シロガネ型神機兵の強襲はすぐさまアナグラにも一報が届いていた。
現時点で既にその正体を表しているからなのか、エイジとリンドウを中心に交戦中だった。これまでに討伐した神機兵とは違い、今戦っているのは更に上方修正された物。
飛び込んだ通信の内容を確認すると同時に、別の回線からも同様の通信が飛び込んでいた。
「サクヤ君。聞いての通りだ。サテライトの件は既に交戦中だが、極東支部の外壁の破壊は未だ正体不明のままだ。既に防衛班が出動しているが、今後の事を考えると決して良い流れにはならないだろう。直ぐにブラッド隊にも出動要請してくれ給え」
「了解しました」
榊の言葉にサクヤもまた同じ事を考えていたからなのか、その行動は早い物だった。
「極東支部外縁部が正体不明の何かに破壊されているわ。現時点での襲撃に関する詳細は不明。でも、サテライト建設地も同様の結果が出ているのと同時に、現在交戦中。現時点を持って正体不明の破壊活動は神機兵に断定とする。本作戦は速やかに実行よ」
サクヤの言葉に召集されたブラッドだけでなく、他の部隊の人間もまた表情が一変していた。
開示された情報が殆ど無く、また討伐方法そのものが確立されない。何よりもこれまで新種との討伐経験が少ない部隊にとっては最悪の展開だった。
これまで極東支部に於いては教導を終えたメンバーが最初にやる事はノルンに記載されたアラガミの情報を確認する事だった。
他の支部とは違い、交戦した経験が豊富だからなのか、そこに記された情報は膨大だった。
弱点属性だけでなく、行動原理や特性など覚える事は多岐に渡っている。勿論、忘れたからと言って困る事は少ないが、それでも事前に知っているのと知らないのでは天地程の差があった。
そんな戦い方をすれば当然新種が現れると対処する事は格段に厳しくなっていた。
交戦経験が無いままの戦いは純粋に本人の技量が試される事になる。
突出した戦力があったとしても、全てをフォローする事は不可能に近い。そんな事実があったからなのか、既に招集された人間の殆どがこれまでに無い程に厳しい表情を浮かべている。
そんな状況を見てもなお、サクヤは淡々と状況説明だけを続けていた。
「サクヤさん。シロガネ型神機兵と断定する以上は、こちらとしてもそれなりに対処する必要があります。情報開示はどれ位出来ますか?」
「現時点での情報開示は伝えた通りまでよ。実際には交戦中のチームから逐次情報が届いてからね」
サクヤの言葉に質問したシエルもまた考えていた。
実際に新種との交戦はクレイドルだけでなくブラッドもまたそれなりに経験をしている。これまでに螺旋の樹で討伐した神融種の経験は思った以上に部隊の底上げをしていた。
今出来る事は目の前で続けられている神機兵の速やかな排除。サクヤが言う様に開示された情報は少ないものの、神機兵である以上はやってやれない事は無いだろう。そんな考えが浮かんでいた。
一方のサクヤもまた、シエルと同じ様な事を考えていた。ブラッドのこれまで行って来たな戦いを自分の目で見た訳では無いが、コンバットログを見れば大よその事は判断出来る。
虚偽などありえないとばかりに、示されたデータが他の部隊に比べればまだ安定している様にも思えていた。大型ディスプレイには襲撃を受けている箇所にはアラガミの姿はおろか、敵性の確認すら出来ない。
僅かに聞き及んだステルスと光学迷彩の威力を現時点をもって体感していた。
「畜生!何だよこれは!」
「攻撃が届かない!」
「誰か救援を頼む!」
突如として破壊されたアラガミ防壁の周辺には予想通り破壊音に寄せられたのか、小型種を中心にアラガミが寄せられていた。
未だ姿を目視出来ないからなのか、小型種の討伐を開始した瞬間、見えない何かに攻撃が阻まれていた。
全てを斬り裂かんと横薙ぎに振るった刃は、目の前に居るオウガテイルに届く事無く見えない何かに阻まれるからなのか、手に跳ね返る衝撃と共に態勢が大きく崩れていた。
本来であれば乱戦になったとしても、こうまで厳しい戦いになる事は最近は殆どなかった。
