神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第111話(幕外) 佳境

 リンドウとソーマがエイジ達が戦っている場に到着する直前、マルドゥークの咆哮が周囲に轟いていた。

 それが意味するのが何なのかを2人も知ら無い訳では無い。しかし、ここに来る直前にサクヤからもたらされた情報によって2人が混乱する事は無かった。

 

 

「随分と思い切った事をしたな」

 

「少しだけ気になる部分と、後は確認ですけどね」

 

「気になるのは例の件か?」

 

「ソーマ達の所も?」

 

「ああ。思った以上に違和感しか残らない。これは直ぐにでも確認が必要になるな」

 

 エイジの言葉を理解したからなのか、ソーマもまた情報と実際にアラガミが違う点を理解していた。

 合流するまでにこちらから上げた情報を元に、アナグラもまたレーダーの確認やシステムのチェックを詳細にまでしていた。結果は異状なし。システムそのものに異状が無いにも拘わらず、異なる誤差は今後の活動にも多大な影響を及ぼすのは必須だった。

 当然ながら現場に居る人間が確認する以外に方法が無い。

 エイジと北斗は最初からマルドゥークと交戦していたものの、その動きが変異種であると考えていた。

 変異種に関しての明確な変更点は殆どない。精々が偏食場パルスが通常よりも強大になってる程度でしかなかった。

 それとは別に、これまで極東の中で一番数多く交戦したエイジが判断していただけだった。

 交戦中に出た違和感。それが今回の件でさらに悩ませる要因となっている。

 しかし、肝心のマルドゥークの情報を完全にチェックが終わったアナグラからもたらされた情報はこれまでの通常種と同じとの案内。咆哮させたのは実験の為だけとなっていた。

 

 

「細かい事は知らんが、とにかく俺達が今やるのは寄せられたアラガミの殲滅だろ?細かい事はソーマが後でやれば良いだけの話だ」

 

「少しは手伝おうとか思わないのか?」

 

「俺がか?無理無理。オッサンは現場で汗をかくだけの仕事だからな」

 

「馬鹿か。そんな事を言ってるだけで終わると思ってるのか?」

 

「無理だろうな」

 

「あの、そろそろアラガミが来るかと思いますが」

 

 ソーマとリンドウのやりとりを見た北斗は少しだけ口を挟んでいた。

 この地にアラガミが寄せられるのは決定事項ではあるが、その大元となったマルドゥークは完全に討伐が終わっている訳では無い。

 今の所はエイジがにらみを利かせている為に、マルドゥークもまた様子を伺う程度だった。

 

 一触即発の状況ではなるが、マルドゥークもまた元の知能が低い訳では無い。

 本能からエイジが自分よりも完全に格上である事を理解している。

 アラガミが闊歩する現在。弱肉強食の世界は、アラガミにとってもまた自身の生存を確実にする為には相手の強さを図る事も生き残る為の技術だった。

 

 

「じゃ、そろそろやるか。それに二陣も一部は苦戦してるみたいだしな」

 

「そうだな。折角の機会だ。リンドウを扱き使うのも面白い」

 

 リンドウの言葉にソーマもまたやれやれと言った表情を浮かべマルドゥークへと視線を向ける。異なる視線を感じたからなのか、それとも自身の生存を諦めたからなのか、マルドゥークは事実上の特攻と言わんばかりに突進を開始していた。

 

 

 

 

 

 全身を血塗れにし、マルドゥークは渾身の力を込めてリンドウ達の下へと突進していた。

 巨躯が疾る度に大地が僅かに振動する。本来であればリンドウだけでなくソーマもまた回避するはずだった。

 神機を構えはするが、動く気配は何処にも無い。マルドゥークからすれば事実上の道連れの感覚でしかない。

 視界は半分塞がれ、攻撃するための爪は既に砕かれている。このまま圧し潰す以外に方法が無い。

 距離が確実に詰まる。この時点でマルドゥークは重大な事を忘れていた。

 この状態になるまでにしたのは一体誰なのか。失った視界では捉える事は出来ず、鼻もまた周囲の臭いを嗅ぐ事すら出来ない。

 突進しながらも浮かんだ疑問は瞬時に解消されていた。突如として感じる異物感。少なくとも疾走するまでの道程に障害物はどこにも無いはずだった。

 異物感は消える事無くそのまま拡大していく。気が付けば自身の臓物は地面へとずり落ちていた。

 悲鳴すら上げる事無くマルドゥークはそのまま思考する事無く、その体躯を地面へと倒していた。

 

 

