永遠の空~失色の君~   作:tubaki7

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episode39 明日もし君が壊れても

空は快晴、視界は言わずもがな。風は穏やか、空気は少しジメジメしているが夏特有のものだと思えば何ら不自由はない。冷たく乾いたコンクリートに伏せ、日蔭を作っている屋根から少し銃身が伸びて見えるライフルを構えるのはセシリア・オルコット。学園内で射撃の腕前においてはトップに立つ彼女の日課はこの射撃場にて始まる。

 

ホログラフィックでできた的が躍る。視界にとらえるよりも早く、スナイパーとしての勘と経験が指に引き金を引けと命令を出し、銃弾が放たれる。軌道はまっすぐ、その中心をとらえて小気味いい音を立ててその役割を果たす。得点は・・・・満足のいく満点。完璧であろうとするが故の彼女の努力は今日も惜しみなく行われているのだが、今日はいつもとは違っていた。

 

満足感がない。代わりにわいてくるのは渇望。もっと強く、より高みへと目指す心は彼女に焦りとやる気をふつふつと沸かせる。

 

 祖国での失態。その代償は愛しい人との想い出、その全て。一族の面子などどうでもいい、プライドなんていくらでも切り捨てる。ただ、またあの手に触れられるなら、またあの笑顔に会えるのなら、何をしようと何を失おうと怖くはない。これ以上、あんな姿を見たくない。セシリアは自分を映した綺麗な、だがそこに映したのは自分という存在ではなく。ただ虚無のような美しい青の瞳を思い出す。彼をこんなことにしてしまったのは自分の責任、あの時何があったのかは今となっては知る由もないがそれはどうでもいい。

 

 

「もう二度と、こんな思いをするのはごめんですわ・・・・!」

 

 

もう一発。今度もまた満点。でも足りない、まだ足りない。

 

 

「・・・・ッ!」

 

 

求め、縋り、そして手に入れる。もっと高みへ、より良いパイロットとしての自分。彼女が描く理想は、つい一週間前のものとはかけ離れたものとなり張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら」

 

 

更衣室へとシャワーを浴びにやってきたところへ金髪の少女と出くわす。着やせして見えるいつもの制服姿とは違い、その豊満なスタイルを胸元までの純白のタオルで身を包んだモニカ・クルシェフスキーだ。此方を見ると笑顔で会釈をするので同様に返す。

 

 

「奇遇ですね。セシリアさんもこの時間に?」

 

「今日は・・・・というか、ここ最近ですわね。普段はあまりしないんです。その、暑いですから」

 

 

苦笑いしながら隣のシャワールームに入る。壁に備え付けられた赤外線のシャワー設備に手をかざせば程よい温度のお湯が滴り落ちてくる。

 

 

「夏ですからね。日本の夏は特に暑いと聞きます。四季がはっきりしているのも要因の一つでしょうね」

 

 

他愛もない世間話で盛り上がる。そういえば、この子と話すのは一対一では初めてかもしれないと少し新鮮な気持ちで言葉を交わす。自然と、話題は彼女の主人であるシャルロットへと移っていた。小さい頃のこと、最近あった失敗談やちょっとした悩みなどその口が止まることはない。それほど彼女のことが好きなんだろう。その姿はまるで想い人のことを話す恋い焦がれる少女のよう。

 

 つい最近まで、自分もこうだったのかと思うとだいぶ変わったんだなと実感する。

 

 

「・・・・と、すみません。長々と私だけ・・・・」

 

「いいえ、大丈夫です。私もシャルロットさんの以外な一面を知れましたから」

 

 

小悪魔的な笑みは絶対に後で話のネタにする気だと確信するには十分なものだった。改めて、このセシリア・オルコットという少女は策士だと思う。

 

 

「ところで、セシリアさん」

 

「はい?」

 

「・・・・一週間前のあなたとライさんの関係についての変化ですが、なにかあったのですか?」

 

「・・・・」

 

 

黙り込むセシリア。その横顔には笑顔など微塵もないことにモニカの疑問は確信へと変わる。やはり何かあると踏んだモニカはそれ以降言葉を続けることはなくセシリアの返事を待つ。

 

 シャワーの滴る音だけが、更衣室に響く。

 

 

「・・・・モニカさんは」

 

「、?」

 

「大切な人を、手放してはいけませんよ?」

 

 

答えになっていない。欲しているのは二人の関係のことなのにこのごまかし方は逆に新しいと軽く感心してしまいポカンとなる。

 

ただ・・・・ただ、その笑顔が酷く悲しいものに見えたのは、間違いなかったはずだ。頬を伝う滴が涙かシャワーによるものかは知る由もないが、モニカはその笑顔に反発をおぼえる。

 

 

だからこそ、言う。

 

 

「私は手放す気は毛頭ありません。ただ、逃げたくないんです。目の前の現実から」

 

「お強いのですね、モニカさんは」

 

「いいえ、貴女に教わったものです」

 

「はい?」

 

「申し訳ありませんが、今日の貴女の射撃風景を拝見させていただきました。精密さ、俊敏さ、柔軟さ、どれをとっても文句なしのスナイパーです。しかし、私が感心したのはそこではありません。貴女が放つ強い意志、闘志にも似たものです。それを見て、私は気づかされました。・・・・なにがあっても、大切なものは自分の手で守り通す。例えすべてを引き換えにしても。そんな気迫が感じられたんです」

 

 

少し、照れくさい。ここまで面と向かって褒めてくれたのは彼女で二人目だ。

 

 

「ですから、そんなこと言わないでください。もう貴女とライさんの間に何があったのかは訊きません。ですが、これだけは言わせてください」

 

 

