永遠の空~失色の君~   作:tubaki7

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プロローグ

―――――どうか、みんなが僕を忘れますように・・・・・。

 

 

失うこと、傷つけることを恐れた僕はそう願った。大切な人、大切な場所。大切な思い出の全てから僕のことを綺麗に消し去るよう世界に願う。

 

全ては泡沫の夢のように。

 

―――――おやすみ・・・・。

 

意識が闇にとけていく。ゆっくりと重たくなる瞼のムコウに見えたのは、心を寄せた赤毛の少女。必ず帰るという約束を破ってしまった僕を彼女は責めるだろうか。

 

・・・・どうか、泣かないで。笑顔でいてほしい。

 

身勝手なことかもしれない。卑怯だと思うだろう。だけど、僕はこの世界にいてはいけない。僕がいればいずれ彼女も傷つけてしまう。そうならない為にはこうすることが最善の選択なんだ。

 

・・・・都合のいい言い訳だな。

 

自嘲的な笑みを浮かべながらも頬を伝う滴に気が付いてここに来る前に緑毛の彼女に言った言葉を思い返す。

 

―――――未練はあるよ。だからこそ、未練はない

 

未練・・・・ありまくりじゃないか。

 

 光が天高く昇り、世界に広がる。全ては夢。この時、世界から“僕”という存在が消えた・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった・・・・―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよー!」耳元で急に聞こえた声に飛び起きる。その時素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 

「おお!起きたね起きたね。おはよーだよ不思議君」

 

 

声をかけてきた主は女性。一人不思議の国のアリスのような服装に兎の耳がついたカチューシャがこの空間との場違い具合がよくわかる。その女性は満面の“つくり笑い”で僕をまじまじと見つめている。

 

 

「・・・・えっと」

 

 

今がどういう状況か。いったいここはどこか。状況把握に頭が動き出すがいっこうに答えが出てこない。

 

・・・・わからない。全てが。

 

 

「不思議君。きみはこのちょーぷりちー天才科学者の束さんの興味を惹いたのだよ!おめでとー!」

 

 

両手を握られてぶんぶんと上下に振られる。テンション高すぎやしないか?

 

 

「えっと、今どんな状況か説明してもらえると嬉しいんですが」

 

 

敵意のようなものは感じられない。やたらと上手い作り笑いを除けばふつうの女性(?)だと判断しての言葉だ。

 

 

「束さんは條ノ之束っていうよ。ちょー偉い天才なのだ!ブイッ」

 

 

まったく説明になってないんだが。

 

 

「ん~・・・・じゃあ、これはわかるかな?」

 

 

なにもない空間にモニタが現れる。少し驚きながらもそれに映し出されているモノを見て何かの設計図だということに気が付いた。

 

 

「これは・・・・随分と高性能な機械だな。宇宙空間での活動でも想定されているのか?でもこれだと兵器と言った方が適当か・・・・」

 

 

「おお!」感想を述べていると最初のあいさつと同じボリュームで声が発せられた。耳が甲高い音にあふれる。

 

 

「不思議君にはこれがわかるようだね。さっすが束さん!記憶もばっちりだ」

 

 

うんうんと一人納得したようにうなずく束さん。なんともフリーダムな人だ。この人の友達はさぞや大変だろう。

 

 

「・・・・ちょっと待て。どういうことだ?」

 

 

“記憶もばっちりだ”。その言葉に言い知れぬ違和感を覚えた僕は目の前の作り笑いを浮かべる女性に問う。

 

 

「きみの記憶にね、この世界のことを転写したんだよ。きみを見つけたのはこのラボを作っているときだよ。棺桶みたいなものがでてきたから何かと思って調べてみたらきみが眠ってたのさ。もっと詳しく調べてみたらどの国のデータにも存在しないから束さんがいろいろいじくってみたのだよ」

 

 

語調は変わらないのに声のトーンだけで雰囲気がガラリと変わった。

 

 

「それにしてもきみホントにすごいよ。身体能力からなにからなにまで規格外でびっくりだらけだよ!きみをここまで仕立て上げた科学者はそうとうな腕前か、本物の“クズ”だね」

 

 

最後はまるで人が変わったように哀しい声のトーンだった。「それより!」乾いた手の平を打つ音が薄暗い部屋の中に響渡る。

 

 

「きみのことはこれくらいにして、実は試してほしいものがあるんだよ!」

 

 

強引に手を引かれて重い扉をくぐる。そこにはあのモニターにあった機械がわずかに差し込むライトの光を反射して静かに鎮座にていた。

 

 

「これは?」

 

