神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第24話 救援と因縁

 砂塵渦巻く平原に、つい先程まで戦いを繰り広げていたクアドリガは、外部装甲の殆どを破壊された後に生命活動を完全に停止したまま横たわっていた。既にコアを抜いている以上、後は帰投の準備をして待つだけの時間。既に回収を終えたからなのか、同じ部隊のカノンとまだ実戦に出て乏しいと思わる人間2人がハルオミの下に集まっていた。

 

 

「全部回収は終わったか?」

 

「はい。周辺は何度か見ましたが、回収した以外の物はありませんでした」

 

「お前達はどうだ?」

 

「はい。こちらも特に気になる様な物はありませんでした」

 

「そうか。帰投のヘリが来るまでは周囲の警戒を怠るなよ。通信が入らないからと言って大丈夫じゃないからな」

 

 第4部隊としてここ最近は、教導プログラムを終えた人間のローテーションをしながら実戦に慣れさせるべく、ミッションをこなす事が多くなっていた。

 一時期は第1部隊でそんな事をやっていたが、最近になって何回かのを厳しいミッションが立て続いていた事により、新人を教導出来る程のゆとりが無くなっていたのが原因だった。幾ら精鋭でも新人のお守りをしながら厳しいミッションをこなす事は不可能に近い。その代わりとなるべくサクヤの依頼によってハルオミ率いる第4部隊に白羽の矢が立っていた。

 

 

「あの……そんな事ってあるんですか?」

 

「ここは極東だ。想定外のアラガミの出没は多々あるぞ。教導の座学で習わなかったか?」

 

 何気に答えたハルオミの言葉に、新人の2人は顔が青くなっていた。決められたミッション以外での乱入となれば、殆どが接触禁忌種かそれに近い物が多い。事実、第1部隊もそれで手痛いダメージを受けた事もあるからなのか、教導の一番最初の段階でその事実が告げられる事が殆どだった。

 

 緊張の切れる一瞬の出来事は、討伐による天国から新たな任務の地獄へと一気に状況を変貌させていく。幾らベテランでも一度切れた緊張の糸を張り直すには時間が必要となるだけでなく、改めてテンションを上げるにはそれなりの時間が必要となる。

 しかし、アラガミはこちらの都合とは関係無い。座学で同じ話を何度もするが、やはりその内の何人かは犠牲になる事が未だ数多かった。

 

「いえ。しっかりと聞いてます」

 

「オーケー。だったら問題無い。そろそろ見えてい来たみたいだな」

 

 やりとりを完全に察知したかの様に帰投用のヘリはその姿を大きくし出していた。余程の事が無い限り、後はアナグラまで到着を待つだけ。そんな事を思ったからなのか、この場にいた全員が安堵の表情を浮かべた瞬間だった。

 

 

《ハルオミさん。緊急事態が発生しました。現在地点よりも南東20キロ地点で想定外のアラガミが出現しています。詳しい事はまだ不明ですが、オラクル反応から推測して大型種の可能性が高いです。既にオープンチャンネルによって周囲の部隊に救援要請が出ています》

 

「了解。だが、ここは俺達だけでなく新人も居る。全員を向かわせる訳には行かない」

 

 飛び込んだ情報にハルオミだけでなく、カノンと新人も表情が固くなっていた。ここでは無いが、オープンチャンネルによる救援要請と今の言葉から推測出来る事は、明らかにこのメンバーでの戦闘は確実に死人が出る可能性を示していた。近づくヘリを他所にハルオミと通信越しの相手のやり取りを誰もが固唾を飲んで見守っている。

 事実上の死地に飛び込む可能性を否定出来ない以上、その結末はハルオミ以外の誰にも分からないままだった。

 

 

《既にブラッド隊にも出動要請が出ていますが、移動時間を考えると第4部隊の方が位置的に近いです。人選に関してはサクヤ教官からも指示を受けていますので、ハルオミさんにお任せします》

 

「了解。人選は現地到着時までに決定する。そちらは対象のアラガミの種を確認してくれ」

 

《了解しました。現地到着時までに情報を改めて更新します》

 

 通信が切れると同時に振り返ると、そこには死にそうな表情を浮かべた新人が呆然と立っていた。想定外のアラガミに対し、完全に戦意を失っているのはある意味では仕方ない部分があった。

