神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第140話 秋の味覚と食欲

 普段であれば来るはずが無い場所に、黒い腕輪した男女が視線を動かしながら周囲の様子を伺っていた。

 既に帰投の時間のはずが、ヘリはまだ来ていない。コンバットログを見れば既に討伐からはそれなりの時間が経過していた。

 本来であればあり得ない行為。だが、その行為そのものが許可されている為に、咎める様な通信が来る事は無かった。

 

 

「まだ見つからない?」

 

「そろそろだろうな。上空から見た感じだと、この辺りのはずだが」

 

「結構遠い……よね」

 

 何となく詰問している様な口調ではあったが、その言葉に返事は無かった。事実、周辺を見ているのはこの二人だけではない。メンバーとして一緒に行動している人間がまだ他にもいたからだった。

 先頭を歩くのは極東の中でも珍しい黒の制服を着た男。その後ろに歩くのは動物の耳を模した様な特徴的な髪型の少女だった。

 少し遅れて赤いケープを付けた少女と黒い羽織の様な物を羽織る金髪の男。このメンバーが山の中を散策するかの様に歩いていた。

 

 

「何だか何時もとは違うみたいだけど」

 

「そりゃ、食べ物の恨みは怖いからね」

 

「だったら、エイジさんに頼めばよかったんじゃないのか?」

 

「……お願いなんて出来ないよ。私はアリサさんじゃないんだから………」

 

 その言葉に男はそれ以上何も言う事は出来なかった。本当の事を言えば既に後悔している。

 

 

 ────後悔先に立たず

 

 

 既に過去となった当時に戻る事は不可能だった。何故あの時の自分を律しなかったのだろうか。制服の男、ブラッドの隊長でもある北斗はそんな何とも言えない感情に支配されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー!もう終わっちゃったの!」

 

「残念ながらさっきね。また機会があれば作るからさ」

 

「そんな~」

 

 秋の限定メニューが目の前で終了したからなのか、ナナは珍しく膝から崩れ落ちるかの様に項垂れていた。

 その言葉のとおり、数量限定は伊達では無い。元々栗や銀杏はそれ程数がある訳では無く、また栽培している訳では無い。屋敷の近くに生っていた物を採ってきたに過ぎなかった。

 当然ながら数が少ない物を全員に配布する事は出来ない。その為に数量限定の名目でラウンジに出していた。

 ナナが出動する際にはまだ仕込みの段階だった為に口にする事は出来ない。だからと言って予約制にすれば混乱を生じるのも分かっていた。

 実際に極東支部の中でラウンジの食事は食堂のそれよりも味は格段に良い。ムツミの腕もだが、実際にはエイジが作るそれは完全に店で食べるそれよりも上だったからだ。

 

 そんな人物が手間暇をかけるのであれば不味いはずが無い。誰もがそう考えるからこそ、限定メニューが出た際には予約する事はしなかった。

 仮に強引にした所で近接の教導を務める人間に勝てる道理が何処にも無い。力でさえも叶わない相手であれば、その条件は粛々と受けるしかなかった。

 基本的に夕食の時間が決まっている訳では無い。ただ、仕込みと出来上がりの時間を予測して誰もが足を運ぶだけの事。まだここに来た当初は、ナナだけでなくブラッドの誰もが良く分かっていなかった。

 だが、既にブラッドもここに来てからそれなりに時間が経っている。だからなのか、仕込みが終わる時間は何となく把握していた。

 

 事実、ミッションに赴いたナナの気迫は尋常では無かった。何時もであれば少しだけ厳しい戦いが余儀なくされるボルグ・カムランは、ナナの渾身の一撃によってその象徴とも取れる盾の部分が物の見事に崩壊していた。

 まるで鬼神が乗り移ったかの様なその戦いを、オペレータとして入ったフランはあまりの早さに珍しく驚いていた。何も知らない人間は驚愕の表情を浮かべたフランが珍しい程度だったが、後でコンバットログを見たヒバリやテルオミ、ウララもまた驚いていた。

 当初はその理由が何なのか分からなかったが、帰投した際に出た神機のロガーにはこれまでに無い程に完璧なインパクトが続いた事が判明していた。

 

 

「ナナさん。さっきのミッションの件ですが………って、どうかしたんですか?」

 

