倒れたアラガミは反撃する事が出来ないからと、その場に居た全員が一気に勝負に出ていた。
各々が持つ神機が赤黒い光を帯びていく。少なくとも強固な鎧の様な体躯は確実に何らかの処理をする必要があった。
ここで緩ければ、待っているのは手痛い反撃。誰もが同じ事を考えていた。
倒される前に倒す。これまで培ってきたその経験がここでの行動を推し進める。
本来であればもう少し様子を見る必要があったが、今のこれが次にいつになるのかが分からないからこそ、誰もが渾身の一撃を与えていた。
全力行使とも言えるそれぞれの一撃は現時点で出来る最大の攻撃。一気に倒す事は出来なくても、この攻撃で少なからず多大なダメージを与える事が出来ると確証していた。
弱点となった右大腿部だけでなく、どこか神融種を思わせる仮面の様な顔面にそれぞれの攻撃が殺到していた。
「思ったよりも堅いぞ!」
「一気に決めようとするな!」
ロミオの持つヴェリアミーチは想像以上に食い込む事は無かった。表皮の部分だけであれば斬りつけるが、そこから先には進まない。実際に結合崩壊したはずの大腿部であれば、少なくともそれなりに刃が食い込むはずだった。
ロミオの状況を見たリヴィもまた全員に聞こえるかの様に声に出す。その言葉を聞いたからなのか、全力で行使しながらも、どこか様子を伺う様になっていた。
「こっちもだよ!」
「手が痺れる位だ」
ナナとギルの攻撃は大腿部ではなく顔面に向っていた。
少なくともナナの持つ攻撃である程度破壊が可能であればギルのヘリテージスでこじ開ける事が可能だと判断していた。しかし実際にその攻撃が届く事は無い。ナナの言葉通り、表面には多少の傷は入ったまでは良かったが、そこから先の攻撃は続かなかった。
幾らブラッドアーツと言えど、連続して出来る業は限られている。少なくともナナの持つブラッドアーツはそれが顕著だった。
一旦上空へと飛び、そこから重力の恩恵を受けながら放つそれは、少なくともブラッドの中でも上位の破壊力を持っている。にも拘わらず、その一撃が届かない事態は間違い無く厳しい戦いが待っているのと同じだった。
当然ながらギルもまたチャージグライドを放つも、その衝撃は柄を通してギル自身にも届く。かろうじて握っている事が出来たのは単なる偶然だった。
「一旦散開しろ!」
ジュリウスの言葉通り、アラガミの体躯はゆっくりと起きている。先程の攻撃が余程気に障ったからなのか、アラガミの無機質なはずの目には怒りが籠っている様だった。
ハンニバル種であれば広範囲に亘る攻撃を繰り出す可能性も否定出来ない。だからなのか、全員はジュリウスの言葉と同時にアラガミから距離を置いていた。
「ブラッド隊が交戦を開始しました」
アナグラでもブラッドが新種のアラガミと交戦した事を確認していた。大よその測定だけでは何とも言えないが、少なくとも一個体が持つオラクルの量からすればかなりの個体である事に間違いは無かった。
現場では無いものの、余りの膨大な数値にオペレートしているフランの手にもじっとりと汗が滲む。少なくともフランがこれまでに見たアラガミの個体の中でも群を抜く程の内包量だった。
「フランはブラッドだけに集中して。ヒバリはウララとテルオミのフォローもお願い!」
「はい!」
「了解しました」
これまでに見た事が無いと思える程のアラガミは、サクヤにとっても未経験に近い物だった。
これまでに何度もクレイドルとして闘った経験はあるが、実際に数値化した物を目にした事は無かった。仮に現地で同じ光景を見ているのであれば違ったのかもしれない。しかし、通常種ではなく感応種である以上は、これ以上の増援もまた不可能だった。
少なくとも、これまでに見たアラガミの測定値を大幅に超えているとなれば時間もかなりかかってくる。それを効率良くやる為には確固たる戦術が必要だった。
「サクヤ。お前も少しは落ち着け。お前まで焦れば、それが全部に伝わるぞ」
「ツバキ義姉さん!」
突如として聞こえた声にサクヤだけでなくヒバリもまたツバキの声がした事によってそちらを向いていた。
本来であればこの場にツバキが居るはずがない。だからこそ、突如として聞こえた声にヒバリもまた手が止まっていた。
