル4《ゴブリンゾンビ》にレベル2《ゾンビキャリア》をチューニング! ──シンクロ召喚っ。《蘇りし魔王 ハ・デス》」

 

 《蘇りし魔王 ハ・デス》

 /☆6 ATK2450 DEF0

 

 かつて深淵の冥王から王位を奪ったハ・デス。そしてその恨みから爆殺されたハ・デス。だが彼はアンデットとして蘇ったのだ。

 

「《ワイトプリンス》の効果でデッキから《ワイト》と《ワイト夫人》を墓地に送り、《ゴブリンゾンビ》の効果で《ワイトキング》を手札に加える。

 バトル。《蘇りし魔王 ハ・デス》で攻撃っ!」

「ふっ、だが破壊された《月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)》の効果が──」

「効果は適用されない。《蘇りし魔王 ハ・デス》が私のフィールドに存在する限り、アンデット族モンスターが破壊したカードの効果は無効になる」

「だったら罠カード《月光輪廻舞踊(ムーンライト・リンカネーション・ダンス)》だっ。私のモンスターが破壊された場合、デッキから『ムーンライト』モンスター2体を手札に加える」

 

 お互いに引かない攻防。先ほどのデュエルとは違って、どちらのデュエリストも楽しそうにカードを操り、デュエルを展開していく。

 

「まだよ。私は手札から《シンクロキャンセル》を発動。《蘇りし魔王 ハ・デス》をデッキに戻し、墓地から素材を復活。そしてレベル4《ゴブリンゾンビ》にレベル2《ゾンビキャリア》をチューニングっ。──シンクロ召喚。《デスカイザー・ドラゴン》!」

「っ、また《ゴブリンゾンビ》のサーチか……!」

「その通り。私は《ワイトメア》を手札に加え、魔法カード《闇の誘惑》を発動。2枚ドローして《ワイトキング》を除外。更に《ワイトメア》を墓地に送って、除外されている《ワイトキング》を守備表示で特殊召喚。カードを2枚伏せてターンを終了する」

 

 《デスカイザー・ドラゴン》

 /☆6 ATK2400 DEF1500

 

 サーチからのドロー。遊歌がデッキを回す上で多用するカードの繋ぎ方だ。自分のデッキを信じきっているからこそできる行為でもある。

 そして、遊歌のデッキが遊歌の想いに答えなかったことなど一度として無いのだ。

 

「私のターンだ。ドローっ! 私は手札から《月光黒羊(ムーンライト・ブラック・シープ)》の効果を発動っ。このカードを墓地に捨て、デッキから《融合》をサーチする。そして魔法カード《月光香》の効果で《月光黒羊》を蘇生する。私は手札の《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)》とフィールドの《月光黒羊》で《融合》を執り行う!

 月明かりに舞い踊る美しき野獣! 融合召喚。現れ出でよっ。《月光舞猫姫(ムーンライト・キャット・ダンサー)》!」

 

 《月光舞猫姫》/☆7 ATK2400 DEF2000

 

 可愛らしい黒色の羊と紅色の美しい毛並みを持った二体のモンスターが混じり合い、月光のソリッドビジョンを背景に妖艶な猫耳の美女が現れる。戻して。

 召喚された舞猫姫にセレナは久し振りだな、と声を掛けて、舞猫姫はその言葉に答えるように腕を振った。

 

「融合素材として墓地に送られた《月光紅狐》と《月光黒羊》の効果が発動。《デスカイザー・ドラゴン》の攻撃力を0にし、墓地から《月光蒼猫》を手札に加えて召喚。更にリリースして《月光舞猫姫》の効果を発動。このカードは全てのモンスターに2回攻撃でき、お前のモンスターに1回の戦闘耐性を与える。

