神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第107話(幕外) 混戦

 ヘリから見る光景は、これまでに見た事が無い人間であれば思わず息を飲んでしまう程に迫力があった。

 緊急出動した時点でアラガミの全容は大よそながらに把握したものの、少なくともこの光景が極東では当然だとは思いたくなかった。

 土煙で見えない部分はあるが、先頭にはガルムやヴァジュラが走っている。まるで野生の生物の群れの様なそれは初めて見た人間の戦意を根こそぎ喪失させるだけの迫力があった。

 

 

「今回のは中々規模が大きいですね」

 

「って事はこれが何時もじゃないんだよな」

 

「流石にこれ程の事は数える程しか無いですね。それもあって今回の招集は各地からの来る事になっていますので」

 

 アリサの呟きの様な言葉に、同じヘリに同乗したアランは少しだけ認識を改めていた。仮にこれが通常であれば、極東以外の支部ならば確実に滅ぶだけの物量がそこにある。そうなれば待っているのは大規模な混乱。緊急事態を打開するのではなく、一刻も早い退避が優先される内容だった。

 しかし、隣を見ればアリサは怯える様子も無ければ困った様子も見当たらない。クレイドルがどれ程の戦闘力を持っているのかを垣間見たからなのか、アランもまた混乱する事無く冷静に様子を伺っていた。

 

 

 

《第一陣が到着するまでにブラッド、クレイドルにも出動要請がかかっています。このままであれば交戦まで30秒です》

 

「了解しました。概要はどうなっていますか?」

 

《目立ったアラガミは先頭に居る大型種2体だけです。ですが、一陣の背後を動く中にはこれまでに観測されていない偏食場パルスを持ったアラガミの存在も確認されています。感応種の可能性が高い為に、二陣にはブラッド隊をぶつけます》

 

 通信回線から聞こえるヒバリの声にアリサもまた事前に確認した情報を統合していく。

 元々厳しい内容であるのは理解しているが、今のアリサにとってはその内容に脅威を感じる事は無かった。

 アランには聞こえていないが、ヘリの内部とは違う通信内容がアリサの下にだけ届く。第一陣に向っているのはアリサ達だけでなく、エイジと北斗も合流する事になっているからだった。ここ最近、碌に会えなかったからなのか、アリサの内心は少しだけ喜んでいる。

 こんな場面では不謹慎である事を理解しているからなのか、隣に居たアランも気が付く事は無かった。

 

 

「第一陣に感応種が居る可能性はありますか?」

 

《現時点では計測されていません。ですが、油断はしないでください。念の為に、防衛ラインにはリンドウさんとソーマさんが待機しています。出来る限り数を減らす事を優先させて下さい》

 

「了解しました。それと援護の到着はどれ程かかりますか?」

 

《現時点では既に回収を終え、移動を開始しています。アリサさん達の下に到着するのは約20分後の予定です》

 

 ヒバリの声にアリサは先程とは違い、完全に気を引き締めていた。20分の時間が長いのか短いのかは分からない。しかし、何時ものメンバーでは無い為に、大型種2体にどれ程に時間が必要になるのかは未知数だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第一陣に関してはアリサさん達に任せますので、皆さんは二陣の感応種の討伐をお願いします」

 

《了解!任せておいて》

 

 アナグラでは現状の確認をする為に、レーダーの観測範囲を拡大すると同時に、一部を種別確認の為に運用していた。

 観測されていない偏食場パルスではあるが、その波形は感応種独特の物だった。

 該当データが無いとなれば確実に新種であることは間違い無い。ナナの声を聞く限りでは大丈夫だとは思うが、新種である事を考えればこれまで以上に警戒する必要があった。

 

 

「サクヤさん。大丈夫だとは思いますが、どうしますか?」

 

「そうね。少なくとも一陣に感応種が向かないようにしないと厳しいわね」

 

「ですが、現状はまだ感応種の数も未計測です。リンクサポートシステムの調整は完了していますので、後はそのタイミングだけです」

 

「今はとにかく情報が必要よ。フランさん、遠方の防衛班の出動要請と近隣のサテライト駐留部隊に待機命令を出して頂戴」

 

「了解しました。直ぐにとりかかります」

 

 大型ディスプレイに映し出された光景は大きな光点となっていた。いくつものアラガミが集う場合、細かい表示が出来ない。微細まで映る様にすれば確認できるかもしれないが、現状は広域での動きを重視している為に、切り替える事無く表示されていた。

