神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第72話 起死回生

 ブラッドの窮地はアナグラにも伝えられていた。

 元々各自のバイタル情報を常に表示しているが、急激に数値が悪化しただけでなく、それと同時に現れたアラガミの数がそれを示していた。

 詳細までは分からなくとも、その内容が現状を示している。そんな事もあってか、直ぐに応援としての部隊派兵を決定していた。

 

 しかし、そこには大きな問題が一つだけあった。

 現在のアラガミ反応の中でも異質なアイコン。感応種の存在だった。

 元々今回の感応種の討伐はブラッドが主体となって交戦する前提での作戦が組まれている。通常であればリンクサポートデバイスの使用も視野に入れるのが当然だが、既に防衛班に貸し出されているだけでなく、万が一の事があってはならないとばかりに予備機は動かす事が出来ないでいた。

 

 

「我々2人だけで、行かせて下さい」

 

「ジュリウスの気持ちは分からないでもないけど、今の現状で2人だけで行くのは承認出来ないわ。本当の事を言えば4人の一部隊を派遣させたい位なのよ」

 

「ですが、感応種が相手であると同時に、リンクサポートデバイスの使用が出来ないのであれば仕方ないはず」

 

 ロビーでは珍しくジュリウスがサクヤと出動に関しての言い合いをしていた。

 元々イレギュラーの5人態勢で派遣した状態で今の結果となれば、これが2人を追加した所で結果が好転するとサクヤは思えなかった。

 それだけではない。仮にブラッドを全員投下した場合、万が一の際には何も出来ない事になる。となれば、アナグラの防衛が完全に低下する為においそれと許可出来ない事情があった。

 ジュリウスの気持ちは自分も良く分かる。リンドウがああなった際にどれ程後悔したのかを知っているからこそ、ジュリウスの言い分を聞きたいと思っていた。

 しかし、アナグラの戦力を天秤にかけるとなれば話は変わる。今の状況で軽々しく行動出来ないからなのか、サクヤの中で良案が出る事は無かった。

 

 

「気持ちは分かるの。でも、ブラッドが完全にここから居なくなった場合の戦力の事を考えて貰わないと、こちらとしても容認出来ないわ」

 

「……しかし」

 

 サクヤの言葉にジュリウスは明確な返答を持ち合わせていなかった。

 激情に駆られたと言えばそれまでだが、無策のまま戦場に行けばどんな結果が待っているのは考えるまでも無かった。

 事実、この窮地を作ったのはこれまで殆どのベテランが歯牙にもかけなかったサイゴートの堕天種。

 通常種とは異なる有毒ガスとその燃焼性は周囲に大きな影響を与えていた。視界を奪うと同時に連携したかの様にマルドゥークが巨大な飛礫を飛ばしている。

 モニターでは何も分からないが、実際にコンバットログを確認すればその連携は一目瞭然だった。

 対案を示さねば出動は出来ない。そんな膠着した状態は数分間にも及んでいた。

 

 

「北斗の能力があれば問題無いのではないか?」

 

「そうだ、それがある」

 

 リヴィの提案は正に盲点だった。元々北斗が持つ『喚起』の能力は感応種に対して絶大な効果を発揮していた。

 本来であればブラッド以外のゴッドイーターはなす術もなく神機が機能不全を起こしていたが、その喚起の力が及ぶ場合はその限りではない。

 どんな効果を持っているのは未だ不明ではあるが、それは確実な実績を残していた。

 希望の光が見え始めた。まさにその瞬間だった。

 

 

「その意見には残念だが、同意できないね」

 

「榊博士!どうしてですか?」

 

 希望を見た瞬間冷や水をかけられたかの様に榊の言葉がロビーを覆っていた。

 効果がどれ程あるのかを榊とて知らない訳では無い。だからこその良案は榊の言葉に潰されていた。

 

 

「実は今回の件で、少し奇妙な物を探知してね。どうやらあのマルドゥーク、これまでの個体とは少しだけ異なるみたいなんだ。

 確かに『喚起』の力は素晴らしい物がある。その点に関しては否定しないんだが、問題なのはその有効範囲なんだよ。

 偏食場パルスから探知した結果、あのマルドゥークはこれまでの物よりもはるかに高い能力を有している可能性が高い。恐らくは北斗君の近くで戦う分には問題無いが、厄介なのはどれ位離れるとその効果を失うかなんだ」

 

