狭暗い室内で青い光が迸る。それは破壊の熱を帯びており触れればたとえISの装甲が頑丈でも怪我をしないという保証はない。絶対防御もあるがそれは本当に危ないときだけ考えるようにして一夏は剣を振るう。エネルギー刃が相手の蜘蛛のような腕と接触し火花を散らす。二機の間をわずかな間だけ明るく照らし、消えるその儚い光を何度も何度も散らしながら一夏は相手を分析していく。驚くほどに頭がクリアなのは、これまで経験してきたものが生きているということだろう。
相手のパイロットが舌打ちするのがわかった。どうやらこれは予想外らしい。それほどまでに侮られていたとは少し心外だと思いつつ、横からきた腕を剣で弾き、すかさずもう一撃来る前に此方から攻勢へと出る。近接戦において、相手のリズムに乗せられたら崩れるまでそれは続いてしまう。その前に此方のリズムに相手を乗せ、戦いの主導権を握ることが重要だ。これは彼が二人の師から学んだものである。
『チッ、このガキが・・・・!』
「お前たちの目的はなんだ。どうしてこんなことをする?」
『っるっせーんだよ。テメーはさっさとぶっ潰れろ!』
無数にある腕の中から光が迸る。一夏はそれをバックステップで躱し、躱しきれなかったものは剣で弾くをして捌く。暗闇の中で、火花だけがキラリと光った。
フルフェイス型のヘッドギアの中でアラクネパイロットであるオータムは舌打ちをする。自分よりも実力は確実に下と思っていた一夏にこうも攻めきれないことに苛立ちと焦りを覚えていた。情報にあった項目では、明らかにオータムよりも劣っている。ここにいる代表候補生の中でも最弱と言ってもいい。だが、今そんな相手に自分は苦戦を強いられていることに腹が立つ。ここまで実力をつけていたとは完全に盲点だった。
『クソッタレが!』
左腕から来る弾丸をロッカーを楯にすることでやり過ごし、上部からビームを照射。しかし一夏はそれを左に跳んで回避。着地と同時に踏み込んで蹴りでロッカーごとオータムを押し込む。
戦い慣れている、そんな印象さえ受ける一夏の戦い方にオータムはもう一人のターゲットを思い出した。なるほど、それなら合点がいく。
『そうかい…だったら、こっちも本気を少し見せるとすっか!?』
パワー自体はアラクネの方が上。白式の蹴りを押し返してロッカーを投げつける。雪片弐型で切り裂くと、オータムと相対する。
『喜べクソガキ。このオレの本気を見せてやるよ・・・・!』
オータムが目を閉じる。そして開く。その瞬間、えたいのしれない気配を察知した一夏はバックステップで距離を取った。覚えがある。以前、ライから感じたそれに近い。
『さぁ、見せてやるよ。ギアスの力をなァ!』
ギアス。聞き知らぬ単語に首を傾げる一夏だが、直後感じた寒気に後方に飛び上る。すると、そこをアラクネの拳が炸裂し、強化素材でできていたフローリングを抉った。
身構えて雪片の握りなおす。先ほど、回避した際にちらりと見たあの赤い目・・・・血走ったような真っ赤な目に紫の瞳孔、そこに浮かび上がる紋様。アレがギアスか、と脳内で情報を整理する。
『ち、今のを躱すか・・・・まぁいい加減テメーのその感の良さってのは認めてやるか。でも…次はねぇ!』
振りかざした腕が頭上から降りてくる。それを横に跳んで躱すが、残っていた腕が運悪く鳩尾にクリーンヒットする。肺の中の空気が一気に押し出され、そればかりか胃液さえも押し出してくる。堪えようにも喰らったことのない衝撃ゆえに成す術なくこみ上げたものを口から吐き出しながら一夏はバウンドして転がる。数回床を跳ね、最後には戦闘の影響でなぎ倒されたロッカーをも巻き込みながらようやく止まる。
