神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第102話 選伐審査

 戦場に降り立つゴッドイーターは何時もとは違う緊張感に包まれていた。

 新人であれば分からないでもないが、たった今戦場に降り立ったのは少なくとも曹長もしくは相当階級。フェンリルから見ても中堅と言われるはずの人間は僅かに震えていた。

 恐怖なのか武者震いなのかは当人以外には分からない。しかし、どんな状況であったとしてもアラガミからすれば、些細な話でしかなかった。

 

 

「取敢えずは慣らしですから、そんなに気負わなくても良いかと思いますよ」

 

「そ、そうですね。地域は変わっても同じアラガミですからね」

 

「いざとなれば私達でフォローしますので、安心して下さい」

 

 眼下に見えるアラガミは狼を模したガルム。主としては大型種に分類されるそれは少なくとも極東地域では割と見かける事が多いが、他の支部からすればあり得ない程の存在感と威圧感を持っていた。

 今はまだこちらに気が付いていないが、これが同じ目線に立てばどんな未来が待っているのかは容易に想像できる。

 少なくとも初対決であれば苦戦は必至だが、今は自分の隣には頼りになる存在の上司が居るからと自身を奮起させていた。

 

 

「シエル。そろそろ行こうか」

 

「そうですね」

 

 震える人間に対し不誠実だと感じるかもしれないが、今はそんな事を言っている暇は無かった。

 元々今回のミミッションは他のメンバーが出る予定だったものの、サテライトに入植する人達の近くに出没したとの連絡で、近隣に居た北斗とシエルが実戦教導中の部隊を急遽派遣していた。

 元々今回のミッションは半ば突発的な印象はあるものの、ここでは然程気にするレベルではない。寧ろマルドゥークでないからマシだと判断出来る内容だった。

 

 

 

 

 

「シエル、援護を!」

 

「はい!」

 

 北斗の指示が飛んだ瞬間、シエルのアーペルシーからは癒しの緑が北斗ではなくその隣の男とへと向けられていた。

 戦闘時の回復弾やレーザーは多少の傷程度であれば瞬時に回復していく。元々今回の戦闘に於いては予定外だった事もあってなのか、北斗とシエル以外は苦戦を強いられていた。

 先程までガルムの放つ炎を纏った岩石は直撃こそ無かったものの、その熱で一部が溶けた様に皮膚がただれていた。

 本来であれば多少の傷程度は治す事はしない。しかし火傷だけは最悪は動きを阻害する事があるからと、瞬時に癒していた。

 先程までただれていたはずの皮膚がオラクル細胞の恩恵を受け修復されていく。

 焼けた服はどうしようもないが、それでも自身の肉体の損傷がないのであればそれは些細な話でしかなかった。

 

 癒しの緑が消える頃、北斗は既にガルムの攻撃範囲の中で純白の刃をガントレットの部分に突きつけていた。

 これまで執拗に同じ個所を攻撃していたからなのか、突き立てた場所を中心に、蜘蛛の巣の様に皹が全体に走っていく。その数秒後には大きな音と共にガルムのガントレットは破壊されていた。

 

 

「総員!今だ!」

 

 北斗の言葉にシエルだけでなく他のメンバーもまた一気に走り出していた。

 先程の攻撃によってガルムの巨躯は地面に横たわっている。完全なる隙は全員の闘志を一気に吹き上がらせ、このまま止めとばかりに一斉攻撃を開始していた。

 前足のガントレットだけでなく、頭部や後ろ足の部分も部位破壊を進めて行く。通常よりも長い時間横たわったガルムはそのまま立ち上がる事は二度となかった。

 

 

 

 

 

 

「ヒバリさん。これで全部ですか?」

 

《はい。周辺にアラガミの反応はありません。現時点では緊急で発生する案件も無いと思いますので、そのまま帰投準備をお願いします》

 

「了解しました」

 

《それと戻ってからで結構ですので、一度榊博士の所に向かって下さい》

 

「内容は?」

 

《詳細についてはこちらでは分かりません》

 

「帰投次第向かうと連絡してください」

 

《了解しました。その様に伝えておきます》

 

 既に周囲の探索を開始したからなのか、周囲には北斗以外に誰も居なかった。

 今回のミッションは珍しく北斗とシエル、それに付随して珍しく他の支部から来た人間とのミッションとなっている。

 これまでに極東の人間との戦闘経験はあったものの、他の支部までは全くない。事前に榊からも聞かされてはいたものの、まさかこうまでだとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「榊博士。用件とは何でしょうか?」