「なぁ、俺達が来た意味ってあるのか?」

 

「当然です。ほら、アラガミが来ましたんで」

 

「ったくご苦労な事で」

 

 マルドゥークに止めをさしたのはエイジだった。

 漆黒の刀身はマルドゥークの血を吸うかの様にポタポタと垂れ落ちる。死角から斬り裂いた事によって、マルドゥークはそのまま動く事はなかった。

 北斗がそのままコアを引き抜く。当然の様に討伐が終えたと同時に寄せられたアラガミを屠るべく、視線を来るであろう方向へと移していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シエルちゃん!受け取って!」

 

 ナナはヤクシャから生成したアラガミバレットを惜しげもなくシエルへと渡していた。

 連続して届くそれに、シエルの体内にあるオラクル細胞が急激に活動を開始する。

 リンクバーストが最大になったからなのか、シエルの全身からはオーラが湧き出るかの様に鈍く光っていた。

 

 新種の感応種は銃撃のみを受け付ける。用意されたアンプルを使い切る前に一気に勝負に出る作戦だった。

 ナナが渡したそれをシエルはそのままアラガミへと向ける。これまでに放った精密射撃は既に一部の箇所を結合崩壊にまで追い込んでいた。

 全ての力がアーペルシーへと注がれる。そんな様子を見たからなのか、シエルは少しだけ自分の神機に対し、労わる様な笑みを浮かべていた。

 

 

「では、行きます」

 

 先程の笑みが一瞬にして消え去り、改めて狙いを付ける。

 既にシエルは神機と一体になったかの様に狙いを付けていた。

 これまでに何千と引いた引鉄に戸惑いは微塵も無い。無情の一撃はそのままヤクシャの生体エネルギーを一発の銃弾へと変更していた。

 これまでに無い程のエネルギーがアーペルシーへと集まる。

 アラガミバレット特有の制御はそのまま上空に滞在しているアラガミの頭上にある物体を破壊していた。

 

 

《対象アラガミのオラクル反応が消失しました。可能であればそのアラガミのコアは必ず持って来て欲しいと榊支部長からの依頼です》

 

「了解しました。出来る限りの物は持って行きますので。出来れば回収は可能でしょうか?」

 

《現時点では第一陣は既に壊滅し、今は周囲の警戒を続けています。回収には1チームを派遣しますので、暫くの間はその場でお待ち下さい》

 

 フランの言葉にシエルは改めて先程まで戦っていたアラガミに視線を移していた。

 これまでの記憶の中で銃撃のみを受け付けるアラガミが居たと言う情報は耳にした事が無かった。

 最近ではそれ程大きな問題にはならなくなっているが、少なくとも第1世代型神機使いからすれば、これもまた脅威だった。

 

 感応種なだけであればカウンターとしてリンクサポートシステムが使える。しかし、この種独特の特性はフォローのしようが無かった。

 遠距離型であれば対処できるが、近接型は最早絶望でしかない。

 そう考えると今後も固有の種として定着する可能性は極めて高い物だとシエルは考えていた。

 現時点ではまだ第二陣はまだ収束には程遠い。今は良くても今後は戦略を練り直す必要が出てくる事を考えると、シエルは少しだけ溜息を吐きたくなっていた。

 

 

「シエルちゃん。大丈夫だった?」

 

「はい。私は問題ありません。ですが、このアラガミのコアと一部の素材は必ず回収してほしいそうです」

 

「確かにそうだよね。私がこのアラガミと戦えって言われたら、流石に考えちゃうよ」

 

 何かを思い出したかの様にナナは疲れた様子を隠す事無く表情に出していた。

 只でさえ銃撃しかダメージを与える事が出来ず、それもまた相当の火力を必要としている。

 それだけであればこれ程疲弊する事は無かった。

 戦闘に於いては如何に想定外の事があったとしても冷静にならなければ戦場で待っているのは死だけ。それは極東に配属されている人間であれば誰もが一番最初に教えられた内容だった。

 

 改めて配属されたブラッドもまた例外にではない。これまでに感応種や神融種と言った初見でさえも撃破してにも拘わらず、今回のアラガミが行った行為はあるいみでは脅威だった。