『冥土の土産に教えたやる。アタシのギアスはザ・パワー。その名の通り純粋な〝力〟の増幅だ。普通は生身の筋力だけだがこのISスーツは特注品でね。ギアスの力をそのままISへと流すことができる代物なのさ!』
「・・・・そういや、前鈴が言ってたっけな」
『アン?』
「そうやってベラベラ訊いてもないことを喋る悪役ってのは、三下か、ただの雑魚のすることだってな・・・・!」
劣勢に立たされながらもあえて挑発するように笑う一夏。この状況下でも一切弱音を吐こうとしないのは意地であり、確固たる勝算のあてのものだ。
まず、前提として彼女―――――もはや言葉遣いとハスキーすぎる声で彼と言って差し支えないような気もするが――――の操る機体はもう武装オプションはティアーズ、つまりビット兵器と同じ仕組みでできているということ。そして一番重要なのは、機体とギアスの相性だ。アラクネは中距離型であって馬力こそあれどそれは本来高火力の砲撃を近距離で当てる為の姿勢制御に使われるものであって、それそのものをこうして近接戦で使うようなものではない。そしてこのパイロットのギアスは純粋なパワーアップであり、他の強化にはつながらない。むしろダウンさせているといってもいい。能力向上のバイタをその全てが腕力、つまりパワーに向けられているからこその名前だろう。
そして、機体と能力の相性。折角のギアスの能力も本来が近接戦向けのものならまだしも本来とは違った運用をされていることでそれも生かし切れていないのが欠点といえる。しかし、元々のパワースペックはアラクネの方が勝っているため、幾ら第二形態となった白式でも力負けしてしまう他、ギアスによる更なる強化が加わっている。
一見、想定した使い方をされていないとはいえアラクネと白式とでは勝ち目は見えているのだが、一夏にとっての勝算はそこではなく、ライとの繰り返される毎日の模擬線で培われた驚きの直感と集中力、そしてなんといっても思考の冷静さと分析力。以前の自分にはなかったものを、彼は今ようやく手に入れていた。ライほどの分析力や処理速度はないにしろ、それでも短期間でこれだけの観察眼を身につけられただけで驚きである。
その目と思考をもってして導き出した結論は、スピードによる攪乱と一撃必殺の零落白夜での撃墜。白式にとって不利ともいえる空間ではあるものの、このロッカーが散らばり広くなった空間ではそれも関係なくなっている。
実刀だった雪片の刃が光の刃へと変わる。
『何を考えてるかはしらねーが・・・・』
オータムの目の前から白式が消える。
(これで・・・・!)
――――閃ッ!
見事なまでの横薙ぎ一閃。が、それは胴体に達する前に腕によってガードされる。
『このオータム様をそんじょそこらのゴミカス共と一緒にすんじゃねーよッ!』
触れただけでエネルギーをゴリゴリ削るはずの零落白夜発動時の雪片を受け止め、されに投げ飛ばす。壁に激突し、白式のエネルギーがイエローゾーンに突入してしまう。
『ハッ、ようやっとおとなしくなったか』
ゆっくりとこちらに寄ってくる。立ち上がろうにも後ろは壁。逃げ場はないし、さっきみたいなアクションは読まれている。現に意表を突いたつもりが防がれてカウンターを喰らっているのだから。
万事休す。その言葉がよぎったとき、なにかの違和感を感じた。
(そういや、この部屋湿度が高すぎねーか…?)
