神喰い達の後日譚   作:無為の極

61 / 158
第61話 灼熱からの脱出

 既に移動を開始してからそれなりに時間が経過したからなのか、、リンドウとシエルは徐々にエイジ達の居る場所へと接近しつつあった。

 元々シエルの血の力『直覚』は時間と共に親和性が発揮されたのか、ジャミングの影響を緩和しはじめている。オラクル細胞の活性化が影響しているのか、距離が縮まると同時に徐々にどんな現状なのかをおぼろげながらに理解していた。

 

 

「リンドウさん。エイジさん達を確認しました」

 

「そうか。で、どの辺りに居るんだ?」

 

「作戦領域のほぼ端の部分です。ですが……」

 

 直覚がもたらした情報の内容は極めて拙い状態である事を示していた。

 事実上の乱戦なのか、エイジとカノンの周辺には中型種の反応が幾つか浮かんでいる。そんな中で一つだけ曖昧な表示となっている物があった。

 これまでの経験からこれが何なのかは大よそ予測出来る。しかし、確実にと言われると返答出来ない事実だだけが残されていた。

 

 

「…とにかく、俺達は急ぐしか出来ん。エイジなら問題無いが、カノンは厳しい」

 

「そうですね。今出来る事だけをやりましょう」

 

 目的地が分かっているからなのか、更に速度を上げて疾走している。このままなら目的地までは然程時間がかからない。その感情だけが胸中を占めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として現れたヤクシャ・ティーヴラは自分達の同胞とも取れる存在を無視するかの様に鋸状の刃で斬り裂くと同時に捕喰していた。既に本能による欲求が勝っているからなのか、エイジ達の事は眼中に無いとばかりに捕喰を続けている。

 クチャクチャと聞こえる音と同時に周辺の温度が一段と高くなったのか、呼吸する際に入る空気は肺を焼く様な感じになりつつあった。

 ただでさえ『煉獄の地下鉄』と呼ばれるこの場所は、マグマ溜まりがある為に気温は普段から高い。それに輪をかける暑さは汗までも直ぐに蒸発する勢いがあった。

 既に二人の来ている服も熱によって繊維が脆くなっている。元々服に防御力を求めて居ない為に、気になる程では無いが、それでもこの暑さは異常としか言えなかった。

 

 

「恐らくは変異種です。因みにカノンさんは変異種の討伐経験は有りますか?」

 

「へ、変異種はありません」

 

「これまでの行動とは一線を引いた動きをするケースが多いですから油断はしないで下さい。それと今の内にこれを」

 

 エイジがカノンに差し出したのは自分の分のOアンプル剤。既に自身のオラクルの度合いも厳しかったカノンにとっては有難い品ではあるが、そうなると今度はエイジの手持ちが無い事になる。それを察知したからなのか、カノンは遠慮なく受け取る事が出来なかった。

 

 

「ですが……」

 

「僕ならこれが有ります。ですが、カノンさんは何も無い訳ですから」

 

 存在感を示すかの様に『黒揚羽』の刃は怪しく光っていた。

 これまでに幾度となく戦って来た相棒は、まだ足りないと言わんばかりにアラガミを求めている様にも見える。

 無機質なそれに意志が宿っている様な錯覚を覚えたからなのか、カノンは改めてエイジからOアンプルを受け取ると素早く口に含んでいた。

 枯渇したかの様な感覚がゆっくりと癒されるかの様に自身の体内にオラクルが駆け巡る。完全に補う事が出来たからなのか、ここから先の展開をどうするのか、改めて考えていた。

 

 

「一つ確認したいんですが、カノンさんはオラクルリザーブって使えますか?」

 

「その件でしたら……」

 

 エイジの言葉にカノンとしても期待に応えたい気持ちは十分にあった。

 ブラストを使用している人間であればオラクルリザーブの効果がどれ程の物なのかをよく理解している。これまでの様に神機の機構だけに頼った物ではなく、余剰な物を蓄える事によってこれまでに無いバレットを作る事が可能な技術。オラクルリザーブがどれ程効果的なのかはエイジ以上にカノンが一番理解していた。

 

