あとマリアさんが本性を現すお話でもある。
それではどうぞ
「――納得がいきませんわ!」
そう言って、イギリスの代表候補生のセシリア・オルコットさんが勢いよく立ち上がる。
長いからオルコットさんでいいや。
現在は、クラスの代表を決めている最中だが、俺がクラスのみんなから他薦されたのがそもそもの始まりだ。というか、ISの訓練すらしたことのない俺を代表に据えるなんてどうかしてると思うんですけど! もうちょっと現実見ようぜ! 物珍しさなんて今の世の中じゃ何の役に立たないんだからさぁ!
そんなことがあり、なんかいろいろとあったあとに、痺れを切らしたのか、オルコットさんが立ち上がったのだ。
立ち上がったオルコットさんの口から言い放たれるのは、男への批判と、自分がどれだけ素晴らしいか、そして日本という国の批判だった。
――こいつ、本当に代表候補生か? それが俺のオルコットさんに対する第一印象だ。いや、仮にも国を背負っているやつがそんなこと言ってもいいのか、とか、IS生み出した人は日本人だろ、とか色々とツッコミどころがあるんだが、それよりも触れちゃいけないことが、こともあろうにその話題に人一倍敏感な人物がいるこの教室で言ってしまうのか。
いや、確かに今の時代の男は俺の視点から見ても、不甲斐ない奴らばかりだと思うよ。でも、あることないこと言っちゃダメだろ。
「あら、言い返すことができませんの?」
おい馬鹿、いきなり俺に振ってくるなよぉ! びっくりして声出そうになったじゃねえか! いや、そんなことより、やばい。
「ふん、やはり所詮男なんて――」
「――黙りなさい」
その声を聞いた瞬間、体感気温が二度ほど下がったような錯覚に陥った。恐らく、声の主が放っている殺気が原因だ。
あと相川さん、そんなに俺に視線を送っても助けることなんて出来ないから。俺だって心臓が掴まれてるような感覚に打ち勝つために人知れず戦ってるんだから、自分で頑張ってくれ。
まあ、誰がこの殺気の主なのか俺はわかるものの、一応確認しておこう。そう思い、俺は殺気の出処をチラリと見る。
そこには、席から立ち上がり、オルコットさんを睨む神通さんがいた。
神通さんの殺気をモロに受けているオルコットさんは、どこか顔色が悪い。というか、冷や汗ダラダラじゃん。
「何を…」
「聞こえませんでしたか? 黙りなさい、そう言いました」
神通さんが言葉を発する度に、彼女の周囲から徐々に気温が下がっていくような気がした。なんかのほほんとしてそうな少女が、泡を吹いて気絶しているのが見える。
そんな惨状を見た俺は、このクラスの担任である俺の姉に「おい、あんた担任だろ、どうにかしろよ」といった感じのアイコンタクトをする。が、当の姉から帰ってきたのは、
「馬鹿言うな、そんなことしたらこっちに飛び火するだろ」といったアイコンタクトだった。駄目じゃねえか!
やばそうな雰囲気が、教室の中を支配する。そんな中、立上先輩はのんきに机に突っ伏していた。そのすぐ後ろの席のマリアさんは、まるで心地がいいのか、神通さんが立ち上がってからずっと不敵な笑みを浮かべている。やっぱりこいつらおかしい。
「あなたは、艦娘を指揮する提督の存在を知っていますか」
神通さんが、口を開く。
「我々が深海棲艦と戦うための環境を必死に整え、勝利のために情報を集め、作戦を練り、それでも自分たちに敵と戦う力がないことを嘆き続けながら、我々を指揮している人間たちを、あなたは知っていますか?」
神通さんの言葉は、どこか悲しげな、しかし、静かな怒りに満ちているように感じた。
「その約7割が、あなたが自身の言葉で嘲笑い、不要と言った男性たちなのですよ」
「なっ…!」
神通さんの言葉に、オルコットさんが驚く。だが、クラスの大多数の生徒はそれに驚いていない。当然だ。IS登場前から、深海棲艦という海からの驚異を退け、自分たちを守ってきたのは、数多の艦娘たちを率いている提督という益荒男たちなのだ。
それは日本では、当たり前の光景であり、老若男女分け隔てなく接する艦娘の姿は、自分たちにとってわかりやすい英雄そのものだったからだ。日本という国が、女尊男卑の風潮に全く飲み込まれなかったのも、彼女達がいたからだという社会学者がいるほど、艦娘と提督は大きな存在なのだ。
だが、オルコットさんは、その英雄を、彼女らが心に秘めるその矜持を踏みにじったに等しいのだ。それは、日本人にとっても同じこと。もし、日本の世論がISか、艦娘かという質問をされたなら、100パーセント艦娘を選択するだろう。
「彼らは、自分たちが深海棲艦と直接戦えないことを悔み、嘆き、それでも自分の出来ることをしようと努力し続け、私たち艦娘との絆を築き、ようやく今の状態まで持ってきたのです」
ひと呼吸おき、神通さんは続ける。
「それをあなたは、取るに足らないと、くだらないものと言い切った。それは私たち艦娘にとって最大級の侮辱にも等しく、到底許容できません」
――故に、神通さんはその言葉を紡ぐ。
私は、あなたに、イギリス代表候補生であるセシリア・オルコットに宣戦布告します。
かくして、神通対セシリア・オルコットの模擬戦によって、クラス代表を決めることとなった。
その裏で、ひっそりと俺の他薦は取り消された。神通さんナイス。
◇
昼休み、それは生徒たちが午前の授業から解放され、各々が欲望の赴くままに過ごすことができる数少ない時間。大多数の生徒は、まず自身の空腹を満たすために行動する。かくいう俺も、その生物が抗うことのできない欲求を満たすために食堂を訪れていた。
IS学園の食堂は、多種多様とも言える国から生徒が集まってきている関係上、様々な国の料理が求められている。また、その味も妥協が許されていないらしく、簡単な料理でもその味は高水準を保っている。
俺はそんな料理を味わうことを密かに楽しみにしていたのだ。だが…
「で、なんで俺の周りに集まったんだ、理由を言え、理由を」
りゅうどうくんと、教室でちらっと見たファースト幼馴染以外の俺の知り合いが、俺を囲み、食堂の一角を占拠したのだ。囲まれてしまった! と言えばいいのか、俺は。
「教室であんなことを言った手前、親しくない人達が私とともに食事をするのは、少々酷かと思いまして、顔見知りのあなたを頼らせていただきました」
神通さんは、ストレートに理由を答えてくれた。それ、クラスに馴染むの失敗しましたって言ってるようなもんだから!
