神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第53話 暴かれる陰謀

 お互いが交差する剣閃は一方的な決着となっていた。

 突然起こった出来事にリンドウだけでなく、エイジもまた理解出来なかった。

 先程まで圧倒的な攻撃を見せていた神機兵の左腕が何故か空中に飛ばされている。その瞬間、態勢を大きく崩したからなのか、神機兵の斬撃はリンドウから大きく逸れていた。

 渾身の一撃とも取れるリンドウの薙いだ刃は神機兵の胴体を一閃する。左腕が飛ばされた衝撃が強すぎたからなのか、神機兵は無防備な態勢のそのままにリンドウの攻撃を受け、たたらを踏んでいた。

 この場に誰もいないはず。戦闘中にも拘わらず、お互いは僅かに神機兵から意識を別に向けていた。

 

 

「まさかこんな事態になってるとはな」

 

「兄様!」

 

「無明なのか」

 

 漆黒の闇から浮かび上がったのは、この場にいないはずの無明だった。漆黒に彩られた刃がその存在を証明するかのように妖しく光る。

 これまで苦戦していたからなのか、現在考える事が出来る中での最大の増援だった。

 

 

「ああ。リンドウ、お前の嫁に感謝するんだな」

 

「サクヤが何か言ったのか?」

 

「厳密にはサクヤからツバキに連絡が入ったんだ。俺は偶々この周辺に居たからここに来ただけだ」

 

 無明が言う様に改めて周囲を見れば、アラガミのコアや素材が入ってると思われたキャリーケースの様な物があった。

 無明は基本的に極東のセンサーから登録は外れている。表面的には退役しているからなのか、その足取りを掴む者は極僅かだった。

 当然だと言わんばかりに2人と会話しながらも先程倒れた神機兵を見ている。ここに来るまでにも大よその事は聞いていたが、こうまで苦戦しているとは思ってもいなかった。

 

 

「なぁ、あれについて何か知らないか?」

 

「大よそはがつくが、その程度ならば」

 

 リンドウの質問に対し、曖昧な返事が返ってきたからなのか、エイジは内心驚いていた。

 今回のミッションはあまりにも不可解な事が多すぎた。降りてこない情報に、詳細が何も伝えられない事態。そして目の前にいる無明でさえ確実な事実を掴んでいない点はこれまでの言動を考えればあり得ないとさえ思っていた。

 特にこの神機兵に関しては厄介以外の何物でもない。こうまで苦戦するとは思っていなかったからなのか、無明が来なければ未だ泥沼の戦いを強いられる可能性が高いとさえ考えていた。

 

 

「大まかで良い。実際にどこまで掴んでる?」

 

「今回の神機兵に関してだが、そもそも搬入の時点で通常とは違ったルートで流れている。詳しい事はまだ解析中だが、あれは案外と幹部連中のゴタゴタが原因だ。事実、幹部会では責任の擦り付けが始まっているらしい」

 

「…またかよ。どうして毎度毎度学習しないんだ?俺達の敵はアラガミであって人間じゃないぜ」

 

「下々はそれで良いんだよ。特権階級の連中が求めてるのは権力と金。以前の様に国と言う概念が無くなった以上、フェンリルのトップに上り詰めれば世界のトップだ。それに、本部に居れば安泰だと思ってる輩の方が多いからな」

 

 無明の言葉にリンドウだけでなくエイジもまた呆れかえっていた。確かに本部に居た頃はそんな思惑や、これみよがしに権力を振りかざす人間を何度も見ている。それの殆どは実戦を知らず、ただぬくぬくと権謀術数を駆使した結果に過ぎなかった。

 そんな人間が態々足元の事を気にする事は無い。余りにもくだらなさ過ぎた内容に頭が痛くなりそうな思いだった。

 

 

「そろそろ倒さないとアナグラもやばいぞ」

 

 無明の言葉に2人もまた改めて気を引き締めたのか、視線はゆっくりと立ち上がった神機兵へと向いていた。

 

 

 

 

 

「これで止めだ!」

 

 片腕だけとなった神機兵は余りにも脆かった。

 最大の理由はこれまで刀身を振りかざした際には両手を使う事によって斬撃を制御し、遠距離では銃で攻撃していたが、片腕となった為にその攻撃の殆どが封じ込まれていた。

 隻腕の攻撃に当初の威力は欠片も見えない。

 温くなった攻撃は既に3人の回避によって完全に無力化されていた。

 エイジの銃撃で視界を潰し、リンドウはその瞬間を狙って神機兵の装甲が薄い部分を狙っていた。僅かに見える弱点とも取れる箇所。手負いとなったそれにこれまでの鬱憤を晴らすかの様な怒涛の攻撃が再現無く繰り返されていた。