 バトルっ。《月光舞猫姫》で《デスカイザー・ドラゴン》に攻撃っ。この攻撃宣言時、《月光舞猫姫》の効果でお前に100のダメージを与える!」

「お前じゃなくて遊歌よっ。罠発動《バスター・モード》っ。私は《デスカイザー・ドラゴン》をリリースして、デッキから《デスカイザー・ドラゴン/バスター》を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

 《デスカイザー・ドラゴン/バスター》

 /☆8 ATK2900 DEF2000

 

【遊歌】 LP4000→LP3900

 

 舞猫姫が攻撃しようとすると、デスカイザー・ドラゴンが大きく崩れる。竜の形すら保てなくなるほどぐずぐずに崩れ、その内側から青色の炎が溢れだす。ゆらゆらと揺れる炎は現世と冥界の境目を曖昧に溶かして、揺らめいた世界から、

 顔が浮かび上がる。

 その表情は嘆き。呻き、叫ぶ。叫び声は死者を呼び寄せ、更に高く響き、百鬼夜行が列を成す。

 

「《デスカイザー・ドラゴン/バスター》の効果。このカードの特殊召喚成功時に、私と貴女の墓地からアンデット族モンスターを可能な限り特殊召喚する」

「……セレナだ。どこで知ったのかは知らないが、お前は私の名を知っているだろう。ならば名前を呼べ。貴女ではない」

「だったらセレナも私を名前で呼びなさい。私は《デスカイザー・ドラゴン/バスター》の効果で《ゴブリンゾンビ》、《ワイトメア》、《ワイト》を特殊召喚する」

 

 ワイトプリンスは特殊召喚しない。現れたモンスターを確認して訝しげな表情を作るセレナだが、考えても分からないと割りきったのか、数秒後には普通の表情に戻っていた。切り替えが早いのだ。

 

「いいだろう! 私は《月光舞猫姫》で遊歌の《デスカイザー・ドラゴン/バスター》を攻撃っ。そして罠カード《幻獣の角》を装備させる!」

 

 《月光舞猫姫》/ATK2400→3200

 

 月光舞猫姫の頭に一本の角が現出する。が、舞猫姫は気に入らなかったのか頭に生えた角をむしり取り、手に持って攻撃を再開した。

 

「《幻獣の角》を装備したモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した時、私はカードを1枚ドローするっ」

「くっ、でも《デスカイザー・ドラゴン/バスター》は破壊された時に墓地の《デスカイザー・ドラゴン》を復活させるっ」

 

【遊歌】 LP3900→LP3200

 

 /バスターの効果のよってデスカイザー・ドラゴンが特殊召喚されるものの、その攻撃力は舞猫姫は遥かに届かない。

 苦い顔の遊歌に、得意顔のセレナ。そのままセレナは指を一閃させ、舞猫姫に更なる攻撃を命じた。

 

「《月光舞猫姫》はこのターン、全てのモンスターに2回攻撃ができるっ! 遊歌に追加攻撃だ!」

「優勢は慢心を産むわよっ。罠発動《アルケミー・サイクル》! このターン中、私のモンスターの元々の攻撃力を0にして──」

「攻撃力を変化させたモンスターが戦闘で破壊される度にカードをドローする、だろう? だが、構うものかっ! 行け《月光舞猫姫》っ。全てのモンスターを破壊しろ!」

 

【遊歌】 LP3100→LP2200

 

 舞猫姫が好戦的な声を上げて、遊歌のフィールドに存在する全てのモンスターをワイトキングから順番に2回ずつ攻撃して破壊した。

 これで《幻獣の角》の効果が発動し、同時に《アルケミー・サイクル》の効果も発動される。

 よって、

 

「私はカードを5枚ドローするっ!」

「私はカードを5枚ドローするっ!」

 

 遊歌とセレナはお互いに手札を補充する。

 

「まだよ。私は《ゴブリンゾンビ》の効果で、デッキから2体目の《ワイトキング》を手札に加える」

「……私はカードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

【遊歌】

 LP2200

 手札7枚

 モンスター

 Φ

 魔法・罠

 Φ

 墓地

 ワイトキング×1

 ワイト×1

 ワイト夫人×1

 ワイトメア×1

 ワイトプリンス×1

 

