ヒイロに突き放されたシャルル、時間通りに教室に来ると一夏の隣の席に座る。
カバンの中から1限目に使う教科書を取り出しながら、隣の席で一夏はホームルーム開始直前になってもまだ来ないヒイロの事を尋ねた。
「シャルル、ヒイロはどうしたんだ?」
「それがね、授業には出ないって。今も1人でアリーナに居るよ」
「無断欠席なんてしたら、千冬姉にどつかれるぞ」
「邪魔になるから僕は先に行けって。考えていることがまるでわからないよ」
シャルルの言う事は最もで、誰ともまともに会話しようとしないヒイロの態度では理解しようがない。
転校して2日目にして2回連続の授業欠席は、千冬の怖さを知っている生徒、特に1番身近な存在の一夏は考えるのも怖い。
「俺は怖くて無断欠席しようなんて神経が信じられん。アリーナでアイツは何をしてるんだ?」
「ISの訓練をしてたよ。ラファール・エクシーガの性能を確かめてた」
「ラファール・エクシーガはフランス製だろ。渡してもいいのかよ?」
セシリアと模擬戦をしようとアリーナに行った時に、ヒイロが乗ったエクシーガと戦闘になった。
第4世代型の白式と比べれば劣る部分もあるが、研ぎ澄まされた戦闘技能は同じ第4世代の紅椿を圧倒し、一夏も最後のエネルギー切れがなければ勝てなかった。
でもエクシーガはヒイロが強奪したのであり、本来はフランスの代表候補生であるシャルルが乗るはずだった。
「登録解除には膨大な時間と資金が掛かるんだ。だから、正直に言うと不本意だけど彼に乗り継いでもらうことになしたんだ」
自分が乗るはずだったISを奪われて良い気はしない。
そのせいでシャルルはまだ第2世代型のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのままだ。
席を介して2人で話していると、時間になり教室に千冬が出席簿を片手に持ちやって来た。
「静かにしろ。出席を取るぞ」
山田とは違い千冬の一声で生徒達は一点に彼女を見つめ、今まで話していた会話を途切れさす。
出席簿を開け1番から順番に生徒の名前を読んでいく。
千冬に呼ばれると同時に1人づつ返事を返していくが一夏、シャルル、ラウラと呼ばれ最後の1人ヒイロ・ユイだけは声が返って来ない。
「ヒイロ・ユイ。ヒイロ・ユイ、居ないのか!」
「あの、ヒイロ君ならアリーナに居ます」
右手を軽くあげて千冬に気づいてもらうと、シャルルはありのままに状況を説明した。
眉間に皺を寄せてシャルルを睨んだ千冬は、パタンと出席簿を閉じた。
「何?わかった。私が後で直々に出向いてやる」
結局ヒイロが来ないまま、朝のホームルームは終了する。
(ホームルームが終わってからも、放課後になってもアイツは教室には来なかった。結局は誰にも、千冬姉でさえもアイツの事はわからない)
自由に生きていると言えば聞こえはいいが、過剰するぎその行動に一夏は心の中で少し心配した。
///
ラウラとヒイロ1件でアリーナへと出入口が破壊されたせいで、安全性を重視してISを使った実習授業はしばらく延期になった。
朝からずっとヒイロはアリーナに居続けて、今や空に星の光が輝いていた。
仕事も終わった千冬は、1人でアリーナまで様子を見に来た。
そこにはまだ性能テストをしているヒイロの姿が見えた。
「3年生も抜いて、今の所スコアは最高記録だぞ。1日中ISに乗り続けて何がわかった?」
千冬の呼びかけに動きを止めて、ISを待機状態にさせた。
初めは展開のやり方でさえ知らなかったが、今では呼吸をするように簡単に出来るようになった。
1日の訓練を終了させ、千冬の元へと歩み寄る。
「戦闘能力は把握した。これならISがこの世界の主力兵器になったのも納得が行く」
「この世界?」
言い回しに少し引っかかったが、構わずにヒイロは話を続けた。
今日までに得た情報を分析して自分の考えを述べた。
「ISは女にしか乗れない。その為のシールドバリアーと絶対防御が備わっているのはシステムが教えてくれた。だが、これがある限り兵器としては未完成のままだ」
「ISは軍事利用は出来ない。アラスカ条約で何年も前に決められている」
アラスカ条約はIS運営に関する世界共通の条約である。
現代兵器を遥かに凌駕する性能は世界の脅威となり、それを防ぐために日本独自の技術であったISの情報を公開、世界で共有する事になる。
条約を決める際にISの軍事利用は禁ずると正式に決まり、世界中の常識とまで認知されるようになった。
ヒイロは戦闘機能を持っているのに、敵を倒せないと言う致命的な欠陥が気になった。
「ISに乗っていればパイロットは絶対に死なない。それは絶対的な安心をパイロットに与える」