 

「忙しいところ済まない。実は今回のミッションに関してなんだが、暫くはブラッドだけでのミッションは出来なくなる」

 

 榊の言葉に北斗は一体何を言っているのか理解するまでに少しだけ時間を要していた。

 元々ブラッドは極東支部のメンバーとも何度かミッションをこなしてはいたものの、ブラッドだけのミッションに関しての制限は特に無かった。

 ブラッドの事業の一環として聖域での農業はあるが、これはあくまでも現場の状況次第でしかない。

 感応種や神融種レベルであれば他の人間を入れるよりも、もっと効率的に戦闘をし続ける事は難しい話ではなかった。

 そんな事情は態々口にしなくても榊とて理解している。しかし、今回の件は明らかに異例でしかなかった。

 

 

「理由をお聞きしても?」

 

「実はまだオフレコなんだけど、近々大きな計画が立ち上がる予定があってね。今回からは君達の部隊でもお願いしたいんだよ」 

 

「はぁ………」

 

 榊の突然の言葉に北斗は改めて絶句していた。

 今回の件に関しては本来であればクレイドルとしての案件だった。これが何時もであれば他の支部からの研修と言うだけで済むが、問題にこそならないが、榊の口から出た内容は少なくとも北斗の予想していない事実だった。

 

 確かにその言葉を信用するとすれば、間違いなくブラッドにも大きな影響が生じてしまう。あまりの規格外の言葉に、北斗はただ頷く事しか出来ないままだった。

 

 

「勿論、今回の件に関しては余程の事が無い限り、ブラッド……厳密には君達には一定量程のミッションが与えられると思ってくれると助かるよ」

 

「了解しました」

 

 既に言いきったからなのか、榊は他の事をし出している。あまりにも唐突に出た内容に今だ立ち直れないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、クレイドルの件がまさかこうまで厳しくなるとは思いませんでした」

 

「シエルちゃんの所もそうだったの?私達の所も結構大変だったんだよ」

 

 帰投後、北斗は榊の下へ、シエルは手持無沙汰になったからなのか、ラウンジへとそれぞれが移動していた。ラウンジの扉を開けるとナナが手招きして待っている。

 そんなナナを発見したからなのか、シエルもまたナナの下へと移動していた。

 

 

「実際にはどうだったんですか?」

 

「う~ん。何と言っていいのか……」

 

 シエルの言葉にナナは少し言い淀んだからなのか、周囲を少しだけ見渡していた。

 シエルの言葉が何を意味しているのかは言うまでもない。まさかこれ程だとは思わなかったからなのか、ナナは少しだけ困った表情を浮かべながら今回の事を話していた。

 

 

「……そうでしたか。以前にギルから聞きましたが、まさかこれ程だとは思いませんでしたので」

 

「でも、他の所だと曹長レベルなんだよね……」

 

 まだ食事には早いからなのか、ナナは出されたクッキーを食べながらこれまでの事を思い出していた。

 確かに階級的にはそうなのかもしれないが、体感的には新人を脱出した程度にしか思えなかった。シエルが居た部隊はまだそれ程大した事は無かったが、ナナが居た部隊ではあまりの独断に手間取っていた。

 

 

「お前ら、こんな所でそんな事を言うな。誰が聞いてるか分からないんだ。それなら他の場所にしろ」

 

「あっ。もう終わったの?」

 

「ああ。取敢えずは任務中の内容報告だけだからな。然程時間はかかってない」

 

 ナナ達を注意したのは北斗同様に呼ばれていたギルだった。

 未だ北斗の姿は見えないが、恐らくは何かを話しているに違いない。事実、北斗も内容を話すだけのはずが、他の話を飛んでいたのを確認したのはギルだった。

 

 

「確かにこれまでにも何度か派遣された方を受け入れた事はありましたが、今回はやはり例の計画が発端になったからでしょうか?」

 

「だろうな。実際にどれだけ動けるのかを確認しない事には今後の教導のメニューも作れないし、流石にあの数を一斉にとなれば無理があるからな。まさか俺達がこんな事をするとは思わなかったが」

 

 ギルもまたシエルの言葉に否定する事は無かった。

 気が付けばラウンジには結構な人数が入り始めている。丁度時間が重なったからなのか、何時もよりも多い人数にムツミを少しだけ疲労が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは思ったよりも芳しくない様だが、実際にはどうなんだい?」

 

「本当の事を言えば、あれで曹長レベルは無理かと。ですが、今後の事を考えれば仕方ないかもしれないですね」

 

