神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第30話 進み行く教導

 アネットの教導は順調に進んでいた。懸念していた神機のアップデートは高難度のミッションが立て続けに起こった影響もあり、当初の予定よりも大幅に良い結果を生んでいた。

 元からあったパーツも決して悪い訳では無いが、やはりアラガミのコアや結合崩壊を起こした部位はドイツとは比べる要素が全く無い。既に神機のアップデートを終えた今、あとは自分の技術をいかに磨くのかを念頭に行動を起こしていた。

 

 

「ここで一旦休憩にしようか」

 

「は…い」

 

 息も絶え絶えにアネットは訓練室内で徐に腰を下ろしてた。本来であれば教導の際には自身が持つ神機のモックを使用するのが通例だが、今のアネットの実力から考えれば、それは不要だった。どんな神機のパーツを使おうが、長時間戦いに身を置けば必然的にその神機の特性を活かした行動を取る様になってくる。

 ギリギリの戦いを生き抜く為には無駄を排除しながら常に最短を狙うことが当然となってくる。これがまだ新人や中堅の手前程度であれば神機を使う事は当然の事だが、アネットとて伊達に部隊長をしている訳では無い。ブラッドとの共闘で行ったミッションのコンバットログや、時折同行したミッションから考えても、神機のモックを使うよりは、自身の身体を上手く活かせる行動力を付けた方が良いだろうとの判断だった。

 以前から教導の内容の事は知っているからなのか、エイジの提案にアネットも直ぐに了承していた。

 

 

「取敢えずは身体の使い方を覚える事が最優先かな。特にブーストハンマーはパーツそのものに恩恵がある分、制御に力が必要だろうし、今やっている事に目途が立てば恐らくは攻撃力は格段に上昇するだろうからね」

 

 滝の様に流れる汗は既に小さな水たまりを作る程の勢いとなっていた。元々教導の予定がある事は理解してるし、またエイジがそれをやる事も理解している。そんな事もあってアネットも十分に心構えが出来ていたはずだった。

 

 

「でも、ここまでやるとなると、付いてこれる人はいるんですか?」

 

「数人程度かな。今だとブラッドがそれに該当するけど、実際にはまだまだだよ。極める事は無理でも、それ以上近づける事は出来るから、後はそれに向かってどの程度で走るかだと思うよ」

 

「はい……」

 

 用意したドリンクを飲みながらもまだ荒い呼吸を少しづつ整えて行く。ゴッドイーターの強靭な肉体をもってしても、今やっている過酷な訓練は厳しさだけが残されている。以前に聞いた『極東の鬼』の言葉の意味がここで理解出来ただけでなく、新人だった頃に受けた教導が如何に容易いレベルだったのかをアネットは身を持って体験していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、サテライトの方は今は落ち着きを見せてる様だね」

 

「はい。お蔭さまで入植者も順調に進んでます。この調子ならば完全に完了するまでそうかからないかと思います」

 

 エイジとアネットが訓練室で汗を流している頃、榊はアリサを呼び出していた。元々サテライトの責任者でもあるアリサが榊に呼ばれるケースはそう多くはない。討伐よりも建設や地域の防衛に重きを置いている為に、余程の事情が必要となっている。アリサとてそんな事実を理解しているからこそ、何となく榊が考えている事を予測していた。

 これまでの経験から語られるのは、エイジの欧州派兵の可能性。毎回呼び出しを受けて癇癪を起す程アリサも子供では無かった。

 

 

「そうかい。それは何よりだ。知っての通りだが、この計画はかなり順調に進みつつある。既に一部の支部でも計画が計上されているらしいね」

 

 半ば覚悟を持って臨んだまでは良かったが、一向に榊の口から派兵の話が出る事は無かった。隣に居る弥生を見ても何かを構えている雰囲気は無く、ここに来ているサクヤに関してはどこか含みを持った様な笑みが浮かんでいる。今のアリサにとっては全く何も分からないままだった。

 

 

「あの、榊博士。そろそろ本題に入って頂きたいんですが」

 

「おっと。これは済まなかったね。では本題に入ろうか。実はアネット君がここに来ている理由は知ってるよね」

 

「はい。アネットから直接聞きました。なんでもドイツ支部で未確認のアラガミが出たとか」

 