「そうだな、現代の兵器ではどんな物であろうと鉄くずに等しい。IS同士の戦闘でも絶対防御が搭乗者を守る」
「絶対防御を打ち破る方法が見つかれば、世界はどう動く?」
絶対防御の存在がISを現代で最強と言わしめる要因であり、兵器としての欠陥でもある。
日本代表として昔は大会に出たが、千冬も考えた事がないわけではなかった。
それでも過去に一度として絶対防御を突破された例はないし、戦闘ではなくスポーツとして落ち着いている現在では、絶対防御を突破して相手を倒そうと考える者も居ない。
「可能性でしかない。考えるだけ時間の無駄だ」
「そうか」
千冬の考えを聞いたら、青いネックレスを右手に握りアリーナから出ていこうとした。
頭の中ではISの絶対防御を打ち破る事しか考えていない。
「今日無断欠席した分は追加で課題を出してある。部屋に居る一夏が持っている。提出期限は明後日の放課後までだ。忘れるなよ」
返事はせず、千冬の表情を一瞬だけ見たらヒイロは一夏の部屋に歩いていく。
遠ざかっていく背中には強い決意が感じ取れる。
///
「あ、ヒイロ君!やっと戻ってきた」
シャルルはようやく部屋に戻ってきた同級生の姿に安堵した。
食堂で夕飯も済ませて、もう寝ようと考えていたぐらいだ。
一夏もTシャツと短パンのラフな格好に着替えて寝る準備をしている。
「お前、もしかしてずっとアリーナに居たのか?」
「そうだ。俺は寝る」
いつものように相手に有無を言わさぬ態度で接し、ベッドへと横たわる。
寝ようとするヒイロに一夏は急いで、千冬に渡された30枚はある大量のプリントを見せた。
これだけあると両手で抱えないと持つことが出来ない。
「お、おい!千冬姉に課題預かったんだけどいいのかよ?」
「俺は気にしない。お前も気にするな」
まぶたを閉じたヒイロはもうピクリとも動かない。
休息に入ったヒイロに一夏は眺めるしかだけだった。
「そこ、俺のベッド……」
昨日まではシャルルのベッドで寝ていたが、今日はそういう訳にもいかない。
寝る場所を奪われた一夏はため息を付いて諦めた。
「男2人で寝るのもなんか気持ち悪いしな。しゃあない、俺は椅子の上で寝るよ」
「一夏、僕のベッドを使いなよ。僕が椅子で我慢するから」
「いいよ。シャルルは自分のベッドで寝ろよ。その代わりに明日の朝、起こしてくれ」
「わかった」
納得したシャルルはいつも通りにベッドで寝て、一夏は椅子の上で体育座りするようにして毛布を掛けた。
翌日に筋肉痛は寝違えるのを覚悟して、今日の夜は寝た。
水平線の向こう側から太陽が登り始め、鳥のさえずりが聞こえる。
雲ひとつない空に風がそよぐ。
いち早く目が覚めたヒイロはおもむろに布団を被って眠るシャルルの横に立つ。
寝息を立てて穏やかに眠るシャルルに、温まっている布団を思い切り引き剥がした。
冷たい空気がシャルルの柔肌にあたり、眠りを妨げる。
「起きろ」
「うぅん~、あれ?今何時?」
「すぐに準備しろ。出来たならここを出るぞ」
目を擦りながら、まだ眠たい意識を呼び覚ます。
布団を引き剥がしたヒイロを、焦点の定まらないぼやけた景色で見つめる。
前触れもない突然の出来事に、シャルルは状況が理解できないで居る。
「準備ってなにを?」
「フランスへ行く」
///
部屋にはもう2人の姿はない。
椅子の上で寝ていた一夏の毛布がずり落ちて床へ落ちた。
「結構寝たなぁ。体が少し痛いけど」
固まった体をほぐそうと、両手を伸ばして背伸びをする。
肺の中の空気を吐き出して関節からポキポキと音が鳴る。
幸いにも寝ちがえもしなければ筋肉痛にもならずに済んだ。
机の上に置いていた自分の携帯を手に取ると、画面に表示されている時間に息を呑んだ。
「やばい!遅刻だぁ!!」
雲の上を2機のISが飛ぶ。
1機は海のように鮮やかな色をした青いIS、もう1機は夕陽のようなオレンジ色。
2機は寄り添うようにして、地中海の向こうにあるフランスを目指した。
「ねぇ、どうしてフランスに?」
「ISを殺す武器が必要だ」
「ISを……殺す?」
『殺す』の表現の仕方に、シャルルは全く理解出来ないで居る。
『壊す』のではなく『殺す』とヒイロは言う。
でも機械でもあるISを『殺す』と言う言い方に疑問を抱く。
「その為には、お前が必要だ」
無表情なまま発するヒイロの言葉に、シャルルは少し顔を赤らめてしまった。
2人は飛行機よりも早く、風を切りながら空を飛び目的地を目指す。
絶対防御に関しましては自分で調べられる限り調べたのですが、はっきりとした情報が見つかりませんでした。
自分の勝手な解釈で今回はこのように描かせていただきました。
さらに詳しい情報があれば報告してくれると嬉しいです。
文字数も少なくてすみません。
ご意見、ご感想お待ちしております。