神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第55話 事の顛末

 今回の戦闘は極東支部に於いても到底看過出来る様な内容では無かった。これまでに出た死者と負傷者はかなりの数に上っており、一部の階級の人間の殉職は少なからず支部に於いてもダメージを残す結果となっていた。

 既に手は打ってあるも、ゴッドイーターのレベルは急激に上がる事は無い。

 事実上の時間が解決する以外に何の手だてもない現状だけがそこに残されていた。

 

 

「今回の件に関しては、我々としても厳しい追及をする必要が有る様だね」

 

「その件ですが、既に当主が本部へと飛び立っています」

 

「そうかい……となれば、我々としては結果を聞くだけに終わりそうだね」

 

 出された数字に目を通し、榊は弥生が出したお茶に手を伸ばすとそのまま口にしていた。

 神機兵の破壊したアラガミ防壁の修繕に関してだけでなく、今回尤も大きな被害が出たサテライト建設地もまた改めて回収作業が早急に必要となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんよりとした空は今のこの状況を映し出している様にも見えていた。

 今回の襲撃はこれまでのアラガミが原因の物とは違い、明らかに人為的な物である事はこの場に居る誰もが理解していた。

 事実上の戦争に近い惨劇はゴッドイーターの心に深く色々な思惑を刻み込んでいる。そんな空気が蔓延した中で、一人の少女の鎮魂歌がその場にいた全員の心を癒すかの様に響き渡っていた。

 

 

「シオ。ご苦労さん」

 

「うん」

 

 サテライトの建設に伴い実行された区画整理は、人々の心の安然を図る目的も踏まえた公園を中心に、一部の区画にはこれまでに無い区画がひっそりと作られていた。

 これまでは場所の関係で何も出来なかった事が考慮された結果だったが、改めて鎮魂とその勇猛さをたたえる為に慰霊碑の区画が作られていた。

 そんな区画では何時もとは違い黒い服を身に纏ったシオと同時にクレイドルやブラッド、防衛班の一部の人間が参加していた。

 

 

「今回の件は流石に上も重要視しているみたいだな」

 

「人類の盾となるべき物が刃を向けるとなればね……」

 

 ソーマの言葉にエイジもまた今回の顛末に関してはやんわりと伝えられていた。

 シロガネ型神機兵は、対外的には完成間近で暴走した事になっているが、実際には暴走どころか緻密なプログラムによって明らかに敵対する様に仕組まれていた。

 当初は驚きもしたが、解析を続けるにつれ一つの仮説を立てていた。

 当人からすれば重要だと認識するのかもしれない。しかし、それ以外の人間からは余りにも稚拙な考えにしかないと言い切れる程に、仮説の内容は従来の物からかけ離れていた。

 しかし、人間の考えは時にアラガミよりも非人道的な考えを持つ。

 この状況を知った榊達はすぐさま今回の件に関して情報管理局に捜査依頼をかけていた。そんな依頼を受けたからなのか、フェルドマン局長を中心に今回の中心人物が誰なのかが極秘裏に捜査されていた。

 

 

「今回の件は緘口令が出てますから、それ以上の事は口にしない方が……」

 

「確かに。流石に後味が悪すぎるしな」

 

 アリサの言葉にコウタもまた何か思う所があったからなのか、何時もの様に緩めた感じでは無く、しっかりと制服を着ながら小声で話していた。

 目の前にはシオの歌が終わったからなのか、次々と人が献花している。

 クレイドルとしても何かしたいとは思ったものの、防衛班としての内容だからと、大隊長でもあるタツミから参加だけにしてほしいと、やんわりと断られていた。

 今は勤務の関係上、非番か勤務明けの人間だけがこの場に来ている。既に関係者には連絡が行っていたからなのか、親族らしき人物も何人か見えていた。

 

 

「本当の事を言えば調査もこちらでってのが当初の予定だったらしいんだけど、敢えて情報管理局に任せたらしいよ」

 

「情報管理局にか?」

 

「今回の件に関しては兄様も何か思う所があるみたいだからとは聞いてるけど。リンドウさんはその辺り何か聞いてませんか?」

 

