リヴァイアサン・レテ湖の深遠 作:借り暮らしのリビングデッド
「と、言う訳で反省会です」
そのぴりぴりしたミサトの声に、はい、と二人は同時に神妙な声で返答した。
白い少女は我関せず、といった様子でしょんぼりしている二人を眺めている。
「さて、今回の4体目の使徒、運良く第三新東京進攻前に発見」
今まで色々なイレギュラーが重なって防戦一方だった人類の初めての迎撃戦。
その上こちらには二体のエヴァ。今までに無い好条件である。
油断大敵とはいえ、かなりの余裕を持った作戦のはずだった。
だがしかし。
「…アスカ?」
「はひ…」
びくびく、と彼女の肩が震えた。
「言う事は?」
「あ、ありません…」
緋色の少女がどよーんと返事をした。
そう、つまり。
また、やってしまったのだった。
まーた彼女はやっちゃったのだった。
・
「見てなさいサード!」
彼女はそのヒトデと最初の使徒を合体させたような外見の化け物に踊りかかった。
赤い愛機が彼女の高揚が乗り移ったかのように疾走する。
彼女はイライラしていたのだった。
そもそも人に借りを作ったまま、というのは彼女にとって初めての状況だったのだ。
彼女は決して他者の力を借りようとしない少女だった。
彼女の願いは向上だったからだ。
失敗も成功もアタシのもの。どんな経験だって糧にしてみせる。
誰にも分けてなんてやらない。だから誰の助けも要らないのよ。
アタシは自立して生きるのよ。
誰にも守ってもらう必要なんてないのよ。
アタシは一人で生きていくのよ!
そう、そんな彼女にとって人に借りを作るどころか。
『誰かに守ってもらう』というそれ自体が(彼女が信じてる限り)初めての経験だったのだ。
しかも、命がけで、身をていしてまで、守ってもらうなんて。
つまり、惣流アスカラングレーはこの数日はっきりと変調していたのだ。
初めての、何度も夢想した輝かしいデビュー戦、にはほど遠い初陣。
どうやって返せばいいか分からないほどの大きな借りを作ってしまった事実。
そして、誰かに守ってもらう、という経験。
その未知の経験は彼女を失調させ、その原因となった相手に執着に近い興味を抱かせるには十分だった。
だが、あの初陣からどこか情緒不安定になっている自分を自覚しながらも、
それを処理出来る己の操縦法をこの年頃の少女が十分に修めているはずもなく。
何度もサードと接触しようとしているのにことごとく邪魔される、今日の学校での間の悪さも相まって。
結果、勇み足として現れてしまったのだった。
「どうサード!?」
槍の先端に刃がついたソニックグレイブで使徒を一刀両断。
その手際の素晴らしさに自画自賛しつつ鼻をぴくぴくさせて後方支援の初号機へと振り返る。
その彼は素直にわ~と拍手していた。
もちろんその態度に演技じみた成分などなく、心からの賞賛が込められていて。
それが分かった彼女はさらに誇らしく胸を反らして鼻ぴくさせたのだった。
どう?見たでしょ?こないだのあれはたまたまなのよ、あんな失態は二度としないわ。
どう、これで少しは見直した?ねえ?
