神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第36話 想いを寄せて

 撮影は当初の予定を大幅に超えた時間を要していた。既にアリサ達やジーナ達の撮影は終わり、残す所はタツミとヒバリだけとなっていた。

 当初はどうしたものかと考えはしたものの、自分が考えている事をそのまま言う訳にも行かず、また、ヒバリからも今回の話に関しての話題が殆ど出る事は無かった。

 万が一の事も考え、用意された物に視線を動かす。青い天鵞絨の箱の中身は例の物が鎮座している。本当に良いのだろうか。確かに最近になってから時間が巻戻ったかの様にヒバリと話をする機会は格段に多くなっていた。しかし、それとこれでは話は大きく変わってくる。確かに一緒になってそれなりの時間を過ごした自負はあっても、それはあくまでも自分が勝手にそう考えているだけの話。今回の件は弥生からも言われた様に一つのキッカケでしかない。だからなのか、本当にこれで良いのだろうかとタツミは珍しく考えていた。

 

 

「タツミさん。そろそろ花嫁役の方の準備が終わりますので、お願いします」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 撮影スタッフから呼ばれた事で、漸く現実へと意識を戻す。既にそれなりの時間が経過したからなのか、タツミは何気に用意した箱を目立たない様に上着のポケットに入れ、撮影に望んでいた。

 

 

「あの、どうですか?」

 

「あ、ああ。綺麗だよ」

 

 ヒバリの言葉にタツミはありきたりな返事しか出来なかった。これまでにもドレス姿を見た事はあったが、やはり純白のドレスに関しては今までのイメージを大きく凌駕していた。

 純白の謂れは貴方の色に染まりますと言う意思表示。これからどんな色に染まっていくのかを考えたタツミの理性は徐々に崩壊し始めていた。以前に何かの話の流れでリンドウから当時の状況を聞いた記憶が蘇る。普段は無頓着なリンドウでさえ、サクヤを見た瞬間は純粋に綺麗だと聞かされていた。改めて目の前に居るヒバリを見る。世界中の誰よりも綺麗だとタツミは考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。こちらに目線お願いします」

 

「男性のが女性の腰の部分を抱く様にくっついて下さい」

 

 次々と出る指示にタツミだけでなく、ヒバリもまた言われるがままに動いていた。既に撮影には慣れたとは言え、やはりウエディングドレスの威力は大きい。何時もとは違う雰囲気だからなのか、お互いが少しだけ照れながらもカメラマンの言われる通りに動いていた。

 既にかなりの点数になったのか、2人も疲労の色が見え始める。肉体的には問題無くても、精神的にはやはり慣れないからなのか、どこか疲れが滲んでいた。

 

 

「これでラストです」

 

 カメラマンの言葉と同時に数回のフラッシュがたかれ、そのまま撮影は終了していた。

 気が付けばアリサやジーナ達は着替えているからなのか、そこに姿は見当たらなかった。気が付けば他のスタッフも撤収準備をしているからなのか、誰もタツミ達にまで意識が向いていない。事実上の2人だけの空間は先程までの疲れ以外にどこか重苦しい空気が流れていた。

 

 

 

 

「今日は疲れましたね」

 

「ああ。広報誌とはまた違った緊張感があったかな。暫くはもう良いや」

 

「ですね。私も少し疲れました。色が色ですから汚さない様に気を使うのも大変ですし」

 

 そう言いながらヒバリは改めて自分の来ているドレスを眺めていた。遠目から見れば白の一色だけだが、いざ着てみるとその違いはよく分かる。パーツごとに同じ白でもその度合いが微妙に違っていた。

 生地の違いで変わる色使いは動く度に色んな一面を見せていた。アリサが着ていたドレスはその最たるもので、、一歩一歩歩く度にさざ波の様に動くドレープは確実に画像では言い表す事が出来ない。ヒバリも同じ様な仕様にはなっているが、やはり素材やデザインの違いからアリサの様にはなっていなかった。

 

 

「あのさ、ヒバリちゃん」

 

「何ですか?」

 

「今日って、ドレスだけだったけど、小物とかって撮ってないよね?」

 

「そう言えば、そうですね。でもどうして何でしょうか?」

 