 ラウンジに居るだろうと当たりを付けたテルオミは、先程のミッションの内容を確認しようとラウンジの扉を開けた瞬間だった。飛び込んで来たのは絶望したかの様に暗くなっているナナの表情。そして周囲にはどうしたものかと思案していた北斗とシエルの姿があった。

 

 

「テルオミさんこそ、どうかしたんですか?」

 

「先程の戦いの件で少しだけナナさんに聞きたい事があったんですが……何かあったんですか?」

 

「……色々とあった様です」

 

 少々カオスな現場だったからなのか、テルオミもまた近くに居たシエルに確認するかの様に話しかけていた。

 実際に何が起こったのかを詳しく知らなければ、どこに地雷が埋まっているのかが分からない。周囲を見渡した瞬間、何となくその原因を理解していた。

 

 

 

 

 

 

「折角楽しみにしてたのに!」

 

 一旦落ち込んだのであれば後は立ち直るしかない。ナナもまたそれを理解しいていたからなのか、立ち直りは随分と早かった。

 実際に数量限定は早い者勝ちの証。それに間に合わなかったのであれば仕方ない。理不尽だという事も出来るが、材料が無ければ幾ら凄腕の料理人でも作る事は不可能だった。

 誰よりもそれを理解するからこそ、ナナもまた気分を入れ替える。そんな様子を見たからなのか、エイジもフォローとばかりにスイートポテトをナナに差し出していた。

 

 さつま芋とバターの濃厚な味わいが口の中に広がっていく。以前にムツミが作った大学イモの様に、何らかの調理をしたそれとは違い、お菓子のそれは純粋に秋の味覚を楽しむ事が出来ていた。

 食事前なのと、それがエイジのフォローである事をナナは痛い程に知っている。本当の事を言えば多少無理を言えなくも無いが、その考えは最初から無かった。

 

 元々ラウンジでの働きはエイジの好意によってもたらされている。本来であればクレイドルを優先する事も不可能ではないが、実際にそんな事はしない。精々が普段のメニューに無い物を、アリサやコウタに作る程度で、それ以外に関しては驚く程に平等だった。

 だからこそ、北斗は少しだけ後悔していた。あの時、自分がお代わりをしなければナナの口にも入ったかもしれない。そんな感情が渦巻いていた。

 現実的な事を言えば、北斗がそれをしなかったからと言ってナナの口に入る可能性が高くなるとは思えない。ムツミには申し訳ないが、ラウンジでの限定メニューがどれ程価値があるのかは誰もが理解していた。

 

 特にラウンジでの食事は事前に言えば、用意もしてくれる。事実、通常営業の時だけでなく、バータイムの時でも同じだった。

 薄暗い空間の中で彩る炎の演目は、良く知った人間でさえも幻想的な演出となる。薄暗い中でのブランデーを使ったベイクドアラスカや、クレープシュゼットなど蒼の炎は誰の心にも大きな影響を与える。

 事実、異性での利用の際にエイジが担当していると分かった時点でかなりの注文を受けている事を北斗は知っている。だからこそ、ナナの気持ちが痛い程に分かっていた。

 これが第三者の目からすれば、そこまで考える必要は無いと言われるかもしれない。だが、今の北斗にそんな考えはなかった。

 

 

「ナナ、それだったらミッションが終わってから少しだけ時間を取って採りに行くか?」

 

「……でも、北斗に迷惑がかかるんじゃ………」

 

 ナナの言いたい事は北斗も理解していた。只でさえブラッドの稼働率は高く、その中でも北斗の出動率はダントツだった。

 『喚起』の能力はブラッド以外のメンバーにも大きな影響をもたらす。特に感応種が出没した際にはその能力は如何なく発揮されていた。

 感応種の影響が無ければ、普通のアラガミと何ら大差無い。事実、リンクサポートシステムを使う事を考えれば実に効率が良かった。ノーコストで最大の運用を可能とする。ある意味では完全に極東向けの能力だった。ブラッドであれば北斗の能力を誰もが理解している。ナナとて例外ではない為に、北斗の言葉に若干の遠慮をしていた。

 

 

「その辺りは何とかする。それにサクヤさんの情報だと、近々ツバキ教官はネモスディアナに出張するらしい」

 

「それ、本当なの?」

 

「サクヤさんの情報だから間違いは無いはずだ」

 