「……私は一夏さん以外頼る人がいなかったんですよ」
ごめん、ティルフィングさん。俺そこまで考えてなかったわ。
「えっと、みんながいたから、かな?」
フェイトさんは少し言葉を濁しながら言う。他に友達がいたけど、こっちを優先したのか。なんにせよ、フェイトさんの人柄の良さがわかる。
「無理してこっちに付き合う必要ないんですよ? 他の友達を優先しても」
「ありがとう、織斑君。でもいいの」
そう言って、俺に笑顔を向けてくるフェイトさん。
――それに、君を調査しなきゃいけないからね。
今何か聞こえたような気がしたが、多分気のせいだろう。というか何言ってんのかよく聞こえなかった。
「わ、私はみんなと一緒なら楽しいかな~って思ったから、ご一緒させてもらってます!」
今のところ一番まともそうな理由を、とこのめさんが言う。本当にこの子はいい子だ。是非このまましっかりと育ってほしい。
「私はまもりさんがいれば、それでいい」
敷島さんは相変わらずぶれねえな。とこのめさん一筋だ。
「ちなみにここにいる半分は私がお誘いしました」
お茶をすすりながら、クロエが言う。やはりお前が原因か。
「そこに一夏がいたから!」
「同じく」
立上先輩とマリアさんがそんなことをのたまった。おい、こいつらどうにかしろ。立上先輩はいいにしろ、マリアさんはなんでそうなった。
「私は、ここにいたほうが面白そうだと思ったから」
謎の先輩が答える。って、あんた誰だ。
「――あら、あなたは」
謎の先輩に、神通さんが反応する。どうやら知っているらしい。
「先日はどうもありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
そう言って、お互い深々と頭を下げる。ふたりの間で先日に何かあったらしい。それに神通さんが知っているということは、多分国防とか、そっち方面の知り合いなのだろう。
「で、誰なんです。あなたは」
そんな俺の言葉に「これは失敬」と言って扇子を勢いよく開く謎の先輩。扇子には、妙に達筆で自己紹介の文字が書かれている。
「私は更識楯無――生徒会長よ」
その後、更識先輩を交えながら、普通に昼食をとった俺たちだった。途中、フェイトさんが天然を発揮したり、ティルフィングさんがクロエに嘘吹き込まれてちょっとした騒動が起こったりしたが、特に大きな事件は起きなかった。
◇
放課後、俺は学園側から宛てがわれた自室に向かっていた。一週間は自宅からの登校だったはずであるが、俺の安全面を考慮してそうなったらしい。当面の荷物は、姉が用意してくれた。その時同室の人物を姉に聞いたところ「私の主観で、最も信頼できる人物だ」という答えが返ってきた。誰なのか、見当がつかない。
そんなことを考えていると、いつの間にか部屋の前についていた。部屋の番号があっていることを確認した俺は、鍵を使い、扉を開ける。
部屋の内装は、さすが国立――というかいろいろな国から出資されているといってもいいくらいの豪華さだった。国だけでなく、一般の企業や団体からも出資されているらしい。
オーメル・サイエンス、ルクスリア・グループ、柊財閥、レクト社、ユグドラシル・コーポレーション、次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループなどなど…
とにかくいろいろな人間達からこの学園は支えられているのだ。
そんなことを考えながら部屋を見渡していると、同居人の荷物が目に入る。まあ、覚悟していたが、同居人は女性らしい。
扉が開く音。そちらに目を向けると、同居人となる人物がいた。
――マリア・カデンツァヴナ・イヴだった。
暫しの沈黙が、俺と彼女の間に流れる。
先に意識を取り戻したのは、マリアさんの方だった。ハッと、何かに思い至ったのか、マリアさんは浴室であろう部屋に入り、扉を閉める。
まあ、当然の反応だよ。何も来てなかったんだからな。というか前くらい隠せよ。
彼女が浴室の扉を閉めてから、大体三分経過した時に、勢いよく扉が開いた。中から出てきたのは、当然マリアさんだ。しかし、その服装がとんでもないものだった。
白無垢なのだ。というかなんで浴室にそんなものを持って入ってるんだ。
マリアさんはそのまま、俺の目の前まで来て、綺麗に正座した。そして三つ指をついて、深々と頭を下げた。
「不束ものですが、よろしくお願いします」
マリアさんのその言葉に、俺は満面の笑みを浮かべ、答えた。
「チェンジで」
実は短編時代に出資者のところで一個本当に忘れてたところを追加している。
ごめんよ、晶ちゃん…
出資者のところも全部わかった人はすごい。
そして楯無さん初登場話でもある。これまだ一巻の内容なんだぜ?
最後に、ここまで読んで下さり、どうもありがとうございます。
よろしければ感想としてなんか突っ込んで下さると幸いです。
これからも、どうぞよろしくお願いします。