と、後ろ!と言うミサトの緊迫した声に振り向いて。
・青Ⅵ“AsukaⅡ”
《深緑に宿る命の脈動、黒に写る貴方の姿》
・Ⅰ
辛気臭かった。
辛気が程よく匂っていた。
更衣室を出た彼女は見ていられないほど落ち込んでいた。
とぼとぼ、と頼りなく歩きあっ何も無い所でつまずいた。
が、何とか体勢を立て直し、でも彼女の周辺からさらに辛気が漂ってきた。
シンジ少年はそんな彼女に持ち前のお人よしっぷりを発揮しながら、どう接すれば良いか分からずぼんやり眺め。
「先、行くわね」
すると外で待っていたプラグスーツのままの白い少女が涼やかに背を向ける。
「え、どうして着替えないの?」
「これから、実験があるから」
「…綾波だけ?」
「そう」
「エヴァの?」
「ええ」
そして白い少女のその発言を聞いた時、アスカの様子は一変したのだった。
「弐号機とのシンクロテスト」
「どういう事よ!!!」
彼女は少女に別人のような形相で詰め寄った。
その変貌に少年は目を丸くして、でも白い少女はやはり何事も無いように無表情だった。
「そのままの意味よ」
「どうして!?なんであんたがアタシのエヴァに乗るのよ!?自分のに乗ってりゃ良いでしょ!」
「零号機は使徒に乗っ取られてもう破棄されたわ。聞いてないの」
そうだった、と彼女は顔を歪ませて。
「…だからって」
「兵力が多い方が有利なのは当然でしょ。万が一もある以上、私を遊ばせる理由は無いわ」
「万が一ってどういう意味よ…?」
「きっと想像通りの意味ね」
彼女の目が剣呑に光った。
目の大きさに反してやや小さめの深緑の瞳がぎらぎらと肉食獣のような色彩を帯びる。
「つまり…あんたアタシの予備ってわけ?」
「そうね」
「アタシに何かあったらあんたが弐号機に乗るってわけね?」
「そうね」
あるいは貴方が失敗を重ねた場合も。
そんな声が聞こえた気がして(もちろん被害妄想だった)、彼女はぎりっと歯を鳴らした。
「そんな必要は無いわ。あんたが弐号機のパイロットになる事なんて、絶対、一生、金輪際ありえないから」
「ならいいわね」
そして彼女は涼やかに背を向けた。
「じゃ」
「あ、綾波…」
すると一部始終をあわあわ見ていた彼が咄嗟に声をかけて。
「何」
「あの…また明日」
少女はきょとんとして。
「…また、明日」
どこか幼子のように囁いて、今度こそ姿を消した。
彼女は緋色の髪を震わせて、ただ手をぎゅっと握り締めていた。
・
シンジ少年はぼんやりと彼女の背に流れる緋色の髪を見つめていた。
歩みにしたがって右に左にふさふさゆれるその腰まである髪は、少年が見てもとても美しく艶やかだった。
でも気のせいか、その長い髪にすら元気が抜け落ちてる気があっまた何も無いとこでつまずいた。
でも彼女は何とかふらふら~、と姿勢を建て直しゆらゆら幽鬼のようにまた歩き始める。
ちょうど彼女の歩く先が傾きかけた太陽で、その影が彼女の輪郭を美しく照らした。
ひぐらしが鳴き始めていた。
眩しい。
まだ青の面積が多く、それでも斜陽の光はオレンジに眩しく。
その緋色のような光が一瞬彼女の髪に解けて融和しているように見えた。
綺麗だな、と思った。
惣流さんの髪って綺麗だな、とシンジは思った。
夕日の、その一歩手前の、赤くはない、でも今のようにとてもとても眩しく光る太陽の色だ。
彼はふと、何の脈絡も無く、こう思った。
まるでライオンのたてがみみたいだ、と。
「…あの、惣流さん」
「…何よ」
「その、僕も油断しちゃったから、惣流さんだけが悪いんじゃないと思う…」
彼女はうつむいたまま、沈黙で答えた。
そのまま何を言っていいか分からなくて、彼も沈黙した。
彼女の長い影がシンジの足元を暗く写して、彼の影と見分けがつかなくなった。
所在無くて、ずっとずっと先まで続いている金網に手を触れて、とてててと指を走らせた。
と、突然彼女がぴたっと止まった。
彼も止まって首を傾げると、いきなりその背より高い金網を飛び越えて、その向こうの公園にある錆びたブランコに飛び乗った。
ぎこぎこ。
その錆びた音が彼の耳に届いて。
彼はどうすればいいのか分からなくて、ぼんやりと彼女を見つめた。
ぎこぎこ。
ぎこぎこぎこ。
ぎっこぎっこぎっこ。
ぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこ!