 しかし、自分の神機にはオラクルリザーブの相性はかなり悪い。最悪は暴発する可能性があると以前にハルオミから聞かされていた。破壊力を落としたブラストは余程バレットを調整しない限り、十全の力を発揮できない。それを理解しているからこそ、返事の言葉は歯切れが悪かった。

 

 

「……詳しい事は分かりませんが、無いと判断して良いですね」

 

「……はい。すみません」

 

 エイジの言葉にガックリとカノンは肩を落とす。そんな言動を見たからなのか、エイジは僅かな疑念と共に、改めて気持ちを切り替えていた。

 変異種であろうが、1体のアラガミでしかない。幸いな事にヤクシャ・ティーヴラが他のアラガミを全て捕喰したからなのか、改めて湧き出る様な気配は感じられなかった。

 

 

「カノンさん。ハンニバルと初めて戦った時の事覚えてますか?」

 

「ハンニバルですか?」

 

「はい」

 

 エイジの言葉に当時の事を思い出したのかカノンは当時の状況を思い出していた。

 あの時の動きは今も脳裏に鮮明に浮かんでいる。あの動きがあったからこそ今もあの時の行動をバネにやっている様な物だった。

 理想の自分を思い出す。それが表情に出たからなのか、カノンは少しだけ明るさを取り戻していた。

 

 

「当時と状況は違いますが、僕が射線と発射のタイミングを指示します。カノンさんはその状況を見て引鉄を引いて下さい」

 

「でも……」

 

「カノンさんだけじゃないです。僕もあの時とは違いますから」

 

 エイジの言葉にカノンは改めて気を引き締めていた。射線とタイミングをコントロールすると言う事は、即ちアガラミの動きもコントロールする事になる。

 只でさえ極限とも取れる動きの中でそれが出来たのは無明の力量があっての話。

 ましてやここまで厳しい戦いになれば些細なミスすら許されない。自分の行動に命を預けろ。カノンはそう言われた様に感じていた。

 一報のエイジもまた同じ事を考えていた。当時と今と比べる事は出来ないが、一度口にした以上、やるしかなかった。

 

 

「分かりました。ではやりましょう」

 

 カノンの言葉が全てだったのか、改めて視線をヤクシャ・ティーヴラへと向ける。

 全てを捕喰したからなのか、全身に膨大な熱量を帯びていた。周囲の温度は不明だが、周囲の空気が揺らいでいる。

 高温下での戦いはエイジだけでなく、カノンも未体験。だからと言ってこのままリンドウ達を持っている程の余裕は無いと感じたからなのか、既に気持ちは互いに一つとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灼熱を思わる大気はエイジとカノンの予想を大きく裏切っていた。

 距離を詰める事に肺に流れる大気は高熱を帯びているからなのか、新鮮な空気を入れようとする意志を拒むかの様に薄い物となっていた。

 呼吸が出来なければパフォーマンスの低下は避けられない。幾ら対策を取ろうとしても、灼熱の空気をどうにかする事は不可能だった。

 

 姿さえも揺るがす程の大気の熱がこれ程なのは想定外だった。既に捕捉したヤクシャ・ティーヴラは間合を詰められるのを嫌ったからなのか、幾重にも出されたオラクルの銃砲は全てエイジへと向けられていた。

 ヤクシャととは違い、発射までのタイムラグは極めて小さい。逃げ場さえも塞ぐ様に出されたそれはエイジの行動を大きく変更させるだけの数が揃っていた。

 一斉射撃であれば大きく躱す事が出来るが、それを予測したのか、態と時間差で発射していた。

 ギリギリで躱せば次弾が被弾する。盾を展開すれば今度はその場に縫い留められる。

 今出来る事は回避行動の一択だった。

 向けられた砲弾を回避すべく、エイジは壁に向かって一気に方向転換を図る。壁の突起を活かすと同時に、エイジは僅かに壁の側面を走っていた。

 先程まで居た場所に時間差で3発の銃弾が過ぎ去っていく。エイジの予想した通り、時間差によって回避行動を制限したに過ぎなかった。

 

 如何にエイジと言えど無限に壁面を走る事は出来ない。距離にして僅か2メートル。僅かとはこの接近戦での2メートルは大きな意味を持っていた。

 短いながらも距離を詰める事に成功していた。鋸状の刃に至ってはどうとでも出来る。そんな思いがあったからなのか、エイジは一気に懐へと飛び込んでいた。

 