そんな攻撃を嘲笑うかの様にこちらの攻撃は阻まれるが、オウガテイルの攻撃は当然の様にこちらに届く。振り回した尾は豪快な風切り音と共に不意討ち気味に一人のゴッドイーターの横っ腹に届いていた。
幾ら小型種とは言え、アラガミの力は強大。盾の展開が間に合わなかったからなのか、肋骨の何本かは粉砕されていた。吐血と共にゴミ屑の様に弾き飛ばされる。これまでに対峙した大型種ではなく、雑魚扱いしてきた小型種によって生命の灯は消え去ろうとしていた。
群れに放り込まれ、餌とばかりに飛ばされた先には無数のオウガテイルが大きな口を開けている。飛ばされたショックで意識が飛んだからなのか、飛ばされた男は逃げる事すら出来ず、それぞれの腕や足、頭が引き千切られ、そのまま無数のオウガテイルの腹の中へと消えていた。
「このままだと防衛班に甚大な被害が出ます。既に破壊された防壁の周辺には小型種だけでなく、中型種の姿もレーダーで確認出来ます。このままだと外部居住区にも被害が出ます」
端末を叩きながらヒバリは今の状況を巨大な画面に映し出していた。
極東支部に向かって数多のビーコン反応が寄せられている。それが合図となったのか、既に幾つかの部隊が生命維持の危険水域にまで落ち込みだしていた。
「ブラッドに緊急ミッション。神機兵の討伐、若しくは周辺から遠ざけて」
「了解!」
サクヤの言葉に北斗だけでなくロミオやギルも頷いていた。既に被害は徐々に拡大しつつある。既に交戦中だからなのか、クレイドルがこの地に来る事は無い。
それを理解したからなのか、北斗達はすぐさま神機を取りに整備室へと駈け出していた。
「ったく。ここだけじゃないのかよ」
リンドウはサクヤからの通信を聞きながらも視線は目の前に対峙するシロガネ型の神機兵へと向いていた。
交戦してから既にどれ程の時間が経過したのかは分からない。お互いが致命的な一撃が一切入らない事によって戦闘時間の長さに拍車をかけていた。
これまでの神機兵とは明らかに装甲が異なっている。元々真正面からの攻撃が通用しない事は予想されていたが、まさかこうまで厳しい結果になるとは思ってもいなかった。
動きが機敏だからなのか、神機を模した兵装の射程距離の長さにリンドウだけでなくエイジもまた攻めあぐねていた。
迂闊に近寄れば手厳しい反撃だけが待っている。周囲を人払いしただけでなく、実質的には夜間の戦闘だからなのか、視界は良好とは言えないままでの戦闘が続いていた。
「ですが、ここを何とかしないと向こうには行けません」
リンドウのボヤキとも取れる言葉にエイジもまた様子を伺いながら言葉にしていた。
既にアナグラの襲撃情報は届いているが、だからと言ってこちらを放棄する訳にも行かなかった。
既に完成まで僅かの所まで来ている。アラガミの大群が来ているのであれば止む無しと判断出来るが、今の襲撃は目の前の神機兵1体だけ。お互いがその場にとどまる事無く常に移動しながら、攻撃のタイミングを伺っていた。
リンドウが攻撃をして瞬間を狙うかの様にエイジはアサルトの引鉄を引いていた。
装甲が固いのは今に始まった事ではない。幾ら堅牢だとしても膝裏や肘の内側の様に関節部分に装甲は無かった。
一点集中とばかりに数発の銃弾が着弾する。僅かに当たった痕だけがそこに残っていただけだった。
「エイジ。無理するな」
「大丈夫です」
反撃とばかりに神機兵は巨大な刀剣を振り回す。通常のゴッドイーターが使用するバスター型よりも巨大な刃はこれまで以上に厄介な代物だった。
盾で受けよう物ならば確実に吹き飛ばされる。既にどれほど脳内でシミュレーションしようが、直撃だけは最悪の未来しかみえないままだった。
無目的に振り回す刃は破壊の嵐。振り回す行動を見ながら常に隙を探し続けていた。幾ら理知的とは言え、何かしらのパターンが存在する。これまでにも討伐した経験から察したのか、エイジの目には神機兵の行動を予測するかの様に映していた。
