神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第58話 新しい作物

 周囲には見渡す限り実験的に栽培された作物が所狭しと並んでいる。

 既に聖域と言う農業実験は開始されはしたが、それが人類に対し有効だと判断するにはまだまだ時間と労力が必要とされていた。

 事実、聖域で取れる作物は品質は良いが、オラクル細胞が働かない為に人力でしか栽培出来ない。ブラッドが事実上の毎日に近い日々をそこで過ごすも、流通に乗せるには今だ時間が必要とされていた。

 そんな中でこれまで新種や新たな食物を提供してきた実験農場でも、一つの収穫物のピークなのか、幾人もの人間が1個でも多く収穫すべく動き回っていた。

 

 

「おお!……これ大きいぞ。早くたべたいな」

 

「シオ。気持ちは分かるが今は少しでも早く収穫するんだ。それは食後に出してやるから」

 

「ほんとうか!よし!がんばるぞ!」

 

 何時もの様な浴衣ではなく、麦わら帽子と農作業に適した服装だったからなのか、シオは先程まで叩いて様子を見ていた緑の丸い物体を慎重に運んでいた。

 叩く音は身がぎっしりと詰まっているからなのか、どこか重い音が聞こえる。既に夏も近いからなのか、朝の早い時間にも拘わらず汗を流しながらシオは忙しく動いていた。

 緑の色だけでなく黒の模様もまた濃いそれは一つだけ持つのも苦労させられる程だった。

 落とせば中身が飛び散るだけではない。食べる事も出来ないからと誰もが慎重に作業をしている。シオもまたそんな一人だったからなのか、一生懸命に取り組んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは中々面白い試みだね」

 

「いきなり聖域で栽培しても良かったんですが、流石にどれ位認知されるのかが未知数なので」

 

 無明は久しぶりに極東支部に訪れていた。これまでの経緯を考えれば当然の事ではあるが、最近は屋敷に足を運ぶ人間も多くなったからなのか、一部の人間からは当然の様に思われていた。

 元々今の極東支部の食糧事情を作り上げたのは、無用がこれまでに行って来た実験農場での農作物の安定した収穫が大元だった。一度安定して作られた後はサテライトへと渡され、その後はそここが流通元となって支部内だけでなく、他のサテライトや一部は他の支部へと販売されていた。

 これまでの様に遺伝子を組み替えた野菜類も未だにあるが、それでも旧時代から馴染んだそれの方が、販売価格が高くても売れている事実があった。

 

 既に他の支部とは違い、極東支部内ではフェンリルからの配給の量は極僅かとなっている。全員が仕事に従事する事は今だ敵わないが、それでもサテライトの建設現場や農業、建築物等の製造などと従来の資本主義は復活しつつあった。

 資本が豊になれば次に向けるのは自身の欲求を満たす事。

 本部とは違い、大きな格差はここでは余り見られないからなのか、一つの方向性が決まるとそれに習う様に行動するケースが時折確認出来ていた。

 

 

「なるほどね。で、実際にはどれ程なんだい?」

 

「糖度は物によるので一概には言えませんが、市場に出せる程度には出来たかと」

 

「そうなると、まずはどんな物なのか様子を見たい所だね」

 

「暫くの間は、ここのラウンジにも置いてみようかと。それに伴って一定以上の数字が出る様であれば支部内に流通させます」

 

 これまでの実績が物を言うからなのか、無明の言葉に榊も珍しく自身の関心外の分野に笑みを浮かべていた。

 恐らくは今の人間でこれをまともに見るのは少ないはず。だからなのか、実験とは言うものの、その結果はある程度予想出来る内容だった。

 

 

「弥生君。すまないがこれをムツミ君の所まで運んでくれるかい?」

 

「承知しました」

 

 榊の言葉に、弥生はそのままラウンジへと運んでいた。

 元々実験農場はこれまでにオラクル細胞によって失われた物を品種改良しながら、現代において復活させる事を目的としていた。

 聖域とは違い、一定量のオラクル技術を投入しているのは、現状仕方のない事でもあった。幾ら植物とは言え、動物同様に、外部の環境に大きく影響を受ける以上、収穫量が定まらないでは安定した供給を行う事は不可能とも言える。