彼女の体が真横になるくらい勢い良くブランコを漕いで、うわあ凄い、僕なら怖くて出来ないやとシンジは無邪気に思った。
そしてとうっ!とその遠心力に乗って手を離す。
一瞬彼女が空を飛んでいるように見えた。
というか飛んでいた。
オレンジと青の空に影を作って、ずざざざと彼女は危なげなく着地した。
まるで体操選手のような見事な着地だった。
ぱちぱちぱちとシンジは素直に拍手した。
すると、彼女が彼に走りより、やはりずざざざと砂煙を立てて止まる。
金網を挟んで向かい合った。
と、彼女はもごもご口を開き、突然人差し指を網の縫い目から突き出した。
目と鼻の先のその指もオレンジに光って影を作っていた。
「アスカ。」
と、彼女は言った。
意味を図りかねて彼は幼子のように首を傾げた。
すると彼女は声を上げて、どこか怒るようにこう言った。
「アスカ!」
間があって。
彼はおずおずと言った。
「あ…シンジです」
「へ?」
「ん?」
きょとん。
りん
りん
りん。
ひぐらしの声がやけに響いた。
彼女はもう一回、口を開いた。
「…ア・ス・カ!」
「あっうん。僕はシンジです。」
「は?」
「え?」
きょとん。
りん
りん
りん。
すると、何故か彼女は突然震えだして。
「あの…惣流さん?」
「だからアスカって言ってんでしょ!?」
彼女はうら!と勢い良く金網をたった二歩で飛び越えると、彼の目の前で仁王立ちした。
やっぱりオレンジの光がまぶしくて、彼女の輪郭を金色に浮かび上がらせていた。
「アタシの事は!特別に!アs」ぐるるるるるるるる。
…。
すんごい音だった。
猛獣的な唸り声にしか聞こえなかった。
え、野犬的な何かが居るのかな?と彼は不安になった。
すると彼女がぷるぷると震えてるのに気づいた。
普段鈍感の極み見たいな彼はこんな時に限って閃いてしまった。
あっもしかして。
「…お腹減ってるの?惣流さん」
…。
「でやああ!!!」
彼女の渾身のキックに金網が一キロ先までぐわんぐわん揺れた。
・
「どうぞ」
「…おじゃまするわ…」
彼女はどんよりと口を開いた。
昨日来た時も思ったが、広々として良いマンションだった。
一人どころか二人でも広いんじゃなかろうか。
「惣流さん、嫌いな物ってある?」
「…別に無い」
「じゃ好きな物は?」
「肉。」
お肉かあ、と彼は制服のまま冷蔵庫を開ける。
彼女はやっぱり辛気を纏いながらテーブルの椅子にぶすっと座った。
「ええと、ハンバーグで良い?」
「…ハンバーグ!?」
「嫌い?」
「…そんなの作れるの?」
「うん、ちょっと時間かかるけど」
そして彼は材料を適当に置くとエプロンを掛けて包丁を取った。
そのリズミカルな音を聞きながら、彼女は少しだけ唖然としつつ口を開いた。
「…ねえサード」
「うん」
「あんたって何?」
「えっ何って?」
「だから色々…」
「いや…そんな事言われても…」
彼は本当に困った様子で眉を下げた。
そんな彼をぎろぎろっと睨みながら、彼女は頭の中で彼の噂を整理する。
「あんたって…使徒襲来の当日に初めてエヴァ乗ったって本当?」
「うん」
彼はあっさり肯定して。
「そもそもエヴァも使徒も何にも知らなかったよ」
「…意味わかんない。どういう事それ」
「うん…父さんに、手紙で呼ばれて…」
「…ネルフ総司令よね?」
「うん。それで来たら、いきなり乗れって」