まっすぐに、緑色の瞳が此方を見てくる。それは射抜くように鋭く、鋭利だった。

 

 

「貴女のこと、きっとあの方は今でも大切に想っています。でなければ、あのような行動はしませんから」

 

 

柔らかく、いかにも女性らしい笑みを浮かべるモニカにセシリアは顔を赤らめて俯く。

 

 

「ど、どういう意味ですの?」

 

「それはご自分で確かめてはいかがですか?」

 

 

卑怯だ。そう言葉にせずセシリアは心の内で呟く。

 

 その直後だった。更衣室が揺れたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は気配のないものに対してはどうしようもなく反応が遅れる。それが一テンポ、そう違うだけで命取りになるとも知らずに穏やかな時間の中に身を浸すの何とも変えようのないもので。

 

 要するに、奇襲という手段はいつの時代、どこの場所でも有効だということ。それを嫌というほど思い知ることにモニカは唇を噛んだ。現在学園は夏休みであり生徒も教員も人数は普段の半数以下となっている。帰国せずに残っている者ももちろんいるがそれはこの際考えないでおくとして自らが招いた失態が大きな穴となって自分の目の前に現れるのを彼女は手早くISスーツに身を包んで機体を展開しながら思考する。

 

 

「このタイミングで襲撃、警戒していたはずなのに・・・・!」

 

 

抜けきっていたわけではない。警戒はしていたし、このことは伝えてある。しかしそれは自分が絶対的な信頼を置くごく一部の人間のみ。この場合、ライ、真耶、千冬の三人がそれに該当するわけだが、それがモニカの招いた最大の失態だ。警戒するあまり、戦力と防衛を見誤るのは護衛役として失格以外何物でもない。

 

 

「これはいったいどういうことですの!?」

 

 

セシリアが機体を纏った状態で横に並ぶ。立ち込める煙は辺りを埋め、破壊された電気系統がバチバチと火花散らしながら室内の電力を漏らし、光を消す。頼りのハイパーセンサーはなんとか正常に作動しているようだがそのレーダーに機影と熱源をとらえることができないでいる。これは足止めか、はたまた本命か。判断を誤ればそれだけでジ・エンドとなる。

 

 

「説明している時間はありません。とにかくここを一刻も早く離脱して外へ――――」

 

 

機体が警鐘を鳴らす。直感で回避するとそこを銃弾が掠めて炸裂した。

 

 

「おのれ・・・・ヴィクトリア・クルシェフスキー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠く離れた母と娘。感動の再会にピッタリの言葉だが、それもこの状況ではなんの意味も持たない。此方に銃口を突きつけるは妖艶な笑みを浮かべる金髪の美女が纏うはデュノア社製の黒いリヴァイブ。装備も機体デザインも、どこかオリジナリティが見える辺りカスタム機と断定する。先ほど空で鳴り響いた爆音と殺意、そして狂気はたぶん彼女が発していたものだろう。おかげで姿が見えなくとも回避できたと安堵する。

 

 

「ライ、大丈夫!?」

 

 

プライベート通信で語りかけてくるシャルロットの姿に安堵する。どうやら怪我はないらしい。

 

 

〔なんだいったい、急に起こされてこっちはいい迷惑だ〕

 

 

C.C.の愚痴を軽く流し、ライは目の前の相手を見る。

 

 

「久しぶりねシャルロット。元気してたかしら?」

 

 

その声に一切の慈しみや自愛の意はない。あるのは純粋な殺意のみ。この手の相手は性質が悪いと本能が告げている。

 

 

「お母さん寂しかったのよ?連絡もよこさないで、お父さんはずっと帰ってこない。おまけにモニカも連絡つかないし」

 

『だから直接来た、と?』

 

「あら、貴方が噂の二人目の子ね?いつも娘がお世話になっています」

 

 

そんなこと考えてないくせに、と心の中で呟く。

 

 

「そんなこと考えていないくせに、だなんて・・・・いけない子ね」

 

 

にやりと口角を歪めるその顔に戦慄する。

 

 血走った右目、特徴的な紋様。そして、この寒気と狂気。この禍々しさを、ライは誰よりも知っていた。

 

 

〔そんな・・・・バカな・・・・!?〕

 

 

C.C.も自分同様に戦慄する。この女がいったいどこで手に入れたのかは知らない。だが知らなければならないことだということだけははっきりしている。そして、彼女が誰なのかも。

 

 

「ああ、そういえば挨拶がまだだったわね。――――初めまして。シャルロットの母、ヴィクトリア・デュノアと申します。・・・・蒼月ライ君?」

 

 

情報があるわけではない。だとしたらまた心を読まれた。

 

 

「あら凄い、この状況でももう48通りの戦略を練ってるなんて。ますます欲しい逸材だわぁ・・・・」

 

〔不味いぞ、この状況でこの相手。分が悪すぎる〕

 

 

毒づくC.C.。彼女はこの能力に対して知識はあるらしい。口調からすると、どうやらかなり厄介な相手とみてやはり間違いないようだ。

 

 

「そうね、そう。だから私は貴方を貰うわ。でもまずは――――」

 

 

直後、銃声が鳴り響いた。乾いた音が、屋上に木霊して横にいた少女が後ろに吹き飛ばされる。赤い飛沫が舞い、何があったのかを知らせる。

 

 

「目障りなガキには死んでもらわないとネ」

 

 

『シャルロットぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

金髪を結んでいたリボンが、宙を舞った。





動き出す陰、動き出す陰謀。


見え隠れする真実の中で、また何かが失われていく。


次回、永遠の空~失色の君~


episode40 デッド・オア・ライフ


亡霊達が、踊りだす・・・・
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