けたましく鳴る空砲。ドンドンという音が空気を揺らし躰を抜けていくのを感じながらいつもと違う教室の風景をまじまじと眺めながら思う。普段は絶対に着ないだろうタキシードに居心地の悪さを感じつつ自らに与えられた任をまっとうするしかないと折り合いをつける。
どうしてこんなことになったのか。もとはと言えばラウラのこんな一言から始まる。
――――コスプレ喫茶にすればいいだろう。
なんともない、一高校の文化祭だ。違うといえばここが世界最高峰ともいえるであろうIS学園だということと、この学園の生徒一人一人が非常にレベルが高いということを除けば何の変哲もないただの学園祭なのだ。
あ、あと俺たち以外全員女子だっけ。
しきいで区切られた控室で外の様子をこっそり見ながら一夏は深く溜息をつく。
「今日は一段と深いね」
「そう言うライは楽しそうだな」
「こういうのは楽しんだもん勝ちだってある人に言われてね」
襟元の蝶ネクタイを手で治しながらライが着替えを終えて出てくる。その姿は男ながらかっこいいと直に思う。こういうのを美形とか言うんだろうなと考えながら改めてその素肌の白さに驚く。こういう服着せたら似合う、そう直感し提案した鷹月にある意味尊敬の念を抱く。
「似合ってるよ一夏」
「そうか?」
「元々が良いんだからもっと自信もっていいと思うよ?さ、開店だよ」
そう言って一夏の背を押す。すると外からは黄色い声が聞こえてきた。それにちょっと悪いことしたかなと思いつつもクスリと笑った。
〔おまえも随分と意地が悪いな〕
「たまには、ね。こういう時ぐらい楽しまないと」
〔・・・・何があった?〕
いつもとは違う何かを感じ取ったC.C.が何事かと尋ねてくる。それにライは何もと答え表情を変えない。ちらりと横目で見ながらそこから見て取れるだけの情報を読み取るとC.C.はそうか、と会話を切って消える。その行動にライは内心ありがとうと呟きつつ、自分も一つ深呼吸して一歩を踏み出し店内へと出ていく。
カラン、と音がした。客の女性がフォークを落とした音だ。それに気づいて歩み寄り頭に入れたマニュアル通りの仕草でフォークを拾い一言こう言う。
「今すぐフォークをお取替えいたします。少々お待ちくださいませ、お嬢様」
「は……はひ……」
顔を真っ赤にしている女性に向けられる笑顔。それを見た瞬間、頭から湯気が出そうな勢いで赤くなりながら残った正気で返事をするも噛んでしまいさらに赤っ恥。二重の意味で顔を赤くしながら女性はライの姿を見る。それを端から見てさすがだなと思うと一夏も注文を受けた品をテーブルに持っていきこちらもマニュアル通りに動く。
「お待たせしました。ケーキと紅茶のセットです」
テーブルにおいてにっこりと微笑む。そこですかさず黄色い声がドッと沸く。それは教室のみならず廊下にまで響き、あっという間に開店から間もなくして客でごった返す。IS学園はその重要度の高さからあまり一般客はおとずれることはないがそれでもここの生徒たちだけでも充分すぎるほどに繁盛している。このままいけば一年一組の名前が今年のパンフレットナンバー1繁盛店に載るのも間違いないと確信しながらセシリアは内心ガッツポーズをする。ここまでプロデュースしたかいがあったと満足げに頷く。こういうビジネスごとには人一倍気を回すのは彼女が財閥のトップという立場を代表候補性と兼任しているからだろう。衣装、食器、飾りつけに店内BGMからメニューに至るまですべてが彼女のこだわりであり、率先してそろえたものである。それだけにラウラの出してくれたアイデアと貴重な男子二人には心から感謝したい、と客に紅茶を淹れながら思う。何故か厨房に回してくれなかったのが不服だが、それもまあよしとすることで仕事に集中する。
◇
「ああ~キツかった・・・・」
「お疲れ様二人とも。午後はだいぶ落ち着くと思うからせっかくだしどこか回ってきたら?」
クラスメイトの提案に甘えることとし、一夏とライはそれぞれに分かれて学園祭を見て回る。ちなみに一夏は直後見つかった鈴に連れられて二組へ。ライはあてもなくただブラブラと歩いて回る。飲食店にお化け屋敷、定番なものから模擬店としてはマイナーなものまで勢ぞろいしている。人でごった返す中を進んでいくと、とある看板に目が止まった。
