神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第116話 作戦

 ギルが弾き飛ばされた事によって、このアラガミがどれ程の力を秘めているのかは何となく理解出来ていた。

 実際にギルが放ったチャージグライドは赤黒い光を帯びていた。それは即ちブラッドアーツの証。しかし、それすらも物ともしないそれはこれまでに無い光景だった。

 通常のそれよりも格段に上の攻撃でさえも問題にしないレベル。

 ギルは勢いを殺す事も出来ず、地面に叩きつけられていた。

 幸運にも、周囲にはこのアラガミ以外の姿はまだ見えない。フランからの言葉にブラッドは改めてこのアラガミに集中していた。

 

 

「全員、無理はするな!」

 

 ジュリウスの言葉通り、誰もが無作為の攻撃をする事は無かった。

 見た限りではハンニバル種特有の体躯を持つからなのか、太い二本足の背後にはさらに太い尾が見える。

 どこか仮面を被っている様にも見えるが、偏食場パルスから出た感応種の言葉に嫌が応にも慎重さが求められていた。

 ジュリウスの警告を発端に、一定の距離を保ち続ける。

 これが従来の部隊であればそれなりに指示を出してから戦闘が開始されるが、ブラッドにその考えは無かった。

 

 

「狙い撃つ」

 

 シエルの呟きと同時に発射された銃弾が新種のアラガミの喉元に向けて放たれる。

 最初の顔面を狙う事も考えたが、このアラガミに関しては何となくその方が良いだろうと判断した結果だった。

 アーペルシーから放たれた一撃は小手調べ。これが着弾するとは考えていなかったからなのか、シエルの後に続くかの様にジュリウスもまたエグゼキューターの銃口をアラガミへと向けていた。

 一度だけ響く音の後に待っているのはアラガミの悲鳴のはず。誰もがそう考えていた。

 

 

 

 

 

「おいおい……マジかよ」

 

「油断は完全に危険だな」

 

「何だか厳しい戦いになりそうだよね」

 

 シエルの放った銃弾は即座にアラガミに弾かれていた。

 実際にスナイパーライフルの銃弾はそう簡単に弾く事は出来ない。

 少なくともこれまでの経験からすれば精々が回避されるか、そのまま着弾するかのどちらかだった。

 しかし、目の前に起こったのはまるで事前に知っていたかの様に右腕弾く姿。

 引鉄を引いた本人でもあるシエルもまた表情にこそ出ないが、内心は驚いていた。

 だからこそ、ロミオやリヴィの言葉だけでなくナナの無意識に出た言葉に真実味が増す。

 銃口を向けたジュリウスもまた、これからの作戦をどうするのかを改めて考えていた。

 

 元々ハンニバル種はこれまでのアラガミとは一線を異なるケースが多かった。

 初見で見た最初の種だけでなく、速度に特化した神速種など通常のアラガミとは異なった進化を遂げる事が格段に多い。

 その結果、これまでに幾度となく討伐されはしたものの、その戦いも楽観視出来た事は一度も無かった。

 接触禁忌種の指定は伊達ではない。そんな種の中でも異常進化を遂げたこのアラガミはこれまでの物とは完全に違っていた。

 全身を護るかの様に、まるで鎧を着こんだ様に体表はゴツゴツしている様にも見える。

 先程の銃弾を弾き返した事からも、その反応速度もまた尋常では無かった。

 図体に見合わない運動速度はこちらの目測を簡単に誤らせる。

 これまでギリギリの戦いを続けてきたブラッドにとっては最悪のアラガミだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで厳しいとは……な……」

 

 誰が呟いたかすらも分からない程に戦場は混迷の坩堝と化していた。

 実際に動くそれは獣ではなく人間に近い。これが単純に動くだけならまだしも、問題なのはその速度だった。

 格闘技を彷彿させるかの様に繰り出す攻撃はある意味では攻撃しやすく、また、ある意味では困難を浮かばせていた。

 これまでの様に遠距離攻撃を放つのであれば警戒もするが、今の所はそんな気配は微塵も無かった。

 事実、この戦場に於いては回避する事だけを考えれば十分すぎる程の場所がある。そんな中で目視出来る範囲だけの攻撃はブラッドにとってもそれ程問題になる事はなかった。

 

 しかし、その弊害もまた然り。素早く動くアラガミに対し、攻撃方法はある意味では限られていた。

 実際に繰り出す両手から放たれる攻撃は周囲の岩壁すらも容易く崩壊させる。

 壁だけでなく、地面にその拳が突き刺さる事によって大地は大きな陥没を作り出していた。

 

