神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第51話 その正体

 突発的なミッションにも拘わらず、何時もと同じ様に討伐したブラッドは、念の為にと今回のミッションに関しての気になった部分をそのままレポートにして提出していた。

 普段であれば気にも留めない一文。しかし、今の取り巻く環境を考えるとそれは決して無視出来る様な内容では無かった。

 既に今回の件に関してはクライドルは何かしらあったと判断しているが、ブラッドはまだそこまでの考えには至っていなかった。

 

 

「今回の件なんだが、一度公開した方が良いかもしれないね。このままだと最悪の被害が出る可能性もある」

 

「そうですね。我々だけの胸の内に留めるには無理がありますね。ですが、これが本当なら敵は身内になりませんか?」

 

 北斗が提出したレポートを見た榊は直ぐに決断していた。

 フェルドマンの情報から考えれば、姿が見えないとう言うのは色々な意味で厄介な部分が多分にあった。何も無い場所であれば音や景色が歪になる為に確認が可能だが、これが戦闘時となれば話は大きく変わってくる。

 神機兵の敵性が何なのかはプログラムの確認をしない限り、外部からは判断出来ない。

 仮に感応種や神融種との戦いの最中に乱入ともなれば最悪の結果しか生まない可能性がある。となれば、常に後手後手になってしまう。

 公表すれば動揺するのは確実だが、それでもむやみに被害を出す事も良しとは言えない事情がそこにあった。

 

 

「サクヤ君。今回の件に関してなんだが、この神機兵の最初の謂れから既に黒に近いんだよ。事実、情報管理局も現在は確認をしているんだが、出所については調査中。アラガミが作れる訳が無いんだが、これも本来の目的が何なのかすら分からないんだ。公表の際には開発中の神機兵が暴走している体で発表しようかと思っている。でなければ何かと面倒な事になり兼ねないんだよ」

 

 榊の言葉にサクヤも改めて現状を思い出していた。まだここでは話題には上っていないが、万が一があった場合、厳しい対応を迫られるのは間違い無かった。

 かと言って事実だけを告げるのもまた悩ましい結果だった。下手な対応をすれば事実上の内乱と受け取れる事も出来る。ベテランや中堅であればそれで終わるが、それ以外となれば確実に動揺するのは間違い無い。

 アラガミが迫るこの場所で、無駄飯だけを食べさせる余剰戦力は極東支部には無い。今の厳しい局面を乗り切るには、榊の提案に乗る以外に方法が無いまま時間だけが過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウタ隊長。今回は一体何があったんですか?」

 

「俺も何も知らないんだ。サクヤさんから緊急招集が掛かったから来てるだけで、発表はこれかららしい」

 

「そうね。私もアリサさん達にも聞いたけど、今回の件は何も知らないって言ってたかな」

 

 エリナの質問に、コウタだけでなくマルグリットでさえも知らされていない事実だからなのか、エリナは何時もとは違った緊張感が襲っていた。

 通常であればアラガミの大群が押し寄せるケースが多く、そうなればレーダーにも反応する為に用件は何となく理解していた。しかし、今回の件に関しては全く分からないままだった。

 部隊長レベルでさえも知らされていない事実に第1部隊だけでなく、他の部隊にも動揺が走っていた。

 

 

「今回の件なんだけど、まだ未確認の神機兵が暴走している可能性があるの」

 

 サクヤの冒頭から始まる経緯に誰もがその内容を確認せんと耳を傾けていた。

 厄介な部分だけを削除しながら事実だけを淡々と述べていく。暴走した神機兵そのものはまだ極東に居る為にそれ程の動揺は無かったが、問題なのはその大きさだった。

 

 通常の神機兵の1.5倍以上ある巨体が神機と同様の兵装で来るとなれば対応はかなり厳しい物となっていた。

 これまでに見たアラガミの中でも確実に大きい部類に入っている。クアドリガ種の大きさを持ちながら通常の神機兵に近い機動を持つとなれば、今度は違う意味で厄介な代物だった。

 画像データすら無い事実に誰もが無言のままにサクヤの説明を聞いている。何を想像しているのかを判断するには些か厳しい結果となっていた。

 

 

「サクヤさん。それって、ここに来てるんですか?」

 

「正直な所、まだ確認はされてないの。でも他の支部では既に被害はそれなりに出てる。分かってるだけでもアラガミ防壁の一部は破損してるから、一刻も早い討伐が必須よ」

 