「私の事はどうでも良い。ヒバリ、手が止まっているぞ。フラン、お前もだ。今はブラッドを支えるんだ」
「は、はい。すみません」
ツバキの言葉に改めて全員が大型ディスプレイへと視線が戻る。まさかの人物が来た事によってこの場は少しだけ落ち着きを取り戻していた。
「少し確認したいんだが、この数値は本当に単独個体のアラガミなのか?」
「はい。詳細までは観測しきれませんが、現在ブラッドと交戦した最初の時点からこうでした」
「そうか………」
フランからの説明にツバキは少しだけ思案顔になっていた。
ツバキとて数値だけで何かが分かっている訳では無い。これまでに幾度となく交戦した経験と、これまで指揮官としてやって来た経験から、何かしらでも判断出来ればと思ったからだった。
僅かでも減少していくのはブラッドが交戦している証。少なくともこれが本当の意味で正しいのかを判断する事は出来なかった。
「まるで複数のアラガミの集合体みたいだな」
「そう言えば、交戦するまでに幾つか不明瞭な事はありました。詳しくは分かりませんが、現時点では判断する材料がありませんでしたので」
ツバキの呟きの様な言葉にヒバリもまた思い出したかの様に説明をする。少なくとも今回の戦いに於いてはこれまでに無い何かがある事だけは間違い無かった。
「分かる範囲で良い。少し教えてくれないか?」
「はい。では最初からですが……」
ツバキの言葉にヒバリは今回の経緯の全てを話していた。
これまでに分かっている不思議な現象はどれもが解明されていない点だった。
違和感を感じながらもこれまで戦って来た状況を説明していく。そんな中、ツバキが気になったのは数値以上にアラガミが脆い点だった。
純粋なオペレーターや何も知らないゴッドイーターからすればそれ程違和感を感じる事は無かったのかもしれない。しかし、これまでにも何度もアラガミの大群を潰してきたツバキからすれば明らかに何かがあった様に思えていた。
アラガミは突如として進化する。これは半ば常識ではあったが、厳密には誰もが確実に理解している訳では無かった。
だからこそ、何かがあった事は間違い無いが、正解にはたどり着けなかった。
「これじゃあ、何時までたっても終わらないよ!」
ナナのボヤキに誰もが同じ事を考えていた。
攻撃は続けるが、その攻撃は本当に効いているのかと言われれば疑問しか湧かないからだった。
これまでに数度ダウンで倒れたまでは良かったが、元から鎧の様な体表に攻撃が直接届く事は無かった。
気が付けば時間もかなり経過している。決め手がない交戦はブラッドの疲弊した肉体を更に窮地へと追いやっていた。
「ナナ。幾ら言っても現状は変わらないぞ」
「そうだけどさ……」
ロミオの言葉にナナも言葉の意味を正しく理解していた。
実際に攻撃が通りにくいのはこれまでのアラガミとは違い、内包したオラクルの数値が異常である事に間違いは無かった。
本来であれば既に倒れているはずのアラガミは未だ健在。愚痴の一つも言いたくなるのは仕方ない事だった。
「ですが、最初に比べれば動きは鈍くはなっています。少なくとも我々の攻撃もまた無意味ではありませんので」
まるで同じ個所を狙うかの様に、シエルは銃口を胸の一部へと向けていた。
本来であればシエルの銃撃もまたアラガミを怯ませるだけの威力を持っている。しかし、今となってはその銃撃もまた、それ程効いていない様だった。
既に何度放ったかすら数えきれない銃弾はほぼ全てが同じ個所に着弾している。近距離まで近づけばそれがどんな状態なのかを確認する事がでいるが、銃撃を放ったと同時に移動している為に、現在がどんな状況なのかを判断する事は出来なかった。
散発でも攻撃をしながら回避を繰り返す。この場所が開けた所だからこそ可能な戦術だった。
「今はとにかく耐えるんだ。勝機はいずれ訪れる。集中を切らすな」
既にアラガミの両方の大腿は結合崩壊を起こしたからなのか、動きは当初に比べれば鈍くはなっている。しかし、それが直ぐに討伐への道筋となるのかと言われれば否としか言えなかった。