「そこまで知ってるなら話は早い。実は今回の件で事前にドイツ支部から送られて来たデータが非常に興味深い結果を出したんだ。それでなんだが……」

 

 榊の言葉にアリサはやはりと言った感情が先に出ていた。決して根無し草ではないが、エイジとリンドウの2人がどれだけ戦力過多になるのかは一度でも同じミッションに出れば分かる話だった。

 攻撃力だけでなく、その判断と決断がこれまでに部隊の危機を救っている。クレイドルとしても戦場には出向くが、そんな中でも緊急時の出動数が他にくらべてダントツの数字を叩き出している。だからなのか、榊がこれから言わんとしている言葉の意味を聞くまでもなかった。

 

 

「……って事で時期は未定だけど、近い内に実行するからアリサ君もそのつもりで」

 

 覚悟していた事とは言え、やはり離れるとなれば寂しさが募るのも当然だった。元々から理解はしていたが、何時もならば帰れば温かい気持ちになれるが、居なくなれば無人の部屋に一人取り残された気分になってくる。

 慣れたとは口では言っても心情的には慣れたくない。そんな感情が優先していたからなのか、榊の言葉に違和感があった。先程の話の中で、聞き間違いでなければ自分にも打診されている。自分はサテライトの件があるから派兵に関しては何も意味を成さないはず。

 しかし、今の榊の言葉から導き出した結果は自分の予想の真逆だった。

 

 

「って事で、アリサちゃんも荷造りしておいてね」

 

「……あの、私の聞き間違いでしょうか?先程の話からすると私も一緒に行動する様に聞こえましたが……」

 

「まさかとは思ったけど、碌に聞いてなかったのね。いいアリサ。今回の件は事実上の極秘任務に近い物だから、建前としては貴女はサテライトのノウハウを伝えに行くのよ。実際には向こうで未確認のアラガミの討伐と、その実態調査を兼ねてるのよ」

 

 サクヤの言葉に先程の榊の言葉を改めて思い出していた。確かに最初にサテライトの事を聞かれはしたが、その後は碌に聞いてなかったからなのか、殆どの言葉が耳からそのまますり抜けていた。

 サクヤが言わなければ何を言ってるのかも分からない。そんな事実に少しだけキョトンとした表情を浮かべるしか無かった。

 

 

「まぁまぁサクヤさん。愛しのエイジがまた居なくなるかもって考えてたから話なんて耳にはりませんよ」

 

「好き過ぎるのも問題ね」

 

 未だ理解し辛い表情を浮かべるアリサを尻目に弥生はサクヤに少しだけ揶揄う様な雰囲気を残しながら言葉に乗せる。時間の経過と共に理解したからなのか、漸くアリサは全ての状況を飲みこむ事が出来ていた。

 

 

「アリサちゃん。以前と同じだけど、今回のミッションは少し特殊なの。本来であれば大手を振って行けばいんだけど、やりすぎると本部から目を付けられるから、お願いね」

 

「はい!了解しました」

 

 完全に言葉の意味を理解したからなのかアリサの目には生気が宿っていた。元々離れる前提だった内容が、気が付けば一緒に動く事になっている。決して楽観する訳でもないが、アリサからすればエイジと一緒ならどこでも構わないだけだった。

 改めて詳細を告げたからなのか、これまで単独で呼ばれた中で唯一嬉しい感情を持ったまま退出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神機の調子はどう?」

 

「はい。ここに来た当初よりも格段に良くなってます」

 

 常時アップデートを繰り返す事によって神機との親和性を少しづつ高めていく。当初アップデートした際には単純な攻撃力の高さを実感していたが、ここに来て更に馴染ませる事に成功したからなのか、以前よりも使い勝手は格段に向上していた。

 神機との一体感が高くなれば、その分取り回しが良くなる。攻撃力の高さだけに目が行きがちだったが、今ではそんな事以上に自分の手の延長の様に思える感覚はアネットのこれまでの意識を大きく変更していた。

 

 激戦区であれば些細な取り回しが命取りになる可能性が高い。本来であれば、こんな些細な事まで気にする必要性は無い。にも拘わらず、ここまでこだわる事が当然だと言わんばかりに詳細までも確認されている。改めてここが世界の最前線である事を意識させられていた。

 

 

