あと2話ぐらいで終了予定です。
シャルルがフランスへと戻っていた翌日、教室の席はまた1つ開いたまま。
千冬は主席番号の最後の1人である彼の席が今日も誰も座っていないのを見る。
転校してきて4日目経過したが、彼の容姿がどんなのかを知っている人は指折り数えれるほどに少なかった。
「今日もヒイロ・ユイは欠席か?」
「僕が朝に起きた時には部屋に居ませんでした」
相部屋であるシャルルが右手を上げて千冬に報告し、ヒイロの他人と同調しない身勝手な行動に千冬は腹が立つ。
恩も礼儀も見せないヒイロ、けれども千冬は学園に入学した以上は生徒として接したいと考えてはいるが本人がその切っ掛けすら与えてくれない。
女尊男卑の時代で女性中心の世界に変わり、軍に居た時もこの学園に来た時からも女性ばかりと接してきた千冬に男の精神を理解するのは酷である。
そうでなくともヒイロは自身の存在を他人になど打ち明けたりはしない。
「まったく、面倒が見きれんぞ」
出席簿を閉じ愚痴をこぼした千冬、今日もヒイロの席は空いたまま朝のホームルームが始まる。
10分程のわずかな時間で今日になって変更になった授業や必要事項を簡潔に生徒へ報告するだけで、それがなければ日ごろの生徒の成績やISの操縦に関する簡単な指導をして終了するのだがこの日は違った。
教室に備え付けられているスピーカーから少しノイズが走ると副担任である山田の声が聞こえてくる。
『ホームルーム中に失礼します。織斑先生、織斑先生。至急、職員室まで来てください』
千冬は眉間に皺を寄せて鋭い眼光を見せ、緊急事態なのだとすぐに察知した。
彼女が緊急で呼び出されるのは決まって良くない出来事が発生しているのが多く、今回もそのパターンの可能性も充分にある。
「ホームルームはここまでにする。次の授業の準備をしていろ」
彼女は早々にホームルームを切り上げると黒いハイヒールで早歩きをして教室から出て行く。
同時に教室では待機させられた生徒達が憶測で話し始め、部屋の中は瞬く間に騒がしくなってしまう。
弟である一夏は居なくなった姉を心の中で心配した。
(呼び出しなんて、どうしたんだろ?何か悪い事でもあったのか?)
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「山田先生、どうなさいました?」
早歩きのまま職員室まで来た千冬は早々に山田に事態の内容を聞く。
ISの操縦者として訓練されてきた彼女は教室から職員室の移動くらいでは息1つ上げずに、深刻な表情している山田の元へ近寄った。
「それが……」
椅子に座っていた山田はパソコンへ表示された文面に汗を滲ませている。
千冬はそれを覗きこむとようやく今起こっている事態を把握した。
「ドイツでテスト中だったISが暴走したようです。これは以前に起きた現象と似ています」
表示された文面の一部を読み上げた山田は以前にも経験した出来事を思い出す。
試験中のISの暴走が少し前にも起こっており、その時は一夏の白式と箒の紅椿で苦戦しながらも何とか稼動停止に追い込むことに成功した。
立て続けに発生した同じ事件に山田は警戒心を表す。
「こんな事が連続して起こるなんて考えにくいです。もしかして裏で誰かが工作しているのかもしれません」
何かの陰謀を考える山田、でも千冬は既に裏で動いている人物に検討が付いていた。
(束め、昨日電話してきたのはこういうことか)
突然電話を掛けてきた昔からの友人、篠ノ之束が関与しているのはすぐに想像出来た。
ISの発案者でもあり初めての搭乗者に千冬を選んだのも彼女であり、妹の箒の紅椿の稼動試験の為に無人ISを作って撃破させ華を持たせるなど、常人には彼女の考えが理解出来ない。
(アイツ、今度は何を考えている。今までのようにコレもパフォーマンスか何かか?)