 今回は元々ドレスと小物類がそれぞれセットとなって撮影するはずだった。花嫁を目立たせる為の材料でもある小物類はリングやイヤリングなど多岐に渡る。事実、アリサとジーナはイヤリングやリングを見に付けていた。

 ヒバリも撮影に意識が向き過ぎたからなのか、当初に感じた違和感はそのまま忘却の彼方へと向かっている。改めてタツミから言われた事によって、その疑問が再び浮上していた。

 

 

 

 

 

 ヒバリが疑問を呈した所で、タツミの内心はドキドキしたままだった。元々今回の撮影の際にはリングが用意されていたが、事前に見たからなのか、タツミはそのリングをキャンセルしている。

 当初は断られるかと思われたものの、アッサリと了承された事によってそのまま撮影となっていた。もちろん、事前にそうなるであろう可能性をカメラマンは聞かされていた為に、タツミがどんな思いを持って言ったのかまでは分からない。

 しかし、カメラマンもその道のプロである以上、こんな場面で決意を秘めた視線を向ける以上、野暮な真似をするつもりは毛頭無かった。だからこそ、その思いを汲む為に快く了承していた。完全に撤収準備に入ったのか、背景の映像はそのままになっている。誰も居ない今だからこそタツミは自分の気持ちとばかりにありったけの勇気を振り絞っていた。

 

 

「実はさ……リングとかは元々あったんだよ。でも、俺が止めたんだ」

 

「………」

 

「ヒバリちゃんのドレス姿……すっごい綺麗でさ。俺……」

 

 タツミの様子が何時もとは違う事は直ぐに理解出来ていた。ヒバリの知る限りタツミのこんな表情は今までに見た事が殆ど無い。もちろん、この衣装を着て小物類をタツミが止めたとなればヒバリとて何を意味するのかは理解出来る。だからなのか、言葉に詰まるタツミの手をヒバリは優しく握っていた。

 慈愛に包まれた笑顔にタツミは更に言葉に詰まる。これまでにも何度もヒバリの笑顔を見てきたが、こんな表情のヒバリは見た事が無い。まるで応援している様にも見えたからなのか、タツミは改めて自分の気持ちを言葉にしていた。

 

 

「俺……ヒバリちゃん。いや、ヒバリ。俺と結婚してほしい」

 

 言葉と同時にタツミはポケットにあった青い天鵞絨の箱をヒバリの前に出し、頭を下げていた。これまでにも何度も軽口の様に出た言葉ではなく、自分の身の丈にあった言葉で思いを告げている。

 本来であればヒバリの顔を見て言うのが一番だが、今のタツミにとって、ヒバリがどんな表情をするのかが怖くて見る事が出来ない。言ったまでは良かったが、ヒバリからの返事は何も無いままだった。

 頭を下げてからどれ程の時間が経過したのか、タツミは徐々に怖くなっていた。アラガミと対峙した時でもこうまで恐怖心に襲われる事は無かった。事実、ここで断られれば立ち直る事は出来ない。ひょっとしたら任務中にアラガミに捕喰されるかもしれない程に自身の平常心を保つ事は出来なかった。時間と共に返事が無い。タツミは恐る恐る顔を上げていた。

 

 

「ヒバリちゃん?」

 

 タツミの視線の先には双眸から流れる涙に言葉を告げる事が出来ないヒバリがいた。何時もの様な笑顔でも無ければ、仕事をしている時の様な真剣な顔でも無い。色んな感情が入り混じった様な表情のまま、ただ涙を流していた。

 

 

 

 

 

「俺と結婚してほしい」

 

 この言葉を聞いた瞬間、ヒバリはこれまでの事を思い出していた。最初は些細なキッカケだったのかもしれない。もちろん、当初は気にもせず、ただうっとおしいとさえ思っていた。

 

 しかし、幾度となく極東の危機に対し諦める事無く戦い続け、時には自身の命が無くなる寸前にまで追い込まれた事もあった。自分が出来る事などたかが知れている。戦闘員に対し、非戦闘員が出来る事など無に等しいとさえ思っていた。そんな中でタツミへの感情がゆっくりと育って行く。