 空中に浮遊したかと思った瞬間、他のアラガミに対し行ったのは淡い緑の光を当てた事だった。

 何も情報が無いのであれば、今の行動が気になる事は無かったはず。しかし、それを補完したのはオペレーターのフランだった。

 耳朶に響く内容にナナだけでなくギルや終始冷静なはずのシエルもまた驚きを隠せなかった。

 緑の光が表すのは偏にアラガミの体力が回復した証だった。

 これまで厳しい戦いでも気力でやってこれたのは、アラガミに回復の手段がそれ程無い点だった。

 捕喰すれば多少は回復するが、それは戦闘中ではない。あくまでも日常か戦闘時では攻撃の必要性を感じないと判断した時だった。

 しかし、交戦中の回復となれば話は大きく変わる。気力を振り絞った先に待っているのが反撃であれば確実に心が折れるはずだった。

 それはブラッドだけでなくアナグラもまた同じ。回復した事実は少なからず今後の対策を練る必要があった。

 当然ながら討伐後にはコアだけでなく一部の素材もまた研究用に回されるのは明白だった。

 

 

「感応種そのものは早々現れない。だとすれば、この個体もまた同じだろう」

 

「そう言われればそうなんだけど……でも、対処は必要だよね」

 

「そうですね。ナナさんの言う通りです。戦いに絶対はありませんから、少なくともこのコアは榊博士の手元に確実に届くようにする必要がありますね」

 

 三者三様の意見ではあったが、内容に関しては概ねその通りだった。気が付けば先程まで横たわっていた体躯はそのまま霧散している。

 これまでに無いアアラガミだからなのか、3人の疲労は何時も以上だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナナ達が新種の感応種と戦っている頃、ジュリウス達もまた同じく感応種と交戦していた。

 こちらは新種ではなく、既に何度も討伐した種。ジュリウス達に慢心は無いが、それでも多少なりとも落ち着くだけの要素はあった。

 

 

「ジュリウス。陽動を頼みたい」

 

「何か案でも?」

 

「少なくとも上空から滑空してくるのは無理だが、着地の瞬間を狙う分には問題ないと思う」

 

「って事は俺の役目は周囲の露払いだな」

 

 3人の視界に映るアラガミの姿はさながら貴婦人の様にも見えていた。

 怪しげな姿はある意味では蠱惑的なのかもしれない。しかし、それをそのまま見ている訳にはいかなかった。

 後方に大きく跳躍すると同時に、幾重にも重なるかの様に氷の刃が放たれる。戦いに於いて如何に有利な状況を作るのかは人間もアラガミも同じだった。

 放たれた氷の刃を回避か防ぐかによって次の行動が決定する。アラガミもまた同じ事を考えていたはずだった。

 

 

「そんなんで一々手間取る訳無いだろ!」

 

 氷の刃は予想外の行動で届く事は無かった。

 その原因を作ったのは髪を束ね、漆黒の羽織を着ている青年だった。

 自身の一撃によって発生した闇色のオーラによって氷の刃が人間に届く事は無かった。

 散らばった攻撃の中でも致命的な物は全て迎撃されている。散らばったはずの刃は周囲に大きな音をたて、完全に消え去っていた。

 

 

「残念だがここまでだ」

 

 アラガミは驚愕したままそれ以上の表情を変化させる事はなかった。

 防がれた攻撃の次に待っていたのはアラガミの命を消し去る死神の一撃。赤と黒のカラリーングをした湾曲の刃はそのままアラガミの首筋の部分に当てられていた。

 遠心力を活かした事によって戸惑いも無く、そのまま勢いに任せ刃を振るう。断末魔すら上げる事を許さないとばかりに頸は一瞬にして胴体から離れていた。

 

 

「何だか容赦ないよな」

 

「何だ?何か問題でもあったのか」

 

「そうじゃ無いけどさ、もっとこう……いや。まぁ早く終わったから良しとしよう」

 

 凄惨ともとれる内容にロミオの口元は僅かにヒクついていた。

 アラガミに同情する事は無いが、今回のリヴィの一撃はロミオの目の前で行われただけでなく、イェン・ツィーの表情は驚いたままで固定されていた。

 それはアラガミが意識する間に切断された証拠でもあり、またリヴィが放った斬撃は予想以上に鋭かった事を意味している。

 ロミオも普段から教導で鍛えているが、リヴィの様になる事はなかった。

 神機の特性上、あり得ない事は分かっている。しかし、そんな事も忘れる程の内容が故に無意識の内にロミオの口から感想が零れ落ちていた。

 

 

「しかし、リヴィの攻撃も以前に比べれば鋭くなったな」

 

「そうだな。少なくとも舞踊の動きを取り入れた事が良かったのかもしれない。自分でも少し驚いている」

 