 まだ実戦にさえ慣れていない人間を投入した所で、死体が増えるだけでしかない。事実それを理解しているからこそ、ハルオミはその選択肢を最初から除外していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、対象のアラガミは何か分かったのか?」

 

《こちらに届いた情報とレーダーによるオラクル反応から対象アラガミは『ルフス・カリギュラ』です。既に交戦している部隊は3人が負傷。1人は捕喰されています。このままでは全滅の可能性もありますので注意してください》

 

 『ルフス・カリギュラ』の言葉にハルオミは苦い思い出が蘇っていた。事実上の因縁のアラガミでもあり、また、自身が今に至る原因となった種。当時の仇は取った物の、やはり同種のアラガミに関しては何かしらの思いがそこに存在していた。

 

 

「カノン。行けるか?」

 

「はい!任せて下さい」

 

 短いやり取りにハルオミはそれ以上の言葉を発しなかった。事実上の被害が甚大であれば、新人を投下しても同じ結果を招く事になり兼ねない。仮に投下すれば確実に意識がそちらに向けられる為に、今度は自分達の命の方が危うくなる可能性が高かった。

 短いやりとりが意味したからなのか、ハルオミはそのまま通信を繋げていた。

 

 

「こっちは俺とカノンがそのまま出動する。だが、負傷者が居る以上、カノンは衛生兵としての役割を果たす事になる。ブラッドが向かっているとの事だが、到着までどれ程必要だ?」

 

《ブラッドは既に回収が終わり、予定地点へと移動しています。到着までの時間のズレは最大で7分です》

 

「了解した。7分間は確実に持たせる。ブラッドにはそのまま援護を要請しておいてくれよ」

 

《了解しました。厳しいかとは思いますがご武運を》

 

 オペレーターとの通信が切れると同時に、ハルオミとカノンはヘリだけでなく、新人が所持している物資を確認していた。このまま新人をアナグラへと戻し、自分達は戦場へと赴く。言葉にはならなくてもその行動から新人は思わず涙ぐんでいた。

 

 

「お前達はこのままアナグラへと帰還しろ。既に話は付いている。戻ったらサクヤさんにちゃんと報告だけはしておいてくれよな」

 

「はい。ハルオミ隊長。ご武運を」

 

 上空から見るその景色は既に見慣れた場所でしかなかった。この地でのアラガミの討伐は既に数える事すら放棄する程に上っている。眼下には何かを探しているからなのか、真紅の躯体はまるで自分達を待ち構えている様にも見えていた。

 

 

「カノン。行くぞ!」

 

「はい!」

 

 ルフス・カリギュラからは遠く離れた場所に降り立っていた。眼前で落下と同時に攻撃出来ない事も無いが、今の優先事項は負傷者の保護。カノンに保護させる間に自分が囮になるべくハルオミはカノンと別れ、様子を伺っていた。

 

 

 

 

 

《ハルさん。負傷者の確保が完了しました。まだ全員大丈夫ですが、やはり情報通り1人は捕喰されています》

 

「了解。カノンは負傷者を安全な場所へと退避。そちらに行くような素振りが俺が囮になる」

 

《ですが……》

 

 囮の言葉にカノンは言葉に詰まっていた。カリギュラも元々第1接触禁忌種に指定されているアラガミであり、またその亜種でもあるルフス・カリギュラは更に攻撃能力が高い個体でもあった。

 素早い移動と繰り出される攻撃は、僅かに油断すれば一瞬にして胴体が真っ二つになる可能性があった。バックラーレベルであれば、その破壊力は粉砕まではしなくとも破壊する威力は極悪でしかない。それとは別に、当時の因縁がどんな物なのかをカノンも知っていたからこそ言葉に詰まっていた。

 ギルの暴走により、ツバキの鉄拳が火を噴いた事実は極秘裏にアナグラの伝説となっている。今でこそ笑い話になっているが、誰もが改めてツバキに逆らってはいけないと理解した結果だった。

 

 

「カノン。まさかとは思うが、俺が死ぬ前提で考えていないか?」

 

《そんな事はありません。ただ厳しい相手ですから……》

 

「ブラッドがここに向かってるんだ。だったらそれまでの時間は生き残る事だけを考えるさ」

 

《分かりました。私も直ぐに合流できるように頑張ります》

 

「無理はしなくても良いからな」

 