 もちろんヒバリとてアリサの結婚式を見て羨ましいと感じる部分も確かにあった。当時は勢いそのままで言われた為に、こちらも軽く返した。しかし、今のタツミの真摯な言葉は何の打算も無く、ただ自分の心の内をさらけ出していた。

 

 それと同時にこれまでの事を改めて思い出す。そんなタツミに対し自分はどれ程の事が出来たのだろうか。一時期タツミと仲が良いと噂を聞いた瞬間、ヒバリの心の中では色んな葛藤があった。

 決して蔑ろにした訳ではないが、やはりお互いがすれ違っていると感じていたからこそ弥生の協力でお互いがゆっくりと話をする機会が設けられた。話せば話すほど自分はやっぱり好きなんだと感じていく。本当の事を言えば今回の撮影の後でヒバリからタツミに対し、具体的な話をしようかと思った矢先だった。

 そんなタツミの言葉がヒバリの心をゆっくりと包み込んでいく。気が付けば無意識の内に流れた涙が止まる事は無かった。

 

 

 

 

 

「タツミさん。一つだけ聞きたい事があるんです。本当に私なんかで良いんですか?」

 

「ああ。ヒバリちゃん以外の誰かを好きになる事は無いさ」

 

「私、こう見えて嫉妬深いですよ」

 

「愛されてる証だろ」

 

「私よりも綺麗な人なんて沢山居ますよ」

 

「別に見た目だけで決めたつもりは無いから」

 

 それ以上の事は言わせないとタツミはヒバリを抱きしめていた。小刻みに揺れているのは何かしらの感情が高まっているからなのか、それとも他の何かがあるのだろうか。今のタツミにヒバリの心情を理解する事は出来ない。だからなのか、タツミは改めてヒバリに言葉を告げていた。

 

 

「他の誰よりも愛している」

 

 そう言いながらヒバリの唇に柔らかく自分の唇を重ねる。改めて持っていた箱をそのままヒバリに見せていた。

 

 

「これ、思い切って用意したんだ。今回の件があった訳じゃ無いんだけど、やっぱり何も分からない物よりも自分の用意した物を見に付けて欲しいんだ」

 

「はい。こんな私で良ければお願いします」

 

 ヒバリの言葉にタツミは改めて用意したリングをヒバリの左手の薬指にはめていた。

 元々こっそりとサイズを図っていたからなのか、ヒバリの指に設えたかの様にはまっていた。

 

 

「私からお願いがあります。私の事は呼び捨てにして下さい。タツミさんの……妻になるのにいつまでもそんな呼び方はちょっと……」

 

 涙の痕がメイクを少しだけ汚していた。元々泣くつもりは無かったからなのか、ウォータープルーフのファンデーションではない。崩れたメイクは本来であれば見せるべき物では無い。しかし、今のヒバリはこれまでに見たどんな表情よりも綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人の空気がこのまま続くかと思った瞬間だった。これまでの緊張感に包まれた空気は一瞬にして崩れ去っていた。誰も居ないはずの空間に幾つもの拍手の音が重なっている。気が付けばアリサだけでなくジーナやリッカの姿がそこにあった。

 その後ろには弥生と先程まで撮影をしていたカメラマンの姿がそこにあった。

 

 

「え……何…これ……」

 

 ヒバリの言葉はタツミもまた同じだった。誰も居なはずの空間に気が付けば先程まで居なかったはずの人間がそこに居る。しかも一緒に撮影していた衣装は既に純白ではなく、色がついたカクテルドレスや着物姿だった。この場に居ないはずのリッカでさえもしっかりとドレスアップしている。突然の状況に2人の理解は追い付かないままだった。

 

 

「実は今回の件でタツミさんとヒバリちゃんが上手く行ったらそのまま式を続けようかと思ったのよ。折角お膳立ても出来てるんだし、問題無いわよね」

 

 弥生の言葉に周囲の景色は一変していた。撮影の際にはスクリーンで隠れていたが、それが落とされると既に準備は出来ていた。気が付けば部屋にはそれ以外の人間が続々と入ってくる。誰もがタツミを慕う者ばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら上手くいった様ね。そろそろ準備に入りましょうか」

 

 弥生はモニターの先で2人の様子を眺めていた。幾ら秘書はと言え、プライバシーは配慮しているからなのか、音声までは拾っていない。何となくでもお互いの表情を見ればそれがどんな結末を迎えるのかは理解していた。

