俺はテイルブルー《津辺 愛香》が大好きだ――っ‼ 作:帆金 焔
もし、私が華火のことをちゃんと見ていたら…。あの日はきっと、私の人生の中で分岐点の一つになっていただろう…。
〇〇〇
「津ー辺さんっ!お客さんだよ」
夏休みを翌週に控えた中等部二年の夏。
当時、私とそーじの二人は華火とは別クラスだった。
三時限目の数学が終わり、次は移動教室。
準備をしていた私にクラスメートから声がかかる。
お客?誰だろうと目を向けると華火だった。
「華火?どうしたのよ」
「あ~………その………えっとだな………」
何故か歯切れの悪い華火と、これまた何故か私の背後でニヤけているクラスメート達。
「……飯食った後で良いからさ、屋上来てくんねぇか?その………愛香に話があんだわ……」
「話?長くないなら今聞くけど?」
その時の私は何も気づいていなかった。……本当に何も。
だから軽めにしか捉えず、軽めの反応しか返さなかった。
「いや…………あんまり、他人に聞かれたくないんだ…。……駄目か?」
「──?まぁ、別に構わないけど」
「そ、そうか……!じゃ、じゃあ、また後で……!」
走り去る華火。
私は自分の席に戻ろうとしたところ、一部始終をニヤついて見ていた皆に阻まれた。
「えっ?な、何よ…?」
「いやぁ~~、ぶぅえっつにぃ~~?♪まさか、心守くんが先に動くとはにゃあ~…♪」
皆が何の話をしているのか、何を言いたいのかさっぱりだった。
顔を寄せ、小声で話しかけられる。
(彼のあの態度、丸分かりっしょ…?……告白よ、こ・く・は・く…♪)
本気で頭に?マークが浮かんだ。
(華火が私に告白…?…………ぷっ!あはははっ!無い無い。華火に限って、そんなのあるわけないって)
私の反応を見て、クラスメート達は口々に呟く。
「うわ~……こいつ、マジか…」「やっぱ心守くん、無理ゲーって分かってるんだろうねぇ……」「ご愁傷さまだよぉ……」
その後、午前の授業も終わり、お昼も済ませた私は屋上へ向かった。
「華火、来てやったわ──って……華火、まだじゃん」
しばらく待って、華火が姿を現す。
「あ、愛香……!」
「──あっ、華火?遅いわよ」
「わ、悪いな、待たせて」
「で?話って?」
「あ~………えっと…………」
華火の様子を見て、私は数分前に言われた言葉を思い出す。
確かに状況としてはそう見えなくもない。だが相手は華火だ、きっと何か裏があるに違いない。
(………っ!成程、そういうこと……)
そして私の思考は、『普段通り』と
言えば普段通りなんだけど、『間違ってる』と言えば間違ってる答えを導き出してしまった。
(華火も
もしも過去にタイムスリップ出来るなら、当時の私に一言、『馬鹿っ!』と言ってやりたい…。
「……愛香、大事な話があるんだ」
「ん?」
きっと、華火は物凄く勇気を振り絞ったんじゃないだろうか…。
「愛香、初めて会ったときからずっと好きだった!俺と付き合ってくれ!」
他の人がどうなのかは分からないけど、少なくとも華火は『気持ち』というものを軽んじたりするような人間じゃないのは知っていたはずなのに……。
「えっ?無理」
私はアッサリと、そしてバッサリと切り捨ててしまった…。
「……えっ……?む……無理……?」
「うん、無理」
「ほ、本当に………無理……?」
「うん、無理」
「そ…………そっか…………」
俯く華火。
「…………じょ…………………冗談だよ冗談!」
今にして思えば分かる。あの時の華火は空元気で笑っていたのだと…。
「はははっ!い、いやぁ~~、お前を驚かそうと思ってさ!」
「でしょうね」
「しかし、失敗に終わっちまったか…………チッ…!もうちょいインパクトのある奴を考えりゃ良かったぜ…!」
「で?話ってそれだけ?」
「お、おう。…じゃあ俺、戻るわ…!」
屋上から姿を消す華火に、私は追いもしない。
そんな私の前に、今度は別の人物が姿を現した。
「愛香さんっ‼」
当時はまだ初等部の穂積ちゃんだ。穂積ちゃんは若干怒った顔をして前髪を頭の上で結びながら近づいてくる。
(ん?何で『無名ちゃんモード』?)