 何気ないはずの情報ではあったが、その内容はある意味脅威だった。決してツバキが怖い訳では無いが、今回のそれは完全なる私用。ましてやブラッドがやって良いはずが無かった。ツバキに比べれば、サクヤはまだ交渉の余地がある。ツバキとは違い、まだ現役に近いからだった。確信は無いが、きちんと話せば分かってくれる。そんな訳の分からない信用があった。

 

 

 

 

 

「そうね………」

 

 ナナの言葉にサクヤは少しだけ思案していた。まさかミッションが終わってから私用で探索する。それがどれ程無意味で危険な事なのかを誰よりも自分自身が理解しているから。

 確かにツバキに比べればサクヤの方が話は出来るかもしれない。だが、それはあくまでも希望的観測であって、事実ではない。何も考えず口にしたまでは良かったが、サクヤの返事は色よくない。まさかの回答なのか、ナナは無意識の内に身構えていた。

 

 

「一つだけ聞きたいんだけど、それは今回限りの事?」

 

「も、勿論です!」

 

「そっか………」

 

 出た質問に答えたものの、未だ返事が出てこない。ナナは僅かに冷たい汗が滲んだかの様になっていた。

 今さら冗談とは言えず、サクヤも思案したまま。下手に撤回出来ない状況になっていた。

 どれ程の時間が経過したのかも危うい。それ程までにその回答が何なのかを待っていた。

 

 

「あの、サクヤさん。今回の件ですが、もし何らかの罰則があるなら、俺が責任を取りますので」

 

「ほ、北斗がそんな事する必要は無いよ!」

 

 突然の言葉にサクヤだけでなくナナもまた驚いていた。

 態々罰則を受けてまでやろうとはナナも考えていない。勿論、それはサクヤも同じだった。だが、そんな事すら最初から無用だと言わんばかりに北斗は頭を下げる。突然の出来事に少しだけ驚きが先に出ていた。

 

 

「いや。今回の件は俺も同じだ。それに隊員の責任を取るのは隊長の務めだ」

 

「………しょうがないわね。今回だけよ」

 

「ありがとうございます」

 

 北斗にまで頭を下げられた以上、サクヤもまたそれ以上は何も言わなかった。

 今回の件に関しては、本当の事を言えば大きな問題にはなりにくい部分があった。何せ目的の場所は森林ではあるが、どちらかと言えば屋敷の敷地から近い。他の隊員であれば拒否する事も考えたが、ブラッドであればある程度は事情を分かっている為に口外する可能性は低いと考えていた。

 ツバキであれば一喝したかもしれない。だが、サクヤからすればここ最近のブラッドの稼働状況を考えれば多少の我儘も問題無いと考えていた。

 気分転換も時には必要となる。サクヤもまた以前にリンドウの件でツバキから強引に休暇を取らされた事を思い出していた。

 

 

「でも、それ程時間の猶予は無いわよ。それでも良い?」

 

「はい。勿論です」

 

「今回のミッションの後よ」

 

 そう言うと、サクヤはヒバリの下へと足を運ぶ。北斗の記憶が正しければ、次のミッションはそれ程厳しい内容ではなかったはず。下手に怪我をするとなれば目的その物が叶えられない可能性がある為に、より一層気持ちを引き締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナナ!ちょっと張り切り過ぎだろ!」

 

 ロミオの叫びは全く届いていないのか、ナナの動きが緩む事は無かった。

 殴殺ともとれるかの様に直撃した箇所は完全に弾き飛んでいた。アラガミは人間ではない。寧ろ、それ位の措置は当然でもある。だが、そんなアラガミを見てロミオはアラガミに同情したくなる程だった。

 ナナの持つ神機『コラップサー』の後方では常に炎の揺らぎで周囲が揺らめいている。本来であればあり得ない程の熱を帯びていた。

 常に一撃必殺を予感させる攻撃にナナ以外のメンバーの表情は引き攣っている。普段であれば冷静沈着なはずのリヴィであっても同じだった。ナナの後ろからは目に見えない何かが揺らいでいる様にも感じる。

 自身の誘引を使わなくともオラクル細胞の何かが激しく吹き荒れているかの様だった。ブーストハンマー特有の衝撃が止めの一撃を促す。そこにあったのはアラガミの原型をとどめていない何かがあるだけだった。

 

 

「そうかな。折角なんだから早めに動かないと日が沈んじゃうよ」

 