 支部長室では榊が北斗から話を聞いていた。戦闘時の内容だけであればコンバットログを見れば良いだけの話。しかし、それだけでは分からない部分を聞き取る事によって今後の指針になればと考えていた。

 事実、既存のメンバーを仮の部隊長として聞く事によって常に印象を確かめている。

 戦闘時は色々な数値が変化していくために、その数字以外の部分が一番の目的だった。

 

 

「なるほど。君の眼から見ればと言う事で良いかい?」

 

「そう考えて貰えればいいかと思います。ですが、どうして俺達なんですか?エイジさんやリンドウさんの方がもっと細かい部分も見れると思いますが」

 

「ああ、それは簡単だよ。誰だって志望している以上は良い所を見せたいと普段以上に頑張るからね」

 

「成程……そういう事ですか」

 

 榊の言葉に北斗はここで漸く一連の流れを察していた。

 元々今来ている人間は殆どがクレイドルの新規メンバーとしての立候補者。当然誰もがその審査をするのはエイジやリンドウの様な前線に常に赴くメンバーだけだと考えていた。

 

 クレイドルに加入するには最低限が曹長以上。仮に厳しい状況下でも指揮が執れる事が前提だった。

 当然そうなればそれなりに力量が求められる。戦闘時に混乱する様な人間であれば最初から論外だった。

 当然の事ながら咄嗟の判断力は中々分かりにくい。

 だとすれば、ある意味ではブラッドはその為に試験官としての役割を果たしやすいと判断した結果だった。

 既にギルだけでく、リヴィからも話を聞いている。恐らくはこの時点で合格した人間が何人か候補になっているであろうことを北斗も察していた。

 

 

「君達には済まないとは思うが、これも少しだけの辛抱だから、頼んだよ。ただし、今回の件は他のブラッドのメンバーにも内緒にしてもらえると助かるよ」

 

「そうでしょうね」

 

 榊の言葉に北斗は特定のメンバーの顔を浮かべていた。

 幾ら隠そうとしても、所々に出る態度はどうしても違和感が出てくる。全員が何も気が付かない訳では無い。

 勘の良い人間が仮に口にすれば面倒事は加速度的に増えていく。だとすれば極東支部としても本当の意味での適正を見る事が出来なくなってしまう。

 

 クレイドルの仕事は常に輝かしい事ばかりではない。寧ろその反対の位置に居る。

 住民と直接対話する際に、あまりにも傲慢な態度を取るのであれば今後の活動はやりにくくなってしまう。今回のブラッドを利用したそれはそんな一面を見る為でもあった。

 

 

「取敢えずは1週間程を目途にしてるから、頼んだよ」

 

「了解しました」

 

 笑みを浮かべた榊を後に、北斗もまた少しだけ溜息が漏れていた。

 考え方としては悪くはない。しかし、今回のこれが良い結果をもたらせば、今後はこの依頼は加速していくのは明白だった。

 勿論、ブラッドだけがこの任務をこなしている訳では無い。事実、榊の話ではエリナやマルグリットもまた同じ様な任務についている。

 仕方がない。そんな取り止めの無い思いを抱きながら北斗はラウンジへと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジさん。今、少しだけ良いでしょうか?」

 

「良いけど、何かあった?」

 

 ミッションの隙間を縫うかの様に北斗は時間があれば教導に勤しんでいた。最近ではペアは時間にゆとりがある時だけにし、それ以外では従来の教導に戻っていた。今この場に居るのは北斗とエイジだけ。だからなのか、北斗はエイジに思い切って確認する事にしていた。

 

 

「実は、榊博士からクレイドルの選考を頼まれたんですが、中々厳しいと言いますか……」

 

「ああ、その件の事。何だか申し訳ないとは思うんだけどね」

 

 北斗の言葉にエイジもまた似たような思いを持ってい居たのか、少しだけ申し訳無さそうな笑みを浮かべていた。

  今回の件はどちらかと言えばクライドルの内容。これまでにも何度か派遣された際にはブラッドが殆ど関与する事は無かったからなのか、北斗も自身が気が付かない間に精神的に疲労を漂わせていた。

 

 

「ミッションでは気にしないんですが、今回派遣されている人は基本的には本部からが一番なんですか?」

 

「全員がそうかは知らないけど、今回はそんな感じでは無かったと思うよ。確か、各支部から1~2名が来てるはずだけど」

 

「そうでしたか。ですが、これ程だとは思いませんでした」

 

