永遠の空~失色の君~   作:tubaki7

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episode35 失くしたモノ†失くしたくないモノ

 

しまったと、篠ノ之束は左手の親指を噛みながら空間投影されているホロウィンドウに記されているデータを見つめる。それは自身でも渾身の出来と謳った“存在しないはずの機体”ランスロットクラブの人口AIデータ、そこから定期的に送られてきていたライの詳細データである。だが第二形態移行した今、彼女の手を離れ完全に遺脱した物となってしまっている。

 

 

「む~、あの魔女、友好的かと思ったらトンデモナイ奴だったよ。まさかこの束さんを出し抜くなんて・・・・」

 

 

玩具を取られた子供のようにグギギと悔しそうに今度はハンカチを噛みしめ吠える。「あ」と急に何か思いついたようでコンソールを叩く。キーの上を滑る指は軽やかで速い。まるでピアノの連弾を見ているような印象を受ける。そうしている内に、束は指をピタリと止めて口角をニヤリとあげる。

 

笑った。これまでにないくらいに。ああ、これが敗者になりかけた者が絶対の勝機を手にした時の気持ちか。

 

実に心地いい。こんな気分もたまには悪くない。こんな気持ちを味あわせてくれたあの魔女に感謝したくなったと、束はケタケタと笑う。

 

 

“能力消滅”(エフェクトキャンセラー)。それは篠ノ之束にとって、唯一の彼との繋がりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青い空、白い雲。いつも見る光景も場所が違えば雰囲気も変わる。今いるのはIS学園ではなくイギリスのオルコット邸内に設けられた客人用のVIPルーム。カーペットから鏡の備付の机まで何から何まで高級品のオンパレード。広さも何もかも学園の寮とは比較にならないくらいに豪華な部屋でライはただボーっと座っている。ベッドは程よく柔らかく、ライの座っている箇所が窪み中のバネが静かに音を立てて軋み、わずかに押し上げる。それを手触りを確かめるようにしてライは止めていた思考をまた巡らせる。

 

 情報は膨大だ。内容も濃密。正直かなりの進歩で驚きを隠せない。血筋は名家同士のハーフでセシリアと同じイギリスの血が混じっている。それが何故か嬉しくて頬を緩めるがそれを首を振って宥めた。

 

 

[何をニヤついてるんだむっつりスケベ。だらしない]

 

「変な言いがかりはよしてほしいな」

 

[おまえの血がどうなろうと私の知ったことではないがそのような腑抜け面は見たくない。もう少しシャキッとしろシャキッと]

 

 

一理ある。そう思って深く深呼吸をしてふわふわした気持ちに鎖を繋いでしっかりと固定する。収穫はあった。記憶の手がかりもあった。なら、これでよし。これ以上セシリアに迷惑はかけられないから後のことは自分でやろうと心に誓う。

 

 

[…ん?なんだこれは]

 

「どうした?」

 

 

C.C.が急に湧いて出たウィンドウを拡大展開する。そこには単一能力解放許可、ブラックボックス解放とある。つまり、クラブの単一能力(ワンオフアビリティ)のことだ。

 

 

[能力消滅?概要は・・・・閲覧ロックだと?]

 

 

怪しい。自分に操作できないプログラムなどあるはずがないと怪訝に思うが、

 

 

「きみでも完全に把握できないことがあるんだな」

 

 

ライの一言でウィンドウを閉じて応じる。

 

 

[何を言う。おまえのことは隅から隅まで知っているぞ?たとえばおまえこの間あの暴力刀女のは―――――]

 

「ストップストップ!あれは事故だ!それにアレは一夏ドアを開けなければあんな事態には――――」

 

《ライさん、よろしいですか?》

 

 

ノックと共にセシリアの声が聞こえた為C.C.との会話を切り承諾の声を投げる。先ほどと同じ憎たらしく舌を出して消えたのを悔しく思いながらライは入ってきたセシリアに振り返る。

 

 

「公務はもういいのか?」

 

「はい。書類整理だけでしたので。持つべきものは、優秀な副官と部下ですわ。さ、ライさん出かけましょう」

 

 

そういえば、と飛行機内でかわした二人ででかけようという約束を思い出して首を振る。午後からは彼女の案内でイギリス国内―――――と言っても、行ける範囲内ではあるが観光することに。

 

車を走らせること、2時間余り。着いた先は料理店の立ち並ぶ、日本で言うところの観光街のような場所だ。広場の中央には巨大な噴水があり、休日ということもありかなり人でにぎわっている。

 

 

「まずは食事から。私の行きつけのお店がありますのでそちらへ参りましょう」

 

「うん。…人が多いな。逸れると大変そうだ」

 

 

迷わないよう、手を繋ごう――――とした瞬間。セシリアが顔を紅くして手を引っ込めてしまった。「すまない」と謝ると「いえ、その、あの・・・・」ともじもじしながら此方をちらちらと見てくる。やはり人目がある場所で異性と手を繋ぐ、しかも意中の相手ではないということを考えるといくら迷子にならない為とはいえ気がのらないかと苦笑する。

 

 

 すこし、舞い上がっていたか。ライは先ほどの自分を哂いセシリアに場所の案内を頼むと歩き出す。

 

 

 

が、そこで事は起きてしまった。

 

