北斗とシエルは既に捕捉された事実を知り、改めて対策を立てる事を優先していた。
ギルとナナがどの様に捕獲されたのかは分からないが、これまでにここでの様子を何度も見てきた北斗からすれば、どの様な事をしたのかが直ぐに予測出来ていた。
元々ここの子供達は常日頃何かしらの鍛錬をしている為に、通常以上の身体能力を有している事は既に知っている。そして、それは肉体だけに限った話では無かった。
毎日同じ様に寝食を共にする事によりお互いの連携が確実に取れ、瞬時の判断についても淀む様な事はどこにも無い点。これは自分達でも同じ事が言えていた。
連携を取る事によって強大な力にも立ち向かう事はゴッドイーターとしても当然の話。ましてや子供達はゴッドイーターの様な超人的な力など持っていない。本当にどこにでもいる子供と同じだった。
しかし、確実な連携は自分達ゴッドーターすら捕獲するのであれば、その力がどれ程のレベルなのかを確実に感じ取っていた。
「シエル。今回のこれは、俺達の連携訓練も兼ねている可能性があると思う。で無ければこうまで鮮やかに分断されるとは思わない」
「言われてみれば確かにそうですね。ですが、今の状況で立て直す事は難しいかもしれませんね」
「連絡を取れないのはある意味厄介だからな。このままだと個の力で集団と戦う事になる。早めの対策が必要だろう」
北斗の言葉にシエルもまた同じ事を考えていたからなのか、理解は早かった。
ギルとナナが捕獲されてからは完全に警戒をしたからなのか、視線は常に止まる事無く動いていた。
仮にこの状況で攻め込まれた場合、どうやって反撃するのか。その策が未だ立たない。
立地を考えれば完全にアウェーでの戦いだからなのか、今出来る事は確実に反撃出来るだけの対策を練る事だけだった。
残されたのは自分達とジュリウス、ロミオの4人だけ。余りにも手慣れた攻撃は如何に自分達が神機に頼っているかを浮き彫りにさせていた。
「この中で一番厄介なのは矢を射かけられた場合だな。音が無いだけでなく、完全に遠距離攻撃だから先にそれを潰す必要がある。でないと、おちおちと攻撃する事も出来ない」
北斗が言う様にスナイパーではないが、一方的に攻撃を受ける事は得策ではない。
事実、自分達も距離があれば真っ先に銃撃でアラガミの先手を取り、有効な間合いを活かしながら戦いを開始する。今の状況はアラガミとゴッドイーターの立場が逆になっていた。
既に音が無い遠距離攻撃によって分断されたからなのか、お互いの居場所を探知する事も出来ない。
本来であればシエルの『直覚』の能力を活かす事も考えられたが、相手はアラガミではなく人間。シエルの能力でも探知する事は不可能だった。
それともう一つがシエル自身にあった。射撃を中心とした攻撃が既に出来上がっているからなのか、完全な近接攻撃となった場合、一抹の不安があった。
今回は純粋な体技が勝負の要になってくる。シエルの始業が劣っている訳では無いが、何か想定外の何かが起こった際に対処が遅れる可能性が高かった。
「確かに北斗の言う通りです、遠距離攻撃を真っ先に排除し無い事には我々の勝機は厳しいでしょう。ですが、相手方の出方が全く見えません。そこが一つのポイントになりますね」
シエルの言葉に北斗も改めてこれまでの事を考えていた。仮に自分であればどうするのか。そう考えた際には一つの提案が浮かんでいた。
「だとすれば誘い出すしか無い。俺が囮になって矢を防ぐ間にシエルが仕留める。これでどうだ?」
「ですが、相手もそんな事は百も承知のはずです。みすみす乗ってくるでしょうか?」
「その辺りは何とか出来るはずだ。後は個人技の話になる。シエル、流石にこれでブラッドアーツを使う事は不可能だが、大丈夫か?」
「はい。と言いたい所ですが、技量に関しては恐らく私は子供達よりも劣るでしょう。後は地形を有効活用されれば確実に私は墜ちます。北斗はその際にどうしますか?」
シエルの自己分析に北斗は自分を完全に理解していると判断していた。
そしてそれが元でどうなるのかも含めて。
シエルの言葉に以前の神機兵の事が思い出される。自分を犠牲に任務を遂行する。シエルが口にしたのはその当時の再来だった。
「状況に応じてだな。特段、攻撃を受けたら負けではないなら、最悪はその場からの脱出も視野に入れる事になるだろう」
「北斗は相変わらずですね」
