神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第133話 人によっては

 どちらかと言えば、普段は人の数が少ない場所に居る事が多いからなのか、偶にはと足を運んだ外部居住区は喧噪と言う言葉が随分と似あう様に感じていた。

 既に幾つものサテライトを建設した為に、以前の様などこか雑多な感じは無く、アナグラから外部の門までは一本の大きな通りとなっていた。

 

 実際に出動する際にはヘリで動く事が多い為に、この道路をゆっくりと見る事は余り無い。これが第二、第三部隊であれば周囲の警戒の為に使用するのかもしれない。自分が極東支部に来てから随分と時間が経った様にも感じる程に、相応の時間が流れている事が確認出来ていた。

 

 

「あれ、珍しいね。今日は旦那と一緒じゃないのか?」

 

「少しだけ時間があったんで、偶にはと思って」

 

「そうかい。旦那も最近はここに顔を出さないからね。偶には寄ってくれって頼むよ」

 

「そう言っておきますね」

 

 顔見知りの男性からの声にアリサもまた気軽に返事をしていた。

 実際にここまで出来たのは、偏にクレイドルとしての活動の結果。人口減少を少しでも食い止める事が出来ればと走り続けた結果だった。

 

 自分が来た当初は色々な問題を孕んでいた。

 アラガミからの脅威に怯えながら生活を続けるのはかなりのストレスが溜まる。そうなれば人は簡単に精神を病んでいた。

 自分もまた当時の事を考えれば、その一人だったのかもしれない。しかし、今となってはそれもまた良い思い出なのかと考えていた。

 

 元々アリサはここに来る予定は全く無かった。偶然ミッションの時間が大幅にずれたのと同時に、エイジもまたこの後少しだけアナグラに戻ってくると聞いていた為に、何かを作ろうかと考えた末の行動。ラウンジに行けば良いのではないかと思う事もあったが、折角だから自分の手で何かを作ろうかと足を運んでいた。

 

 

「毎度有り。相変わらずの目利きだね」

 

「いえ。エイジに随分と鍛えられましたから」

 

「旦那は毎回良い出物だけ持って行くからね。折角だから、これもおまけしておくよ」

 

 元々それ程買うつもりが無かった為に、アリサの持っている袋は既にこれ以上は入らない程になっていた。

 元々購入した物以上のおまけの様にも感じるが、店主もまたここでの生活が長いからなのか、アリサの存在と言うものをよく理解していた。

 

 仮に立ち話をしながらでも、良い物を購入すれば人の目はその店に集中する。実際に広報誌でもエイジだけでなく、アリサもまた、手料理の載せた事があった。

 以前のアリサを知っている者からすれば随分とチャレンジした企画だとと考えるが、一般の目はそんな事情は何も知らない。自分達が知る中ではアリサは色々な意味での良い嫁と言う認識だった。

 だからこそ、立ち寄れば買物をしながらも話し込む。只でさえクレイドルの活動は極東支部に軸は置くが、活動そのものは完全に外の区域。厳しい戦いを強いられながらも、人類救済の大きな問題に挑む。それもまた広報による情報開示だった。

 フェンリルと言う組織の中でもとりわけクレイドルの組織はある意味では名が知られ、そのメンバーが誰なのかもよく知られている。それがどれ程なのかは、本人達は案外とよく知らない事が殆どだった。

 

 

「ありがとうございます。でも、良いんですか?」

 

「良いって事よ。それにアリサちゃんが居れば宣伝の代わりにもなるからさ」

 

「……詳しくは知りませんが、それで良いなら私も構いませんが」

 

「良い女は気にしない」

 

 アリサも訝しく思いはしたが、実際に損をした訳では無い。勿論、こんな場所で何かをする事も出来ないのであれば、店主の好意は素直に受け止めた方が良いに決まっている。一先ずはそう考えたからなのか、それ以上の追及はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれって………」

 

 不意に目に飛び込んで来たのは一軒の店舗。以前とは違い、クレドルの制服姿が多かったからなのか、今日のアリサは珍しく私服だった。

 普段であれば制服姿で出歩くが、今日は敢えて私服で行動していた。

 実際にクレイドルの制服はかなり目立つ。フェンリルの制服とは違い、純白に身を包むそれはクレイドルだけが着る物。

 極東支部の中でもクレイドルの制服を着ている人間はそこそこ居るが、それはあくまでの他の支部からの出向者だけ。研修に来ている為に、案外と外に出る概念は早々無かった。

 以前に歩いた際には人がかなり集まった記憶があったからこそ、目立たない様な格好をしていたに過ぎなかった。

 その結果、ゆっくりと周囲を見るだけの時間が生まれる。だからこそ、アリサの目に映るそれに、珍しく目を奪われていた。

 

