神喰い達の後日譚   作:無為の極

145 / 158
第145話 成長 (前篇)

 

 張りつめた空気が漂うのは偏にこれから始まる教導の影響だった。

 お互いの距離が一定に保たれたまま、両者は動く事は無い。これが何らかのスポーツであれば審判が動くように促すかもしれない。だが、これは遊びではなく、事実上の実戦。動けないと動かないでは表現が僅かに違うが、意味は雲泥の差だった。

 対峙したからなのか、視線は互いにぶつかる。これが同等の実力であればもっと違った結果になるかもしれない。だが、対峙した相手は残念ながら同じだけの実力では無かった。

 片方が醸し出す熱量をもう片方は軽やかに受け流す。この時点で実力の差は明らかだった。互いの手に持つのは何の変哲もない棒。それも木を削り出しただけの簡素な物だった。

 

 

「どうした?睨めっこでもするつもりか?」

 

 挑発とも取れる言葉を受け流したのか、それとも返事に困ったのかは本人にしか分からない。だが、その言葉と同時に僅かに雰囲気が変わっていた。

 獰猛な肉食獣が自分を蹂躙するかの様に濃密な気配を作り出す。そこにあるのは純粋な気力だけだった。

 当時は全く分からないままに終わった戦い。だが、今は何となくそれが理解出来ていた。

 これまでに幾度となく戦場に立ち、その度に生き残ってきている。それに対して、目の前の人間はアラガミと対峙など出来ないはずだった。だが、そこに感じるのはアラガミ以上にこちらに何かをしようとする気迫。お互いの間にある空気は何かのキッカケで爆発するかと思える程だった。

 

 

「さあ、来い!」

 

「行きます!」

 

 まるで操られたかの様にその言葉を聞いた瞬間、自らの身体能力を活かすかの様にその体躯は一気に距離を詰めていた。棒の長さを考慮しても攻撃を知覚するよりも早く相手の懐へと飛び込む。少なくとも間合が広い分だけ接近されれば対処は難しいはずだった。

 

 室内に響く甲高い音。少なくとも木製の武器ではありえないと思える音だった。一方的に攻撃をするつもりの攻撃は難なく裁かれたばかりか、手痛い反撃までもがおまけについて来た。

 加速する体躯を一気に止める事は難しい。幾ら強靭な肉体と言えど同じだった。強引に止めれば肉体の一部が損傷するかもしれない。これが競技であれば良いが、実戦であれば最悪だった。

 加速した事によって狭まる視界に飛び込んで来たのは棒の先端。自らの加速だけでなく、相手の繰り出した攻撃もまた神速と呼べる程だった。

 

 お互いの距離など無に等しい。それ程まで自分の想定を覆していた。回避が無理なら攻撃を繰り出し、相手の態勢を崩す。残された方法はその程度だった。止まらないのであれば止めずに活かす。その結果が甲高い音となっていた。だが、そこまで。渾身の一撃は完全に読まれていたからなのか、持っている棒で弾かれていた。その瞬間、完全に重心が崩れ死に体となっている。それを見逃す程甘くは無かった。

 

 

「まだ甘いぞ!」

 

 届かないはずの間合いからの一突き。事実上の一撃とも取れる突きはそのまま自分の意識をすり抜けて腹部へと突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

「以前に比べれば大分上達したな」

 

「そ、そうですか………」

 

「ああ。この件に関しては嘘は言わない。勿論、同じレベルの人間と比べれば、が前提だがな」

 

「まだまだって事ですよね」

 

「当然だ。それに俺に負けてる時点で問題有りだろうが」

 

「でも、ナオヤさんの相手が出来る人ってエイジさん位ですよね」

 

「何だ?エリナは打倒エイジか?」

 

 何気ない言葉ではあったが、エリナはとんでもないと言わんばかりに手を左右に振っていた。事実、教導教官の中でナオヤは唯一と言っていい程に一般人である。本来であればゴッドイーターが負ける道理はどこにも無い。だが、卓越した技術を戦闘勘は完全に群を抜いていた。

