電話で呼び出された一夏は副担任の山田と共にアリーナへやって来た。
ところが入り口の扉はぐちゃぐちゃに壊れている。
「どうなってるんだ?扉が壊れてる」
中へ入るには壊れた扉をどうにかするしかなく、指示を求めて山田に視線を向ける。
それに気がついた山田は生唾を飲み込み、自分の独断で決断をした。
「中がどうなっているかもわかりませんし。ここは思い切って壊しましょう」
「壊すってどうやって?」
「織斑君、ISの展開を許可します。だからそれで扉を開けてください」
「わかりました」
許可を受けて右腕のガントレットから一夏のIS、白式を展開させる。
雪片弐型を両手で握り構え、壊れて動かなくなった扉を切断した。
四等分にされた鉄塊はバラバラに崩れ落ち、ようやくアリーナ内部の様子が見えるようになった。
そこには傷だらけのボロボロになったヒイロと、ISを展開した状態のラウラがうずくまっている。
「ヒイロ!?向こうに居るのはラウラ!?」
ホームルームに顔を見せなかった2人がここに居る事に驚く一夏。
電話を掛けてきた相手がヒイロだったと、この瞬間に感づいた。
山田もアリーナ内部に入ると、ヒイロの元へ駆け寄った。
「ヒイロくんどうしたのですか!?酷い怪我をしてますよ!」
傷だらけになった姿に、所々からは血が出ているヒイロに山田は本人よりも動揺している。
白い制服には赤い血が広がっていく。
怪我を物ともせず、いつもの鋭い眼光のままで、彼女の気遣いを無視して立ち尽くしていた一夏に近寄った。
「後は任せるぞ」
それだけ言うとまた何も説明せずに、どこかに歩いて行ってしまう。
山田は何とかヒイロを引き止めようとするも、彼女の声は虚しく響き渡るだけだ。
「とにかく保健室へ。ってヒイロ君、そっちは違いますよ!早く治療しないと!ヒイロ君?ひいろくぅぅぅん!!」
何を考えているのかわからないヒイロの事も気にはなったが、うずくまったまま動かないラウラも心配だ。
ISを展開したまま、一夏は彼女に近寄り、肩に手を寄せて体を起こしてあげる。
「無事か、ラウラ?」
「負け……私は……わ……ま……」
「ラウラ?」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、うわごとのように何かをつぶやいていた。
顔は青白くなっており、いつのものよな生気が感じられない。
(いったい何があったんだ。2人の間に何が)
一夏に抱きかかえられて、ラウラはそのまま保健室へと運ばれた。
その日は1日ヒイロ、ラウラ、シャルルは教室には現れなかった。
///
翌日の朝、携帯電話のアラームが鳴り響き一夏は目を覚ます。
片手で携帯を握るとアラーム機能を止めて、布団の中から顔を出した。
携帯の画面のは時刻が7時30分を示しており、準備を始めようとベッドから起き上がった。
シャルルが使うはずの隣のベッドには、昨日から見ていないヒイロが座っていた。
「部屋に戻っていたのか」
ヒイロの左腕には包帯が巻かれており、床には血の付いた古い包帯が転がっている。
一夏が何を聞いても、ヒイロは説明をしようとはしない。
「キズだらけで血も出てる。ラウラだって意気消沈してるし、本当にどうしちまったんだ?」
また無言を貫くヒイロ、一夏にもそれはだんだんと慣れてしまう。
ただわかるのは、使えなくなった包帯を彼は片付ける気がないと言う事だけ。
「はぁ、俺が片付けるのか」
ため息を付く一夏、呼吸するたびに血なまぐさい匂いが鼻に付く。
いつまでも嗅いでいたくはないので、赤く染まった包帯を拾い集めようとしたら、部屋にインターホンの音が鳴る。
「はい?誰だ、まだ早いのに」
ヒイロが来客に応じる訳もなく、一夏がチェーンロックを外して扉を開ける。
目の前に居たのは、本国に帰国したと聞かされていたシャルルだった。
「シャルル、戻ってきたのか!?」
「うん、試作型のISのチェックもあったから1度本国へね。それよりも朝はやくに悪いんだけど、ヒイロ・ユイ君は居る?」
「あぁ、ヒイロなら―――」
「俺ならここに居る」
奥のベッドに座っていたはずが、いつの間にか一夏の後ろに気が付かない内に立っていた。
気配を消して動くヒイロに一夏はまた驚かされた。
「いつの間に?」
シャルルは一夏の背後に立つヒイロを見つめ、静かに口を開く。
その雰囲気はいつもの物静かで優しい少年とは少し違っていた。
ピリピリと緊張した空気が空間を包み込む。
「ちょっと来て欲しいんだ」
シャルルの言葉に無言に頷くと、2人は一夏の部屋から出て行った。