 北斗の言葉にエイジもまた何が言いたいのかを理解していた。

 最初から極東支部に配属された人間は気が付く事はないが、他からの派遣された人間を見ればどうしても無意識の内に比べていた。

 

 只でさえ極東は他の地域に比べてアラガミの個体は強固な物が多く、新兵や上等兵のレベルでも他の支部に行けば確実に中堅レベルになっている。

 それと同時に極東は昇進に関しては中堅までの基準はハッキリと決められている為に、足を引っ張る様な事は無かった。幾ら教導をしようが殉職数がゼロになる事は無い。自然に人数調整される為に、他の支部の様に上で詰まる現象は存在していなかった。

 

 

「これは時間が解決するから大丈夫だよ。誰だって最初から出来る訳じゃないんだし、実際にブラッドだって最初の頃はそれほど変わらなかったんじゃないの?」

 

「そう言われればそうですが……」

 

 エイジの言葉に北斗もまた自分が気が付かない間に傲慢になりつつある事を自覚していた。

 二度の終末捕喰を食い止めた実績は間違いなくトップクラスの結果。それと同時にブラッドアーツに代表される様にブラッドだけが出来る事が、ある現実を忘れていた。

 しかし、北斗の目の前に座っている人物はブラッドアーツなんて物は所有していない。

 純粋な技術だけで頂点に居る。そう考えた瞬間、北斗は自分に対し思い上がっていた事を自覚していた。

 不意に届く視線の先には僅かに笑みを浮かべるエイジの姿。それを見たからなのか、北斗は少しだけ見ると言う意識を変えようと考えていた。

 

 

 

 

 

「色々と思う所はあると思うが、暫くは静観してほしい」

 

 北斗の言葉にシエルだけでなくほかのブラッドのメンバーは少しだけ驚いた表情を見せていた。

 今回のミッションの中で一番負担を強いられてきたのは間違いなく隊長でもある北斗。そんな北斗が口にした以上、他の誰もがそれ以上の事を言う事は無かった。

 

 

「何かあったのか?」

 

「あった訳じゃないけど、気が付いた。それだけの話だ」

 

 ギルの質問に答えながらも北斗はエイジとの話を全員にしていた。

 確かに自分達はこれまでに活躍をした事実は間違いない。しかし、それとこれは全くの別物であると同時に、最初から今の状況になった訳ではない事を口にしていた。

 

 冷静に考えれば、自分達がやってきた大半の事は極東支部に来てからの出来事。

 フライアがまだ稼働したと仮定した場合に、今の状況にまでこれるのかと考えれば間違いなく否と答えるしかなかった。

 そんな北斗の言葉にロミオやリヴィは改めて考えていた。

 今の自分達の力の源泉はどこにあったのだろうか。そんなとりとめの無い事を考えたことによって北斗の考えが何となく理解出来た気がしていた。

 

 

「俺も北斗の言葉に賛成だな。確かにスパルタ的な部分はあったけど、それがあるから今に至る。じゃなかったら、俺は……いや、間違いなく終末捕喰が完全に止められたとは言えないからさ」

 

「私もロミオの意見に賛成だ。誰もが最初からできた訳ではない。確かにブラッドアーツは他のゴッドイーターから見れば垂涎の的だ。だが、それに奢った所で肝心の使う人間がダメなら所詮は無意味な物でしかない」

 

 ブラッドの中では北斗を除けば、ロミオとリヴィの2人が一番極東での恩恵を受けている。

 ロミオに至っては救助され、短期間での技術の底上げは実際にはそう簡単にできる内容ではない。リヴィに関しても舞踊から来る今の動きはこれまで本部で培った概念を大きく覆している。勿論、他のメンバーに関しても言うまでも無かった。

 

 

「そうだな。俺達だって最初からこうだった訳じゃ無いからな」

 

「そうそう。今こんな事言ってるのナオヤさんに聞かれたら多分、大変な目にあうかもしれないしね『そうか、まだ足りないみたいだな』ってね」

 

「北斗。参考に聞きたいのですが、期間はどれ程を予定しているのでしょうか?」

 

「榊博士の話だと恐らくはそれ程時間はかからないと聞いている。実際に各支部からは2名前後が派遣されているらしい。このペースだと1週間程度だろう」

 

 北斗は榊から言われた様に審査の片棒を担いている事は伏せていた。本当の事を言えば、自分もエイジと話をしなければこんな状況になっていたはず。戦闘面だけでなく人間としての器がどれ程なのかを垣間見た瞬間だった。

 

 

 

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