それではどうぞ
生徒たちのどよめきが、第3アリーナを包んでいる。彼女らの視線は、全てアリーナ内で相対している二人の少女に注がれていた。
一人は、長大なレーザーライフルをその手に持ち、蒼色の装甲を身にまとい、宙に浮いているセシリア・オルコット。その蒼色の装甲の銘は『ブルーティアーズ』 イギリス国家代表候補生である彼女の専用機だ。そう担任の姉から昨日説明があった。あと試作機らしいから色々とピーキーな調整がされていることも、マリアさんの上司である風鳴弦十郎さんから聞いた。やっぱり情報網スゲエ。
そんな彼女に対するのは、どこかセーラー服を思わせる意匠の、赤とも橙とも取れる色合いの衣服に身を包み、頭に鉢金を巻き、地に足をつけてオルコットさんを見上げている神通さんだ。本来その身にあるはずの魚雷やら単装砲やらは無い。どうやら、非武装でオルコットさんと戦おうって魂胆らしい。
――ここで間違ってはいけないのが、元来艦娘の本分は海上での戦いだということだ。しかし極稀に陸上戦で一定の戦果をあげる艦娘がチラホラいるらしい。ある装甲空母の人から聞いた話では、それが極まると深海棲艦との戦いで必要になるはずの装備である艤装が必要なくなってしまうという噂があるらしい。恐ろしや。
「ねえ、一夏君」
そんなことを考えていると、隣にいたフェイトさんが声をかけてくる。
「君はどちらが勝つと思う?」
「いや、ぶっちゃけわかりません」
勝負は時の運という言葉があるし、いついかなる時にも大どんでん返しのチャンスは転がっている。それが分かっているからこそ、俺はあえて答えを濁した。そんな俺の心を汲み取ったのか、フェイトさんは「それもそっか」と言い、二人の方へと視線を戻す。
当の二人は、試合開始の合図を今か今かと待ちわびているようにも思えた。
「――舐められたものですわね」
最初に口を開いたのは、オルコットさんのほうだ。
「小娘である私には、武装すらいらないというわけですの?」
「そうだと言ったら?」
神通さんの言葉に、オルコットさんの纏う雰囲気が変わる。それは、怒りだ。心なしか、彼女の額に青筋が浮かんでいるようにも見える。
「このっ…!」
怒りは冷静さを失わせる。そして、それに気が付くことができないのも、怒りに支配された人間の特徴だ。はっきり言って、オルコットさんは神通さんの挑発にまんまと引っかかったのだ。
そして、心の平静を取り戻せないまま、試合開始のブザーが鳴り響く。
「消えなさい!」
オルコットさんがそんなことを言いながら、レーザーライフルの銃口を神通さんに向ける。
「あなたは反省しなさい」
その言葉とともに、神通さんの体が揺らぐ。すわなにかの術かと考えたが、敷島さんが驚愕の表情とともに「残像!?」と声を上げたことで、それが神通さんの生み出した残像であることを理解できた。こんなことも見抜けないようじゃ、また長門さんに笑われてしまう。精進しよう。
しかし、今あの場にあるのが残像であるのだとするならば、本物はどこだという話になってくる。そう考え、すぐに神通さんがどこにいるのか探そうとした。
しかし、俺たちにはその暇すら与えてもらえなかった。
こきゃっ。
――その音とともに、試合が終わってしまったからだ。
◆◇◆
今日の食堂は、何か空いていた――俺たちの周りだけなぁ!
原因はわかっている。主に俺の隣で食後のお茶をのんきに啜っている神通さんのせいだ。今俺たちが空気が重い中で食事をしているのも、同じクラスののほほんとした彼女が俺たちの方を見た瞬間に情けない悲鳴を上げながら食堂から走って逃げていったのも、俺の幼馴染が青い顔をしながら隅っこの方で独り寂しく焼き魚定食をつついているのも、みんな神通さんのせいだ!