 屋敷でお互いの話を聞いた際にはお互いが同じ考えを持っていたまでは良かったが、距離が空き過ぎた事もあってか距離感が分からない状態になっていた。

 

 タツミに関しては裏から手を回した結果が実を結んでいた。今回の結末を元々予定していた訳では無い。事実、弥生の立場からすればお互いがどんな気持ちがあったとしても、こちらからは何も出来なかった。

 エイジとアリサの時にはお互いが既に気持ちが一つになっていた為に特に気にする様な部分は無かった。もちろん身内だから何となくでも理解出来る。しかし、この2人に関しては何とも言えない部分も少なからずあった。

 戦闘員同士とは違い、お互いの立場が違う。ましてやヒバリの立場はそれを知ってなお、そんな判断を下す事が可能なのかが最大の要点だった。

 

 

「でも、上手く行って良かったんじゃないの?」

 

「あのタツミにしては上出来だな。これで多少は暑苦しさも無くなるだろうな」

 

 ジーナだけでなく、カレルもまた先程の純白の衣装から砕けた礼装に着替えていた。

 既にモニターの向こうではお互いが指輪をはめている。だからなのか、背後から来たブレンダンとシュンの存在を知ってはいたが、敢えて何も言う事は無かった。

 

 

「しかし、結末がこれならば俺達も安心だな」

 

「タツミも漸くかよ。一体どれだけ時間がかかれば気が済むと思ってるんだよ」

 

「あら?シュンも羨ましいのかしら」

 

「ち、違ぇよ。俺はまだそんな事を考える暇は無いんだよ」

 

「なんだ。まだ借金の返済が終わってないのか?」

 

「んな訳無いだろ!完済したに決まってるだろ」

 

 モニターの向こう側では未だタツミとヒバリがくっついたままだった。このまま放置しても良いが、今後の事を考えればそれは得策では無い。背後で楽しく話す防衛班の面々を尻目に弥生はアナグラ全館に伝わる様に放送を開始していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが極東のやり方なのか。中々感慨深い物だな」

 

「それは無いぞ。実際にエイジさんとアリサさんの時はこうじゃなかったからな」

 

 放送を聞いた瞬間のアナグラの中では色んな感情が渦巻く声が沸き起こっていた。古参の人間であればやれやれと言った部分が多かったが、何も知らない新人や中堅にとっては驚愕以外の何物でも無かった。

 戦場での頼りになる存在でもあるオペレーターの中でヒバリの存在が群を抜いている。

 冷静沈着なフランや、まだ危うい部分があるがどこかほっこりとするウララの存在よりもヒバリの適格な指示が群を抜いている。何も知らない人間からすれば寝耳に水の放送に涙した者も居た。

 そんな中でブラッドの面々もまた突如起こった放送にどこか漸くかと言った部分があった。普段はフランが多いブラッドも、時折他のメンバーと組んだ際に聞くヒバリのオペレートは安心感が漂っている。ヒバリとの関係も知っていたからなのか、どこか納得した部分があった。

 

 

「確か、白無垢とウエディングドレスだったよね。あれ?確か今回そんな撮影があったんじゃなかった?」

 

「そうでしたね。確かそんな話がありましたね。我々は年齢的に若すぎるからとは言われましたが」

 

「そうなのか?確か極東のルールだと女は16から出来たと聞いてるが?」

 

 ナナとシエルの言葉にリヴィは以前に弥生から聞いた記憶があったのか、改めて口にしていた。理論上はそれでも可能だが、実際にそうなのかと言われればやはり躊躇していた。

 事実若年の結婚はそう多くない。アリサとて18の時だった記憶があったからなのか、シエルとナナは当時の事を思い出していた。

 

 

「確かにそうですけど、中々そんな年齢で結婚なんて考えにくいですよ」

 

「だが、相手がいればそんな可能性はあるんじゃないのか?」

 

 リヴィの言葉にシエルもそれ以上の言葉を告げる事は出来なかった。今回の件だけではないが、相手がいればそれなりにの立場であれば可能性が無い訳ではない。しかし、今のブラッドにそんな話は無かった。