その原因はアナグラから送られるアラガミのオラクルの数値。目視では一体だけだが、その量は複数のアラガミと戦っている様だった。
「やりました」
無限とも取れる程のオラクルを秘めたアラガミと言えど限界は来る。それは当然の出来事だった。
これまでに執拗に同じ個所にシエルが放った銃弾はついに結合崩壊を発生させていた。
寸分違わない銃撃はある意味では賞賛に値するが、今の状況では賞賛するよりも先に誰もが一気に攻勢に出ていた。
強固な鎧の様な部分が砕けた先にあったのは、脈動するかの様に蠢く肉の部分。これまでの様に大腿とは明らかに違ったそれは、誰の目から見ても致命的な物。倒れる様な事は無いがそ、これまでの様に堅いイメージは無かった。
「ここは任せろ!」
ギルは直ぐにチャージグライドの態勢に入っていた。これまでの鬱憤を晴らすかの様に通常以上に赤黒い光が荒々しくなっている。既にヘリテージスの先端もまた、僅かに開いた部分をこじ開けようと疾駆するのを応援するかの様に距離を詰めていた。
徐々に詰まる距離。既に当初の様な事にはならないと判断したからなのか、そこから先の行動に一切の澱みは無かった。
通常の速度以上に疾る攻撃はシエルが作ったその先に向いていた。少なくとも今のブラッドの神機の特性を考えればこじ開ける事が可能なのはギルの持つ神機だけ。
他のメンバーもまたギルの攻撃を予測するかの様に自然と散開していた。
「このままくたばれ!」
アラガミの肉体の部分にヘリテージスの先端がついに喰らい付いていた。
当初の様に堅い手ごたえは無いが、今感じるのは異常なほどに弾力性に富んだ手応えだった。
護るべき物など無いはずにも拘わらず、激しい抵抗を感じ取る。ギルもまたここで止まればどうなるのかを予測したからなのか、まだ勢いを残ったそれを更に進化させていた。
単純に突き刺さったそれをねじ切るかの様に手首を返して更に奥へと突き刺していく。
これまでに無い手応え。少なくともギルの口元は歓喜に歪んでいた。
「今だ!」
ジュリウスの言葉に誰もが突撃するかの様に疾駆していた。
ギルの意地がアラガミを倒す。当初と違うのは破壊された箇所から吹き出る赤が原因だった。
深く突き刺したと思った瞬間、ギルもまた離脱するかの様にヘリテージスを一気に引き抜く。破壊された胸の部分が吹き出るそれは明らかに致命的な一撃。
これまでとは違い、アラガミは前のめりではなく、勢いそのままに仰向けに倒れていた。
《そのアラガミを中心に大量のオラクルが集まっています!速やかに止めて下さい!》
何時もとは違うフランの声に誰もが焦りを持っていた。
仰向けに倒れたまでは良かったが、問題はそこからだった。
これまで対峙したアラガミ以外に他の反応は何一つ無かった。当然ながらブラッドもまたこれがどれ程の勝機なのかを理解した上で行動を起こしていた。
出来る事なら止めを。誰もがそう考えていた矢先だった。
突如として一体のシユウが邪魔をするかの様に襲いかかる。まるで倒れたアラガミの時間稼ぎをするかの様に幾度となくエネルギー弾を放っていた。
本来であれば人数が超過となっている為に、部隊を分ければ良いだけの話。しかし、これまでの厳しい戦いから、完全に冷静になれるだけの判断力は失われていた。
ここで倒れたアラガミを倒すのと、新たに来たシユウ。優先順位は自ずと決まっていた。
これが開幕直後であればシユウを選んだのかもしれない。しかし、今はどちらの方が早いのかは考えるまでも無かった。
無駄な時間を過ごす必要は何処にも無い。誰もがそう判断した瞬間だった。
まるで空中に浮くかの様に先程まで横たわったアラガミが立ち上がる。折角の勝機を失った。誰もがそう感じ取った瞬間だった。
「何だよ!あれ!」
先程までこちらに向けていた本能が突如として襲い掛かったシユウへと向いていた。
これまでに何度も見た光景だった為に、誰もが驚く事は無いはずだった。ロミオの叫びが全員の心の声を代弁する。舞い降りたシユウを捕喰する事によって大腿部の結合崩壊した場所がゆっくりと元に戻り出した瞬間だった。
これまでに無い程の喪失感を誰もが感じ取る。原因不明の出来事は直ぐに現実へと戻していた。