「……そうだな。ナナの言う通りだ」

 

「でしょ。流石は北斗。話が早いよ」

 

 ナナと北斗のやりとりにロミオはそれ以上何かを言うのを止めていた。女心なのか、本能なのかは分からないが今のナナに下手な言葉をかけるのは悪手の様な気がする。そんな自身の生存本能から来るそれに素直に従っていた。

 

 

「ヒバリさん。これから例の件で少しだけ動きますので」

 

《サクヤさんから聞いています。そちらに向かうヘリに関しては連絡して下さいね》

 

「何だか済みません」

 

《これ位なら大丈夫ですよ》

 

 通信越しではあったが、ヒバリの声にも何となく苦笑した様な物が浮かんでいる事だけは間違い無かった。サクヤからの指示を受けていなければ確実に何らかの小言が飛んだかもしれない。だが、今回のこれはある意味では北斗もまた久しぶりだった。良い意味での気分転換。そんな考えがそこにあった。

 

 

「ナナ。準備は出来てるのか?」

 

「バッチリだよ。態々ポーチの中にも用意したんだから」

 

「ナナ。幾ら何でもそれは無いぞ」

 

「今回だけだから大丈夫!」

 

 リヴィの言葉も既に聞いていない程にナナのテンションは高くなっていた。だからなのか、北斗はナナが望むべき物が何なのかを理解しているが故にそれ以上の事を口にする事は出来なかった。ナナが望んでいるのは秋の味覚。その中で一つだけ困る可能性がある物があった。

 だからと言ってここでそれを口にするのは無粋なのか、それとも贖罪なのか。そんな取り止めの無い事を考えながらもそれ以上の事を口にする事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……少しだけ換気をしてもよろしいでしょうか?」

 

 パイロットからの声に誰もがそれ以上口にする事は無かった。既に秋の味覚を回収し、そのまま帰投する運びとなった際に普段であれば何も言わないはずのヘリのパイロットが申し訳無さそうに口にした事がキッカケだった。

 勿論、その原因が何なのかは誰よりもブラッドが一番理解している。その原因になった物は既に袋に入れて厳重に処置されていた。

 誰もが苦言の一つも言いたい。だが、それは事前にそれを理解していればが前提だった。

 このメンバーの中で一番理解しているのは北斗だけ。本当の事を言えば事前に言えばこの惨状は回避されていたはずだった。

 だが、今回に限っては敢えてそれを口にはしていない。仮に何かがあったとしても全員を巻き込めば最悪の事態だけは回避できると判断した結果だった。

 

 

「済みません。その件に関しては重々承知していますので好きにして下さい」

 

「申し訳ありません」

 

 パイロットの表情を見るまでも無く北斗はその心情を正確に理解していた。今回の収穫は栗と銀杏(ぎんなん)。栗に関してはそれ程気にしていないが、銀杏に関してはその限りでは無かった。

 実際に収穫の部分では明らかに銀杏の方が数は多い。今回の収穫もまた、その意味合いが強かった。だからこそ銀杏の処置は厳重に行われる。その代償を全員が追う結果となっていた。

 

 

 

 

 

「は~少しは臭いが落ちたかな」

 

 本来であれば真っ先にアナグラに戻るはずの予定が、気が付けば変更されていた。当初は何も考える事は無かったが、時間の経過と共に目的の場所が違っていた。時間的にはそれ程かかるはずが無い場所からの移動。ヘリが向かったのはアナグラではなく屋敷の近くだった。既に連絡を受けていたからなのか、その後は実にスムーズに事が運ばれていた。実際に服に染みついた臭いは直ぐに洗濯を余儀なくされている。自分達でさえこの臭いに気が付く程であれば、他者からすれば尚更の事。そんな事情を理解されていたからなのか、誰もが到着と同時に温泉へと直行する事になっていた。

 

 

「今の時点では臭わないな。まさかあれ程だとは思わなかったが」

 

「でも、洗濯までしてくれるのは何だか申し訳無いと言うか………」

 

「だが、アナグラだと被害は更に拡大していただろう。ある意味ではここで正解だな」

 