 

「まずはここから!」

 

 小さく跳躍した事で、エイジはその場に留まるのではなく、一気に離脱する方針を固めていた。

 黒揚羽の威力を存分に振るうべく逆袈裟で斬りつける。本来であれば一気に仕留めたいが、相手は変異種。ヒット&アウェイの如く斬りつけた手応えを感じた瞬間、反対方向へと跳躍していた。

 威力を押さえ手数で決める。これがカノンに提示した作戦だった。斬られた事によってヤクシャティーヴラはエイジを逃がすつもりは無いからなのか、反対方向へと跳躍する姿を捕捉し、鋸の刃を振りかざす。

 本来であれば先程の行動は悪手でしかない。しかし、エイジに焦りの表情が生まれる事は無かった。

 

 

「今です!」

 

 エイジの合図と共にカノンのスヴェンガーリーの銃弾はそのまま鋸の刃を直撃していた。

 通常であれば出した刃を引っ込めれば良いだけの行動。しかし、追い打ちを狙ったからなのか、鋸の刃が引っ込む事はなかった。

 完全に伸びきった刃はいつの間にか移動していたカノンの目の前。至近距離からの銃撃に誤射の要素はどこにも無かった。

 激しい砲撃音と共に来る衝撃はヤクシャ・ティーヴラの態勢を大きく崩す。カノンもまたその瞬間を狙って回避行動を開始していた。

 

 

「エイジさん!」

 

 カノンの言葉に再びエイジが接近していた。先程の銃撃によって今だ態勢が整わないのであれば、それは致命的な隙でしかない。

 エイジの持つ黒揚羽の漆黒の刃は先程直撃した鋸の刃に向けられていた。お互いが刃を交わせば体格差でエイジが飛ばされる。しかし、それを読み切っていたからなのか、エイジはお互いが正面からぶつかる選択肢を選んでいなかった。

 突進する様に見せかけながら不意に入ったフェイントで一気に横へと駆け抜ける。ギリギリまで引きつけてからの方向転換はエイジの残像だけを残し、鋸の刃はのまま空を切り地面を叩きつけていた。

 振り切った事によって腕が完全に伸びきっている。完全に真横へと変化したからなのか、漆黒の刃は鋸の刃の側面を斬り付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこの角を曲がって50メートル程です!」

 

 シエルは自身の感覚を活かしながらリンドウをナビゲートしていた。幸か不幸か時折繋がるアナグラからの情報に交戦中のアラガミが強大である事を告げられていた。

 詳細は不明だが、距離が縮まるごとに、息苦しさが先行している。これまでに無い状況だからなのか、シエルも僅かに違和感を感じていた。

 

 

「おいおい……マジかよ」

 

「これ……は」

 

 二人が角を曲がって最初に見た光景は自分達が知っている地形では無かった。

 『煉獄の地下鉄』は確かにマグマが流れる高温地帯。しかし、今の光景はそんなこれまでの景色を一変させていた。所々に浮かぶ島の様な足場を頼りにエイジは交戦している。

 時折狭い場所を活かしたのか壁を駆けあがる事によって有効活用しながら対峙していた。

 攻撃をしながらゆっくりとヤクシャ・ティーヴラを誘導する。時折態と見せる隙が気になったが、その疑問は直ぐに解消していた。

 

 

「カノンさん!」

 

「はい!」

 

 渾身の一振りを誘導する事によって回避させる事を許さないからなのか、叩きつけた鋸の刃の目の前にカノンが銃口を向けている。

 冷却に特化したバレットは直ぐに凍結にまで追い込んでいた。急激な熱による膨張と収縮はアラガミであっても同じ事が起こるからなのか、それとも取り込んだ物が神機だからなのか、銃撃が着弾すると常に亀裂が広がっている。

 元々ヤクシャの上位種とは言え、目の前で戦うそれは明らかに変異種の特徴を持っていた。

 

 肩に隆起した瘤の様な物は盾の役割を果たしているからなのか、援護射撃するカノンの銃弾を完全に防いでいる。一方のエイジもまたカノンの隙をフォローするかの様に自分が攻撃をする際には確実に意識を向けていた。

