IWS はばたく翼   作:K-15

3 / 9
第3話 ヒイロとラウラ

「寒い」

 

ベランダのマドが開けっ放しだったせいで、一夏は風の冷たさで目を覚ました。

時刻は午前6時30分、いつも起きる時間と比べればかなり早くに起床した。

夢現の目を擦りながら、開いていた窓を閉め鍵を掛ける。

 

「何で窓が開けっ放しなんだ?ヒイロか?」

 

勝手に一夏のベッドを使ったヒイロを探すが部屋には見当たらない。

ベッドにも姿をあらず、他の場所からも物音1つとして聞こえない。

 

「まったく、1人で何処に行ってるんだ」

 

誰もいない部屋で呟き、一夏はいつもより早い身支度を始めた。

朝食を取り、制服に着替え自分の教室まで歩く。

女生徒しかいないこの学園の生活も少しは慣れてきて、周囲から寄せられる眼差しにも耐性が付いて来た。

でも生まれながらの朴念仁は一向に治らず、周囲の女生徒は手をこまねいている。

教室に着いた一夏は自分の近くの席の2人がまだ来ていないのに気付く。

 

(シャルルとラウラは休みか)

 

心の中で思いながら椅子に座ると、ホームルームのチャイムがなり副担任の山田も教室にやって来た。

出席簿を片手に長机の後ろに立つと、全員に向かって声を出しホームルームを始めた。

 

「みなさん、おはようございます。朝のホームルームを始めます」

 

本来ならここで出席を取るのだが、山田はあたふたしながら慎重に言葉を選びながら話した。

 

「何回目かしら、もう突然じゃないかもしれないけれど転校生がこのクラスに来ます」

 

転校生の一言で教室中がざわめきだす。

一夏、シャルル、ラウラと続く4人目の転校生、皆は口々に言葉を交わしどのような人物かを想像した。

山田は教室が静まるのを待たずに続きを話す。

 

「名前はヒイロ・ユイ君。織村君やデュノア君と同じで男の子です」

 

(ヒイロがこのクラスに転校?どういうことだよ!)

 

何も知らされていない一夏は山田の報告に驚くことしか出来ない。

姉である千冬も、本人のヒイロからも聞かされておらず、1人だけ取り残された気分になる。

逆に周囲の女生徒は新たな男子生徒が来ることに歓喜に湧いていた。

隣のクラスの迷惑にもなるので生徒達を静めなければならないのだが、気の弱い山田は生徒全員を静止させられず、強引に話を進めた。

 

「詳しい自己紹介は本人にしてもらいましょう。それでは転校生で3人目の男の子、ヒイロ・ユイ君です!」

 

山田が言うと女生徒全員が一斉に教室の扉に振り向いた。

期待に胸を膨らまし今か今かと待つ。

けれども10秒、20秒経過してもヒイロは教室に入ってこなかった。

 

「あれ?ヒイロ君、教室に入ってきてもいいですよ」

 

頭にハテナを浮かべた山田がもう一度呼びかけても返事はなく、入って来る様子もない。

心配になって扉を開けてみると、廊下で待っているはずのヒイロはその場に居なかった。

右に振り向き、左に振り向き、彼女のメガネには誰の姿も映らない。

 

「どこに行っちゃったのぉぉぉ!!」

 

///

 

教師の言う事に従うきにはなれず、ヒイロは男子用の制服のまま勝手に学園内を歩いていた。

行く宛も目的もなく、只々と歩いていたら目の前に彼女が現れた。

 

「お前は……」

 

「付いて来い、ヒイロ・ユイ」

 

休んでいたと思われたラウラ・ボーデヴィッヒは、返事も聞かずに歩き出した。

ヒイロも何も言わずに彼女の後ろに付いて行く。

そして行き着いた先は、フランス製ISを強奪した場所のアリーナだった。

ラウラは誰も居ないアリーナの中央まで行くと、おもむろに振り返る。

 

「ここなら邪魔は入らない。私と勝負しろ。兵士としてどちらのほうが上かここで決める」

 