「…手紙に事情とかは?」
「なんにも」
流石の彼女もあっけにとられた。
「訳わかんない…」
「ね。僕もわかんないや」
「…じゃなんであんたエヴァに乗ってんのよ」
「ね。」
何でだろ?と彼は呟いた。
「惣流さんは…どうしてエヴァに乗ってるの」
「私の存在を世界に刻み付けるためよ」
その予想外すぎる返答に彼は調理の手を止めて振り向いた。
「…どうして?」
「どうしてって…私の実力を示したいからよ」
「誰に?」
「全員によ!」
彼は首を傾げた。
「それで…示したらどうするの…?」
「そりゃ…」
と彼女は言葉に詰った。
「…示したら、良い事あるの?」
「あるわよ!例えば…」
「うん」
「…例えば…」
「うん」
「…褒めて、貰えるじゃない」
「…みんなに?」
「そうよ!褒められたら嬉しいでしょ!?」
「う、うん…」
「…あんただって褒められたいでしょ?」
「うん?うん…」
どうだろう。
彼は自分でも分からなくて独り言のように呟いた。
「…うれしいにきまってるでしょ?」
彼女は彼のその様子にちょっと自信なさ気に言った。
「だから…褒められたいからエヴァに乗るの?」
「そうよ!」
「どうして褒められたいの?」
「そ…」
と、なんで自分はこいつにこんな話をしてるんだろう?と彼女は疑問に思った。
だから誤魔化しの意味も含めて疑問に疑問で返す。
「…だから、そういうあんたはどうなのよ。なんでエヴァに乗ってんの!」
「うん…だから、わかんない」
「だから何それ」
「…うん」
何だろう、と言って、彼は調理に集中した。
彼女はどう言ったらいいか分からなくて、沈黙した。
手持ち無沙汰だったので、何となしに冷蔵庫を開ける。
ビールの山。
うへえ、ミサトってアル中?あんな年増には成りたくないわ、と思いつつ。
「そうよ、そういえばどうしてあんたミサトと暮らしてるの?」
「…ミサトさんと知り合いなの?」
「ドイツでちょこちょこね。で、なんで?」
「わかんない」
「…はあ!?」
「なんか気がついたらそうなってた」
「…どうゆう事?」
「ね。」
何でだろ、と彼はやっぱり呟いた。
「つまりあんた…理由もわからずエヴァに乗って」
「うん」
「訳もわからずミサトと暮らしてるの?」
「うん」
「あんた馬鹿ぁ!?」
彼女は心底から吐き出した。
「何それ、あんた単に流されてるだけじゃない!」
「そう…かな」
「そうよ。あんたの意思はどこにあるの!?」
「…わかんないや」
「…じゃなんでアタシ助けたのよ」
「え?」
「なんでアタシの事助けたのよ!?」
「なんでって…」
彼は心底からこう言った。
「なんでって言われても…?」
彼は唸って。
「だって惣流さん死んじゃうでしょ?…ミサトさんも、皆も…」
綾波も。
「…だから、あんたアタシ庇ったの?」
「うん、咄嗟に」
「自分が死ぬかもしれないのに?」
「う、うん…」
「なんでよ…?」
その声質に何か感じて、彼は調理の手を止めて振り返った。
「何よ。訳わかんないわよあんた…」
彼女はそのまま沈黙した。
彼はどうしたら良いか分からなくて。
ただぼんやりとこう言った。
「…別に、本気で嫌なわけじゃないよ」
「何が」
「だから、エヴァとか」
「どうしてよ」
「だって…」
彼は心の中だけで囁いた。
エヴァに乗れば、誰かが必要としてくれるから。
でも、どうして誰かに必要とされたいんだろ?