 サクヤの言葉に誰もがその破壊力を想像していた。アラガミとは違い、神機兵に関しては案外と厄介な部分が存在している。

 一見獣の様な動きを見せるかと思えば、今度は理知的な攻撃を仕掛けるケースもあった。

 アラガミとは違い、神機兵の装甲は神機との相性は決して良いとは言い難い。確実性を考えるのであれば、メンバーの中にブーストハンマーかバスター。ブラストを所持しない場合、固い装甲を破壊するには通常以上に時間を必要としていた。

 尤も部位破壊さえ出来れば問題は無いが、そこに至るまでの過程が神機兵の討伐を厳しい物へと変化させていた。そんな中での通常以上の巨体を持った神機兵となれば、確実にそれ以上に手間がかかる。

 ここに居るメンバーは、これまで何度か討伐した記憶があったからなのか、表情は厳しい物へと変化していた。

 

 

「今回の件に関しては逐一情報が入り次第、各部隊長への通知をします。常に確認だけはしておいて下さい」

 

 最後の締めの言葉と同時に解散となっていた。姿が見えない事実が厄介ではあるが、実際に光学迷彩に関してはまだ完全に裏を取っていない。フェルドマンからの情報に偽りは無いとは思っても、やはり確実性が無いからとその部分の公表だけは避けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レア先生。今日のサクヤさんが言っていた件ですが、本当なんですか?」

 

「そうね。私も直接見た訳じゃないの。ただ今回の件だけじゃないけど、万が一の際に、ここにある神機兵にも影響が出る可能性があるからって言うのが今回ここに来た理由よ」

 

 サクヤからの発表はその場にいた全員に周知したあとは何時もと変わらないままだった。

 アラガミが襲撃している訳でも無ければ危機が訪れている訳でも無い。あくまでも情報提供の体で話したからこその結果だった。

 しかし、ブラッドに関してはマルドゥーク戦での内容が気になったからなのか、ここに居るレアに対し、改めて確認する選択肢を取っていた。

 

 

「しかし、本部はどうして巨大な神機兵を投入しようと考えたんでしょうか?」

 

 シエルの疑問は尤もだった。本来であれば既存の神機兵だけでアラガミの討伐は事足りている。そんな状況にも拘わらず、新たに巨大な神機兵を投入する必要性が見当たらなかった。

 

 

「その件に関しでは私にも分からないの。実際に本部とは言っても上層部の権限で搬入されたって事実だけだから。本当の事を言えば私も詳しくは分からないのよ」

 

「そうっだったんですか……」

 

 レアの言葉半分は正しいが、もう半分は嘘だった。現時点では大よその事は知っているが、それを公表するとなればブラッドもまた何かに巻き込まれる可能性が極めて高かった。

 ただでさえ神機兵の事に関しては出来る事ならブラッドには関与してほしく無い。仮に今回の件で何の損害も出なかったと仮定しても、やはり経緯を調べれば何の目的があって製造された事なのかは確実に知れ渡ると考えていた。

 既に情報管理局が動く以上、何も無いで終わるはずが無い。幾ら時間が経過しているとは言え、神機兵の開発に携わってきたシエルにとって、無駄な苦労を掛けさせたくない。そんなレアの考えがそこに存在していた。

 

 

「今は注意しながら行動しろって事位ね。貴女達なら大丈夫だとは思うけど、どこで何があるか分からないのも事実よ」

 

「そうですね。今後はそれも考えて作戦行動に移ります」

 

 シエルの言葉にレアは笑みを浮かべるだけに留めていた。

 既に矢が放たれた状況である以上、着地点がどこにあるのかは誰にも分からない。

 今出来る事が何なのかを理解したからこそ、レアは改めて今回の役に立てる事が出来ればと、新たなプログラムの作製に取り掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サテライト建設予定地では既にアラガミの討伐が終わったからなのか、建設の作業は急ピッチで進んでいた。

 本来であればオラクル細胞を剥き出しにしてアラガミの餌にする事は無いが、場所と時間の都合上仕方の無い事だからと、手順の一部を削除した結果だった。

 行程の一部が無いからなのか、周辺を護るかの様に円形状に模るアラガミ防壁の建設も残す所3割を切っていた。ここが正念場。ここで被害が出れば最悪は一からの再出発となる。

 昼夜を問わず警戒しているからなのか、一部の人員を除いて今は休息の為に眠りにつく者が殆どだった。

 静まり返る闇は如何なる侵入者の姿をもくらます。そんな周囲を確認するかの様にリンドウとエイジは夜間の警護の為に周辺状況を確認していた。

 