「そう。なら良いけど。念の為に言っておくけど、従来の物よりも攻撃力が格段に向上してるのと同時に、軽量化もしてるからね。これだけでもスタミナの消耗度合いも違ってくるよ。久しぶりに手強かったけど、良い勉強になったよ」

 

「私の為にすみません」

 

「アネットが謝る必要は無いぞ。ここは他の支部とは違って、誰もが同じ仲間だ。アラガミを討伐するのに、極東じゃないとか考えるのは無駄だろ。今回の件は俺達も普段からブーストハンマーを弄る機会が多く無かったから助かってるんだよ」

 

 リッカだけでなく、ナオヤからも言われた事でアネットは改めて感謝をしていた。まだ新人の頃も、本来であればベテランから順にアップデートする事が殆どだったが、ここではそんな序列は最初から存在していない。生き残る事で改めて次の任務に入るのに、キャリアを考える必要は無かった。

 激戦区故の結果は確実な数字を叩き出す人間からすれば、ある意味では平等な環境だった。

 

 

「そう言えば、次はハンニバルの討伐だよな。参考に聞くが、ドイツ支部では対策は立ててあるのか?」

 

「完全に確立されてる訳ではありませんが、大よそは大丈夫です。ただ、今回の件は新種の可能性が高いので、それがどこまで通用するのかと言われれば何とも言えないですね」

 

 ナオヤの言葉にアネットは改めて今の状況を思い出していた。恐らくハンニバルとの交戦経験は事実上無に等しいのかもしれない。ここでは割と見かけるケースは多いが、他の支部では大型種すら出没する事が少ない以上、明らかに経験が足りていない。本音を言えばアネットとて不安で仕方ない。だからこそ支部長は経験を積ませる為に派遣しているんだと理解していた。

 

 

「取敢えずは実践あるのみだな。幾ら教導を積んでも実際のアラガミと対峙すれば見えてくる物もある。ここでやれるのはあくまでも使用者と神機の一体感を十全にする為の行為だ。決して驕る様な事にはならないかもしれんが、それでも油断だけはするな」

 

 厳しいナオヤの言葉にアネットも頷くしかなかった。事実、アサインされているのはハンニバル討伐。事前に少しでも経験を積む事が出来ればと負った配慮からなのか、アネット以外に、エイジとアリサ。ソーマがアサインされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事で、今回のミッションはアネットが全体の指揮を執るんだ」

 

「わ、私がですか?」

 

「ああ。今回のミッションは今後起こるべき可能性が高いハンニバル種討伐の経験の為だ。俺達の事は何時ものチームのメンバーだと思ってやってくれ」

 

 エイジとソーマの言葉にアネットは恐縮するより無かった。只でさえ経験値の為にアサインされているだけでなく、それぞれが単独でもハンニバル討伐を可能としている。この中ではアネットが一番交戦経験を持たない者だった。そんな人間が極東支部内だけでなく、フェンリルとしての上位に入る人間を引き連れるのはかなりの抵抗を感じていた。

 

 

「アネットさん。今回のミッションはあくまでもアネットさんの経験を積むのが最優先です。私達がこのままやる事に意味はありませんよ」

 

「ですが……」

 

「アネット。厳しい言い方もしれないが、ここはドイツじゃなくて極東だ。ハンニバルだけでなく、他のアラガミも当たり前の様に乱入する事は日常茶飯事なんだ。一つの事だけを考えれば、今度は自分がドイツに戻った時に誰がフォローする事になる?」

 

 エイジの言葉にアネットは改めてここに来た当時の記憶を思い出していた。

 ドイツ支部では自分が頼られる事はあっても頼る事は無い。アラガミとの戦いは生存競争の成れの果てである以上、生き残る事を最優先とするのは当然だった。

 ここでは自分がどれ程のレベルにあるのかを嫌が応にも痛感させられる。だからなのか、自分が気が付かない間に温い考えに染まり出した事を意識していた。

 

 

「そうですね。ここは極東であってドイツじゃないですからね。出来る限りの事をしますので、皆さん宜しくお願いします」

 

 改めて頭を下げ、全員の意識と統一していた。このメンバーの中では一番実力が劣っているかもしれないが、それが何か良い結果を生む事は絶対にありえない。そんな考えをしたからなのか、ハンニバルの足音と思われう物が聞こえる先に視線を映していた。

 

 