 

 連続攻撃の隙間を無くすかの様に無明が放つ剣閃は装甲の継ぎ目と継ぎ目の隙間をこじ開けるかの様に刃が食らい込む。アラガミの様に肉を斬る手応えは無いが、代わりに関節の中にある人工筋肉と配線を斬る手応えがしっかりと感じる。

 斬撃の勢いそのままに残された右腕もまた遠く後方へと吹き飛びオラクルが充填されていたからのか、爆散していた。両腕を欠損したからなのか、神機兵の反撃の目は完全に消失していた。

 

 

「とにかく助かった。あとはアナグラの様子だな」

 

「ここは俺が引き受ける。今回のシロガネ型神機兵は総数が何体搬入されているのかは不明だが、少なくともここ極東の範囲では3体前後のはずだ」

 

 胴体だけを残し、神機兵は既に動く気配は消え去っていた。

 これがアラガミであれば霧散するが、生憎とそんな気配は何処にも無い。既に戦闘が終わった以上、次の場所へと移動する必要があった。

 ここで時間を取られれば、今度は極東支部そのものが危険になる。それを理解していたからなのか、リンドウとエイジはこの場に残ると言った無明に全てを託し、乗ってきた車に火を入れると直ぐに移動を開始していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かったわ。直ぐに連絡するから」

 

 サテライト建設地での撃破の一報は直ぐにサクヤの下に届いていた。これまでのコンバットログから分かった事実は、明らかに第三者の意図的な何かがあっての結果だった。

 本当の事を言えばサクヤとて怒りが湧かない訳では無い。これまでに何度も経験した理不尽が目の前に起こり、本来であれば流れるはずの無い血が既に流れている。これまでに届いた負傷者の数は徐々に広がりを見せていた。

 

 

「ブラッド。そっちの様子はどう?」

 

《こちらはまだ神機兵の姿が見えないままです。小型種だけじゃなく中型種の数も多くなりだしています》

 

 本来であれば退避も止む無しと言いたい所ではあったが、今回の様な防衛戦ではそれは事実上の不可能に近い物だった。

 ここでゴッドイーターが退避すれば、空いた防壁の隙間からアラガミが一気に流れ込んでくる。事実上の最終防衛ラインなだけに、ここで食い止める事しか出来なかった。

 退路を断たれた戦いは消耗の度合いも大きい。これまでに殉職したゴッドイーターの数はここ最近の中では最悪の結果だった。

 

 

「ジュリウスさん。そっちにリンドウとエイジが移動している。厳しいとは思うけど、もう少しだけ頑張って」

 

《了解した》

 

 サクヤの言葉にジュリウスが短く答える。それが今の戦局を表していた。

 

 

「榊支部長。サテライト建設地のリンドウさんとエイジさんがここに向かうそうです」

 

「何とか間に合って良かった。サクヤ君の機転のお蔭だよ」

 

「私は何もしてません。ツバキ義姉さんのおかげですから」

 

 ヒバリからの通信が切れると同時に届いた榊の言葉には僅かに安堵が滲んでいた。

 戦線は未だ厳しいままではあるものの、2人とは言え、援軍が来れば士気は高くなる。

 それ程までに2人の存在はここには無くてはならない物だった。移動を開始した以上、到着までまだ時間はあるが希望だけは残される。

 画面を見ながらも榊だけでなくサクヤと弥生もまた好転するであろう事だけを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思ったより厄介だな」

 

 ギルは呟きならがらも寸分違わず同じ個所に刺突していた。瞬時に刺さるヘリテージスの穂先がオウガテイルの目を三度貫く。痛みを強く感じたからなのか、オウガテイルが怯んだ瞬間、素早く変形させる事によって幾重にも放たれた銃弾がその命を一気に散らしていた。

 

 

「でも、エイジさんとリンドウさんも、こっちに来るんだろ?だったらそこから一気に挽回だな」

 

 ヴェリアミーチを振り回すかの様にロミオは神機を無造作に動かしていた。本来であればそんな使い方は推奨出来るはずが無い。しかし、事実上の乱戦となった今、大雑把な攻撃であっても何かしら刃がアラガミに届いていた。

 既にどれ程屠ったのかすら数える事無く動き回っている。休息を取る事も出来ないままの戦闘は少しづつ雑になり出していた。

 

 

「ロミオ!攻撃が雑になってる。気を付けるんだ」

 

「お、おう。サンキュー」

 