《あのアラガミは通常以上にオラクルの吸収が早い様です。短時間で回復しているのはその影響かと》
「このままだと、完全に回復します!」
フランの声と同時に飛んだシエルの言葉に、誰もがまさかと感じていた。
これまでであればそれ程早く回復した話は聞いた事は無かった。しかし、目の前のアラガミは崩壊した箇所が時を巻き戻したかの様に修復されている。
しかし、シエルの『直覚』もまた同じだったからなのか、その言葉に疑う余地は無かった。
オラクルの吸収。間違い無くこのアラガミは周囲にあるオラクル細胞を無差別に吸収していた。
当然ながらゴッドイーターも例外ではない。これまでに体験した事が無い現象に誰もが理解に追い付かなかった。
《お前ら!死にたくなければ直ぐに動け!このままだと元の木阿弥だ》
呆然としたブラッドを立ち直らせたのはツバキの怒声だった。
叱咤と言うには余りにも荒々しい。しかし、その言葉によってブラッドは再度戦意を高めていた。
これまでに無いパターンの動きは確実に動揺を与えたままだった。
ツバキの叱咤によって体裁は保たれているが、それでも目の前で起こっている現状は信じたく無い物だった。
致命的な一撃を与えたまでは良かったが、これまでの努力を水泡に帰すかの如き状況は、確実にブラッド全員の心に多大な負担を残している。
これが通常のミッションであれば一旦は退却した後に、再度戦場に赴く事も出来たが、今の状況では容認出来る物ではなかった。
撤退をした瞬間、待っているのは周囲への影響。感応種特有の能力で、そのままアナグラに行けば、今の防衛では護る事すら出来ないのは明白だった。
だからこそ、ここで踏ん張らなければどうしようもない。口にこそ出さないが、誰もがそう考えていた。
「何だ、今の反応は…」
誰とも取れない言葉はそのまま事実だけを表してた。
手の出しようがない程にオラクルを吸収していたアラガミは突如としてその動きを止めていた。
本来であればギルが広げた弱点を重点的に攻撃するのが望ましいが、実際にはその部分への攻撃は不可能だった。
右腕をその箇所に動かすことによって弱点の箇所を護ると同時に、周囲のオラクルを一気に吸引する。本能がなせる業なのか、確実に攻めあぐねていた。
止まる気配が何処にもない。一からのやり直しかと思われた瞬間だった。
ある意味では奇襲に近い攻撃だったからなのか、アラガミの顔の傍にある角の部分に咬刃展開したリヴィのサーラゲイトが直撃していた。
見た目にはそれ程の変化は無いが、明らかに何かしらの動きがあった。
これまでとは違う行動に、誰もがその意味を理解する。そこから先の攻撃の組み立ては一瞬だった。
「威力よりも正確性を重視しろ!」
「再度動きを止めるぞ!」
一度見た勝機はブラッドの士気を瞬時に高めていた。
結末が見えない戦いよりも、実際に見えるそれは明らかに分かり易い。これまで苦戦をしながらも戦い続けた経験は伊達では無かった。
動きを止めるべく復活した大腿部を再度破壊する。既にこれまでの鬱憤を晴らすかの様な攻撃は、色々な意味で脅威となっていた。
オラクルを吸収された事で多少の動きは復活しているが、既にその動きは初見ではない。
大よそでも動きのパターンが見えたそれは、確実に防ぎ切る事でほぼ全ての攻撃を遮断していた。
ナナの放ったブーストインパクトは全ての衝撃をそのまま目の前にある大腿部に浸透させる。表面上は回復していても、深部まではオラクルが届いていなかった。
正面からではなく側面からの攻撃にアラガミは体躯をよろめかせる。追撃で来たジュリウスのブラッドアーツによって地面に沈める事に成功していた。
「ロミオ!」
「任せろ!」
ジュリウスの声にロミオもまたヴェリアミーチを上段の構えで待ち構える。
既にチャージが完了した闇色の刃はそのままアラガミの顔の隣にある角へと向けられていた。
衝撃と共にアラガミの悲鳴が周囲に響く。僅かに跳ね上がった頸の隙間に待っていたのは咬刃展開したサーゲライトだった。
地面と頸の隙間から一気に湾曲した刃が跳ね上がる。本来であれば弾かれると思った刃はそのまま喉元に深く食い込んでいた。
リヴィもまた空中で身を捩る事によって遠心力を活かした斬撃がそのまま頸を刎ね飛ばす。