 万が一があってはならないとの考えによって、僅かながらでも技術を投入するのは今に始まった事では無かった。

 元々生きる為に食事をするのは人間だけでなく生きる者すべてが行う事。少し前の様に味よりも量を優先していた頃では考えられない程に、少しづつ戻り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうそんな時期なんだ」

 

「今回の物は実験農場で作ったらしいぞ」

 

「確かに、夏と言えばって物に違いは無いけど、あれって収穫大変じゃなかった?」

 

「今回の件はシオも珍しく張り切ってたらしいぞ」

 

「なるほどね……」

 

 ラウンジではムツミと交代したエイジがカウンターの中で炎と格闘すべく、手を動かしていた。既に昼のピークは過ぎたからなのか、周囲に人影はまばらとなっている。

 元々混むのを嫌ったからなのか、ナオヤは時間を外してラウンジに来ていた。

 屋敷の実験農場で何を作っているのかは屋敷の人間であれば誰もが知っている。そもそも実験である為に少量だけを作るからなのか、出来が良くても全員の口に入る事は早々無かった。

 実際にエイジだけでなくナオヤも食べそびれる事が度々ある。だからなのか、今回持ち込まれたそれはこれまでになく珍しい試みだった。

 

 

「で、冷やしてあるのか?」

 

「ああ。ここにね」

 

 エイジは視線を下に向ける事でそれがどこに有るのかを示していた。

 元々大きいからなのか、当初はスペースの確保に気を使ったものの、他の食材を幾つか使い切った事でそのスペースの確保に成功していた。

 

 

「って事は早ければ、今晩か明日の昼以降か?」

 

「まだ決めてないかな。こっちの一存で決める訳にも行かないだろうし。因みに屋敷の方はどうなっているの?」

 

「確かシオのテンションがやたらと高かったな。あそこはタライに沈めてたからやっぱり同じじゃないか?」

 

 当初、最初に収穫した際にナオヤは屋敷で偶然見かけていた。

 元々野菜類とは言え、本当の意味での野菜では無いからとシオを中心に子供達が関心していた事が記憶に新しい。

 無理にその輪に入っても良かったが、子供達の事を考えると流石に厳しいと感じたからなのか、遠目で見るだけに留まってた。

 そんな中で一部がここに運ばれた事を聞いたからこそ、ナオヤはカウンターに居たエイジに聞いたに過ぎなかった。

 

 

「種から珍しくやってからね。まさかあんなに大きくなるとは思わなかったけど」

 

 エイジもまた当時の事を思い出したからなのか、思わず苦笑していた。

 これまでにもシオだけでなく、子供達も何度か実験農場で種まきから野菜の栽培の手伝いをしている所を何度か見かけている。

 表面的には実験農場は極僅かな人間だけで管理しているが、基本的に手伝う事に関しては断る事はしなかった。

 これは子供達の興味を活かすのもさることながら、今後自分達がどんな道を歩むのかの選択肢の一つにもなっているからだった。子供の頃の体験がどれ程影響を及ぼすのかは分からないが、これはエイジやナオヤも同じく辿った道。

 だからなのか、そんな光景を見る事に違和感は無かった。

 

 

「だな。まさかあれだけの物になるとなれば、俺達が出しゃばる必要は無いだろう。で、何かそれで作るつもりか?」

 

「いや。まずはそのまま切っただけで出すつもりだよ」

 

「だよな。やっぱり一回は素のままが良いよな」

 

 そんな取り止めの無い会話をしながらエイジはナオヤに頼まれた炒飯と中華スープ、野菜炒めを出していた。

 元々昼のメニューには無いものの、人が少なければ気軽にオーダーを受けていた。もちろん材料が無ければ無理だが、今日のランチメニューの材料を活かしたからなのか、当たり前の様に出されていた。

 出された物を一気にかきこむかの様に口へと運ぶ。遅めの昼食は意外と空腹には勝てなかった。

 

 

 

 

「あれ?今ごろ食事なの?」

 

「ああ。ちょっと忙しかったからな。で、リッカもか?」

 

「私は違うよ。ちょっと休憩かな。最近は割と神機の消耗率が早いからだと思うんだけど、思ったよりも数が多くてね」

 

「……確かに」

 