「インフィニットストラトス。通称IS。きみの記憶の中にあったものの中にあったモノと似せてつくった束さんお手製の特性品だよ!」

 

 

誇らしげに胸を張る束さん。先ほどからの印象からだがまるで子供だな。

 

 

「で。これを見せてどうしたいんです?」

 

「ふふん、よくぞ聞いてくれました!これをきみにプレゼントだよ。でもその代りに機体を使ってみてのデータを送ってほしいのだ」

 

 

ようはテストパイロットをやれと。

 

 

「・・・・だがISは女性にしか動かせないんだろう?僕がやるよりはあなたがやった方が適任ではないのか?」

 

 

「さっそくこの世界の知識に適合してきたね」とこれまたご満悦そうにうんうんと頷く。

 

 

「そうしたいのは山々なんだけどこれ、普通の人じゃ動かすの困難になっちゃったんだよね。めちゃくちゃピーキーな機体になっちゃったからきみにしか動かせないんだ」

 

「男の僕にできるのか?」

 

「できると思うよ。いろいろと規格外だからねきみは」

 

 

IS。この世界における現行する兵器において頂点に位置するそれに僕はそっと触れる。

 

瞬間、膨大な情報が流れ込んできた。これがなんなのかわかる。どう使うのか、どうすればいいのか。

 

 

「それじゃ、あいさつも済んだところでさっそく調整といこう!」

 

 

機体に上り。中央にあるスペースに身体を入れて言われた通りに背中を預けるようにすると、展開されていた装甲が腕、脚と身体全体を包む。

 

 

情報

:フォーマット及びフィッティング調整中

:ハイパーセンサー正常

:機体状況良好

:武装各種異常なし

:パイロット登録認証。name蒼月ライ(そうつきらい)

 

 

ライ――――それが僕の名前らしい。これも彼女が僕のデータから検出したものなのだろうか。だったら失われた記憶を教えてほしいところだが、それはやめてくれと雰囲気から出ていた。

 

わからないのか、それとも隠しているのか。どちらにしても僕は知りたい。

 

:思考パターン検出。該当データなし。マイスター束に問題を掲示

 

 

「おりょ?記憶を知りたいのかね」

 

「自分のことを知らないというのは気持ち悪いから」

 

「教えてあげたいけど発見された当時から今まで記憶の修復は不可能なんだよ。そこまで弄ると逆にきみという存在そのものを壊しかねないからね」

 

 

天才といえど、できないこともあるようだ。

 

 

:初期設定及び最適化終了。全システムオールグリーン

:機体ネーム、ランスロットクラブ。愛称(マスコットネーム)クラブ

 

クラブ―――――。約束の意味を関するその名に気高き騎士の名。なんともだいそれた名前だ。

 

 

「気に入ってもらえたようだね」

 

 

無意識のうちに笑っていたのか。僕の表情を読み取った束さんが言った。「ええ、とても」と返すと機体の色が灰鉄色から青と白えと変わる。全身を装甲が包むのが最終チェックの終了間近を知らせた。

 

 

:全身装甲(フルスキン)問題なし。

:武装詳細

可変式型ライフル“ヴァリス”

超高振動剣(メーザーバイブレーションソード)“MVS”

スラッシュハーケン

ランドスピナー

特殊飛行翼フロートユニット正常稼働

 

:各部問題なし。IS学園への航空ルート検索、光化学迷彩一定限界時間およそ一時間。ジャミング効果最大。目的地到着ごシステムを破棄

 

 

国境を超えるのだ。これくらいはないとおそらく戦闘になるし学園側にも不審に思われる

 

:ルート検索終了。最重要任務をIS学園到着、及び織斑千冬氏とのコンタクトと設定。ナビゲーションシステムオープン

 

 

フェイスパーツ緑色に輝く瞳が宿り、視界がクリアに染まる。

 

 心臓の鼓動が速くなる。アドレナリンが放出され全身に心地よい高揚感が満たされて自然とまた笑みがこぼれた。

 

 

「じゃ、ちーちゃんにはもう連絡してあるから。あとのことはきみしだいだよラー君」

 

「ラー君?」

 

「あだ名だよ」

 

 

そういう彼女の表情はつくり笑いの中にもほんのすこしだけ、本当の笑顔が見えたような気がした。

 

 

「・・・・ありがとう」

 

 

その言葉は僕を拾ってくれとへの感謝と、なぜか心の中にある悲しみからくる皮肉のものだった。

 

 フロートユニットが展開され機体がふわりと浮き上がる。次の瞬間、僕は青い空へと身体を躍らせた。

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