 フランに指示は出した物の、サクヤもまた戦場を知っているからなのか、今回の襲撃が突然だった事に疑問を持っていた。

 人為的な可能性も考えられたが、ここ最近はそんな不穏な話を聞く事は無い。だとすればこれだけのアラガミを動かす何かが出たと仮定した方がしっくり来ていた。

 

 

 

 

 

 アナグラで練られている戦略とは別に、移動中のエイジと北斗もまた広域レーダーを見ながら今後の立ち位置を考慮していた。

 明滅する光点はアラガミの動きを示すが、パッと見た感じではそれ程大きな物では無い事は間違いなかった。

 これまでにアナグラに襲い掛かったケースは何度かあったが、その全てが厳しい戦いを余儀なくされた記憶だけがあった。

 

 元々生態系がどうなっているのかはまだ解明されていない。地面から湧き出るかの様に出現するアラガミの姿や繭から出た物を見た記憶はあったが、その後の事に関しては何一つ判明していない。

 時折発生する大群に関しても、当初は保管庫に保存されたコアを狙っているのではとの予測から、今では完全に外部に漏れる事は無かった。だとすればこれまで討伐した何かに引き寄せられているとの可能性も考慮されたものの、結果はやはり同じだった。

 そうなればその後の研究がはかどる事はない。その結果、大群が押し寄せる際にはアナグラの戦力を動員しての防衛線が主流となっていた。

 その事実はエイジも理解している。だからなのか、今回のこれに関してはこれまでの物とはどこか異なる可能性があると本能で察知していた。

 

 

「エイジさん。どうかしたんですか?」

 

「大した事じゃないんだけど、今回のこれはこれまでの物とは少し系統が違うような気がしたんだけどね」

 

「系統が……違う…ですか」

 

「具体的に何って訳じゃないんだけど、何となく違うかなって」

 

 北斗の質問にエイジもまたどうやって答えるのが適切なのかを考えていた。

 今の感情をそのまま口に出すならば、このアラガミは本能ではなくどこか恣意的に動いている様にも見える。人類が今の所、完全にアラガミを操るという技術は確立されていない。精々が動きを制御するだけの為に、それ以上の事は何も分からないままだった。

 捕喰欲求ではなく、何かを見て怯えている様な動きはこれまでに何度か見た記憶があった為に、何となくそう判断しただけだった。

 

 現時点で具体的な策は何も見いだせない。だからなのか、エイジもまた口にしない方が良いと無意識に判断した結果の言葉だった。

 そのエイジの言葉を聞いた北斗もまた改めて映し出された画面を見る。これまでの何かと違う点は何なのか。今の北斗にはその違いが何も判らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……まずは俺達のやれる事を優先するか。ソーマ。最近は研究の方が多いんだろ?無理はするなよ」

 

「それはこっちの台詞だ。お前こそ、いつまでも若いままだと思うな」

 

「当たり前と言いたい所だが、生憎とそう言う訳には行かないんでな」

 

 一陣の影が見え始める頃、リンドウとソーマは所定の配置に付いていた。

 元々クレイドルとしての戦いは今回の様に圧倒的多数を減らす戦闘は殆ど無い。これまで第1部隊として培ってきたやり方を周到するだけだった。

 見えるアラガミは全て斬り伏せる。サテライトの防衛を担ってこれたのは、偏に妥協をしないやり方を徹底した結果だった。

 

 数が少ない中での戦闘は自分達が作り上げた戦線を抜かれれば、待っているのは無抵抗の人間が蹂躙されるだけの未来。少なくともリンドウだけでなくソーマもまた同様の事を考えていた。

 防衛の最前線でありながらも攻勢を仕掛ける橋頭保。サクヤから言われた訳ではなく、自然と考えた結果だった。

 アラガミの数を肉眼で見た事によってソーマも自身のイーブルワンを握る力が強まっている。そんな姿を見たリンドウもまた自身のオラクルが無意識の内に高まっていた。

 

 

《接敵まであと30秒。総員戦闘態勢に入ってください》

 

 耳朶に届く声はまさにこれから始まる終わりなき戦いの合図。先程までの軽口ではなく、これから始まる戦いを思い浮かべたからなのか、ソーマだけでなく、リンドウの口角もまた僅かにつり上がっていた。

 

 

 

 

 