 そう言いながら、リッカはナオヤの隣に当然の様に座りエイジにオーダーを出す。

 既に用意されていたのか、エイジもまた軽食の様に小さ目のハムサンドとジンジャーエールを出していた。

 リッカが言う様に最近になってからこれまで教導だけだった新人が現場に出る事が多くなり、そのしわ寄せが技術班へと伝播している。

 初めての実戦は当然の様に固くなりがちになる。その結果、教導では出来ていた物が出来なくなるケースが多かった。無駄が多くなればそれに比例するかの様に神機の消耗も激しくなっていた。

 今に始まった事では無いが、やはり整備する側からすれば仕事量が一気に増える要因でしかなかった。

 

 

「そう言えば、ここに来た時に何か話してたけど、屋敷で何かあったの?」

 

「いや。大した事じゃないんだ。ちょっと今回の実験作物の件でな」

 

「えっ!新作出来たの!」

 

「ああ。今回の新作はシオも張り切ってたからな。今晩か明日には出せるらしいぞ」

 

「そっか。因みに何?」

 

 興味があるからなのかリッカはエイジに確認していた。

 元々この話は隠す訳ではな無いが、下手に喋られると自分達の分が無くなる可能性を秘めていた。

 これまでに食べた事はたったの1回だけ。意地悪するつもりは無いが、やはりご相伴に確実預かろうと考えれば情報漏洩だけは避けたいと考えていた。

 

 

「その時にかな。まぁ、数が少ないから楽しみにしておいて」

 

「そっか。じゃあ、ちゃんと教えてね」

 

「ナオヤに連絡するよ」

 

 何時もの光景がそこにあったからなのか、ラウンジの空気は緩やかに流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方になってから早々に出す事をエイジはムツミと相談しながら出していた。

 元々実験農場で作る物は数がそう多く無い。一つの品種だけを栽培するのは効率が悪いだけでなく、場所が限られる以上、制限する必要があった。

 ここではお馴染みになりつつある食材も、実験農場で作った際には数は多く無い。これまでの野菜類では無かったからなのか、今回の事を知っている人間以外は偶然この場に居合わせた者だけが口にする事が出来ていた。

 大きな玉の様なそれを二つ冷蔵庫から取り出す。

 中心に向かって一気に振り下ろしたそれは中までギッシリと実が詰まり、瑞々しさが見える。これまでに見た事が無い人間が殆どだったからなのか、誰もが興味津々だった。

 

 

 

「思ったよりも甘いな」

 

「結構良いレベルかも」

 

「私は初めて食べました」

 

 運ばれた際に初めて見たからなのか、ムツミはこれが何なのか理解出来ないまま冷蔵庫へと入れていた。

 弥生が持ってきた大きなそれは明らかにこれまでに見た事が無い食材。名前は聞いたが、それが何なのかは分からないまま時間だけが過ぎていた。

 それぞれに行き渡る様にカットしていく。赤い実の部分はこれまでに見た事が無い代物。

 誰もがエイジの手元を食い入る様に見るだけだった。出された物をいち早くナオヤが齧り付く。それを見た他の人間もまた同じ様に齧り出していた。

 

 

「エイジ。これって何ですか?」

 

「これは西瓜だよ。今回の実験農場で作ったらしいんだけど、今回は珍しくシオが力を入れて作ったらしいからね」

 

 アリサの質問に当時の事を思い出したのかナオヤを会話した時と同様に笑みが浮かんでいた。

 恐らく今回の西瓜はシオが一番望んでいた物なのかもしれない。毎日眺めては記録を付けている事はやんわりと聞いていた。

 だからなのか、アリサの質問にも気軽に答えていた。

 

 

「でも、これってフルーツなんですか?」

 

「基本的にはフルーツよりも野菜寄りかな。明確な基準は無いんだけどね」

 

 一口齧った際に瑞々しい甘さが口の中に拡がっていく。確かにアリサが言う様に野菜として考えるのは難しいとさえ思えるそれは、やはり生産に対する情熱の証。エイジの答えに何かを想像したのか、アリサもまた笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「何だよ。俺にも声かけてくれよ」

 

「コウタの分は……無いですね」

 

「ちょっ……それは俺の分じゃないのかよ!」

 