緊張の中に僅かな笑みが生まれていた。ギリギリの戦いでは無いものの、やはり緊張感が高まればその分、自分達が想定していない動きになる恐れがある。だからなのか、今の笑みで少しだけ固さが抜けたと思った瞬間だった。
「シエル。来るぞ」
「はい」
僅かに聞こえる足音は恐らくは3人ないし、4人。
矢が飛来しなかった事は良いが、それでも警戒する必要だけはあった。
音が聞こえないからと言って来ない訳では無い。改めて自身が持つ木刀を握る力が無意識に強くなる。相手もそれに感付いたのか、既に足音は聞こえなくなっていた。
「まさかここまで実戦形式での訓練になるとは思わなかったな」
「確かに。でも、ここの内容を考えるとあながち無謀でも無いんだ。各々の実力もだけど、連携が上手い。俺達がアラガミの立場になるなんて夢にも思わなかったよ」
息をひそめるかの様にジュリウスとロミオは周囲を探っていた。
今回のこれにどれだけの人数が投入されているのは何も聞かされていない。分かっているのはここの子供達の中でもかなりの手練れが対戦相手である事実だけ。
既にリヴィから始まり、ギルとナナが捕獲されている。北斗達がどんな状況なのかは分からないが、決して安泰では無い事は間違い無かった。
「だが、これはまだブラッドが……いや、北斗とナナが来た当初に言った言葉と同じだな」
「良くは分からないんだけど、何か言ったんだ」
「ああ」
ジュリウスは先程のロミオの言葉に、まだ北斗とナナがブラッドに配属された当時に言った言葉を思い出していた。
アラガミは人間に比べれば遥かに強靭で強大。幾ら神機を所有し様が個の戦いに於いて優勢になる事は少ない。だからこその意味を込めた言葉を伝えていた事を思い出していた。
個で無理ならば集団で戦う。自分達ゴッドイーターの強大な力に負けない様に連携を深めるのは当然の事。正に当時のジュリウスの言葉を自分達が体験していた。
お互いの行動を見ながら隙を無くしていく。如何に強大でも研ぎ澄まされた連携は強大な結果をもたらしていた。
「今の俺達に出来る事を優先するんだ。下手な事をしても、今の俺達ならば無意味でしかない。とにかく今は少しでも良いから情報を引き出す事を優先しよう」
ジュリウスはこれまでの様に隠れながら移動するのではなく、己の姿をさらした状態で行動する事を決めていた。
下手に隠れた所で見つかるのがオチであると同時に、自分達が慣れない事をする事で此方もまた不利になると判断した結果だった。
既に捕捉されている前提であれば、奇襲を受けても対処は可能。だからなのか、ジュリウスだけでなく、ロミオもまた同じ様に行動していた。
「取敢えず、分断しても安心は出来ないね」
「思ったよりあの金髪のお兄さんは大胆な考えだね」
「だとすれば、真っ先にそっちから叩く?」
「稚拙な攻撃は無意味だから、様子を伺いながら行動して、隙を見せた瞬間に一気に攻め込むのが一番かも」
事実上の分断に成功したまでは良かったが、色々な意味で厄介な組み合わせになったと子供達は考えていた。
本来であればロミオと北斗を最後に、先にジュリウスとシエルを各個撃破、若しくは両方を一気に攻める方針で行動を開始していた。しかし、ロミオと北斗はそれぞれが異なる展開をしたた為に、今後の行動に少しばかり修正を加えていた。
ジュリウスの実力は未知数ではあるが、やはり最初の部隊長だっただけあって、随分と豪胆な戦術を取っていた。
常に迎撃を意識しながら動くために、下手な攻撃はこちらも手痛い反撃を喰らう可能性がある。
それだけではない。仮にそこでの時間が長引けば、確実に北斗達も来る事は容易に予測されていた。
そうなると明らかにゴッドイーターの方に天秤が傾く。そんな思惑があったからこそ、様子を見ながら今後の作戦の変更を余儀なくされていた。
「だとすればどうする?」
「やっぱり狭所に誘いこむしか無いと思う」
「だとすれば犠牲が出ないか?」
「止む無し……と言いたいけど、それはダメだよ」
特攻はできるだけやらない。仮にやればその瞬間に結果が出せなければ、今度は自分達が手痛い反撃を受ける事になる。常にそう教えられているからなのか、誰もが自己犠牲を前提とした考えを持つ者はいなかった。
「となれば、個別に撃破だね」
誰とも言わず方針が固まっていた。分断した後に合流される位なら、最初から各個撃破によって合流させなければ良いだけの話だった。