 力づくで倒す事は不可能ではない。実際につばぜり合いの状態になれば体勢を崩されるのはナオヤの方。だが、逆の言い方をすればそれだけだった。

 体勢が崩されたとしても、そこからのリカバリーは淀む事無く続いていく。力任せに動けばその分だけ隙も生まれていた。

 その結果、手痛い反撃を喰らうまでが一連の流れ。エリナもまたそれを知っているからこそ、力任せに強引に攻める事はしなかった。

 

 

「だが、以前に比べれば穂先の動きは安定してきてるな。だが、ここで慢心すればそれまでだ」

 

「はい。それで、ですね………」

 

 何時もと同じ指導の後の感想にエリナは僅かに笑みが零れた。だが、それはほんの一瞬。何かを確認したかったのか、僅かに言い淀んでいた。

 

 

「俺で分かる事なら言うが?」

 

「あの………私、まだ上を目指すのは早いでしょうか?」

 

「上……か。別に問題無いと思うぞ」

 

 エリナの質問にナオヤもまた端的に答えるしか無かった。事実、ナオヤの立場で考えれば新人がまともに戦場に立てるのかを判断する立場ではないから。これまでの経験から、この程度であれば死ぬことは無いだろうと判断する程度だった。

 当然ながらエリナが言う上が何なのかは正しく理解している。今のエリナの立場で曹長が可能なのか確認されたと判断していた。

 

 

「え、でもナオヤさんに簡単に負けたんですよ」

 

「エリナ。まずはその認識を改めるんだ。確かに技術面に関してはそうかもしれん。だが、そんな事よりももっと大事な事もある。少しだけ構えろ」

 

 突然の言葉にエリナは改めて自分の棒を構えていた。基本とも取れる中段の位置に棒の先を付ける。それを確認したからなのか、ナオヤもまた改めてエリナと対峙していた。

 

 

(何これ!さっきまでと全然違う)

 

 ナオヤと対峙したエリナはただ驚くだけだった。先程までとは違い、今のナオヤからはアラガミと同じ位の圧力を感じ取っていいた。決定的違うのはアラガミの様に本能を剥きだした感情ではなく、こちらをねじ伏せるかの様な圧力。自分が先に動ける未来がまるで見えなかった。

 どこに攻撃をしても致命的な反撃だけが予測される。少なくとも新兵が対峙出来るレベルでは無かった。無意識の内に躰が震える。以前に事実上の単独で戦ったヴァジュラと同じ物を感じ取っていた。

 

 

「ちゃんと防げよ」

 

 一言だけ出た言葉がエリナの耳に届いた瞬間、ナオヤの持つ棒の先は完全に見失っていた。槍は本来突くよりも払いや叩きつけるのが攻撃の手法となっている。実際に突く行為は攻撃力の面だけを見れば脅威だが、点の攻撃である為に防御が出来れば何とか反撃に出るのが可能だった。

 当然ながらこれまで研鑽を積んで来たエリナもまた同じ事を考える。だからなのか、無意識の内に防御を構えを取っていた。手に感じる振動は全部で二つ。そのどれもがこれまでに感じた事が無い衝撃だった。

 

 受けた瞬間に手にも衝撃が伝わる。ゴッドイーターで無ければ防御を突破して致命傷を負ったかもしれない。それ程までに力の籠った突きだった。

 だが、攻撃はそこで終わらない。エリナの頬を掠るかの様に攻撃の一つが走っていた。三連突き。そのどれもが厳しい攻撃。それ程までに卓越した業だった。

 

 

 

 

 

「さっきの攻撃が一つでも見えたならそれなりに力がついて来た証拠だ。だからそんな事を気にする位なら座学に力を入れるべきだな」

 

 何事も無かったかの様にそのまま教導は終了していた。気が付けばエリナの全身からは珠の様な汗が流れている。それに引き換え、ナオヤの表情は涼し気だった。

 

 

「ありがとうございました」

 

「ああ。お疲れさん。それと一つだけ今のエリナが目指す物を見せてやる」

 

 突然の言葉にエリナは疑問だけが浮かんでいた。先程見た一瞬の攻防。その先に何があるのかを何となく理解した矢先だった。これから何が起こるのかが分からない以上、ナオヤの行動を黙って見るしかない。そのナオヤもまた端末を叩く事によってやるべき事が何なのかを示していた。端末の操作が終わった瞬間、これまでに散々見た物が姿を現す。そこにあったのはヴァジュラを模した木偶だった。