 

「しかし、例の話だが本当なのか?」

 

「詳しい事は僕も分かりません。ですが、相手がアラガミでは無くても神機兵であればかなり厳しい戦いになるのは仕方ないですよ」

 

「だよな……何時も見るあれよりもデカいんだろ。気が滅入りそうだぞ」

 

 本来であればサクヤがもたらした情報は確実に榊や弥生も知ってる内容だった。

 しかし、今回に関しては詳細なアナウンスはクレイドルにも降りてくる事は無かった。これまでの事を考えれば異常とも取れる状況。

 リンドウだけでなく、エイジもまた今回の件に関しては神機兵の大よその事しか知らされていなかった。

 

 

「ですが、神機兵に装備された光学迷彩とステルスは厄介ですよ。こっちが気が付かない間に接近されるなんで悪夢以外に無いですから」

 

 エイジの言葉にリンドウもまた同じ事を考えていたからなのか、苦虫を噛み潰した様な表情をしていた。

 見えないと言うだけでどれ程戦闘が苦戦するのかは考えるまでも無い。それだけではなく、神機兵全般に言える事でもあるが、本能で動くアラガミとは違い、神機兵はどこか理知的な行動をする事が多かった。

 単純に来るだけでもそれなりの質量があるが、それに知性も加わる攻撃はかなり厳しい戦いになる事が多く見られていた。

 完全に暴走すれば問題無いが、時折現れる暴走とまでは行かないが、かなりの動きを見せる個体が厄介な物だった。一度アナグラで確認した際にはまだ序盤に配備された物と後半に配備された物では明らかに思考が異なっているケースが多い。

 その結果、単純に神機兵の討伐の際には現地入りするまでは何も分からないケースが多かった。

 

 

「ったく。厄介な物を作ってくれたもんだ」

 

「本当ですよ」

 

 2人の身体にはまだ冷たさが残る風が当たっていた。周囲には何も見当たらないからなのか、2人以外に気配は無い。そんな取り止めのない瞬間だった。

 身体に当たった風が一瞬だけ何かにせき止められたかと思った瞬間、再び風が何も無かったかの様に当たっている。未だ周囲には何も見えない。しかし、今の2人には嫌な予感だけが全身を駆け巡っていた。

 

 

「エイジ。急ぐぞ」

 

「はい」

 

 半ば全力に近い速度で走り出していた。サテライトの建設予定地までは走れば時間にして数分で到着する程の距離。理由は分からないが、これまで培ってきた戦闘本能だけが危険だと告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故私がこんな所に呼び出されなければならないんだ。まさかとは思うが、内容によっては貴様の事など、どうとでも出来るのだぞ」

 

「我々は貴方方とは違い、やるべき事が多すぎましてね。無駄な事は何一つしたく無いんですよ」

 

 情報管理局の局長室では冷ややかな対談が行われていた。

 フェルドマンの前に座っているのは、()極致化技術開発局長でもあったグレゴリー・ド・グレムスロワだった。

 ラケルの反乱によって一時期は査問委員会への招致も検討されていたが、結果的には追求するだけの材料が無かった事から有耶無耶の内に終わっていた。

 身内の反乱にフライアの摂取。自己の資金を投入した物が結果的には奪われた事と同時に、フェンリルに対し多額の慰謝料までを分捕ったからなのか、依然と同様に横柄な態度は何も変わっていなかった。

 

 

「単刀直入に聞きます。例の神機兵。あれは御社の工場で作られた物ですね?」

 

「ああ。それは間違い無い。だが、見知らぬ賊に奪われたのだから、仮に損害が出たとしても我々に落ち度は無い」

 

「我々はそんな事に対し関知しません。それは法務部が考える話ですから。ただ、あの神機兵。随分と不相応な兵装を搭載してますが、ご存じでしたか?」

 

 僅かに笑みを浮かべたフェルドマンの言葉にグレムスロワは僅かに考えていた。何とは口にしないが、暗にそれがある事は明言している。

 ここで態々相手の土俵に乗る必要は無いと判断したからなのか、兵装に関しては口を閉ざし、様子を見る事にしていた。

 

 

「不相応?何の事だ」

 

「知らないのであれば結構です。我々としてもそれ以上の事は捜査の内容に関わる事ですので。今回お越しいただいたのは、その所在と製造元の確認だけですから」

 

「ふん。だったら態々呼び出す必要はあるまい。次回からは君が来るんだな」

 

「ええ。是非そうさせていただきます」

 