演劇項目:一人ぼっちの王子様
なぜかはわからない。でも、その項目に惹かれるようにして足がそちらへと赴く。自分でも完全に無意識な行動にライはなんの躊躇いもなくその不思議な引力に従い体育館の方へと歩いていった。内部は人でごった返し、立ち見の客もいるほどの盛況ぶりを見せている。よほどクオリティの高い演劇なんだろうと楽しみにしているとちょうど開演を知らせるブザーが鳴った。それまでうるさいぐらいだった会場がシンと静まり返ると同時にステージの幕があがる。スポットライトに照らされた主人公らしき女の子が一人、セリフを言う。
昔、とある小さな国に一人の王子がいた。彼は5人兄弟の末っ子でいつも他の兄たちからは酷くバカにされていた。というのも、彼の出生にその要因はある。兄弟といっても、彼らは血の繋がりは薄い。一夫多妻制のこの国では王族であれば血の繋がらない兄弟がいるのはあまり珍しいことではないが、この少年の母親は極めて異端であった。異国の、しかも貴族の出身ではないものが一国の王と結ばれ、あわや子を二人も授かったとなれば他の妻たちがよく思わないのも頷ける。だからこそ、王子はそれはそれは酷いいじわるを受けた。
「どうして僕らばかり・・・・許せない、懲らしめてやる!」
そんな彼の前に魔法使いが現れる。「きみに不思議な力を与えよう。だが気を付けるんだよ?これはきみにとってもあまりいいものではないからね…」。だが王子はそんな魔法使いの言葉などどこへやら。王子はまず手始めにいつもいじめばかりしてくる兄たちにむかってその不思議な力をつかうことにした。いつものようにやってくる兄たち。
さて、どうしてやろうか。そう考えるだけでゾクゾクする感覚を抑えるだけでも心が躍る。そして彼が口にした言葉はこうだ。
「お前たち全員互いに殺しあえ!」
その命令にも似たこ言の葉は兄たちの何もかもを塗り替えた。ある者は、飾りとして置いてあった剣で。またある者は、手近にあった花瓶で後頭部を強打し、さらには持っていた銃で脳天を貫く。そうして出来上がったのは小さな躰が赤いぬめりとした液体で真っ赤な絨毯をさらに真っ赤に染め横たわるものだった。それを見た瞬間、声があがる。歓喜の声だ。
王子は力を手に入れた。他者を、自らを敵と見る者たちすべてを消し去る力を。その力を利用し王子は王へとのし上がっていった。敵を殺し、領土を奪い、虐げ、支配した。全ては母と、妹を守るために……。
「妹……」
――――兄様
ズキン、と頭に鈍い痛みが走る。それと共に脳裏をよぎるあの光景。忌まわしき過去の記憶。もう幾度となく見たこの光景。
ああ、またこの光景か。
❝大事なものは消えていくのに、こういうものは残るんだな❞。そう思いながらライは走る痛みに耐えつつ会場を出る。これ以上は見てはいけない・・・・そんな気がして。壁を手伝いに歩き、ようやく出たところでヘタレこむ。息が上がる。鎮めようと深く深呼吸すると、それまでチカチカしていた光景がゆっくりと安定を取り戻していくのを確認してもう一度立ち上がる。
「あら、何してるのこんなところで?」
口元に扇子を当てて現れたのはつい最近出逢った生徒会長更識楯無だ。また厄介な人物に見つかってしまったなと露骨に嫌なリアクションをするもそれもどこ吹く風で流されニヤリと笑みを浮かべた。
イヤな予感しかしない。
「ちょっと頼みがあるんだけど・・・・男手が足りなくて困ってるのよ。疲れてるみたいなところ悪いんだけど…おねがいできるかしら」
どうやら本気で困ってるらしく声のトーンも幾分か真面目だ。それにすこし考え、ライは答えを出す。
「……わかりました」
後に後悔する。この一言が、悪夢の始まりだったと・・・・。
現れる影
踊る亡霊達
ついに動き出す歯車の運びゆく運命の行く先は、いまだ見えぬまま暗く、深く・・・・
次回 永遠の空~失色の君~
episode45 亡国機業 ―ファントムタスク―
悲劇への序章が始まる・・・・