【セレナ】

 LP4000

 手札5枚

 モンスター

 《月光舞猫姫》/ATK3200

 魔法・罠

 装備罠《幻獣の角》

 伏せカードが3枚

 

 

「私のターン、ドローっ。私は手札から《ギャラクシー・サイクロン》を発動。セレナをリバースカード1枚を破壊する!」

「ぅ、《決闘融合-バトル・フュージョン》が……」

「更に魔法カード《生者の書-禁断の呪術-》でセレナの墓地から《月光紅狐》を除外し、私の墓地から《ワイトプリンス》を特殊召喚。そして手札から《ワイト》を召喚する」

 

 月光紅狐。どんなに攻撃力が高かろうと問答無用で攻撃力を0にしてしまうモンスター。この効果はワイトデッキにとって(どんなデッキでもそうだが)大問題を引き起こすカードだ。

 既にそれを看過していた遊歌は、これ以上月光紅狐の効果を使われないように除外したである。実は月光紅狐は墓地で発動する更なる効果があったのだが、そのことを遊歌は知る術もないのだった。

 

「同じレベルのモンスターが2体。まさか……」

「私はレベル1の《ワイトプリンス》と《ワイト》でオーバーレイネットワークを構築。

 ──エクシーズ召喚《森羅の姫芽宮》っ!」

 

 森羅の姫芽宮。このモンスターはかつて遊歌がライディング・デュエルを行った第二の仮面デュエリスト☆ミアの使用したカードだが、遊歌は彼女が拾った4枚目のこのカードを分けてもらったのである。

 遊歌たちの主なカードの入手手段はパックを買うことではなく、シングル購入か拾うことなのだ。色々とおかしい人たちである。

 

「っ、やはりエクシーズ召喚……。複数の召喚法を操るのか!? ならば、まさかとは思うが……」

「《森羅の姫芽宮》の効果を発動。ORUを1つ使ってデッキトップのカードを捲る。

 私が捲ったカードは魔法カード《融合》っ!」

「予想通りか。だが、これほどのデュエリストを私は今まで聞いたことがない。遊歌、お前は一体何者だ? アカデミアではないな?」

 

 ここに来てセレナからようやく疑問の声が上がる。しかし、その質問に遊歌は答えようとはせず、愉快そうに口角をつり上げて言葉を返す。

 

「……デュエリストならば、聞きたいことがあるのなら──」

「──当然、デュエルで聞き出すのが礼儀と言うものだな。さあ、かかって来るがいいっ!」

 

 遊歌の挑発。そして、セレナは気持ちいいぐらいにその挑発に飛び込んでいった。

 セレナの返答に少し驚いて目を見開いた遊歌だったが、軽く微笑んでデュエルへと戻っていく。

 

「《森羅の姫芽宮》の効果で魔法・罠カードが捲られた場合、そのカードは手札に加える。また、ORUとして墓地に送られた《ワイトプリンス》の効果でデッキから《ワイト》と《ワイト夫人》を墓地に送る」

「くっ、墓地に骸骨が貯まってきたか……」

「そんな事を気にしている場合? 私は手札から魔法カード《強制転移》を発動しちゃう!」

 

 コントロール入れ換えの魔法カードを揺らして、まるで悪役のように遊歌は綺麗に笑う。

 本来はワイトキングやワイト夫人のコントロールを移したりする用途で投入されているカードだが、普通の使用をしても何ら問題はない。

 

「っ、姑息な手を……! すまない《月光舞猫姫》っ。私はカウンター罠《パラドックス・フュージョン》を発動っ! 自分フィールドの融合モンスターである《月光舞猫姫》をゲームから除外し、その魔法カードを無効にして破壊する!」

 