 

 

突如爆発する地面。飛び散る瓦礫と人、そして爆風。人でごった返すこの日を狙ったテロかとも考えたが、煙の向こうに浮かびあがったシルエットにそれはないと判断し思考を一気に切り替える。

 

強靭な腕と黒い全身。自分と同じ全身装甲を纏った、忘れもしないあの機体。

 

 

[識別確認。応答と生命体反応なし。無人機、ゴーレムだ]

 

 

C.C.が機体データと避難勧告を同時に操作して避難誘導を開始する。こんな街中で、しかもパニックになっている状況での戦闘は危険すぎる。狙いがなんなのかはっきりしない以上手出しをするのは危険かと思われたが、相手の赤く光る無数の目が自分を向いているのに気づく。

 

 

「狙いは僕か!?」

 

「そんなまさか…!」

 

 

彼がここにいることは自分と一組担任の二人、そしてチェルシー含めた数人の信頼できる人間しかいないはず。なのに居場所が割れ、ピンポイントでこの国の、ここを突き止めてきたということはそれはすなわち内部の犯行という可能性がかなり高い。身内を疑いたくないがこうまではっきりと表れてしまっては認めざるをえないとセシリアは唇をかみしめる。

 

だが、今はそんなことに思考を裂いている時間はない。セシリアはビットのみを部分展開しゴーレムをけん制する。

 

 

「ライさん、今のうちに!」

 

 

逃げるよう促し、自分も走る。こういう時自分の服装と趣味が心底悔やむもそれも今は後回し。とりあえず追ってくるならせめて戦闘できる場所まで誘い出さないといけない。路地を曲がり、裏手を抜け、やがて何もない場所に出る。建物の密集したその場所ではすでに人の気配はなくハイパーセンサの情報を見れば避難完了の文字が。流石はイギリスの警察は優秀だと誇らしく思い足を止めて機体を展開し空へと上がる。隣で並ぶクラブをちらりと見て互いに頷く。二人の間を太い閃光が瞬き、巨体が駆け抜けた。しばらく上昇、やがて急降下する先にはやはりクラブの姿が。やらせまいと回り込みライフルを連射モードで撃ち、クラブが剣を手に接近する。セシリアの援護にライの近接。相性は抜群だった。

 

 そう、僚機との相性、は。しかしながら敵は見たこともないような動きでそれらを躱し再び攻めてくる。舌打ちをして回避の為上昇とロックさせないための錐もみをする。後方をセンサで見るライは違和感を覚えた。

 

この変則的な動き、相手の後ろにぴったりと張り付いて常にピンポイントで撃ってくるこのパターンは・・・・

 

 

[こちらの動きが読まれている!?]

 

『いや違う。あれは・・・・僕だ』

 

[まさかコピーしたとでもいうのか。おまえの動きをこうも完ぺきに]

 

『見る限りでは、ね。でも、それもただのコピーじゃなさそうだ』

 

 

すぐさま相手の分析結果をはじき出す。機体に埋め込まれているのは疑似能力(フェイクエフェクト)、つまりは機体の単一能力によってこちらの動きが完全に再現され、一定期間のみでできるものらしい。

 

だが妙だ。これだけ手の込んだものを何故こうも容易く“データ収集させたんだ?”

 

ほのかな疑問。それがどんどん大きくなっていき――――

 

 

『ちょうどいい、アビリティを使う。サポート頼む』

 

[あ、ああ]

 

 

おかしい。何かが違う。何かが自分の知らないところで蠢いている。操作しながら、彼女は思考を巡らせ――――至った。気づいた時には、既に遅かったが。

 

 

出された承認は取り消すことができない。焦ってみても変わらないと思いつつ彼女は叫ぶ。

 

 

[やめろライ!これはあの女のトラップだ!これを使ったらおまえは――――]

 

 

ライが右腕を突出し相手を輻射波動機構の展開により条件を満たした能力発動により相手の能力を文字通り消滅させる。蹴り飛ばし、離れたところへセシリアのライフルが火を噴き射抜く。爆発したのを見ながら、ライはハッとなっる。

 

 なにかが、抜け落ちた感覚。ひび割れ、音を立てて崩れていく。さながら、ガラスのごとく。脆く、儚く、キラキラとした光とともに闇に割れ落ちていった。

 

それはいったいなんだろうか。ダメだ、思い出せない。どれだけ思考しても、どれだけ記憶の引き出しを探しても見つからない。

 

多分、大切な何か。それがなんなのか、思い出せない。やがて、声が聞こえた。

 

 

「さすがライさんですわ。ですがとても大きな爆発でしたが…大丈夫ですか?」

 

『ん・・・・ああ、すまない。“きみは――――誰だい?”』

 

「――――・………え?」

 

 

思い出せない。彼女が、誰なのか。

 

ただ・・・・・大切な存在だったのか・・・・・ああ、ダメだ。それさえも、思い出せない。

 

 誰かの高笑いが、聞こえた気がした。





大切なものとはなにか


大切なものとはどういうものか



だが人は己のことになると無知だ



だから、知りたいと思う。でも、それが得られるものばかりだとは限らない



それでも、求め続けるのは罪なのか



次回、episode36 喪失

それは、終幕への序曲(プロローグ)
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