 

 

 

 

 

「さて、久しぶりにやってみるか」

 

 ナオヤの言葉を聞いた瞬間、エリナはこれからナオヤが何をするのかを理解していた。少なくともアラガミのこれはゴッドイーターが教導の際に結合崩壊させる場所を教える為の物。少なくとも木偶であっても相応の強度はあった。当然ながらナオヤの様にオラクル細胞の恩恵を受けない人間では結合崩壊させる事は出来ない。ナオヤもまたそれを知っているはずだった。

 ヴァジュラの木偶の隣にはチャージスピアのモックが用意されていた。神機使い様のそれではなく、あくまでも一般人用に調整されたそれ。重々しく見える神機のモックを小枝を振るうかの様に動かす音が物語っていた。演舞を思わせる様に綺麗な弧を穂先が描く。エリナもまた、少しだけ見とれていた。

 

 

「一回しかやらないぞ」

 

 一言だけ出た言葉。エリナもまた凝視するかの様にその動きを見せていた。軽やかに動きながらも、神機のモックは深々と木偶に突き刺さる。本来であればあり得ない事実。恐らくここに新兵が居れば確実に驚く光景だった。

 訓練用の為に、動かなくとも耐久性能は高い。だが、ナオヤが繰り出した突きはそのどれもが確実に穂先を体躯に沈めていた。僅かに漏れる呼気。そこにあるのは戦いではなく作業と化した物だった。

 破壊力を高めるかの様に常に突く際には常に激しく回転している。棒であれば分からないが、神機のモックだからこそ理解していた。

 

 螺旋状に動く事によって破壊力は何倍にも増えている。それが破壊力向上の正体だった。時間こそかかっているが、それはあくまでもゴッドイーターが基準の話。少なくとも一般の強化されていない人間がやるべき事では無かった。

 非現実的な光景にエリナは僅かに震えていた。恐怖ではなく、歓喜。非力な人間であっても可能であれば、ゴッドイーターであればどれ程の効果を発揮するのか。少なくともこんな動きを見せるゴッドイーターをエリナは見た事が無かった。自分の目指す先が僅かに切り開かれる。唐突に理解していた。

 

 

 

 

 

「とまあ、こんな感じだ。だが、これが最終到達点じゃないからな。上を目指すならまだ高い」

 

「ありがとうございました」

 

 作業が終わったと言わんばかりに、用意された木偶は全ての部分が完全に結合崩壊していた。この状況だけを見れば誰かが何かの訓練をしたと思うかもしれない。だが、ナオヤがやったとなれば話は別だった。非力な肉体であっても技術さえあれば相応の威力を発揮する事が出来る。少なくとも小型種程度であれば事実上の一撃で屠る事も不可能ではない。だが、それと同時に、その頂にいたるまでがどれ程困難なのかも理解していた。

 

 エリナ自身、出来る範囲での技術の習得に関しては貪欲な程だった。事実、教導以外にもブラッドのギルからも教えを受けるべく、色々と話をした事もあった。その中で分かった事実は高火力のイメージがあったブラッドアーツでさえも、(わざ)の一つでしかなく、オラクルを奔流させる為に威力が高いに過ぎなかった。

 結果的には本人の能力に相乗効果を発揮する為に、討伐そのものが短時間で終わっていた。これでエリナもブラッドアーツが使えれば多少は分かったかもしれない。だが、現時点ではそれが叶う事は無かった。

 出来るのは自らの肉体で行使する業。神機の性能に関してはどうしようも無いが、少なくとも工夫をする事によって技能を高める事は不可能では無かった。

 

 

「本当なら神機のアップデートもした方が良いんだが、まあ、それに関してはお前の技量に合わせないと色々と不備があるんだ」

 

「それは知ってます。神機に頼り過ぎるのは良くないですから」

 

「そうだな。だが、曹長クラスを目指すなら、当然ミッションも苛烈になる。そうなれば必然的に一部隊の隊長になる可能性もあるんだ。現状を良しと思わないなら何とかなるだろ」