「暴走したISは日本の原子力発電所に向かって飛行中です。迎撃しなければ甚大な被害が」
山田が報告する内容に事は深刻だと考えた千冬はすぐに決断を済ませた。
束は極度の人間嫌いで家族の箒、友人である千冬と弟の一夏以外はどうでもいいとまで考えている。
彼女の危険性を知っている千冬は打って出るしかないと、現状で最高の戦力を呼び集めようと山田に言う。
「織斑と篠ノ之を呼んでください。2人に行かせます」
「ですが、危険ではありませんか?生徒に、それもたった2人だけだなんて」
「第4世代の紅椿、同調して真価を発揮する白式。現状では2人のISが一番性能が高い」
暴走したISを迎撃する時は限られており、確実性が必要になる作戦ではあり失敗は決して許されない。
前回の戦闘からも無人機の戦闘能力は高く無計画に戦ったのでは数人がかりであっても負けてしまう。
故に練度も要求され、その全てを満たすのは箒と一夏のペアしか居なかった。
千冬の説明で理解した山田は無言で頷き、職員室に備え付けられているマイクへもう一度向かう。
「1年生の織斑一夏君、篠ノ之箒さん。至急職員室まで来てください」
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『1年生の織斑一夏君、篠ノ之箒さん。至急職員室まで来てください』
「えっ!?俺たちもか?」
放送で自分まで呼び出された事に驚きを隠せない一夏、対称的に箒はいつもの様に冷静で席から立ち上がると未だ動こうとしない一夏を急かす。
「何をしている。行くぞ、一夏」
「あ、あぁ」
立ち上がった一夏は残された生徒から好意の視線を向けられながら、2人は自分たちの教室を後にした。
2人は横並びで廊下を走りながら、山田に放送で呼び出された理由を話し合う。
「千冬姉だけじゃなく、俺達まで呼び出しなんて」
「怒られるようなことしてないだろうな?」
「俺はしてねぇよ。だとするとやっぱりヒイロの話か?」
「ヒイロ・ユイ。私はアイツが苦手だ」
「どうしてだよ?確かに何考えてるのか、わかんないけどさ」
「それもそうだが……」
ヒイロの話題を出された箒は途端に表情が暗くなり、視線が下を向いてしまう。
箒とヒイロが接触した回数は数える程しかないが、それでも彼女はヒイロに苦手意識を持っていた。
強奪したラファール・エクシーガとの戦闘は彼女の脳裏にくっきりとこびりついている。
(殺意に満ちたアイツの目に……私は恐怖に竦んでしまった)
剣道をしているとは言え現代では何処まで行ってもスポーツの域を出ない。
彼女は本気で自分を殺しに来たヒイロの視線は忘れる事が出来ず、心の中を蝕まれていた。
箒の胸の内に気が付けるはずもなく、一夏は彼女がヒイロの事を苦手な理由を知らないまま職員室の扉の前へ到着してしまう。
先頭に立った一夏は職員室の扉を開けると中へ足を踏み入れる。
「失礼します。いっ!?」
入った先には姉の千冬が腕を組んで仁王立ちして待っていた。
教師として接する千冬の目は鋭く、あまりの迫力に少し驚いてしまう。
でも彼女の視線はやって来た2人ではなくその後ろを見ていた。
「山田先生は2人しか呼び出ししてないはずだが」
「え?何で……」
そう言って一夏が振り向いた先には教室で待っている筈のクラスメイトが3人居た。
イギリス代表候補生セシリア・オルコット、フランス代表候補生シャルル・デュノア、ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒがそこに居る。
「篠ノ之さんだけに任せるなど心許無いですわ。ここはイギリス代表のわたくしも手伝いましてよ」
「一夏も数が多いほうが戦いやすいはずです」
「一夏は私の嫁です。教官といえども異論は認められません」