 

(あれって………でも)

 

 店先にあったディスプレイにあったのは自分達が普段から来ている制服に限りなく似た物。少なくとも遠目から見るそれは、明らかにクレイドルの制服だった。

 少なくともアリサの記憶の中では一般販売をしたなんて話は聞いた記憶が無い。だからこそ、そこに飾られたそれがどんな意味を持つのかが疑問だった。

 

 

「何か気になる物がございましたか?」

 

「いえ。ちょっとだけ立ち寄っただけなので。因みに、あの服は?」

 

「あれは一点物です。本来であれば色々と問題の多い要素はありますが、店の技術力の一環です。これまでにも結構なお客様が関心を持たれてますので」

 

 アリサだと気が付かなかったからなのか、店員は何気なく話をしていた。

 実際によく見れば、クレイドルの制服とはデザインが若干異なる。元々ゴッドイーターが着る服はただの生地で出来ている訳では無い。

 通常の生地以外にもオラクル由来の物質が使われている為に、従来の服に比べれば強度は比べるまでも無かった。

 それと同時に、仮に同じ物があった場合それを利用した悪事を働かれる方が何かと大きな問題になる可能性があった。

 外部居住区は極東支部には限りなく近い。当然ながらここにもゴッドイーターの肉親が済んでいる為に、基本的には珍しい物ではない。

 しかし、これが部隊となれば話は変わる。

 周囲に見るのはその殆どが防衛班に所属する者ばかりで、第1部隊やクレイドルを見る機会はそう多くない。辛うじてコウタが来る程度だが、それでも見る機会は多くは無かった。

 以前にもそんな話を聞いた記憶はあったが、実際にアリサには縁遠い話。ラウンジで少しだけ聞いた程度だった。

 勿論、この場で確認しても問題はない。しかし、今のアリサは完全にオフではない為に、それ程時間にゆとりがある訳では無かった。

 そうなれば店員を話を何となく聞く程度に留める。相槌こそ打つが、実際にはどうした物かと考えていた。

 

 

「そうだったんですか?これってクレイドルの制服そっくりですが……」

 

「よく言われます。ですが、実際には違いますよ。特にフェンリルの制服に関しては結構厳しい規制がかかっていますから」

 

「そうでしたか」

 

 取り止めの無い事を言いながらもアリサは店内を少しだけ見渡していた。デザインに優れた服が幾つも置かれている。中にはこれまでに見た記憶があった物もチラホラ見かけていた。

 

 

「ああ、あの辺りは一時期結構流行った物ですね。やはりゴッドイーターの方々は基本的に私服が多いですから、我々も参考にさせてもらっています」

 

「はあ」

 

 アリサの視線の先にあったのは今ではすっかり大人しくなったソーマが以前の来ていた物。今ではクレイドルの制服姿に慣れたからなのか、ある意味では懐かしさを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それって、中央の通りの店の事だよね。私も見た事があるよ。結構色々なジャンルの商品を扱ってるって話だけど」

 

「そんなに有名なんですか?」

 

「縫製に関してはそうだね。ヒバリも結構気にしていたから」

 

 アナグラに戻ると、ロビーには休憩の為に来ていたリッカの姿があった。

 ここ最近はアリサもアナグラに居る事が少ないからなのか、随分と久しぶりに思える。以前ならここで色々と話をしていたが、クレイドルの活動が増えるにつれ、今では話をする機会は随分と珍しい物となっていた。

 そんな中で話題に出たのは、先程までアリサが見ていた制服の話。やはり有名なのか、リッカだけでなくヒバリもまたその店の事を知っていた。

 

 

「でも、大丈夫なんですか?ほら色々と弥生さん辺りが………」

 

 アリサが心配するのはその点だった。店員も行った様に幾らレプリカとは言え、制服をそのまま販売する事は原則禁止となっている。単純なファッションとして見るのであれば、良い意味での宣伝にはあるかもしれない。しかし、その逆のケースもあり得る為に、少しだけ心配になっていた。

 

 

「弥生さんも知ってるよ。店とは一応交渉したみたいだけどね。基本的には客寄せの一点物扱いだよ。それと、制服以外の物に関しては支部としては特段問題無いらしいよ」

 

「そうなんですか?」

 

「ほら、ゴッドイーターに支給する服は基本的にはアラガミ由来の素材を使うんだけど、基本は既存の服だからね。アリサの以前着てたのだってそうでしょ」

 

