織斑一夏の青春   作:リディクル

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※この小説は、ノリと根性で書いています。

無人機戦直前から始めると言ったな、あれは嘘だ。

今回はガールズトーク回です。

それでもよろしければご覧ください。





彼女の思惑

 

 

 

 ゆっくりと、目を覚ます。まず、目に映ったのは、パイプが張り巡らされた白い天井。体を起こし、見回してみれば、そこが白い壁に囲まれた部屋だというのがわかった。明らかに、IS学園の自室ではない。仕事を終え、自室に戻り汗を流した後は、そのままベッドに入った所までは記憶にある。普通であれば、ここで自分がさらわれたと考えるべきなのだろうが、あいにくこの光景はもう何度も見たことがあるものなので、驚くほどのものではない。むしろ、自分にとっては()()()()()()()()と考えられるものなのだ。

 自身が身を横たえていたであろうベッドから起きあがり、自分の体の感覚を確認する。手を握り、開く。筋肉一つ一つが動き、正常に動作することを確認し、そのまま自身の服装の確認に移る。現在の服装は、ロボットのアニメによく出てくるようなパイロットスーツと、宇宙服の合いの子のような、白い服を着ていた。パイロットスーツにしては少々重装甲であるが、宇宙服というには少々頼りない。そんな服装だ。こちらも特に問題はない。

 そこまでの確認が終わったら、もう一度部屋を見渡し、出口の場所を確認する。出口となる場所は、スライド式のドアだ。それがあったことを確認し、そこへ向かい歩き出そうとしたら、ドアが開く。

 部屋の中に入ってきたのは、ボブカットの少女だった。変な言い方ではあるが、()()()での顔見知りだ。

「あ、織斑さん。目が覚めたんですね」

「ああ、緑川か」

 少女――緑川(ゆはた)は私の顔を見て笑顔を浮かべる。それにつられ、自分の頬の筋肉が動く。うまく笑えている。こちらではほとんど寝たきりだ、今回()()()()()()()()()のだって、定時報告のためだ。

「来て早々悪いのだが、艦長に連絡を取ってくれないだろうか」

 私の言葉に、緑川はきょとんとした表情を浮かべる。しかし、すぐに真剣な表情となる。

「何か、重要なことでしょうか?」

「ああ、いや、そうでもないよ」

 そう言って、私はゆっくりと歩き出す。そして、出口のところで一度立ち止まり、緑川の方に顔だけ向けて答える。

 

「いつものところで、茶でも飲もう。とでも伝えてくれ」

 

 そう言って、緑川が何か言ってくるのを聞き流しつつ、私は一足先に目的地へ向かい始めた。

 

 

 

                     ◇

 

 

 

 その場所は、今までと変わらず静寂に包まれていた。周囲には人も、建物も存在しない。半球型のガラスの向こうには、漆黒の星の海と、そこに浮かぶ地球の姿があった。

 そこは、千秋郷と呼ばれる場所であり、ある百景の十選において殿堂となっている場所だった。私がこの場にいる理由は、ひとえに定時報告のためだ。私が扱う内容は、私が所属するあちら側でも、そしてこちら側でも最高機密に属するものであり、おいそれと話すことができない。そのため、人の出入りが少なく、かつ不必要な要因をできうる限りシャットアウトできるという条件に適ったこの場所を選ぶことが多いのだ。

「ここ以外にも選べるところがあっただろう」

 私の背中に、咎めるような声が投げかけられる。その声の方向を振り向けば、そこには一人の女性がいた。私よりも軽装である白い服に、しっかりと結ばれた白い髪。そして、何よりも目を引くのが、顔を覆う能面のようなマスク。この女性こそが、私の待ち人であり、こちら側で艦長と呼ばれている人物だ。

「いや、ここ以外は誰かの目があるだろう。それに私があなたを呼ぶときは護衛にも聞かれたくない話だからな」

 その言葉に付け加え、私はあることを口にする。それは、私と彼女がこうして顔を合わせた時に毎度のように言っている言葉だ。

「そういうことだ、早くその趣味の悪い面を取ってくれ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私の言葉に、一つ溜息をついた彼女は、右手でマスクを取る。彼女の素顔は久しぶりに見た。()()()()()()()()()()()()()、その素顔を。