普段では恐れおののく存在でもある千冬に対して3、人は強引に自分の意見を押し通そうとする。
複数で相手にするのは戦略上では有利だが、生徒をそれだけ危険に晒すことになってしまう。
だから千冬は余分な人数は割きたくなかったが考えに反してここまで来てしまった。
「仕方がない。時間もない、お前たちも来い」
千冬は背を向けて職員室の奥へと入って行くと、5人も彼女の背中に付いて行く。
奥には山田が待っており、メガネの奥の瞳はいつもとは違う深刻な目つきが伺える。
語らずとも5人は深刻な事態が発生している事に気が付き、固唾を飲む。
「前と似たようなケースだ。ドイツでテスト中のISが突如暴走して日本の原子力発電所に向かっている。相手は無人だ、日本の領海内で勝負を決める。3人で動きを止めている間に篠ノ之と織斑で仕留めろ。失敗はゆるされない」
これから行われる作戦の概要を伝える千冬、この時ばかりは生徒としてではなくIS搭乗者として言葉を発する。
指示ではなく命令を言う千冬、作戦の時間は迫っていた。
///
ISを展開させて5人は無人機の暴走を止めるべく晴天の大空に羽ばたく。
学園から飛び立っていった5人をヒイロは自室のベランダから確認すると、頭の中で描いていた作戦を決行する。
「誘いに乗ってきたか」
右手に握った青いネックレス、待機状態のラファール・エクシーガを展開させ装備として全身に纏う。
戦闘能力以外は素人同然だったヒイロも、今では最低限の動作くらいは一瞬で出来る程に会得している。
背中の羽から推進力が発生し両足がゆっくりと浮き上がり床から離れた。
ヒイロの目的は先に飛び出して行った5人ではなく、無人ISとその背後に居る黒幕でありそれ以外には邪魔でしかない。
だから平気で授業も休みこの日の為に準備を進めていた。
両翼が動くとエクシーガも5人の後を追うように大空へと飛び立つ。
///
先頭を飛ぶ一夏は何処までも続く水平線の向こうに空飛ぶ物体を見た。
肉眼では豆粒程の大きさにしか見えないが、ISのコンピューターが長距離に居る相手でも自動的に識別してくれる。
それは間違いなく情報にあった無人のIS、予測進路通りに真っ直ぐに原子力発電所へと向かっておりこのまま飛行していればいずれ接触する。
「見えた、アイツがそうだな。行くぞ箒」
「わかっている。みんな、バックアップを頼む」
「承知しておりましてよ。作戦通りわたくしたちで足止めしますわ」
「その間に一夏と篠ノ之さんが無人機を攻撃して。僕も全力でサポートするから」
「一夏、確実に撃墜するんだ」
5人はフォーメーションを組み無人機を迎え撃とうとする。
セシリア、シャルル、ラウラで進行を食い止めている間に紅椿の絢爛舞踏で白式のエネルギーをチャージし零落白夜で止めを刺す寸法だ。
作戦内容は出撃前にも打ち合わせをしており、状況が変化した場合も千冬の指示で臨機応変に動く。
それでも失敗が許されない状況と1度負けてしまった相手に一夏は微かな不安があった。
「大丈夫だ、行ける!」
『その必要はない』
戦闘の意思を固めた一夏に不意に通信回線から声が遮った。
やる事がいつも突然の彼に一夏はまた驚かされる。
後ろを振り向くと見えたのはラファール・エクシーガの青いボディーを纏ったヒイロの姿、ここに現れた理由も戦闘を止める理由も彼にはわからない。
「ヒイロ!?どうして?」
『下がっていろ。邪魔になる』
言われて一夏は速度を落とすとエクシーガは白式を飛び越して最先頭へ位置する場所まで飛んで行く。
他の4人も一夏に合わせて速度を落として合流すると、セシリアは勝手に介入してきたヒイロに口を尖らす。
「何なのですか彼は!?あの人の方が邪魔ですわ!」
「わからない。でも理由があるはずだ。俺たちも知らない理由が!」
必要以上に語ろうとしないヒイロは混乱する一夏達に手の内を一切明かそうとせず、単独で無人ISを撃墜するべく行動をする。