挑戦状を叩きつけるラウラだが、ヒイロにはその気はない。

兵士としてのランクを決める必要などなかった。

でもラウラは本国の部隊で常に上を目指して訓練されてきた。

だからどうしても、ヒイロより自分の方が上だと証明したかった。

 

「必要がない。用がそれだけなら俺は戻るぞ」

 

「逃げるのか?」

 

挑戦を断るなど卑怯者のやることと考えていたラウラは最終警告を伝える。

見下されていい気分などしない、挑戦を受けるはずだと。

それでもヒイロは戦おうとはせずに、来たばかりのアリーナを出ようと出口に歩いていく。

 

「くっ!」

 

ISを展開したラウラは右肩に装備されている大型レールカノンを発射した。

弾丸は一瞬でヒイロを通り過ぎ、アリーナの出入口に直撃した。

土煙が吹き上がり、鉄材で作られた扉はひしゃげてしまい、外には出られなくなる。

 

「退路は防いだ。死にたくなければお前もISを展開させろ」

 

戦うしかなくなったヒイロはゆっくりと振り向き、ラウラの顔を睨んだ。

だが戦おうにもエクシーガはシャルルが本国へと回収してしまい、使うことはできない。

手元にも武器と呼べるような代物はなく、素手でISを相手にするしかなかった。

普通なら逃げるか諦めて降伏するしか選択肢はないが、ヒイロはそんなことはしない。

何もない状態でも、ラウラを倒そうと走った。

 

「なっ!?」

 

一方のラウラはISを展開しないヒイロの行動に驚いた。

生身でISと戦闘するなど常識では考えられない。

あまりの出来事に後退して距離を取った。

 

「生身で戦う気か?正気なのか?」

 

呼びかけにも応じず、ヒイロはただ目標に向かって接近するだけ。

威嚇射撃で大型レールカノンを発射し近くの地面に穴を開けるが、それでもISを展開しようとはしない。

ISを持っていない事を知らない彼女には、自殺願望があるようにしか見えなかった。

 

「無理だ、ISを相手に武器もなく生身の人間が戦うなんて。気でも狂ったか」

 

生身のままで武器すら持とうとしないヒイロに、ラウラは落胆した。

大型レールカノンの照準を足元へ向けるとトリガーを引く。

甲高い銃声が鳴り響きヒイロの足元の地面をえぐり取ると、爆風で体が吹き飛んだ。

 

「ぐはぁっ!!」

 

「威力は弱めてある。でもこれでわかったな、生身ではISに勝てない。わかったなら早くISを展開させろ。このような勝利など私には無意味だ」

 

吹き飛んだ体が地面へ叩き付けられても、ヒイロはまだ立ち上がる。

全身が傷だらけになっても、どんな困難な道でも諦めずに歩るく。

 

「ぐっ!俺はまだ死ねない」

 

「言ってもわからんらしいな。それなら直接体に叩きこむ。お前相手に武器も必要ない」

 

ラウラは大型レールカノンのトリガーから指を離し素手で戦おうとする。

それでもISを装備したラウラの拳は、人間の骨など簡単に折れるだけのパワーがある。

 

「女尊男卑の時代で、それでも戦うと言ったお前の思想には敬意を払った。でもそれも私の買いかぶりか。なら、ここでお前に引導を渡す」

 

姿勢を低くしてラウラに駆け寄るヒイロ、ラウラは諦めて右手を握りしめると、それをぶつけようとする。

たったそれだけの動作、訓練して来た彼女には簡単すぎるはずだった。

でもそこに隙がなかったとは言えない。

 

「私の勝ちだ、ヒイロ・ユイ!」

 

「見える」

 

ヒイロは拳が振るわれるよりも早くに、両足の隙間目掛けて飛び込んだ。

ラウラの拳は空を切り、その隙に背後に立たれてしまった。

 

「なっ!?」

 

一瞬の隙を付いた行動に驚く、想定していない出来事に思考と体の動きが鈍る。

ヒイロは止まらずに背後から大型レールカノンに飛びついた。

だが生身の人間とISとの優位性は変わらない。

 