既に上位者から部隊編成を開始している。時間的にもそろそろ限界が近いからなのか、子供達もまた真剣な表情を崩す事無く行動を開始していた。
「まさかここまで差し込まれるとは……」
シエルは思わず目の前の敵と対峙しながら考えている言葉が無意識の内に口から漏れていた。
本来であれば強靭な肉体を持つゴッドイーターとナオヤ程では無いにせよ、一般人との戦いが互角になる事はなかった。しかし、今のシエルにとって、目の前の子供はある意味脅威だった。
槍とは違い、己の武器と同等の長さしかない木刀はお互いの攻撃範囲を限定させている。
純粋な技量は自分よりも格上かもしれない。そんな事を考えながらもシエルは常に思考を止める事無く対峙していた。
お互いの剣戟が木製にもかからず甲高い音を発している。シエルの周囲に北斗の姿は存在していなかった。
「シエル。本当ならここで連携するのが一番かもしれない。だが、この場所は思ったよりも良く無い」
「そうですね。だとすれば厳しいですが、個別撃破で合流が一番かもしれませんね」
足音が察知出来ないだけでなく、こちらに向かっていたのであれば既に捕捉されてるのは当然だと判断していた。
仮に4人だと仮定した場合、この場所は一方的な展開になるのは間違いなかった。事実上の狭所は攻撃を仕掛けるには厳しく、また守りになれば確実にその場所を活かした攻撃が来る事は直ぐに察する事が出来た。
だとすれば一刻も早くこの場所から離れる事が最優先でしかない。しかし、こちらがそれを理解している以上、相手もまた同じ考えを持っている可能性が極めて高い。
既に出口は前後にしか無い。だとすれば一点突破か各自の散開しか選択肢は無かった。
「いけるか?」
「行くしかありませんので」
既に2人はこれが訓練である事を頭から完全に消し去っていた。
思考は既にアラガミと対峙しているそれに変化していく。驕っていたのはどちらだったのだろうか。改めて2人はその考えを捨て去り、今出来る事だけを優先していた。
「このまま負ける訳にはいきません!」
シエルは自身を振るいたたせるかの様に気合と共に自身の考えを口にしていた。
迫りくる斬撃は既に教導でのそれと酷似している。
お互いが対峙した空間は一種の結界の様だった。視線を常に動かし、お互いの隙を探りながらフェイントを入れていく。
互いが斬撃を繰り出しながらも、その脳内は常に相手の一歩先を読みあっていた。
繰り出される斬撃はお互い同じなのか、一合二合と凌ぎ合う。恐らくはシエルがゴッドイーターでなければ確実に最初の一撃で終わっていたはず。そんな思いが脳内を占めていた。
こちらの攻撃は常に往なされ無効化される。これが本当に子供の技術なのかとある意味では驚愕していた。
自分が同じ年代だった頃、本当にこんな攻撃が可能だったのだろうか。そこにはそんな思いが占めていた。
「シエルさん。強いね」
「お世辞は止してください。私は貴方の足元にも及ばない」
既に子供の方は息切れしているのか、純然たる体力勝負に持ち込んだシエルに分があった。
しかし、このまま北斗の所に向かせるつもりは毛頭ないからなのか、引き下がる気配はどこにもない。ただそにあるのは純粋な勝負だけだった。
幾ら体力に分が有ろうと無限ではない。事実シエルも表情にこそ出していないが、限界寸前だった。
あと一撃分の体力だけを残して全てを賭ける。この瞬間、少しだけ北斗の気持ちが分かった気がしていた。
「では………」
目の前に対峙しているのは子供ではなく、一人の武人だった。
これまで爆発的に出ていた気がまるで濃縮されたかの様に小さくなっていく。既に構えたそれはまるで居合いだった。
半身になりながら摺り足で距離を縮めていく。お互いの決着が決まるのは僅かな刹那の時だった。お互いの間合いが詰められていく。まさにその瞬間、お互いの剣閃が交差していた。
「残念な結果でしたね」
「今回は作戦負けか」
シエルと北斗はお互いがエプロンをしながら人参の皮を剥いていた。
あの瞬間、シエルが打ち勝ったと思ったはずだった。
全く意図しない場所からの弓による狙撃はそのままシエル意識を奪っていた。お互いが剣だけで勝負するとは誰も言っていない。最後まで隠し通せた弓の存在がその勝利を決めていた。
「確かに言われてみれば、剣だけだなんて決まってませんでしたね」
「全くだ。でも、今回の件でシエルも大きな収穫があったんじゃないの?」