 榊の言葉を正しく理解したのはジュリウスとリヴィだけだった。

 元々近い場所で戦えば、その恩恵はかなり受ける事が可能となっている。しかし、距離が離れた場合に起こりうる可能性は多岐に渡っていた。

 交戦出来ないのであれば撤退の二文字だけだが、アラガミが大人しく待ってくれるはずが無い。

 常にアラガミの重攻撃に怯えながらの撤退は肉体だけでなく、精神をも削り取る。

 機能不全を起こした神機はかなりの重量を持っている。逃走した場合の結果は考えるまでも無かった。

 

 

「だからと言って、このままと言う訳には」

 

「助けに行かせないと言ってる訳じゃないの」

 

 ジュリウスの言葉にサクヤとしても無策では無かった。

 現状を打破する為には最低でもサイゴートの始末が必要だった。

 今の状況下ではそれが可能となるべき対象者が誰も居ない。だからなのか、ジュリウスを説得させる為の材料が必要だった。

 

 

「あら?珍しいわね。こんな所でどうかしたの?」

 

 未だ解決の要素が何処にも無かった瞬間だった。振り返ればそこには居るはずの無い人物。ジーナ・ディキンソンだった。

 

 

「ジーナさん。防衛班の方は良かったんですか?」

 

「ええ。今日はこれまでのスケジュールの調整と報告を兼ねてここに来たのよ」

 

 ジーナの言葉にサクヤは改めてスケジュールを思い出していた。

 記憶を辿れば確かに近日中にここに来る予定になっていた事を思い出す。本来であればそれで終了だったが、この場に相手は色々な意味で都合が良かった。

 ジーナを見たからなのか、サクヤに一つの案が浮かんでくる。このアナグラに於いては恐らくは一番最適な人物でもあった。

 

 

「ジーナさん。今日の予定はどうなってますか?」

 

「そうねぇ。これの提出が終われば後はフリーかしら」

 

 ジーナの言葉はまさに天啓だった。クレイドルやブラッドに限らず、防衛班は多忙を極める事が多いからなのか、中々スケジュールが開いているケースは多くなかった。

 だからなのか、これからの事を少しだけ考える。そんなサクヤの思いを読み切ったからなのか、榊もまたジーナに確認していた。

 

 

「ジーナ君。実は緊急のミッションがあってね。良ければ参加してもらえないかな」

 

「私は構わないけど……詳しい事は知らないけど、ブラッド絡みって事は感応種が相手だと思ったんだけど、間違ってないかしら?」

 

 ジーナの言葉は当然だった。

 元々詳細までは分からないが、先程のやりとりから考えれば、対象は感応種だと推測できる。自分は第1世代型神機を使用する以上、リンクサポートデバイスを使用するのは当然だった。

 

 

「それには及びません。今回の作戦はそこまでシビアな物を求めている訳じゃないので」

 

「あら、そうなの」

 

 サクヤの言葉に今回の作戦の概要を改めて伝える事になっていた。

 元々北斗の『喚起』が使えれば特に問題になる事は無い。しかし、万が一言って以上の距離まで離れた場合、何かしらの問題が発生する点だった。

 その結果、木乃伊取りが木乃伊にならないように立案されていた。概要を初めて聞いたからなのか、ジュリウスだけでなく、リヴィもまた驚きの表情を浮かべている。

 冷静に考えれば得策では無い様にも聞こえるが、それはあくまでの通常の人間であればの話。

 この極東支部に於いてジーナの狙撃の腕は事実上の1番だった。だからこそ可能となる作戦。榊もまた同じ事を考えていたからなのか、口を挟む事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《目的地までの到着予定時間は5分です。突発的な任務ですが、お願いします》

 

 ヘリの中ではヒバリの声がローター音に邪魔されながら響いていた。

 今の極東ではスナイパー装備を持っているゴッドイーターはどちらかと言えば少数だった。

 近接攻撃と異なる属性を使う事が今のスタンダードだからなのか、アサルトやブラスト装備が多数派だった。

 事実、狙撃となれば自身の精神を削っての一撃必殺の意味合いを持つからなのか、大雑把な射撃でも通用するアサルトが好まれていた。

 

 

「私はあくまでもここからの狙撃なのよね?」

 

《はい。今回は緊急ミッションですので、かかる経費に関しては気にして頂く必要はありませんので》

 

「あら?嬉しい事言ってくれるのね」

 

 今回の作戦概要は色々な意味でシンプルそのものだった。

 上空からジュリウスとリヴィが降下する際に、周囲に浮かぶサイゴートをジーナが狙撃によって排除する内容だった。

 