 中空の物であればそれ程問題になる事は無いが、大地の様に破壊するには困難な物であっても容易く変形させるのは、ブラッドの側からすれば脅威でしかない。

 これがまだ体力がある状態であればどうとでも出来るが、ここまで疲弊した状態では命の危険もまた大きくなっている。

 仮に回避ではなく防御を選択した場合、恐らくは盾ごと吹っ飛ばされるか、若しくは破壊されるかのどちらかだった。

 下手に懐に入っても、攻撃をする事によって怯ませる選択肢を取る事が出来ない。

 それは偏にブラッドの部隊そのものの火力が不足している事を意味していた。

 

 ブラッドのメンバーで純粋な攻撃力だけを挙げれば、一番に来るのはロミオかナナだった。神機とアラガミの相性もあるが、共に攻撃を怯ませる前提で考えた場合、それが最善だった。

 しかし、この2名に関してはそれぞれが神機特有の弱点も持っていた。

 ロミオに関しては攻撃の速度。幾ら攻撃力が高かったとしても、それが当たらなければ意味を成さない。

 当然ながら動きが早いアラガミとの相性は最悪だった。

 幾らロミオが弱点を技術でカバーしたとしても、その特性を完全に殺すまでには至らない。

 重い一撃の代償は多大なる隙。それを理解しているからこそ、ロミオはアラガミの懐に飛び込む事を躊躇している。

 一方のナナもまた攻撃の起点からの速度は早いが、その攻撃範囲はかなり限定されている。

 当然ながらロミオ以上に接近する必要があった。

 しかし、その間合はナナだけの話ではない。アラガミにもまた同じ事が言えていた。

 一撃離脱だけを考えるのは余りにもリスキーすぎる。その結果が今の状況を生んでいた。

 

 

「ここに北斗が居れば……」

 

「そんな無駄口を叩く暇があるなら、動きを止めるな」

 

 珍しく出たロミオの愚痴はギルによって止められていた。

 勿論ロミオも本心ではない。純粋に突撃する場合や、陽動をするのであれば北斗の持つ役割は大きかった。

 神機の組み合わせだけで考えると、ジュリウスにも同じ事が言える。しかし、攻撃と同時に防御も求められる近接戦闘に於いては、ブラッドの中では北斗が一番だった。

 

 

「シエル、毎回は難しいが、やってみる価値がありそうな事が一つだけある。フォローは可能か?」

 

「理論上は可能ですが、余り良策だとは思えません。ですが、このまま手を拱いているのも事実ですから」

 

 ジュリウスが閃いた策はある意味では奇策に近い性質を持っていた。

 足止めをするのではなく、多大な攻撃を持って意識をこちらから外す。その隙を狙って一気に攻勢をかける事だった。

 実際にアラガミ1体に対し、ゴッドイーター6人は過剰とも取れる。これまでの様に4人でのチームがある意味では一番効率が良かっただけだった。

 しかし、6人になった事によって4人が全力で攻めると同時に、2人はサブに回る。

 それを繰り返し息切れをしない様に間断なく攻撃し続けるものだった。

 

 

「となれば、重要なのは連携だな。神機の持つ攻撃範囲をある程度決めた方が良いかもしれんな」

 

「それはそうだけど、実際にはアラガミがどう動くかにもよるだろ?そこはどうするんだよ」

 

「じゃあ、最初だけ決めて、後は勢いと状況に応じるってのはどう?」

 

「それが無難な意見かもしれませんね。それに連携するのであれば広範囲に亘る攻撃にも注意する必要があります。特にあの種であれば尾を横薙ぎにするだけでもかなりの威力がありそうですから」

 

「だが、そんな事よりももっと重要な事がある………」

 

 全員で対策を取ったまでは良かったが、問題なのはそんな事では無かった。

 本来であれば厳しい戦いの最中でこうまでゆっくりと出来る時間など無い。それを可能としたのは偏に今回対峙したアラガミの特性だった。

 まるで新たな獲物を見つけたかの様にブラッドと対峙していたアラガミは、突如とし方向転換を図っていた。

 当初は何が起こったのを誰もが理解出来なかった。

 これまでのアラガミであれば一度交戦すればそのままどちらかの命が尽きるまで戦うか、それとも自身の命の延命の為に捕喰行動になるのがこれまでだった。

 しかし、このアラガミにその特性は一切通じない。事実ブラッドは攻めあぐねていた為に、致命的な一撃が伝わる事はなかった。

 そんな中での捕喰行動は警戒こそするも、その思考に理解が届かなかった。

 これが通常のアラガミであれば一気に攻め立てるが、実際には体力的な部分からと、戦術面の確認を兼ね僅かながらに様子を見ていた。

 