 リヴィのサーゲライトの刃はギロチンの様に上空から振り下ろされていた。咬刃展開した刃は視界に入っていないのか、頭上から一気にオウガテイルめがけ迫り出す。重力の恩恵を受けた刃はその首を一刀両断の元に斬り落としていた。

 血を盛大にまき散らしながら首だけが跳ねる様に地面に転がる。背後からロミオを襲おうとしたそれは既に動く気配は無くなっていた。

 

 

「俺達よりも北斗達の方がやばいだろ。姿が見えないままに戦闘するのは精神的にもキツイからな」

 

「確かに。でも、大丈夫なのか?」

 

「北斗だけじゃない。ジュリウスとシエルにナナもいる。ここをせき止めるからこそ、向こうも集中して戦う事が出来るはずだ」

 

 ロミオの不安を払拭するかの様にリヴィは改めて話していた。これまでに何度も厳しい状況を潜り抜けはしたが、こうまでの乱戦は経験が殆ど無かった。

 鼓舞するかの様にギルだけでなくリヴィも口にするが、内心ではロミオ同様に疲弊したままだった。

 数を減らしたからのか、襲いかかる数は少なくなっている。その隙間を縫うようにリヴィはポーチから回復錠を取り出し喉に流し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉりゃぁあああああ」

 

「ナナ!大ぶりは止せ!」

 

 ナナは目標が完全に見えはしないが、僅かに歪む空間に全力でコラップサーを振り回していた。

 当初は何も分からないままだったが、暗闇に対比するかの様に色の違いを見たからなのか、おぼろげながらにその姿を確認していた。

 目が慣れれば分からない事は無い。だからと言って通常の様な攻撃をすることは不可能に近かった。

 場当たり的な行動しか出来ないからなのか、これまでの戦い以上に消耗の度合いは激しい物へと変化している。

 ハッキリと見えないからなのか、ナナの攻撃が空を切った。大ぶりの攻撃の代償はあまりにも大きい。その隙を狙われない様にジュリウスはレインフォースを展開しながらナナのフォローに入っていた。

 詳細は分からないが、時間差で迫る衝撃が反撃された事を理解している。その瞬間を狙うかの様に、北斗もまた大よその当たりをつけながら斬撃を繰り出していた。

 

 

「北斗!」

 

 一筋の剣閃は手に衝撃を残しながら大きく歪む。攻撃が当たったまでは良かったが、当たり所が悪かったからなのか、攻撃は事実上の不発だった。態勢が崩れた北斗のフォローとばかりにシエルもまたアーペルシーで援護する。攻め手に欠ける攻撃は既に何度経験したのかすら分からなかった。

 

「サンキューシエル!」

 

「いえ」

 

 シエルの援護に礼を言いながらも北斗は未だ見えにくいままの神機兵から視線を切る様な事はしなかった。

 一度捕捉したからなのか、脳内で補正し、大よその存在を確認する。どこかに光学迷彩を司る機関があるはずだが、それがどこに有るのかは未だ不明のままだった。

 肉体的な疲労は然程感じないが、精神的な疲労は尋常ではない。常に集中し続ける事でその存在を辛うじて把握しているだけだからなのか、北斗だけでなくシエルもまた精神的な疲労感に襲われていた。

 

 

「しかし、こうまで厄介だとは思わなかったな」

 

「ですが、未だ姿が見えないのであれば厳しい事に変わりありません」

 

 シロガネ型神機兵の装甲は従来の神機兵とは違い、装甲に一工夫してあった。

 攻撃は直撃すれば衝撃と共に内部の機関にも大きな影響を及ぼす可能性が高い。そんな弱点らしくない弱点さえも改良が施してあった。

 交戦している北斗達が知る由も無いが、この神機兵の装甲は衝撃を受け流す為に表面は加工が施されている。摩擦力が極限まで低くなっている為に斬撃に対する抵抗値が高く、その結果、光学迷彩を暴く為にペイント弾を使用したとしても直ぐに流れ落ちる程の性能を誇っていた。

 事実、エイジ達が討伐の際に光学迷彩を暴いたのは偶然に近い。アサルトの特性を活かしたそれが光学迷彩を司る箇所に着弾しただけの話だった。

 しかし、現時点でその内容を知らない以上、北斗達の戦いは事実上の消耗戦へと雪崩れ込んでいた。

 

 

「ジュリウス。ここは単発じゃなくて一気に攻めるか、属性を考慮する必要があるぞ」

 

「そうだな。このままでは埒が明かないのも事実だ。だが、どうする?」

 

 ジュリウスの言葉に北斗は僅かに考えていた。

 今のチームの属性と敵の相性を考えると、貫通性能を誇るシエルやジュリウスと北斗の様にそれに近い属性は攻撃が当たっても直撃する様な事は一度も無かった。唯一ナナの装備だけが効果を発揮するからなのか、神機兵の行動もナナに関しては完全に回避行動に移っていた。