 普段の任務だけでなく農業にも勤しむ以上、そこまで考えている余裕は無いままだった。

 

 

「でもさ、タツミさんとヒバリさんの結婚式をやるって事は特別な料理が出るのかな?」

 

「そう言えばラウンジでエイジさんが何かやってたな」

 

「なるほどな。ナナは色気より食い気って事か」

 

「ギル。言っておくけど私だってそれなりに関心はあるんだよ」

 

 ナナの言葉にギルが僅かに気圧されていた。分かり易い程の圧力にギルは僅かにたじろいでいる。何か地雷を踏んだと感じたのか、ギルはそれ以上の言葉を口にする事は出来なかった。

 

 

「何にせよ、ナナがそうなった際にはブラッドの皆で盛大に祝おうじゃないか」

 

「それ本当!何だか楽しみ」

 

 ジュリウスの冷静な言葉に誰もが呆気に取られながらも、状況を理解したからなのか、思わず笑みが零れてた。

 

 

「で、俺達はこれからどうするんだ。弥生さんからも連絡が来てるが」

 

「そうですね。北斗はどうするつもりですか?」

 

「俺は参加する。ジュリウスはどうするんだ?」

 

「勿論、参加させてもらう。こんな機会は中々無いからな。折角だ。皆もどうだ?」

 

 北斗とジュリウスの言葉に異論を挟む者はいなかった。以前に見たエイジとアリサの式を見た際には何か心に響く物があった。あの感情が何なのかは口にするまでもなく自分達も一人の人間であり、これまでやって来た結果が身を結んだのだと感じていた。

 だからなのか、それぞれが着替える為に自室へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジ。良かったですね」

 

「ああ。一時期はどうなるかと思ったけどね」

 

「何時から知ってたんですか?」

 

「聞いたのは最近だよ。ただラウンジに居ると色んな話が聞こえて来るからね。今回の件は何となく聞いてたんだよ」

 

 ラウンジの噂を聞いていたエイジは心中複雑だった。コウタの時もそうだが、ヒバリの時も何かと話を聞いている。ラウンジでの話を他で言うのは完全なマナー違反。それがどんな結果をもたらすのかを考えれば、安易に口にしないのは鉄則だった。

 人の噂に戸は立てられない。だからこそ自分が迂闊に口にする訳にはいかなかった。

 

 

「後はリッカさんだけですね」

 

「コウタの事は良かったの?」

 

「コウタはまぁ……あれですから」

 

「中々手厳しいね」

 

 そんなアリサ達の会話を他所に、撮影の衣装をそのままにヒバリは改めてメイクをし直していた。赤い絨毯の上を歩くその姿は何時もの2人では無かった。参加者の多さは人望が厚い2人が今まで歩んできた結果。その姿は幸福に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒバリさん。やっぱり綺麗でしたね」

 

「そうですね。タツミさんには勿体無い様な気もしますが。現に涙した人は多かったみたいですよ」

 

 2人の式が終えてから幾日が経過していた。突貫ではあったものの、事前に準備した事が功を奏した形となり、結果的にはエイジとアリサの時と同様に盛大な物となっていた。そんな当時の記憶が蘇ったのか、フランとテルオミは当時の事を話していた。

 

 

「あれ?ヒバリは休憩?」

 

「はい。今は小休憩ですね」

 

「テル君はあれ見た?」

 

 リッカの言葉にテルオミが何の事なのか記憶に無かった。実質ドレスを見る男性陣はそう多く無い。精々が何か違う用途で手に入れる位の可能性しか無かった。そんな中でリッカの手にあったのは例のカタログ。それを見たテルオミは漸くリッカの言葉の意味を理解していた。

 

 

「これは……中々の出来ですね」

 

「多分ヒバリは知らないと思うよ。私もさっき見てびっくりしたから」

 

「なるほど。タツミさんなら確実に手にしてそうですね」

 

 フランとテルオミはリッカが持ってきたそれから視線が動く事は無かった。表紙こそ極普通だが、中身は確実にタツミとヒバリの事がメインだと言わんばかりの写真が掲載されている。まだ目にしていないからなのか、ヒバリが戻ったらどう言おうか。そんな空気がロビーには漂ってた。

 

 

 

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