 エイジの言葉にソーマも珍しく疑問を持っていた。

 これまで極東支部における事案の大半は無明が裏で処理している事はエイジからも少しだけ聞く機会がこれまでに何度かあった。本来であれば今回の事案もそれに沿う形を取ると思われていた。

 しかしエイジから出た情報管理局の言葉に少しだけ驚きを見せていた。

 

 

「いや。俺も何も聞いてないな。サクヤは知ってるか?」

 

「私も知らないわ。多分、義姉さんなら知ってるとは思うんだけど、流石に今回の件は無理だと思うわ」

 

「だよな。完全に裏の仕事になるし、彼奴だって態々俺達に言うなんて事も無いだろう。聞いた所ではぐらかされるだけだな」

 

 ツバキの顔が浮かんだ物の、完全に今回の件に対しどう聞いて良いのか誰もが悩んでいた。

 厳密に言えば既に支部長が動いている事案になっている為に、自分達が聞いた所で仕方のない部分しか無かった。

 仮に弥生に聞いた所で同じ結果しか生まない。

 既に事案の内容は一支部の内容ではなく、フェンリル全体を巻き込んだ政治にまで発展している。その意味確実に理解いているからこそ、誰もがそれ以上の事を口にする事は無かった。

 だからなのか、今はそれぞれが献花している光景を眺める事しか出来ないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェルドマン。これが今回使用されたシロガネ型神機兵の全容と搭載されたプログラムだ」

 

 無明は極秘裏にフェルドマンと顔を合わせていた。

 今回の件に関しては本来であれば無明自身が直接手を下せば済む話。しかし、今回の事案の裏にあった陰謀を考えれば明らかにスマートなやり方で処理すると、今後も同じ事を繰り返す可能性が出てくると判断した結果だった。

 既に解析を終えたプログラムだけでなく、今回の一連の内容に関しての事実上の証拠がいくつも添付されている。

 既に証拠が完全に揃っている以上、後の捜査は実にやりやすい物となっていた。本来の業務でもある公安としての領分からすれば、これ程簡単に事が終わる事は無い。

 これまでの様に幾つもの証拠を積み上げて取り調べて追い込むのではなく、証拠を付きつけるだけで終わってしまう。

 毎回こうであって欲しいと思うと同時に頭を抱える程の内容にフェルドマンもどうした物かと考えていた。

 

 

「しかし、これが表に公表出来るかと言えば厳しい現実が待ってますね」

 

「完全にやり込めば。が付くがな」

 

「粛清として考えるのであれば丁度良いかもしれませんね」

 

「それがお前達の領分なんだ。偶にはデカい仕事も悪くは無いだろう。当時の様な部下が居ないのであればだが」

 

「その説は申し訳ありませんでした」

 

 無明の言葉にフェルドマンはまだ極東に赴任した当時の事を思い出していた。

 これまでの情報管理局の局員は然程厳しい仕事をした経験が無かったからなのか、自分達が全能である様な錯覚を覚える仕事しかしてこなかった。

 既に情報管理局が来ると言う事を理解しているからなのか、殆どの人間は素直に応じる部分が多分にあった。

 

 確かに仕事の内容に区別を付ける事は無い。しかし、あまりに簡単に進み過ぎる内容に誰もが優越感を覚えたからなのか、人として当然の事を忘れていた。

 事実、極東支部でも局員の何人かがそんな事をしたからこそ査問委員会に出す前に処分している。

 増長した人間をそのまま放置すれば、最悪は情報管理局そのものの存在意義までが疑われてしまう。そうなれば以前のフェンリルに逆戻りすると同時に、腐敗したまま自浄作用が働かない事を意味していた。その為の布石として極東で起こった事案の処理はこれまでの中でも最速とも取れる処理をフェルドマンは行使していた。

 仮に身内であっても容赦はしない。そんな内容が周囲にも漏れたからなのか、それ以降は以前の様には成らなかった。

 

 今回の様な上層部を巻き込んだ一大スキャンダルに誰もが疲弊しながら仕事を続けていた。何せフェンリルの幹部はこれまでの様な小物では無い。場合によっては手痛い反撃を貰う可能性も秘めている。