 ツーマンセルの動きとしても見れば極上だったのか、時間にしてほんの数秒程度ではあったが、リンドウとシエルはその機動に見惚れていた。

 死角からの攻撃によって常にお互いの有利なポジションを確保する。危うい行動はそこにはなく、ただ機械的に行動している様にも見える程に同じパターンでの攻撃が決まっていた。

 

 

「シエル。ここから援護出来るか?」

 

「やってみます」

 

 シエルの能力を十分に理解しているからこそ、リンドウもまたシエルの狙撃の隙に距離を詰める準備をしていた。

 既に狙いを付けてるのか、シエルの銃口は微動だにしない。そんな状況をまるで見ていたかの様にエイジもまたそれを利用しようと考えていた。

 

 

 

 

 

「狙い撃つ」

 

 一言だけ呟いたシエルの言葉にヤクシャ・ティーヴラの頭部が弾けていた。

 想定外の銃撃によってこれまでエイジに向けられた視線が不意に緩む。その方向から疾駆するリンドウを見たからなのか、ヤクシャ・ティーヴラの意識が完全にエイジから途切れていた。

 

 

「俺達も混ぜてくれよ…な!」

 

 リンドウの持つ刃はヤクシャ・ティーヴラの振りかざす刃と完全に交差していた。これが戦闘の序盤であれば恐らくは力負けしたかもしれない。しかし、これまでに執拗な程に同じ個所を攻撃していたからなのか、強靭なはずの刃は激しい音を立て、完全に折れていた。

 想定外の行動にヤクシャ・ティーヴラはここに来て大きく怯む。致命的な隙を逃す様な人間はこの場には誰一人いなかった。

 砕かれた刃に動揺したのか思わず膝を付く。これまでに無い距離感は既にエイジだけでなくリンドウとカノンの的でもあった。

 一筋の流星を感じさせる程の剣閃は肩鎧の部分に斬り付けると同時にすぐさまインパルスエッジを敢行する。突然の衝撃はこれまでの攻撃とは質が異なるからなのか、限界が来たのかと思う程に破壊されていた。

 

 

「私も負けられません!」

 

 カノンもまたリンドウ動揺にスヴェンガーリーの銃口を頭部へと向けていた。

 幾らヤクシャの上位種とは言え、弱点や脆い部分が早々変わる訳では無い。極寒を思わせる蒼白の銃弾は疑う事無く頭部へと着弾していた。

 瞬間だけ氷付くも熱によって直ぐに溶解する。膨大な熱量は未だ活きているからなのか、これまでの様に致命的な攻撃には成らなかった。

 これまでの戦いの中でそれを学んだからなのか、追撃や深追いをするつもりはどこにも無い。一撃離脱を絵に描いた様な行動はこれまでのカノンとは一味も二味も違っていた。

 

 

「リンドウさん!一気に決めます!」

 

「任せた!」

 

 エイジの言葉にリンドウだけでなく、シエルもまた同じ様にエイジの行動を注視するだけに留めていた。

 倒れたヤクシャ・ティーヴラの肩口に大きな咢が喰らい付く。バーストモード特有の青白いはずのオーラはどこか色が違っていた。

 熱による色覚の変化なのか、それとも何か異変が起きたのか、そこからのエイジの行動は正に閃光と呼ぶ程だった。

 

 実体すらも残さないと言わんばかりに斬撃があらゆる角度からそれぞれの部位へと斬り付けられる。一振りのはずの斬撃の痕は少なくとも三度斬り付けた様に見えていた。

 これ程の状態をリンドウが見た記憶は一度も無い。黒揚羽の封印が解けた訳でも無い。そこにあるのは純粋な攻撃と移動速度だけだった。

 

 

「す、凄い・・・これ程とは……」

 