「では、定時報告を始めてくれ。織斑」

「ああ、始めようか。小林」

 彼女の名は、小林。この播種船『シドニア』の艦長であり、私の最初の友人だ。

 

「まず、IS学園の方は弟が入学した以外は異常なしだ」

 開口一番に、現在の職場の話をする。小林は、ガラスの向こうの地球に目を向けながら、口を開く。

「そうか、お前の弟がISを動かしたか」

 その声色は、何やら感慨にふけっているようなものだった。小林がこういう反応をする時は、大抵過去の思い出に浸っている時だ。ただ、私にとってそれはあまり面白くない。だから、少しの悪戯心を持って、言葉を紡ぐ。

「そうだったな、もうお前があいつに振られてからだいたい五世紀くらいになるのか」

 その言葉に、小林は私を睨む。そう、こいつは一夏に振られた。なのに、それ以降もことあるごとによりを戻そうとアプローチをかけ続けていたのだ。

「振られていない、自然解消だ」

 語気を荒くして、小林が反論する。私はただ単に事実を言っただけなので、彼女の反論を軽く流し、報告を続ける。

「深海棲艦については、姫級と鬼級で新種が発見されたのと、新たに水鬼級が出てきたくらいか。艦娘については、駆逐艦娘の第二次改装にしばらくは重点を置くという大本営発表がなされたな」

 その報告に、小林は反論をやめ、何かを思案するかのように考え込む。しかし、それも十秒に満たない時間であり、すぐに私に問いかける。

「今回新しく発見された深海棲艦と、前回報告から第二次改装が行われた艦娘のデータはあるか?」

「抜かりはない。ここに来る前に機密情報として科戸瀬博士に渡しておいた」

 情報というものは、戦場において一番の武器となる。ましてや、今でこそひと時の平和を味わっているこのシドニアは、ある存在との戦いによって常に戦場となる可能性を秘めている。敵の情報を、一刻も早く、かつ正確に把握することこそ、生存のために最も必要なことであるというのが、私と小林の共通の認識だった。

「すまないな。できればサンプルが欲しいところだが」

「無茶を言うな。ただでさえ偽装に偽装を重ねているんだ、派手な動きをすればそれこそ大混乱が起こる」

 その武力ゆえ、そしてその技術ゆえに、シドニアは秘匿されなければならない存在なのだ。地球が目の前にあるのに、そこに降り立つことができたのは、()()()()()だけ。歯がゆくても、何もすることはできないのだ。

「今は我慢の時だ。いずれ好機は来る」

「――そうだな」

 そう言って、小林はまた地球へと顔を向ける。私も彼女と同じように、母なる星を視界に収める。私たちシドニアの人間が焦がれ続けた、命ある場所。かつて()()()()()()()()にて、敵に破壊され、なくなってしまった、われらが母。

 果てしない旅路の果てにたどり着いたのは、別の宇宙とはいえ、同じ母の元だった。それが皮肉か、それとも運命なのかは、私たちにはわからなかった。

 

「――私からは、以上だ」

 そう言って、私は報告を終えた。あの後の内容はそんなになかったので、あまり時間はかからなかった。ノイズも異族も現れていないし、あの自称私の友人は未だにどこにいるのかわからない。一夏の周囲には相変わらず女が多いし、その他の勢力の情報も集まり切ってはいない。そうした情報のついでにマイスターオトメの一人と仲良くなったことは伝えておいた。通り名は確か『氷雪の銀水晶』だったか。まあ、そんなことはどうでもいいか。

「次は、私だな」

 そう言って、小林は語り出した。

「まず、いい知らせといえるものは、未だに奇居子(ガウナ)が現れていないということだ」

 小林の言葉に、私は少し思案する。

 奇居子。それは、私たちの敵。今まで多くの仲間を殺してきた、憎むべき地球外生命体。小林も、私も、奇居子に奪われてきたものは多い。だが、そういった考えよりも、気になる点があった。それは、彼女が奇居子の話題を出してきたという点だ。