「そうですね。技術だけじゃないですね。まさかあの場面で狙撃の重要性まで知るとは思いませんでした」
意識外からの攻撃は思いの外、甚大なダメージを与える事を身を持って経験していた。
卑怯だと言われればそれまでだが、命のやり取りに卑怯の言葉は存在しない。更に言えば、アラガミに対し、人間の道理を説く事自体無益だった。
その後は北斗が集中攻撃を受ける。幾ら北斗と言えど、完全に囲まれた状況からの脱出は不可能だった。
多勢に無勢。木刀ではブラッドアーツすら発動し無い為に、北斗もまた打ち取られていた。
「北斗さん、シエルさん。気持ちは分かりますが、今は早く作らないと時間も無いですし、それが無いと紅白なますが作れません」
「じゃあ、先にこれから使ってくれ」
1人の少女は直ぐに皮を剥いた人参を持って行く。詳しい事は分からないが、どうやら調理は佳境なのか、大よそ何を作っているのかは匂いだけが教えていた。
「どうやら俺達だけが残ったみたいだな」
「まさか北斗とシエルまでとは想定外だ」
ジュリウスだけでなくロミオもまた同じ事を考えていたからなのか、緊張感がピークに達していた。
既に打ち取られている以上、目標は自分達だけ。ここから勝ち残るには完全に相手を倒す以外に選択肢は無くなっていた。
情報が流れてからは数分が経過している。だからなのか、既にその身を晒しているにも関わらず、攻撃が来ない事に違和感を感じていた。
「でも、意外だったよな。俺達に真っ先に攻撃が来るかと思ったんだだけど」
「確かにそうだ。だが、俺も無策だった訳じゃないからな。これまでは皆奇襲攻撃を受けた結果だが、ここならそれを防ぐ事が可能だ。それに動かなければ向こうから来るしか無い。俺達が防戦になろうが最後まで経っていれば勝ちなんだからな」
屋敷の中で唯一広場の様な場所にジュリウスとロミオは陣取っていた。
周囲にには隠れる様な場所はなく、仮に襲いかかってきたとしても即時対処は可能となっている。
自分達の技量が無ければ出来ない戦法。既に周囲を確認すべく2人互いの範囲の監視をしていた。
「あとはロミオ達だけど、どうする?」
「奇襲も無理だし、ここは正攻法しか無いかもね」
2人の様子を見ながら子供達は完全に攻めあぐねていた。何も無い場所での交戦は確実に技量だけが全てとなる。事実、ここまで5人を捕獲したからと言って、驕る様な空気は存在していなかった。
元々体力差がどれ程違うのかは、これまでの交戦で一番理解している。幾ら数では勝っていたとしても、技量が高ければその考えも意味を成さなくなる。
だとすればどうすれば良いのだろうか。そんな考えを持ちながらも視線が他に向く事はなかった。
「うん。最後は連携で行こう」
誰ともつかない言葉に子供達は完全に腹を括っていた。
回避される前に攻撃を叩きこむのか、それとも波状攻撃で攻撃そのものをさせないようにするのか。今出来る選択肢はそれだけだった。
ロミオの実力は大よそながらに理解しているが、問題なのはジュリウスの方だった。
元部隊長であればそれなりに腕が立つのは自明の理。だとすればそれぞれが警戒しながら行動に移るしか無かった。
既に時間も残り少なくなっている。今出来る事はそう多く無かった。
「合図と共にだな」
一人の子供が発した内容に全員が頷く。既にそれだけの言葉で何を示したのかは考えるまでもなかった。
周囲に隠れる場場所はどこにも無い。既に動き始めた事によって勝負の行方はどちからが勝つまでだった。
それぞれおが自分の間合いを捕捉しながら2人に対し攻め入る。既に模擬戦ではなく何かの演習に近い物。
お互いが残された気力を振り絞る。周囲を囲む攻撃に、隙は殆ど見当たらなままだった。
「厳しい……か」
「ジュリウス。油断するなよ」
「ああ。分かってる」
ロミオの言葉にジュリウスは何時もの状態へと持ち直していた。
元々背中を預けていたロミオとはブラッドを設立して最初の部隊員。お互いの行動や攻撃の癖は完全に熟知していた。
周囲からの攻撃もまた、アラガミよりも強大だと思える程の圧力にジュリウスはひたすら剣を振るっていた。
迫り来る刃に一切の妥協や慢心は無い。一対一ではなく、常に二対一に近い戦いは常に後手後手になりつつあった。
一つの攻撃だけに集中すれば、もう一方の攻撃が自身を襲う。一つの攻撃だけに意識を向ければ待っているのは敗北の二文字だった。