 月光舞猫姫が一際高く鳴き、その姿がポリゴンとしてほどけ、空に溶けて消えていった。

 

「……これで私のフィールドはがら空きになった。だが、遊歌も召喚権は使いきり、《森羅の姫芽宮》は守備表示だ。これで──」

「アンデットを甘く見ないで欲しいわねっ! 私は墓地から《ワイトプリンス》の効果を発動っ。墓地の《ワイト》・《ワイト夫人》・《ワイトプリンス》を除外して、デッキから《ワイトキング》を特殊召喚する!」

 

 墓地効果。アンデット族がアンデッドたる所以ともいえる、遊歌の伝家の宝刀である。

 また、過剰なまでに墓地に送られていったワイトたちによって、3枚も除外されようが関係なく、ワイトキングの攻撃力はゲームエンドまで持っていける数値になっていた。

 

「攻撃力、4000……!」

「まだよ。私は手札から速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動。除外されている《ワイト》・《ワイト夫人》・《ワイトプリンス》を墓地に戻す。

 バトルっ! 《ワイトキング》で直接攻撃っ!」

「っ、罠発動! 《ダメージダイエットぉ、ぅぁああぁああぁぁああああああああっ!」

 

【セレナ】 LP4000→LP500

 

 セレナがダメージで吹き飛ばされ、散らかしっぱなしになっていた漫画に足を滑らせて盛大に転ける。少しして自力で立ち上がったセレナは、頭を押さえながらも恨みがましい目で遊歌を見つめていた。

 

「私は手札を1枚伏せてターンを終了」

「私のターンだ。ドローっ。私は墓地の《月光香》の効果を使用する。墓地のこのカードと手札1枚を墓地に送り、私はデッキから《月光白兎(ムーンライト・ホワイト・ラビット)》を手札に加えて召喚する。《月光白兎》の召喚に成功したので、私は墓地から《月光黒羊》を特殊召喚。また、《月光白兎》の更なる効果によって遊歌の伏せカードを手札に戻すっ」

 

 白色と黒色。モノクロカラーの兎と羊はどこかピケルとクランを思い出させる。もっとも彼女たちの色は真逆で、白い羊と黒い兎なのだけれど。

 

「罠発動っ。《針蟲の巣窟》っ!」

「効果で5枚のカードを墓地に送られたか……。だが、もう遊歌のデッキに骸骨どもは殆ど──」

「それは、どうかな……?」

 

 《ワイトキング》/ATK7000→9000

 

 ワイトキングが心なしか大きくなったように思える。カルシウムをたくさん取って丈夫な骨になったのだろう。

 ここに来ての攻撃力上昇。セレナからすれば苦しい展開だが、彼女の瞳は諦めてはおらず、むしろ静かな闘気に燃えていた。

 

「攻撃力が2000も上がっただと……! だが、私のデッキだって負けてはいないっ。私は魔法カード《融合識別(フュージョン・タグ)》を発動し、《月光白兎》を《月光舞豹姫(ムーンライト・パンサー・ダンサー)》に誤認させる。そして魔法カード《融合》によって手札の《月光紫蝶》とフィールドの2体のモンスターを束ねるっ。

 月光の原野の頂点に立って舞う百獣の王! ──融合召喚。現れろっ《月光舞獅子姫(ムーンライト・ライオ・ダンサー)》!」

 

 《月光舞獅子姫》

 /☆10 ATK3500 DEF3000

 

 月光を背景に、白髪を青く照らした仮面を着けた女性が舞い降りてくる。手にはカトラスを持ちながら軽快にステップを踏んで、最後は尾のような髪を地面に叩きつけた。

 

「融合素材となった《月光黒羊》の効果で、墓地から《月光蒼猫》を手札に加える。そして《月光舞獅子姫》は相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されないモンスター!」