「しまった、コイツ!!」

 

(今までの戦闘でISはモビルスーツと同じで基本は前方にしか攻撃できない。そして人間が操作している。そこに付け入る隙がある)

 

ラウラはくっついているヒイロを振り落とそうと右へ左へとISを振り回すが、しっかりと張り付いたまま頑なに離れようとしない。

ヒイロ大型レールカノンの射撃で撃たれた時に、えぐれた地面から石を拾っていた。

それを握り締め大型レールカノンに何回も叩きつける。

 

「石!?そんなことで!」

 

あまりにも原始的な攻撃、装甲には傷ひとつとして付かず体力を疲労するだけの行動。

ラウラにはヒイロの行動の意味がわからない。

 

(ミサイルの直撃にも耐えれる装甲だ。この程度、キズの内にも入らない。何を考えている)

 

叩き付けられる石、ラウラは何とかヒイロを引き剥がそうと体を振り回すが一向に離れない。

これでは引き剥がせないと判断し、別の手段に切り替える。

 

「離れない、それなら!」

 

ラウラはアリーナの壁に向かって突進した。

数秒で時速100キロを超えるスピードを出し、強風が吹き付ける。

壁まで残り数メートルまで近づいてくると姿勢制御し、体を反転させた。

壁と鉄のボディーとでプレスされては、最悪の場合死に至る。

でもヒイロは絶望的な状況でも諦めず、針の穴に糸を通すような繊細な動作をやってのける。

 

「これで終わりだ!」

 

「ここだ」

 

ヒイロは壁とギリギリの所で、ラウラのISから飛び降りた。

加速したシュヴァルツェア・レーゲンを止めることは出来ない。

背後にへばりついているはずのヒイロが自分の視界に入り、ラウラは失敗したのを悟った。

 

(間に合わない。ぶつかる!?)

 

爆発したような大きな音響かせて、シュヴァルツェア・レーゲンは壁に激突した。

シールドバリアーが発生してダメージはないが、その衝撃と振動に視界が働かず、わずかではあるが動きを止めてしまう。

ヒイロにはそれだけの時間があれは充分だった。

 

「はっ!?」

 

何度も叩きつけられて石は割れて、ナイフのように先端が鋭く尖っている。

ヒイロは右手に握って石をラウラの首元へ突きつけた。

 

「お前の負けだ」

 

「ISにはシールドバリアーと絶対防御が備わっている。そんなもので攻撃しても無駄だ」

 

「そうか、なら試してみる価値はある」

 

手に握る石を振り上げると、躊躇なく首を目掛けて突き刺そうとする。

ラウラは迷いのない、人を殺しに行く動作に恐怖した。

 

「ひっ!!」

 

石が首に届く寸前でラウラはヒイロの体を突き飛ばした。

言った通りにシールドバリアーは発生して攻撃を防いでくれたが、彼女は心の中で負けを認めてしまった。

突き飛ばされたヒイロは石を投げ捨て、制服に付いた汚れを払う。

 

「ヌルいな。決着は付いた」

 

「私は……わた、しは……」

 

自分が負けてしまったことに絶望するラウラ、地面に膝を付け頭を抱える。

ISを展開していない、まともな武器すらも持っていない相手に負けた事で、自身のアイデンティティが崩れ去る。

ヒイロは彼女を気にも止めずに、破壊された出入口の扉へ向かった。

大型レールカノンで撃たれた扉はくの字に曲がっており、左右に動くはずが完全に壊れてしまっていた。

 

「ここはダメか」

 

脱出が困難なのがわかり、内ポケットから携帯を取り出すと登録されている番号に掛けた。

端末を耳に当てて待つこと数秒、聞こえてきたのはよく知っている声だ。

 

『はい、織斑です』

 

「今すぐアリーナまで来い」

 

『お前は誰なんだ?アリーナって―――」

 

状況を理解していない一夏を無視して、必要な事だけ言うと通話を遮断した。




ちょっと文字数は少ないですが、更新スピードを上げて行きますのでご了承を。
ご意見、ご感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。