 リヴィのにべも無い言葉にナナもまた反論するだけの材料は無かった。

 確かにアナグラであれば、確実に何らかの注目を浴びるのは当然だった。

 事実、ミッションの際にはアラガミの体液を頭から被る事も少なくない。その為に、ミッションの後に直ぐに洗浄するのは偏に有害物質の除去も兼ねていた。

 だが、銀杏の様に植物に関してはその限りではない。嗅ぎなれたそれとは明らかに異質のそれは誰もが顔を顰めるのは当然だった。ましてやその原因が事実上の私用であれば尚更。そんな事を予測したサクヤの指示がそこにあった。

 

 

「それに、採ってきた物は直ぐには使えないんだ。仕方ないだろう」

 

「それはそうだけどさ……」

 

 ナナの大きな誤算はそこにもあった。通常であれば直ぐに調理に使えると思ったのは栗だけで、銀杏に関しては天日干しにする必要があった事。しかも実は除去する必要がある為に、それを取るのも一苦労だった。本来であれば採ってきた人間がやるべき作業。だが、幸運にも屋敷でも同じ事をしていた為に、その作業は免除されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっただきまーす」

 

 ナナの声と同時に座敷では用意された食事にブラッドのメンバー全員が舌鼓を打っていた。本来であれば四人だけのはず。だが、ここ数日の動きを見ると一度はまともに休息を取らせる必要があった。事実、ミッションから外れたメンバーもまた、他のメンバーと出動している。ブラッド特有のブラッドアーツの高火力もまた十分な程に戦力の一つして数えられていた。

 幾ら教導で学んだとは言え、純然たる火力は神機と各自の技能による物。それに加算されるブラッドアーツは堅牢なアラガミの装甲を打ちぬける数少ない物だった。当然ながらミッションの達成率だけでなく生存率もまた高くなる。本来であれば万が一の際にはと温存する部分もあったが、多発するアラガミの数を鑑みると、それもまた難しい物があった。

 幾ら強靭な肉体を誇っても、精神までもが同じではない。その結果として、今回の事をサクヤは利用していた。

 単純ではあるが、ゆっくりとした時間を食事と共に取り、リラックスできる環境があれば回復の度合いは高くなる。その結果として戦力の保持が出来るのであれば安い物。そんな考えがそこにあった。

 

 

「うんうん。やっぱり、秋の味覚は最高だよ!」

 

「確かにそうだな。自分達で採ってきた物なら尚更だな」

 

「流石に銀杏だけは次回から遠慮したい」

 

 それぞれが初めての体験だったからなのか、思い思いの感想がそこにあった。短時間とは言え、それぞれが出来る限り回収した結果。それが更に味わいの向上につながっていた。ラウンジとは違い。ここではそれ程遠慮する必要性は何処にも無い。また、ブラッドのメンバー全員が集まったのも久しぶりだった。

 まだ極東に来た頃はこうなるとは誰も予想していない。気が付けば随分と遠くまで来た様な感覚を誰もが抱いていた。

 

 

「でも、そろそろ鍋の料理も旨くなるよな。そう言えば、またすき焼きを食べたいな」

 

「……スキヤキ?ロミオ先輩。それって何かな」

 

 ロミオの何気に言葉に、ナナがいち早く反応していた。事実、ナナの記憶の中ですき焼きの単語は知っているが、食べた記憶は何処にも無い。にも拘わらずロミオの口から出たそれはナナだけでなく、他のメンバーの耳にも届いていた。

 

 

「あれ?知らないのか」

 

「その辺り、詳しく知りたいんだけど……」

 

 何となくナナの表情が鬼気迫る様にも見える。だが、肝心のロミオはまだ気付いていなかった。事実、すき焼きを食べたのはリンドウがそれを望んだ結果であり、また、当時はロミオもここで鍛えられていた時期。当然ながらその事実をブラッドの誰もが知ってはいたが、詳細までは知らないままだった。

 当然ながらその事実に気が付いたとは言え後の祭りでしかない。既にロミオは先程までの秋の味覚を味わっていた感情は完全に抜け落ちていた。

 

 

「あれは……ほら、リンドウさんがさ」

 

「一人だけそんなの食べるなんてズルいと思いまーす」

 

 気が付けばそのやりとりを全員が見ていた。勿論、誰もが料理そのものに関心を持った訳では無い。ただそのやりとりを眺めていただけの事。だが、当事者でもあるロミオはその事実に気が付く事は無かった。

 そんなやり取りの結果、後日ラウンジでロミオがエイジに頼む姿を誰もが確認していた。

 

 

 

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