 これ以上の事は無用だと判断したのか、グレムスロワの言葉にフェルドマンはあっさりと引き下がっていた。

 事実、詳細を話した所で『それがどうかしたのか』と言われれば言葉に詰まる。お互いの情報がこれ以上でないのであれば時間の無駄でしかない。

 だからなのか、グレムスロワは帰り際のフェルドマンの表情を見る事はないまま局長室から退出していた。

 

 

「恐らくはクロだ。だが、あれだけ落ち着きを払う以上は何かしらの背後が有るはずだ。資金トレース、出来る範囲で構わん。追跡してくれ」

 

《了解しました》

 

 フェルドマンの指示に通信機越しの相手が了承している。既に何かを掴みつつあったからなのか、フェルドマンの表情は対峙した時よりも更に険しいままとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇に蠢く物を見たのは奇跡にさえ等しいと思えていた。本来であれば光学迷彩を纏ったそれを移動しながら発見する事は出来ない。純粋に移動した際に、息継ぎでもするかの様に僅かに光学迷彩が揺らいでいた。

 完全に見える訳ではないが、おぼろげながらに物体の輪郭だけは歪んだ様に見えている。既に考えるまでもなくエイジは通信回線を開き、即時に指示を飛ばしていた。

 

 

「総員。敵が接近!至急警戒せよ!」

 

 

 

 

 エイジの言葉に、眠っていた人間も全員が一気に目を覚ましていた。元々野戦が基本なメンバーだからなのか、その一言だけで十分だった。

 眠りから一瞬にして覚醒し、隣に置いていある神機を握り周囲の気配を探索する。訓練でも無いかぎり、全員が瞬時に戦闘態勢へと意識を変えていた。

 

 

「一体どこに……」

 

 飛び起きた先に見たのは何時もの空間。エイジの言葉で飛び起きたが、アラガミの姿はどこにも無かった。

 冗談なのか訓練なのか判断に苦しむ。改めて周囲を見渡した瞬間だった。

 

 

「……何?」

 

 誰かが疑問を発した瞬間だった。突如として建設途中だったアラガミ防壁が爆ぜていた。

 周囲にアラガミはおろか、敵性行為すら見えない。幾ら目を凝らしても全員の目に映るのは何時もの空間だけだった。

 周囲を見るも、防壁が破壊される事実だけ。それが何を意味するのかすら判断できないままだった。

 何かが居るのは分かるが、それが何なのかを理解出来ない。これだけの精鋭の目の前で確実に建設された防壁が破壊されていた。このままでは拙い。誰もがそう思った瞬間だった。

 突如として放たれた銃弾が何も無い場所で小爆発を起こす。誰もが何が起こったのかを理解できないまま時間が僅かに流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンドウさん。あれって」

 

「ちょと遅かったみたいだな」

 

 2人の目には何も無い空間が建設中の防壁を破壊している姿だけが確認されていた。

 しかし破壊される瞬間、僅かに空間が歪んだ様にも見える。明かりと暗闇の対比がそうさせたのか、エイジの目には見えない様に見える何かが破壊活動をしている様にも見えていた。

 振りかぶる何かが破壊活動をしている。これ以上の破壊活動を容認出来る程にエイジの心中は穏やかではなかった。

 走りながら狙いだけは大よそでつける。走りながらの銃撃が難しいのは誰もが理解しているが、元々厳しい姿勢でも射撃が出来る訓練をしてきたエイジからすれば大きい的に外す要因はどこにも無かった。

 アサルトの特性を活かし、3点バーストの様に3発の銃弾が着弾する。そのうちの1発が何か重要な個所を直撃したからなのか、先程まで見えなかった姿がゆっくりとその姿を現していた。

 

 

 

 

「あれが例の神機兵だ。総員注意しろ!神機兵の戦闘音を察知する可能性は高い。部隊を通常から臨戦に変更。すぐさま周囲の索敵を開始だ。それとアナグラにも連絡!」

 

 エイジの言葉に自分達の役割を思い出したかの様に部隊の配置が完了するとすぐさま周囲の索敵を開始していた。

 これまでもサテライトの建設の際には戦闘音を察知したアラガミからの強襲は数えるのを止める程あった。ましてや今回の様な資材を使用する以上、寄ってくるのは必須。厳しい戦いになるだけではなく、負傷者の数を広げる訳にはいかないからと、そんな思惑もそこにはあった。

 シロガネ型神機兵はエイジとリンドウを捉えたからなのか、既に顔の無機質なレンズを向けていた。

 

 

 

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