 これまでの様に若干でも強引に物事進める事が出来ないからなのか、捜査そのものも極秘に行われていた。

 

 

「やるべき事をやればそれ以上の事は何も無いはずだ。既に教育が行き届いてるのであれば、仕事で見せれば良い」

 

「そう言ってもらえると助かります。ですが、今回のこれは今までの捜査を一気に進める事が可能でしょう」

 

 そう言いながらフェルドマンは用意されたレポートから目を離す事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回は、前回お伝えした様に我々の方から出向かせて頂きました。要件に付いては察してるとは思いますが」

 

「察するだと?一体何の要件だと言うのだ。俺も忙しいんだ」

 

 無明から渡された証拠を精査した後のフェルドマンの行動は神速とも取れる程だった。

 今回の事案に関しては既に捜査対象者の洗い出しが終わっているからなのか、証拠を突付けた際に絶望とも取れる表情を浮かべ項垂れていた。

 今の世界は国家ではなく企業としての体で運営されている以上、罰則と言った物は過激な物ではなくなっていた。

 命の危機は丸腰で外に放り出せば結果を言う必要も無い。それに金と権力にしがみ付く連中からはその権利を剥奪すれば全てが事足りるだけだった。

 それが今のやり方であるのは上層部の人間は誰もが知っている。だからなのか、フェルドマンの訪問に関しても目の前で葉巻を咥え、傲岸不遜な態度をグレムは崩す事は無いまま紫煙を吐き出していた。

 

 

「言葉遊びをしても仕方ありませんので 、お互い忙しい身ですから単刀直入に言わせて頂きます。明日、情報管理局への出頭を命じます。なお、強制はしませんが、来ない場合はそれなりの対処をさせてもらうつもりです」

 

「出頭だと?」

 

「ええ。それ以上でもそれ以下でもありません。詳細につきましては、明日説明させて頂きます」

 

「待て。俺が誰なのかを理解した上で物を話してるんだろうな?」

 

「勿論です」

 

 

 

 

 

 フェルドマンの言葉にグレムは僅かに疑問を覚えていた。

 以前の様なやり取りはなく、既に決定事項だけを述べ、そのまま帰ろうとしている。

 もちろん情報管理局がどんな事をしているのかを知らない訳では無い。だからなのか、その言葉の真意を探るべく口にしたまでは良かったが、返ってきたのは短い返事だけだった。

 気が付けばフェルドマンは既に部屋から出たからなのか、グレム以外に誰も居ない。

 先程見たフェルドマンの態度とその口調。これまで企業間で培ってきた第六感が何かが起きている事を察知していた。

 

 

「おい。通信を例の所に繋げてくれ」

 

《分かりました》

 

 端末に端的に告げると秘書らしき人物が通信を繋げている。

 既にこれまでであれば直ぐに繋がるはずのそれが、一向に繋がる気配が無い。先程の言葉がやけに気になる。だからなのか、今度は違う箇所へ通信を繋げる様に指示していた。

 

 

《また随分と懐かしい人間からの通信とは。珍しい事もあるものだ》

 

「そんな前置きはどうでも良い。今の幹部連中はどうなってるんだ?」

 

《幹部?また随分と物騒な話を持ち込んで来たものだね。それが君とどう関係が?》

 

 グレムは苛立ちを隠しながら通信相手との会話を続けていた。

 今回連絡したのは以前に神機兵の関連で競合した企業の経営者だった。表面上は敵対する部分もあるが、このご時世お互い多少なりとも信用出来る部分も存在していた。

 本来であれば余程の事が無い限り連絡する様な間柄では無い。だからなのか、表面上は穏やかな話を続けていた。

 

 

「いや。大した事ではないんだが、珍しくあの方と連絡が付かない。付いては貴公の連絡網に何かキャッチしてないかと思ったんだが」

 

《なるほど。だが、我々の情報網は貴殿よりも広くも深くも無い。期待に沿う事が出来るとは思えない》

 

「そうか……つまらない事を聞いて済まなかった」

 