 

「そうですね。ですが、新種であれば可能性は高いかと」

 

「そうだな。だが油断は出来ない。このまま放置しても良いはずも無いんだ。まずは先程の作戦通りに実行。その後は各自の判断に任せる」

 

 シエルの言葉が全てだった。新種のアラガミが厳しい戦いになるのは偏にデータの無さだった。

 これまでにブラッドも新種の討伐をしている。

 しかし、それは感応種や神融種などのどちらかと言えば亜種や変異種に近い物。厳密に言えば今回のアラガミも大きな分類で分ければハンニバルの亜種とも考える事も出来る。攻撃特性は先程までの内容で把握出来たものの、やはりその種特有の性質までは図り切れなかった。

 当然ながら、このまま放置すればこれまで与えたダメージが回復する。そんな事もあってか、ジュリウスの発した言葉に従うかの様に全員が改めてアラガミへと意識を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フラン。新種のアラガミはどうなってる?」

 

「今の所は詳しい情報は何も……ですが、偏食場パルスが時折異常をきたしているのか、観測が出来ない場面があります」

 

「その原因は?」

 

「今の所はまだ何とも……ですが、時折ジャミングに似た様な物が計測されますので、その影響だと考えるのが妥当かと」

 

 フランの言葉にサクヤは少しだけ考えていた。

 今回の作戦に関してはこれまでの様にロビーではなく会議室で行われている。フランの隣を見れば、クレイドルもまた新種と交戦しているからなのか、ヒバリの手が止まる事は無かった。

 情報が上から流れる滝の様に次々と落ちてくる。通常の戦闘ではありえない程の情報が流れてくるのは、偏に討伐ではなく情報を引き出す為の物だった。

 

 蓄積されたデータは今後も生き続ける。その結果、見知らぬアラガミの場合は蓄積しながら討伐する為に膨大なデータを処理する必要があった。

 そんな作業をしながらではフランの手伝いが出来るはずがない。かと言って他のメンバーもまたそれぞれの戦場をオペレートしている為に、今はフランが専念するしかなかった。

 表情にこそ出ていないがサクヤもまた内心では色々な選択肢が浮かんでは消えていく。

 第一陣がクリア出来たからと言って、アラガミがここに来ない保証はどこにも無い。だからなのか、起死回生とまでは行かなくとも、それに近い一手を打つ事が出来なかった。

 

 

「そうね……大変だと思うけど、お願いね」

 

「はい………サクヤさん。それと、これなんですが」

 

 厳しい戦いを予測しながらも、僅かな異変にフランは気が付いていた。恐らくは余程細かく画面を見ていない限り分からない程の変化。フランもまた気が付いたのは偶然だった。

 ジャミングによって計測されたデータの数値が明らかに異なっている。本来であれば流す程度だが、フランは何故かそれが気になっていた。

 

 

「こんな変化ってするのかしら?」

 

「少なくとも私が知っている中ではこれ程になる事は無いと思います。可能性があるとすれば捕喰したアラガミを吸収する際に起きますが、それでも気になります」

 

 フランだけでなくサクヤの視界に映るのはブラッドが交戦しているアラガミのデータ。詳細までは分からなくとも、その反応の仕方が明らかに異常だった。

 通常であれば、捕喰行動に出てもこれ程オラクルの数値が上昇する事は無い。しかし、今示しているそれは明らかに上昇の幅が大きかった。

 新種特有の何かである事は間違いない。それが何なのかを確認する必要があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目視出来る部分では特段変化は無いですね」

 

《こちらで観測している数値が明らかにおかしいわ。詳しい事が分かればと思ったんだけど、変化は無いのよね?》

 

「はい。概ねその通りです」

 

当然のサクヤからの通信にシエルもまたアラガミを確認していた。数値の上昇値が異常であれば、当然ながらその原因があるはず。シエルもまたサクヤの思惑を理解した上で返事をしていた。目視で分かる情報はこれまで同様。しかし、回復の度合いが早い事が脅威である事は間違い無かった。

 

 

《こちらでも常に観測しながら指示を出すわ。でも、時折ジャミングがかかるみたいで情報が飛ぶかもしれない。対処はしてるけど、それに関しては御免なさい》

 

「いえ。それはこちらで対処しますので」

 

 オペレーターからの情報は戦闘中であればかなり重要な位置付けを示している。

 それは極東支部に限ったはなしではなく、他の支部でも同じだった。

 しかし、本当の意味での戦場では情報を頼りに動く事は無い。

 幾らある程度リアルタイムで分かるとしても、情報の収集と解析、そこから指示が出るとなれば、それなりに時間を必要としている。人間が間に介在する以上は仕方の無い事だった。