振り回すタイミングは全部で5回。叩きつける地点は違うが、殆どは一定のパターンで動いている様にも見えていた。
「リンドウさん。大よそですがパターンが決まっている様にも見えます。一先ずは様子を見ながら懐に入ってみます」
「無理はするな。ここに援軍は期待できないだけじゃない。最悪は俺達も援軍として行く必要があるからな」
「分かっています」
リンドウの言葉にエイジは改めてパターンを読みながら数を数える。既に3回叩きつけた。あと1回叩きつけた瞬間を狙うべく、自身の精神を今以上に研ぎ澄ましていた。
まるで決められたかの様に叩きつける刃を数え、そのまま一気に突入しようとエイジは態勢を整え、まさに動こうとした瞬間だった。
本来であれば神機兵に生命の意志は感じられない。しかし、偶然見たそれが何処か嫌な予感だけを覚えさせていた。
あり得ないとさえ思える馬鹿馬鹿しい考え。こんな状況でなかれば決して思う事が無い感情が芽生えていた。
「どうしたエイジ?」
「何となくですが、誘われたんじゃないかと」
「神機兵にか?」
態勢まで整えた以上、タイミングをに計らっていくはずのエイジはその場に留まっていた。
これまでのパターンを考えればこのまま隙を逃す事無く突入出来る。にも拘わらずその場でとどまった事に疑問を持っていた。
そんな状況でのエイジの言葉。まるで確かめるかの様にリンドウは改めて神機兵へと視線を動かしていた。これまで5回叩きつけたはずの攻撃は気が付けば、そのまま6回7回と続いている。まるでこちらの考えを読み切ったと思える程にタイミングをずらしていた。
「なるほど。戦場の勘も大したものだな」
「それよりも問題なのはこのままだとジリ貧って事だけです」
タイミングをずらしながらの攻撃はこちらの連携を完全に封じ込んでいた。事実この場で戦っているのはリンドウとエイジの2人だけ。本来であればあと2人いれば手数で翻弄しながら攻撃する事も可能だが、今の神機兵にはそれすらも怪しいと思える程だった。
本当にプログラムで動いているのかすら判断に苦しむ。厳しい戦いは更に泥沼へと入り始めていた。
「エイジとリンドウさんが?」
《はい。現在は例のサテライト建設地で交戦中です。ですが、周辺の状況と今のアナグラの状況を考えると増援は難しいと言わざるを得ません》
他のサテライトに足を運んでいたアリサとコウタ達第1部隊は突如飛び込んだ情報に厳しい表情を浮かべていた。
少し前に聞いた正体不明の神機兵の話は、周辺にある既存のサテライトにも多大な影響を及ぼしていた。
防衛班は既に建設地だけでなく、本体でもあるアナグラの防衛の為に手薄になったサテライトの防衛を担っていた。周囲を囲むかの様にそれぞれが警戒している。
そんな最中の情報にコウタだけでなくアリサもまた難しい選択を迫られていた。
「ヒバリさん。それって例の神機兵の事ですか?」
《はい。現在は既に姿を現している為にこちらからもレーダーで確認が出来ます。ですが、支部を襲撃している物は未だ映っていないんです》
ヒバリの言葉にアリサは歯噛みしていた。姿が見えないだけでなくレーダーにすら映らないとなれば、最悪はここにも来る可能性を秘めている。
神機兵の襲撃は聞いているが、その数が実際には分からない。既に2体が行動している為に、アリサだけでなくコウタもまた迂闊に行動する事が出来なくなっていた。
ここを任せた場合、襲撃されれば確実に甚大な被害が予想されるだけでなく、エリナやエミールとて無事であるとは言い切れない。マルグリットも確かにいるが、今度はフォローしながら攻撃出来るのかと言った事が予測されていた。
厳しい戦場では冷静な判断と戦闘を同時に行える人間はそう多く無い。仮に出来たとすれば、それは今交戦しているエイジやリンドウ位だった。
「そうか……俺達とアリサはここに残る。後の事は他に任せるしかない」
《ですが……》
「ヒバリさん。エイジとリンドウさんの事なら心配はいりません。恐らくは何時もと同じ様に討伐するだけですから」