「確かにそうですね。元々はロシアのブランドですから」

 

 リッカの言葉にアリサもまた記憶を呼び起こしていた。

 まだ極東支部に配属された頃は、フェンリルの制服でない限りは自前の服を着ていた。

 しかし、何時の頃からか、通常の服と同じデザインの物が発注可能となっていた。一番の要因はミッションは基本的には天候に問わず発注される為に、通常の服では寿命が短い事だった。

 常に好天に恵まれる訳ではない。雨天時もある為に、服は常に多大なストレスにされされていた。

 それだけではない。アラガミからの攻撃を受ける状況では布は事実上防御力はおろか、耐久性も無に等しい。幾ら高給を貰えるゴッドイーターとしても相応の出費は何かと問題になる事が多かった。

 それならば制服を着れば良いのではとの意見はあったものの、センスの問題から制服を着るのは圧倒的少数だった。だからこそ、アラガミ由来の服に変えた事によって防御だけでなく、耐久性能も大幅に向上している。

 その結果として、今ではゴッドイーターの殆どは当たり前の様にノルン経由で発注していた。

 当然、既存のブランドもまたそれに参入する。素材では完全に手も足もでないが、デザインの面に関しての報酬がある為に、今では相応の収益を出している背景があった。

 

 

「で、実際に広報や現場を見る機会が増えたから、ブランドの服に関してはフェンリルとしても特段何かを言う事はしないみたいだよ」

 

 ロビーに設置されたソファは既にアリサとリッカに占拠されていた。

 久しぶりの時間にお互いの会話が止まる事は無い。元々休憩スペースだった為に誰が利用しようと構わないが、今の状況で横から入るにはそれなりに気を使う事になる。だからなのか、思わず突っ込んだ話に突入していた。

 

 

「でも、制服は基本的にはそれ程種類は多く無いはずです。どうしてあのデザイン何でしょうか」

 

 アリサが疑問に思ったのは無理も無かった。実際にクレイドルの制服の型はそう多くない。支給品が故に一度配布された物を改造するのは大変だが、事前にデザインの変更は可能となっている。

 当然ながら世間が周知しているのはアリサが来ている制服のはずだった。

 しかし、あのディスプレイにあったのはアリサが着るノースリーブ型ではなく、通常のジャケット型。これまでに広報に出た事があったのはアリサだけだった為に、どうしてそれなのかが疑問だった。

 

 

「ねえ……アリサ。まさかとは思うだけど、ひょっとして分かってない?」

 

「そうですね。疑問はありますけど…………」

 

 アリサの疑問に答えたのはリッカだった。理由そのものがアリサには理解出来ない。しかし、リッカにはその意味はハッキリと理解していた。

 それと同時にアリサを見る目が何となくジトッと湿り気を帯びている。これだけの視線を向けているにも拘わらず、アリサはまだ気が付かなかった。

 

 

「これよ、これ」

 

「ちょっ……何するんですか!」

 

「いやいや。これを機に少し身をもって知ってもらおうかと思って…ね」

 

 リッカの動きはアリサが感知するよりも早かった。

 通常のアラガミの戦闘であれば気が付くアリサも、ここでのリッカの動きに反応していない。今の状態を正しくみれば、リッカの両手はアリサの豊かな双丘を揉みし出していた。

 何時もの制服では無く、体のラインが分かりやすい服を来ているが故に、それを邪魔する様な障害物は何一つない。

 形の良いそれが常にリッカの手によって常に姿を変えている。突然の光景にロビー付近にいた全員の視線は吸い込まれる様に2人を見ていた。

 

 

「ちょっと……あ、止めて………あん」

 

「こんなに激しく主張してるのにどうして気が付かないかな。む、前よりも弾力が………」

 

「そんなの…知りません………」

 

 アリサの声に少しづつ艶が出始める。誰もがその光景から視線を外す事は出来なかった。

 まさかの行動に誰もが動けない。普段はキリリとしているアリサを知っているからなのか、頬が朱に染まる表情に誰もが惚けていた。

 

 

 

 

 

「痛ったい」

 

「それ位にして下さい。皆見てますよ」

 

 ペチリと音をたてたのはリッカの頭だった。振り向けばそこには少しだけ起こった表情の浮かべているヒバリの姿。最初はただじゃれていただけだったが、どうにもこうにも止まらなくなっていた。

 気が付けばアリサの息は少しだけ荒くなっている。そこで漸くやり過ぎた事を自覚していた。

 

 

「いや~思ったより触り心地よかったんだよね」

 

「そんなのはどうでも良いですから。それにこんな所でしないで下さい。これから出る人も居るんですよ」

 