「…オルコットさん、大丈夫でしょうか」
とこのめさんは優しい人だ、あんなに暴言を吐いていたオルコットさんの心配をしている。敷島さんはそんなとこのめさんに尊敬の眼差しを送っている。
「――大丈夫ですよ」
湯呑をテーブルに置き、神通さんが口を開く。おい、首が変な方向に曲がってたんだぞ、大丈夫な訳無いだろう。
「
「え、あれで手加減してたんですか、神通さん」
立上先輩の言葉に、神通さんが頷く。
「そもそも、代表候補生を殺そうとするわけ無いでしょう」
そう言って、再び湯呑の中身をすすり始める。そんな言葉を聞いていた俺たちは、正直ドン引きしていた。
――神妙な顔で「なるほど、あのような戦い方もあるのね」と呟いたマリアさんを除いて。お願いだからあんたはおとなしくしててくれ。
◆◇◆
その夜、自室でマリアさんとの水面下の攻防をしていた俺のもとに、更識先輩が訪ねてきた。
「なんか用ですか?」
マリアさんの突進を紙一重で躱した俺は、更識先輩に聞く。ちなみにマリアさんはそのまま壁にぶつかった。
「お取り込み中のところ悪いんだけど、あなたたちにちょっと聞きたいことがあるの」
そう言って、するりと部屋に入って来た更識先輩は、マリアさんのベッドに腰を掛ける。俺もそれに倣い、彼女と対面するような形で自分のベッドに腰を掛けた。何故かマリアさんがちゃっかり俺の隣に座ったことはこの際放っておこう。
「で、なんですか、聞きたいことって」
そう言った俺に「うん」と頷いて、更識先輩が口を開く。
「あなた、生徒会に入る気はない?」
楯無さんの言葉に「あ、これ真面目な話だ」と直感で理解し、姿勢を正す。
「俺を選んだ理由は?」
「あなたの護衛のため、そしてあなたの影響力を抑止するため」
――なるほど。この人の目は、今まで関わってきた人間とは違い、節穴じゃない。それだけで、信用に値する。そう俺に抱かせるだけの説得力のある言葉を、簡潔に言ってくれた。やはり、いい人なのかもしれない。
俺はそう思いながら、俺の太ももを撫でていたマリアさんの腕を抓る。
「俺としては、別に構いませんけど…」
「わかってる、彼女をはじめとした周りのみんなが何を言うのかわからないんでしょう?」
そう言って、更識先輩は自信満々な表情で、勢いよく持っていた扇子を開く。扇子には、やはり達筆で心配ご無用の文字が書かれていた。
「彼女らは生徒会の非常役員という役職を付けるわ」
だから安心して、と更識先輩が言う。油断はできないだろうが、確かに安心はできるだろう。暴走するごく一部への首輪にもなるはずだ。
それで止まらないとは思うが、少しは彼女たちも自重するだろう。
そう考えながら、俺の服を丁寧に脱がそうとしていたマリアさんの手を叩いた。
「俺はそれでいいと思いますよ」
「それじゃあ、生徒会に、彼女達もろとも入るってことでいいかしら」
「オッケーです」
その言葉とともに、俺は立ち上がり、更識先輩の方に手を差し出す。それに応じるように更識先輩も立ち上がり、俺の手を握り、固く握手を交わす。その間は、開きっぱなしのドアの影からホッとしたような表情でこちらを覗き込んでいる我が姉と、すぐ後ろで切羽詰った様子で「どうしよう、翼! 一夏が寝取られちゃう!」と電話でのたまっているマリアさんのことは気にしないことにした。
翼さんの胃が一番危ないことに誰か気づいただろうか?
あと千冬さんはさっさとマリアさんを排除すべきそうすべき。
次回があるとするなら、おそらく色々すっとばして無人機戦直前から始めると思います。
そして、クロス先が増えるというね…
最後になりましたが、ここまで読んで下さり、どうもありがとうございます。
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これからも、どうぞよろしくお願いします。