断末魔を上げる事無く勢いで頸だけが転げ落ちる。先程まで膨大な生気を孕んだ目は既に光を失っていた。
《対象アラガミのオラクル反応は消失しました。それと、今回のアラガミに関しては確実にコアと討伐出来る部位の回収をお願いします》
「了解しました。それと、クレイドルの方はどうなってますか?」
《クレイドルの方も現在は新種と交戦中です。ですが、それも間もなく終わるかと思われます。既に回収の為のヘリは手配してあります。皆さん、お疲れさまでした》
フランの言葉にシエルも全ての状況を完全に把握していた。
これが完了していなければ、帰投用のヘリがここに来る事は無い。しかし、事実上の戦闘完了の言葉にシエルはそれ以上何も言う事は無かった。
「了解しました。では詳細は帰投してから報告させて頂きますので」
耳朶に届く声を聞きながらシエルは改めて周囲の状況を伺っていた。
既にアラガミとは幾度となく対峙してきたが、今回に限ってはその異常な能力に周囲は跡形も無い景色が広がっていた。
コアを抜き取った事によって気が付けばナナやロミオは地面にへたる様に座っている。この戦いが先程まで対峙したアラガミ以外の戦闘も響いたからなのか、漸くここで終わった実感を感じていたとっていた。
「しかし、今回のアラガミは洒落にならなかったよな」
「そうだな。まさか、あれ程強引にオラクルを吸収となれば、俺達もうかうかしてられないな」
ギルの言葉には実感がこもっていた。少なくともアラガミが捕喰欲求に逆らう事なく動くのはこれまで通りだが、大気中から強引に吸収したからなのか、ブラッドもまたその影響を受けていた。
強引に吸い取られた事によって、僅かに攻撃の手が鈍る。それと同時に身体能力もまた低下していた。
これまでの業だけであれば被害を拡大したかもしれないが、その甘さも今回に限ってだけ言えば、その限りでは無かった。
連戦が続いた事によって、自身の肉体が疲労を極限にまで効率化させたからなのか、無駄が無くなった事によって斬撃そのものに大差は無かった。
それが良い方向に転んだだけ。誰もが完全なる実力だとは思っていなかった。
改めてギルは自身の手を開いたり、閉じたりして確認している。今後の課題はまだまだだと一人考えていた。
「そう言えば、そろそろ日が沈みそうだよね。そう言えば、サツマイモとか、大丈夫かな」
「きっと残りは収穫してくれてますよ。それならアナグラに確認してみてはどうですか?」
「そうだよね。早速帰ったらラウンジに行かなくちゃ」
ナナの言葉にシエルも思い出したかの様にしていた。
これまでも聖域で収穫した物はアナグラへと運ばれている。今日だけに限れば、まだかもしれない。実際に戦場はここだけではない。
第一陣はアナグラから近かったが、この二陣は明らかに距離がある。移動だけでもかなりの時間を必要としているのは間違いない。
だからなのか、ナナにはああ言ったものの、実際には届いていないのは間違い無かった。
「折角だから、こんな日はスキヤキとか食べたいよな。あれ以来食べてないんだよ」
「え、スキヤキって何?」
「あれ?ナナは食べた事無かったか?」
「そう言うロミオ先輩はどこで食べたのかな~」
何気に呟いた言葉はナナの耳にしっかりと届いていた。それと同時に自身の迂闊さを呪う。
今の反応は明らかに食べた事が無い物だった。
アラガミの戦闘と同等の圧力がロミオを襲う。実際に食べたのは屋敷だった事を失念していた。
「そりゃあ……屋敷しか無いだろ」
「へ~そうなんだ。さぞ美味しかったんだよね」
「ああ。俺、今まで食べた事無かったからな。あ、でもあの時はリンドウさんも居たぞ」
「リンドウさんは良いの!今度、ロミオ先輩に奢って貰わないと」
「お前達、そろそろそれ位にしたらどうだ?ヘリが到着するぞ」
リヴィの言葉に何時もの光景が戻ったのか、ロミオとナナの言い合いはそのまま終了してた。
今回の戦闘は厳しい物ではあったが、やはりブラッドは北斗を中心に来たんだとジュリウスは改めて考えていた。
指示を飛ばしたのは何時ぶりだったのか。そんな事を考えながら帰投のヘリを待っていた。