 これまでの行動を考えれば当然の帰結。そう判断したからなのか、ジュリウスの言葉に北斗はナナに視線を向けていた。

 

 

「ナナ。この神機兵は明らかにナナの攻撃を嫌がっている可能性が高い。これからの攻撃はナナを中心に俺とジュリウス、シエルでやる。行けるか?」

 

「私的には問題無いけど、姿が見えないから攻撃が当たるかどうかが分からないよ。それでも良い?」

 

「ああ。その件はこっちでフォローする」

 

 ナナが杞憂していたのは自分が神機兵をあまり把握出来ない点だった。ナナ以外の人間は皆何となくでも把握している。それは攻撃のレンジがナナ以外が全員、中距離から遠距離型である事が起因していた。

 遠目で見れば何となく理解出来るが、至近距離では視線が動く範囲が大きい為に、集中はしていても眼に飛び込む情報量が多すぎる為に脳が把握しきれない事実があった。

 

 

「じゃあ、一気に行くよ!」

 

 このままいたずらに時間だけが消耗すれば、確実にこちらの方が分が悪いのは間違いなかった。

 無限に近いスタミナを誇る神機兵と、人間を比べるのは最初から無理があった。既にリンドウとエイジがこちらに向かっているのであれば、ここが一つの正念場。

 残された回復錠を口にすると同時に、ナナは全力で疾駆していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弥生。レアに至急連絡してくれ。解析を任せたい」

 

《了解しました。至急そちらに回します》

 

 リンドウとエイジが移動を開始してから無明は弥生に連絡を入れていた。今回の件に関しては詳細は聞いていないが、可能性の一つとして確認したい事があった。

 人間は幾ら着飾ろうが、権力を持とうがその本質は変わらない。

 過去にフェンリル本部の人事さえも動かした側からすれば、何かしらの思惑がある事は予想出来た。

 エイジが周囲に対し索敵を命じたからなのか、無明以外には誰も居ない。音を頼りに周囲を確認するも、幸か不幸かアラガミの気配はどこにも感じ取る事は無かった。

 気が付けば何時もとは違うヘリの音。

 アラガミとは違い神機兵は両腕と両足を欠損した状態のまま横たわっている。解析が出来ればあとは任せれば良いだけの話。

 この内容如何でフェンリルと言う名の組織に大きな変革をもたらす可能性があると感じたのか、珍しく無明の口元は僅かに歪んでいた。

 

 

 

 

 

「で、どうだ?」

 

「そうですね……これを見る限りでは少なくともアラガミだけが対象と言う訳では無さそうです」

 

 胴体部から繋いだケーブルによってレアの持つ端末にデータが次々と流れ込んでいた。

 これが頭部あたりに集中していれば確認する術は少なかったかもしれないが、この機体は胴体部にそれがあった。

 完全に吸い上げたデータから分かった事実はあまりにも当初予想していた内容以上に悪い物だった。

 本来神機兵は対アラガミの機能を有するが、決して意図的に建造物を破壊する様なプログラムはされていない。暴走する神機兵は単純に破壊命令だけを実行するが故に討伐対象となるが、この神機兵は明らかに暴走した痕跡が無かった。

 数字の羅列と共に幾つか不自然な数値が弾き出される。どれも暗号化されていたが、レアの持つ端末はそんな暗号をも解析していた。

 

 

「だろうな。これがそうなら意図的に作ったと考えるのが妥当だろう」

 

「しかし、これだけではどうしようも無いのでは?」

 

「いや。これで十分だ。それとこのまま榊支部長にも流してくれ」

 

「ですが、ここだとハッキングの可能性もあるのでは?」

 

「それも併せてだ。念の為にそれとは別で保管もしてくれ」

 

「分かりました」

 

 疑問に感じながらもレアは榊の下へも同時にデータを流していた。こんな状況下でハッキングの恐れは無いだろうとの考えと同時に、この情報を横から取ろうとする人間は今回の首謀者であると公言するも同じ。だからなのか、珍しく大胆な行動に出ていた。

 

 

「すまないが、アナグラで届いたデータと違いが無いか確認してくれ」

 

「ではその様にします」

 

 再び飛び立つヘリを尻目に無明はこの後の事について考えていた。

 この情報の出所と今の本部の内情を考えれば確実に何人かの人間の首が飛ぶ。解析前の推測がそのままだったからなのか、改めてやるべき事が順番立てて出てくる。

 既にその思考は僅か先の未来へと向いていた。

 

 

 

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