 ジュリウスもまたリヴィの攻撃には素直に賞賛していた。

 話には聞いているが、まさかこれ程の効果を及ぼすとは思っていなかった。

 実際にジュリウスも初めに聞いた際には半信半疑だったが、結果を出した以上はその認識を改めてるよりなかった。

 コアを引き抜いた事によってオラクルがその体躯を維持できなくなる。風が吹けば散るかの様にイェン・ツィーは霧散していた。

 

 

《ジュリウスさん。連戦になるかと思いますが、周囲にアラガミの反応が複数あります。他のチームにも救援要請をしてありますが、油断はしないで下さい》

 

「了解した」

 

 イェン・ツィーを討伐したものの、ヒバリから届いた情報は周辺のアラガミに関する内容だった。

 既に二陣も漸く収束に向かいつつあるが、問題なのはその数だった。

 ここに来るまでに連戦を繰り返している。今回の感応種の討伐で一息つく事が出来るかと思った矢先の内容に溜息の一つも出そうになる。しかし、その後で聞いた内容に少しだけ気力を取り戻す事が出来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「現状はどうなってる?」

 

「はい。現時点での第二陣もあと僅かになりつつあります。ですが、観測されている偏食場パルスを考えるとブラッドの運用は慎重にならざるを得ません」

 

「そう………」

 

 アラガミとの戦いだけが戦場ではなかった。各チームに指令を出すアナグラのオペレーターチームもまた厳しい選択を迫れていた。

 既に第一陣が殲滅出来たまでは良かったが、問題なのは第二陣の存在だった。

 一陣の様に変異種程度であればそれなりに対処は可能となるが、二陣の様に感応種が点在するとなると、選択肢は事実上無に等しかった。

 

 リンクサポートシステムを使用する事は可能ではあるが、こうまで新種が出れば当然ながらその対策を優先させる必要が出てくる。

 中心地点で使用し、討伐したとしても、データに無いアラガミが出れば撤退するしかなかった。

 当然ながらリスクはあまりにも大きい。

 神機を放り出して退避出来るはずもなく、また神機が沈黙すれば、それはただの重りでしかない。態々行動を狭める様な状況になれば生存率が低下するのも道理だった。

 究極の二択。

 ゴッドイーターの命か神機か。どちらも限りある資源である為に天秤に乗せるには余りにも重すぎる。

 このままどうすれば良いのだろうか。サクヤもまた表情にこそ出さないが、内心はどうしたものなのかと悩んでいた。

 

 

「ヒバリ。二陣のアラガミなんだけど、どう?」

 

「現時点では偏食場パスルの観測はしたままですが、感応種はまだ見えていませんね」

 

「そう………」

 

「リンクサポートシステムは?」

 

「これまでの既存のデータから、カウンターとしての役割は可能です。ですが、二陣の場合は先程までと同じく感応種の対応は後手に回る可能性が高いです」

 

 ヒバリにの答えにサクヤは一つの決断を下そうとしていた。しかし、その決断が本当に正しいのかは誰にも分からない。

 こらまでの様に自身が戦場に立つのであれば気にもしないが、指示を出す立場となってからは常に試行錯誤の連続だった。

 自分の間違いで死者が出る。サクヤもまたその重圧と見えない部分で戦っていた。

 

 

 

 

 

「どうしたサクヤ。お前が迷えば現場は混乱する。仮に自信が無くとも胸だけは、張れ。自分に自信が生まれれば、それを見た人間は勝手に士気をあげるものだ」

 

「ツバキ教官!」

 

 迷えるサクヤを救うかの様に出た声は、まだ産休中だったツバキだった。

 これまでに何度かアナグラには来ていたが、今回の様に厳しい場面では初めてだった。

 その瞬間、サクヤの表情に安堵が見える。しかし、その表情は直ぐに変わっていた。

 

 

「この場はサクヤ。お前が指揮官としてやるんだ。どんな結果になろうとも、それを受け止めなければならない」

 

「ですが、こんな場面では……」

 

「良いか。お前に足りないのは絶対的な覚悟だ。実際に現場を知らない人間がやっているならば色々と問題も出るが、お前もこれまで第一部隊で活躍してきたんだ。方針さえ出せば後は臨機応変になってくれる。もっと仲間を信用するんだ」

 

「………そうですね。これまで経験した事を活かす様にやります」

 

 怒るでもなく、諭すかの様な言葉にサクヤもまたツバキが同じ道を通ってきた事を実感していた。

 以前に聞いたゲンの言葉。

 ツバキが看取った人間がどれ程の数に上るのか。そう考えたからなのか、先程までとは打って変わって、サクヤの表情には改めて覚悟と気概が宿っていた。

 

 

 

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