《皆さん。そろそろ時間ですので宜しくお願いします。それとアネットさん。変に畏まらずに何時もの調子でお願いします》

 

「了解です」

 

 耳に付けた通信機からのテルオミの言葉にアネットだけでなく全員が改めて音の発生先の方へと意識を向けている。既にテルオミが言う様に時間が来たからなのか、音も無く全員が戦場に降り立っていた。

 

 

 

 

 

「エイジさんとソーマさんはそれぞれ左右から展開して下さい!アリサさんは援護射撃をお願いします!」

 

 荒ぶるハンニバルを他所にアネットは冷静に戦略を立てていた。このメンバーで出向くのであれば、それぞれがかなりの高火力で一気に殲滅する事も可能だが、アネットはそうする事は一切無かった。高火力の火炎は一定以上の間合いを開け、一人に意識が向いた事を察知すれば、すぐに銃撃を当てる事によって意識を変えていく。一つの塊になって戦うのではなく、それぞれが距離をとりながら戦う手段をアネットは選択していた。

 

 

「アネット!」

 

「はい!」

 

 ハンニバルの篭手が結合崩壊を起こした事が全てのキッカケとなっていた。エイジの言葉に全員が何も言う事無く倒れたハンニバルの間合いへと疾駆していく。一撃必殺の攻撃とは違い、地味ながらも同じ個所を執拗に責めるやり方は、今後の部隊運営を睨んでの結果だった。

 痛みを感じたからなのか、それとも怒りを覚えたからなのか、ハンニバルの目はまだ死んでいない。距離を詰めたからと言って、その場で移動を止めて攻撃する様な真似は自殺行為と大差無かった。まるで先程のダウンが擬態だっと言わんばかりにハンニバルは怒りに満ちた視線を持っている。だからなのか、アネットも自然とその目の力が何を意味するのかを察知していた。

 

 

「私が凌ぐ間に顔面か篭手の部分をお願いします!」

 

 擬態がばれたと言わんばかりにハンニバルは素早く自身の体躯を立ち直していた。右腕を鋭く振るう事によって誰も寄せ付ける事をさせないと判断したからなのか、エイジはハンニバルの死角を考えながら、改めてに予想していた場所に自身の刃を振るっていた。

 疾る剣閃によってハンニバルの右腕が肘の先から飛ばされている。既に攻撃の一部を失ったからなのか、ハンニバルの動きは先程よりも遅くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《対象アラガミのオラクル反応は完全に消失しました。後は帰投準備に入って下さい》

 

 テルオミの言葉を聞きはしたが、誰もが警戒を解く事は無かった。既にハンニバルに対しての対抗策は確立されてるが、それでも何かが起こる可能性は否定できない。だからなのか、資材の回収を終えても霧散するまでは視線を外す事は無かった。

 時間が来たからなのか、ハンニバルは時間をかけてゆっくりと霧散していく。討伐時間はこのメンバーで戦っているからなのか、大したコメントが出る事は無かった。気が付けば帰投用のヘリが徐々にこちらへと近づきつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。予想よりも随分と早い様だね」

 

《こればかりはどうしようもないですから》

 

「では、予定通り直ぐに派遣させよう。明日にはここを出る様に段取りしておくよ」

 

《お心遣い恐れ入ります》

 

 支部長室では榊のほかにドイツの支部長の声だけが響いていた。元々予定していた日数よりもアラガミの出現の方が早かった。既にドイツでは一部のチームが斥候の為に出動している。直ぐに見つかっても戦力が整わないのであれば、最悪無駄死にする可能性が高い。だからなのか、今は現状だけを榊に伝える事しか出来なかった。

 

 

「弥生君。すまないが、今回の件は明日の朝一番で出発としよう。それと該当者には連絡を入れてくれ給え」

 

「ではその様に」

 

 弥生が退出した事によって支部長室は榊以外は誰も居ない空間となっていた。現時点でこちらがドイツに行った所で本部が知る由は無い。仮に聞かれた所で適当に答えれば良いだけの話。しかし、今回は出没した地域が地域なだけに本部と言えど細かい事は言うかもしれないが、その可能性は低いと考えていた。

 ドイツと本部は距離的にはそう遠く無い場所。何かしら思惑があるのかもしれないが、それは予定していた思惑が全て完了すればが前提の話でしか無かった。

 

 

 

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