2人は人気のない場所を目指し言葉1つ交わさずに歩き続け、再びアリーナへと付いた。
一夏によって破壊された扉はまだ修理されておらず、2人は簡単に中へ入ってしまう。
当然アリーナ内部には誰も居らず、2人きりの状況になるとシャルルはヒイロに振り返る。
普段では考えられないほどに、口調も尖っている。
「事情は織斑先生から聞いた。キミもこの学園の生徒になったってね。男性で3人目のISの搭乗者。そんなキミがどうしてフランス製のISを奪うような真似をした?」
突き刺すような鋭い視線と口調もヒイロには関係がない。
理由を説明する義理もなく、シャルルを突き放すような態度を取る。
互いに威嚇しあい、重たい空気が漂う。
「言う必要はない。俺を呼び出した理由は何だ?」
「キミが奪ったIS、ラファール・エクシーガはまだまだ試作段階のISだ。データ採取の為に本当なら僕が乗るはずだったけれど、メインシステムはキミの生体認識にしか反応してくれない。データを初期化するには膨大な時間と資金が必要になってくる。でもそんな事をしている内に、デュノア社の第3世代ISの開発は遅れてしまう。だからヒイロ君には、このままラファール・エクシーガの搭乗者になってほしい」
「わかった」
シャルルの提案にヒイロは即答した。
あまりにも速すぎる回答にシャルルは思わず面食らってしまった。
「いいのかい?本国へ連絡を取らなくても?」
「自分の事だ、自分で決める」
当然だと語るヒイロを、シャルルは少し羨ましかった。
状況に長されて生きてきたシャルルには彼の決断力は魅力的に映った。
自分に出来ないことを平然とやってのける相手に、あこがれすらも感じていた。
「そう……ならこれを渡すよ」
シャルルはポケットから十字マークのついた青い色をしたネックレスを取り出した。
ネックレスをヒイロに手渡したが、彼にはそれが何なのかを理解出来ていない。
渡されたネックレスを、しばらくの間は凝視していた。
「これは?」
「待機状態のラファール・エクシーガだよ。ISに乗れるんだからこれぐらい知ってるよね?」
「どうすればいい。教えろ」
ヒイロが始めれISに搭乗した時にはラファール・エクシーガは既に展開状態だった。
彼にはただの青いネックレスにしか見えないこれが、何なのかがわからない。
だからヒイロは一向にISを展開させなかった。
シャルルはIS搭乗者なら常識とも言える知識を持っていない事に肩透かしをくらう。
「本当に知らないんだ」
ヒイロの傍まで近寄り、右手に握るネックレスを人差し指で軽く撫でた。
するとネックレスから青色のパワードスーツが展開され、アリーナに仁王立ちした姿で出現した。
それはフランス製の第3世代型ISのラファール・エクシーガ。
「慣れれば1秒も掛からずに展開できるようになる」
「わかった。後は俺がやる」
ヒイロはISスーツに着替えもせずにエクシーガに乗り込むと、AIにデータを読み取らせる。
プログラムが起動して機械的な音声が搭乗者に呼びかける。
『搭乗者を確認。生体認識を行います』
「え!?ちょっと、今から動かすの?」
ISを渡すだけの筈が、乗り込むまでするとなるとシャルルを驚いた。
ヒイロは無視してエクシーガを動かすための作業を進めていく。
『搭乗者ヒイロ・ユイを確認。試作型第3世代ISラファール・エクシーガ、起動します』
「そうだ、そこに入られると邪魔になる」
「ホームルームはどうするのさ!」
「俺には関係ない。下がっていろ」
シャルルの静止を振り切ると、エクシーガは地上を離れ重力に逆らい空を飛ぶ。
「行っちゃった」
残されて1人で呟きながらも眺めた空には青いISが鳥のように羽ばたいている。
空へと飛んだエクシーガ、ヒイロはその性能を確かめるべく縦横無尽に飛び回る。
加速、減速、上昇スピード、体に掛かるGを脳と体にインプットしていく。
モビルスーツに乗り慣れているヒイロには、ISコアのシステムにより軽減されたG程度ではびくともせず、初めてISに乗った人では絶対に出来ないイグニッションブーストも簡単にこなせてしまう。
イグニッションブーストはエネルギーを圧縮、放出する事で瞬間加速する技術だが、初心者ではあまりの速さに恐怖してしまう者もいる。
ヒイロにはこの程度の加速で怖がるなんて無縁の話だ。
『ヴァリアブルライフルを展開します』
AIが告げると両手に武器が握らされた。
ヴァリアブルライフルは搭乗者の意思により連続射撃、精密射撃、高出力射撃に瞬時に切り替えられる機能を持つ。