ふと白式の計器に目をやると湿気が少し異常数値を指示していることに気付く。直後、カツン、カツン、という靴音が聴こえてきた。
『んだ?まだ誰かいんのか』
「あら、随分と血気盛んなのね。肉食系女子も度が過ぎると嫌われるわよ?あ、もう女子って歳じゃなさそうね。オバサン」
最後のオバサンを強調するように言うとオータムはその声の主を探査しながら怒鳴り声を返す。
『誰がオバサンだ!これでもまだ・・・だ!』
「そういう言い方するってことは認めたってことでいいのかしら」
イライラが増すオータム。とりあえずここだと思った箇所にビームを撃つもそれは対象を捉えることなどできず四散するに終わる。
「あら残念。そっちに私はいないわ」
まるで嘲笑うかのような声と笑いに怒り心頭で怒鳴り散らすオータム。しかし、彼女の攻撃は依然として対象を捉えることはできてない。焦り始めるオータムの耳に、今度はよく澄んだ少女の声が聞こえた。
「残念、時間切れ」
その言葉と共に突如アラクネの各部ユニットが小さな爆発を始めた。ガクン、と膝を着き困惑するオータム。そんな彼女の前、一夏との間に浮かぶシルエットがあることに気が付く。それは妖艶に、だが楽しそうに笑いながら現れる。
「ミステリアス・レイディ。これが私の機体。そして、これが最強の証」
『テメー、いったいどこから!?何者だ!』
「私の名は更識楯無。この学園生徒の長であり、この学園の最強よ。どうやってかは・・・・乙女の秘密ってことで」
『ふざけんなァ!』
拳を振るうオータム。しかし爆発は続いており、ボン、という音ともにユニットが爆発を起こす。そのせいでオータムの攻撃は楯無に届く前に意味をなさなくなってしまう。
「一つ教えてあげる」
『アァ!?』
「ここ、熱いでしょ。これって私の機体の能力なのよ。だからこの部屋で私とエンカウントした時点で貴方に勝機はないってわけ」
あろうことか勝利宣言をする楯無。そのことにイライラが許容量をはるかにぶっちぎったオータムだが、機体がもうすでにいう事をきかなくなってきていた。もう戦闘続行はほぼ絶望的と言える。
「説明してるんだから最後まで聞きなさい。…私の機体、ミステリアス・レイディの能力はナノマシンで構成された水を操る能力・・・・ね、水蒸気爆発って言葉、しってるかしら?」
その言葉の意味を理解した時、オータムの顔が青ざめた。天井を突き破り、勢いよく飛んで地上へと出ていった。それを見て楯無は深く息をつく。
「とりあえずは私の役目は終了ってところかな。大丈夫?」
「え、あ、はい。でも敵が逃げて・・・・」
「あ、いいのいいの。上でおっかな~い王子さまが待ってるから」
「は、はぁ・・・・」
◇
地上に出ていく最中、オータムは思考する。
(クソッ!一体どうなっていやがる。ギアスの発動も機体の調子も万全な筈だ。なのに、なぜ…)
そこでオータムはふと自分の手を見る。僅かに震えていた。
(恐怖したってのか、このアタシが!?ありえねぇ…こんな無様な姿!)
天井を破壊すれば、そこから光がさしていて地上にでる。
「オータム!」
上空から聞こえてきた声に見上げると、そこには同朋の機体が降りてきていた。
「スコールからの命令だ。撤退するぞ」
『ハァ!?んに言ってんだテメー、まだ目的は果たしてねーぞ!?』
「〝時間切れ〟だ。お前はもうリミットに差し掛かっている、それ以上戦闘を続ければギアスからのバックファイアで死ぬぞ」
『・・・・ッチ、なんなんだよクソが!』
悔しさを堪えることはせずに地団太踏むオータム。機体を破棄し、青黒い機体の少女によって空へと運ばれていく。残された機体は爆発し、木端微塵に吹き飛ぶ。
〔遅かったか・・・・〕
機体管制人格プログラムのC.C.がそう呟く。
「サイレントゼフィルス。イギリスの第三世代型をああも簡単に乗りこなしているなんて…」
「それだけじゃない。あのギアスって能力も凄まじかった」
「ライさんのスピードにいとも簡単に追いついてしまうなんて…」
順にモニカ、シャルロット、セシリアがそれぞれ終わった後の緊張を緩める為に口々に感想をもらす。一夏がオータムと激闘を繰り広げていた間、そこから離れた上空ではライとMと名乗る少女の激しい空中戦闘が行われていた。
〝ザ・スピード〟。それが彼女のギアス。ライの絶対遵守とは違う、感覚強化、または身体強化系のギアスだった。
ここで浮上してくるのがいったい彼女達がいつ、どんな手段によってギアスを手に入れたかということなのだが、それはまた次の機会にするとしてライは着地と同時に地上に上がってきた一夏と合流する。無事だったことに安堵し、後にみた白式の戦闘ログを見てライだけでなくほかのメンバー達も驚いたというのは完全な余談である。
なんかグダグダですみませぬ…ってなわけで次回予告
嵐が過ぎ去り、祭りの終わりに残るのは疑惑と、謎。
見え隠れする真実の中、少年は彼の〝覚悟〟を知る。
次回 永遠の空~失色の君~
episode47 笑顔
ただ、それだけの為に・・・・