「だけど、戦闘破壊なら問題ないっ!」

「その為にこのカードがあるっ。速攻魔法《ハーフ・シャット》を《ワイトキング》に使う。この効果を受けたモンスターはこのターン中戦闘破壊はされず、攻撃力は半分になる!」

 

 ワイトキングの攻撃力が9000から4500まで下がる。だが、月光舞獅子姫の攻撃力は3500。未だにワイトキングの攻撃力には届かない。

 

「まだだっ。私は墓地から《月光紫蝶》の第二の効果を発動し、手札から《月光蒼猫》を特殊召喚。そして、このカードが特殊召喚された時、自分フィールドの『ムーンライト』モンスターの攻撃力を倍にする!」

「なっ、倍プッシュ……!?」

 

 《月光舞獅子姫》/ATK3500→7000

 

 踏み込む。刀身が低く煌めいて、その軌跡だけが鮮やかに残る。すぅ、と舞獅子姫は正眼にカトラスを構えた。

 

「止めだ! 《月光舞獅子姫》で《ワイトキング》に攻撃っ。月に変わってぇ! お仕置きだ!」

「い・や・よっ! 私は手札から《ワイトプリンセス》の効果を発動。このカードを墓地に捨て、フィールドの全モンスターの攻撃力をレベル×300だけ下げるっ!」

 

 《月光蒼猫》/ATK1600→400

 《月光舞獅子姫》/ATK7000→4000

 《ワイトキング》/ATK4500→4200

 

【セレナ】 LP500→LP300

 

 月光舞獅子姫とワイトキングから骨が抜ける。ワイトキングの体からは一本、月光舞獅子姫からは十本の骨が物理的に飛び出し、フィールドのモンスターは文字通り骨抜きにされるのだった。

 

「っ、くぅ、だが、私のライフはまだ残っている! それに、遊歌っ! お前のフィールドを良く見てみろ!」

「……えっ? っ、《ワイトキング》が居ない!」

「そうだっ! これが《月光舞獅子姫》の最後の効果っ。このカードが攻撃をしたダメージステップ終了時に、相手フィールドの特殊召喚したモンスターを全て破壊するっ!」

 

 道連れ効果、とは少し違う。このカードの効果は自身が破壊されなくても使うことはできるからだ。

 だが、その効果は極めて強力であり、まともに受けた遊歌のフィールドにはモンスターが存在していない。

 

「行け《月光蒼猫》っ。遊歌に直接攻撃っ!」

「っ、」

 

【遊歌】 LP2200→LP1800

 

 蒼猫がにゃあ、と甲高く鳴き、遊歌の顔を自身の爪で引っ掻いていく。たまらずその場にうずくまった遊歌は顔を押さえて何とか立ち上がり、止めをさそうとデッキ手をかけた。

 

「カードを1枚伏せて、私はターンエンドだっ!」

「私の、ターンっ! どろーっ!」

「罠発動っ。《光の封殺剣》っ!」

 

 そして、遊歌の手札1枚が剣に突き刺されて地面に縫い付けられた。

 

「光の、封殺剣……?」

「ああ、そうだ。本来は《融合》に対するカウンターのカードだったが、そんなことも言ってられなくなったからな。《ワイトキング》を封じさせてもらった」

 

 光の封殺剣。このカードはバトルシティにおいて、遊戯vs海馬戦で使われたカードだ。その効果は相手の手札1枚を数ターン封じるというもの。

 効果自体はトリッキーだが、直接アドバンテージが取れるカードでもなく、あまり注目はされない。だが、このカードは手札に影響を及ぼす数少ないカードだ。

 それによって、相手の融合にカウンターした限定的なピーピングといった使い道もあるのだ。当然、今のセレナのように相手のキーカードを封じる目的でも使える。

 

「最後の《ワイトキング》は封じたぞ……!」

「……私はカードを1枚伏せてターンエンドっ」

「私のターン、ドロー。私は《月光蒼猫》を守備表示に変更して、伏せカードを1枚場に出す。これでターンを終了させるっ!」

 