ヒイロを信用する一夏だが他のみんなの心情は穏やかではなく、ラウラと箒も刻一刻と迫るタイムリミットに焦っていた。
「教官からも連絡はない。このままヤツに任せて取り返しの付かない事態になれば、被害は甚大だぞ」
「どうするんだ一夏?悠長にしている時間はないぞ」
でもこの中でただ1人、シャルルだけはヒイロが考えている事に予想が付いたが、未完成の武器を使用するのに一抹の不安を感じる。
フランスの設備を使い共同開発した物だが、安全基準もクリアしておらず欠陥も多数ありとても実戦で使える代物には仕上がっていない。
「ヒイロ君、もしかして……」
無人ISはラファール・エクシーガの射程圏内へと入り、ヒイロは右腕を前方へと付き出す。
「アレを出せ」
『了解。Non-standard product. Infinity Weapon System.ロングメガバスターキャノンを展開します』
AIが搭乗者の了承を得て機会的な音声を流し、バススロットから格納された武器を展開させる。
通常の武器ならば1秒と掛からずに展開され装備するがこの武器はそうは出来ない。
ジェネレーターやスコープなどの部品が1個1個展開していくとその場で自動的に組み立てが始まり武器の形に変わっていく。
武器は付き出した右腕と同化し、ISコアともエネルギー供給の為のバイパスを繋げその姿をあらわす。
ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの大型レールカノンと比較しても遥かに巨大で、動く砲台とも言える物体がラファール・エクシーガに装備された。
巨大な砲台は重量も重く片腕で支えきれないので、武器にそのまま備えられた補助アームがエクシーガの青いボディーに食い込み強引に接続させている。
機動力を確保する為にスラスターも増設されておりわずかな時間であれば高速移動が可能、それでもエネルギーを大量消費するし、量産型と比べても同じかそれ以下のスピードしか出せない。
「メインジェネレーター正常に稼働。冷却装置も問題なし。エクシードシステムを起動させろ。残りのエネルギーは全て防御に回せ」
『了解。搭乗者の任意によりエクシードシステムを起動します』
羽から粒子が発生するとエクシーガの周囲に放散し、貯蔵されているエネルギーを限界まで引き出す。
ロングメガバスターキャノンにほぼ全てのエネルギーを廻しており、エクシードシステムで最小限のシールドエネルギーを確保させる。
トリガーすらも外部から外付けされた武器、残っている左手で水平に設置されたトリガーを握りまた外付けされたスコープから覗く照準の中心には、こちらへ向かってくる無人ISの姿が収まっていた。
「ターゲット、ロックオン。破壊する」
左手でトリガーを引くとじISのジェネレーター、武器に増設されたジェネレーター、ISコアまで最大限に使用し一撃必殺の威力の巨大なエネルギーを発射する。
発射した瞬間に周囲の音が消し飛び目の前が白光に包まれ衝撃波が一夏の体を襲う。
甲高い耳鳴りが起こりあまりの眩しさに視界を腕で覆い、巨大なエネルギーに巻き込まれて空気が暴れ突風となり体にぶつかってくる。
海の水も嵐が巻き起こったかのように大荒れとなり、至る所で高い津波が発生した。
何が起こっているか状況が理解出来ずに、他の4人も両腕で突風と閃光から身を守る。
数秒間にも及ぶ高エネルギーの発射に無人ISは前面にバリアを発生させて防御をするが、障害にもならずエネルギーはボディー全体を飲み込む。
為す術もなくエネルギーに流されその形状は跡形もなく消滅していく。
ヒイロが「ISを殺す」と言っていた武器とはこの事なのか!?
それとも他に何かがあるのか?
次回で5人はISが生まれた真実へ迫る。
……5人?誰か忘れているような……