無名ちゃんモード。
穂積ちゃんは『穂積』という本名の他に、『無名』という名前を使い分けているちょっと変わった子だ。
穂積ちゃん曰く、何度か不思議な夢を見たことがあるらしい。その夢の中で自分は『無名』と呼ばれ、ゾンビ的な化け物と戦う戦士なんだとのこと。その夢には義兄の生駒君や大学部の菖蒲先輩なども出てきたとか。
無名ちゃんモードというのは穂積ちゃんが本気になった、所謂一つの戦闘態勢に入った時の名称だ。
で。夢のせいなのか分からないけど、無名ちゃんはやたら……強い。
「ちょ、ちょっと?!」
ドッ!加速からの上段跳び蹴り。小学生とは思えない重い一撃だ。
「ほ、ほづ──む、無名ちゃん?!何、どうしたの、いきなり!?」
トリッキーな動きも混ぜて無名ちゃんの猛攻は止まらない。止めてくれたのは──
「お、おい、無名…!落ち着けって!」
義兄の生駒君だった。
「………愛香さん。さっきのアレ、あんまりじゃないの…?」
生駒君に腕を捕まれたままの無名ちゃんは私を睨みながら言う。
無名ちゃんが何で怒っているのか分からない私に、生駒君が続く。
「…悪い、津辺。俺と無名、一部始終を見てたんだ。……だから言わせてもらうけど、確かにもうちょっと真剣に考えてやっても良かったんじゃないのか…?」
「えっ?いや、アレ、華火の冗談だし。真剣に考えるもんでもないでしょ?」
目を見開く二人。
「えっ?あ、愛香さん……それ……本気で言ってる……?」
「えっ、えっ?だって、本人も冗談だって言ってたじゃない…」
腕を下ろし、深い溜め息を吐く無名ちゃん。
「うわっ……どうしよ、兄貴…。この人、思ったより馬鹿だ……」
「………行こうぜ、無名。…今の津辺には何言ったって無駄みたいだ…」
「だね……」
華火の気持ちに気づいていなかった私は当然ながら、二人が私の何に対して怒っているのか分からなかった。
前髪を解き、穂積ちゃんは最後に
「──べ~~~っ!いつか後悔するのは愛香さんなんだからね!?その時に気づいたって遅いですよぉ~~っだ‼」
勢いよく扉を閉めて屋上から去る穂積ちゃん。
うん…。穂積ちゃん、今になって私、穂積ちゃん達がどうして私に怒ってたのか分かったよ…。本当、後悔するのは私だったね…。
〇〇〇
「…………正に、自業自得ってやつよね…」
華火をフッた日の記憶を夢に見るなんて……何か良くないことが起きる前触れじゃなきゃいいけど…。
閉めきっていたカーテンを開け、時計を見る。時刻は8時を示していた。
「……………よしっ」
手早く着替えを済ませて部屋を出る。
既に起きていたお姉ちゃんが用意してくれていた朝ごはん、スクランブルエッグ・目玉焼き・マッシュポテトのサラダ・オニオンスープ・トーストを食べ、お姉ちゃんに「行ってきます」と一声かけて玄関へ。
急ぐ様子の私に、お姉ちゃんが今日の予定を訊ねてくる。
靴を履き、玄関の扉を開けながら、
「華火のデートを尾行してくるっ!」
我ながら何という理由で出掛けるのだろうと思いながら私は家を出た。
〇〇〇
家を出て数分後、私はある重大なミスに気づき、打ち拉がれていた。
「し…しまった……。華火が何処で戸塚さんと待ち合わせするか知らないじゃん、私……orz」
いきなり暗礁に乗り上げてしまった華火の尾行。
しかし、そんな私に神様は味方してくれたようだ。
「津辺…?こんな所で何しているんだ?」
首にタオルを掛け、赤いジャージに赤いラインが入ったシューズ姿の──
「──っ!?し………シノえも~ん!私を助けてぇ!」
「おい。シノえもんって何だ、シノえもんって」
篠ノ之さんが居た。
篠ノ之さんから有力な情報を得ることが出来た。
朝から走り込みをしていた篠ノ之さんは途中、華火の姿を目撃したらしいのだ。
「ど、何処に居たの…!?」
「二束駅に向かっていくのを反対側の歩道から見かけたが……そうか……。そう言えば今日だったか……」
二束駅ねっ!?そうと分かれば──!
「……なぁ、津辺。私も一緒に行って良いか?」
「えっ?」
「いや……心守の真意が気になってな…」
〇〇〇
「居た……!」
二束駅に着いて直ぐ、私達は視界に華火の姿を捉えた。
ここで気づかれては尾行の意味がない。物陰に隠れて華火の様子を窺う。
因みに。華火に気づかれないよう、私は髪型をツインテールからお団子状態にしてサングラス。
篠ノ之さんは一旦家に戻り私服に着替え、髪型はポニーテールから三つ編みお下げとサングラス。
しばらく待って時間は10時、戸塚さんが姿を現す。
(うぅ~………!)
は、華火……。本当に……戸塚さんとデートするんだ…。
(なっ……!?)
当然ながら私達と華火達の距離は空いていて、二人の声は聞こえず何を話しているのか分からない。
が、次の瞬間。
戸塚さんは自分の腕を華火の腕に絡めという行動に出た。そして、華火は戸塚さんの突然の行動が恥ずかしかったのか、何かを言って戸塚さんの腕を自分の腕から解いた。
(………………)
マズいな……。何だか、もうイライラしてるよ私…。
「津辺。心守達が動くぞ……!」
………だ、大丈夫よね!?うん、大丈夫!華火はわ、私の事がす、好きだって言ってくれたんだし……///……で、でも、もし…。戸塚さんの方が華火に本気になっちゃったりしたら……。
「……お~い、聞こえてるか~…?」
戸塚さんが本気になっちゃって…そ、それで華火もその内、満更でもなくなっちゃってきて……。
「…はぁ~、仕方無い……」
華火が『俺、戸塚と付き合うことになったわ』とか言い出しちゃったり……。そうなると……あれ?つまり、私ってフラれたことになる?……いやいや!まだ、明確に自分の気持ちが分かったわけじゃないし……。それなのにフラれるとか……とか………うぅ~~!
「お~い、津辺~。戻って~……こいっ!」
ポコッ
「あうっ…!………ハッ!し、篠ノ之さん…?」
「ほら。二人を見失う前に行くぞ」
「う、うん」
〇〇〇
箒side
津辺の意識を戻し、私達は二人の尾行を開始した。
(それにしても……)
先程、心守は気になることを言っていたな。
事情があり、私は読唇術というものを習得している。故に離れていようがある程度、心守達の会話は読み取れるのだが……戸塚に腕を組まれた際に、心守が気になることを言っていた。
『そんなんが目的じゃないだろ』
それに対し、戸塚も分かっている風に答えていたな…。………ふむ。そもそも、心守が津辺を好きなのは間違いない、なのに他の女子とデート…。いや………心守の言葉から察するに、あの二人には別の目的があるんじゃないだろうか…?
(……何にしても)
心守。お前の真意、確かめさせてもらうぞ。