 異様な光景にシエルは思わず感嘆の言葉が漏れていた。ここまでの早さで攻撃するとなれば、ジュリウスのブラッドアーツでもある『神風の太刀』のそれに近い物があった。

 しかしあれはあくまでも血の力による発動だが、エイジが行っているのは純粋な体術と剣術の組み合わせ。

 バーストモードの恩恵を受けているとは言え、余りにも破格の攻撃だった。

 そんな状況を見ながらシエルは少しだけ現実に戻っていた。一体どれ程の修練を積み、どれ程の研鑽をすればこの高みに登れるのだろうか。

 自分達が使うブラッドアーツとは違うそれは、シエルの背筋に冷たい物が走る様でもあった。

 

 

「カノンさん!」

 

「はい!」

 

 エイジの言葉にカノンは目の前にあるヤクシャティーヴラの頭部に向けて改めて引鉄を引く。事実上の止めとなるからなのか、至近距離から放たれた銃弾はそのまま頭部を粉砕していた。

 頭部が破壊された事によって僅かに震えた瞬間、悲鳴を上げる事無くそのまま地面へと横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。やれやれだぜ。地上がこんなに涼しく感じるなんてな」

 

「ですね……でもまだ喉と肺が痛みます」

 

 灼熱地獄とも言える地下から地上に出た瞬間、4人は思わず深呼吸をしていた。

 正確な温度は不明だが、確実にあの周辺の気温は50度以上あるのは間違い無かった。

 凍結するはずのバレットでさえ瞬時に蒸発する以上、少なくともヤクシャティーヴラの体表温度は100度以上あったはず。地上も本来であればこの時期特有の暑さがあったが、地下からすればまさに涼しいとさえ思える程だった。

 

 

「取敢えず、戻ったら診察受けろよ」

 

「そうします。ですが、暫くの間はここに来たく無いですね」

 

「違いない」

 

 穏やかな笑みを浮かべながら漸く何時もの時間に戻りつつあった。

 既に帰投の連絡をした際に、こちらにソーマとアリサが向かっている事を聞いたからなのか、珍しく地面に腰を下ろしていた。

 

 

「そう言えば、カノンさんの神機の件なんですが、ハルオミさんが言ってたんですよね?」

 

「はい。そう聞きました」

 

 先程の攻撃を仕掛けた際に放った銃弾は少なくとも高負荷が掛かっているはず。元々オラクルリザーブの技術は蓄積しやすい様に高濃度に圧縮するシステムだとナオヤから聞いた記憶があった。

 もちろん、それが本当の原因なのかは分からない。しかし、今回の様な厳しいミッションになればなる程オラクルの総量は多いに越した事は無い。

 恐らくは例の事が大きく影響しているのは間違い無いが、だからと言って、それとこれを分けるのは愚の骨頂だと考えていた。

 

 

「あの……エイジさん。一つだけ教えて欲しいのですが」

 

「僕に分かる事なら」

 

 カノンの神機の事を考えながら不意に呼ばれたからなのか、エイジは何気なく答えていた。

 背後から声をかけたのはシエル。どこか何時もとは違った様な雰囲気にエイジもまた疑問に思いながらも、様子を伺っていた。

 

 

「実は最後の攻撃の事なんですが、どこまでやればあれ程の戦闘機動が可能になるのでしょうか?」

 

「どこまでって言われても……」

 

「勿体ぶるなよ。さっきの動きはまるで無明みたいだったからな。俺も少し驚いたぞ」

 

 リンドウの言葉にエイジは嬉しいと考えていた。元々リンドウはこれまでの中で一番無明とミッション出ている数が多く、またその機動を目の前で何度も見ている。そんな人間の言葉に嬉しくならない訳が無い。

 これまで高すぎた頂きが少しだけ見えた様にも思えていた。

 

 

「特に変わった事をしたつもりは無いですよ」

 

「ですが、最小限の動きで最大限の結果を出すのであれば、何らかの鍛錬が必須だと思いますが?」

 

 シエルの言葉にエイジも頬を掻きながら考えていた。自分では何一つ特殊な事をしているとは思っていない。これまでの鍛錬が積み重ねた結果でしかなかった。

 他人の目からどんな風に見えるのかは知らないが、自分でも分からないと言うのが正解だった。

 

 

「シエル。とりあえずは戻ってからにしようや。そろそろ迎えが来たみたいだからな」

 

リンドウの言葉に少しだけ先を見ると、こちらに向かっているのか、ジープの影が徐々に大きくなっていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。