 小声で話していたからなのか、ルフス・カリギュラは周囲にある物を捕喰していた。良く見れば1人を捕喰したからなのか、口元には服の繊維らしき物が見えている。それを見たからなのか、ハルオミの神機を持つ手に力が入る。青白く燃える闘志の炎が沸き上がるかの用に、高まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ着かないのか!」

 

「後少しです。目標地点は既に目視で確認出来ますので」

 

 オープンチャンネルによる救援要請を受けたブラッドは直ぐに現地へと行動を移していた。移動の途中で部隊の状況が逐一更新されて行く。既に負傷者を確保すべく第4部隊が行動していると聞いたのは、ヘリに乗り込んで直ぐの頃だった。

 

 

「フラン。現状はどうなっている?」

 

《現在は第4部隊からはハルオミさんとカノンさんが現地に入っています。ですが、負傷者の保護を優先の為に未だ交戦はしていません。負傷者の確保完了後に交戦となる予定です》

 

 状況を伝えるフランの言葉に、ギルは僅かに焦りを生んでいた。対象となったアラガミでもあるルフス・カリギュラは仇は取ったとは言え、事実上の因縁の相手でしかない。ましてや交戦しているのがハルオミだと聞いた瞬間は当時の状況を思い出していた。

 当時と今は明らかに違う。間に合いさえすれば何とでもなると自分自身に言い聞かせる事によって平静を保とうと考えていた。

 

 

「ギル。こんな時ほど落ち着くんだ。ハルオミ隊長もこちらが向かっている事は知っているだろうし、まだフランが言う様に交戦だってしていない。冷静になれなかった人間から脱落するのはこの世界の常だ」

 

「それは分かっている」

 

 ジュリウスの言葉を聞きはするが、やはりギルは内心穏やかにはなれなかった。到着まではパイロットが言う様にまだ僅かに時間を要する事になる。交戦していないとは言え、アラガミに見つかる様な事があればその限りではない。初動の遅れが手遅れになれば悔やんでも悔やみきれない。今のギルにとってこの僅かな時間さえもが惜しいと思えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カノン。負傷者の保護まで後どれ位かかる?」

 

 ハルオミは珍しく怒気が混じった様な声で通信をしていた。アラガミは大型種に限った話ではなく小型種と言えど行動原理は同じだった。

 本能の趣くままに捕喰行動をしていたかと思えば、突如として違う行動を突発的に行う。これまでにもミッションに最中に様子を見ながら交戦したまでは良かったが、想定外の行動を取られ結果的には挟み撃ちされた事が度々あった。

 戦闘音を察知するタイプであれば常に意識する事はあるが、それ以外の場合はどこかおざなりになるケースが多く、これまでにも何度かそんな場面に出くわして窮地に陥る事が度々あった。

 

 確認するかの様にハルオミの視線の先にはルフスカリギュラは捕喰を終えたからなのか、カノン達が居る場所へと向かい出している。未だ退避完了の言葉が無い為に、状況は悪化の一途を辿っていた。

 

 

《残りは1人だけです。思った以上に負傷しているので、まだ時間はかかりそうです》

 

「そうか……分かった。カノンはそのまま作業を続けてくれ」

 

 ルフス・カリギュラが向かっている事を言うつもりは毛頭なかった。未だゆっくりと歩を進めている所に下手に急がせて大きな音が出れば本末転倒でしかない。音を立てずに作業をしているのであれば、ハルオミがやるべき事はただ一つ。そちらに向かっている意識をこっちへと向ける事だった。

 この距離であれば余程の事が無い限り外す可能性は低い。これからの行動を起こすに当たって改めて今の状況を確認していた。神機を銃形態へと変形させ、スイートシャフトの銃口を頭部へと向けている。まだこちらに気が付いていないからなのか、相変わらずルフスカリギュラは歩みを進めたままだった。

 

 

───3

 

───2

 

───1

 

 照準の中に頭部が入ると同時にハルオミは躊躇なく引鉄を引いていた。一筋の流星の様に炎属性のバレットがルフス・カリギュラの頭部へと大きな衝撃音と共に着弾する。こちらに気が付いたからなのか、ルフス・カリギュラの目には怒りの様な物が浮かび上がっている様に見えていた。