「奇居子が現れるのは、我々の元の世界の暦と比べてもまだ何百年も猶予があるはずだが」

「バタフライ効果というやつだ。我々の存在が出現を早める要因になる可能性も否定できない以上、いつ現れても対処できるようにしておくべきだ」

 小林の言うことは、最もだ。私たちという存在は、この世界にとってイレギュラーなものであるのだ。だからこそ、早急に事前の準備をしておくことに異論を唱えるつもりはない。だが、私が指摘したいのは、そういったところではない。

「そのためだったら、なんでもすると?」

「何か異論でもあるか?」

 小林の、何とも言えぬ凝り固まった性格だ。

「それでお前は痛い目をあっただろう」

 落合の時しかり、斉藤の時しかり、そして何より――

「お前が一夏と別れることになった時だって、お前の強引さがそもそもの発端だろうが」

「だから、自然解消だ」

 そう言った後、小林は一つ咳払いをする。どうやら、この話題は終わりらしい。残念だ。

「とにかく、いつ奇居子が来てもいいように準備はしておくし、もし来たらいつもの方法でお前に連絡をする」

 小林の言葉に、わかったと答える。なんだかんだ言いながら、彼女は彼女なりにシドニアの行く末を案じている。だからこそ、こうした性格になってしまったのだろう。そう考えながら、私は話の続きを促す。

 

「それで、いい知らせがあるのなら、悪い知らせもあるのだろう?」

「――まあ、悪いといえば悪いし、どうでもいいといえばどうでもいいものであるがな」

 そう言って、小林は深いため息をついた。ああ、この反応は何度も見たことがあるぞ。というか、こいつがこういう反応をする時は、大抵あいつ絡みの時だ。

「大方、一夏のこちら側でのクローン体が見つからないとか、そんなことだろう」

「あいつがあちら側に行く前に、誰にもわからないところに隠すのが悪い。普通は私とかに管理を任せていくだろう」

 いや、お前がまだ諦めていないから、一夏は自分のクローンを隠したんだろうとは、本人の名誉のために言うことはやめておいた。それにそもそも――

「あいつ、クローンと一緒にこちらでの記憶もほとんど封印したからな。たぶんお前のことなんて覚えてないぞ」

 本人曰く、記憶とクローンを封印したことしか覚えていないらしい。その言葉に、小林は勢いよくこちらを向く。目を見開き、まるで私が何を言っているのかわからないというような表情を浮かべている。正直言って、怖い。

「お、織斑、嘘はいけないぞ。()()一夏がそんなことするわけないじゃないか」

 そして、明らかに動揺している。おう、そんなにショックか。いい加減諦めてしまえ。と言えればどんなに楽か。こんな奴でも、私の友人なのだ。下手に刺激して変な行動させてしまえば、他の友人に迷惑がかかってしまう。

「残念ながら、事実だ」

 しかし、真実は伝える。そうでもしなきゃこいつは止まらない。

「そんな、馬鹿な……」

 そう言って、膝をつく私の友人に、同情などしない。というか、できない。

「いや、あいつ余計な情報を地球に持っていきたくないってお前とかヒ山の前で言ってただろ」

 聞いてなかったとは言わせない。あの場には科戸瀬博士もいたし、何より自分もいた。とぼけるなんて許さない。だが、小林は私の方をキッと睨みながら、口を開く。もちろん、膝は未だについたままだ。

「あいつにとって、激しく愛し合ったはずの私は、余計なものだったとでもいうのか」

「いい加減にしろよ、この恋愛脳」

 そう言って、小林の頭に拳骨を食らわせた私は悪くない。

 それからは、もう定期報告などできる空気ではなかったので、気絶した小林を側近の男に任せて、私はさっさと帰ることにした。

 

 ――あちらに帰ったら、胃薬飲もう。そうしよう。

 

 

 

 

 




ちなみに千冬さんはさらりとすごい人と仲良くなっています。
あと、一夏のモテ具合は何百年前から変わらないというお話。

千冬のハイスペックはシドニア人なら違和感ないね。
あと、自分で書いといてなんだけど、小林艦長自重してください。

最後になりましたが、ここまで読んでくださり、どうもありがとうございます。
よろしければ、感想をお待ちしています。
それでは、他の作品ともども、どうぞよろしくお願いします。
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