 

 ナオヤの隊長の言葉にエリナは急に現実感に囚われていた。これまでに隊長とは言わなくとも副隊長クラスのミッションに出た事は何度かあった。事実、隊長がしっかりとした人物であれば副隊長が表に出る機会は早々無い。エリナもまた副隊長をしていた際の隊長はマルグリットだった。

 冷静に考えればエリナが知る隊長クラスはクレイドルの人間が殆ど。その中でもエイジやリンドウに関しては完全に自分の範囲を超えていた。

 当然ながらそこまで高い物でなくとも身近であればコウタや北斗。マルグリットなど、それでも相応の実力を持っていた。だからこそナオヤの言葉でエリナは考える。普段は適当な事をしているコウタであっても部隊を壊滅させない様に細心の注意を常に払っていた。

 

 ゴッドイーターは余程の事が無ければ生存して初めて経験を積む事が出来る。常に死と隣り合わせであるからこそ、当たり前の事だった。初めて第一部隊に配属された頃にコウタが言った言葉。ある意味ではそれが第一部隊のモットーだった。それが仮に自分がその立場になった際には言えるのだろうか。エリナは珍しく考え込んでいた。

 

 

「エリナ。ここで考えた所で何も変わらないんだ。さっさと汗の始末をしておけ。出来るなら風呂に入って躰の筋肉をほぐした方が良いぞ」

 

「分かりました」

 

 これで本当に教導が終了していた。一度だけ見せたそれはエリナの脳裏に焼き付いている。これまでにも何度と映像を見たり、指導を受けたが、今日のそれは強烈だった。だからこそあの映像の戦いの意味が理解出来る。お互いに力ではなく純然たる技量だけで戦った結果は高度な業の応酬。既にここのゴッドイーターでさえもあの高みには到達していない事だけは間違い無かった。ナオヤに言われたからなのか、肉体の疲労だけでなく精神の疲労も感じている。肉体を癒すだけならどうとでもなるが、精神の疲労までは簡単に抜けなかった。最低限の道具だけを持って新設させた風呂場へと行く。これまでに無い疲労感は意外にもエリナの心を満たしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。やっぱり疲れがたまってたのかな」

 

 誰も居なかったからなのか、エリナの声は僅かに響いていた。アナグラに設置されたこの浴室は当初こそ、利用者の数は少なかったが、最近になってから確実に多くなっていた。

 躰の汚れや老廃物を落とすだけならシャワーだけでも問題無い。だが、お湯に浸かる事によって筋肉の疲労や精神的にも落ち着く事が分かってからは利用者は増えていた。だが、ここではシャワー室の様に遮る物は何も無い。裸の付き合いとまでは行かなくとも、恥ずかしさが先に出る事によって利用しないケースもあった。だが、本当の理由はそれだけではなかった。

 

 

「あれ?エリナもここでしたか?」

 

 誰も居なかったはずの浴室に響いたのはアリサの声だった。元々アリサもここでのシャワーに限らず、屋敷では温泉を当たり前の様に使っている。その為にそれ程の忌避感や気恥ずかしさはも居合わせていなかった。

 タオルで前を隠しはするが、恥ずかしさは何処にも無い。だが、同じ空間に居る者からすればアリサの横に並び立とうと考える者は居なかった。

 ゴッドイーター特有の鍛えられた肉体は筋肉質とまではいかなくとも、ウエスト回りを十分に細くしている。理想とも言えるくびれはある意味羨望の的だった。そのくびれとは正反対に上半身にある豊かな双丘は確実に存在感をもたらしている。下半身に関しても女性らしい、なだらかなラインは同性であっても視線を奪っていた。そんな人物が同じ場所であれば劣等感だけが先に出る。クレイドルの活動を考えれば遭遇する機会は少ないが、やはり安心出来ない物があった。

 

 

「アリサさんはもう終わったんですか?」

 

「ミッションは終わりましたが、この後は少しだけサテライトの件で調整があるんです。時間が空いたので少しだけ気分転換ってとこですね」

 