 アラガミの慟哭とも取れる声は周囲一帯に響いていた。既にどれ程の数を討伐したのかは分からないが少なくとも目に見える範囲では確認が出来ない状況はソーマだけでなくリンドウもまた違和感を持っていた。

 斬って捨てたアラガミは既に霧散し、周囲に見える物は何一つ無い。

 本来であれば達成感に湧くところではあったが、拭いきれない違和感に二人は警戒をし続けたままだった。

 

 

「リンドウ。少しおかしいとは思わないか?」

 

「ソーマもか。だが、周囲にはアラガミの姿が見えないんじゃどうしようもないんじゃないのか?」

 

 ソーマの言葉にリンドウもまた同じ感覚を持っていた。元々この戦場は2人が派遣されていた。

 今回の様な攻撃は少なくとも簡単に収束する事は過去に例を見なかった。その最大の要因は配置された場所のアラガミがあまりにも呆気ない点。

 アナグラのレーダーではアラガミの強度は偏食場パルスでしか確認できない為に、実際の強さは現地の人間だけが知るしかなかった。

 

 実際に気が付いたのは戦端を開いた瞬間の最初の一撃。ソーマが上段から振り下ろしたイーブルワンが何の抵抗もなく切り裂いた点だった。

 戦場に居る為に、手応えを常に確認出来る訳では無い。幾ら手応えが無かろうとも数の暴力は脅威でしかなかった。

 リンドウと2人での討伐によって後方からの増援が無い事から一気に推し進める。気が付けば今の様な状況になった事によって漸く違和感を感じていた。

 

 

「ヒバリ。ここにアラガミの姿は無いが、周囲はどうなってる?」

 

《え、終わったんですか?こちらではまだアラガミの反応があります》

 

「どう言う事だ?少なくとも俺だけじゃない。リンドウもアラガミの反応をキャッチしていない」

 

《……少し待ってください》

 

 ソーマの言葉にヒバリもまた異変を感じていたのか、僅かに通信が途切れる。改めて周囲を確認するが、上空はおろか地中ですら反応は感じられない。

 まるで2人をおびき出す為だけに仕掛けられた様にも感じるからなのか、ソーマはヒバリからの返信を待つよりなかった。通信が切れたまでは良かったが、あの反応は確実に混乱をもたらすのは間違い無い。先程とはうって変わって静まり返った光景に、警戒を切らす事無くソーマは直ぐに行動に移せるように警戒したままだった。

 

 

「ソーマ。何か分かったのか?」

 

「どうやらアナグラのレーダーではここはまだ戦闘中らしい。原因は不明だが、今はその確認中だ」

 

「何だそれ?」

 

「今は確認している最中だろう。少なくとも混乱するのは必至だな」

 

 リンドウもまたソーマの言葉に疑問を持っていた。

 只でさえ簡単に終わった戦闘が、まだ続いていると言われれば疑問だけが残る。リンドウもまた周囲を見渡すもアラガミの気配を感じる事は無かった。

 そんな中で、半ば偶然の様に僅かに何を感じ取ったのはソーマだった。まるでオラクルの残滓とも取れるそれが僅かに感じる。何かを察知したのかを確かめるかの様にすぐにリンドウを見たものの、リンドウは何時もと変わらないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テルオミさん。レーダーに異常はありませんでしたか?」

 

「幾らこちらで見ても異常は感じられません。実際に他の戦闘地域を確認しましたが、どれも間違ってはいませんでした」

 

 ソーマからの通信にヒバリは万が一の事を考え、すぐにテルオミにレーダーの状況を確認させていた。

 広域レーダーはアナグラの生命線でもあり、重要な戦術の基本ベースとなる。その為に毎日の点検はおろか、常に異常が無い様に確認されていた。

 事実、アナグラのレーダーまでアラガミが接近する事態であれば誰もが気が付く。それと同時に人為的な物も視野に入れたものの、それもまた空振りに終わっていた。

 

 

「ヒバリ。このまま、あの2人をとどめておくのは勿体無いわ。万が一の事を考えて第1部隊と他の部隊をその場所に移動させて、リンドウ達を他の場所に行かせて。それと、万が一の事も考えて他からの移動をスムーズに行える様に他の部隊も指示して頂戴」

 

 サクヤの言葉にヒバリもまた、似た様な事を考えていた。元々今回の様なケースはこれまでに何度か遭遇している。しかし、肝心のレーダーに映る内容と現地の状況が異なるのは今回が初めてだった。