 コウタが真っ先に見つけたのはカウンターに人が多く集まった光景だった。

 今回の件に関しては一部の人間以外には何も知らされていない。そもそも試作段階の物が故に告知する必要性はどこにも無かった。

 コウタの目に飛び込んでい来たのはあと2切れのみ。だからなのか、真っ先に行動していた。

 

 

「これはマルグリットの分ですよ。それとエリナの分です」

 

「え~マジかよ」

 

「私の分だったら少しあげるから」

 

「マルグリットに感謝しなさいよ」

 

 余りにもガッカリしたからなのか、コウタをフォローするかの様にマルグリットが助け船を出していた。

 元々数が無い事はマルグリットも知っている。

 事実、屋敷に数日間居た際にも同じ様な光景を何度も見たからなのか、簡単に説明された時点で理解していた。

 もちろん、アリサとて理解している。今直ぐに食べる事は無理でも、時間があればその内市場にも出回る事を知ってるのと同時に、マルグリットの性格を考えればどんな結果が待っているのかも理解した上でコウタに対し辛辣な言葉をかけていた。

 コウタは気が付いていないが、エイジとムツミ、ナオヤはマルグリットの為に残したそれがエリナの物よりも大きい事を知っている。

 もちろん本人の考えを考慮した結果だった。

 

 用意された西瓜が好評だったからなのか、切ってから無くなるまでに然程の時間を必要としなかった。

 旧時代の様な環境になる為には自分達がアラガミを討伐するより手段は無い。今回の様な事がこれからも何度も続くのであればとの思いが出たからなのか、ラウンジには笑顔が溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって……」

 

「これは何でしょうか……」

 

 聖域での農業の相談があったからなのか、ブラッドは珍しく屋敷へと出向いていた。

 普段であればエイジかアリサが居ない限り、ここに来る事はそう多く無い。今回呼ばれたのは実験農場で作った作物に関する件で呼ばれていた。

 何時も居る人間が居ないからなのか、誰もが少しだけ緊張感を持ちながら敷地内を歩いている。そんな中で目についたのが桶の中に沈められた西瓜だった。

 

 

「水に冷やしてあると言う事は何かしらの果物では無いのだろうか」

 

「果物にしては大きい様な気もするぞ。ロミオ、これが何なのか知らないか?」

 

 不思議そうな顔をしながらもナナとシエルは近づきはするが、これが何なのかが分からない為に触る事を躊躇っていた。

 下手に触る事で何か良く無い事が起きた場合、フォローする事が一切出来ない。只でさえ機密の塊の様なここにある以上、ここから先に近寄る事は難しいとさえ考えていた。

 一方のジュリウスとリヴィもまたこれが何なのかを知らないからなのか、遠目で見る以外に何も出来なかった。

 

 

「いや。俺だって何でも知ってる訳じゃないぞ。それにこれが何なのかは全く見当が付かないから」

 

「勝手に触る訳にはいかないだろうな。向こうに着いたら聞けば良いだけじゃないのか?」

 

「確かにそうだな。ではギルが言う様に着いてから聞く事にしよう」

 

 ギルの呟きに答えるかの様に、ジュリウスもまた同じ意見を口にしていた。

 元々呼ばれたからここに来ただけなので、詳しい事は何も分からないまま。だとすれば直接聞いた方が建設的だとするジュリウスの言葉に誰もが従っていた。

 

 

 

 

 

「ところで一つお聞きしたい事があるのですが、今後の聖域に関しては極東支部としてはどの様な見解を持っているのでしょうか?」

 

 無明に呼ばれたのは今後の聖域に関する権限についてだった。

 現状では極東支部の管理下で農業を営んでいるが、先般の神機兵事件の際にフェンリル本部としてもどんな内容の物なのか、一度この目で確認したいとの意見が噴出した為に、今後の事も見据えた上での確認事項だった。

 

 元々アラガミが居ない頃を知っている人間からすれば懐かしさがあるかもしれないが、今のブラッドの様にアラガミが居ない世界を知らない人間からすれば、聖域とはすばらしい区域だと判断されていた。

  強制ではないものの、やはり何かと問題が出る可能性は否定できない。だからこそ今回の提案が如何に重要な結果を齎すのかを知ってほしいとの思惑で呼ばれていた。

 事実、話の殆どはそれに終始していたが、話が一区切りついたからとジュリウスがこれを機に確認していた。

 