 ドローゴー。膠着状態、に見える。

 だが、セレナはにやり、と口角をつり上げて、

 

「このエンドフェイズに《パラドックス・フュージョン》によって除外されていた《月光舞猫姫》が私のフィールドに攻撃表示で舞い戻ってくる!」

 

 自身の切り札を召喚する。

 だが、

 

「でも、今は私のターン! ドローっ!」

 

 と、遊歌が恐らくは最後になるだろうドローカードをデッキから引き抜いて、笑った。

 そして、

 

「……引いたよ。私は魔法カード《闇の量産工場》を発動する。この効果で墓地の《ワイト》2体を手札に加え、《融合》の儀式を執り行う。

 私の全力をっ! 私の全霊をっ!

 ──融合召喚っ。《冥界竜 ドラゴネクロ》!」

 

 痛みの竜が、遊歌の後ろに現れた。

 

「これが、遊歌の切り札……。行くぞ《月光舞猫姫》。最後は切り札同士の勝負だ……!」

「……ええ。私は《冥界竜 ドラゴネクロ》で《月光舞猫姫》に攻撃っ。ソウル・バイト!」

 

 ドラゴネクロが月光舞猫姫に噛みついて、舞猫姫がダガーでドラゴネクロを切り裂いた。

 血で血を洗う激戦。ドラゴネクロからは屍肉が切り身で落とされ、舞猫姫はあちこちに噛み傷が見られる。そして、やがては攻撃力で勝るドラゴネクロが舞猫姫を押し倒して──

 

「──やはり、使うことになるか。私は罠カード発動っ。《決戦融合-ファイナル・フュージョン》!」

 

 決戦融合-ファイナル・フュージョン。そのカードは融合モンスター同士の戦闘時にのみ発動でき、そのモンスターたちの戦闘を無効にして、その攻撃力の合計分のダメージをお互いに与える、融合使い最後の切り札にして自爆カードである。

 

「っ、そのカードは……!」

「そうだ。私と共に死んで貰うぞ、遊歌っ!」

 

 光が、辺りを包み込む。

 ドラゴネクロの内側から、舞猫姫の内側からも光が漏れだし、セレナが生活をしていた部屋が真っ白に染められあげていく。

 やがて光が弱くなっていき、完全に収縮した頃にはドラゴネクロや舞猫姫は既にフィールドにはおらず、デュエルすら終わっていた。

 

【遊歌】 LP1800→LP300

【セレナ】 LP300→LP0

 

「何っ? どうして遊歌のライフが残っている?」

「残念。私は伏せられていた《墓地墓地の恨み》と《針蟲の巣窟》で墓地に送られた《ダメージ・ダイエット》を発動していたの。それによって《月光舞猫姫》の攻撃力は0になり、私が受けるダメージは3000になる。そこから《ダメージ・ダイエット》で更に半分の1500まで減って、私だけ生き残ったのよ」

 

 得意気な遊歌の表情。ふふん、と無い胸を張る遊歌にイラッ☆っと来たセレナは食べかけの300キロカロリー、即ちショートケーキを遊歌の口にねじ込んだ。

 

「お前なんてダイエットに失敗していろっ!」

 

 むせる遊歌を見下ろして、セレナは少しだけ溜飲を下げるのだった。

 




シンジは本当に申し訳ありませんでした。
これについては少しだけ裏話を活動報告で書きます。

また、遊歌が行うサーチとドローの順番が安定しないことや、先に伏せカード割らないの? 等はわざとやっている部分があります。これが現実のデュエルではないことを強調するためです。ですが、同時に結構素でやっている部分もあるので、あまり気にしないでいただけると助かります。
ですが、当然デュエルの間違いなどの指摘等は歓迎です。意見等を聞かせていただければ、(それがただの罵倒ではなければ)泣いて喜びます。むしろ批判歓迎です。

という、真面目な後書きでした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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