 元々この地に浮遊していた訳ではなく、マルドゥークの咆哮によって呼ばれた為に、これだけで終わる可能性が極めて低い。

 仮にジュリウスとジュリウスとリヴィがこのまま増援として入っても、最悪は同じ展開になる可能性が高く、万が一の保険の役割も果たしていた。

 

 マルドゥークの影響がしない高度を維持しながらの射撃は相場が常に安定している場面とは大きく事なる。

 幾ら普段から使用していたとしても、この場面で求められるのは高精度の業。以前からその実力が知られているからこそ、ジーナの姿を見た際に実行可能であると判断していた。

 既に準備が出来ているからなのか、ジーナの足元のケースには大量のOアンプルが入っている。狙撃では無く掃射に近い内容だからなのか、ジーナの口元には微かに笑みが浮かんでいた。

 

 

《ジーナ君。この作戦は君の腕が全てなんだ。しっかりと頼むよ》

 

「私が出来る事はこれ位だから。さぁ、綺麗な花を咲かせて頂戴」

 

 ジーナの言葉を皮切りにジュリウスとリヴィは降下を開始する。2人が飛び降りた事を確認したからなのか、ヘリはすぐさま高度を上昇させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《北斗さん。これから増援を向かわせます。ですが、今回の対象アラガミがマルドゥークとなっていますので、ジュリウスさんとリヴィさんです》

 

「了解。だが、サイゴートの群れはどうする?このままだと俺達の二の舞になる可能性があるぞ」

 

《その件であれば、問題点は大よそですがクリア出来る予定です》

 

 北斗の耳朶に飛び込んだのは応援を派遣する内容だった。

 元々今回のミッションは感応種が目標なだけに他のゴッドイーターを投入する事は事実上の不可能だった。

 事実上の総力戦。だからなのか、北斗だけでなく、同じ通信を聞いたシエルもまたこれから起こりうるであろう事を予測したからなのか、体調の回復を優先していたナナ達に事実だけを伝えていた。

 

 

「これからジュリウスとリヴィが援軍で来る。その勢いのまま一気に殲滅するぞ」

 

「でもそれだとサイゴートの群れはどうするの?」

 

「その件に関しては既に何かしらの用意はしてあるらしい。俺達はサイゴートをそのまま無視しても大丈夫らしい」

 

 ナナの質問が今回の現状を作り出した全てだった。

 恐らくこのメンバーで戦うのであればサイゴートの処理は最優先となってくる。

 マルドゥーク特有の行動はブラッドに限らず、他のゴッドイーターから見ても脅威でしかなかった。

 既に賽は振られている。皆がそう感じたからなのか神機を握る手は自然と力が籠っていた。

 

 

《援軍の到着まであと300秒です》

 

「了解。こちらも準備に入る」

 

 テルオミからの通信により事実上のカウントダウンが開始されていた。

 元々この地で隠れる事が出来る様な場所は殆どない。シエルが感知した時点でもアラガミはマルドゥークを中心に動く事は殆ど無かった。

 本来であればサイゴートは事実上の斥候としての役割を果たすはず。にも拘わらず、動く気配が無いのは偏に何かしらの進化をしている可能性が考慮されていた。

 

 

「総員、準備は良いか?」

 

「ああ。俺達の事ならもう問題無い」

 

「さっきの借りは返させてもらうさ」

 

 北斗の言葉にギルとロミオの力強い返事。恐らくは急襲された事による自身の不甲斐なさを感じたが故の言葉だった。

 何時でも行動を可能にしている。後は到着を待つだけだった。

 

 

《到着まであと30秒です。ジュリウスさんとリヴィさんはアラガミが捕喰している場所への降下を予定しています。皆さん、後の事は宜しくお願いします》

 

「了解。直ちに行動に移る」

 

 テルオミとの通信が切れると同時に、全員が行動を開始していた。

 先程の戦いも、結果的にそれなりに捕喰している為に、体力の低下を望むのは余りにも楽観すぎる。再スタートである事を念頭に5人は改めて行動を開始していた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、私もそろそろ開始ね」

 

《はい。既にブラッドも行動を開始していますので、あとはジーナさんのタイミングでお願いします》

 

「まずは……あれからね」

 