前回の戦闘で性能を理解したヒイロには、今は必要なかった。
「操作方法は前ので理解した。このISの性能を見せろ」
『了解、ヴァリアヴルライフルを収納。アサルトライフルを展開します』
ヴァリアブルライフルが消え、また両手に別に武器が握らされる。
ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡにも装備されている55口径のアサルトライフルを握り、地上へ急降下する。
見る見る内に加速したエクシーガで、ヒイロはアリーナの壁に向かってトリガーを引いた。
薬莢が飛び出し、銃声を響かせて弾丸が飛び出す。
「あ、あの……」
オレンジ色をしたシャルルの専用機、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡが近寄ってくると、射撃を中断しエクシーガを停止させた。
戦闘技能は常人を遥かに凌駕しているヒイロだが、知識に関しては全くの素人にシャルルは様子を伺いながら慎重に話した。
「訓練用のシステムも備えてあるから壁に向かって撃つのはやめたほうが……」
生徒の実習にも使用するアリーナには、射撃訓練の為のプログラムが備わっている。
ヒイロのように壁に向かって撃たなくても、プログラムを起動させればちゃんとした的が現れてくれる。
勿論ヒイロがそんな事を知っている筈もなく、シャルルに鋭い眼光で睨みつけた。
「やるのなら早くしろ」
「わ、わかった!」
睨まれた彼女は、慌てて自分のISで訓練プログラムを起動させようとする。
シャルルは指が少し震えながら、パネルを素早くタッチする。
(目つきが怖いぃ)
訓練プログラムが起動するまでの間、ヒイロはずっとシャルルを睨み続けていた。
それでも10秒と掛からずにプログラムは起動する。
六角形を幾つも合わせたような的が何もない空間に現れた。
中央には50、離れるにつれて40、30と点数が低くなっている。
ヒイロは的を確認したら、すぐにまた動き出してAIに指示を出す。
「次の武器を出せ」
『グレネードランチャーを展開します』
今度はグレネードランチャーが装備されると、息をつく間もなくトリガーが引かれる。
高速で移動しながらも、適確な射撃は的の中央に直撃する。
2発目も3発目も、距離が離れていても、ヒイロの射撃に狂いはない。
「すごい……」
シャルルはヒイロの戦闘技能に見惚れてしまい、瞬きするのも忘れてしまう。
10発以上撃たれた末に、グレネードランチャーの弾は底を付いてしまう。
「次を出せ」
『ショットガンを展開します』
AIが次にショットガンを展開した瞬間に、ヒイロは的に照準を合わせてトリガーを引いた。
それはラピッドスイッチと言われる技術、通常ぶなら武器の展開に2~3秒は掛かるが、エクシーガのシステムは誰にでも一瞬で展開出来るように構成されている。
だが展開された瞬間に照準を合わせて的を射るなどは、誰にでも簡単に出来る技ではない。
「ラピッドスイッチを使いこなしてる。ISのシステムのことは全然知らないのに、ここまでの戦闘技能の持っているなんて。ヒイロ・ユイ、本当にキミは誰なの?」
射撃訓練を続けるヒイロだが、シャルルは時間が迫っている事に気がついた。
エクシーガの傍まで近寄ると、トリガーを引き続けるヒイロに声を掛けた。
「もうすぐホームルームが始まる。ねぇ、ヒイロ君!」
ショットガンの銃声が響く中で呼びかけても反応しないヒイロは、前を見たままトリガーを引くだけで視線すら逸らさない。
聞こえていないのかと判断したシャルルは、両手でメガホンの代わりを作り大声でまた呼びかける。
「ホームルームが始まるよ!早く行かないと!ねぇ!ヒイロ君!」
呼びかけに応じたのか、ヒイロは射撃を中断してショットガンを格納する。
ゆっくりと空中から地面へと着地するのに、シャルルも続いた。
脚部は地面に接地し、2人は横並びでアリーナの中央に立つ。
それでも横目でチラっと見るだけで、振り向こうとすらしない。
「お前1人で行け」
「でも、先生に怒られるよ?」
「何度も言わせるな。邪魔になる」
必要以上の話はしようとせず、時間の無駄とばかりにまた射撃訓練を再開する。
シャルルは引き止める時間もなく、ヒイロはまた空に飛び立った。
「わかったよ。先に行くからね」
ISを待機状態にしネックレスに変えると、聞こえていないかもしれない言葉を念のために言う。
このままサクサクと最終話まで更新していきます。
それが終われば次はガンダムだ!