《何。大した事が出来ないのであれば気に病む必要はあるまい。では》

 

 取り止めの無い話で終わったにも拘わらず、グレムの脳内では警鐘が鳴り続けていた。

 企業間の競争は時には血が流れる事も出てくる。ましてや通信先の相手はこれまでお互いに何度も苦渋を飲まされた間柄でだからこそ話したはず。

 にも拘わらず、直ぐに切れた通信は一層の不気味さを物語っていた。

 

 

 

 

「やはり貴方の言う通りでしたな」

 

「当然の結末でから。あれは向けてはいけない物に何を向けたのかを理解していないのであれば当然でしょう」

 

 グレムとの通信が切れたと同時に、先程話していた経営者は無明へと視線を向けていた。

 元々この経営者と無明は既知の間柄。これまでにも何度か極東で開発した物の量産化等でお互いの信頼関係は堅く築かれていた。

 当然の来訪にも拘わらず、直ぐに目通りを出たからなのか、経営者もまた今後の予定をキャンセルした上で面会していた。

 

 

「最初に聞いたが、あれは馬鹿な男だ。よりにもよって権力の中枢に入ろうなどと。たかが一企業の経営者が。極致化技術開発局で留めておけば良かったんだが」

 

「経営に関しては此方の関与すべき話では無いので。だが、情報管理局が動いた以上、今後の流れは確定してる。我々としても今後の事があるので、ここで確実に止めを刺す必要があるのもまた事実」

 

 無明の言葉に、経営者はグレムスロワインダストリーの未来を垣間見た様に思えていた。

 既に証拠が固まっているだけでなく、その後ろ盾は既に査問委員会への出廷が決定している為に、既に情報管理局の下で監視されている。

 先程の通信からもその事実を知らされていないからなのか、半ば呆れながらも通信を繋げていたに過ぎなかった。

 

 

「今回の件で企業そのものは解体になるか、新たな経営者を招く事になるでしょう。因みにその件に関しては?」

 

「その件は既に案としては纏まっている。今回の概要はこうなっている」

 

「……なるほど。これなら対外的も我々としても損になる要因は無いですな」

 

 無明は今後のプランを経営者に詳しく話していた。

 既に構想は実行に移すだけの状態となっている。こうまで鮮やかな交代劇を見せられれば、誰が誰に対して喧嘩を売ったのかが良く分かる構図だった。

 別の視方をすればちょっとした企業は簡単にどうとでも出来る。だからなのか、経営者もまた目の前の無明には逆らうつもりは毛頭無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェルドマン。これでは話が違うではないか!何故俺が査問員会に出廷する事になっているんだ!」

 

 情報管理局長室にグレムの怒声が響いていた。

 出頭したグレムに待っていたのは査問員会への出廷。しかも任意ではなく強制だった。

 査問委員会への出廷の中でも強制となれば事実上の有罪確定の場でしかない。それはフェンリルに近い人間であれば誰もが知っている事実だった。

 既に命令書が出ている以上、ゲレムに拒否権は存在しない。

 だからなのか、部屋から漏れる怒声に、外にいた秘書は肩を竦める程だった。

 

 

「我々に言われても仕方無いでしょう。我々は今回の事態を全て調査した物をまとめて報告したにすぎませんので。しかし、よくもこれだけの罪状がボロボロ出てきましたね。我々も驚きましたよ」

 

 そう言いながらもフェルドマンの目は笑ってはいなかった。

 今回の調査に関しては過去に行われた事実までもがつぶさに調べ上げられたからなのか、初めて命令書を見たフェルドマンでさえ驚きを見せていた。

 パッと見ただけでも、脱税、殺人教唆、特別背任、横領とこれだけでも相当な処分が待っているにも拘わらず、一部贈賄が幹部にも渡っている事実はフェルドマンの仕事を更に加速させていた。

 既にグレムの後ろ盾になっていた人物は更迭されただけでなく、私財もすべて没収されている。

 まだ知らない事実ではあるが、既に件の人物はフェンリルに居場所が無いと辞任し、その行方は誰も知らないままだった。

 

 

「何だと!」

 