 

「聖域に関しては従来通りに運用する以外に何も無い。一部では聖域の視察の話も出ているが、現時点ではそれを承服するつもりは最初から無い」

 

「ですが、このままでは我々だけが独占しているとの思惑があるのでは?」

 

 無明から言われた言葉にジュリウスが反応するのは当然の事だった。

 ここが出来た直接の原因が自分の起こした出来事であるからなのか、聖域に関する件ではかなりデガティブになり易かった。

 農業そのものも、今では推進している立場ではあったが、元々は贖罪の意味も含まれている。

 だからなのか、アッサリと言われた言葉に対し若干懐疑的な部分がそこにあった。

 

 

「ジュリウス。もう一度言う。()()()()()だ。誰も恒久的にしないとは言っていない」

 

「………申し訳ありませんでした」

 

 現時点の言葉にジュリウスは漸く意味を理解していた。

 詳しい事は分からないが、これまでの極東支部の事を考えると全てを秘匿する様な事は一度も無かった。言葉にした様に期間を示すのは何かしらの思惑があっての事。

 ましてや最近まで色々とあった神機兵の事案に関しても表面上は解決したものの、水面下ではそんな事が起こっているのはを知る術はどこにも無い。そこまで理解したからこそジュリウスはそれ上何も言えなかった。

 

 

「ねぇ、そんな難しい話よりも、少し聞きたい事があるんですけど……」

 

 無明とジュリウスの言葉を遮るかの様にナナの言葉が場の空気を変えていた。

 元々こんな難しい話はナナだけでなく北斗やロミオも得意とはしていない。

 自分達が出来る事は政治ではなく現場でアラガミを討伐する事しか出来ないと知っているからこその発言だった。

 ナナの質問に改めて視線が集中する。だからなのか、ナナはどこか言い辛そうに話していた。

 

 

「来る時に、桶の様な物に丸い何かが入ってたんですけど、あれって何ですか?」

 

「ああ。あれの事か、あれなら…」

 

「とうしゅ~。もう切ってもいいのか?」

 

 場の空気が先程までの状態を払拭していた。

 シオの声で全員が背後に振り返る。既に待ちきれない表情を浮かべたシオがまるで急かすかの様に立っていた。

 

 

「もう冷えてるのか?」

 

「たぶん冷えてると思う。ちゃんと氷水にしたから!」

 

「ならば良いだろう」

 

「りょうか~い」

 

「皆もシオの後に着いて行くと良いだろう」

 

 何の話なのかを誰もが理解出来ないままに会話が終わる。そんな状況を見たからなのか無明もまたブラッド全員に対し、これからの行動を促していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、おいしいな!」

 

「シオ姐、頑張ったもんな!」

 

「次はもっと作りたいよね」

 

 既に切り分けられたのか、シオの歩いた先にブラッドが付く頃には既に屋敷の子供達が何かを食べていた。

 これまでにも屋敷だけなくラウンジでも色々な食事を食べてきたが、誰もがそれに覚えが無かった。

 真っ赤な実は瑞々しいからなのか、果汁の様な物が滴り落ちる。誰もが笑顔で齧りつくからなのか、そんな光景を見て最初の行動したのはナナだった。

 

 

「それって何?」

 

「これか?これ、スイカって言うんだぞ」

 

「スイカって……」

 

 ナナの疑問にシオはとにかく食べれば分かると言わんばかりに切った西瓜を渡していた。これまでに見た事がない食材ではあるが、子供達が食べている顔を見れば不味い物ではない。だからなのか、何の疑問も持たないままナナはそれを齧ってた。

 

 

「ナナさん……」

 

「こ、これは……」

 

 シエルの心配を他所にナナはそのまま無言で食べ続ける。そんな光景を見たからなのか、改めて差し出された西瓜を北斗も手に取っていた。

 

 

「なるほど……これは甘いな」

 

「どうだ!シオが毎日世話をしたんだぞ」

 

 北斗の表情に満足したのか、シオもまた改めて西瓜を食べ始めていた。

 既に用意された物は残りも僅か。ブラッドの全員も同じく手に取り齧りついていた。

 初夏の暑さがそうさせるからなのか、冷えた西瓜の効果はこの後聖域での農作物の一つとして加えられていた。

 

 

 

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