 ヒバリとの通信を切ると同時にジーナの視線は既に周囲を漂うサイゴートへと向けられていた。

 元々今回の作戦の最大の要因でもあるサイゴートの始末は事実上、ジーナの手によって始末される事が前提だった。

 既に狙いを定めたのか、ジーナの目が僅かに細くなる。まるでこれが日常だと言わんばかりに引鉄は簡単に引かれていた。

 高高度からの狙撃は本来であれば厳しい条件だけが揃っていた。

 本来であればヘリをホバリングさせた状態での狙撃が望ましいが、アラガミの特性とヘリの状態を考えるとそれは得策では無かった。

 ホバリングによる機体への負担とアラガミから狙われるリスクを考えれば、必然的に異動しながら狙撃する事になる。

 その為に、本来であればかなりの技術が要求されていた。視線の先にはヘッドショットと言わんばかりに一撃で破裂したサイゴートが地面に横たわっている。

 その結果に満足する暇もなくジーナは無心に引鉄を引き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、凄いです」

 

 頭上から降り注ぐかの様に撃ち下ろされた銃弾はサイゴートの人型の頭の部分を一撃で貫いていた。

 本来であれば銃撃は意外と緻密な部分が多分にあるからなのか、精密射撃をする際には細心の注意を払う必要があった。

 風や対象物との高さなど考えればキリがない。そんな一撃必殺の銃弾ははるか頭上から降り注いでいた。

 これまでに苦労していた灼熱の色を持ったサイゴートは次々と地面に沈む。そんな異様な光景を見たシエルもまた、この技術がどれ程高度な物なのかを理解していた。

 

 

「シエル。関心するのは後だ。今はマルドゥークを一気に叩く」

 

「り、了解しました」

 

 先程までの群れの様にいたサイゴートは既に全てが亡き者となったかの様にそのまま地面で霧散していた。

 本来であれば全部を捕喰するのが理想だが、これから対峙するマルドゥークの事を考えると、そんな悠長な事は出来なかった。

 既に残りは1体だけ。その最後の1体もまた、当然の様にヘッドショットによって地面へと沈む結果となっていた。

 

 

 

 

「呼ばれると厄介だ。最大火力で一気に決めるぞ!」

 

 如何にマルドゥークと言えど、ブラッド7人が相手では殆ど問題になる様な事は無かった。

 先程までの鬱憤を晴らすかの様にギルのヘリテージスがチャージ音を立てながら距離を詰める様に疾駆する。事実上の全包囲からの攻撃はマルドゥークに的絞らせる事を許さなかった。

 チャージグライド特有の加速と同時に、その穂先には赤黒い光を帯びている。見た目は問題無さそうだが、如何にアラガミと言えどこの程度の時間で完全い回復する様な事は無かった。

 本来であれば直線的な攻撃は読まれやすい。そんな動きをまるでフォローするかの様に北斗はアサルトの的をマルドゥークの顔面にしていた。ばら撒かれる銃弾によってギルではなく北斗に意識が僅かに動く。

 視界の死角を突いたかの様にヘリテージスの穂先は最初の時と同様に胴体部分へと向かっていた。

 

 

「ギルにばかり良い格好させられるかよ!」

 

 ロミオもまたギルと同様に、すぐさまヴェリアミーチを肩に担ぎ、そのまま闇色のオーラが刀身を覆い出していた。

 ギルだけでなく、全方位からの攻撃は各自への意識を希薄化させる。

 だからなのか、ロミオもまた十分にチャージするだけの時間を稼ぐ事が可能となっていた。

 

 ヴェリアミーチから伸びた刀身のオーラは再度マルドゥークの肩口へと向けられる。既に直撃したギルの攻撃に怯んだ瞬間だった。上段からの重攻撃は先程の状況を思い出させたからなのか、マルドゥークは辛くも回避に成功していた。

 重たい一撃は戦局を一気にひっくり返す程の威力を有している。だからなのか、マルドゥークは珍しく回避だけに専念していた。

 大きくバックジャンプした事によって肩口ではなく、目標は地面へと変更されている。直撃を回避すればその大きな隙を狙う事が出来る。マルドゥークが人間と同じ様な思考能力を持っていればそんな言葉が当てはまる瞬間だった。

 当初の予測通りヴェリアミーチはそのまま地面へと叩きつける結果となっていた。

 

 

「まだまだ!」

 

 本来であればバスター型神機は一度力を開放すれば、その後は致命的な隙が生じる。

 それを本能で嗅ぎ取っていたからなのか、マルドゥークは半ば無意識で動いていた。

 本来であれば地面を叩きつけて終わる。そこにイレギュラーが無ければが前提だった。

 