「貴方もご存じかもしれませんが、罪状は査問委員会が決める事で、私の一存で決まる物ではありません。ですが、これだけの罪状では……まぁ、明日のこの時間には決定しているでしょう。私も誰かが何かをしたお蔭で忙しい身です。今日の所はこれで」

 

 既に用は無いと言わんばかりにフェルドマンはソファーから立ち上がっていた。

 一方のグレムは既に明日の内容が想像出来たからなのか、そこに座り込んだまま。事実上の有罪判決にそれ以上は思考する事を諦めたからなのか、動く事すら出来ないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこうなるとはね……」

 

 榊は支部長室でフェンリルが今回の事案に対する発表を確認していた。

 事実上のクーデターに近い内容に驚きながらも、これまでに行われて来た過去の清算。

 すなわちまだブラッドがフライアに所属していた時代からの内容が全て清算された事が書かれていた。

 今回の処置はまだヨハネスが支部長をしていた頃に近い程の大量の処分者を出している。過去最大とも取れるスキャンダルは一方的に幕を下ろしていた。

 

 

「当主が動きましたので、当然の結果です。ですが、今回の件に関しては……」

 

 榊の言葉に返事をするかの様に弥生もまた今後の対応をどうするのかを言いあぐねていた。

 フライア時代にまで遡れば当然ながらブラッドだけでなくレアにもスポットライトが当たる事になる。只でさえ討伐任務をこなすなかでの一連の内容に関してマスコミが動けば何かと問題も多いのは当然だった。

 出来る事なら通常任務と聖域での活動に専念させたい。そんな思惑があったからこそだった。

 

 

「今回の件は万が一の事もある。まずは今回の一連の流れを説明した方が良いかもしれないね。弥生君。ブラッドとクレイドル。共に招集してくれるかい?」

 

「了解しました」

 

 榊の言葉に弥生は本来の業務でもある秘書としての役割を果たすべく、それぞれに連絡を入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんな顛末になるなんてな」

 

「ああ。だが、あの時の事を考えれば因果応報とはよく言った物じゃないのか?」

 

 ギルは何時もの神機ではなく、鍬を大きく振りかぶりながら、その力を大地に向けて放っていた。

 ここではオラクルの能力は一切発揮されないからなのか、何時もの戦闘以上に大粒の汗を流しながら大地と戦っていた。隣にいた北斗もまた同じく鍬を持って振りかぶる。

 既に手慣れたからなのか、北斗はギルほど汗はかいていなかった。

 

 

「確かに……当時は嫌味の一つも言いたかったが、こうまで哀れになると返って言い辛いがな」

 

 榊からの呼び出しで聞かされた内容は支部長クラス以外に知る由も無い内容だった。

 フェンリルの上層部のゴタゴタに関して、普通の市民からすればどうでもいい程度の話でしかない。

 報道に関しては大よそ程度の内容しか触れないのはそんな部分が多分にあるからだった。

 

 一部更迭された内容と一企業の合併に関しても、それに関連していない人間には全く関係の無い話。

 だが、ブラッドの立場からすれば、今は極東支部の管轄ではあるが、その前身は間違い無く当事者。態々ブラッドに直接取材する様な真似はしないまでも、やはり何かしらの思惑があるからと、今回の顛末を話していた。

 査問委員会への出廷によってグレムは自身の会社を失い、製造責任を追及された事によって事実上の破産に近い処分となっていた。

 

 

「でもさ、詳しくは分からないんだけど、当時のあれは北斗が動かなかったからシエルちゃんが大変な目にあってたんだし、仕方ないと思うよ」

 

「そう考えると北斗は私の命の恩人なんですね」

 

「別にそんなつもりは無かったんだが……」

 

「何照れてるんだよ。もっと胸張っても良いんだからさ」

 

 ロミオのツッコミにナナだけでなくシエルもまた笑顔で話をしていた。

 既に耕された畑には苗の様な物を植えていく。手慣れた作業をしながらも今回の顛末の話題は尽きる事はないまま作業だけは続けられていた。

 

 

 





これで一旦長い物語は完了です。
次回からは。再び通常に戻る予定です。


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