 勿論、防衛ラインを完全に空白にする訳にも行かない。だとすれば待機中の部隊を動かす事によって戦力を有効活用するよりなかった。

 

 

「分かりました。直ぐに手配をします」

 

 未だ変わらない画面に違和感だけが常に残る。しかし、現状ではこのままにする訳にも行かない為に、ヒバリもまたソーマ達に指示を飛ばしていた。

 

 

「あれ?これは……」

 

 混乱したアナグラのオペレーターの中で、不意に気が付いた事があった。

 先程まで現地とレーダーに違いがあったはずの画面は気が付けば全て消え去っている。

 勿論、レーダーそのものが故障している可能性は否定出来ないが、少なくとも現状は復旧した様にも見えていた。

 

 違和感すら感じないそれは、今初めて画面を見た人間からすれば何故これ程まで混乱しているのかすら疑う物だった。

 そんな中、ウララが視界の端に捉えたのは偶然だった。夥しい程の光点があったはずの画面は既に元に戻った様にも見えたが、問題なのはその過程だった。

 ウララも指示を出す中で、視界にとらえたのは光点がぼんやりと薄まったかの様に見えた途端、瞬時に消え去った事だった。

 少なくともこれまでの経験の中で光点が消えるのはアラガミのオラクル反応が完全に途切れた時だけ。即ち討伐した時だけだった。

 しかし、ボンヤリとしたまま消え去ったそれは、まるで自然に消え去った様にも見える。

 これが通常であれば何らかの現象が起こったのだとも予測出来たが、生憎と混乱した今の状況下ではその検証をする暇すら無かった。

 次々と飛ばす指示にウララもまた通信先の状況を伝えている。めぐるましく動く数値に集中したからなのか、先程の光景を確認する事なくそのまま流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗。どうやら思ったよりも状況は悪いみたいだね」

 

「まさかとは思ったんですが、今からブラッドが移動しても間に合わないかもしれませんね」

 

 エイジの言葉に北斗もまた同じ事を考えていた。第一陣の向こう側に見えるのは、今回の大元かもしれない、一頭のアラガミだった。純白とも取れる毛並みは明らかに通常の種に比べれば巨躯の様にも見える。少なくともここ最近のミッションの中で目に留まる事は早々無かった。ある意味ではブラッドの大きな変化をもたらした存在。感応種でもあるマルドゥークが、威嚇するかの様に大きな遠吠えをしていた。

 

 

「ヒバリさん。第一陣の後方にマルドゥークが見える。少なくともこれまでの種に比べて全体的に大きい。恐らくは変異種の可能性が高い」

 

《了解しました。ですが、現状は周囲の部隊も動く事は困難です。指示は出していますが、少し到着に時間がかかります》

 

「了解。それと、こっちは北斗が居るから感応種でも大丈夫。それと同時に、偏食場パルスの計測しておいてほしい」

 

《既に準備は始めています。ですが、今はリンクサポートは第1部隊の下に運んでいます。データの観測は出来ますので、基本的な交戦はそのままでお願いします》

 

 エイジの言葉の意図が分かったからなのか、ヒバリもまた同じ様に対応していた。

 元々感応種に関してはブラッドかリンクサポートシステムを起動させるのが本来のやり方だった。しかし、ブラッドの場合は各自が交戦出来ても他の人間は行動が制限されてしまう。その為にリンクサポートシステムを併用するのはある意味当然だった。

 しかし、現時点でリンクサポートシステムを十全に運用出来ている訳では無い。だからと言って、それを権限譲渡だけさせるのも困難だった。

 その為に北斗の『喚起』の能力を活かし、同党レベルの状況を作り出す。そうなれば通常のゴッドイーターの天敵でもある感応種もまたこれまでのアラガミと同じ様に攻撃が可能となっていた。

 事実上の虎の子でもあるリンクサポートシステムは未だ完全に作動する個体の数はそう多く無い。それを考えた末の言葉だった。 

 

 

「了解。これから交戦に入る」

 

《大丈夫かとは思いますがご武運を》

 

 ヒバリとのの通信が切れる。既に肉眼でも見える距離にお互いの視線がぶつかった様にも見えていた。本来であれば4人1チームでも厳しい戦いを要求っされるマルドゥーク戦。本来であれば不利なはずの戦いはどちらが優勢だとも言えない程の戦いが始まろうとしていた。

 

 

                                      

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