《分かりました。今の所、そちらの周囲にはアラガミの姿は確認できません。ですが警戒を緩めないでください》
コウタの言葉にヒバリはそれ以上何も言えなかった。
厳しい判断ではあるが、僅かな可能性も否定出来ない以上、迂闊な行動は部隊を危険に招くだけではない。最悪はそのままサテライトの破壊にまでつながる可能性を考慮した結果だった。
事実コウタの言葉にアリサも同意したからなのか、異論は出ない。そんな状況を理解したからなのか、ヒバリはただ情報を与えるだけに終わっていた。
「やっぱり手数は重要だよな…っと」
リンドウはそう言いながら神機兵が薙ぐ様に振るう刃を回避していた。当初は防ぐ事も考えたものの、重量がある物体が加速している物を受け止めるのがどれほど難しいかを悟ったからなのか、ほぼ回避だけに徹していた。
状況的に間に合わない場面だけ盾で防いだものの、やはり予想した通りだからなのか、防ぐと言うよりもそのままの勢いで飛ばされた感じになっていた。
「無い物ねだりは無理ですよ」
薙いだ瞬間を狙いすましたかの様にエイジのアサルトは寸分たがわず神機兵の顔面に着弾していた。
これまでに隙を狙い銃撃で攻撃を続けていた物の、アサルトの火力では厳しい結果だけが残されたままだった。既に銃撃によるオラクルは枯渇寸前まで陥っている。
どこかで補給するか何かしない事にはこのまま体力だけが奪われる事態となるのは時間の問題だった。
「何だと!」
リンドウとエイジの下に飛び込んだ情報は僅かに意識を集注させる物だった。
ここだけではなく支部もまた襲撃を受けていた。既に応戦はするものの、こことは違い、未だ神機兵の姿は目に出来ない。
光学迷彩の威力とステルスの組み合わせは最悪の結末だった。
被害は時間と共に増大していく。幾らブラッドが応戦しようにも、見えない事がどれだけ厄介なのかは自分達が一番理解していた。
「ちょっと拙いですね」
「ああ。まさかアラガミが群れを作ってくるのは流石にな」
神機兵だけならば対処のし様もあるが、アラガミも同時となれば事実上の総力戦になるのは当然だった。既に他のサテライトの防衛もこの襲撃に寄せられる可能性が高いからと警戒を続けている。
それが何を意味するのかは考えるまでもなかった。ここでも既に散開しているが、一部ではアラガミと交戦している。耳朶に届く情報は更なる厳しさだけを予測させていた。
「エイジ上だ!」
「はい!」
神機兵の放った銃弾は頭上からエイジに向けて加速しながら落下していた。これまで一度も使わなかったバレットは僅かに回避を遅らせていた。
リンドウの言葉に気が付いたからなのか、エイジは瞬時に離脱する。攻撃パターンの変化に再び様子を見ながらの行動を余儀なくされていた。
「ここが正念場だな。腹くくって行くぞ。エイジ。援護頼む」
「了解です」
時間の経過は被害の大きさだけを招く。ここでこれほど苦労するとなれば他の部隊にも影響が出るのは考えるまでもなかった。
パターンが分かるからと言って神機兵の行動が止まる訳では無い。援軍の見込みが無い今、やれる事はこのまま一気に仕留める事だけだった。
リンドウは神機兵に向かって事実上の特攻に近い行動を起こしていた。加速する度にお互いの距離が一気に詰まる。既に迎撃態勢に入ったからなのか、神機兵は既に武器を構えていた。
リンドウは疾駆しながら通り過ぎるかの様に刃を寝かせ、一撃離脱を試みていた。これまでの中で一番攻撃の後の被害が少なく済む戦法。
短く無い時間戦ったリンドウが出した答えだった。風切り音は自身の身体から出るのか、それとも薙ぐ刃が生み出した物なのか。誰にも分からないと思えり速度は既に互いの間合いに入り込んでいた。
「しゃぁああああ!」
リンドウの気合いに触発されたかの様に神機兵もまた刃を上段から振り下ろしていた。
唸りを挙げた音は全てを叩く潰さんとの意志の表れ。通常であれば怯んで速度が落ちるが、リンドウは更に加速していた。
お互いの刃が激しく交差する。まさにその瞬間。神機兵の意識はリンドウだけに向けられていた。