 自分の躰を比べる事を最初から考えていないからなのか、それとも慣れたからなのか、エリナは特段感情を露わにする事は無かった。既に全身を洗い終えている為に、今は湯船に浸かっている。アリサもまた言葉通りだからなのか、埃や汚れを落として同じく湯船へと足を運んでいた。

 

 

 

 

 

「まあ、ナオヤならやりそうですね」

 

 エリナとアリサにはそれなりに接点はあるが、だからと言って完全に親しい訳では無かった。コウタが居れば当然ながら旧第一部隊としてか、クレイドルとして。居なければ完全にミッションの内容を話す程度だった。勿論、アリサのキャリアを考えれば、元はロシア支部でも事実上、ここでの主力で過ごしている。討伐のスコアを見ても、完全に上位に入っていた。

 本来であれば先程の事を口にする事は無かったのかもしれない。だが、エイジとナオヤ、アリサの関係性を考えれば全ての事を口にしても大丈夫だろうと判断した結果だった。

 

 

「って事はアリサさんも知ってたんですか?」

 

「厳密には見た訳ではありませんよ。ただ、とある筋から話を聞いただけですけど」

 

 アリサの情報源はエイジとリッカだった。実際にその話を聞いたのはごく最近になってから、それも個人的な慰労を兼ねて何時もの様に屋敷で少しだけ羽目を外した際の事だった。 

 当時はアリサとリッカの他に、ヒバリも居た。ある意味では何時ものメンバーだった。何時ものメンバーが故にアルコールが入れば口は軽くなる。ましてや今のアリサの立ち位置を考えればエイジだけでなく、ナオヤもまた近い場所にあった。酩酊した状態だからなのか、ここの住人だからなのかは分からない。だが、リッカの口は随分と軽くなっていた。

 そんな中での鍛錬での一コマ。それが一定上の技量を極めればアラガミと言えど決して無謀な戦いにならない可能性だった。オラクル細胞の研究は常に進んではいるが、本当の事を言えば、何らかのブレイクスルーが要求される場面に差し掛かっていた。

 

 研究の第一人者でもある榊もまた、新しい論文を発表する気配は既に無くなっている。支部長の職に就きながらも研究を進める事は困難だった。

 現時点での研究職の中で上位に位置する人間が新しい発表をしないのであれば、新たな進化を遂げる事は難しくなる。アラガミとは違い、人類には寿命と言う名のタイムリミットが存在する。既に榊は自分の研究をこなしながらも後進の指導へとシフトしていた。

 極東支部で限定すれば、その最右翼はソーマ・シックザール。紫藤博士に関しては常に実戦に基づく研究の為に、分野が異なっていた。そんな中で榊は未完成の論文を作成する。

 

 リンクサポートシステムにヒントを得て、常に状況が目まぐるしく変化する戦場でのサポート。ゴッドイーターの補佐とも言える、ディバイダー理論。まだ完全に発表された訳でないが、現状に比べればさらに効率を高める事になるのは容易に想像できる内容だった。

 だが、その前提が適合者でありながら神機が未だマッチングしない人物である事。神機を使用しないそれがどれ程の効果を発揮するのかは未だ研究途中だった。

 幾ら理論値が優れても、実戦での結果が伴わなければ無意味でしかない。

 幸か不幸か、そのヒントになったのがナオヤの技量だった。実際に初めてそれをやった際には榊だけでなく、ヒバリもまた同行している。そんな驚愕の結果をアリサもまた聞いた際には、にわかに信じられなかった。

 

 

「そうだったんですか……でも、今回の件で、私も実感しました。これ以上は無理だと思った瞬間に、そこで成長が終わるんだ。って」

 

「そうですね……確かに現状で満足したらそれで終わりですね」

 

 本来であれば、寛ぐはずの空間。だが、お互いが任務に関してはある意味真面目だった。これがラウンジであれば話題の転換は可能かもしれない。そんな空気を一気に変えたのは、外部からの影響だった。

 

 

「あら?珍しい組み合わせね」

 

 二人が気が付いたのは何気ない一言。そこに珍しい人物の姿があった。極東支部の組織として考えれば確実に珍しい部類に入る人物。浴室と言う特殊な空間であっても外れる事のない眼帯はある意味特徴的だった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。