 着弾地点を即時に割り出したのか、既にハルオミのステルスフィールドは意味を成していない。元から囮である事を前提とした攻撃だったからなのか、ハルオミの目に動揺は一切無かった。

 

 

「さぁ、かかって来いよ!」

 

 ハルオミを捕捉した後のルフス・カリギュラの行動は素早かった。既に剣形態へと変形させ、ワックマックを構える。恐らくブラッドが到着するまで、それ程の時間はかからないはず。そう考えたからなのか、ハルオミは迫り来る攻撃をギリギリで回避しながらも、カノン達が居る場所から遠ざかるかの様に見通しの良い場所へと誘導していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ハルオミ隊長がルフス・カリギュラと交戦を開始しました。現在は当初の位置よりも北東に移動中。恐らくは負傷者へ行かせないようにとの思惑があるかと思われます》

 

 ローターの駆動音がけたたましくなるヘリの中にも拘わらず、フランの通信音だけがやけに響いた様にも思えていた。

 これまでもブラッドがオープンチャンネルによる緊急の出動要請で急行したのは今に始まった事ではない。にも拘わらず、騒音すら感じさせない程にその事実だけがその場にいた全員に響いた様にも思えていた。

 

 元々ルフス・カリギュラとの交戦はギルとハルオミ。北斗の3人で討伐に至っている事はこの場に居るリヴィを除く全員が知っている。当時はまだ刺さった神機の影響もあった為に討伐は出来たが、それでも北斗の神機のジョイントが破壊された事実が、その攻撃力の高さを理解させられていた。

 オラクルが不完全な状況であれならば、今は完全な状態となっている。負傷者の言葉で恐らくはハルオミが囮となった事は誰も理解したが、それでも絶対大丈夫だとは言い切れないのもまた事実だった。全員の自然が一瞬だけギルへと向かう。当時の事を思い出しているからなのか、ギルの反応を見る事は出来なかった。

 

 

「後どれ位だ?」

 

「もう間もなくです……恐らくはあれかと」

 

 パイロットの言葉に全員の視線が眼下へと降りる。真紅の躯体は何かに導かれるかの様に反対の方向へと動いている。その先にはハルオミらしき人影。だとすればここから先をどうするのかは言うまでも無かった。

 

 

「シエル。ここから狙撃を。ルフス・カリギュラの意識を向こうに向けさせるな。ここからは俺とギル、リヴィが行く。その後から時間差でナナと一緒に降下してくれ。ジュリウスはロミオ先輩と負傷者の救護。パイロットは直ぐにアナグラから負傷者か、カノンさんに連絡する様に言ってくれ。これ位離れていれば通信は問題無いだろう」

 

 全ての状況を考え、ここから先の展開を思案する程の時間すら無く北斗の指示が全員に飛ぶ。既に各々は役割を理解したからなのか、短い返事だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラッドがここまで来ている事はハルオミも既に確認していた。近づくヘリのローター音がまるで存在感を示すかの様に徐々に大きく鳴り出している。既に状況を知っているのであれば、自分の場所に来るよりも、真っ先に要救護者の回収が最優先となるのは当然の結果でしかなかった。

 事実、これが新人や、まだ中堅であればこちらにも意識は向くかもしれないが、ハルオミとて伊達に第4部隊長を名乗っている訳では無い。これまでにもカノンと2人だけの任務ではなく、一部は第1部隊の代わりを果たすケースも何度かあった。

 ましてや自分はベテランでもあり、このアラガミは既に一度対峙し、討伐までもが完了している。となれば優先順位は考えるまでも無かった。

 ローター音は減速する気配もなく頭上を一気に飛び去る程の速度が出ている。心の中でそれが正解だと思った瞬間だった。

 

 

「くそっ!」

 

 ハルオミの意識が頭上に向いたのは時間にして1秒にも満たない程度。しかし、高速機動が可能なルフス・カリギュラからすれば決定的な隙でしかなかった。背中のブースターからジェット機の如き推進力を一気に放出する。時間にしてコンマ4秒程度の刹那。

 既に準備した腕の刃は何の障害も無くハルオミの胴体を上半身と下半身に分離する程の勢いを持っていた。大気をも引き裂く程の斬撃。

 この距離であれば間違い無い。人間の様な思考思考能力がアラガミ備わっていたのかは分からないが、この時点では間違い無くルフス・カリギュラはそう確信していた。

 

 

 

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