 ロミオは叩きつけた後、そのまま力のベクトルを縦から横へと変化させていた。

 地面を叩きつけた事によって神機の一部に損傷が出たかかもしれない。そんな常軌を覆した瞬間だった。

 地面から水平に放たれた斬撃は回避が完了したマルドゥークのガントレットに直撃していた。

 方向を変えた事によって生じる隙を逃すつもりは最初から無い。事実上の追撃とも取れる攻撃はマルドゥークの想定外。着地した瞬間だったからなのか、棒立ちの状態の所に致命的な一撃が叩きつけられていた。

 派手は音と共に破壊されたガントレットは肉の様な部分が剥き出しになっている。その部分をジーナの狙撃に触発されたシエルが銃撃していた。

 

 

「着弾確認。相応のダメージを与える事に成功したと思います」

 

「一気に攻めるぞ!」

 

 シエルの手応えと同時に、北斗の叫びが戦場に響く。既に用意していたからなのか、リヴィの刃は再度破壊されたガントレットの部分へと斬りつけていた。

 防御の要から弱点へと変化したそれは戦局を一気にブラッドへと傾けていく。

 その状況を悟ったからなのか、マルドゥークは再び咆哮する事によって周囲に居るアラガミを呼び寄せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「再び戦場に小型種と思われるアラガミの出現が確認出来ました」

 

 戦場でブラッドが戦っている頃、アナグラのロビーでもまた同じくヒバリとテルオミが様子を常に確認していた。

 本来であれば殆ど専門でオペレーターが付く事はそう多く無い。そんな中でブラッドやクレイドルの戦いは別格だった。

 その内容の苛烈さを嫌が応にも理解していく。画面の見つめる目は常に表示される情報を片っ端から映し出しては消えていく。だからなのか、テルオミもまた現地で戦うゴッドイーターを同じ様に戦っていた。

 次々と湧き上がる光点はアラガミ出現の証。その光点は再び何も無かったかの様に消え去っていた。

 

 

「流石はジーナさんね。狙撃の腕は相変わらずだわ」

 

 テルオミの見ている画面を少しだけ見たからなのか、サクヤはその現状をまるで見たかの様に理解していた。

 

 

 

 

「こんな位置からの狙撃も悪くは無いわね」

 

 ジーナは高高度からの狙撃をしながらも暇を見てはOアンプルを次々と飲み干していた。

 元々数に制限がある訳では無い。サクヤの言葉が正しいのであればこれは全てが極東支部としての在庫。既に空になったアップルは幾つかが床に落ちていた。

 灼熱の色を持ったサイゴートはまるで風船が破裂したかの様に次々と地面に沈み込む。

 既にマルドゥークが何度呼び寄せたのかは分からないが、その全部をジーナが一人で狙撃していた。

 遠目の為に詳細は不明だが、戦場で戦うブラッドはマルドゥークが幾ら呼び出そうとしても、出た瞬間に片っ端から始末される現状を理解したからなのか、それ以上呼び寄せる真似をする事は無かった。

 時間の経過と共にマルドゥークの色々な箇所が結合崩壊を起こしている。このまま地面に沈むのは時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回は危なかったね。まさかあんなに苦戦するとは思わなかったよ」

 

「そうですね。我々もどこか油断していたのかもしれませんね。まさかあんなに 規則性を持って動くとは思いませんでしたから」

 

 マルドゥークを討伐した事を確認し、本来であれば連続で続くはずのミッションは一時的に中断されていた。

 今回のサイゴートの行動はこれまでに無い連携だったからなのか、すぐさまレポートを提出する事になった。

 口では何とか話しているが、今回の戦いは身も心も大幅に疲労を感じている。これがミッションで無ければ確実にベッドにダイブする程だった。

 手早く北斗の手にまとめられたそれは直ぐに榊の下へと送られている。

 既に何かしらの予測を立てていたからなのか、今回の処遇については特に問題になる事は無いままだった。

 

 

「ああ。ああまで規則的に動かれるとなると今後の対処方法は改める必要があるな」

 

「今回の件だが、極東ではそんな事を『油断大敵』と言うらしい。これを機にもう少し訓練をした方が良いかもしれんな」

 

 ジュリウスの言葉に誰もがその脅威を感じていた。

 今回の件は単純に運が良かっただけでしかない。狙撃の優れた技術は色々な意味で重宝すると判断しからなのか、シエルもまた先程の光景を思い出していた。

 

 

「とにかく今日は一旦はお疲れ様って事で」

 

「賛成!早速ラウンジに行かなきゃ!」

 

 ロミオの言葉に反対する者は居なかった。常に戦場では油断を招いた者から退場する。それが身に染みた出来事だった。

 

 

 

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