 しかし、それが戦場で同じ事が言えるかと言えばそうではない。だからこそ、アナグラからの情報は参考程度に留めていた。

 

 

「アナグラからは何が?」

 

「どうやら、あのアラガミの状態が分かりにくいらしいとの事です。少なくとも観測できる範囲の中では捕喰によるオラクルの上昇がこれまでに無い程の様で」

 

「シエルの『直覚』では分からないか?」

 

「すみません。私の力ではそこまでの変動は感じ取れません」

 

 未だ捕喰を続けるアラガミは既にこちらの事など最初から無視するかの様だった。

 実際の所は分からない。少なくとも、あのアラガミがこれまでの種とは一線を引いている事だけは間違いなかった。

 シエルの言葉の意味を察したからなのか、ジュリウスは再度これまでの動きを思い出している。

 捕喰中であればなおの事、こちらが考えている作戦の確立が上がる。今はそれ以上の事を考えない様にしていた。

 

 

 

 

 

「各自!油断するな!」

 

 捕喰しているアラガミの動きを確認しながら始まった交戦はジュリウスの放ったブラッドアーツで開幕を迎えていた。

 ゼロスタンスと呼ばれる独特の構えから発せられた赤黒い光は、無数の刃となってアラガミの背後を強襲していた。

 この作戦に於いて一番の問題点はこのジュリウスのブラッドアーツをどうやって直撃させるかだった。

 

 実際に予見された最大の問題点は、まさかの捕喰によって確実な物となりつつある。ここから出来る事は一つだけ。途切れることなく繰り出す攻撃の全てを只管アラガミに向ける事だった。

 赤黒い刃はアラガミの大腿部と背部に集中する。これまで全てを無視するかの様に捕喰していたアラガミは、再びブラッドに対し敵意を向けていた。

 

 

「行っくよ~」

 

 無数の刃にアラガミの動くは僅かに止まっていた。

 時間にして数秒程度。これが日常であればそれ程問題にならない時間ではあるが、戦闘中の場合はその限りでは無かった。

 止まった事によって生まれる隙は、現時点では致命的だった。

 ナナのコラップサーは既に炎を揺らめかせ、そのまま突進を開始する。

 ギルがチャージグライドで突進した時よりもアラガミの態勢は崩れていた。ナナが狙うのは右大腿。ジュリウスの放ったブラッドアーツがどこを狙ったのかをつぶさに確認した結果だった。

 通常以上の速度でアラガミとの距離を詰める。そこに待っていたのは無防備なそれだった。

 インパクトの瞬間に、これまでに無い程の衝撃が柄から感じる。事実上のクリティカルヒットによってアラガミからは僅かに呻き声が漏れていた。

 

 如何に強靭な肉体を持つラガミとは言え、その防御力は無限ではなかった。

 今回のブラッドが執った作戦は実に効果的だった。

 一点集中による意識の疎外と、隙を狙うのではなく作り出す点だった。

 ナナの一撃だけでなく、ブラッドアーツを放ったジュリウスもまた既に神機を変形させていた。

 夥しい程の銃弾は的だと言わんばかりに大腿に着弾する。見た目には然程変化は見られなかったが、動きは徐々に遅くなる。ここまでは思いの外、順調な戦闘が続いていた。

 

 

《アラガミ、結合崩壊です》

 

 耳朶に届くフランの声は全員が等しく聞いていた。

 ここまで上手く出来たのは、不意討ちから始まった一方的な攻撃だった。

 幾らゴッドイーターと言えど、常に全力で動き続けるのは困難でしかなかった。

 それ故に行ったのは4人と2人に分け、肉体的な負荷を出来る限り小さくする。

 小さな積み重ねがここに来て漸く形になろうとしていた。

 

 そんな中での結合崩壊はその意識を更に加速させる。

 出来上がった弱点を放置する選択肢は今のブラッドには微塵も無かった。

 神機での攻撃が届かなければ銃撃によって執拗に攻め立てる。そうなれば待っているのは二本足の生物特有の動きだった。

 崩壊した箇所を起点にダメージが蓄積され続ける。その限界に達したからなのか、アラガミの強靭な肉体は激しい音と衝撃と共にその体躯を地面へと沈めていた。

 未だ目には生物特有の意志のこもった残されている。

 千載一遇の好機を逃さんと、ブラッドは再び止めを刺すべく動いていた。

 

 

 

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