それが、彼自身にも分からなかったのだ。
長い沈黙だった。
ただ彼が調理する音と、彼女がオレンジジュースを啜る音と、ひぐらしの声だけが響いてた。
肉の焼けるいい音がした。
その美味しそうな匂いにぐおおおおと彼女の猛獣が鳴いた。
彼女はうっすら頬を赤くした。
それを誤魔化すように立ちあがる。
「何?もうすぐ出来るよ」
「…手伝う」ぼそっと。
「ええと、じゃお皿並べてくれる?」
「うん…」
またぐおおおと鳴った。
彼女はふらふら危なっかしく皿を並べた。
その様子を眺めながら心配気に。
「そういえばお昼食べたの?」
「ファーストにカロリーメイト貰った」
「…それだけ?」
「うん」
「それじゃお腹減って当たり前だよ…」
「うっさい…」
またぐおおおと鳴った。
彼女はもう開き直った。
「お腹減った…早くう…」
ちんちんと並べた皿を鳴らす。
はいはい出来ましたよ、と彼がそれを皿に並べた。
ごきゅ、と彼女の喉が鳴った。
なにこれすげえぇ旨そう。
それは傍から見ても見事な出来の和風ハンバーグだった。
ぶっちゃけ中学生が作るレベルじゃ無かった。
いただきます、と二人で手を合わせ、彼女はあっという間にそれを平らげた。
「美味しい?」
彼女がじろっと上目使いで睨んだ。
「お代わりあるよ」
ずさっと皿を差し出した。
はい、ともう一つ作っといたハンバーグをのせる。
「ご飯は?」
ずさっとちゃわんを差し出した。
はい、とぽんぽん山盛りにして差し出す。
「美味しい?」
ぎろっと肉食獣のような目で睨まれた。
「…なんなら僕のも食べる?」
ぴく、と彼女が反応して。
何かの葛藤があるようだった。
激しい葛藤があるようだった。
だが、しばらくの後搾り出すようにこう言った。
「…いい…」
「そ、そう?」
なら、とぱくりと一口、うん、いい出来だな、と彼は満足した。
やっぱりひぐらしが鳴いていた。
西日が入る部屋だったので夕日がダイニングを赤く照らした。
彼はそこそこ満足した食事を終えると、適当に流しに皿を放置した。
皿洗いはまあ、後で良いよね、と思いながら。
すると、何か満足した猫、もといライオンみたいな雰囲気を醸し出していた彼女が口をきった。
「…そういえばミサトは?」
「さあ…多分使徒のあれで今日は遅くなるんじゃないかなあ」
「ミサトの分残しとかなくて良いの?」
「惣流さん食べちゃったじゃない。後残業の時は外で済ませてくるから」
「…あんたもしかして何時もこうやって作ってんの?」
「ううん、気が向いた時だけ。結構楽しいよ、料理」
「…ふうん」
「ところでハンバーグ美味しかった?」
彼女が沈黙した。
何かの葛藤があるようだった。
激しい葛藤があるようだった。
だが、しばらくの後搾り出すようにこう言った。
「…そこそこ…」
「そっか。じゃ良かった」
彼は嬉しそうに、はにかんだ。
彼女はその様子を横目に見て、何となく鼻を鳴らし目を逸らした。
「…使徒さ」
「…うん」
「次は絶対倒しましょ」
「…うん。でも、どうやって?」
「それはミサトの仕事でしょ」
「そっか」
「それとアスカ」
?と彼は目を瞬かせた。
「だからアスカ。」
「あ、うん。僕は」
「シンジでしょ知ってるわよ!」
「え、そう?」
「シンジ」
「うん」
「シンジ。」
「うん。何?」
「アスカ。」
「うん?」
「だからアスカ!」
彼女は今度こそ。
「アタシの事はアs」ぷるるるるるる。
…。
「くうう!!」
彼女はちゃぶ台もといダイニングテーブルを投げ飛ばしたくなるのを全力で我慢した。
彼は何事も無いようにミサトさんかな、と電話を取る。
はい、はい、今一緒に居ますよ、え?は、はい…。
がちゃ。
その様子に彼女は怪訝そうに彼を眺めた。
彼は振り向くと彼女におずおずと言った。
「ええと…あの、使徒を倒す訓練二人でするって」
「え、どんな訓練?」
「ユニゾンだって」
「ユニゾン?」
うん、と彼は頷いて。
「惣流さん、今日からここで泊まれってミサトさんが…」
「へ?」
彼女はすっとんきょうな声を上げた。
ひぐらしの声が一際大きく聞こえた。
夕日はとてもとても赤くて眩しかった。
15/8/14