 リッカに言いながらもヒバリは周囲を見渡してた。突然の出来事に誰もが視線を彷徨わせている。気が付けば周囲の人影もまたまばらになりつつあった。

 

 

「それに、そろそろエイジさんも戻ってきますから。怒られても知りませんよ」

 

「あ、もうそんな時間なんだ。じゃあ、私もそろそろ戻らなきゃ」

 

 エイジの名前にリッカもまた撤退していた。

 これ以上は危険だと本能が反応した結果なのかもしれない。その名前を聞いたからなのか、周囲もまた蜘蛛の子を散らすかの様に去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは仕方ないと思いますよ」

 

「私はそんなつもりは無いんですけど」

 

 マルグリットの言葉にアリサは意外だと言いたげな表情を浮かべていた。

 予定されたミッションは元々時間がそれ程かからない物。そうなれば自由になる時間もまた相応だった。

 ラウンジでマルグリットを見かけたからなのか、アリサは改めて今日の出来事を話していた。

 身内に近いメンバーの中ではマルグリットは標準的な意見を出してくれるはず。そんな思いからの結果となっていた。

 リッカの行為はともかく、会話の中身の意味が分からない。出されたジンジャーエールを飲みながらも、アリサは迷う事無くその疑問をぶつけていた。

 

 

「でも、スタイルによって服装の見え方は変わります。それに基本がアリサさんだとしたら大半の人は怖気づくんじゃないですか?」

 

 マルグリットもまた視線がアリサの双丘へと向いていた。

 着物であればそれ程気にならないが、洋服となれば話は変わる。平面ではなく立体裁断だからこそ体のラインはハッキリと出ていた。

 当然ながらアリサと比べるつもりはなくても、誰もがそれを一度イメージすれば嫌が応にも意識する。アリサ自身はそんな事を考えていなくても、周囲に対する影響はあまりにも大きすぎていた。

 

 

「大きくても良い事なんてないですよ」

 

「……それはあまり言わない方が」

 

 

 それ以上は危険だと察知したからなのか、マルグリットはそれ以上は何も言わなかった。

 マルグリットとてそれほど大きい訳では無い。しかし、整ったボディラインはある意味では羨望の的だった。

 

 ゴッドイーターの女性陣は意外と薄着になる傾向が多い。

 機能性なのかファッション性なのか。言い出せばキリがない程。しかし、その殆どはアリサと一緒になれば服装を蹴る事が多かった。

 殆どがクレイドルでの活動になるアリサは気が付かない。何時も同じ様な格好だと言う認識しかないままだった。

 

 事実を言えば確実に何かが起こるのは間違いない。実際にアリサの制服姿に関しては、クレイドルの中枢に居る人間は既に見慣れたからなのか、誰もがそれ程気にした事は無い。がしかし、それ以外となれば話は別だった。

 完全に隠そうとすれば制服のサイズは数段上にするしかない。仮にそうなれば、今度は全体的に大きくなるために着回しはおろか、活動そのものにも影響が出やすくなる。

 ゴッドイーターの仕事の中でも、とりわけクレイドルは何時でも戦闘に入る可能性が高い。そうなれば、その都度着替える程の時間は許されていなかった。

 

 当時、どんな状況で頼んだのかをマルグリットは知らない。だからなのか、この話を長く続けるのは危険だと判断していた。

 アリサの顔を見る限り、未だに理解しているのかすら危うい表情を浮かべている。恐らくは自分のスタイルよりも服のデザインの事を考えているからだった。

 だとすれば打開策はただ一つ。旦那に丸投げするのが一番だった。

 誰よりも一番理解している人間であれば話も納得するはず。だからなのか、マルグリットはアリサにそう伝えるよりなかった。

 

 

「やっぱりそこはエイジさんに確認した方が良いと思いますよ」

 

「そうですね。一度確認してみます」

 

「やっぱり身内の方の意見の方が重要ですから」

 

 その言葉にアリサもまた納得していた。

 周囲の事よりも自分の事を見てくれる人間が一番なのは今更。だからなのか、アリサは徐にエイジの下へと動き出していた。

 

 

 

 

 

「おい、見たかあれ」

 

「ああ。俺、明日から何を楽しみにすれば良いんだ」

 

「もう、以前には戻らないのかな………」

 

 暫くはアリサの制服姿を見る機会は格段に減少していた。決して隠すつもりではなく、何時もとは違う服で様子を見る様に進言された結果だった。これによって暫くの間、アナグラの士気は何となく低下した日が続いていた。

 

 

 

 

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